私の思うピアジェ理論

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A
P
A
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J.PIAGET
Geant de la psychologie du xxe siecle ,fondateur de l’epistemologie genetique
24/26 April
spring seminar 2006
No 22
内山 昭
田中 真介
実践発表
石川 晴子
内山 昭
幼稚園紹介
昭和40年からピア
ジェ理論を実践保
育に取り入れ、保
護者の立場にたっ
たわかりやすい理
論をご紹介します
幼児期の発達をと
らえた保育・幼児
教育のあり方を
各々発達段階に応
じてご紹介します
カトレア幼稚園
江南幼稚園
東山東幼稚園
新ひのお台幼稚園
あおば幼稚園
鴻池学園幼稚園
歩学園幼稚園
解説:小林芳子
今回ご紹介します
絵本はマージョ
リー・フラック
作・絵のかわいら
しいスコッチテリ
アが主人公の絵本
お茶の心と育ての
きましたお茶の心
今回ご紹介致しま
す幼稚園は大阪府
は堺市に位置しま
す、緑道と公園に
囲まれた新ひのお
台幼稚園です
の終章です
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Page 10
日本ピアジェ会 会長挨拶
です
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心ー終章ー
会報誌5号から20
号まで連載して頂
Page20
幼児期は、時間が連続していることさえも認識出来ないと
いう段階から、この作品のように、時間の連続的系列や可逆
上図は、本学園の年長児が作ったものです。家で、おばあ
性や保存性等を含めた論理的操作活動を駆使し「最初の人だ
け苦労した所を飛躍して進める」とか「貧しいので1回休
め」といったすごろくの特殊なルールを用いて作ったのは、
とても年長児が気軽にメモ書きしたような作品とは思えませ
ん。つくづく子どもの可能性の大きさに驚かされるばかりで
す。このような段階に至るまでには、ピアジェ理論による何
度も貼って操作できるペタペタシール教材やピアジェ理論に
基づく環境を整えていたことが大きな影響を与えていると考
えられます。無限の可能性のある幼児期に「創意工夫のし得
る環境」を整えることが如何に大切か、また、かけがえのな
いこの時期に難解だといわれるが、子どもの世界を最も観察
し明快に分析したピアジェ理論を、わかりやすく幼児教育の
ちゃんに話を聞いておばあちゃんの一生をすごろくにしたの
現場の実践として発表いたします。
だそうですが、おばあちゃんが昔語りに孫に苦労話を聞かせ
日本ピアジェ会 会長 松井 和男
ている、ほのぼのとした様子が目に浮かぶようです。戦争、
火薬庫の爆発、食糧不足や貧乏から疎開、そして戦後の平穏
な時期へと時系列で語ってくれた様子をすごろくにまとめた
素晴らしい作品です。子どもが何気なく自発的に作り上げた
作品の中には、ピアジェの認識論が網羅されています。 私の思うピアジェ理論
日本ピアジェ会 会報NO.22
私
の
思
う
ピ
ア
ジ
ェ
理
論
ピアジェ理論の導入
私の幼稚園では昭和40年頃からピアジェ理論
内山 昭
日本ピアジェ会副会長
東山東幼稚園 園長
を導入しています。毎年、研修会に参加していました
が、当時のピアジェ理論は非常に難解だと考えられて
いました。そのような中、鴻池学園第3幼稚園で教師
養成講座がありました。先生達と共に寝食を共にし
て、ピアジェ理論を学んだことを覚えております。
ペタペタシリーズは年少、年中、年長に関わらず、
どの学年でも使うことができます。 平面ではあります
が、大変使いやすい教材です。また、私の幼稚園では
この教材の中身を教諭だけではなく、保護者の方々に
理解してもらいたいという願いもあり、実際にこの教
材を経験してもらいました。保護者に毎年、10名ほど
平成8年には教材も今まで使用していた「ファース
募り、この教材を操作して頂くことにしています。子
トシリーズ」から「ペタペタシリーズ」に変更し、団
供と同じ目線で教材をみて発言して頂こうと思い立っ
体名も日本ピアジェ会に変わりました。正直なとこ
たのです。
ろ、これまではピアジェ理論を机上の論理で説明され
る方が多く、その説明も難解きわまりないものでし
た。認識学の専門用語が難解で、現場での適応の仕方
が困難を極めました。
実際に保護者の方に子供役になってもらい、子供の
目線にたってペープサートの説明をしたり、教材を操
作した後に、子供達がするように言語発表して頂きま
した。保護者の方に、実際に教材の良さを再確認して
そのような中、斎藤法子先生との衝撃的な出会いが
頂けたと感じます。言語発表などでは「うちの子供は
ありました。斎藤先生はアメリカのカリフォルニア大
もっと大きな声ですれば良いのに」などとおっしゃっ
学の先生で平成9年にアメリカからピアジェ理論をご
ていた方も「教室の前に立つとなかなか大きな声で発
説明にきてくださいました。斎藤先生はアメリカで学
言するのは難しい」などと、子供の立場に立って、思
生や幼稚園の教諭に指導をなさっており、また充分に
い思いの感想を頂きました。
子供との経験を積んでいました。その明快なご説明は
生きた理論でひしひしと伝わってきました。
また、「子供が操作するのを簡単に見ていたけれ
ど、いざ、自分が操作しようとすると意外と難しく、
ペタペタシリーズ すぐ答えをだすのではなく、考えながら行う教材に関
心いたしました」などの意見も聞かれました。
2 日本ピアジェ会 会報NO.22
私
思
う
ピ
ア
ジ
考える
子のテストを見てみると、ピアジェ理論を使用してい
る、数の合成分解を行うテストでした。まさしく、ピ
アジェの教材が小学校で取り入れ始められたというこ
とを実感しています。
教材に対して、答えを優先させてしまう教育より
も、その経過を子供が「考える」ことが重要です。こ
の自ら「考える」教育を大切にしていきたいと感じて
います。答えをすぐに出す教育ではなく、その過程を
じっくり考えることに重点をおく、これがピアジェ教
育の原点なのです。また、ピアジェ理論では、数の合
成分解・可逆性・中間概念・一対一対応など、様々な
理論があります。これらはペタペタシリーズを使用し
てもできますが、教諭自らが手作りで作ったもの、ま
た自分たちが作ったものだけではなく、子供の周りに
ある環境、自然の中からも学ぶ理論はたくさんありま
す。園庭にでて、自然に触れ合いながら学ぶことも
きっとたくさんあるはずです。また、ペタペタシリー
ズでは導入、教材、応用、と進めていきますが、一度
使った教材をお蔵入りするのではなく、年少で使用し
た教材をもう一度、年長で使用することも楽しいので
はないでしょうか。きっと年少の時とは違う、より論
理的な年長なりの考えなどがわかるからです。自らが
「考える」教育を大事にしていきましょう。
ェ
理
論
講演風景
私の孫は小学校に通っていっているのですが、その
3 日本ピアジェ会 会報NO.22
の
幼
児
期
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発
達
を
と
ら
え
た
保
育
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幼
児
教
育
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あ
り
田中 真介
京都大学 高等教育研究開発推進センター
「幼児期の発達をとらえた保育・幼児教育のあり方」 ションを取ることはあまりありません。これは人間の赤
ちゃんとの大きな違いといえるでしょう。
人とチンパンジーのあいだ
ミルクを飲むという行為は、生きるために不可欠です
他の霊長類、例えばチンパンジーの赤ちゃんと人間の赤
が、人間の赤ちゃんは、命を守るための栄養摂取をいった
ちゃんの違いは何だと思いますか? 動物の赤ん坊の多く
んやめてまでも、まわりにいる他の人たちと気持ちを通わ
は生まれると数十分で立って歩き始めます。それに比べる
せることを大事にしているといえそうです。人間の赤ちゃ
と、人間の乳児は、生まれたあと6か月以上にわたって仰
んは自分一人で生きていけない、人との関わりあいの中で
向けやうつ伏せの姿勢で過ごしますね。頸が据わり始める
生きていくことを必要としています。
のも3∼4か月頃です。チンパンジーでは2か月目でしっか
り頸が据わり、ずりばいもできるようになります。運動面
見る力
では、人間は他の動物に比べてかなり発達が遅いというこ
とがわかります。
チンパンジーの赤ちゃんは、確かに人間ほど言葉は話し
ませんね。それにほとんど泣きません。もう一つ大きな違
いは、ミルクをあげるときに顕著に観察できます。チンパ
ンジーの赤ちゃんはミルクを飲んでいる時、一生懸命飲み
ますが、母親や保育者と顔を見合わすことはほとんどあり
ものを見る力はどうでしょうか? 生後4∼6か月の赤
ません。
ちゃんを縦抱きにして、垂直姿勢を取らせ、その前にテー
それとは反対に、人間の赤ちゃんの場合は、途中で
ブルを置きます。その上に積木2つを左右対にして提示す
ミルクを飲むのをやめて、保育者の顔を時折見てコミュ
ると、人間の赤ちゃんでは積木を一つ、また一つと注視す
ニケーションを取ろうとします。そして、目を見てあや
ることができます。そしてそのあとには、保育者の方を見
してあげるとまた安心してミルクを飲み出します。
てコミュニケーションを取ろうとします。 積木を見て、保
一方、チンパンジーの赤ちゃんは、ミルクを飲ませても
育者とコミュニケーションをとり、また積木を見るといっ
らっている時、相手の顔を見ることはほとんどありません
た具合です。一方、チンパンジーでは2つの積木を見せて
でした。動物園などで、チンパンジーをご覧になったこと
も、そのどちらか一方の積木に注意を向けますが、保育者
があると思います。赤ちゃんは母親のお腹にしっかりと抱
の顔を見てコミュニケーションをとることはほとんどあり
きかかえられていますが、母親の顔を見てコミュニケー
ません。
4 日本ピアジェ会 会報NO.22
方
幼
児
期
の
発
達
を
と
ら
え
た
保
育
・
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児
教
育
の
あ
り
方
顔を描いたカードを人間の赤ちゃんに見せてみると、積
チンパンジーの子どもたちの場合には、4歳頃になって
木の提示の場合よりも、見る時間が長くなります。物より
ようやく鏡の中に映る自分の映像に興味を示し始めます。
も人です。人とのつながりをより多く求めているのだとい
そして5歳頃になって鏡に映ったものが自分だと気づきは
えます。さらに、積木には手を近づけることができなかっ
じめます。自己の認知は人間の方が早い年齢で獲得される
た子が、この顔カードには手を動かして触ろうとします。
と言ってよいでしょう。
人の特徴を持ったものが、手の動きを引き出すわけです。
手を動かすのが不器用な子に、手を上手に動かせるよう
にしてあげたい、という場合にも、手を動かす訓練をさせ
るのではなく、「人」が介在すること、子どもと人との交
流を促すような働きかけが大事ではないかと考えさせられ
ます。
鏡の中の自分
積木のトラック
2歳の子の前に、積木を三つ並べて見せ、先端の積木
の上に、もう一つの積木を「運転台」として一つ積んで
みせます。そのあと、「これと同じトラックを作って
ね」と言って子どもの手元に積木を4つ渡します。2歳
後半から3歳になると、ほぼ確実にトラックを作ること
ができます。縦 − 横の「発達的な2次元」の特徴を持っ
た積木構成です。
2歳児は、このような課題場面に入ることを嫌がっ
て、椅子に座ろうとしない場合があります。第一反抗期
とも言われますが、「自我」が大きく強くなってきたこ
との証しでもあります。
人間の赤ちゃんの前に鏡をおいてみると、乳児期後半の
「この積木でトラックを作りなさい」というような課
10か月頃には、その鏡に映った自分の姿をじっと見つめて
題 の 提 示 の 仕 方 は 、 い わ ばそ れ 自 体 が 「 自 分 − 課 題 笑いかけたりします。しかしながら、1歳前半までの赤
(相手)」との1対1の関係にあり、「やる − やらな
ちゃんは鏡に映っているのが「自分」だということをなか
い」というような1次元的な活動しか展開できない場で
なか認識することができないようです。
あることは確かでしょう。1歳児でしたら、積木という
例えば、1歳児の額に、まず本人に気づかれないように
素材に引かれて課題場面に入って来てくれるのですが、
シールを貼っておいて、そのあとでその顔を鏡で見せてあ
2歳児は、このような「発達的な1次元」の関係や場面
げても、1歳前半までは、そのシールを気にしないことが
では自分の力を十分には発揮できない発達段階に達して
ほとんどです。およそ1歳半ばから2歳にかけて、おでこ
います。ですから、課題がイヤなのではなくて、このよ
のシールに気づき始め、鏡の中のおでこを触ろうとするの
うな課題設定では自分の力を発揮できない!という発達
ではなく、鏡に映った自分を自分だと認識して、実際の自
要求の表現として、課題場面を拒否せざるを得ないわけ
分 の お で こ に 手 を 伸 ば して シ ール を 取 ろ う と し ま す。 です。
「自己」の発見です。 2歳児の力を引き出すためには、このような課題状況
それではチンパンジーではどうでしょうか? チンパン
そのものが2次元の、その子の力を十分発揮できるよう
ジーの3歳児たちに鏡を見せてみました。私たちは、彼ら
な世界として構成される必要がありそうです。2歳児は
が、鏡に映った映像を見てそれを仲間だと認識して近づい
2次元の力の発揮によってその力を確定しようとする存
ていったり、もしくは敵と認識して攻撃したり、何らかの
在ですから、例えば「∼シテカラ≈スル」といったよう
働きかけをすると思ったのですが、実際は何も働きかけま
に、保育環境や課題場面そのものを2次元的に再構成す
せん。「見ない」のです。生のチンパンジーが眼前に現れ
ると課題に取り組み始め、力を発揮してくれるでしょ
れば、もちろんしっかりと認知しますが、鏡に投影された
う。
自分や対象物には無関心なのです。彼らにとっては「生」
(ライブ)が重要のようです。
5 日本ピアジェ会 会報NO.22
幼
児
期
の
発
達
を
と
ら
え
た
保
育
・
幼
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教
育
の
あ
り
の段階では、クッキーを均等に分けようと努力し始めま
分ける
す。母の器に2個、父の器にも2個、自分にも2個と均等
人間の幼児は、その後、2歳代で、そのような「自我」
配分します。相手と自分の量を比較調整して均等配分でき
「自己認識」の世界を拡大し、充実させていく時期を迎え
るようになり、「同じ」にしようと努力してくれるわけで
ます。
す。「等価」の概念の芽生えです。
例えば、「3枚のお皿に5つのクッキーを分けてね」
数学上の「=」(イコール)という記号(概念)は、そ
と、2歳児に頼んだ時の答え方をご紹介しましょう。3枚
の左の項と右の項とが等価、「同じ」ということを示しま
のお皿はお母さんのお皿とお父さんのお皿、自分のお皿の
すね。言い換えれば、左右あるいは自他を「交換すること
3枚という設定です。1歳前半までの子では、クッキーを
ができますよ」と語りかけてくる記号ともいえます。
ぜんぶ自分のものとして独り占めしたりしますが、1歳後
クッキーの配分で、自他を同じにしようと努力してくれ
半から2歳前半の子どもたちは、母親と父親のお皿には1
る段階になると、例えば積木遊びでは、手本の積木をみな
個ずつ分け、残りは自分の器に入れる傾向にあります。自
がら、その上に積み上げたりしてしまうのではなく、例え
分が最多数です。このように、他者にも最少数の配分をす
ば「トラック」など、相手の積木モデルを尊重しながら自
るものの、自分のものを最多数にするといった時期を、
分の積木作品を別に構成できるようになってきます。
「自我の拡大期」と呼びます。自分自身に最も大きな価値
を置く時代です。
この時期の子どもたちを見ていると、自分で何でもした
がる時期ですね。「ジブンデ!」と言って自分で服を着
配分課題では、あえて余りが出るように7個にしてあげ
ます。2個ずつを3人に均等配分したのちに、最後に余っ
た一つは自分の器に入れることが多いようですが、このあ
とにも2歳前半までの時期とは大きな違いが表れます。
る、自分で食事をする、などなど、様々なことを自分でや
3歳児が3枚の器に均等に分けてくれたあと、「お客さ
りがたって、保護者の方々を困らせがちです。しかし、こ
んがきたから、お客さんにも分けてあげてね」と促してみ
こで無理やり服を着せたら、保育の負けです。この時期は
てください。すると、他者の器に配分済みのクッキーには
「第一反抗期」とも言われ、虐待が最も多い年齢でもあり
手を付けずに、自分のお皿から分けます。母親や父親に分
ます。2歳児がその小さなからだと大きくなった自我でど
けてあげたものを大事にして、あえて自分のお皿からお客
のような発達への願いを持っているのかを理解していく必
さんに分けてあげることができますし、自分の器がたとえ
要がありそうです。
空っぽになっても、いったん自我が関与して配分した他者
自分がたくさん欲しいんだ、と言えるような「自我の拡
のクッキーには手を付けません。相手に配分したこと自体
大 」 を 通 して、 大 き い も の と 小 さ い も の 、 た く さ ん と
が、充実した自我の表現だからです。他者のものを尊重す
ちょっと、などの大小関係を理解していきます。このよう
ることが、自分をしっかりと表現することになっているわ
な知的な力が芽生え、培われていくためにも、自我の育ち
けです。均等配分する数理的な力が、自我の拡大・充実と
が大切であることが実感されます。自分のことを「○○ちゃ
関連しあっていること。また、相手を尊重する力とつな
ん、おーっきくなった!」と言えるようになって初めて大
がっていることを感じていただけるでしょう。
小の区別認識が確定していくことになります。そのように
自分自身の変化を実感でき、また、自分の力に自信がもて
第3の世界へ
るようになって、客観的な認知力として、自分の外の世界
生まれ育った「自分の家」というのは、発達的にみる
にある事物について「大 − 小」を区別できるような認識が
と「第1の世界」といえるでしょう。次いで生活の場が
獲得され充実していくわけです。
保育園や幼稚園に拡がり、そこが「第2の世界」になり
ます。そして5歳に入ると、第1、第2の世界以外に、
同じにする
このような自我の拡大を経過して、徐々に相手のことを
考えられる段階、相手を尊重できる段階に入っていきま
す。この時期に入ると、先ほどのような3枚のお皿にクッ
キーを分ける実験においても変化がみられます。2歳前半
までは自分により多く分けて、残りを母親のお皿と父親の
お皿に1個ずつ分けていましたが、2歳後半から3歳前後
6 日本ピアジェ会 会報NO.22
遠くの友だちの家まで、自分たちだけで出かけるように
なるのではないでしょうか。ときには1人でも行きま
す。新しい「第3の世界」へと活動の場がひろがってい
くのですね。いわば「境界を越える」、今までの世界か
ら新しい世界へと自ら境界を越えるのが5歳児の大事な
方
幼
児
期
の
発
達
を
と
ら
え
た
保
育
・
幼
児
教
育
の
あ
り
方
特徴です。5歳児は自転車に乗って川のそばの道を颯爽
て描いてくれるようになるでしょう。自分の頭の中でイ
と友だちの家へ出かけていきます。
メージをコントロールする力が芽生えます。このような
そういう時期には、友だち関係や、まわりの世界との
力がその後の抽象的な思考力の基礎になるのではないで
関係にも新しい特徴が見られます。4歳の頃には、休日
しょうか。
に友だちと園庭で遊ぶときにも、家から幼稚園や保育園
絵の上手下手はさておき、描画の際に子どもたちが課
までの道の途中の出来事によって目的が変更されること
題に興味と喜びとをもって粘り強く取り組み、その真摯
は少なく、園までまっすぐ歩いていって園庭で遊ぶとい
な取り組みが、部分的にではあっても局所局所で密度の
うその目的に行動が集中します。5歳児は4歳児と違っ
高さ、表現の豊かさを示し始めているところを評価する
て、行動にふくらみが出てきます。途中に広場があれば
必要があります。
ひとしきり遊んでいき、犬がいれば寄っていってさわっ
てみる。犬がいたよということを一気に友だちに伝え、
空間的な3次元
みんなで犬を見てしゃべり合う。大人が働いているとこ
大きい-小さい、長い-短い、といった2次元の概念は
ろに心を寄せるというのも貴重な特徴でしょう。見えな
3歳代までに獲得されました。そして、4歳代には、大
いものにも手で触れて「こっちはなんだか暖かいよ」と
小のマルを描いて見せて「この大きいマルと小さいマル
1人が言うとみんなで手をかざしてみる。1人が新鮮な
の間の中くらいのマルを描いてね」と求められて、小さ
経験をして、そしてそのことを他の子にも伝える。未知
いマルより少し大きいマル、そして大きいマルより少し
の世界をさぐり、経験を伝え合うという特徴が見られま
小さいマルを描くことができ始めます。3次元の概念の
す。道端に側溝の穴があればそれをのぞき込み、板塀の
芽生えです。しかし、「中くらい」や「真ん中」といっ
わずかな隙間も見つけて「その向こうにある世界」をと
た中間項の概念がはっきりするのは5歳後半を待たなけ
らえようとするでしょう。
ればなりません。
友だちの友だちとも友だちになれる。「友だち」を軸
「小さいマルから順々にだんだん大きなマルをいっぱ
にして、社会的な関係が広がります。遊んだあと、帰り
い描いてね」と言われたとき、4歳頃には、あいだの三
道に連れ立って寄り添い、肩を組んで歩いたりします。
つか四つのマルは同じくらいの大きさになって最後だけ
5歳児が机の上で絵を描いてくれる場面で、このような
大きいマルになる傾向があります。「だんだん大きく」
未知の世界をさぐる力や友だち関係を発展させる力がど
という細やかな調整は難しい。また、4歳児では小中大
のように発揮されるか、それを見ていきましょう。
と描きはじめるものの、また小さい円に戻ったりしま
す。大きさを徐々に変えて大きくしていった円を画用紙
道順を描いて教える
いっぱいに描くようになるのは、そのような段階を経た
「お家から保育園までの道順を教えてよ」と促して、
あと、5歳に入る頃からです。また、だんだん大きな円
画用紙を一枚出してみます。「ここからこう行ってこう
(系列円)を描け始める時期と対応して、握手して相手
行って・・・」と書き始めてくれます。でも、一枚では
の手を「だんだん強く握る」という把握力の系列的な調
足りない。「もう一枚ちょうだい」「もう一枚」と追加
整ができはじめます。手の力をギュッと強く入れたり全
の紙を求めて何枚も紙をつないでいって保育園にたどり
部抜いたりというだけでなくて、力の入れ方を徐々に変
着く。必要なものを描くために何枚もの紙を使います。
えるようなコントロールができ始めるわけです。
そのような広がりのある現実の世界を、目の前の紙の上
マルを徐々に大きく描くといった表現ができる、とい
に表現することができ始める。実際の道順を頭の中にイ
うことは、子どもにとって何を意味するのでしょうか。
メージして地図をかいてくれる。それだけではありませ
マルの描画の面だけを見ていると、図形を幾何学的に認
ん。途中途中の大事な目印を表現してくれるでしょう。
識する力が伸びたと見えるかもしれません。しかし、同
1枚1枚にテーマが入り、目的地に近づくと表現の密度
様の調整が手指の操作でも、全身活動の面でもみられる
が高くなり、「あ、商店街忘れてた」と言って書き加え
ことから、図形認知といった個別の知的な脳の働きだけ
たりします。
でなく、子どもの総合的な力を私たちは見抜き評価する
5歳後半から6歳にかけての時期には、1枚の紙の中
に道順のイメージをしっかりコントロールして凝縮させ
7 日本ピアジェ会 会報NO.22
ことが必要であるように思います。
幼
児
期
の
発
達
を
と
ら
え
た
保
育
・
幼
児
教
育
の
あ
り
このような「系列的な調整」をする力が、子どもの発
描き表そうと努力します。髪を長くしたり、リボンを結
達の全局面に培われてくる。そして、その子がまわりの
んだりして、自分の願望が入ることもあるでしょう。
世界に働きかけながら、同時に自分の内面で「中間項」
5歳後半から6歳にかけては、自分の発達的な変化を
を認識し、つくり出し、確定していく。そうすることに
とらえてそれを絵に表現するといった力量が培われてい
よって、この世界を大小、強弱、長短といった対の概念
くことになります。過去−現在−未来を質的に異なったも
によって裁断するだけではなくて、対概念の両極端の間
のとして認識し、時間の流れの中で改めて現在を客観的
にあるような状態を繊細にとらえ、同時に、間をこまや
に緻密に新たに捉え直す。そのような力の芽生えがみら
かに刻み込むような表現が可能になります。それは人間
れます。
を見る新しい視点を与え、その子がまわりの世界を捉え
る捉え方、世界の認識の仕方を変え、まわりの人たちと
ルールを意識する
の関係の取り方を変えていくことになるでしょう。
仲間どうしでルールのあるスポーツを楽しめるように
なるのはいつ頃からでしょうか。ボール遊びそのものは
時間的な3次元
既に1歳の頃からやり始めますね。しかし、ドッジボー
空間的な3次元に加えて、時間的な変化を捉え始める
ルのようなルールのあるボールゲームを楽しむのは、や
ことが5歳での重要な特徴です。
はり5歳の半ば頃からでしょう。
一人の女の子に「○○ちゃんが、小さいときの絵と、今
ボールがノーバウンドで当たったら外に出る。外から
の○○ちゃんの絵と、それから、大きくなったときの絵
中の人に当てたら内に入る。ドッジボールを楽しむため
を、ここに描いてね」という課題を出してみました(日
には、このような目に見えない共通のルールを、みんな
本ピアジェ会・会報、N o . 2 1を参照)。4歳代では、体
が共有し大切にしていなければなりません。目に見えな
の大きさを小、中、大と描き分けていますね。真ん中が
い大切なものをルールとして、あるいは大事な規則性、
今の自分です。表現に終わらず「中くらい」の表現が出
法則性として意識し、みんなに共通に作用するものとし
始めていることと、それから「自分」をこのように「多
て尊重する。そのような意識の内容と意識する力とが、
面的」に表現でき始めています。
のちに、小学校で物事を筋道立てて考える力を伸ばし、
「大きくなった自分」を何とか表現しようとしました
優しさを培い、中学校で例えば基本的人権などの社会的
が、体がそのまま大きくなっていますね。この時期を経
な価値概念を身につけ大切にしようとする、そのための
て5歳後半になると、自分の発達的な変化を豊かに捉え
重要な「発達の原動力」となっていきます。大事なルー
はじめ、服装を変えたり、髪を伸ばしたり、足だけを長
ルをしっかりと共有しながら、一方で、自由にルールを
くして、大人になった自分を表現するようになります。
運用したりルールを新たにつくったりする力を培ってい
5歳になる頃から、「あのお山のずーっと、ずーっ
くことにもつながるでしょう。
と、ずーっと向こうには何があるの?」、「おかあさん
このような力は、別の面では、「計画」を練り、「段
の、そのまたおかあさんの、そのまたおかあさんの、
取り」を立て、「役割を交代」しながら目標の実現に向
ずーっと、ずーっと、ずーっとまえは誰?」などと子ど
かって協力しあう力となって表れます。直接には目に見
もたちは頻繁に聞くようになるでしょう。「時計って、
えない大きな目標を意識する。そして時間的な見通しを
いつ終わるの?」と聞いてきたりします。時間や空間の
持って、例えば運動会までに何か大きな出し物をすると
果てに関心を示します。 いう目標に向かって協力しあい、教えあって、一つの作
5歳半ばを過ぎる頃になると、「小さい頃の自分」を
品を作り上げていくことができ始めます。
ただ現在の自分を縮小して描くのではなくて、よつばい
しているところや、短い足を投げ出して座っているとこ
胸の波打つ新鮮な経験
ろを描いてくれます。服装でも、よだれかけをしていた
5∼6歳の子どもたちは、会話の中で、「あのね、
りと、赤ちゃんの特徴がよく出ています。「大きくなっ
えーっとね」というように、接続詞をさかんに使って自
たときの自分」の課題では、ボタン付きの上着、ネクタ
分の経験を相手に伝えようとしますね。なんとか経験を
イ、ひだのあるスカートなど、「おねえさん」の特色を
つないで表現しようとするものですから、逆に「あの、
あの、あの・・・」とどもることも多くなるかもしれま
8 日本ピアジェ会 会報NO.22
方
幼
児
期
の
発
達
を
と
ら
え
た
保
育
・
幼
児
教
育
の
あ
り
方
せん。話し言葉が豊かになる前提は、新鮮な経験が豊富
どもたちばかりでうれしかたみんなありがとう」(カッ
にあること です。伝えたい内容がないと、「うそ」をつ
コ内は田中昌人氏の説明)。
いてでも話を作ることさえあるでしょう。実際の経験だ
けでは足りなくて、願望や、テレビでみた場面や、友だ
書きことばの指導が、単に文字を覚えさせて書かせる
ちの話を織りまぜて、文脈をつないで話を広げ、伝えよ
といった指導ではなく、子どもたちが友だちとの温かい
うとするわけです。もうひとつの世界を表現しようとし
つながりを結んでいきながら、人格を形成し充実させて
ているのに、新鮮な体験が不足しているときに、ウソや
いくための基礎を築いていけるようにする。そのような
汚い言葉、例えば「あほ、でべそ!」「うるさいな!」 総合的な働きかけの中で、子どもたちが「書きことば」
「自分でしたらぁ」といった言葉などを多用し始める時
を身につけて友だちに気持ちを伝えたい、という意欲を
期でもあります。3拍子の悪口も増えます。 高めていけるように援助することが大切のように思われ
話し言葉が豊かになるためには、胸の波打つ新鮮な経
ます。 2006年6月1日
験、そしてそのことを話したいと思う相手がいて、自分
の話を受けとめてもらう機会が豊富に準備されているこ
とが必要です。
友だちに気持ちを伝える言葉
以上の力が余すところなく身についていく中で、子ど
もたちは、書きことばへも積極的な関心を寄せるように
なってくるでしょう。その場合にも、話しことばと同様
に、文字の意味する実態や中身を、多面的に総合的に身
につけていくことが必要です。子どもたちが書きことば
に出会っていく過程で書いた手紙の例を、田中昌人氏は
次のように紹介しています。(田中昌人「5、6歳児
−力強く、仲間として」季刊「発達」23号、p.1-30、ミネ
ルヴァ書房、1985)。
年長組の子どもたちが、入院した友だち、アユミちゃ
んへお見舞いの絵手紙とテープを送りました。そのとき
に手紙に書かれた言葉と、アユミちゃんからの返事で
す。
アユミちゃんへの手紙:「ガンバリヤ」「ナイタラアカ
ンデ」「イタイヤロナ…」「マスイシタライタクナイ」
「○○チャンモ シュジュツシタヨ」。 アユミちゃんからの返事:「みんなおげんきですかわた
しもげんきですいまほいくえんのみんなわなにをしてあ
そんでいますかでもてえぷれこうどおおきて(でもテー
プレコードを聞いて)うれしかったよどもありがとうご
ざいますほんとにありがとうこんどびょうきがなおたら
ほいくえんにいきますみんなほんとにありがとうあゆみ
はうれしかたよほんとにありがとう あゆみはせんせが
ほいくしよにかえたらなみだがぱらぱらおちてもたくや
のゆとにして(たくやくんの言う通りにして)なみだふ
きましたたくやくんもけいこちやんもみんなやさしいこ
9 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
ぺたぺたシール教材の実践発表
研修風景
日本ピアジェ会専任講師
大阪城南女子短期大学 非常勤講師 小林 芳子
ピアジェ研修会も今年で10周年を迎えました。ペタペ
タシールあそび教材の実践発表も春季、夏季と年2回を
合わせると今回で19回目となります。
毎回、各園で教材の具体的指導についての研究を積み
重ねていただき、先生方の教材に対する理解も年々、深
まって、発表内容もどんどん豊かになり、多様で柔軟性
に富んだ質の高い充実したものとなりました。今回の
発表についても子どもの主体性を大切にした教材指導の
あり方について様々な観点からそれぞれの園で独自に研
究していただき、実際面での指導に大変有効で役に立つ
内容となりました。
導入教材では、各単元の目標、ねらいにそった内容を
考え、しかも子どもの身近な生活やあそびの経験をい
かした題材を取り上げ、子どもが楽しんで操作活動がで
きる雰囲気づくりや環境作りをいろいろ工夫されていて
印象的でした。
その中で、一つ一つ段階を踏んで丁寧に指導すること
の大切さや子どもが理解できない場合の言葉のかけ方
や対応の仕方についても学ぶことができ、指導上の細や
かな配慮が行き届いていて、大変参考になりました。さ
らに、応用範囲も拡大されて教材操作の理解だけではな
く、自然や生活、あそび、その他の様々な場面にも適応
できるようにし、子ども自身が新しい課題にもどんど
ん取り組んでいけるような指導のあり方をいろいろ研究
されていました。
これまでこつこつと継続的に積み上げてきた研究成
果は本当に大きく、尊いものがあり素晴らしいものと
痛感しています。
これからも何かとお忙しいこととは存じますが、発
表にご協力いただけますよう宜しくお願い致します。
10 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
カトレア幼稚園(埼玉県)
カトレア幼稚園
発表者: 伊藤 千恵子教諭
年少編:「おやすみくまさん」 ねらい:大小の比較を通して対応するものとのかかわりについて考える
見かけの大小関係を身近なお母さんと子どもの大小に目をつ
け、洋服や帽子などの大小を大きさに合わせて対応できるように
したり、立体の大小のお弁当箱に子どもの大好きな食べ物をそれ
ぞれ大小に分けて分類できるようにするなど、導入教材を2段階
に分けて、年少児がスムーズに理解を深めていけるように分かり
やすく指導されていました。応用場面では、子ども自身で製作し
た大小の魚を集めて魚釣りゲームへと発展させ、釣った魚の大小
を子どもたちが楽しんで分類操作できるように環境を設定されて
いました。 大きさに着目できる言葉かけがきちんとされてい
て、順序立てた指導が見られました。
11 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
江南幼稚園(愛知県)
江南幼稚園
発表者:毛利 幸代教諭(江南幼稚園)
堀田 千家子教諭(師勝はなの樹幼稚園)
年少編:「ゆきあそび」
ねらい:特徴に目をつけ、2つの集合をつくったり、分けたりする
雪あそびの経験を活かし、子どもたちが作った立体で大型の大
小の雪だるまを導入教材に取り入れ、雪だるまに目や口の大小を
それぞれ対応できるようにして大小関係に気付かせていました。
次に、パネルシアターを活用し、雪景色の雰囲気をうまく引き出
して、その中で子どもたちが動物の絵カードを身につけ、音楽リ
ズムやリトミックなどの表現活動を通して動物の特徴による2種
類の分類ができるように環境構成をうまく工夫されていました。
教材シート上の雪だるまやスコップを立体化し、動物を拡大して
絵カードにして、導入教材としても幅広く効果的に活用されてい
ました。
12 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
東山東幼稚園(和歌山県)
東山東幼稚園
発表者: 西崎 理浦子教諭
年少編:「まえ よこ うしろ」 ねらい:同じものでも視点によって形が変化することに気付き、分類する
視点によるものの分類操作を年少児に理解しやすく順序を追っ
て一つ一つ丁寧に指導されていました。まず、プリンターから教
師の前、横、後ろの写真を取り出し、比較することによって方向
の違いに気付かせ、向きは変化しても同じ教師であることを発見
し、その理由を子どもたちにしっかりと発表させていました。次
に、身近な通園鞄や消防車の前、横、後ろの写真もプリンターか
ら取り出し、一つ一つ方向を確認しながら形がどのように変化す
るかをとらえ、それぞれの視点による分類操作へと導き、年少児
が無理なく自分で答えの発見をしていけるような保育内容を考慮
されていました。
13 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
新ひのお台幼稚園(大阪府)
新ひのお台幼稚園
発表者:中埜教諭・金本教諭
年中編:「ゆうえんち」 ねらい:5はいろいろな数の組み合わせによって構成されていることを知る
幼稚園の農園でとうもろこしやキャベツ、白菜、トマト狩りを
楽しめるようになっていて、その経験を導入教材として取り入
れ、5の合成、分解を青虫を使ってそれぞれの野菜に分けたり、
集めたりしながら年中児の興味、関心を引きつけながら、楽しく
理解できるように教材提示の仕方をいろいろ創意工夫されていま
した。分解操作だけではなく、分けた数をもとにもどすと全体の
数は5になることも忘れずに操作し、数に着目できる言葉かけも
徹底されていました。操作後も分けた数を整理シートで再確認で
きるようにし、理解を深めるためのポイントをおさえた指導が見
られました。
14 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
あおば幼稚園(和歌山県)
あおば幼稚園
発表者:黒野 公美教諭
年中編:「どうぶつマンション」
ねらい:上下、左右、中心の位置関係について気付かせる 子どもたちに親しみのあるブレーメンの音楽隊の登場人物を用
いて上下、左右、中心の位置関係を立体的な教材を使って一つ一
つ段階を踏みながら年中児に分かりやすく指導されていました。
まず、上下の関係から真ん中の発見、さらに、左右、中心の位置
関係にも気付くようにし、操作を通してその都度、位置を確認す
る言語表現もきちんとできるようにされていました。指導の手順
がはっきりしていて、子どもの思考が混乱することなく整理され
て方向、位置関係を理解していけるように丁寧な指導をされてい
ました。応用面でも前からみた位置関係と後ろからみた位置関係
は逆になることを子ども自身でいろいろ試行錯誤しながら発見す
るなど、活発な子どもの思考活動をみることができました。
鴻池学園幼稚園(大阪府)
15 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
鴻池学園幼稚園
発表者:辻 佑実子教諭・東村 裕美教諭
年長編:「うちゅうたんけん」 ねらい:推理して数の多さを考える
遊園地をテーマにした迫力ある大型教材は乗物が動くしかけに
なっていて、年長児の興味を集中できるようにし、動物のくまを
仲立ちとして2つの乗物に一つ一つ対応してのせることによって
乗物の数を推理して考えていけるように配慮されていて、実に楽
しい保育を展開されていました。操作後も推理シートで答えの確
認ができるようにし、子どもに理解しやすい指導方法を考えられ
ていました。応用場面では、広さの推理的判断へと適応させ、正
方形や三角形の図形を組み合わせて様々な広さを直感で判断させ
たあと、推理的判断へと導き、子どもが意欲的に答えを発見でき
るように指導されていました。
歩学園幼稚園(京都府)
16 日本ピアジェ会 会報NO.22
実
践
発
表
歩学園幼稚園
発表者: 藤井 あさみ教諭
年長編:「かわいい熱帯魚」
ねらい:要素に目をつけ1つの属性(単色)、2つの属性(2色)
3つの属性(3色)をみつけ分類する
要素に目をつけ、1つ、2つ、3つの属性を発見し、それぞれの共通
の仲間を見つけて分類する操作を、はじめから重なった輪の中に要素
をいれて分類するのではなく、まず、こどもがどのような分け方をす
るかを赤、青、黄の身近な帽子、水筒、双眼鏡の大、中、小をランダ
ムに置いたものを自由に分類操作させて、子どもなりの理由をしっか
りきいていました。次に、それらを身につけて輪の中に入る活動を通
して共通の仲間を発見できるように導き、子ども自身で輪を重ねたら
よいことに気付かせていました。子どもの発想や発言を大切に取り上
げ、子ども自身で問題解決できる方向へと導き、丁寧な指導がみられ
ました。
17 日本ピアジェ会 会報NO.22
文
学
紀
行
文学紀行No.15
「アンガスは、大切なことをどうやって学ぶか」
-しりたがりやのスコッチ・テリアの話石川 晴子
大阪樟蔭女子大学非常勤講師
幼い子どもを見ていて心を動かされることのひとつ
ないものなどがあることがわかってきます。そし
は、なんでもかんでも知りたがるその熱心さです。
て、ある日、あひるというはじめてのものに出会い
人生経験の浅い子どもにとっては、まわりの世界は
ます。追いかけたり、吠えたり、水を飲むのを真似
知らないことでいっぱいです。知らないものに対す
したりして、あひるを知ろうとします。ところが、
る恐れや不安は決して小さいものではありません
相手は大きな音をたて、翼をパタパタさせるだけで
が、知りたい、知らなければならないという衝動は
なく、どんどん追いかけてきて、アンガスのしっぽ
押さえられないほど強くて、じっとしていることが
を突っついたりします。家に逃げ込んだアンガスは
できません。
椅子の下にもぐりこんで、心を静めます。フラック
マージョリー・フラックという絵本作家は、この
は、最後の頁に「さんぷんかん、なにごともしりた
ような幼い子どものことをよく理解して、幼い子ど
いとおもいませんでした」と書いています。という
もにわかるように表現することができる力を持って
ことは、3分間経ったら、また、アンガスは新たに知
いるといえるでしょう。
りたいものが出てきて、走っていくにちがいありま
フラックの描いたアンガスの3部作は、スコッチ・
せん。
テリアが新しいものや、新しい事態をどうやって把
握し、切り抜けていくかを伝えています。アンガス
が大きくなるにつれて、行動半径が広がっていき、
アンガスはその度に自分の力で置かれた状況を切り
抜けて、成長のステップを昇っていきます。
はじめ、アンガスは「とてもちいさいのに、あた
まとあしは おおきな いぬ でした。」
スコッチ・テリアだからです。見るもの、かぐも
の、なんでも知りたがり、いろいろ試しているう
ち、世の中には持ってこられるものや持ってこられ
次の『アンガスとねこ』では、アンガスは家の中
にいつのまにか、こねこがいるのを知ってとまどい
18 日本ピアジェ会 会報NO.22
文
学
紀
行
ます。はじめは、この新しい同居人をどう受けとめ
ることに驚くとともに、ピアジェが、子どもの成長
ていいかわからなかったのに、こねこの姿が見えな
の過程をよくとらえて理論化していることを再認識
くなると、さみしくなります。
させられます。
きょうだいや、友だちといった、自分を保護してく
れる人以外の対等な関係にある人とはじめて出会っ
た子どものことが、よくわかります。
マージョリー・フラック 作・絵 瀬田 貞二 訳 福音館書店
アンガスとあひる
3 作目の『まいごのアンガス』は、さらに大きく
アンガスとねこ
なったアンガスが、よその犬についていって遠くま
まいごのアンガス
で行ってしまい、帰れなくなる話です。アンガス
まさき るりこ 訳 新風舎
は、ひとりぼっちで夜を過ごし、知恵を働かせて無
ウィリアムのこねこ
事にひとりで家まで戻ります。自分で元のところへ
戻ることができるとは、アンガスはほんとうに成長
したものだと感動します。
フラックの絵本には、この他に『ウィリアムのこ
ねこ』や『おかあさんだいすき』、『あひるのピン
のぼうけんのはなし』などがあります。フラックの
絵本を読むと、フラックが子どもをよく理解してい
19 日本ピアジェ会 会報NO.22
お
茶
の
心
と
育
て
の
心
お茶の心と育ての心
ー終章ー
内山 昭
日本ピアジェ会副会長
東山東幼稚園・あおば幼稚園園長
表題の内容で、日本ピアジェ会会報5号から20号まで執筆して、皆様にお目通しいただきま
したが、ペンを置くことにいたしました。
お茶の心を忘れることなく、また子どもとも関わりを深めつつ、継続していきたいと思っ
ているところです。皆様も機会があれば、お茶に触れていただきたいと思います。
長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
20 日本ピアジェ会 会報NO.22
幼
稚
園
紹
介
幼稚園紹介
今回、ご紹介いたします新ひのお台幼稚園は、平成18年4月政令指定都市、
堺市の南に位置する泉北ニュータウンの中にあります。泉北ニュータウンは
16地域に分かれており、幾重に並ぶ高層マンションや戸建て、商業地域があ
り、各駅に通じる緑道や公園の整備がなされ、創られた町としてとても住環
境が良好なところでもあります。当園も緑道と大きな公園に囲まれて自然に
恵まれ、四季折々の体験ができます。
なく土をしっかり掘らないと収穫できな
学校法人 中井学園 新ひのお台幼稚園 い、じゃがいもや、さつまいも、鬼の角の
園長 淡野 勝也
ような根、かたいおに葉をもつキャベツや
白菜、手で触ると痛いほどのキュウリ
子ども達の「おはよう!」という元気な
声で一日が始まり、握手をしたり、抱っこ
したり、一人一人を愛情いっぱいに子ども
を出迎える先生達、そんな関係を大事に子
ども達の興味を引き出す、今しかできない
ことを大切に(年齢・季節)を考慮して指
導案を考えています。又当園は一ヶ月に一度
(キュウリの先に黄色いお花つき)や、か
わいく鈴なりに並んだミニトマト等、もぎ
たてをとってすぐに食したりしますが、今
まで野菜を食べられなかった子どもも何度
もおかわりにくるほど大好物になってしま
うことがあります。又昆虫やカエル、さな
ぎ等とも仲良くなります。
の割合で農園や果樹園に出かけていき、
芽・花・実と農作物、果物が実っていく様
子をよく観察したり収穫を楽しみます。スー
パーや八百屋、果物屋さんに並ぶ商品では
21 日本ピアジェ会 会報NO.22
幼
稚
園
紹
介
感じでしたが今は調和の取れた園として男
女比率も5対5、ピアジェ教材は子ども理
解・発見・確認・認識する上で、又子ども
のユニークな無限の力を引き出す上でも、
ファミリーファーム とてもいい教材だと実感しておりますし、
スクールバスで10分の距離に果樹園(ミカン・柿・ぶどう
この度、教材研修発表をさせて頂いたこと
等々)・ログハウスでゆったり食事をすることもできます。 で、先生たちの取り組み方も以前より意欲
(4427平米)
的になり、増々深く取り組んで参りたいと
感じました。
最近の子ども達は砂や泥で遊ぶことがな
く、4月当初は砂遊びも「きたないからでき
ない」といっていた子どもも、6月中旬から
今後共末永くご指導いただき、共に前進
していきたいと願っています。
毎日どろんこ遊びやプール遊びが始まる
私共の園は開園27年目を迎え、先生とし
と、そろそろ終わろうと思っても続行!!
ての人的環境の向上、又、物質的環境の整
そんな元気な子ども達ですが遊ぶときは思
備を常に心がけ、保護者から預かった大切
いっきり遊び、朝のつどいや設定保育、学
な命、個性を伸ばしていこうと思っていま
年集会や食事等きちんと集中する時友達の
す。
話や意見を聞くときは背すじを伸ばし、
しっかりと耳を傾けられるように一日の緩
急を大切にしています。
子ども達に大人気のロッククライミングと回転滑り台
遊具の向こう側は駅まで続く広大な公園です
このピアジェ教材と出会う前はどちらか
というと男の子にふさわしい幼稚園と位置
づけされ「元気が取り柄の幼稚園」という
22 日本ピアジェ会 会報NO.22
でオリジナル遊具です
〒590-0143 大阪府堺市南区新檜尾台4丁19番1号 23 日本ピアジェ会 会報NO.22
幼
稚
園
紹
介
Jean Piaget Society Japan
Contact
〒573-0104
Tel/072-855-3777
枚方市長尾播磨谷1-4051
Fax/072-855-3779
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