中3 表現 題材名 研究発表 「詩を味わい思いを込めて表現を工夫しよう」 1.この授業でめざしたもの ~ 詩と音楽~ 本題材は、合唱を通して子どもたちに感動を味わわせることをめざしている。 中学校が荒れた時代、合唱で学校がよみがえっていった歴史がある。その後、合唱コン クールなどの学校行事が加熱し、本来の音楽の授業のあり方が問い直されることになった。 しかし、音楽の授業が週1時間と少なくなった今こそ、あえて合唱教育を見直したい。 他の教科とちがう音楽の授業のよさは、やはり「感動」があるところではないか。心がゆ さぶられ、理屈抜きに仲間のよさを心から感じることができる時間。それが合唱の時間で あり、本授業は合唱活動をもう一度見直すことが出発点となっている。 指導案の中にもあるように、合唱教材は、感動を求めるほど演奏のできばえが優先され るために単なる繰り返しの練習に陥りやすい。その結果、教師の一方的な指示を繰り返す 習熟練習に終始することが従来の合唱の授業の反省ではなかったか。 本授業ではぐくみたい響感は、「春に」という詩や音楽から感じ取ったことをお互いに 伝え合いながら、仲間と共に表現を深め合い、合唱をつくりあげることにある。つまり、 音楽の諸要素の働きから生まれる表現の違いを「わかる」ことができ、さらに、詩や音楽 から感じ取ったことを生かして音楽表現を工夫「できる」。そして詩や音楽から感じ取っ たことや表現の工夫を互いに伝え合い「わかちあう」ことによって、最終的に自分たちの 合唱を深め合い合唱をつくりあげることができる子どもが、本授業でめざす学習者として の子ども像である。 「春に」は、中学3年生の国語の教科書でも扱われている。国語の授業で生徒が詩を読 んで素直に感じ取った印象を書いたものを若い音楽の先生が持ってきた。生徒の感性はと ても豊かで、「すごく不思議な詩」「優柔不断」「春は喜びもあり、かなしみもあり、いら だちもあり、やすらぎもあり大声で叫びたいけど黙ってもいたいという様々な感情が入り みだれる季節・・・」など、詩のとらえかたが興味深かった。その後合唱曲を聴き、詩と 音楽がむすびついたとき、はじめて詩が多くの生徒の胸に響いたことが生徒の書いたワー クシートなどから観てとれた。 国語科でも学習した「春に」の詩の内容のイメージをどう音楽的な表現につなげていく か。私たちは、この「春に」という教材を使って、子どもが自ら詩を味わい、音楽表現を 工夫し教材を深めていくために、教師がどのように導いて行くのがよいか研究してきた。 -1- 2.授業ができるまで ~生徒が感じ取り工夫してつくりあげる音楽~ 5月の研究授業では、これを参考に、下記中間部の気持ちがゆれ動く部分をとりだして みることにした。 よろこびだ しかしかなしみでもある いらだちだ あこがれだ そしていかりがかくれている しかもやすらぎがある 詩のイメージを音楽的な表現にどうつなげるか、つまり強弱やテンポや歌い方などでど う表現したいかワークシートに記入させてみた。強弱や表情など生徒からたくさんのイメ ージが出てきたが、結局ワークシートを書いたりどんなふうに歌いたいか話をする時間が 大部分をしめ、残念ながら歌う時間が少ない授業になってしまった。音楽の授業は、もっ とどんどん歌わせて感性にはたらきかけながらつくっていくべきだという反省が残った。 他にも次のことが論議になった。 ①自分だけの思いでは合唱をまとめられない。個人の思いを話し合い、それをさらにま とめて表現することが必要でないか。 ②作者の詩のイメージと作曲者のイメージと子どもたちが詩から受けるイメージがばら ばらでよいのか。その整合性がないままに音楽的な表現にむすびつくのか。 ③音楽表現で強弱・速さはわかるが、「やわらかく」「重く」など表情?に関するよう な解釈が生徒からたくさん出てきた。どれがいいかというもっていき方やまちまちに なったときの落としどころをどうするか。 7月の研究授業では、ワークシートを改善して授業を行った。詩の中の同じ部分を扱い、 教科書を参考に、詩の一部をとりだして強弱を書かせ、「なぜそこがPP なのか」という ようなアプローチに変えた。そこでは、「ここは漠然とした気持ちだからP」「少しずつ 感情があふれ出てきて、いっぱいになっていく cresc.」のようなことばが生徒から出てき た。教師がまとめ、生徒どうしの考えを交流できた。このやり方は、曲を立体的にとらえ るうえで有効だった。最後の合唱も話し合い前より深みを感じるものだった。少し先が見 えてきた。 最終的に本授業は、「春に」の中間部をとりあげて扱うところを限定し、詩と音楽から 感じ取ったことを交流し合い表現を工夫する学習となった。 再現芸術を扱っている以上、作曲者の持つ枠の中で表現させなくていいのかという論議 も当然あった。しかし、あえてここでは楽譜から強弱や速さを消し、子どもたちがどう曲 をとらえ、表現を工夫していくかをみることになった。その後、作曲者の意図と比較させ てみることで、作品をより深めていきたいというのが授業者の考えである。手さぐりで進 んできた「感じ取って、仲間と考えを交流し合いながら子どもが自らつくっていく合唱」 の授業づくりはこのように進んできた。 -2-
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