広域圏における人口減少と産業及び生活基盤に関する

平成 24 年度
広域圏における人口減少と産業及び
生活基盤に関する基礎調査
報 告 書
(概要)
北海道開発局 開発調査課
Ⅰ.調査概要
(1)調査目的
北海道においては、各市町村が基幹産業である農業等の振興を図り、都市からの移住促進
等にも努めているが、人口 3 万人以下の町村等はもとより、人口 10~3 万人の市等において
さえも人口減少や高齢化が著しく進展している。
このような地域においては、労働力の減少に伴う農業の持続力の低下が懸念されるととも
に、財政力の低下と人口密度の低下が相まって、生活基盤の維持管理のあり方について検討
が必要となる場合がある。
生活基盤の機能が低下すれば、人口流出を助長し労働力の減少が加速化されるおそれがあ
り、特に道路は農地への往来や収穫物の運搬など農業生産活動にも不可欠であるなど、人口
の減少・産業の維持・生活基盤の維持は密接に関連している。
いわゆる「平成の(市町村)大合併」が一段落した現下では、更なる人口減少が予測され
る北海道の農業地帯において、人口減少・高齢化に対応した地域社会の構築や圏域全体の活
性化を図り、安定した社会空間を地方圏に創出することなど「広域的な生活圏」の視点に立
ったまちづくりが必要と考えられている。
このため、本調査では、広域圏を視点とした施策立案の有用性を明らかにして、これから
のまちづくりの検討の一助とすることを目的とし、北海道の農業地帯において、生活圏を形
成している複数の市町村(以下「広域圏」という。)を対象として、人口減少、高齢化、農業
労働力及び生活基盤の維持について、相互の関係に留意しつつ、現状と課題を把握するもの
である。
(2)対象地域
本調査の対象地域は、以下の 2 広域圏(畑作地帯、酪農地帯)とする。
1)畑作地帯(富良野地域 1 市 3 町 1 村)
富良野市、上富良野町、中富良野町、南富良野町、占冠村
2)酪農地帯(宗谷地域 1 市 5 町 1 村)
稚内市、豊富町、浜頓別町、中頓別町、枝幸町、幌延町、猿払村
(3)調査の全体像
○ 基礎資料の収集及び整理
① 人口、農業等に係る基礎資料の収集及び整理
○ ヒアリング及びアンケート調査
② 市町村ヒアリング調査の整理
③ アンケート調査に係る整理及び分析
○ 総括
④ 総括
1.対象地域の人口等に関する考察
2.農業労働力についての考察
3.生活基盤の維持管理の方向性についての考察
4.生活基盤の整備に加えたソフト面からの考察
1
Ⅱ.基礎資料の収集及び整理
本章では、富良野地域及び宗谷地域における、集落等区分、人口、世帯、人口・世帯の動態、
農家、農業、生活基盤の各項目について、統計等から現状やこれまでの推移を整理した。
(1)集落等区分
集落等区分については、国勢調査小地域集計の町丁・字等区分を用いて、各広域圏を以下
の区分に整理した。
①主要都市の市街地区域
②主要都市の農村区域
③周辺町村の市街地区域
④周辺町村の農村区域
本調査における主要都市とは、広域圏において、商店、医療、教育、文化施設等が充実し、
周辺市町村等から通勤、通学、生活のための移動がなされる市町村とする。
なお、富良野地域及び宗谷地域における主要都市、周辺町村は以下のとおりである。
<富良野地域>
主要都市:富良野市
周辺町村:上富良野町、中富良野町、南富良野町、占冠村
<宗谷地域>
主要都市:稚内市
周辺町村:豊富町、浜頓別町、中頓別町、枝幸町、幌延町、猿払村
【市街地区域、農村区域とは】
本調査における市街地区域とは、
国勢調査小地域集計の町丁・字等区
分、農林業センサスの集落区分に関
わらず、それぞれの市町村において、
商店、教育施設、当該市町村の居住
者の住居等が集中する区域をいい、
農村区域とは、市街地区域以外の区
域をいう。このため、必ずしも 1 市
町村に市街地区域が一つとは限らな
い。
なお、各市町村の市街地区域と農
村区域の区分については、各市町村
に市街地区域の定義を説明し、市街
地区域と農村区域を分類するよう依
頼を行った。よって、本調査では、
これらの分類に基づき整理を行って
いる(図表Ⅱ-1及びⅡ-2参照)
。
また、本調査における市街地区域
と農村区域の名称は、平成 22 年国勢
調査の町丁・字名を基準に作成して
いる。しかし、国勢調査の町丁・字
別データは、平成 7 年より公表され
ているが、各調査年において一部の
図表Ⅱ-1
2
富良野地域の市街地区域の位置
町丁・字区分の変更が見られるた
め、各調査年の区分は完全には一
致しない。
さらに、調査年によっては、町
丁・字区分が細分化され、従来の
市街地区域の一部が農村区域に
分類されている場合があり、変更
のあった調査年を境にその前後
でデータが一致しない。しかし、
本調査では、この時系列データを
用いて、各種の考察を行う必要が
あることから、できる限り市街地
区域・農村区域の別に資料を作成
した。
図表Ⅱ-2
宗谷地域の市街地区域の位置
(2)人口
富良野地域及び宗谷地域の総人口は調査年ごとに減少しており、両地域共に65歳以上の人
口の割合が増え、高齢化が進んでいる。
総人口の増減については、国勢調査のあった平成17年と平成22年を比較すると、富良野地
域では2,410人、宗谷地域では4,110人が減少している(図表Ⅱ-3及びⅡ-4参照)。
また、市街地区域、農村区域別では、両地域共に市街地区域よりも農村区域において人口
が減少している。
さらに、65歳以上の人口については、平成22年において富良野地域では12,204人(26.8%)、
宗谷地域では16,514人(25.5%)となっており、両地域共に総人口に占める65歳以上の人口
の割合が高くなっている。
図表Ⅱ-3
60,000
50,000
52,632
7,297
50,293
49,862
8,673
10,439
40,000
30,000
35,669
33,255
20,000
31,776
富良野地域の総人口(年齢別、市街地区域・農村区域別)
47,899
11,604
29,531
45,489
12,204
27,258
33,258
34,158
34,519
33,594
4,909
6,338
7,527
8,239
22,642
22,359
21,757
20,608
10,000
15,704
3,742
4,101
10,553
9,653
8,365
7,647
6,764
6,020
5,707
5,461
5,235
4,745
2,637
9,417
2,186
H2
H7
H12
H17
H22
H7
H12
H17
H22
H7
H12
0
(人)
16,932
総数
市街地区域
0~14歳
15~64歳
13,380
11,895
4,077
7,774
1,529
H17
3,965
6,650
1,275
H22
農村区域
65歳以上
出典:総務省統計局「国勢調査」を基に作成
注:総人口に年齢不詳が含まれているため、総人口と年齢別人口の内訳の合計は一致しない場合がある。
3
図表Ⅱ-4
90000
80000
70000
81,160
9772
76,596
11,740
60000
宗谷地域の総人口(年齢別、市街地区域・農村区域別)
72,793
68,852
13,879
64,742
15,320
16,514
50000
40000
55477
51,830
30000
48,344
44,462
40,245
57,449
57,119
10,387
12,276
38,986
37,406
20000
10000
15911
13,026
10,570
9,070
7,983
H2
H7
H12
H17
H22
0
(人)
H7
54,455
13,704
34,017
8,076
7,437
6,734
H12
H17
H22
総数
15,344
3,492
9,358
2,494
H12
H7
市街地区域
0~14歳
15~64歳
11,733
3,044
7,056
1,633
H17
10,287
2,810
6,228
1,249
H22
農村区域
65歳以上
出典:総務省統計局「国勢調査」を基に作成
注:宗谷地域においては、平成 7 年の浜頓別町の人口が市街地区域と農村区域に分けられないことから、区域別の人口は記載していない。
(3)世帯
総世帯については、富良野地域は平成17年から、宗谷地域は平成12年から減少している(図
表Ⅱ-5参照)。
また、市街地区域、農村区域別では、両地域共に農村区域において減少傾向にある。さら
に、市街地区域の世帯数が総世帯数に占める割合は、平成22年で富良野地域は77.7%、宗谷
地域は86.5%となっており、宗谷地域の方が市街地区域における世帯数割合が高くなってい
る。
なお、高齢者(65歳以上)世帯員のみの世帯数は、いずれの地域においても調査年ごとに
高まっている(図表Ⅱ-6参照)。
図表Ⅱ-5
<富良野地域>
<宗谷地域>
20000
16,900
(世帯)
18,513
18,503
17,545
30000
18,356
28,277
28,777
(世帯)
4,362
4,971
15000
総世帯数
25000
4,085
29,211
28,996
28,198
5,191
4,149
3,816
24,020
24,847
24,382
H12
H17
H22
5,151
20000
15000
10000
14,151
13,532
12,394
14,271
10000
5000
5000
0
0
H2
H7
H12
市街地区域
H17
H2
H22
農村区域
H7
市街地区域
農村区域
出典:総務省統計局「国勢調査」を基に作成
図表Ⅱ-6
高齢者のみ世帯数
<富良野地域>
<宗谷地域>
4500
6,055
(世帯)
(世帯)
3,675
2,112
6000
940
5,191
5000
829
2,885
3000
1500
7000
4,221
4,372
4000
718
889
3,303
3000
1,503
2,846
3,281
2,358
5,304
4,447
2000
2,167
751
744
3,483
1000
0
H2
H7
H12
市街地区域
H17
0
H22
H2
農村区域
H7
H12
市街地区域
H17
H22
農村区域
出典:総務省統計局「国勢調査」を基に作成
4
(4)人口・世帯の動態
富良野地域の広域圏内の移動人口は、平成 24 年で 265 人となっている(図表Ⅱ-7参照)。
調査年によって変動が見られるが、周辺町村から主要都市(富良野市)への流入人口が流出
人口を上回っており、広域圏内では富良野市へ移動している傾向にあると考えられる。
また、宗谷地域の広域圏内の移動人口は、平成 24 年で 313 人となっている。調査年によっ
て変動が見られるが、主要都市(稚内市)の流入人口と流出人口は概ね同数であり、広域圏
内では稚内市へ移動しているとは言い難いと考えられる。さらに、広域圏外への流出人口及
び広域圏外からの流入人口については、富良野地域及び宗谷地域共に流出人口が多くなって
いる。
図表Ⅱ-7
広域圏内の移動人口
<富良野地域>
<宗谷地域>
(人)
350
303
300
250
(人)
303
5
22
31
450
68
218
11
25
14
64
200
89
150
48
78
100
50
218
7
22
14
256
19
27
13
33
15
67
53
54
77
127
265
207
207
9
25
10
13
24
52
67
108
256
69
265
12
34
18
28
350
18
300
64
250
74
200
150
50
121
94
80
50
0
流出
流入
流出
H20
流入
流出
H21
富良野市
上富良野町
流入
流出
H22
中富良野町
流入
H23
南富良野町
389
48
53
15
66
34
358
358
21
53
42
25
31
39
50
11
49
66
57
流出
59
69
60
63
52
42
405
52
40
16
29
49
16
48
16
24
405
356
356
35
61
39
15
19
54
52
18
35
45
19
46
84
313
313
43
39
28
26
38
57
24
60
62
27
65
53
100
127
68
66
389
75
142
67
400
51
39
37
41
127
124
98
100
流出
流入
142
140
119
109
78
98
流出
流入
0
流入
流出
H24
流入
H20
H21
稚内市
占冠村
流出
豊富町
流入
流出
H22
浜頓別町
流入
H23
中頓別町
枝幸町
H24
幌延町
猿払村
市町村からの聞き取りを基に作成
(5)農家
富良野地域及び宗谷地域の農家数(販売農家数)は減少しており(図表Ⅱ-8参照)、全世
帯数に占める農家数の割合(以下「農家割合」という。)も、両地域で減少傾向にある(後記
図表Ⅴ-3参照)。なお、平成22年の農家割合は、富良野地域で8.0%(農家数:1,473戸/全世
帯数:18,356戸)、宗谷地域で2.7%(農家数:772戸/全世帯数:28,198戸)となっている。
また、両地域の農業従事者数も減少しており(図表Ⅱ-9参照)、総人口に占める農業従事
者数の割合(以下「農業従事者割合」という。)も、両地域で減少傾向にある(後記図表Ⅴ-
4参照)。なお、平成22年の農業従事者割合は、富良野地域で9.3%(農業従事者:4,214人/
総人口:45,489人)、宗谷地域で3.3%(農業従事者:2,130人/総人口:64,742人)となって
いる。
図表Ⅱ-8
農家数(販売農家数)
<富良野地域>
<宗谷地域>
1,400
3,500
(戸)
3,079
3,000
1,332
(戸)
2,500
1,153
1,200
2,639
1,866
2,000
961
1,000
2,252
1,473
1,500
865
772
800
600
1,000
400
500
200
0
0
H2
H7
H12
H17
H22
H2
H7
H12
H17
H22
出典:農林水産省「農林業センサス」を基に作成
5
図表Ⅱ-9
農業従事者数
<富良野地域>
<宗谷地域>
10,000
(人)
5,000
9,002
(人)
1,515
3,995
7,521
4,000
7,500
674
6,545
1,523
1,643
5,000
3,313
3,000
5,341
694
4,214
1,551
2,279
2,000
7,487
1,277
2,130
557
436
1,722
1,694
H17
H22
3,321
5,998
2,500
2,780
692
2,621
4,902
2,086
1,000
3,790
2,937
0
0
H2
H7
15~64歳
H12
65歳以上
H17
H2
H22
H7
H12
15~64歳
65歳以上
出典:農林水産省「農林業センサス」を基に作成
(6)農業
富良野地域及び宗谷地域の耕地面積
は僅かに減少傾向にあるが、大きな変化
は見られない(図表Ⅱ-10参照)。
平成2年に対する平成22年の耕地面積
は 、 富 良 野 地 域 で は 0.96 ( H22 :
25,414ha/H2:26,582 ha)、宗谷地域で
は0.94(H22:62,290ha/H2:66,040ha)で
ある。また、田畑別で見ると、平成22年
において富良野地域は、耕地面積計に占
める田の割合は減少し、畑の割合が増加
している。なお、宗谷地域には田は無く、
畑のみとなっている。
図表Ⅱ-10
耕地面積(富良野地域)
30,000
(ha)
30,000
(ha)
26,582
26,295
26,582
26,080
26,295
26,080
25,681
25,681
25,414
25,414
20,000
20,000
16,772
16,696
16,772
16,694
16,696
16,694
17,095
17,095
17,088
17,088
10,000
10,000
9,776
9,595
9,776
9,400
9,595
9,400
8,540
8,540
8,340
8,340
0 0
H2H2
H7
H7
H12
H12
田
田
H17
H17
H22H22
畑
畑
出典:農林水産省「北海道農林水産統計年報」を基に作成
注:各数値については四捨五入されているため、合計と内訳の計が一致しない。
(7)生活基盤
富良野地域及び宗谷地域の道路実延長は、近年大きな変動は見られない(図表Ⅱ-11 参照)。
また、上水道等の水道普及率(現在給水人口/行政区域内総人口)についても、近年大きな
変動は見られず、平成 24 年 3 月末時点での水道普及率は、宗谷地域で 100%を超える自治体
も見受けられた。さらに、下水道等の汚水処理状況については、平成 23 年度の汚水処理人口
普及率が富良野地域で 80%程度、宗谷地域で 100%に近い割合の自治体も見受けられ、普及
率は概ね上昇傾向にある(図表Ⅱ-12 参照)。
図表Ⅱ-11 道路実延長(宗谷地域)
図表Ⅱ-12
汚水処理人口普及率(富良野地域)
単位:km
H18
H19
H20
H21
H22
稚内市
主要道路
232.6
232.6
238.7
238.7
238.7
豊富町
市町村道
主要道路
807.1
136.9
805.8
136.9
806.9
136.9
803.7
137.0
803.0
144.4
市町村道
354.0
354.1
354.3
351.5
351.9
主要道路
市町村道
75.1
260.3
75.2
260.3
75.2
260.3
75.2
266.1
75.2
266.1
浜頓別町
中頓別町
主要道路
74.3
74.3
74.3
74.4
74.4
枝幸町
市町村道
主要道路
196.6
189.3
197.4
189.3
201.9
189.3
201.9
189.1
201.8
189.3
市町村道
672.2
672.5
672.7
675.9
676.9
幌延町
主要道路
市町村道
124.5
275.6
124.5
275.5
124.5
275.5
124.5
276.1
129.2
276.2
猿払村
主要道路
市町村道
136.8
249.7
136.8
249.2
137.8
252.2
137.7
247.7
138.0
242.7
出典:国土交通省「道路統計年報」を基に作成
90.0%
85.0%
80.0%
75.0%
H19
富良野市
H20
上富良野町
H21
中富良野町
H22
南富良野町
H23
占冠村
出典:北海道建設部「北海道の下水道」を基に作成
注:一般国道、主要地方道(主要市道を含む。)及び一般都道府県道を主要
道路とし、これらの実延長の合計をもって主要道路実延長としている。
また、市町村道とは、市町村長が認定した市町村の区域内に存する道路
の実延長をいう。
6
注:各年度末の値である。
Ⅲ.市町村への聞き取り調査
本章では、富良野地域及び宗谷地域の各市町村へ実施した聞き取り調査について、以下のとお
り、項目別にその概要を整理した。
(1)「人口」に関する項目
人口に関する取組としては、人口減少を緩和するために、各市町村において様々な移住・
定住対策に取り組んでいる。例えば、移住希望者に対する各種助成制度や住宅情報の提供な
どの住宅支援を行っている自治体もある。その他としては、家具や電化製品を揃えた移住体
験住宅を設置し、都市部の人が生活を手軽に体験できる場を提供するといった移住体験制度、
空き家情報バンク制度、移住希望者に対する情報提供、酪農後継者の独身男女の豊かな出会
いの場を提供するイベントの開催等が行われており、このような取組によって、実際に移住
者を受け入れている自治体もある。また、人口減少の緩和はもとより、地域活性化に向けた
取組として、企業誘致による雇用の促進、移住者に対する起業支援、地元企業の新事業展開
への支援等を行っている自治体もある。
一方、移住体験については、人口増加に向けた取組としては必要と認識しているものの、
宿泊施設や住宅などの受け入れ施設がないため、実施までには至っていない自治体もある。
また、移住・定住対策よりも交流人口を増やすことに力を入れている自治体も見受けられる。
(2)「農業」に関する項目
①
新規就農増に向けた取組と実績
新規就農者、新規就農希望者への支援制度については、各自治体で補助金や奨励金による
支援、就業体験、新規就農支援に対する窓口の一本化など、多様な取組が行われている。
また、農村地域では、他の地域より高齢化が顕著であり、後継者不足による担い手の不在
を解消するため、新規就農者の育成を自治体自らが支援しているところも見受けられる。
しかしながら、新規就農においては、土地の確保や古い設備の更新等が課題であるため、
多様な支援制度があっても、それを活用している新規就農者が少ないのが現状である。
②
離農の実情
離農の実情としては、その要因の多くが農業従事者の高齢化、後継者の減少による労働力
不足である。その他の要因としては、経営状況の悪化、経営者の病気・死亡などである。
また、離農後の居住実態としては、引き続き今までの住居に住み続けている事例が多いも
のの、子がいる地域内や市街地区域に移転する人も見受けられる。
さらに、離農後の就業については、多くの場合、高齢のため就業していないが、一部、農
業生産法人の従業員や地元商店等に就業している場合もある。しかしながら、離農後の居住
や就業に対する公的支援については、ほとんど無いのが実情である。
③
通い作について
通い作が生じる理由としては、富良野地域では、主に経営規模拡大による農地の取得や畑
作農家が水田を求めたり、比較的標高の高い所で耕作している農家が平坦部に農地を求める
といった理由である。なお、離農に伴って農地を引き受け、通い作になる場合も見受けられ
る。
また、宗谷地域では、草地面積の拡大を図るために、離農後の土地を草地等で利用すると
いった理由である。
④
集乳経路の状況
集乳経路の状況としては、大規模農場では、集乳量が多量のため、近隣の農場とは別の集
乳車によって集乳が行われている。今後、農場の大規模化が更に進めば、1 農場ごとに集乳
車を運行する例が増えると思われる。なお、冬期間については、山間部を通る道路が通行止
7
めになるため、集乳ルートの変更が行われている地域もある。
(3)「生活基盤」に関する項目
①
道路について
道路としての利用形態等が無い場合、道路廃止の判断となるが、特に農村部においては、
農家の減少により沿道に住居が無く、生活道路としての利用形態が見受けられない路線があ
るものの、農業等の通い作などの利用形態がある以上、道路廃止は困難な状況であると回答
した自治体もある。
また、道路の除雪の要否判断については、概ね 10cm から 15cm の降雪量が除雪の要否判断
基準となっており、道路状況によっては柔軟に対応されている。なお、無除雪路線について
は、民家が無く、生活路線としての利用が無い道路や急勾配の路線で融雪の措置ができない
道路など除雪を行っていない道路もある。
さらに、道路の維持管理の今後の課題としては、交通インフラの老朽化、劣化について、
多くの自治体で課題として認識している一方、自治体単独の予算も減少し、財政上、十分な
予算確保が困難な状況となっている。また、道路の維持管理に精通した技術者の減少、近年
のゲリラ豪雨と呼ばれる大雨被害などの災害対策も今後の課題と認識している自治体がある。
なお、宗谷地域においては、農業機械の大型化により、過去に整備した路線の一部が大型
農業機械の走行や農作業に支障が生じている事例が見受けられるものの、再整備に要する費
用が膨大であり改善に至っていない自治体もある。
②
上下水道について
上水道の維持管理については、人口減少や景気低迷による基幹産業の不振により使用水量
が減少し、維持管理に必要な財源(給水収益等)の確保が今後の課題となっている。
また、上水道管等の老朽化による施設や機器等の更新の必要性について認識しているもの
の、維持管理に必要な経費は年々増加しており、これらに対応するための対策が必要と認識
している自治体もある。さらに、水道技術者の高齢化に伴う技術者の確保、継承が困難にな
っている自治体もある。
下水道の維持管理については、上水道と同様に、人口減少による料金収入の減少により、
維持管理に必要な財源の確保が今後の課題となっている。
また、下水道管等の老朽化による処理場施設や機器等の更新の必要性について認識してい
るものの、維持管理に必要な経費は年々増加していることから、計画的な設備更新の計画を
進める必要があると認識している自治体もある。
(4)その他
公的施設やサービスの廃止・休止・統合等については、少子高齢化、人口減少等の影響に
より、学校や集会場等の統廃合が目立つ結果となり、病院等の施設、公共交通についても、
同様の影響により、廃止若しくは統廃合となっている。
また、地域の課題としては、
・人口減少と高齢化により消防団員の確保が難しく、今後、分団の統合も議論される可能
性があるが、消防団は地域の防災を担う組織であり重要な課題であること。
・日用品(洋服、靴など)が地域内で手に入らないこと。
・働く場が地域にはなく、高校卒業後の人口流出が多いこと。
などの声があった。
なお、その他として、デマンド交通1の検討を行い、地元企業がタクシー事業を開業して、
乗合の許可を取得して運行を開始し、周辺自治体にも乗り入れを行っている事例も見受けら
れる。
1
電話予約など利用者のニーズに応じて柔軟な運行を行う公共交通の一形態。
8
Ⅳ.アンケート調査
本章では、富良野地域及び宗谷地域において、人口動態の要因、背景や道路の利用状況など
を把握するために実施したアンケート調査について、以下のとおり、調査概要とその結果を整
理した。なお、回収したアンケート調査票については、①居住地の集落等区分別、②農業経営
の有無別、③家族構成別の特性ごとに集計、分析を行った。
(1)アンケート調査概要
アンケート調査の概要を以下のとおり示す。
【アンケート名】 『地域と住まい及び道路の利用に関するアンケート』
【調査実施時期】 平成 25 年 1 月下旬~2 月中旬
【調査対象】
富良野地域及び宗谷地域において、世帯主を無作為に抽出した
3,500 世帯
【調査内容】
・現在の居住地を決定した要因、背景
・現在の居住地に対する評価、将来の転居の要因、背景
・目的別、時期(夏期・冬期)別の道路の利用状況
等
【調査方法】
郵送調査
【回収結果】
回収数:1,240 件
(2)アンケート調査結果
①
富良野地域
図表Ⅳ-1 過去 10 年以内の転居実態の割合
【世帯や現在の住まいについて】
集落等区分別の過去 10 年以内の転居実態は、
富良野市
38.6%
61.4%
富良野市及び周辺町村の市街地区域において 市街地区域
転居の実態が多く、農村区域の割合と比べ、2
富良野市
16.2%
83.8%
倍以上の差が見られる(図表Ⅳ-1参照)。
農村区域
転居あり
転居前の居住地としては、周辺町村の農村
転居なし
周辺町村
40.4%
59.6%
区域で、北海道外からの転居が他の区域に比 市街地区域
べて高く、単独世帯では、同一広域圏からの
周辺町村
20.2%
79.8%
移動のほか、北海道内の市町村からの転居が
農村区域
高くなっている。
0%
20%
40%
60%
80%
100%
転居の要因としては、
「転勤・転職」
、
「結婚、
家族の増加・成長」によるものが多い。なお、件数としては少ないが、
「離農」を転居の要因と
するものとして、富良野市及び周辺町村の市街地区域で見られた。
現在の居住地を選択し
図表Ⅳ-2 現在の居住地を選択した要因・背景
夫婦と
項 目
単独世帯 夫婦2人
親と同居 三世代
た要因・背景としては、全
子供
仕事:就業先(収入を得る機会)の有無
3位
3位
14位
2位
2位
2位
2位
2位
5位
2位
ての世帯で「土地や家の価 仕事:仕事先、就業先からの近さ
人 :親や子供、親戚の家の近さ
5位
7位
13位
4位
4位
15位
18位
20位
20位
20位
格、家賃・駐車場の有無な 人 :親しい知人・友人の家の近さ
生活:地域の治安・防災
13位
14位
6位
14位
6位
生活:子供の学校の近さ
19位
20位
3位
18位
11位
ど」を最も重視したと回答 生活:買い物する場所
4位
5位
4位
16位
15位
8位
12位
8位
14位
15位
している。次に、
「仕事先、 生活:医療機関の充実
生活:通院の便利さ
11位
15位
10位
11位
15位
22位
16位
21位
6位
20位
就業先からの近さ」や「就 生活:高齢者福祉の充実
生活:児童福祉の充実
21位
22位
12位
21位
15位
生活:公園や文化施設などの施設
17位
17位
9位
22位
15位
業先(収入を得る機会)の 生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
7位
9位
15位
11位
20位
生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
6位
6位
7位
6位
6位
12位
13位
17位
16位
8位
有無」等、就業先に関する 生活:水が美味しいなど、上水道が整備されている
生活:下水道が整備されている
9位
10位
19位
10位
13位
10位
4位
5位
8位
8位
項目が重視されている(図 生活:自然環境・景観
生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
16位
8位
18位
8位
13位
生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
1位
1位
1位
1位
1位
表Ⅳ-2参照)。
その他:先代から住んでいる
20位
19位
22位
3位
4位
その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
その他:地域のイメージ
9
18位
14位
21位
11位
16位
11位
18位
11位
11位
8位
一方、評価の低い項目としては、
「親しい知人・友人の家の近さ」、
「高齢者福祉の充実」、
「児
童福祉の充実」、
「自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)」が挙げられ、どの世
帯とも評価が低くなっている。また、親と同居世帯、三世代同居世帯では、
「先代から住んでい
る」が重視される傾向にあるものの、その他 3 つの世帯では低い評価となっており、特徴的な
傾向と言える。
【居住地域や環境について】
図表Ⅳ-3 現在の居住地に関する評価
現在の居住地に関する評
夫婦と
項 目
単独世帯 夫婦2人
親と同居 三世代
子供
価としては、全ての世帯で 仕事:就業先(収入を得る機会)がある
12位
16位
14位
9位
13位
仕事:仕事先、就業先との距離
2位
6位
7位
3位
5位
「自然環境・景観」が第 1 位 人 :親や子供、親戚との距離
10位
7位
5位
4位
3位
人 :親しい知人・友人の家との距離
10位
9位
9位
5位
7位
6位
3位
2位
6位
4位
の評価となっており、満足度 生活:地域の治安・防災
生活:子供の学校までの距離
9位
10位
4位
7位
10位
15位
13位
12位
12位
19位
が 高 い 項 目 と な っ て い る 。 生活:買い物する場所
生活:医療機関の充実
20位
20位
20位
20位
17位
生活:通院の便利さ
21位
19位
19位
18位
20位
(図表Ⅳ-3参照)。
生活:高齢者福祉の充実
17位
18位
18位
15位
15位
生活:児童福祉の充実
16位
15位
13位
17位
14位
また、「上水道の整備と水 生活:公園や文化施設などの施設
18位
14位
16位
16位
16位
19位
21位
21位
21位
21位
の美味しさ」に対する評価も 生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
8位
17位
11位
13位
9位
生活:上水道の整備と水の美味しさ
5位
2位
3位
8位
2位
高くなっているものの、「下 生活:下水道の整備
3位
4位
6位
10位
11位
生活:自然環境・景観
1位
1位
1位
1位
1位
13位
11位
17位
19位
18位
水道の整備」については、農 生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
7位
8位
10位
11位
8位
14位
12位
15位
14位
12位
村区域や農家世帯などで評 その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
その他:地域のイメージ
4位
5位
8位
2位
6位
価が低い傾向にあり、農村区
域における生活環境として下水道の満足度が低くなっている。
さらに、
「医療機関の充実」、
「通院の便利さ」、
「高齢者福祉の充実」、
「鉄道・バスなど交通機
関の便利さ」の 4 項目については、全体的に評価が低い項目となっている。
なお、
「地域のイメージ」に対する評価については、各世帯で高く評価されているが、将来の
転居先を決める要因としては中位から下位の評価となっている。
【将来の転居について】
将来、居住地を変更する可能性がある世帯の転居理由としては、富良野市及び周辺町村の市
街地区域に住む世帯で「転勤・転職」の割合が高く、農家世帯では「離農」の割合が高くなる
傾向にある。
また、その時にならないとわからないものの、将来転居する要因になり得るものとしては、
「年をとって、生活に不便や不安が増す」や「家族との死別」によるものが高い割合となって
いるほか、
「公共料金や税金が増えたから」との回答も将来の転居要因として高い割合を示して
いる。さらに、将来、居住地を変更する場合の居住地選択の要因・背景としては、
「道路・除雪
など自動車での移動の便利さ」や「水が美味しいなど、上水道が整備されている」について、
ほぼ全ての世帯構成で評価が高くなっているほか、
「医療機関の充実」
、
「通院の便利さ」、
「買い
物する場所」などの日常生活や医療に関する項目についても意識が高くなっている。
図表Ⅳ-4
道路の利用状況(通院・介護)
月2~3回程度利用
100%
80%
60%
徒歩
自転車
40%
自家用車
バス
その他
20%
三世代
冬期
親と同居
夫婦と子供
夫婦2人
単独世帯
10
三世代
夏期
親と同居
夫婦と子供
夫婦2人
0%
単独世帯
【道路の利用状況について】
道路の利用状況については、
全ての世帯構成において自家
用車の利用が最も高い割合を
占めており、日常生活には欠
かせないものとなっている
(図表Ⅳ-4参照)。
また、札幌市や旭川市など
の都市部等への移動に使う交
通手段としても、自家用車の
割合が高くなっている。なお、
冬期は自家用車の利用が減少
し、JRや都市間バスの利用
が増える傾向が見られる。
②
宗谷地域
図表Ⅳ-5
過去 10 年以内の転居実態の割合
【世帯や現在の住まいについて】
集落等区分別の過去 10 年以内の転居実態は、
稚内市
37.2%
62.8%
市街地区域
稚内市及び周辺町村の市街地区域において転居
稚内市
の実態が多く、農村区域の割合に比べ、2 倍程度
16.7%
83.3%
農村区域
の差が見られる(図表Ⅳ-5参照)
。
転居あり
転居なし
転居前の居住地については、稚内市や周辺町村 周辺町村
32.2%
67.8%
市街地区域
の市街地区域において、同一広域圏からの転居の
周辺町村
割合が高くなっている。
18.1%
81.9%
農村区域
転居の要因としては、「転勤・転職」、「結婚、
0%
20%
40%
60%
80%
100%
家族の増加・成長」によるものが多い。なお、件
数としては少ないが、「就農」を転居の要因とするものとして、稚内市及び周辺町村の農村区域
で見られた。
図表Ⅳ-6 現在の居住地を選択した要因・背景
現在の居住地を選択した
夫婦と
項 目
単独世帯 夫婦2人
親と同居 三世代
子供
要因・背景としては、三世 仕事:就業先(収入を得る機会)の有無
2位
5位
6位
4位
1位
3位
2位
3位
8位
3位
代同居世帯を除く 4 つの世 仕事:仕事先、就業先からの近さ
人 :親や子供、親戚の家の近さ
12位
16位
10位
16位
2位
人 :親しい知人・友人の家の近さ
16位
20位
20位
20位
7位
帯で「土地や家の価格、家 生活:地域の治安・防災
11位
12位
8位
11位
4位
生活:子供の学校の近さ
21位
21位
2位
10位
5位
賃・駐車場の有無など」が 生活:買い物する場所
8位
3位
4位
2位
6位
生活:医療機関の充実
15位
8位
7位
6位
9位
第 1 位となっており、三世 生活:通院の便利さ
14位
11位
12位
5位
11位
生活:高齢者福祉の充実
19位
17位
22位
12位
13位
18位
19位
15位
17位
12位
代同居世帯では第 10 位と 生活:児童福祉の充実
生活:公園や文化施設などの施設
17位
15位
18位
18位
15位
5位
10位
13位
15位
14位
評価が低くなっている。次 生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
4位
9位
5位
3位
8位
9位
13位
14位
19位
16位
に、
「仕事先、就業先からの 生活:水が美味しいなど、上水道が整備されている
生活:下水道が整備されている
10位
7位
11位
14位
18位
生活:自然環境・景観
7位
4位
9位
7位
17位
近さ」や「就業先(収入を 生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
6位
6位
17位
9位
19位
生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
1位
1位
1位
1位
10位
得る機会)の有無」等、就 その他:先代から住んでいる
22位
22位
21位
21位
20位
その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
20位
18位
19位
22位
22位
業先に関する項目が重視さ その他:地域のイメージ
13位
14位
16位
13位
21位
れている(図表Ⅳ-6参照)。
また、三世代同居世帯において評価の高い項目としては、
「就業先(収入を得る機会)の有無」
や「親や子供、親戚の家の近さ」などであり、特に「親や子供、親戚の家の近さ」は、他の世帯
構成と比べかなり高い評価となっているのが特徴的な傾向と言える。
一方、評価の低い項目としては、「自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)」、
「先代から住んでいる」が挙げられ、どの世帯とも現在の居住地を決定する際に意識されない傾
向がある。
【居住地域や環境について】
図表Ⅳ-7 現在の居住地に関する評価
夫婦と
現在の居住地に関する
項 目
単独世帯 夫婦2人
親と同居 三世代
子供
仕事:就業先(収入を得る機会)がある
7位
11位
10位
14位
1位
評価としては、「自然環 仕事:仕事先、就業先との距離
3位
4位
1位
7位
1位
14位
9位
7位
6位
3位
境・景観」、「上水道の整 人 :親や子供、親戚との距離
人 :親しい知人・友人の家との距離
10位
6位
9位
5位
4位
生活:地域の治安・防災
5位
5位
5位
4位
5位
備と水の美味しさ」、「地 生活:子供の学校までの距離
6位
7位
6位
10位
6位
11位
15位
13位
16位
9位
域の治安・防災」に対す 生活:買い物する場所
生活:医療機関の充実
20位
21位
21位
21位
16位
生活:通院の便利さ
18位
19位
20位
20位
14位
る評価が高い傾向にある 生活:高齢者福祉の充実
16位
16位
17位
17位
10位
生活:児童福祉の充実
13位
14位
16位
15位
11位
17位
18位
14位
13位
12位
が、三世代同居世帯では、 生活:公園や文化施設などの施設
生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
21位
20位
19位
19位
19位
19位
17位
18位
18位
17位
「就業先(収入を得る機 生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
生活:上水道の整備と水の美味しさ
2位
1位
3位
2位
7位
生活:下水道の整備
4位
2位
4位
3位
13位
会)がある」、「仕事先、 生活:自然環境・景観
1位
3位
2位
1位
8位
8位
10位
8位
8位
18位
就業先との距離」に対す 生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
9位
8位
11位
9位
15位
15位
13位
15位
12位
20位
る評価が高い傾向にある その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
その他:地域のイメージ
12位
12位
12位
11位
21位
(図表Ⅳ-7参照)。
また、
「下水道の整備」については、稚内市の農村区域などで低い評価となっており、農村区
域における生活環境として下水道の満足度が低くなっている。
さらに、
「医療機関の充実」、
「通院の便利さ」、
「鉄道・バスなど交通機関の便利さ」、
「道路・
11
除雪など自動車での移動の便利さ」の 4 項目については、全体的に評価が低い項目となってい
る。
なお、
「地域のイメージ」に対する評価については、各世帯で中位に評価されているが、三世
代同居世帯では下位の評価となっている。
【将来の転居について】
将来、居住地を変更する可能性がある世帯の転居理由としては、
「年をとって、生活に不便や
不安が増す」による割合が高く、農家世帯では「離農」の割合が高くなっている。なお、親と
同居世帯や三世代同居世帯では、将来の転居の可能性が低い傾向にある。
また、その時にならないとわからないものの、将来転居する要因になり得るものとしては、
「年をとって、生活に不便や不安が増す」や「家族との死別」によるものが高い割合となって
いるほか、
「公共料金や税金が増えたから」との回答も将来の転居要因として高い割合を示して
いる。
図表Ⅳ-8 将来の居住地選択の要因・背景
さらに、将来、居住地
夫婦と
項 目
単独世帯 夫婦2人
親と同居 三世代
を変更する場合の居住地
子供
仕事:就業先(収入を得る機会)の有無
11位
17位
10位
14位
14位
選択の要因・背景として 仕事:仕事先、就業先からの近さ
14位
18位
14位
15位
15位
人 :親や子供、親戚の家の近さ
19位
15位
17位
18位
18位
は、
「道路・除雪など自動 人 :親しい知人・友人の家の近さ
20位
19位
21位
20位
21位
15位
12位
12位
11位
8位
車 での 移動の 便利 さ」、 生活:地域の治安・防災
生活:子供の学校の近さ
21位
21位
20位
21位
20位
生活:買い物する場所
5位
9位
5位
8位
4位
「医療機関の充実」、「通 生活:医療機関の充実
2位
3位
2位
4位
2位
3位
2位
4位
5位
1位
院の便利さ」が高く評価 生活:通院の便利さ
生活:高齢者福祉の充実
9位
5位
9位
9位
10位
18位
20位
19位
19位
19位
されている(図表Ⅳ-8 生活:児童福祉の充実
生活:公園や文化施設などの施設
16位
14位
18位
16位
17位
生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
4位
6位
7位
2位
9位
参照)。このほか、居住地 生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
1位
1位
1位
1位
3位
生活:水が美味しいなど、上水道が整備されている
8位
8位
8位
6位
7位
選択の際に重視される項 生活:下水道が整備されている
7位
4位
6位
7位
11位
生活:自然環境・景観
10位
10位
11位
10位
6位
目としては、
「買い物する 生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
12位
13位
16位
12位
13位
生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
6位
7位
3位
3位
5位
場 所 」、「 土地 や 家の価 その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
17位
16位
15位
17位
16位
その他:地域のイメージ
13位
11位
13位
13位
12位
格・家賃、駐車場の有無
など」等も評価が高くなっている。
一方、評価の低い項目としては、
「親しい知人・友人の家の近さ」、
「子供の学校の近さ」、
「児
童福祉の充実」については下位に評価され、居住地選択の要因にはならない傾向がある。また、
「自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
」についても、居住地選択の要因とし
ては意識されない傾向にある。
三世 代
冬期
親と同居
夫婦と子供
夫婦2人
単独世帯
12
三世 代
夏期
親と同居
夫婦と子供
夫婦2人
単独世帯
【道路の利用状況について】
道路の利用状況については、全ての世帯構成において自家用車の利用が最も高い割合を占め
ており、日常生活には欠かせないものとなっている(図表Ⅳ-9参照)。
図表Ⅳ-9 道路の利用状況(通院・介護)
また、札幌市や旭川市など
の都市部等への移動に使う
月2~3回程度利用
交通手段としても、自家用車
100%
の割合が高くなっている。宗
谷地域では、回答数としては
80%
少ないものの、飛行機を利用
60%
すると回答した世帯も見ら
徒歩
自転車
れる。
40%
自家用車
なお、冬期は自家用車の利
バス
その他
用が減少し、JRや都市間バ
20%
スの利用が増える傾向にあ
0%
り、特にJRの利用が多くな
る傾向が見られる。
Ⅴ.総括
(1)対象地域の人口等に関する考察
①
集落等区分ごとの人口動態の差異
富良野地域及び宗谷地域における人口は減少しており、両地域別に見ると、平成 12 年に対
する平成 22 年人口の比(H22/H12)は、富良野地域が 0.91、宗谷地域が 0.89 であった(図
表Ⅴ-1参照)。また、人口の推移を市街地区域、農村区域別に見ると、両地域共に市街地区
域よりも農村区域における人口減少が大きい。特に、宗谷地域の農村区域において、平成 12
年に対する平成 22 年人口の比(H22/H12)は 0.67 であり、富良野地域の農村区域における人
口比(0.76)よりも小さいことから、農村区域においては富良野地域より宗谷地域で人口減
少が進んでいることが伺える。
さらに、高齢化率を両地域別に見ると、平成 22 年は、富良野地域で 26.8%、宗谷地域で
25.5%となっている(図表Ⅴ-2参照)。また、市街地区域、農村区域別に見ると、両地域共
に市街地区域より農村区域の高齢化率が高い。なお、平成 22 年の高齢化率は、富良野地域の
農村区域において 33.3%と最も高くなっている。
図表Ⅴ-1
富良野地域
宗谷地域
市街地区域
農村区域
全区域
市街地区域
農村区域
全区域
人口(富良野地域及び宗谷地域)
H7
33,258
16,932
50,293
76,596
H12
34,158
15,704
49,862
57,449
15,344
72,793
H17
34,519
13,380
47,899
57,119
11,733
68,852
単位:人
H22
H22/H12
33,594
0.98
11,895
0.76
45,489
0.91
54,455
0.95
10,287
0.67
64,742
0.89
出典:総務省統計局「国勢調査」を基に作成
注1:H22/H12は、H12の値に対するH22の値の比である。
注2:宗谷地域においては、平成7年の浜頓別町の人口が市街地区域と農村区域に分けられないことから、
区域別の人口は記載していない。
注3:平成7年は、秘匿分の合算が行われていないため、市街地区域と農村区域の合計値と全区域の値が一
致しない。
図表Ⅴ-2
富良野地域
宗谷地域
市街地区域
農村区域
全区域
市街地区域
農村区域
全区域
高齢化率(富良野地域及び宗谷地域)
H7
14.8
22.1
17.2
15.3
H12
18.6
26.1
20.9
18.1
22.8
19.1
H17
21.8
30.5
24.2
21.5
25.9
22.3
単位:%
H22
24.5
33.3
26.8
25.2
27.3
25.5
出典:総務省統計局「国勢調査」を基に作成
注:宗谷地域においては、平成7年の浜頓別町の人口が市街地区域と農村区域に分けられない
ことから、区域別の人口は記載していない。
② 人口動態の差異とその要因
1)農家、農家数及び農業従事者数
全世帯数に占める農家数の割合を表す農家割合は、富良野地域が宗谷地域よりも高くな
っている。また、その割合は、両地域共に減少傾向にあり、平成 22 年の割合は、富良野地
域で 8.0%、宗谷地域で 2.7%となっている(図表Ⅴ-3参照)。
さらに、人口に占める農業従事者の割合を表す農業従事者割合も、富良野地域が宗谷地
域よりも高くなっている。また、その割合は、両地域共に減少傾向にあり、平成 22 年の割
合は、富良野地域で 9.3%、宗谷地域で 3.3%となっている(図表Ⅴ-4参照)。
また、平成 7 年から平成 22 年の人口、世帯数及び農家数の動向から、富良野地域では、
平成 7 年と同じ世帯員数と仮定した場合、平成 22 年の世帯数は平成 7 年と比較すると 90%
程度、農家数を同様に比較すると 56%程度となっている。同じく宗谷地域では、85%程度、
13
64%程度となっており、両地域共に農家数の減少割合に比べ、世帯員数の減少割合が小さ
いことから、農家は、農家から非農家となった後、地域内に留まることが多いと推測され
る(図表Ⅴ-3からⅤ-5参照)。
さらに、人口動態を見ると、①出生数及び死亡数では、富良野地域及び宗谷地域共に出
生数の方が少ない(図表Ⅴ-6参照)、②広域圏外における流出、流入状況では、富良野地
域及び宗谷地域共に流出が過多となっている(図表Ⅴ-7参照)、③広域圏内の流出、流入
状況では、富良野地域は周辺町村から富良野市への流出状況になっているものの、宗谷地
域は周辺町村と稚内市の流出、流入がほぼ同程度であることから、稚内市の吸収力は弱い
状況となっている(図表Ⅴ-8参照)。広域圏外への転出については、広域圏外からの転入
要因の多くが転勤や転職、進学、就職、結婚によるものであることを勘案すると、転出要
因についても同様であると推測される。
図表Ⅴ-3
富良野地域
農家割合(富良野地域及び宗谷地域)
H7
17,545
2,639
15.0
28,777
1,153
4.0
全世帯数
農家数
農家割合
全世帯数
農家数
農家割合
宗谷地域
H12
18,503
2,252
12.2
29,211
961
3.3
単位:世帯(戸)、%
H17
H22
H22/H7
18,513
18,356
1.05
1,866
1,473
0.56
10.1
8.0
0.53
28,996
28,198
0.98
865
772
0.67
3.0
2.7
0.68
出典:農林水産省「農林業センサス」等を基に作成
注1:農家割合は、農家数を全世帯数で除して求めた。
注2:H22/H7は、H7の値に対するH22の値の比である。
図表Ⅴ-4
富良野地域
農業従事者割合(富良野地域及び宗谷地域)
H7
50,293
7,521
15.0
76,596
3,313
4.3
人口
農業従事者数
農業従事者割合
人口
農業従事者数
農業従事者割合
宗谷地域
H12
49,862
6,545
13.1
72,793
2,780
3.8
H17
47,899
5,341
11.2
68,852
2,279
3.3
単位:人、%
H22
H7-H22の差
45,489
4,804
4,214
3,307
9.3
68.8
64,742
11,854
2,130
1,183
3.3
10.0
出典:農林水産省「農林業センサス」等を基に作成
注1:農業従事者割合は、農業従事者数を人口で除して求めた。
注2:H7-H22の差は、H7の値からH22の値を差し引いた値である。
注3:H7-H22の差の農業従事者割合は、農業従事者数を人口で除して求めた。
注4:中頓別町の平成17年の値は秘匿となっている。
図表Ⅴ-5
農家数(富良野地域及び宗谷地域)
単位:戸
H7-H22の差
H7
H12
H17
H22
富良野地域
2,639
2,252
1,866
1,473
1,166
宗谷地域
1,153
961
865
772
381
出典:農林水産省「農林業センサス」を基に作成
注:H7-H22の差は、H7の値からH22の値を差し引いた値である。
図表Ⅴ-6
出生数及び死亡数(富良野地域及び宗谷地域)
単位:人
単位:人
出生数
H19
H20
死亡数
H21
H22
H19
H20
H21
H22
富良野地域
376
387
345
360
富良野地域
460
487
523
495
宗谷地域
544
471
499
480
宗谷地域
689
650
722
694
出典:厚生労働省「人口動態統計」を基に作成
図表Ⅴ-7
広域圏外における流出、流入人口(富良野地域及び宗谷地域)
単位:人
流出人口-流入人口(広域圏外)
H20
富良野市
周辺町村
富良野地域全体
H21
209
189
398
単位:人
流出人口-流入人口(広域圏外)
H22
102
133
235
H20
166
226
392
稚内市
周辺町村
宗谷地域全体
市町村からの聞き取りを基に作成
14
685
420
1,105
H21
H22
446
306
752
272
134
406
図表Ⅴ-8
H20
周辺町村→富良野市
富良野市→周辺町村
差
広域圏内における人口移動(富良野地域及び宗谷地域)
H21
127
108
19
121
67
54
単位:人
H22
142
66
76
H20
周辺町村→稚内市
稚内市→周辺町村
差
H21
124
127
-3
100
98
2
単位:人
H22
142
140
2
市町村からの聞き取りを基に作成
2)生活基盤の整備・管理
図表Ⅴ-9 現在の居住地を選択した要因・背景(富良野地域及び宗谷地域)
アンケート結果で
集落等区分
集落等区分
項 目
は、現在の居住地を
仕事:就業先(収入を得る機会)がある
4位
1位
5位
5位
2位
2位
選択した要因・背景 仕事:仕事先、就業先との距離
2位
3位
2位
2位
2位
3位
1位
人 :親や子供、親戚との距離
5位
の順位が高い項目と 人 :親しい知人・友人の家との距離
生活:地域の治安・防災
して、富良野地域で 生活:子供の学校までの距離
生活:買い物する場所
3位
4位
4位
3位
4位
5位
「土地や家の価格・ 生活:医療機関の充実
生活:通院の便利さ
生活:高齢者福祉の充実
家賃・駐車場の有無 生活:児童福祉の充実
生活:公園や文化施設などの施設
など」、「仕事先、就 生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
4位
4位
5位
5位
業先との距離」、「買 生活:上水道の整備と水の美味しさ
生活:下水道の整備
2位
3位
3位
1位
4位
い物する場所」及び 生活:自然環境・景観
生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
2位
3位
生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
1位
1位
1位
5位
1位
3位
1位
4位
「自然環境・景観」 その他:地域のイメージ
5位
などが挙げられた。
また、宗谷地域では、
「土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など」、
「就業先(収入を得る
機会)がある」、「仕事先、就業先との距離」、「買い物をする場所」、「高速ブロードバンド
化など情報通信の充実」及び「自然環境・景観」などが上位にあり、
「道路・除雪など自動
車での移動の便利さ」も比較的上位に挙げられた(図表Ⅴ-9参照)
。
この結果より、現在の居住地決定に当たっては、両地域共に道路の整備状況等も考慮の
対象とはなるものの、住宅、仕事、買い物といった個人の収入や支出と関連する項目がよ
り優先されており、道路及び上水道、下水道といった生活基盤の整備・管理がこれまでの
人口動態に及ぼした影響は大きくないと考えられる。
図表Ⅴ-10 将来の居住地選択の要因・背景(富良野地域及び宗谷地域)
また、将来、居住
富良野地域
宗谷地域
項 目
地を変更する可能
性としては、
両地域 仕事:就業先(収入を得る機会)がある
仕事:仕事先、就業先との距離
共に「年をとって生 人 :親や子供、親戚との距離
人 :親しい知人・友人の家との距離
生活:地域の治安・防災
活に不便や不安が 生活:子供の学校までの距離
生活:買い物する場所
5位
5位
4位
生活:医療機関の充実
3位
2位
3位
4位
2位
4位
1位
3位
増す」、
「家族との死 生活:通院の便利さ
4位
3位
4位
3位
3位
3位
2位
2位
5位
別」が高い割合で選 生活:高齢者福祉の充実
生活:児童福祉の充実
生活:公園や文化施設などの施設
ばれている。今後、 生活:鉄道・バスなど交通機関の便利さ
5位
5位
1位
5位
5位
生活:道路・除雪など自動車での移動の便利さ
1位
1位
1位
1位
1位
2位
3位
1位
高齢化が進むこと 生活:上水道の整備と水の美味しさ
4位
生活:下水道の整備
5位
で、「年をとって生 生活:自然環境・景観
生活:高速ブロードバンド化など情報通信の充実
2位
2位
2位
4位
4位
活に不便や不安が 生活:土地や家の価格・家賃・駐車場の有無など
その他:地域のイメージ
増す」又は「家族と
の死別」といった理由により転居が増える可能性は大きい。その居住地選択の要因となる
のは、
「道路・除雪など自動車での移動の便利さ」
、
「医療機関の充実」、
「通院の便利さ」
(図
表Ⅳ-10 参照)であり、アンケート結果では、通院や介護時の道路利用状況としては、両
地域とも自動車による利用が多い。
よって、住民の今後の生活を考えたとき、医療機関を充実させるとともに、通院が便利
となるよう道路・除雪など自動車での移動の便利さを確保することが必要と考えられる。
医療機関を充実させたとしても、道路・除雪など自動車での移動の利便性が確保されな
い場合、人口流出を加速させる可能性がある。今後の人口流出を抑制する観点からも、道
路の整備、管理が重要であると考える。
富良野市
市街地区域
富良野市
農村区域
周辺町村
市街地区域
周辺町村
農村区域
稚内市
市街地区域
稚内市
農村区域
周辺町村
市街地区域
稚内市
市街地区域
稚内市
農村区域
周辺町村
市街地区域
周辺町村
農村区域
その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
注 :1位~5位のみ示し、1~3位は塗りつぶした。
富良野市
市街地区域
その他:自治体の政策(子育て、生涯学習、将来ビジョンなど)
注 :1位~5位のみ示し、1~3位は塗りつぶした。
15
富良野市
農村区域
周辺町村
市街地区域
周辺町村
農村区域
周辺町村
農村区域
③
農村区域における移動の可能性
アンケート結果によれば、富良野市及び稚内市の農村区域では、移転先の候補地として同
一広域圏内を選択する割合が 50%超と比較的高かった一方、両地域の周辺町村の農村区域で
は、移転先候補地として同一広域圏内を選択する割合は 50%を下回った(図表Ⅴ-11 参照)。
このことは、周辺町村の農村区域から移転する場合、広域圏外へ人口が流出する割合が 50%
を上回る可能性を示唆する。
さらに、宗谷地域の値から富良野地域の値を差し引いた地域間差を見ると、同一広域圏外
の地域間差はいずれの区域でもプラスとなっている。これは、宗谷地域ではいずれの区域に
おいても、富良野地域と比べて、移転先の候補地として同一広域圏外を選択する割合が高い
ことを表している。このことは、宗谷地域で移転が発生する場合、広域圏外へ人口が流出す
る割合は富良野地域よりも大きく、宗谷地域において富良野地域よりも人口流出が速く進む
可能性を示唆している。
また、周辺町村において転居先の候補地が同一広域圏内の主要都市と回答した世帯が、富
良野地域及び宗谷地域共に 1 割程度と低い結果になっており、広域圏内の主要都市が移転先
の候補地とはなっていない。なお、畑作地帯や酪農地帯といった営農形態の違いによる差異
は認められない。
図表Ⅴ-11
転居先の候補地(富良野地域及び宗谷地域)
単位:%
主要都市
市街地区域
移転先候補地
富良野地域
宗谷地域
地域間差
同一広域圏内の主要都市
同一広域圏内
同一広域圏外
同一広域圏内の主要都市
同一広域圏内
同一広域圏外
同一広域圏内の主要都市
同一広域圏内
同一広域圏外
43.1
48.7
51.3
29.5
33.8
66.2
-13.6
-14.9
14.9
主要都市
農村区域
53.7
66.2
33.8
48.0
56.0
44.0
-5.7
-10.2
10.2
注:地域間格差は、宗谷地域(%)から富良野地域(%)を減じて求めた数値である。
16
周辺町村
市街地区域
12.0
45.3
54.7
8.1
36.3
63.7
-3.9
-9.0
9.0
周辺町村
農村区域
16.3
48.8
51.2
11.7
44.1
55.9
-4.6
-4.7
4.7
(2)農業労働力についての考察
① 広域圏における農業労働力と農業の変遷
1)農業労働力(農業従事者数)
農業従事者数は、富良野地域及び宗谷地域共に減少傾向にあり、平成 2 年に対する平成
22 年の農業従事者数(総数)
(H22/H2)は、富良野地域で 0.47、宗谷地域で 0.53 と、農業
従事者数は 20 年間でほぼ半数に減少した(図表Ⅴ-12 参照)
。
また、農業従事者数に占める 65 歳以上の農業従事者数を表す高齢化率は、富良野地域で
は平成 2 年以降一貫して上昇傾向にあり、平成 22 年には 30.3%となった。一方、宗谷地
域における高齢化率は、
平成 2 年から平成 12 年までは富良野地域と同様に上昇していたが、
平成 17 年には平成 12 年の水準をやや下回り、平成 22 年には平成 7 年と同程度まで減少し
ている。
図表Ⅴ-12
富良野地域
宗谷地域
農業労働力(富良野地域及び宗谷地域)
H2
9,002
1,515
16.8
3,995
674
16.9
総数
うち65歳以上
高齢化率
総数
うち65歳以上
高齢化率
H7
7,521
1,523
20.2
3,313
692
20.9
H12
6,545
1,643
25.1
2,780
694
25.0
単位:人、%
H22
H22/H2
4,214
0.47
1,277
0.84
30.3
1.80
2,130
0.53
436
0.65
20.5
1.21
H17
5,341
1,551
29.0
2,279
557
24.4
出典:農林水産省「農林業センサス」を基に作成
注1:高齢化率は、65歳以上農業従事者数を総数で除して求めた。
注2:H22/H2は、H2の値に対するH22の値の比である。
2)農業産出額
農業産出額は、富良野地域では減少傾向が続く一方、宗谷地域では平成 2 年から平成 7
年にかけてやや減少したものの、平成 7 年から平成 17 年にかけて増加傾向にある(図表Ⅴ
-13 参照)。
また、農業従事者 1 人当たりの農業産出額は、両地域において増加傾向にあり、平成 2
年に対する平成 17 年の農業従事者 1 人当たりの農業産出額(H17/H2)は、富良野地域で
1.49、宗谷地域で 1.80 となっており、宗谷地域で伸びが大きくなっている。
図表Ⅴ-13
富良野地域
宗谷地域
農業産出額(富良野地域及び宗谷地域)
H2
4,062
0.45
2,937
0.74
金額
農業従事者1人当たり
金額
農業従事者1人当たり
H7
3,900
0.52
2,811
0.85
H12
3,714
0.57
2,842
1.02
単位:千万円
H17
H17/H2
3,601
0.89
0.67
1.49
3,022
1.03
1.33
1.80
出典:農林水産省「北海道農林水産統計年報」を基に作成
注1:H17/H2は、H2の値に対するH17の値の比である。
注2:市町村の農業産出額に秘匿がある場合、秘匿されている当該市町村の農業産出額は、当該市町村の耕種産出額計
及び畜産産出額計を足しあわせたものとしている。また、耕種産出額計あるいは畜産産出額計が秘匿されている
場合、その秘匿を0(ゼロ)とみなして農業産出額を算出した。
3)耕地面積
耕地面積は僅かに減少傾向が見られるが大きな変化がなく、平成 2 年に対する平成 22 年
の耕地面積(H22/H2)は、富良野地域では 0.96、宗谷地域では 0.94 である(図表Ⅴ-14
参照)。
一方、農業従事者 1 人当たりの耕地面積は両地域とも増加傾向にあり、平成 2 年に対す
る平成 22 年の農業従事者 1 人当たりの耕地面積(H22/H2)は、富良野地域では 2.04、宗
谷地域では 1.77 と、富良野地域は宗谷地域よりも増加の程度が大きくなっている。
図表Ⅴ-14
富良野地域
宗谷地域
全面積
農業従事者1人当たり
全面積
農業従事者1人当たり
耕地面積(富良野地域及び宗谷地域)
H2
26,582
2.95
66,040
16.53
出典:農林水産省「北海道農林水産統計年報」を基に作成
注 :H22/H2は、H2の値に対するH22の値の比である。
17
H7
26,295
3.50
65,650
19.82
H12
26,080
3.98
63,610
22.88
H17
25,681
4.81
62,840
27.57
H22
25,414
6.03
62,290
29.24
単位:ha
H22/H2
0.96
2.04
0.94
1.77
②
農家数及び農業労働力の減少が見込まれる中での農業の課題
農業従事者 1 人当たりの耕地面積は両地域共に増加していることから、両地域共に経営
規模の拡大によって生産性を高めていると考えられる。また、そのような拡大を支える背
景として機械化の進展が考えられる。一般的に、畑作、酪農共に機械の大型化は進んでい
るが、比較的労働集約的な生産システムの上に成り立つ畑作と比べて、酪農における機械
化及び機械の大型化は顕著である。なお、市町村への聞き取り調査では、宗谷地域におい
て農業機械の大型化に対応した道路整備の要望が挙げられている。特に、酪農においては、
夏期、冬期共に、農業用車両(集乳車など)が毎日通行しており、冬期の除雪による交通
の確保は重要である。
さらに、両地域共に、経営面積の拡大に伴う通い作の事例が挙げられていた。将来の農
業労働力が減少することを考慮すれば、今後、地域の基幹産業である農業を維持・拡大す
るためには、更なる経営規模の拡大によって生じる遠隔地への移動や機械の大型化を支え
る道路整備、農作業の効率化や農業労働力の補完を図るための営農支援対策(作業受委託
組織の充実等)の充実が必要である。また、農地の集約、大区画化やICTを活用した農
業の展開による効率化等も望まれている。
今後も農業者数の減少が予測される中、より少ない農業従事者によって地域の農業を支
えていくためには、関係機関の連携により、営農に対する支援体制の強化を急ぐ必要があ
ると考えられる。なお、富良野地域と宗谷地域では営農の形態が違い、それぞれの営農の
特徴に応じた将来の営農支援体制が必要と考えられることから、今後、農業従事者数の減
少が予測される中で、両地域の農業が継続して地域の基幹産業として生き残るためには、
それぞれの地域の特徴に応じた営農支援が求められる。
(3)生活基盤の維持管理の方向性についての考察
①
生活基盤の長寿命化
道路・上下水道の維持管理については、それらを利用する人口の減少及び自治体等にお
ける財政力の低下など、様々な条件の下に総合的かつ戦略的に行うことが必要である。そ
の方策の一つとして既存インフラの長寿命化がある。長寿命化を図る際には、現在あるイ
ンフラの状態を把握した上で、長期的な維持管理計画を策定し、コストを最小化しつつ安
全を確保する必要がある。
現在、広域圏内の各自治体では、市町村道及び上下水道の維持管理は当該市町村が主体
となって行っている。しかし、本調査の対象地域では、地域住民の生活空間は当該市町村
を含んだ広域圏の上に成り立つことを鑑みれば、今後の道路・上下水道の維持管理におい
ては、インフラの長寿命化を踏まえた維持管理計画の策定段階から広域圏内の市町村が協
働していくことも考えられる。
②
生活基盤の管理体制
今後、人口及び世帯数の減少が予測されることから、将来の人口減少は、地域経済を縮
小させ、道路や上下水道の維持管理費の圧縮につながる可能性がある。しかし、市町村へ
の聞き取り結果にもあるように、施設や機器等の老朽化などにより、維持管理費用は増加
することが考えられる。
市町村への聞き取り調査では、生活基盤の維持管理に対し、専門的な知識を有している
技術者の高齢化や人材不足が問題として挙げられている。今後、限られた予算内において
適切な施設管理を行うためには、長寿命化計画の策定が有効な方策と思われるが、機能診
断等に係る専門技術者の確保について、各自治体単位では困難な状況が予測され、隣接す
る市町村との連携など、広域圏全体としての協力体制の確立が不可欠と思われる。また、
土木工事や橋梁点検等の技術力向上などのために相談窓口等の活用も考えられる。
さらに、アンケート結果では、現在の居住地への評価として「上下水道の整備と水の美
味しさ」や「下水道の整備」が上位に挙がっている。今後、維持管理費用が圧縮されるこ
とにより上下水道に係るサービス供給が不十分となり、住民の生活の質を低下させる可能
18
性がある。さらに、道路の維持管理が不十分となれば、前述のとおり、道路・除雪など自
動車での移動の利便性が確保されないことで、高齢化の進展に伴う人口流出が加速する可
能性もある。
農家数及び農業労働力の減少は、地域経済を担う基幹産業の縮小化が示唆されることか
ら、地域経済を維持・増進するためには、農家数及び農業労働力の絶対数の減少を抑える
と同時に、農業生産の効率化をより一層進める必要がある。そのためには、就農支援とと
もに、農業の経営規模の拡大によって生じる遠隔地への移動や機械の大型化を支える道路
整備や労働力不足に対応する労働支援体制の確立が必要である。
以上のように、住民の生活の質を維持し、高齢化による人口流出を抑え、地域の基幹産
業たる農業を振興するためには、生活基盤の管理はこれまでに劣ることなく、これからも
地域社会を維持する上で重要な要素である。しかし、これから訪れる人口減少時代の下で
は、市町村ごとの対応が困難な状況も多くなると思われ、周辺町村や広域圏全体としての
協力体制の確立が急がれる。
(4)生活基盤の整備に加えたソフト面からの考察 ~広域圏における移動手段の確保~
前述のような、ハード面での生活基盤の整備に加え、ソフト面での対応も必要と考えら
れる。アンケート結果では、将来の居住地選択の要因・背景として、
「道路・除雪など自動
車での移動の便利さ」、「医療機関の充実」、「通院の便利さ」といった項目が両地域共に上
位に挙がっている。今後の高齢化の進展を想定すると、
「道路・除雪など自動車での移動の
便利さ」と「医療機関の充実」が確保されたとしても、通院が必要とされる状況では、医
療機関への自家用車での移動が困難な場合も多いと考えられる。住民が将来の居住地に望
む「通院の便利さ」を担保するためには、非自力による移動手段の確保が必要となる。
一方、サービス供給側の採算性の問題などから、地域において利用されてきた交通機関
が廃止される例は少なくない。長期的には、世帯の移動も含めた居住空間のコンパクト化
を考慮する必要があると考えられるが、現在居住する人々の生活の質を維持する観点から、
周辺町村の農村区域から市街地区域又は当該広域圏の主要都市などへ移動するための手段
を確保することが求められる。
市町村への聞き取り事例にもあるように、デマンド交通といった地域住民の要望に応じ
た運行が可能な交通機関により、当該市町村に留まらず広域圏内での移動を可能にする取
組は、地域住民の生活の質を向上させることにも貢献すると考えられ、将来的には、広域
圏全体の新たな交通システムとして、住民の移動手段を確保する有効な方策となるものと
考えられる。また、これら移動省略化の観点から、代替手段として遠隔医療などといった
ICTの利活用も考えられている。
地域住民にとって安定した広域的な社会空間を創出するためには、このような取組を通
じ、人口減少・高齢化に対応するとともに、広域圏全体の活性化を図ることが必要と考え
られる。
19