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959
血液培養ボトルの自動培養装置への装填遅延が判定結果へ及ぼす影響
1)
三菱化学ビーシーエル,2)東海大学医学部外科学系口腔外科
小林 寅"1)
佐藤 弓枝1)
山本真理子1)
内野卯津樹1)
長谷川美幸1)
金子 明寛2)
(平成 16 年 7 月 16 日受付)
(平成 16 年 8 月 18 日受理)
Key words:
automated blood culture system, delayed entry, false negative result
要
旨
試料を接種した血液培養ボトルの培養開始までの放置時間が機械的判定に及ぼす影響を,主要血液培
養装置 2 機種,BACTEC 9240 system および BacT!
ALERT 3D system を用い比較検討した.
血液培養より主に分離されるグラム陽性球菌 5 菌種,嫌気性菌を含むグラム陰性桿菌 7 菌 種 と
Candida parapsilosis の 13 菌種を試験菌とした.血液ボトルは BACTEC 92F,93F および BacT!
ALERT
FA,FN を使用した.
試験菌を接種した各ボトルは,直ちに培養開始したものと 24,42,48,54,72 時間室温で放置後,そ
れぞれの自動培養装置にて培養,判定を行った.
BACTEC 9240 system において腸内細菌の多くに対し機械的判定に放置の影響が見られた.Enterococcus faecalis,Pseudomonas aeruginosa は 42 時間放置で 10 試料中 5∼6 試料が陽性と判定されなかっ
た.一方,BacT!
ALERT 3D system は Acinetobacter calcoaceticus に対して,42 時間の放置で 10 試料中
3 試料が陽性と判定されなかった以外は,ほとんど陽性と判定された.機械的に陽性を示さなかった両ボ
トルとも Streptococcus の一部を除きサブカルチャーによって菌が検出された.
以上の結果から,血液培養システムによっては検体接種後の放置時間が陽性判定に顕著に影響するこ
とから,速やかな培養が必要であると考えられた.
〔感染症誌
序
文
78:959∼966,2004〕
ル内の CO2 量や酸素消費量の変化をアルゴリズ
血液感染症の診断に血液培養ボトルを用いた培
ムで捕らえ細菌の発育を判定する.一方,血液培
養法がスタンダードとされている.近年では血液
養は検体を採取後血液培養ボトルに注入し,直ち
培養ボトルの培養には自動判定装置を利用する
に培養する事が推奨されているが,自動培養装置
ケ ー ス が 多 く,American Society for Microbiol-
をその場で利用できない場合装填まで時間を要す
1)
ogy の Procedure Handbook に よ る と 自 動 判 定
る.一部のメーカーでは 48 時間までの遅延を容認
装置による 5 日間の監視培養が推奨されている.
しているが,根拠となるデータがないのが現状で
これらの自動判定装置は細菌の増殖に伴うボト
ある.
別刷請求先:(〒174―8555)東京都板橋区志村 3―30―
1
三菱化学ビーシーエル
小林 寅"
条件を統一するため,臨床検体ではなく臨床分離
平成16年11月20日
本検討では,血中抗菌因子の影響をさけ,測定
株を用いた基礎的実験を行った.すなわち血液培
960
小林
寅" 他
養ボトルに菌液を接種後自動装置への装填までの
に装填し培養を開始した.培養開始までの装填遅
遅れが自動判定に及ぼす影響を検討した.
延の影響を見るために菌を接種後 24,42,48,
材料と方法
54,72 時間室温で放置後,それぞれの自動血液培
1.自動血液培養装置と血液培養ボトル
養装置に装填し培養を開始した.
自動血液培養装置は BACTEC 9240 system(日
自動血液培養装置が陽性シグナルを示した時点
本 ベ ク ト ン・デ ィ ッ キ ン ソ ン)お よ び BacT!
で陽性と判定した.また,培養は装填後 5 日間行
ALERT 3D system(日本ビオメリュー)
を用いた.
い,陽性シグナルを示さなかった例を陰性とした.
これらは独自の微生物検出用ソフトウエアを内蔵
また,陽性を示したボトルはその時点で,陰性と
している.すなわち前者はシステムソフトウエア
判定されたボトルに対しては培養終了時(5 日目)
ver. 4.00D,後者は ver. B-01 である.血液培養ボト
でサブカルチャーを実施した.サブカルチャーは
ルはそれぞれ専用の培養ボトルを使用した.BAC-
血液培養ボトルから約 0.5ml の内容液を抜き取
TEC 9240 system は BACTEC 92 F を BacT !
り,各菌液の発育に適した平板培地および培養条
ALERT 3D system は BacT!
ALERT FA を 用 い
件で画線分離培養を行った.
た.但し,嫌気性菌に対しては嫌気性菌用ボトル
93F および FN をそれぞれ用いた.
尚,菌を接種した血液ボトルは各菌種,各菌株
の菌量が設定した菌量であることを確認する為に
試験菌株
接種菌原液中の生菌数を測定した.
成
試験菌株は血液培養から多く分離される主な菌
績
種を対象とした.菌種は血液培養で検出された 13
1.腸内細菌群の検出
菌種を用いた.菌株による差が成績に影響しない
Table 1 に腸内細菌 4 菌種における成績を示し
ように各菌種 10 株で実施した.但し,Streptococ-
た.Table から明らかな通り腸内細菌 4 菌種に対
cus mitis,S. equisimilis は 5 株ずつで両者で 10 株
して BACTEC 9240 system は遅延時間の経過と
とした.なお,各菌種のうち 1 株は標準株を用い
供に陽性シグナルを示す試料が少なくなった.
た.以下に検討した菌種を示す.菌名後のカッコ
E. coli において BACTEC 9240 system は 24 時
内 は 標 準 株 No. で あ る.Escherichia coli(ATCC
間の遅延によって 10 試料中 4 試料は陽性と判定
25922 ),Klebsiella pneumoniae ( ATCC 13883 ),
されず,42 時間では全試料に対して陰性と判定さ
Serratia marcescens ( ATCC 13880 ), Proteus
れた.BacT!
ALERT 3D system は陽性シグナル
mirabilis ( ATCC 29906 ), Staphylococcus aureus
を示すまでの時間が短くなるものの 42,48,54
(ATCC29213),S. epidermidis (ATCC12228),
時間の遅延では 1 試料検出されなかったのみでそ
Enterococcus faecalis ( ATCC 29212 ), S . mitis
れ以外は全て陽性シグナルが示された.
(ATCC49456)
,S. equisimilis,Pseudomonas aerugi-
K. pneumoniae,S. marcescens においても同様な
nosa ( ATCC 27853 ), Acinetobacter calcoaceticus
成績で BacT!
ALERT 3D system はいずれの遅延
( ATCC 23055 ), Candida parapsilosis ( ATCC
時間を経ても全試料陽性シグナルが示されたのに
22019)
,Bacteroides fragilis(ATCC25285)
.
方
法
対し,BACTEC 9240 system では 24 時間の遅延
で K. pneumoniae 2 試料,S. marcescens 6 試料が陽
各試験菌株を至適寒天培地にて前培養を行い,
8
性シグナルを認めず,陰性と判定された.42 時間
滅菌生理食塩液に McFarland No. 0.5(約 10 CFU!
以上の遅延では K. pneumoniae 1 試料に陽性シグ
ml)となるように懸濁し,これを接種菌原液とし
ナルが見られたのみで,これを除き全て陰性と判
た.これらを同液にて 107 倍に希釈し,各血液培養
定された.
ボ ト ル に 10∼50 CFU!
bottle と な る よ う に 3ml
P. mirabilis に お い て は BACTEC 9240 system
接種した.放置時間 0 時間を想定して菌を接種し
で 24 時間の遅延では全試料陽性シグナルを認め
たそれぞれのボトルは直ちに各自動血液培養装置
たが,42 時間では 4 試料,48 時間では 2 試料が陽
感染症学雑誌
第78巻
第11号
血液培養瓶装填遅延の自動判定への影響
961
Table 1 Time to detection of Enterobacteriaceae at each time point
BACTEC 9240 system
Strain
tested
Escherichia
coli
Klebsiella
pneumoniae
Serratia
marcescens
Proteus
mirabilis
*:Ten
mean
range
No. of
subculture
positives
mean
range
No. of
subculture
positives
0
10
11.14
10.52―11.86
10
10
13.06
12.50―13.70
10
24
6
6.44
1.07―32.63
10
10
3.92
3.80―4.60
10
42
0
―
―
10
9
2.02
2.00―2.10
10
48
54
1
0
26.30
―
26.30
―
10
10
9
9
2.13
2.10
2.00―2.20
2.10
10
10
Delay
No. of
time(h) positives*
Time to detection(h)
BacT/Alert 3D system
No. of
positives
Time to detection(h)
72
0
―
―
10
10
2.24
2.10―2.30
10
0
10
11.20
9.39―14.90
10
10
12.72
11.40―16.80
10
24
8
8.23
1.07―19.54
10
10
2.34
2.00―3.70
10
42
48
1
0
21.62
―
21.62
―
10
10
10
10
2.10
2.14
2.10
2.00―2.20
10
10
54
1
70.37
70.37
10
10
2.12
2.00―2.20
10
72
1
39.99
39.99
10
10
2.20
2.20
10
0
24
10
4
12.12
5.57
10.33―13.50
1.00―19.09
10
10
10
10
13.97
2.60
12.70―15.90
2.10―3.80
10
10
42
0
―
―
10
10
2.10
2.10
10
48
54
0
0
―
―
―
―
10
10
10
10
2.10
2.10
2.10
2.10
10
10
72
0
―
―
10
10
2.10
2.10
10
0
24
42
10
10
4
14.06
5.24
19.98
11.74―15.91
1.35―19.89
19.98
10
10
10
10
10
10
12.97
3.68
2.10
11.40―15.20
2.20―10.00
2.10
10
10
10
48
2
12.37
5.06―19.68
10
10
3.64
2.00―18.40
10
54
72
0
0
―
―
―
―
10
10
10
10
3.57
2.69
2.10―16.70
2.00―8.90
10
10
isolates tested
性シグナルを認め,それ以降の遅延では陽性シグ
S. aureus 10 試 料 に 対 し BacT!
ALERT 3D sys-
ナ ル を 示 す 試 料 は 認 め ら れ な か っ た.BacT!
tem は遅延時間の経過に伴って陽性シグナルまで
ALERT 3D system においては前 3 菌種と同じ成
の時間が短くなる傾向が見られたが,いずれの遅
績で,24 時間以上の遅延により陽性シグナルまで
延によっても陽性シグナルを認めた.BACTEC
の平均時間は 2∼4 時間程度と短縮されるが,いず
9240 system では 48 時間の遅延までは 10 試料全
れのポイントにおいてもシグナルを認め,陽性と
て陽性シグナルを示したが,それ以降 54 時間では
判定された.これら 4 菌種は BACTEC 9240 sys-
3 試料,72 時間では 8 試料が陽性シグナルを示さ
tem,BacT!
ALERT 3D system のいず れ の ボ ト
ず陰性と判定された.
ルからもサブカルチャーにより菌の発育を認め
た.
S. epidermidis に対しては両システムにおいて
遅延の影響はほとんど見られず BACTEC 9240
2.グラム陽性球菌の検出
system の 72 時間の遅延で 1 試料のみ陽性シグナ
グラム陽性球菌 5 菌種における成績を Table 2
ルが認められなかった.
に示した.
しかし E. faecalis においては BacT!
ALERT 3D
前述の腸内細菌群の成績に比べ全般的に遅延の
system においても 48 時間以上の遅延によって陽
影響は少なかったが,BACTEC 9240 system は明
性シグナルを示さず,48 時間で 3 試料,54 時間で
らかに遅延の影響が認められた.
1 試料,72 時間で 3 試料陰性と判定された.BAC-
平成16年11月20日
962
小林
寅" 他
Table 2 Time to detection of gram positive cocci at each time point
BACTEC 9240 system
Strain tested
Staphylococcus
aureus
Staphylococcus
epidermidis
Enterococcus
faecalis
Streptococcus
mitis **
Streptococcus
equisimilis**
mean
range
No. of
subculture
positives
mean
range
No. of
subculture
positives
0
10
14.83
11.60―17.76
10
10
16.84
13.60―19.30
10
24
42
10
10
5.67
2.58
2.53―12.40
1.28―5.86
10
10
10
10
6.92
4.38
4.80―10.70
3.70―6.40
10
10
48
10
1.88
0.88―4.77
10
10
3.36
2.00―4.70
10
54
7
6.07
1.17―12.00
10
10
3.06
2.10―4.30
10
72
2
1.87
1.52―2.21
10
10
2.49
2.10―4.30
10
0
10
42.63
16.65―97.88
10
10
21.52
19.30―27.60
10
24
10
33.00
7.00―109.30
10
10
13.28
9.10―17.60
10
42
10
19.37
2.00―39.44
10
10
7.85
4.40―12.30
10
48
54
72
10
10
9
21.22
22.74
14.24
2.00―56.71
1.20―57.10
1.17―54.51
10
10
10
10
10
10
6.86
6.18
4.01
4.30―11.00
4.00―10.50
2.10―7.00
10
10
10
0
24
42
10
10
5
12.46
4.73
17.37
10.99―16.16
0.83―34.03
12.12―35.67
10
10
10
10
10
10
18.00
5.65
3.15
18.00
4.00―18.00
2.50―5.00
10
10
10
48
54
72
4
5
0
24.69
17.79
―
9.73―49.76
6.17―28.04
―
10
10
10
7
9
7
2.21
2.16
2.17
2.00―3.50
2.10―2.30
2.00―2.30
10
10
10
Delay
No. of
time(h) positives*
Time to detection(h)
BacT/Alert 3D system
No. of
positives
Time to detection(h)
0
3
21.24
16.60―28.94
3
5
24.98
16.60―33.20
5
24
4
39.98
10.86―89.86
4
5
19.46
10.70―39.50
5
42
48
2
2
13.64
45.74
7.86―19.41
6.52―84.96
1
1
5
5
19.74
14.92
7.20―52.80
5.10―36.50
5
5
54
2
3.51
1.01―6.01
1
4
16.25
7.00―27.90
4
72
1
3.29
3.29
1
4
6.85
3.90―12.90
4
0
24
42
48
5
5
2
2
11.48
2.59
1.65
1.68
10.61―12.11
0.89―3.57
1.49―1.81
1.07―2.29
5
5
5
5
5
5
3
2
13.92
4.00
3.93
4.10
13.30―14.70
3.80―4.30
3.70―4.20
4.00―4.20
5
5
3
3
54
72
0
0
―
―
―
―
5
5
0
0
―
―
―
―
1
2
*
:Ten isolates tested
:Five isolates tested
**
TEC 9240 system では遅延の影響はより顕著で,
tem では 5 日間培養後のサブカルチャーでも試験
42∼54 時間の遅延により 5∼6 試料に陽性シグナ
菌が発育しない例が認められ,接種後直ちに培養
ルを認めず,72 時間の遅延では全試料陽性シグナ
開始した 0 ポイントで 2 試料,24 時間の遅延では
ルを示さず陰性と判定された.これら 3 菌種はサ
1 試料,42 時間以上の遅延で 4 試料の発育は認め
ブカルチャーによっていずれのボトルからも接種
なかった.BACTEC 9240 system における自動判
した菌が検出された.
定では 0 ポイント,24 および 72 時間の遅延では
S. mitis 5 試 料 に お い て BacT!
ALERT 3D sys-
サブカルチャーの結果と同様であったが,42∼54
tem は 48 時間の遅延まで 5 試料全て陽性シグナ
時間のポイントでは 5 試料中 2 試料が陽性シグナ
ルを示したが,54 時間以降 1 試料は陰性と判定さ
ルを示した.
れた.この 1 試料はサブカルチャーによっても菌
S. equisimilis では BacT!ALERT 3D system に
の発育は認められなかった.BACTEC 9240 sys-
お い て 42 時 間 以 上 の 遅 延 に よ っ て サ ブ カ ル
感染症学雑誌
第78巻
第11号
血液培養瓶装填遅延の自動判定への影響
963
Table 3 Time to detection of NFR(Non glucose fermentative rod)
, C. parapsilosis and B. fragilis at each time
point
BACTEC 9240 system
Strain
tested
Delay
No. of
time(h) positives*
Pseudomonas
aeruginosa
Acinetobacter
calcoaceticus
Candida
parapsilosis
Bacteroides
fragilis
*:Ten
Time to detection(h)
BacT/Alert 3D system
mean
range
No. of
subculture
positives
No. of
positives
Time to detection(h)
mean
range
No. of
subculture
positives
0
10
16.53
15.07―19.34
10
10
17.78
16.50―22.20
10
24
10
4.88
3.35―8.58
10
10
6.97
5.10―11.50
10
42
48
5
3
2.94
6.81
1.67―3.51
0.70―19.02
10
10
10
10
3.80
3.82
3.70―4.20
3.70―4.50
10
10
54
2
0.67
0.67
10
5
4.26
4.10―4.40
10
72
4
0.67
0.67
10
1
3.80
3.80
10
0
10
16.74
10.97―20.50
10
10
24.06
12.80 ―35.30
10
24
10
4.20
1.41―12.69
10
9
9.87
4.20―16.00
10
42
48
54
6
8
6
13.13
9.59
11.87
1.98―19.79
0.67―19.03
0.67―19.07
10
10
10
7
6
5
4.80
5.22
5.70
3.70―6.90
3.70―11.10
3.70―10.50
10
10
10
72
5
8.85
0.73―18.84
10
4
5.43
3.80―9.60
10
0
24
42
48
10
10
10
9
36.87
18.58
11.45
8.98
25.74―44.08
7.69―27.61
3.65―19.01
3.61―16.55
10
10
10
9
10
10
9
10
41.49
21.78
13.52
11.84
29.50 ―47.90
13.80―26.40
9.50―18.10
7.80―15.60
10
10
9
10
54
72
10
9
8.20
7.32
3.50―24.97
3.57―19.06
10
10
10
10
10.07
6.47
4.40―14.00
4.40―8.90
10
10
0
24
10
10
27.08
18.19
24.25―30.15
14.05―24.83
10
10
8
9
84.00
73.33
62.40 ―120.00
52.80―98.40
10
10
42
48
54
10
10
10
15.44
12.10
27.76
9.80―24.96
4.57―43.43
3.50―91.80
10
10
10
10
10
10
72.29
75.79
63.89
43.70―120.00
42.70―120.00
41.20―117.60
10
10
10
72
9
54.89
12.50―92.86
10
10
59.61
29.10―120.00
10
isolates tested
チャーが陰性化する現象が認められた.42 および
48 時間の遅延によって 5 試料中 2 試料はサブカ
ルチャー陰性で 54 および 72 時間では 4 試料およ
3.ブドウ糖非発酵菌,C. parapsilosis,B. fragilis
の検出
ブドウ糖非発酵菌 2 菌種(P. aeruginosa,A. cal-
び 3 試料サブカルチャーで菌の発育を認めなかっ
coaceticus ),C. parapsilosis ,B . fragilis の成績を
た.同機器による自動判定では 42 時間の遅延で 5
Table 3 に示した.
試料中 2 試料,48 時間で 3 試料,それ以降は全試
P. aeruginosa に対して BacT!ALERT 3D sys-
料陽性シグナルを認めなかった.BACTEC 9240
tem は 54 時間以上の遅延で,BACTEC 9240 sys-
system で は BacT!
ALERT 3D system の サ ブ カ
tem は 42 時間以上の遅延で自動判定に影響が見
ルチャーの結果と異なり,いずれのポイントにお
られた.BacT!
ALERT 3D system では 54 時間の
いても全試料の発育が認められた.しかし同機器
遅延で 10 試料中 5 試料,72 時間では 9 試料が陽
による判定では 42,48 時間の遅延によって 5 試
性シグナルを示さなかった.BACTEC 9240 sys-
料中 3 試料,54 時間以上の遅延で全試料陽性シグ
tem では 42 時間の遅延で 10 試料中 5 試料,以降
ナルを認めず,陰性となった.
48,54,72 時間で 7 試料,8 試料,6 試料と半数以
上が陽性シグナルを示さず陰性と判定された.
平成16年11月20日
964
小林
A. calcoaceticus においては両システムともに遅
延時間の経過とともに陰性と判定される株が増加
寅" 他
いち早く起炎菌を特定し,適切な抗菌化学療法を
行う事は救命への重要な初期 step である.
する傾向にあった.BACTEC 9240 system では 24
敗血症において当該患者血液より起炎菌を培養
時間の遅延では全試料陽性シグナルを示し,その
し,同定する作業は診断への gold standard とさ
後 42 時間で 4 試料,48 時間で 2 試料,54 時間で
れている.血液培養には患者より採取した血液を
4 試料,72 時間で 5 試料が陽性シグナルを示さな
専用の培養ボトルに注入し,培養する事が標準と
かった.BacT!
ALERT 3D system では 24 時間の
され,特に 1987 年以降自動培養装置による連続振
遅延で 1 試料,陽性シグナルを認めず,その後順
盪監視培養が可能となり,検出までの時間,検出
次シグナルを示さなかった試料が増加し,72 時間
率の向上に大きく貢献した.
の遅延では 6 試料が陰性と判定された.これらの
他方,近年の我が国の医療環境の急激な変化に
ブドウ糖非発酵菌 2 菌種のサブカルチャーは全て
伴い,院内にて実施されていた臨床検査はコスト
陽性であった.
などの問題から,外注機関等へアウトソーシング
酵母様真菌の中でも血液検体から分離頻度の高
されるケースも多く見られる.特に細菌検査は我
い C. parapsilosis に対しては両システムにおいて
が国の診療報酬制度とは見合わず極めてコスト比
一部のポイントで 1 試料に陽性シグナルを示さな
率も高い事から,優先的に外注化される傾向にあ
い試料 が 認 め ら れ た が,BACTEC 9240 system
る.緊急検査の一つである血液培養も例外ではな
の 48 時 間,BacT!
ALERT 3D system で は 42 時
く検体の採取,培養ボトルへの注入まで行われ,
間の遅延を除きサブカルチャーは陽性であった.
その後輸送され外注機関にて自動機器による培養
C. parapsilosis には両システムともに遅延の影響
が開始されるのが一般的である.この際,血液を
はほとんどなかった.
培養ボトルに注入し,培養が開始されるまでに一
嫌気性菌の B. fragilis に対しては両システムと
定時間のタイムラグが生じる事になる.Chapin3)
もに比較的遅延の影響は少なかった.BACTEC
らは 1996 年にこのような培養開始までの装填遅
9240 system においては遅延 54 時間まで全試料
延が自動機器による判定に影響を及ぼし,偽陰性
陽性シグナルを示し 72 時間でも 1 試料が陽性シ
化する事を指摘している.American Society for
グ ナ ル を 認 め な か っ た の み で あ っ た.BacT!
Microbiology の Procedure Handbook1)に よ る と
ALERT 3D system では 42∼72 時間まで の 遅 延
自動機器による培養は 5 日間のモニタリングに
で全試料陽性シグナルを認めたが 0 ポイントで 2
よってサブカルチャーは不要としている.しかし,
試料,24 時間で 1 試料陽性シグナルを示さなかっ
本 Manual は装填遅延の問題には詳しく触れてい
た.本菌はサブカルチャーによっていずれのボト
ない.また,自動機器の仕様書にもこのような問
ルからも検出された.
題についての notice はなく,どれくらいまでの装
考
察
填遅延であれば許容されるのか明らかになってい
敗血症は感染症に起因する重篤な状態を表す疾
ない.各種血液培養の検出までの時間や検出力の
患である.1991 年米国で全身性炎症反応症候群
比較については多くの報告がある4)∼6)が,装填遅延
( Systemic inflammatory response syndrome ,
に関して指摘している報告はごく僅かである7).
2)
SIRS)という病態概念が提唱された .これに
しかし,これらの報告は一つの機種における検討
よって感染症によって引き起こされる SIRS が敗
や異なった臨床検体を用いた多種成績で,同一サ
血症と定義されるようになった.すなわち,炎症
ンプルによる比較例ではない.
を伴う臓器局所または複数の部位からの起炎菌が
今回我々は我が国で血液培養の自動機器として
生体防御作用を超え血液に流れ込んだ現象と考え
主に利用されている 2 機種における同一試料を用
る.このことから生体は極めて危険な状態で生死
いた装填遅延の影響を詳細に検討した.その結果,
の境界に置かれていると言っても過言ではない.
今回用いた BACTEC 9240 system および BacT!
感染症学雑誌
第78巻
第11号
血液培養瓶装填遅延の自動判定への影響
ALERT 3D system の 2 機種間で顕著な差異を認
965
ルを導き出したものと考える.
めた.BACTEC 9240 system は BacT!
ALERT 3D
ま た,今 回 の 個 々 の 実 験 成 績 か ら BACTEC
system に比べ,装填遅延の影響を強く受けること
9240 system の陽性シグナルが示された例では,
が判明した.特に腸内細菌の多くは,早い事例で
その判定までの時間が培養ボトルを装填してから
は 24 時間の装填遅延によって自動機器による判
の数時間と極めて短い時間であることがわかる.
定で陽性シグナルが示されず陰性化する試料も認
すなわち,このことは BACTEC 9240 system の培
められた.42 時間の装填遅延ではより顕著で,
養ボトルの培地組成が試験菌の発育に好適で,優
E. faecalis ,P. aeruginosa ,A. calcoaceticus にまで
れた発育支持力を有するものと推測される.逆に
影響が見られた.一方,同条件で検討した BacT!
このような優れた発育支持力が装填遅延にも大き
ALERT 3D system はほとんど装填遅延の影響は
く影響をもたらしたものと考えられる.この事は
見られず A. calcoaceticus に装填遅延の時間が長く
装填遅延がほとんどない病院内での血液培養には
なるにつれて陰性化する試料が多く認められた.
優れた発育支持力を発揮し,検出力へ大きく貢献
自動血液培養装置の検出原理は,培養ボトル内に
するであろう.しかし,冒頭にも述べた通り,医
おける微生物の増殖に伴ってボトル内の CO2 量
療機関のアウトソーシング施策により,臨床検査,
や酸素消費量の変化をプログラム化されたアルゴ
特に検体検査の外注機関での測定は免れない.検
リズムで捕らえ,微生物の発育を判定する原理が
体を提出する側も受け取る側もこれらの自動機器
一般的に用いられている.今回の成績からほとん
の性能を十分に理解して取扱う必要がある.血液
どの培養ボトルよりサブカルチャーによって試験
培養には使用するボトルの培地組成,ガス組成,
菌が回収されている事から,培養ボトル内におけ
装置への装填するまでの時間,温度などが影響し,
る発育の問題ではなく,検出系の違いが影響した
患者検体では抗菌薬投与の有無,抗菌薬除去剤の
ものと考える.
種類,菌表層に受けたダメージなどが複雑に絡み
今回,著しく影響を受けた BACTEC 9240 sys-
検査成績を左右する.血液培養機器を扱う製造
tem の検出原理は微生物が発育に伴い産生した
メーカーはこれらの背景を十分考慮の上,開発さ
CO2 により CO2 センサーが蛍光を発し,その蛍光
れる事を望むが,このような血液培養等の緊急検
強度の経時的変化をもとに判定するものである.
査はせめて院内にて実施されるべき検査であると
現在採用されているアルゴリズム kinetic DVE は
考える.
ボトル装填時の蛍光強度を初期値とし,蛍光強度
に一定の変化があった場合に陽性と判定する.本
法は従来利用されてきた,ボトルに設定された初
期値に対する蛍光強度の変化から陽性と判定する
アルゴリズムの Threshold DVE に比べ,微妙な
増殖 curve を捕らえる事から検出までの時間が
短縮され,指摘されていた偽陰性が少なくなる利
点を有している4).しかし今回の実験結果からは
装填遅延によって菌の発育が進行した場合,逆に
CO2 の変化量を読みとれず偽陰性化してしまう.
一方,対照として用 い た BacT!
ALERT 3D system の 検 出 系 は CO2 絶 対 量,CO2 産 生 量,CO2
加速度変化の 3 つのアルゴリズムより判定を行
う8).本機に偽陰性が少なかった理由としては 3
つの検出系のうち絶対量による検出が陽性シグナ
平成16年11月20日
文
献
1)York MK:Aerobic bacteriology. Blood culture.
In:Isenberg HD, ed. Clinical microbiology procedures handbook. 2 nd ed . American Society for
Microbiology, Washington DC, 2004;3. 4. 1. 1―3.
4. 3. 5.
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critical care medicine consensus conference :
Definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis.
Crit Care Med 1992;20:864―74.
3)Chapin K, Lauderdale TL:Comparison of Bactec
9240 and Difco ESP blood culture systems for detection of organisms from vials whose entry was
delayed. J Clin Microbiol 1996;34:543―9.
4)Lelievre H, Gimenez M, Vandenesch F, Reinhardt
A, Lenhardt D, Just HM, et al.:Multicenter clinical comparison of resin-containing bottles with
966
小林
standard aerobic and anaerobic bottles for culture of microorganisms from blood. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1997;16:669―74.
5)Pohlman JK, Kirkley BA, Easley KA, Basille BA,
Washington JA:Controlled clinical evaluation of
BACTEC Plus Aerobic!F and BacT!Alert Aerobic FAN bottles for detection of bloodstream infections. J Clin Microbiol 1995;33:2856―8.
6)McDonald LC, Weinstein MP, Fune J, Mirrett S,
Reimer LG, Reller LB:Controlled comparison of
寅" 他
BacT!ALERT FAN aerobic medium and BACTEC fungal blood culture medium for detection
of fungemia. J Clin Microbiol 2001;39:622―4.
7)川上小夜子,斧 康雄,宮澤幸久:全自動血液培
養装置へのボトルセットの遅れが微生物の検出
に及ぼす影響について.日本臨床微生物学雑誌
2002;12:86―92.
8)小林 武:全自動血液培養・抗酸菌培養検査装
置「バクテアラート 3D」.生物試料分析 2000;
23:319―24.
Effect of Delay of Blood Cultures on Positive Detection by Automated Blood Culture System
Intetsu KOBAYASHI1), Mariko YAMAMOTO1), Miyuki HASEGAWA1),
Yumie SATO1), Utsuki UCHINO1)& Akihiro KANEKO2)
1)
Mitsubishi Kagaku Bio-Clinical Laboratories, Inc., Tokyo Japan
Department of Oral Surgery, School of Medicine, Tokai University, Kanagawa, Japan
2)
The effect of entry delayed blood culture bottles until the start of incubation for mechanical detection of organism were compared using 2 major blood culture systems;BACTEC 9240 system
and BacT!
ALERT 3D system.
Total of 13 bacterial strains;5 gram-positive cocci, 7 gram-negative bacilli and Candida parapsilosis which were isolated mainly from blood cultures were used as the test strains. BACTEC 92F, 93F
and BacT!ALERT FA, FN bottles were used as the blood culture bottles. All the bottles inoculated
with the test strains were incubated and evaluated immediately after standing at room temperature
for 24, 42, 48, 54 or 72 hours, using the respective automated blood culture systems. All the bottles
were subcultured.
The effect of entry delay the blood culture bottles for the mechanical detection was observed in
many gram-negative organisms in BACTEC 9240 system. The blood cultures were evaluated not to
be positive in 4 of the 10 samples on delaying for 24 hours or in any of the samples on delaying for 42
hours in the BACTEC 92F bottles inoculated with Escherichia coli. In Serratia marcescens, the blood cultures were evaluated not to be positive in 5 of the 10 samples on delaying for 24 hours or in any of the
samples on delaying for 42 hours in the BACTEC 92F bottles. In Klebsiella pneumoniae , the blood cultures were evaluated not to be positive in 9 of the 10 samples on delaying for 42 hours. In Enterococcus
faecalis, Pseudomonas aeruginosa and Proteus mirabilis, the blood cultures were evaluated not to be positive in 5―6 of the 10 samples on delaying for 42 hours. On the other hand, the blood cultures were
evaluated to be positive in most of the samples of Acinetobacter calcoaceticus(except 3 of the 10 samples which were evaluated not to be positive)on delaying for 42 hours in BacT!ALERT 3 D system.
The samples except part of Streptococcus spp. were detected by subculture in both the bottles.
These results indicate that the delayed time of blood culture bottles before inoculation with the
test bacterial samples affects the positive detection of blood cultures markedly in the blood culture
system. Therefore, the immediate incubation was considered to be necessary.
感染症学雑誌
第78巻
第11号