高齢農家における遊休果樹園の損失価値計測と活用方策 ―岡山県総社市H地区を対象として― 資源情報システム学 11418121 柳田智恵 【課題と目的】近年、果樹産地では農業従事者の高齢化と担い手不足により、果樹園の遊休化 が進行し、農業機械、農業施設、果樹等がまだ利用できる状態で放置されている。そこで本研 究では、果樹農家に対するアンケート調査から、①農業関連資源の未償却残高、②遊休化によ って発生する機会費用(遊休果樹園において、農業生産を続けていた場合に得られる農業所得)、 ③社会的損失(遊休果樹園において、農業生産を続けていた場合に得られる農業産出額)、の 3 点を計測し、果樹園の遊休化による損失価値を明らかにする。そして、農家の農地貸借に関す る意向に基づき、遊休果樹園の活用方策を考察する。 【調査対象の概要と分析方法】本研究では岡山県総社市H地区果樹生産出荷組合のブドウ農家 を対象にアンケート調査を行った。H地区は岡山県の中央に位置する平野部で、ニューピオー ネを中心としたブドウの産地である。平成 21 年のニューピオーネ販売額は 1 億円を超え、岡山 県における総販売額の 1.7%を占める。現在のブドウ栽培面積は約 12ha である。現在、果樹園 の遊休化は発生していないが、農家の高齢化が進行している。 アンケート内容は、[1]農業継続可能年数、[2]農業関連資源(農業機械、農業施設、果樹) の所有状況、[3]果樹園・農業機械の貸借の意向、で構成した。なお、農業関連資源の未償却残 高を求める際に、簿記上の耐用年数ではなく、農家が実際に利用している年数(以下、実質耐 用年数)を用い、実質的な未償却残高を計測した。サンプル数は 44 であった。 【分析結果】対象農家の平均年齢は 67 歳であった。実質耐用年数は、農業機械・農業施設とも に簿記上の耐用年数よりも 2∼3 倍長く、特にビニルハウスでは、ビニルの張替えのみを行うこ とで長期間利用されていた。果樹においては、簿記上の耐用年数より約 5 年長く利用されてい た。また、農業継続意向が 5 年以内で、かつ後継者がいない農家は 31%、5∼10 年以内では 17% であった。その結果、今後 5 年以内に 1.9ha、5∼10 年以内に 1.9ha、10∼15 年以内に 2.8ha、 15∼20 年以内に 0.2ha の果樹園が遊休化し、今後 20 年間で 6.8ha の果樹園が遊休化する。 対象地域の損失価値を計測した結果、①今後 5 年以内:810 万円、5∼10 年以内:1,040 万円、 10∼15 年以内:530 万円の農業関連資源が遊休化していくと推測される。②遊休化によって発 生する機会費用は、今後 5 年間で 530 万円、10 年間で 1,070 万円、15 年間で 1,470 万円となる。 ③社会的損失は、今後 5 年間で 1,800 万円、10 年間で 3,400 万円、15 年間で 4,700 万円となる。 農地貸借の意向に関して、約半数の農家は自身の農業引退後、遊休化する果樹園・農業機械 を貸し出してもよいと考えており、そのうち約 8 割が無料で貸し出しても良いと回答した。し かし、果樹園の拡大意向のある農家は組合内に 2 戸のみであった。このため、果樹園の遊休化 を防ぐには新規就農者や地域外からの労働力が必要となる。一方で、自身の農業引退後、技術 指導を行ってもよいという農家は、約 50%であった。この様な引退した農家の持つ技術を利用 した遊休果樹園の活用方策が必要となる。具体的には、残耐用年数の短い果樹園は、都市住民 等を対象とした体験農園に活用する。残耐用年数の長い果樹園は、新規就農者へ貸し出しを行 うことが考えられる。 ‐26‐
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