ピ アノ 指 導 法 講 座 「 ツ ェ ル ニ ー 3 0 番 」の 用 い 方 に つ い て レガート、 スタッカートの奏法、美しい音を 出すためのタッチなどの正しい練習の仕方 寺西 昭子 寺 西 昭 子 ピ ア ノ 指 導 法 講 座 注:文中の□内の数字は小節番号 序 ツェルニーとのお付き合いは70年位になります。私自身の勉強から始まって、生徒を教える立場にな ってからは、ツェルニーの練習曲の素晴しさをどの様に生徒たちに伝えたらよいだろうか、といろいろ 工夫しての60年でした。大方の世間一般の使われ方に、私は少なからず不満を抱いていましたが、去年 ツェルニー没後150年にあたって雑誌等にツェルニーのことが取り上げられ、そのせいか、その真価が 少し見直されてきた感じが見受けられ、嬉しく思っておりましたところに教育連盟からお話があり、こ の機会に私の考え、実践してきたことを皆様とご一緒に勉強してみようと、お引き受けいたしました。 全般について ツェルニーの練習曲というと、まず皆様の中には指の速い動き、強い指先を作る等々、技巧のための もちろん みの練習曲というイメージをお持ちの方が多いと思います。勿論、音楽的で立派な素晴しい演奏をする ためにはしっかりしたメカニックの土台を持つことが大切です。しかしそのために、ただ夢中に機械的 に指の訓練をしても、よい結果は得られません。 ツェルニーを深く勉強してみると、一見技巧的な面が打ち出されている様にみえて、その内容は大変 ・・ 示唆に富んだ深いものがあります。楽譜をよく読んでみて下さい。ごく当り前な、しかしこの初期の時 期にしっかり学んでおきたいことを、ツェルニーは根気よく、生徒や先生に教えています。 例えば、楽譜を見ながら弾いているのに、p も f も cresc. も dim. その他も、何の変化もなくただ音 を並べている様な生徒が多い様に見受けます。f はただ強いだけではなく、曲想やテンポその他によっ ・ て f の質を変えて弾いてほしい、p も pp の場合も同じです。 20 〈特集〉第24回全国研究大会 基本的にこの初期の時期にレガート奏法を是非身につけさせてほしい。大きくなって大曲を弾いても、 指のレガートの出来ていない生徒が多いように思います。そしてこのころに同時に、美しい音、響きの ある音を出せるタッチを身につけさせる、またフレージングや和音の変化、進行や転調等も同時に意識 させるという様に、あらゆる角度からの練習が必要となります。 この時期にこの様にツェルニーの勉強をしてきた生徒たちは、小さいながらしっかりこれらのことが 心に残り、身について、後の勉強がよい方向に進むことになります(なお、ツェルニーの示した速度は 速いと思われるので、実力に応じたテンポで練習して下さい) 。 各曲のワンポイント 今日はどんな進め方をしたらよいのか(時間が限られているものですから)悩みましたが、3人の生 徒さんにそれぞれ数曲ずつ弾いていただいて、レッスンしながらそのポイントをお話しし、残った時間 で私が何曲かを弾きながら注意していきたいと考えています。 1番 第1音をどんな響きが良いのか 弾く前にイメージして 切りすぎない 低音のひびきに注意。バスの音はその小節一ぱい保って。 最初の p と対比させて バスの響きをよく聴いて。 ∼ 左の和音進行をよく聴きながら美しい dim.を。 ここで元のテーマにもどるがG音についている>は p の中での>ですからひき方に注意。 21 > > 32 ∼ のG、F、E、D、Cの線をききとって出して下さい。 □ 2番 GからEに渡るスラーは手首をやわ らかくして、力を抜くようにしてE を打って下さい。 リズムが堅くならないように 譜面上は左音の間に入りますが 速く弾く時は余り気にせず自然に 弱拍→強拍に行くので、アウフタクトの 音は少し弱くして>にならないように。 アウフタクト メロディーが変化しますので、前の2小節とは別の表情を持って。 メロディーが単音から重音になります。その違い(3度、4度)をよく聴いて。 22 〈特集〉第24回全国研究大会 6番 低音のひびきを 大切に 4分音符にスタッカートなので右の8分音符に つられて短くならないように 4分音符にスタッカートなので ひびきも残して ∼ 左手にホルンの響きがありますので、よく意識して。特に2回目の同型は少し変化もほしいと ころです。右手はオスティナートです。同じ音型を何度もくり返すので指がもつれない様、よく練習し て下さい。 sf は左音に付いているので右のE音はアクセントが付かないよう。 8番 1の指の交換が大切です 主和音のひびきを大切に 1の指の交換はツェルニー30番全体に亘って最も大切な課題です。音階、半音階、アルペジオとピ アノをひく上で一番大事なのは1の指です。手首や腕がかたくなったり、余計なうごきをしないように いつも意識して練習して下さい。 ∼ 右の9度の跳躍のため上のG音5の指から下のF音1の指までつっぱったり、かたくなったり しないで、しなやかにひろげてもっていって下さい。 ∼ ff に向かって計画的に cresc.します。特に の左の減七の和音は大切です。 23 ここからの左手和音をレガートに弾くために4∼5指への指の置き換えが必要でしょう。 (譜例参照) トリルの練習 大切な和音 9番 上音を少し ひびかせて 休符を感じて第1音にアクセントがつかないようにして下さい 8番は右手でしたが全く同じことが左手にも言えます。 右の2拍目から上向ですが p に向かっての dim. に注意して下さい。 16番 長調から短調への転調はニュアンスを持って。 右手が今迄の音型とは違うことを意識して下さい。 17番 この曲は装飾音がテーマになっています。装飾音はその時代や作曲家によって記譜法や弾き方がいろ いろありますのでそれを勉強して下さい。 と 半音階が出てきますが、機械的にならないよう美しくひいて下さい。 18番 18番の冒頭に Allegro risoluto とあるので、 の始めのEs音をぶつけた様な f を出すことがありま す。このEs音は8分音符につづいて16分音符のスケールで上って行きます。つまり、Es音は次に上るエ ネルギーのための用意と思ってあまりきつくならないように。 ∼ 右手内声の2分音符をよくうたって下さい。右手はこのうたう2分音符と16分音符のトリルと二 声をひくわけですから中々大へんです。 終わりに 生徒さんを教える時は時間をかけて下さい。基礎を作 ることは大変ですが、1対1で決して急がずじっくりや って下さい。それぞれ個性が違うように特長も様々です から、画一的な教え方にならないようにして下さい。 お医者様とは違いますが私達、指導者の一言がその生 徒さんの一生を左右することもあるかも知れません。責 任ある立場なのです! 今日は本当に有難うございました。 24
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