2016年9月25日 第41回中東協力現地会議プログラム 『低下した油価と変わる中東情勢~それを踏まえた日本の戦略』 駐イスラエル特命全権大使 冨田 浩司 1. 日・イスラエル関係(総括) ネタニヤフ首相の訪日(2014年5月)及び安倍総理のイスラエル訪問(2015年1月)を受け て,日・イスラエル二国間関係は,「包括的パートナーシップの構築」に向けて,急速に強 化・発展中。 政治・防衛分野 科学技術協力 ○各種政府間協議の開催 ○要人往来,人的交流の活性 化(ヤングリーダーズ・プロジェ クト,3年間500名) ○科学技術宇宙省との研究協 力(ICT分野等) ○イスラエルイノベーションオー ソリティとの産業技術協力 (写真)内閣広報室 サイバー協力 投資環境の整備 ○日・イスラエル・サイバー協議 ○投資協定の実質合意 (2014~) (2015年12月) ○国際会議「サイバーテック」へ のパビリオン出展 観光促進 ○日本企業による,イスラエル ○ツーリズムEXPOジャパン(在京大使 サイバー関連企業への投資 館),IMTM(在イスラエル大使館) への出展 ○ワーキング・ホリデー制度の導入 (交渉中) 地域経済開発 ○平和と繁栄の回廊イニシアティ ブ(含むJAIP,2006年~) 文化交流の促進 ○ 2017年は国交樹立65周年 ○テルアビブ日本週間(計画中) 2(1). イスラエル経済概況 イスラエルは,鉱物・エネルギー資源に恵まれていないが,高度な技術力を背景として ハイテク・情報通信分野及びダイヤモンド産業を中心に成長を続けている。 GDPは2,961億ドル(2015年), 一人あたり35,343ドル。 成長率 (単位:%) GDP (単位:億ドル) GDP推移(イスラエル中央統計局) 7.0 6.0 3,500 5.5% 3,000 5.0% 5.0 2,500 4.0 2.9% 3.0 2,000 3.3% 2.6% 2.3% 1,500 2.0 1,000 1.0 500 0.0 0 2010 2011 2012 2013 2014 2015 貿易(2015年) 輸出:535億ドル(ダイヤ,電子・光学機器,化学製品等) 輸入:613億ドル(機械類,輸送機器,燃料等) 日イスラエル貿易(2015年) 輸入(イ→日):7.7億ドル (電子・光学機器,化学製品,金属製品等) 輸出(日→イ):11.6億ドル(自動車,電気機器,化学製品) 2(2). スタートアップ国家・イスラエル 近年では,経済都市テルアビブ等でベンチャー起業が相次ぐ「スタートアップ国家」として 知られ,ベンチャー投資や多国籍企業の研究開発拠点などが集結している。 世界一の起業大国 人口1844人につき起業1社(世界第1位)。 起業は年600社以上(米国に次ぎ世界第2位) NASDAQ上場企業76社(米,加,中に次ぎ世界4位,日本は11位) 世界一豊富な技術人材 技術者・科学者数(人口1万人あたり140人) エンジニア数(人口1万人あたり135人) 世界最高水準の研究開発投資 官民研究開発費(対GDP比4.1%) うち,民間予算(対GDP比3.5%) ※世界人口比0.2%のユダヤ人が, ノーベル賞20%以上(1901-2015, 874人), フィールズ賞(数学)25%以上を受賞 ※約300の多国籍企業が研究開発拠点を イスラエルに置いており,この経費を含め 海外からのR&D投資額は年295億NIS(2014年) 豊富なリスクマネーの供給 ベンチャーキャピタル投資:約5000億円/年 人口1人当たりのVC投資額(約$170)世界第1位 (米国の2.5倍,ヨーロッパの30倍,日本の100倍) 2(3). インフラ・資源エネルギー概況 天然ガス田の発見と開発 インフラプロジェクト 大型ガス田が相次いで発見。リバイアサン開発で 自給率は100%を超え,エネルギー輸出国へ転換。 新たな産業の柱として期待が高まる一方,内政の 混乱による開発の遅れが生じている。 多国間地域協力プロジェクト Red-Dead Sea Project(Phase Ⅰ) カリッシュ・タニンガス田 死海 2012-2013年発見(未開発) アフロディーテガス田 生産量 2012年発見(未開発) 生産量 55 BCM 7-10 BCM タマルガス田 2009年発見 (稼働中) 生産量 282 BCM リバイアサンガス田 2010年発見(開発中) 推定生産量 500 BCM ダリットガス田 濃縮海水送水パイプライン 紅海 (アカバに脱塩水化施設・ 両国向け淡水送水施設建設) イスラエル国内大型インフラプロジェクト 2009年発見(未開発) 生産量 8 BCM シムホンガス田 2012年発見(開発中) 生産量 5 BCM マリーBガス田 1999-2000年発見(稼働中) 生産量 25 BCM 出典:イスラエル・水資源エネルギー省 「Israel Gas Opportunities」 イスラエル ベングリオン空港を補完 する第二の国際空港 ガザ沖国際空港 3. イスラエル内政 野党(53) シオニスト・ユニオン (労働党含む) 与党(66) 24 リクード党 30 アラブ系統一会派 13 13 イェッシュ・アティード党 11 メレツ党 5 ユダヤ教 超正統派 2政党 10 5 8 クラヌ党(経済重視) 現ネタニヤフ政権 2015年5月,純粋右派政権として発足 (ネタニヤフ首相は2009年3月から継 続)。与党61・野党59。 2016年5月,イスラエル・ベイテイヌ党 を連立に加え,リーベルマン党首を国 防大臣に。与党66・野党53。 今秋からの予算編成プロセスで2か年 予算が成立すれば,少なくとも今後2年 間は現政権が継続する可能性大。 ユダヤの家(宗教的シオニスト) イスラエル・ベイテイヌ党(ロシア系右派) 長期的傾向 労働党に代表される中道左派の縮小と,右派(宗教的右派 含む)の拡大 労働党・リクード党の「2大政党」から「小党乱立」へ ユダヤ教超正統派が徐々に人口割合を拡大 ただし,今後の政権運営次第では,「ユ ダヤの家」や超正統派2政党が離脱す る可能性は排除されず。 また,引き続き,シオニスト・ユニオンの 連立入りの可能性も排除されず。 4. テロ・治安情勢 戦闘・テロによる死者数(兵士含む) 第2次インティファーダ ヒズボラ シリア反政府 武装勢力等 ハマス ISILシナイ州 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 452 207 208 117 44 第2次 レバノン 戦争 56 ガザ紛争 ガザ紛争 ガザ紛争 88 30 13 36 15 9 22 9 6 28 対パレスチナ民衆 昨年10月以降のテロ急増は収束傾向も,常に再発の可能性。 対ハマス 2014年紛争後の再武装化(ロケット弾,トンネル等)を警戒。 対ISIL ネット等で感化されるケースは見られるも,テロリストの侵入,帰還戦闘 員によるテロの脅威は低い。 対ヒズボラ 10万発のロケット弾(1日千発)の脅威あるも,ヒズボラは当面シリアを 優先。イランから高性能兵器の供与を警戒(レッドライン)。 対イラン 最大の脅威はイラン。核合意を踏まえ米国からの軍事支援パッケージ 増額に期待。 5. 外交(昨今のネタニヤフ外交の成果,方向性) 米国 イラン核合意を巡る対立 を脱却し,関係改善中 (昨年11月ネタニヤフ首 相訪米,12月リヴリン大 統領の公式訪米) ・MOU交渉は最終局面 トルコ ・6年ぶりの関係修復 ・東地中海エネルギー構想 の行方は,要注目 エジプト ・9年ぶりの外相来訪 →治安協力を含め急速に 関係緊密化 ロシア ・1年間で計4回の首 脳会談 ・シリアでの偶発的衝 突回避は共通の利益 アジア重視 湾岸諸国 ・反イランを接点に水面 下で協力が緊密化 南米 関係強化の方針 アフリカ ・東アフリカ歴訪,東アフリカ・ サミット(ウガンダ,ケニア,ル ワンダ,エチオピア,ザンビア, 南スーダン,タンザニア:7月) ・ギニア(ムスリム)と国交回復 (7月,49年ぶり) ・西アフリカ・サミット?(年内) 中東での 地殻変動 ↓ 守りから攻めへ 日本 ・首脳の相互訪問 →二国間関係は急 速に強化,2017年は 外交関係樹立65周 年 中国 ・経済面で関係強化 →劉国務院副総理 の来訪,自由貿易協 定交渉開始で合意 (3月) インド ・活発な要人往来 →印大統領の初来 訪(昨年10月),印 首相の来訪,イスラ エル大統領の訪印 (年内?) シンガポール ・国交樹立(1969年) 以来,初のシンガ ポール首相の公式 来訪(5月) 6. 中東和平プロセスの現状,今後の注目点 エジプト ・イスラエル・パレスチナ双方 を巻き込めるキープレーヤー ・エジプト主催サミットを開催 できるか? カルテット 連携 米国 ・米国が動くことなく和平進展なし ・入植地拡大に強い不快感,C地区 の土地収用,家屋破壊にも警戒 →イスラエルは,大統領選挙後の 米政権の動きを警戒 圧力? (米,露,国連, EU) 現状分析・勧告から成る文 書公表(7月) →安保理との連携を追求中 仏 国際会議開催(年内)に関 し,パレスチナは支持,イス ラエルは断固拒否 ・オバマ米大統領が如何にして レガシーを残すのか? ・サウジ等湾岸諸国,ヨルダン を巻き込んだ大きな動きになる か?(アラブ和平イニシアティブ との関係) ・次期米大統領の和平方針?
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