Medical Medical 犬猫の腹部超音波検査の基礎 第3回 日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室 小山 秀一 〜膀胱・前立腺・内腸骨リンパ節〜 子 犬 や 若 齢 時に去 勢をした犬では 、前 ことが多い。 膀胱の描出法 膀胱を観察するときの注意点としては、 前立腺の描出法 立 腺が非 常に小さいため描出が困 難と なる。前 立 腺 が 小さいことは、臨 床 的に 膀胱内に貯留している尿と膀胱壁および 膀胱の描出は、尿の貯留がある場合に 周囲組織との音響インピーダンスの差が は比 較 的 容 易である。したがって、来 院 大きいため、 アーチファクトが出現しやす 時には排尿をさせないよう指示をしておく。 いことである。一般的に腹壁にプローブを 雄犬では、陰茎脇の恥骨前縁にプローブ 当てて走査するため、腹壁に近い膀胱腹 を当てる。雌犬や猫では、恥骨前縁でほ ぼ正中にプローブを当てる (図1)。プロー ブ走査は、縦断像および横断像のどちら から始めてもかまわない 。膀 胱が すぐに 側(画面の上側)に多重反射 注:1)やサイ 図1 縦断像 での膀胱の描出 雌では恥骨前縁のほぼ正中にプローブをあてる。 そして、超音波ビームを犬の左右に向けて膀胱の 描出を試みる。 ドローブ 注:2)によるアーチファクトが出現し、 膀胱腹側の膀胱壁が観察できないことが ある (図4)。これらのアーチファクトを軽減 描出されない場 合は、 プローブ位 置また するためには、 プローブの走査方向を変 は超音波ビーム方向をやや頭側に向ける えてみるか、超音波の減衰を起こしにくい か、 ビーム方向を左右に振りながら膀胱を 水の入ったバックなどのようなものをプロ 探す 。尿が貯留している場合は、内部が ーブと皮膚の間に入れて観察する。 前 立 腺の描出には、膀 胱をランドマー とで小さな前 立 腺を確 認 することが 可 プローブを恥 骨 縁までスライドさせる。 前 立 腺は 骨 盤 腔 内にあるため 、そこか ら骨 盤 腔 内を覗くように超 音 波ビームを 能となる。 図5 前立腺描出時 の超音波ビーム方向(横断時) 恥骨前縁で膀胱を描出し、そのまま超音波ビーム を骨盤腔方向へ向ける。 尾側に傾ける (図5)。超音波像としては、 膀 胱 頚 部から連 続して前 立 腺が描出さ れてくる。横 断 像では、前 立 腺はほぼ円 形に描 出され 、 リンゴを二 つに割った断 面のようにみられる( 図 6 )。横 断 像の観 の貯 留が少ない場 合は、膀 胱が骨 盤 腔 けでなく、右 葉と左 葉 の 対 称 性 や 内 部 波ビームをやや骨盤腔側に傾けてみる。 横 断 像で膀 胱から連 続して走 査 するこ たならば、膀 胱が画 面中央に保ったまま 察では 、前 立 腺 全 体 の 大きさの 評 価だ エコーの 均 一 性の 評 価 が 容 易である。 図2 プローブの持ち方と当て方 プローブを強く押し込まないように注意する。 る必 要 性はないが 、 このような場 合でも 像で描 出 する。膀 胱の横 断 像を描 出し 無エコーな袋状の膀胱が描出される。尿 側に移 動している場 合もあるため、超 音 問 題とはならないため 前 立 腺を確 認 す クとして用いる。膀 胱を正中側から横 断 正 常な前 立 腺では 、右 葉と左 葉はほぼ 図6 前立腺 の横断像 高エコーを呈する直腸( 矢印 )の上に類円形の前 立腺が描出される。横断像では、左葉と右葉は対称 に観察され、内部エコーもほぼ均一である。 図8 前立腺 の縦断像 膀胱(UB )に続く中等度のエコーレベルを呈する 楕円形の前立腺が認められる。前立腺の中央部を 描出すると前立腺内尿道が低エコーから無エコー を呈する管腔構造としてみられる(矢印)。 また、 プローブを腹壁に強く押し当てると、 板 、筋 層および漿膜からなる。超音波検 対 称に 観 察され 、実 質 エコーも中 等 度 膀 胱がつぶされてしまうため、消 化 管 等 査では、 尿が中等度に貯留している場合は、 の エコーレベルでありほぼ 均 一に 認 め の腹腔内臓器に埋もれてしまい、判別が 低エコーの粘膜層は通常描出されなく、 られる。被 膜 構 造 は 、部 分 的に 観 察さ つかないこともある。したがって、膀胱が 高エコーを呈する粘膜筋板、低エコーの れることが 多い 。また、前 立 腺 内 尿 道は 描出されにくい場合は、 プローブを押す力 筋層と高エコーの漿膜からなる3層構造 を弱め前述したプローブ走査を再度行う (図 として認められる( 図3 )。しかし、尿の貯 2 )。これらの走査をしても膀胱が描出さ 留量が多い場合や分解能の低い装置では、 れない場合は、膀胱が空である可能性が 単一な高エコーを呈する膀胱壁として観 たままプローブのマーカーが 尾 側を向く あるため、尿 道カテーテルを用いて膀 胱 察されることが 多い 。膀 胱 壁は、内 腔の ようにプローブを9 0 度 回 転させると縦 断 内に生理食塩水を注入してみることも、膀 尿との境界面は明瞭であるが、漿膜側は 像 が 描 出できる。縦 断 像では前 立 腺は 胱を観察しやすくする方法である。ただし、 周囲組織との境界が不明瞭であることが やや 楕 円 形に 描 出され 、超 音 波ビーム 7 〜 3 0 k g の 性 成 熟 犬 では 前 立 腺 の 大 右 存 在 するため、腹 大 動 脈の分 岐 部を カテーテルを用いて膀胱内に生理食塩水 多い。通常、正常な犬猫の膀胱壁は、尿 を左 右に 振ることで右 葉 および 左 葉 が きさは 横 断 像 および 縦 断 像とも1 3 〜 描出することから始める。腹大動脈の分 を注入する場合には、できるだけ気泡が が 中 等 度に貯 留している場 合には約2 描 出される。前 立 腺 の 中 央 部 では 、前 3 0 m m の範 囲であったとされている。筆 岐部を直接描出するのは、経験多く積ん 混入しないように注意する。膀胱内に空 m m 以 下 であると考えられている。膀 胱 立 腺 内 尿 道を確 認 することが 可 能であ 者がビーグル犬で行った超 音 波 検 査に だ獣 医 師であれば 可 能であるが 、経 験 気が入り込むと、空気によるガスエコーの 壁を縦 断 像や横 断 像でよく観 察 すると、 る( 図 8 )。 よる前 立 腺の 大きさに関 する調 査でも、 が浅い場合は描出するのに時間がかか ため膀胱が観察しづらくなる。 正常でも膀胱先端側の膀胱壁は膀胱の 前 立 腺は 、年 齢および 性 成 熟 度によ 性 成 熟 犬では前 立 腺の大きさは4 0 m m ることが多い。 正常な膀胱壁は、薄い粘膜層、粘膜筋 中央部や頸部の壁よりやや厚くみられる り大きさは異なる。報 告によると、体 重が 以 下 であった 。性 成 熟に 達していない そこで、 まず左腎の縦断像を描出し、 そ 1 図3 正常犬 の膀胱像 膀胱壁は薄く、内腔との境界は明瞭であるが、周囲 組織との境界は不明瞭である。膀胱壁をよく観察 すると3層 に観察される部位もある(矢印)。 図4 膀胱 でよく見られるアーチファクト 多重反射やサイドローブによるアーチファクトのた め、 膀胱の腹側壁が観察できないことが多い(矢印)。 内腸骨リンパ節の描出法 前 立 腺 のほぼ 中 央またはやや 背 側より 腹 腔 内リンパ節のうち、内 腸 骨リンパ に低エコーを呈 するリング状の構 造とし 節は比 較 的 描 出されてくる部 位が 一 定 て観 察される( 図 7 )。横 断 像を描 出し であるため、内腸骨リンパ節の腫大があ 図7 前立腺内尿道(横断像) 前立腺の横断像では、前立腺の背側または中央に 低エコーでリング状を呈する尿道が観察される(矢 印)。 るかを確 認 することが 腹 部 超 音 波 検 査 時にルーチンに行われている。内腸骨リ ンパ節は、腹 大 動 脈の分 岐 部 付 近に左 2 Medical Medical 犬猫の腹部超音波検査の基礎 第3 回 の後 超 音 波ビームを内 側に向け腹 大 動 奨 する。 脈を描出する (左副腎の描出法を参照)。 腹 大 動 脈の分 岐 部が描出されたなら そして、そのままプローブを尾 側 方 向 へ ば 、超 音 波ビームを左 右に 振り分 岐 部 移 動していく ( 図 9 )。腹 大 動 脈 の 分 岐 の両 側に低エコーを呈 する腫 瘤 様 構 造 部 は 、ほぼ 膀 胱を観 察 する位 置と同じ がないかを観察する。内腸骨リンパ節は、 であるため、膀 胱の位 置を確 認しておく 正常であれば薄く小さい組織であるため、 ことが 参 考になる。腹 大 動 脈 や 分 岐 部 通 常は周 囲 の 組 織と鑑 別 ができなく描 の確 認にはカラードプラ法が有 用である 出されてこない 。したがって 、楕 円 形を 注:1 ) 多重反射は、プローブと腹壁など平行に向き合っ た狭い反射体同士の間で何回も繰り返し反射をす ることにより発生する。膀胱など液体のある場所 では境界面での反射が強く起こるため特に発生し やすく、画像上に等間隔の線状エコーが何本もみ られる現象である。 注:2 ) サイドローブとは、振動子から超音波を発生する際 に作られる目的方向以外の超音波のことであり、 こ のサイドローブから得られた反射情報も目的方向(メ インローブ)にあるものと画像上には表示される ( 図 1 0 )。膀 胱 の 観 察 時に 、膀 胱 背 側 呈 する明らかな腫 瘤として確 認できるよ に腹 大 動 脈や後 大 静 脈が観 察されるこ うであれ ば 腫 大と判 断 する( 一 般 的に とがあり、そこから分 岐 部を確 認 するこ 厚さが5 m m以上 )。 とも可 能 であるが 、腹 部 正 中 からの 走 査 では 膀 胱 背 側にある直 腸 が 腹 大 動 脈を描出する際の妨げとなることも多い。 したがって、前 述のように左 腎を描 出 す るのと同じ方 向から走 査を行うことを推 図9 腹大動脈描出時 に超音波ビームの方向 左腎を描出するときと同様の方法で腹大動脈を描 出する。プローブは、正中方向ではなくやや側面よ りから走査する。 10 − 1(白黒) 10 − 2(カラー) 図10 腹大動脈 の分岐部 断層像では管状構造の腹大動脈(矢印)が上下に分岐するのが描出されるが、分岐した血管が明瞭に描出さ れないことも多い。また、腹大動脈の下に後大静脈(矢尻)が走行するが明瞭でないことがある。カラードプ ラで観察すると血流信号がフラッシュするように観察される腹大動脈(矢印)が認められ、分岐部も明瞭となる。 また、腹大動脈の下側には青色の血流信号が常時観察される後大静脈(矢尻)が描出される。 3 ため、本来存在しないのもが画像に現れる現象。
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