士林電機本社ビルの空調設備

―― 実 施 例 ――
士林電機本社ビルの空調設備
中鹿営造
(鹿島建設台湾現地法人)
小
出
真
人
■キーワード/空調設備・氷蓄熱・ヒートポンプ・事務所
1.はじめに
2.建築概要
急激な経済成長を続け,変化の著しい台北市北部の士
名 称 士林電機本社ビル
林地区に,台湾大手電機メーカー士林電機本社ビルが完
所 在 地 中華民国 台北市中山北路6段88,90号
成した。士林電機は,電力機器,自動車用電装品,制御
建 築 主 士林電機廠股 有限公司
用機器を生産し,台湾では非常に知名度の高い企業であ
敷地面積 6,950.00㎡
る。この建物は,大手電機企業の本社ビルとしての機能
建築面積 1,798.69㎡
を維持するために,最新鋭のインテリジェント設備機器
延床面積 41,086.86㎡
を導入した。空調設備方式は,最近の台湾での電力事情
階 数 地下4階・地上16階・塔屋2階
を考慮し省エネルギーシステムを採用した。
建物高さ
冷熱源には氷蓄熱システムを一部採用している。事務
72.30m
構 造 S・SRC・RC造
所ゾーンのペリメータ系統には空気熱源ヒートポンプ,
主要用途 事務所・商業施設・駐車場
インテリア系統には冷房専用エアコンを採用した。台湾
工 期 1993年10月∼1997年7月
の事務所は,一般的に暖房設備はない。また,外気処理
設計監理 ㈱日建設計・士林開発股 有限公司
系統には全熱交換器内蔵形空調を採用した。その概要を
総合施工 中鹿営造
(鹿島建設・現地法人)
紹介する。
設備施工 台湾動力
(電気)
,士林電機
(監視設備)
台湾三菱電機
(空調)
,復安工程
(衛生)
中国菱電
(エレベータ)
写真−1 建物外観
ヒートポンプとその応用 1998.13.No.45
写真−2 建物内部アトリウム
― 34 ―
―― 実 施 例 ――
TV共聴,
KEY管理設備,
弱 電 設 備:電話設備,
電気時計,
3.建築計画
ITV設備,
防犯設備,
拡声放送,
インターホン
建築計画は下記の基本コンセプトに基づき計画・設計
B A 設 備: CPU 内蔵の分散処理形の中央監視システ
ムで,ビル監視の高度化をはかっている。
されている。
4−2 衛生設備
(1)象徴性
これからの時代を担う士林電機を象徴する印象的
給水設備:地下2階に受水槽
(96k)
2基を設置し,2階以
上は屋上に設置している高置水槽からの重力
な外観とアトリウム
給水方式,ほかの部分は地下2階に設置して
(2)機能性・先進性
いる圧力給水ポンプによる直送方式である。
最新インテリジェントビルとしての機能と将来の
台湾では一般的に,飲料水は上水を煮沸して飲水にす
変化に対応しやすいフレキシブルな計画
るか,または,ミネラル水を飲水としている。本建物は
(3)快適性・開放性
知的生産の場を温かくサポートする,快適で明る
各個別に飲水器を設置した。
給湯設備:地下1,2階のテナント部分はセントラル給
く開放性に満ちた内部空間
湯方式である。基準階便所の洗面器には給湯
4.設備概要
はしていない。
台北市の事務所ビルの洗面器には,一般的に給湯設備
4−1 電気設備
受 変 電 設 備:特別高圧機器の仕様は,将来の昇圧を考慮
は設けていない。
して 11kV/22kV の二重定格の機器を採用。
4−3 空調設備
電気室は地下2階に設置
4−3−1 主要機器
(1)冷熱源機器
60Hz1回線受電
3相3線11.4kV
(22.8kV)
幹 線 設 備:バスダクト,CV−Tケーブル
① タ ー ボ 冷 凍 機 235USRT
(冷媒R−134a)
×2台
予備電源設備:発電機3φ4W380V 1,500kVA1基
② ブライン冷凍機 500,000kcal/h×2台
③ 氷 蓄 熱 槽 8.6L×3.0W×2.4H
(m)
×4基
蓄電池300AH1基 UPS20kVA1基
(2)温熱源機器
照 明 設 備:Tバー方式のシステム天井
① 温 水 ボ イ ラ 開放式
(3回路形)
ガス焚き
照明器具FL40W−2
(下面ルーバー付)
庭園
庭園
庭園
メモリアル
ホール
庭園
貸室
貸室
アトリウム
サンクンプラザ
図−1 建物配置図
― 35 ―
ヒートポンプとその応用 1998.
13.
No.45
―― 実 施 例 ――
加熱能力:暖房115,000kcal/h
表−1 台北市の平均気温・平均湿度(1994年中央気象局)
給湯175,000kcal/h
月
プール加熱
1
温 度(℃) 13.6
150,000kcal/h
湿 度
(%)
76
月
7
2
3
4
5
6
16.4
17.0
23.7
25.8
28.1
80
77
76
71
72
(3)空調機
(AHU) 地下階用13台 地上階用9台
(4)分散形エアコン
温 度(℃) 29.6
① 空気熱源分散形ピートポンプ ×90set
湿 度
(%)
② 冷房専用分散形エアコン ×62set
8
9
10
11
12
29.0
26.2
23.5
22.2
20.1
72
71
75
77
83
71
4−3−2 空調方式
本建物の空調方式は,用途上2方式で構成されている。
4−3−3 氷蓄熱システム
氷蓄熱槽は,地下2階機械室に蓄熱容量 1,820Mcal の蓄
地上階は事務所,地下階は飲食店舗,会員制スポーツク
熱槽を4基設置している。米国の BAC の製品である。ブ
ラブ,駐車場の構成である。
事
務
所
系
統――冷房専用分散形エアコン
ライン冷凍機より− 10 ℃で槽内の製氷を行うシステムで
(インテリア系統)
,空気熱
ある。このシステムの目的は,冷房運転時のベース負荷
源分散形ヒートポンプエア
を夜間
(PM10: 30 ∼ AM7: 30)
に蓄熱し,昼間に放冷す
コン
(ペリメータ部分)
る一般的な利用方法である。ベース負荷を超える不足負
飲食店舗・会員制クラブ――AHU+ダクト方式
荷に対しては,ターボ冷凍機 235RT 2基でカバーするシ
事務室内のOAの供給は,2階・15階の機械室に,全熱
ステムである。これらの冷熱源機器は冷水2次ポンプの
交換器内蔵形空調機から外気処理した OA を二重天井内に
冷房負荷変動による流量の変動を検出し,群発停制御を
送り出している。また,OA 量を一定に保つため,給気ダ
行っている。また氷蓄熱槽の蓄熱量は,氷厚による水位
クト系には CAV を設置している。台北市の事務所ビルは,
の変化を検出し蓄熱量を算定している。
一般的に事務室内に暖房設備は設けていない。本建物は,
4−3−4 自動制御設備
空調設備のグレードアップをはかるために,
ペリメータゾ
(1)冷熱源システムの制御
① 冷凍機群は冷水2次ポンプ冷水流量により群発停
ーンには空気熱源ヒートポンプエアコンを設置している。
を行う。
② ブライン冷凍機の群発停は昼間の冷房負荷を参考
にし,
夜間氷蓄熱量のパーセント比を設定し運転する。
③ 冷水2次ポンプの運転は,冷水還水流量の負荷に
よりPMXにてポンプ運転台数を制御する。
④ 冷却塔の冷却水の出口温度を計測し,ファンの発
停制御を行う。
(2)温熱源システムの制御
① プール加熱回路および暖房回路の温水出口温度に
より,3方弁の比例制御を行う。
② 温水送水ヘッダーおよび還水ヘッダー間の差圧に
より,バイパス2方弁の比例制御を行う。
写真−3 基準階事務室
(3)空調機制御
① 室内温度により冷水管2方弁の比例制御を行う。
② 中央監視盤の準備作動信号により,ファンおよび
CAVを動作させる。
(4)その他
① 貯湯槽制御(3方弁の比例制御)
② 駐車場給排ファン制御(インバータ盤の制御)
③ 事務室内の分散形エアコンの発停・監視
④ 熱交器制御(3方弁の比例制御)
4−3−5 BA設備
地下1階に防災センターを設置し,建物全体の設備機
写真−4 氷蓄熱槽
ヒートポンプとその応用 1998.13.No.45
器の運転および監視を行っている。
― 36 ―
―― 実 施 例 ――
PM×2
ブラインチラー
郡発停
D0
D1
A0
A1
DC1
BA
BA
LF
LF
DC1
JF A/D
dPE
S
P1/D×2
-5 C
-10 C
dPE
S
TIC1
P-3
R
BR-1
(ブラインチラー)
IC
(アイスタンク)
4C
MB.V3
P-6
IC
(アイスタンク)
9C
TEW1
TEW1
TEW1
図−2 氷蓄熱槽自動制御
5.台湾での設備工事留意点
(1)輸入品の採用が多いため,発注・納期管理が大切であ
る。また,交換部品などの調査も必要である。
(2)台湾製品は必ず現物を調査し,保守・管理を考慮のう
え,採用・不採用を決定するほうが良い。
(3)台湾製品は外国製品に比べて安価なので,良い製品を
探す情報網を確立させるべきである。
(4)高度の技術を必要とするシステムを採用する場合は,
技術力のあるメーカー・業者を選定しなければならな
い。
(5)台湾製品の承認図は内容が乏しく,メーカーから提出
させるのに時間を要す。
写真−5 監視盤
(6)各設備業者とも試運転・調整作業に関するノウハウを
あまり持っていない。
(1)システム機器:メインコントローラー(1set)
CRTディスプレイ
(1台)
6.おわりに
電力グラフィックパネル
(1台)
最頂部が天のすべての恵みが授かるようにデザインさ
アナンシェータパネル
(1台)
れた,このビルの地下部面積は,全体の 55 %を占めてい
プリンター
(2台)
,フルキボード
る。現在,地下1・2階は会員制スポーツクラブが入居
(2)監視設備の機能
するので,急ピッチで工事が進められている。最終の空
① 各設備共通項目 警報,状態,計測監視
発停,設定操作,SC自動発停
調負荷の状態での運転調整をしなければならないので,
日報,月報,故障・動作記録
詳細データの収集,分析作業は継続して行う必要がある。
② 空 調 設 備 冷熱源台数制御,
予冷・予熱制御
外気取り入れ制御,室内温度
本建物に採用したシステムが順調に稼働するよう,今後,
調整しなければならないと思う。
最後に,施工に際してご協力いただきました台湾設備
制御
③ 電 力 設 備 停電・復電処理,
発電機容量制御
業社の方々に,深く感謝いたします。
④ 防災・防犯設備 火災連動制御,防犯連動制御
― 37 ―
ヒートポンプとその応用 1998.
13.
No.45