危危機機管管理理 - 日本マテリアル・ハンドリング(MH)協会

ISSN 2185-9418
特集:物流面から見た災害対策及び
危機管理
● 災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方
● 東日本大震災におけるトラック業界の支援活動と放射線管理
流通経済大学
公益社団法人全日本トラック協会
● 日産は地震からサプライチェーンをどのように復旧させたか
日産自動車株式会社
● クラウド環境と事業継続計画(BCP)から考えるSaaS型庫内作業支援システム
富士通株式会社
株式会社 富士通アドバンストエンジニアリング
● 地震に強い、
免震構造のラック式倉庫
株式会社 ダイフク
MHジャーナル
269号(夏季号)
目次
2012.Jul
巻頭言 物流環境におけるデータキャリアの普及
中村学園大学 流通科学部 准教授 博士
(経営学) 木下
特集
和也
氏 ………2
物流面から見た災害対策及び危機管理 ……………………………………………3
寄稿文
●災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方 ……………………………4
流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野 裕児 氏
●東日本大震災におけるトラック業界の支援活動と放射線管理…………………10
公益社団法人全日本トラック協会 輸送事業部長 礎
司郎 氏
●日産は地震からサプライチェーンをどのように復旧させたか ……………………14
日産自動車株式会社 SCM本部 部品物流部 部長 尾上
清 氏
●クラウド環境と事業継続計画(BCP)から考える………………………………18
SaaS型庫内作業支援システム
富士通株式会社
株式会社 富士通アドバンストエンジニアリング 白石 泰浩 氏
●地震に強い、免震構造のラック式倉庫……………………………………………22
∼物流システムのリスクを最小化∼
株式会社 ダイフク FA&DA事業部
建築部 部長 中村 良彦 氏
米国マテハン専門誌抄訳 Vol.57 ……………………………………………………………28
JMHSニュース …………………………………………………………………………………30
奥付 ………………………………………………………………………………………………34
Material Handling Journal No.
269
1
巻 頭 言
物流環境におけるデータキャリアの普及
中村学園大学 流通科学部
准教授 博士
(経営学)
木下
近年、いたるところでQRコードを見かけるよう
に、である。しかし、それが効率的な物流やSCM
になった。大学を職場としている筆者は、学生への
を実現するためのアイテムであったことを知らずに
連絡のために設けられたQRコードが掲示板や壁に
利用している人が、意外と多いのではないだろう
貼られているのをよく見かける。携帯電話を利用し
か。それほどまでにデータキャリアは広く社会に浸
てWebにアクセスさせるためである。
透してきているのである。
QRコードを見て思い出すのが、学生時代に初め
当然ながら、物流の現場も情報化時代へ対応しな
てアルバイトをしたスーパーマーケットである。こ
がら日々進化している。情報化時代はさらなる大量
のアルバイトを選択した理由は住んでいた場所から
消費の時代を生んだ。誰もがインターネットを経由
近かったこと以上に、バーコードを活用したPOSレ
して簡単に商品を購入できるようになったからであ
ジに関心を持っていたからである。当時はまだモノ
る。実際、規模を拡大した巨大な倉庫では、従来の
珍しい存在で、アルバイト先ではバーコードのデザ
在庫管理は適さない。図書館のような分類コードに
インや仕組みに興味を持って働いた。
基づく棚の配置よりも、商品パッケージに印刷され
それから3
0年ほど経過した現在、バーコードは進
化してQRコードのような2次元仕様も普及し、さ
2
和也
たバーコードとデータベースに頼ったフリーロケー
ションを採用するほうが効率的である。
らにRFIDのように小型のICチップを利用するもの
一方、データキャリアは自動仕分けの効率化にも
まで身近な存在になってきた。こうして今や広い分
欠かせない。例えば冷凍食材などの仕分けでは低温
野で活用されているデータキャリア技術は、実は当
下でのスタッフの健康と高温による食品の劣化防止
初から物流の効率化に大きく貢献していた。特にバ
は相反する制約要因であったが、これもRFIDを採
ーコードのようなデータキャリアは、決して複雑な
用した自動化によって解決できるようになった。
機能を搭載した機械ではなく、いわば目印のような
RFIDは情報量の優位性だけではなく、低温下の霜
存在であるにもかかわらず、データベースとの連携
などで読み取りエラーが生じることがないなど、バ
によって物流やサプライチェーンの現場に革新をも
ーコードの問題点をクリアするアイテムともなって
たらした。
いる。
このようなデータキャリアは仕様の標準化で普及
この30年余りで物流を取り巻く環境は大きく変わ
が一層進む。公開されている仕様により、それらを
ってきたが、その発展の中心にデータキャリアとそ
利用する情報システムの構築に誰もが参入できるた
の活用法の進化がある。今後はグローバル化の中で
め、新しい分野での利用につながっていく。携帯電
国際的な標準化や仕様の統一がさらに進んでいき、
話の標準機能としてバーコード・リーダーが搭載さ
効率化だけではなく食の安全に代表されるような国
れ、Webと連動したビジネスに貢献しているよう
際的なトレーサビリティの進展が期待される。
MHジャーナル
平成2
4年7月
特
集
物流面から見た災害対策及び危機管理
東北地方全域と関東地方の一部に甚大な被害を
はずですが、東日本大震災に起因する各種インフ
もたらした東日本大震災から、既に1年以上が経
ラの崩壊により、更に身近で且つ切実な問題とし
過しましたが、これまでの大規模災害とは異な
て、我々の面前に突きつけられた感があります。
り、我々の想像をはるかに超えた巨大な津波が、
そこで今回の特集では「物流面から見た災害対
あらゆる施設を破壊し酷い爪あとを残していった
策及び危機管理」と題し、大規模災害に対する備
ことによって、今も様々な形でその影響を引きず
え、並びに不幸にも被害に遭ってしまってからの
っています。
善後策などにスポットを当て、5編の事例を紹介
1
9
9
5年1月の阪神淡路大震災の時には、近畿地
致します。
方が壊滅的な被害に遭いましたが、電力事情を含
東日本大震災を契機に、どの様な組織がどの様
め、これほどまで全国的に、しかも長期的に影響
な対策を実施して来たのか、また、そこから見え
を及ぼすことは無かったのではないでしょうか。
て来たこれからの課題は何か、更には、過去の大
そういった意味では、東日本大震災は、日本全
規模災害を教訓として、どの様な研究や施策を練
土にインパクトを与えた、正に未曾有の災害であ
って来たのか等々、これらの事例は必ずや皆様の
ったと言えるでしょう。
御参考になるものと確信します。
事業継続計画(BCP)、免震構造、サプライチ
ェーン見直しなどは、阪神淡路大震災の直後に
(記
辛島
博之)
も、当然のことながら重要検討課題となっていた
Material Handling Journal No.
269
3
特 集
●物流面から見た災害対策及び危機管理●
災害発生時における
ロジスティクスの対応のあり方
流通経済大学 流通情報学部
教授 矢野 裕児
て起きた部分が多い。有事の際には、平時とは違う外部
1.はじめに
環境のもとで、どのように対応するのかが重要であり、
未曾有の被害をもたらした東日本大震災が発生してか
東日本大震災における教訓を踏まえ、今後の対応が求め
ら、1年以上が経過した。今回の震災は、ロジスティク
られているところである。本稿では、公共が主体となっ
ス、サプライチェーンの重要性を、改めて広く認識させ
て行う緊急救援物資についての需給バランスからみた課
ることとなった。そして、被災地への公共主体による緊
題、供給システムの課題、企業の一般流通ルートに関わ
急救援物資の供給、製造業、卸売業、小売業の物流ルー
るロジスティクスでのリスク対応の課題について述べる
トの確保、
復旧、
あるいはサプライチェーンの確保など、
ことにする。
われわれに投げかけられた問題、課題は多い。平常時に
おいてはものが流れているのが当たり前であるが、有事
の際に物資をいかに供給するのか、公共、民間ともリス
ク対応が求められている。
今回の震災で、物流のシステムに問題があったという
2.緊急救援物資の調達、
供給ルート別の
需給バランスからみた課題
2−1
緊急救援物資の調達、供給ルートについて
意見も一部聞かれる。しかしながら、物流システムだけ
災害時における緊急救援物資供給は、時間の経過と
に問題があったのではなく、他の要因も複合的に重なっ
ともに変化する需要に対して、どのように調達、供給し
調達、供給ルート
各ルートの特徴と東日本大震災での対応
①被災地の県、市町村の
公的備蓄は、自治体の備蓄倉庫からの供給であり、災害発生当日など最も早い段階での供給が期待
公的備蓄の供給
される。県の公的備蓄は少なく、避難者数には対応が難しかったといえる。市町村は備蓄倉庫が未整
備の場合もあり、倉庫があっても備蓄量が少なく、需要に対応しきれなかった場合が多い。
②被災地の県、市町村の
備蓄について、公的備蓄が十分でなく、流通在庫に頼っていた部分も多い。そのため、各地方自治
流通在庫備蓄の供給
体は、被災地内の食品製造業及び小売業等の協力を得て、流通在庫の提供を受ける協定を締結してい
る。地方自治体は支援要請をしたものの、被災地の企業の被害が甚大であること、被災したのが広域
であったことなどにより、流通在庫の供給量が少なく、想定量を確保できない状態が多く発生した。
③国からの供給
災害時の緊急救援物資供給については、従来は被災した都道府県が物資を調達し、被災地に供給す
るという考え方であった。しかしながら、東日本大震災の被害は甚大であり、政府の緊急災害対策本
部が物資を調達し、被災した県に向けての輸送を実施した。政府は緊急輸送について、国土交通省を
通じて全日本トラック協会に依頼し、協会が配車手配するという流れであった。
④防災協定等がある他地
防災協定等を結んでいた地方自治体から被災地の地方自治体に救援物資が供給された。救援物資の
方自治体からの供給
量は比較的多いものの、受け入れ日は比較的遅かった。
⑤一般企業、個人からの
一般企業、個人から提供された物資も多くある。しかしながら、地方自治体からの要請によるもの
供給
ではないものも多く、被災者の需要が時間の経過と共に変化しているのに対して、受け入れた救援物
資が需要に合わない、あるいは計画的な受け入れができないという問題が発生した。
図表.
1
4
MHジャーナル
平成2
4年7月
調達、供給ルート別の特徴と東日本大震災での対応
災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方
ていくかが重要となる。東日本大震災において、緊急救
ルートによる供給量は多いものの、到着してからも、物
援物資の調達、供給ルートごとに、食料、飲料、生活必
資集積所を経由して、避難所に届くことを考えると、震
需品等がどのように供給されたのか、需給のバランスを
災発生後、相当日数が経過してから避難所に届いたと考
時間軸でみてみることにする。緊急救援物資確保につい
えられる。
ての基本的な考え方は、災害発生3日以内の食料品と最
避難所の需要にあわせて供給していくためには、震災
低限必要な生活必需品は被災地内で確保することとなっ
発生後のそれぞれの段階で、調達、供給ルートを最適に
ている。各家庭、企業等における備蓄、さらに各都道府
組み合わせ、避難所に供給していく必要があり、図表.
2
県、各市町村においても3日分を備蓄することが求めら
のような課題がある。震災発生後3日目までの需要のピ
れている。
ークに対しては、被災地の県、市町村の公的備蓄の拡充
避難所への緊急救援物資供給の主要ルートは、図表.
1
が求められる。また、公的備蓄だけでは、量的に不足す
のように、①被災地の県、市町村の公的備蓄の供給、②
ることから流通在庫備蓄利用が重要であり、民間との連
被災地の県、市町村の流通在庫備蓄の供給、③国からの
携の強化が課題となる。その後の3日目以降の対応が中
供給、④防災協定等がある他地方自治体からの供給、⑤
心となる被災地外からの供給についても、国、他の地方
一般企業、個人からの供給である。①、②の被災地の県、
自治体での、より早い時期での供給可能な体制の構築、
市町村による供給については、災害発生直後からの供
1次集積所から避難所までの供給のスピードアップのた
給、被災地外からの③、④、⑤は、3日目以降、順次供
めの、被災地内の集積所機能の強化、民間事業者との連
給されるルートとなる1)。これ以外に、自衛隊の供給
携による輸送力の強化が課題となる。
もあるが、本稿では対象としない。
2−2
時間軸でみた需給バランスの問題点と課題
時間軸に沿って、それぞれの調達、供給ルートの供
給状況と需要のバランスをみると、被災地の県、市町村
の公的備蓄は早い段階で避難所へ供給されたものの、量
的には不足していた。流通在庫については、各地方自治
体が協定を締結している団体、企業からは、比較的早い
対応がなされた場合もあるが、被災地内の企業の被害が
甚大であり、供給量が少なく、量が確保できない状態が
多く発生した。このように、県、市町村の公的備蓄、流
通在庫備蓄による供給量だけでは、初動期は需要量に対
応できなかった。そこで、国からの供給、県、市町村の防
災協定等がある他地方自治体といった被災地外からの供
給を要請することとなり、
被災地外から調達し、
避難所に
図表.
2 調達、供給ルートごとの課題
供給するのが主要なルートとなっていくことになる2)。
被災地外から提供される緊急救援物資については、被
災地外→県(1次物資集積所)→市町村(2次物資集積
3.被災地に対する緊急救援物資供給システムの課題
所)→避難所というルートによって供給が行なわれた。
今回の震災により、被災地に対する緊急救援物資供給
集積所は、自治体の職員が中心となって、集積所が運営
において、どのような問題が発生し、今後の対応として
されたが、物流機器が使用できない施設環境であり、人
どのような課題があるのかについては、国、業界団体等
海戦術による手作業の荷役、保管、仕分け作業が行なわ
が様々な提言をしている。また、災害対策基本法の改正
れた場合が多い。また、自治体の職員には、ロジスティ
の議論のなかでも、緊急救援物資供給に関する項目が盛
クスのノウハウがなく、大きな制約となった場合も多
り込まれ、今後地方自治体の防災計画においても物資供
い。国および防災協定等を結んでいた地方自治体からの
給計画が明確に位置づけられていくと考えられる。平常
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5
災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方
時のシステムと有事の際のシステムとは大きく違う。ま
ョンにおいて、ハード、ソフトの両面で、民間資源をい
た、システムを動かす上で、前提となるライフライン障
かに有効に使うか、公共と民間の連携が重要な課題とし
害といった外部環境に差異があり、震災発生後の時間の
ている4)。また、各運輸局で「民間の施設・ノウハウ
経過によって、求められる条件も変化する。ここでは、
を活用した災害に強い物流システムの構築に関する協議
緊急救援物資供給に関わる主要な課題について述べるこ
会」を立ち上げて、具体的に検討している。
とにする3)。
3−1
今回の震災では、集積所での仕分け、端末輸送が最も
プッシュシステムによる物資供給
大きな問題となった。本来は、この部分の物資供給は、
災害発生時の初動対応は、プッシュシステムにより
県、市町村がコントロールすることになっているが、役
供給することが求められる。発生直後には、どのような
所も壊滅的な被害を受けたために対応が困難となった。
物資がどれだけ必要なのかという需要の詳細な把握は困
また、地方自治体にロジスティクスに精通した人材がい
難である。そのため、初動段階では、居住人口等から必
ないという問題もあった。そのため、民間物流事業者か
要と想定される最低限の必要物資を、被災地に短時間の
らロジスティクスの専門家が派遣され、ロジスティクス
うちにプッシュシステムで供給することである。供給し
の機能が回復していくことになる。県の救援物資の集積
た物資が需要を上回るということが一部起きたとして
所についても、宮城県においては、臨海部にある展示場
も、早く供給することがまず求められる。被災地に最低
施設が津波で被害を受け、
利用できなかった。
そのため、
限の必要物資が行き渡り、物資供給が安定したあと、順
当初、県庁舎などの県の施設を救援物資の集積所として
次、需要に対応したプルシステムに切り替える。この考
使用していたが、物資の受け入れがうまく機能せず、ス
え方については、災害対策基本法の改正でも対応するこ
ペース不足もあり、物資が滞留することとなったため、
とになっている。
民間物流事業者の物流施設を利用することとなる。市町
3−2
村の物流集積所においても、同様の問題が発生した。市
ロジスティクスの適用
被災地外からの緊急救援物資の供給は、被災地外か
町村レベルでは物流事業者と連携するような体制にはな
ら被災地の県の1次集積所に輸送され、そこで仕分け
っていなかった。民間事業者と連携し、有事の際に対応
し、次に市町村の2次集積所に輸送、仕分けし、最終的
できるように体制を組むことが、今後望まれる。
に避難所に輸送されるのが基本的なルートである。物資
また、市町村の集積所から避難所への端末輸送もスム
供給するときに、まず考えられるのが輸送手段の確保で
ーズにはいかなかった。市町村の役所の被害は甚大であっ
あるが、同時にノードでの荷受け、入庫、保管、ピッキ
たため、民間宅配事業者がその役割を担った地域もある。
ング、出庫という作業も連動させなければならない。し
3−4
被災地と被災地外の役割分担、連携
かしながら、今回の震災では、被災地内の県の1次集積
被災地だけでなく、被災地外の集積所の役割も重要
所から市町村の2次集積所、端末の避難所への流れは、
である。被災地外で可能な作業は行っておき、被災地内
初動段階ではうまく機能しなかった。被災地外から1次
集積所の作業は簡単な仕分けだけにするなど、負荷をで
集積所には、大量の救援物資が供給されたが、集積所で
きるだけ軽減する。そのためには、被災者がすぐに使え
の荷受け、保管、ピッキングの管理ができず、出庫量に
るような状態にして、例えば食料品では「飲み物、非常
対して入庫量がはるかに上回る状況が、当初続いた。大
用ごはん、おかず缶詰、はし・スプーンのセット」
などを
量の物資が滞留し、避難所に届かないという問題が発生
あらかじめ被災地外でセットして、
供給することである。
した。単に県等の集積所に輸送されただけでは、流れな
3−5
いのであり、これらが連動して避難所に供給するロジス
ライフライン等の外部環境の確保
有事の際に発生するライフライン障害といった外部
ティクスの考え方が重要である。
環境が、物資供給に大きく影響する。電気、ガス、水道、
3−3
交通インフラ、情報ネットワークの障害、さらに今回の
官民の連携と民間資源の活用
国土交通省は、震災に対応したロジスティクスに関
震災では、ガソリン、軽油といった燃料の途絶が、物流
する提言を取りまとめており、特に、国、地方自治体だ
業務を行う上で大きな障害となった。大手物流事業者あ
けでの対応には限界があり、管理、具体的なオペレーシ
るいは協同組合などでは、インタンクを持っている場合
6
MHジャーナル
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4年7月
災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方
が多いものの、その備蓄量は限られており、時間の経過
しかしながら、被災した物流拠点機能を他の拠点でバ
とともに不足した場合が多い。緊急救援物資を輸送する
ックアップするのに手間取り、商品供給が停滞した事例
事業者については、優先的に燃料が供給されたものの、
も多くみられた。その背景として、物流拠点の集約化が
多くの事業者は確保に困難を極めた。また、ガソリン不
あり、その拠点が被災した場合に、近隣に物流拠点がな
足は運転手確保も困難にした。このように、燃料確保が
く、代替が難しい。さらに、物流拠点のアウトソーシン
大きな課題であり、インタンクの設置、燃料確保の優先
グ、専用化の動向もあり、代替がきかないという問題が
順位の明確化などが課題となる。
深刻になった場合もある。他の物流拠点で代替がすぐに
道路については、幹線道路を中心に比較的復旧が早
できるパックアップ体制の強化が課題となっている。一
く、東北自動車道において通行制限を厳しくしたことか
方、在庫圧縮の問題もある。各企業は、多頻度小口、ジ
ら、緊急車両の通行もスムーズにいった。今後、通行制
ャストインタイムで補充することを前提とした在庫圧縮
限のあり方、緊急通行車両の手続きなどが課題となって
を図っている。
そのため有事の場合は、
その前提が崩れ、
いる。一方、情報通信ネットワークの途絶は、需要情報
欠品が発生した。
の伝達、車両の手配、道路状況の確認などに大きな障害
さらに、自動化、機械化された物流拠点において、商
をもたらした。情報通信手段の確保が大きな課題となっ
品が荷崩れし、物流機器が動かせない、情報システムが
ている。
正常に動かない、情報通信システムのバックアップ体制
ができていない、情報通信手段が確保できないために、
4.企業のリスク対応からみたロジスティクスの課題
東日本大震災以降、各企業はBCPを見直し、災害発生
時などの有事の際に、サプライチェーン、ロジスティク
物流拠点全体の機能が止まってしまうなど、有事の際の
脆弱性が明らかになった面もある。
4−2
東日本大震災以降のロジスティクスにおける
リスク対応の動向
ス機能を確保し、早期に復旧するためのリスク対応を、
東日本大震災以降、図表.
3のように、サプライチェー
推し進めている。ここでは、各企業が実施しているロジ
ン、生産体制、ロジスティクスシステムについて、分散
スティクス面でのリスク対応、信頼性向上に向けての見
化、代替システムの構築、在庫水準の見直し、情報シス
直しの動向を明らかにする。
テムのバックアップといった動向がみられる5)。本稿
4−1
では、
ロジスティクスシステムの動向について、
整理する。
企業ロジスティクスの東日本大震災での対応状況
大規模な物流拠点は、臨海部に立地している場合が
①物流拠点の分散化
多いため、
津波により、
甚大な被害を受けた場合も多い。
震災以降、従来行ってきた効率性追求による統合、
そのため、商品供給が停止、代替ルートによる供給を行
集約化傾向を見直し、逆に物流拠点の分散化を図る動き
わざるをえなかった。例えば、大手スーパーでは、東北
がみられる。首都圏においても、首都圏中央連絡自動車
だけでなく関東の物流拠点も被災したことで、震災直後
道周辺で進んでいる大型物流拠点への入居企業は、リス
は、中部以西から商品供給をした事例が多い。ナショナ
ク分散、液状化の恐れの少ない内陸部への立地という観
ルチェーンの小売業の場合は、被災地外の自社の物流拠
点からの進出が多い。あるゴム製品メーカーは、従来、
点から供給した場合が多かった。地元の中堅スーパー等
茨城県の工場から西日本に直接配送していたが、リスク
では、製造業、卸売業あるいは共同仕入機構が被災地外
対応として、西日本での物流拠点の整備が必要であると
から商品を供給する事例が多かった。また、他地域の本
し、岡山県に新たな物流拠点を整備する。
来は取引が全くない中堅スーパーから、商品融通された
小売業においても、物流拠点分散化の傾向がみられ
事例もある。しかしながら、通常、被災地外の卸売業等
る。ある大手スーパーは、岡山県内に新たな物流拠点を
と取引がない一般小売店舗においては、ルートが切れ、
開設した。近畿圏で災害が発生した場合の、商品供給の
なかなか商品が供給されないという状況があった。製造
リスクを低減する狙いがあるとし、震災などの影響で関
業、卸売業も、被災地外から商品を供給するという代替
西の拠点が稼働できなくなった場合の代替拠点として、
ルートを使わざるを得なかった企業が多い。
機能することを想定している。
Material Handling Journal No.
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7
災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方
本稿で対象とする範囲
図表.
3 サプライチェーン、生産体制、ロジスティクスにおけるリスク対応の動向
②他の物流拠点での代替
庫を持ち、東北各地のクロスドックのセンターに仕分け
東日本大震災では、隣接県あるいは関東の物流拠点
て輸送し、店舗配送をしていた。在庫を持つことによっ
から物資を供給した企業が多くなっている。この時、他
て、供給が止まっても、数日間は在庫で対応できるとし
の拠点でスムーズに機能を代替できる体制を構築するこ
ている。
とが重要である。ある食品卸売業では、震災直後、計画
④機械化、自動化の見直し
停電により使用できない物流拠点が発生し、さらに平時
機械化、自動化された物流拠点において、機器の故
の2∼3倍、最大では10倍ほどの注文が集中した。物流
障、自動倉庫に保管されていた商品が落下するなど、機
拠点の機能停止、処理量の限界を超えた場合に、他の複
能が停止した事例もみられた。フォークリフトや人手を
数の拠点で機能を代替できる体制をBCPに規定した。
活用した場合、復旧しやすく、自動倉庫と併用する方式
③在庫の積み増し
に切り替えている。重要な商品については、平積みに変
在庫を圧縮しすぎたことにより、リスク対応ができ
なかったという指摘も多く、調達先への在庫積み増しの
更している企業もみられる。
⑤輸送システムの見直し
要請、自社での在庫積み増しの動向もある。震災以降、
輸送システムについても、今回の震災でトラック輸
リスク対応という観点から在庫水準の見直しの動向も顕
送が確保できなかったことから、リスク対応として、共
著であり、企業の在庫が急激に増えている。20
11年1
1
同配送、輸送手段の分散といった対応もみられる。ビー
月の在庫水準は前年同月比で8%増加している。2
0
1
1
ルのライバルメーカーが、共同配送を開始している。震
年7∼9月期の大企業製造業の在庫投資額は前年同期の
災では両社の工場が被災し、トラックの確保も難しく、
2.
2倍に達している。特に、医薬品メーカーは、在庫水
商品供給に支障が出るという事態が発生したのに対し、
準を見直し始めている。あるメーカーでは、在庫を、原
共同配送はリスク対応の強化にもつながる。同時に、鉄
則全製品で、従来の2倍となる6ヶ月分に引き上げ、こ
道輸送を拡大し、輸送手段の多重化を図っている。
れによって生産ラインを再構築するまで供給を続けられ
⑥情報システムのバックアップ体制の強化
ロジスティクスの復旧にあたっては、情報システム
るとしている。
小売業、外食産業でも、在庫積み増しの検討が進んで
の復旧が欠かせない。多くの企業では、情報のバックア
いる。ある大手スーパーでは、東北各県のクロスドック
ップはしているが、さらに他のセンターで情報システム
のセンターで、
商品在庫を持つ仕組みを導入する。
従来、
のバックアップ機能を確保する動きも活発である。トヨ
仙台市の物流拠点が一括して加工食品や日用品などの在
タ自動車は、愛知県豊田市の本社の電算ビルが被災して
8
MHジャーナル
平成2
4年7月
災害発生時におけるロジスティクスの対応のあり方
使えなくなった場合に備え、グループのダイハツ工業と
半は民間に頼らざるを得ないのが現状である。企業のロ
日野自動車のデータセンターにバックアップシステムを
ジスティクスにおいても、取引先との連携、さらに同業
用意し、災害時にも生産指示などを出せる体制を整えて
種間で連携、融通をするといった取り組みもみられる。
いる。また物流事業者も、リスク対応として、データセ
このように、震災に対応して、連携によるリスク対応力
ンターに顧客企業の在庫管理システムのデータを集約
強化の視点が欠かせない。
し、データをクラウドで利用可能なシステムとし、さら
東日本大震災は、甚大な被害をもたらしたが、現在予
に、バックアップ用のセンターも設置する動きがある。
想されている首都直下地震、東海地震、東南海・南海地
震では、より甚大な被害がもたらす可能性がある。避難
5.おわりに
者数は今回の地震を遥かに上回る可能性がある一方、工
場、物流拠点の被害も大きく、交通の大動脈が寸断され
東日本大震災は、ロジスティクスのリスクに対する脆
ることも予想される。このように、今後予想される震災
弱性を浮き彫りにし、リスク対応の重要性を、われわれ
では、物資供給においての需要と供給の関係は、よりひ
に改めて問い直すこととなった。従来、ロジスティクス
っ迫したものになることが予想され、その対応のために
において、まず重視されるのが効率性である。しかしな
も、公共と民間が連携し、平常時とは全く違った有事対
がら、平常時には効率がよく、頑健であるものの、予測
応の体制構築が必要といえる。
できない突然の変化に対しては、対応力が弱いという問
題がある。
このような状況のもと、企業のロジスティクスに対す
る意識も、東日本大震災以降、確実に変化している6)。
参考文献
1)茨城県緊急物資輸送体系の検討委員会(20
1
1「
)茨城
県における緊急物資輸送体系の検討報告書」
震災前は、物流サービスを選ぶ上で重視していたのは、
2)洪京和、矢野裕児(2
01
2「
)緊急救援物資の調達、供
価格、品質・納期、性能の順位であったのに対して、震
給ルート別にみた供給状況と需給バランスからみた課
災後、最も重視しているのは品質・納期であり、さらに
題」
流通経済大学物流科学研究所、物流問題研究No.
57
安心・安全、企業の継続性を重視する率が大幅に上昇し
3)矢野裕児(2
0
1
1「
)東日本大震災での緊急救援物資供
ている。さらに、生産、物流拠点についても、従来、拠
給の問題点と課題」流通経済大学物流科学研究所、物
点集約の傾向が強かったが、リスク対応を考えた拠点分
流問題研究No.
5
6
散化の傾向が現れている。企業は、これまで効率性を徹
底的に追及したロジスティクスシステムを成し遂げてき
4)国土交通省(2
0
1
1「
)支援物資物流システムの基本的
な考え方」
たが、
震災以降、
リスク対応に対する意識を大きく変え、
5)矢野裕児(2
0
1
2「
)ロジスティクスに関する新たな視
様々な方策を講じている。その一方で、単なる拠点の分
点−企業のリスク対応への取組−」流通経済大学流通
散化、在庫の積み増しといった冗長性の確保は、コスト
情報学部紀要Vol.
1
7 No.
1
増につながりかねず、経営効率の観点からみれば、逆行
6)
日本能率協会、日本ロジスティクスシステム協会
「国
するという問題もある。リスクに対応したロジスティク
際物流総合展2
0
1
2に向けた物流関連担当者へのアン
スを構築するため、公共、民間は冗長性と同時に、柔軟
ケート調査」
性を持たせ、レジリエンシー(復元力)があるシステム
お問合せ先
構築を図っていく必要があるといえる。
リスク対応は、各地方自治体単独、各企業単独では完
結しないものであり、かつ被災地と被災地外の連携も重
要である。緊急救援物資供給においては、地方自治体間
で防災協定を結ぶなどの動きが活発になっている。公共
と民間が連携し、民間資源を活用しながら対応していく
ための検討も進んでいる。また、供給物資の調達も、大
流通経済大学 流通情報学部 教授
矢野裕児
〒3
0
1−8
5
5
5 茨城県龍ヶ崎市1
20
TEL:0
2
9
7−6
4−0
0
0
1
E-mail:[email protected]
Material Handling Journal No.
269
9
特 集
●物流面から見た災害対策及び危機管理●
東日本大震災におけるトラック業界の
支援活動と放射線管理
公益社団法人全日本トラック協会
輸送事業部長 礎 司郎
■ はじめに
1.緊急支援物資輸送に伴うトラック業界の支援活動
東日本大震災が発生してから1年が経過し、本災害
をきっかけに改めてトラック業界が震災時に果たす役割
■ 緊急支援物資輸送の経過
の重要性が見直されている。また、本災害は過去に例を
全日本トラック協会(以降「全ト協」と呼ぶ)では、
見ない大規模な災害であるとともに、原子力発電所の事
東日本大震災が発生した翌日の3月12日には緊急災害対
故も重なり過去の対応を全て見直さなければならないき
策本部を立ち上げ、政府(内閣府緊急災害対策本部)の
っかけとなった。
要請により「緊急支援物資輸送」を開始し、5月9日ま
貨物を運ぶ輸送手段としてはトラック、鉄道、船舶等
での5
9日間で1,
9
2
5台のトラック手配を行った。全ト協
様々な手段があるが戸口から戸口までフレキシビリティ
が行った手配状況を図表.
1に示す。
に運ぶことができる手段はトラックのみであり、今回の
東日本大震災でもその機動性が遺憾なく発揮された。
従来の災害では、災害対策基本法により内閣総理大臣
また、原子力発電所の事故に伴う計画的避難区域内で
が指定する国の指定公共機関と、都道府県告示で指定す
の運行を行うために、トラック協会として初めて放射線
る指定公共機関の2種類が有り、国の場合日本通運
(株)
管理に関する基準(目安)が設けられ、対応事業者では
が指定され、都道府県においては都道府県トラック協会
放射線管理を伴う運行が行われることとなった。
または県内の主要な輸送会社が指定されていた。
1.緊急輸送の物資輸送一覧
(政府手配分)
5/91
8:0
0現在
宮城県
福島県
岩手県
茨城県
その他地域
合計
8,
5
8
2,
4
3
1
6,
4
8
7,
0
5
6
3,
7
3
5,
9
5
6
1
5
0,
5
0
8
2
1,
2
0
0
1
8,
9
7
7,
1
5
1
飲料水
(本)
9
7
4,
8
4
7
2,
4
1
6,
7
4
0
8
0
0,
8
5
2
1
1
5,
2
0
6
2
9
4,
3
2
0
4,
6
0
1,
9
6
5
毛布等
(枚)
1
3
6,
8
0
8
5
1
1
8
4,
4
1
2
6,
1
0
0
1
0,
8
0
0
0
4
5
8,
1
5
9
食糧品
(食)
※その他
発電機
(5
6
0台)
トイレ
(5,
2
9
7台)
ラジオ
(3,
0
0
0個)
反射式ストーブ(2,
5
1
0台)
おむつ
(2
5
3,
6
6
9個)
テント
(9
0
0帳)
ポケッ
ト線量計
(8
3
7個)
コート
(6
1,
6
0
0着)
他 多数
2.延べ配送先地点数
延べ輸送先数
宮城県
福島県
岩手県
茨城県
その他地域
合計
7
9
3
6
4
6
5
3
8
4
0
1
5
2,
0
3
2
3.輸送手配台数
政府
(国)
による緊急輸送
1,
9
2
5台
都道府県による緊急輸送
(参考)
5,
6
8
2台
図表.
1 東日本大震災トラックによる政府
(国)
緊急物資輸送について
1
0
MHジャーナル
平成2
4年7月
東日本大震災におけるトラック業界の支援活動と放射線管理
しかしながら、今回の東日本大震災は被災地域が広範
保されていたトラックが緊急支援物資輸送を一手に引き
囲に及んだことと、ブロックの中心地である宮城県その
受ける形となり、全ての依頼が国土交通省貨物課を通じ
ものが被災し近隣地区からの物資調達が困難となったた
て全ト協に集約され、情報を整理した上で改めて全国の
め、初めて政府の緊急災害対策本部(生活支援本部)が
事業者に手配することとなった。手配開始当初は依頼の
国土交通省を通じて一次集積所までの幹線輸送を各モー
流れについて明確に決められたものはなかったが手配を
ド別に関連団体(協会)に依頼し、関連団体が全国の事
行っている中で実務をもとに策定された中期安定輸送プ
業者に依頼するという方式がとられた。
ランが構築されていった。その実オペレーション概念図
災害発生直後は鉄道網、港湾施設もほとんどが被災し
を図表.
2に示す。
使用不可能となっていたため、東北道を始め幹線網が確
生活支援本部
契約
物資調達リストの作成(出荷量・出荷場所・出荷先等、
輸送条件の確定)
国土交通省
物資調達リストの送付
従来の延長上の
トラック輸送
物資調達リストの転送
技術総括審議官
物流政策室
自動車交通局
貨物課
調整
トラック協会
調整
トラック事業者
海事局
内航課
事後報告
内航総連
/旅客船協会
事後報告
内航海運事業者
物流専門家
(トラック、内航、通運、航空)
各モードに振り分けを実施
技術総括審議官
複合物流室
技術総括審議官
複合物流室
事後報告
事後報告
通運連盟
航空貨物
運送協会
調整
調整
通運事業者
JR貨物
航空フォワーダー
物流政策室が、各課室の調整結果をとりまとめ、報告
運送事業者(物資の調達先から各県の物資集積ポイントまでの輸送を担当)
※各物資集積ポイントから避難所までのフィーダー輸送は各県がトラック輸送を手配
図表.
2 中期安定輸送プランの実オペレーション概念図
(実務ベース)
なお、各都道府県地方自治体要請による緊急支援物資
から始まった。
の輸送手配は従来の枠組みとおりであり、各都道府県ト
内閣府からの依頼に基づき全ト協から事業者に手配を
ラック協会及び県内の主要な輸送会社が行うこととする
行い、手配事業者から車両番号と運転手名、携帯電話番
2本立てでの輸送体制が敷かれた。
号の連絡を全ト協が受け、その内容を国土交通省へ連
絡、国土交通省から内閣府を通じて道路公団と警察へ連
■ 緊急車両輸送手配
緊急輸送車両の手配は緊急災害対策本部設置後直ぐ
に行われたが、災害対策基本法第5
0条第1項に規程され
絡がなされ、その結果を手配事業者へ伝達、ドライバー
は最寄りの警察署に出向き通行標章を発行してもらうと
いう煩雑な手順で開始された。
ている災害応急対策を実施するために使用する車両とし
従来の災害では台数も限られており、緊急通行標章を
て、緊急対策本部に車両番号と運転者名と登録すること
発行する警察署も限られていたため本規程に定める手順
Material Handling Journal No.
269
1
1
東日本大震災におけるトラック業界の支援活動と放射線管理
により手配・登録を行っても大きな支障はなかったが、
カ所以上にも及ぶ避難所へ2次、3次配送が行われた。
今回の災害は車両数が多く、また手配地域も全国となっ
全ト協としての依頼は1次集積所までの幹線輸送のみ
たため従来の手順では緊急通行標章の発行が追いつか
であったが、各都道府県トラック協会では地方自治体の
ず、車両の手配・積込みが完了してもトラックが出発出
要請に基づき、一次集積所での管理、及び末端配送を行
来ないということや、道路公団への連絡が行われておら
った。
ず料金所で連絡待ちの状況が発生した。また、手配事業
大きな問題として、大規模な災害を想定した緊急支援
者によっては地域により電話、FAX、メール等の通信
物資の集積所、及び集積所での管理体制が決められてい
手段の確保が困難な場合も多く、結果として連絡がつか
なかったため、受入から在庫管理、末端配送に至るまで
ずに情報確認や登録が遅れ、手配出来ない状態も続い
大きな支障をきたし、今回の災害を機に各都道府県で検
た。
討が行われている。
このような状況を早々に解決するため国交省、警察庁
今後の課題としては、①緊急時の集積所の設定、②物
にスムーズな輸送を行うための要請を行い、下記のとお
流専門家の登録制度と平時の研修・訓練、集積所への早
り短期間に何段階もの緩和が実施された。
期派遣による管理、
③燃料・通信手段、
荷役設備の確保、
・食料品輸送車の警察署での積荷確認不要(車検証の
④末端避難所への配送方法の検討が挙げられる。
写しで確認)
・車検証による一括申請
・料金所での緊急通行標章の発行
・東北・常磐自動車道での大型車通行標章携行不要
・緊急通行標章の廃止 等
また、緊急通行標章とともに手配上大きなネックとな
ったのが燃料不足への対応である。
■ 緊急物資輸送におけるトラック業界の課題
今回の震災を踏まえ、全ト協として下記の事項が重要
と認識している。
①緊急・救援物資輸送に係る車両に対する燃料確保手
法の確立、優先供給順位と供給方法の明確化(石油
業界と行政の連携強化)
。
震災の被害により、東北と関東にある石油元売りの精
②緊急通行車両手続き(標章交付等)の簡素化・迅速
油所9箇所のうち6箇所が操業停止となったことと、東
化、高速道路等の緊急輸送車両優先通行に向けての
北地区のタンクローリーの多くが津波で流され、スタン
警察庁、国交省(道路局)との連携。
ドも停電の為ポンプが動かないことも重なり、供給量が
激減した上に供給不安による連鎖的な燃料不足が拍車を
③緊急物資輸送が円滑に行えるように、各種規制の緩
和措置の実行と迅速化。
掛け、トラック燃料となる軽油の確保に大きな困難をき
たした。
車両の手配はできても帰りの燃料が確保出来ないとの
理由で断られることも多々あり、全ト協として国土交通
省、経済産業省、緊急災害対策本部に対し、早々に輸送
用燃料の確保に関する要望書を提出した。
これにより政府は民間備蓄の放出を表明し、タンクロ
ーリーによる拡大輸送と燃料供給確保措置が実施され、
災害から7日目に緊急支援物資輸送車両用の優先重点ス
タンド設置が公表され、燃料不足は落ち着いた。
2.トラック業界の放射線管理
■ 放射線管理基準の設定
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の爆発後、
当該発電所を中心として3
0㎞圏内が警戒区域として設定
され、全ト協としては当該地域の運行は出来る限り行わ
ないことで指導を行っていた。
しかしながら「計画的避難区域」及び「緊急時避難準
備区域」の設定に伴い、平成2
3年4月2
7日に原子力災害
対策本部より当該地域での運行に関する安全性の説明が
■ 集積拠点と末端配送
政府より依頼され全国から調達した緊急支援物資は、
あり、これを受けて国土交通省自動車交通局より同地域
のトラックの運行についての要請があった。
被災県が設置・指定した集積所に集められた。また、各
全ト協では本要請を受けて放射線管理基準を策定、5
県数箇所の一次集積所に集められた物資は、延べ2,
0
0
0
月2日に全国の事業者宛に同地域で運行を行う運転者、
1
2
MHジャーナル
平成2
4年7月
東日本大震災におけるトラック業界の支援活動と放射線管理
及び作業者の放射線管理について本基準をもとに安全管
月より1年間で4
5回の講習を実施、延べ2,
5
0
0名の事業
理を行うよう周知徹底を図る文書を発信した。
者への指導、説明を行った。
4月27日の原子力災害対策本部文書による説明内容
講習資料については、警戒区域や暫定規制値の設定・
は、100mSvまでは人体に影響は見られないのでその範
変更に伴い約9
0回の改訂を行い現在に至る(現在も講習
囲で放射線管理を行えば問題無しとの内容であったが、
資料については全ト協ホームページに月1回の改訂で掲
全ト協としては全ての運転手、及び作業者の安全を最優
載中)
。
先し、ICRP勧告値、及び法令に定める線量限度に基づ
また、事故発生から半年の間は被ばく測定を行う測定
き、年間1mSv以内の被ばくを限度として管理を行うこ
器の入手も困難であったため、全ト協では3
0
0機の個人
とを基準として指導を行った。
被ばく線量計を用意し、1年間無償で事業者に貸し出し
一般的には100mSvまで身体への影響は見られないと
を行った。
されているが、人が居住できるとして国が暫定的に設定
講習を行って感じたことは、ほぼ全ての人が放射能と
した線量限度である20mSv/年を超える恐れがあるこ
放射線の区別もつかない状況で当然放射線の知識はゼロ
と。また、妊娠している女性、妊娠可能な女性、及び未
に近く、講習の冒頭で「人体に影響を与える数値はどの
成年者等への線量限度は図表.
3のとおり国の法規制値で
くらいですか」
「あなたが危ないと判断する放射線の基準
もさらに低い数値が定められており、その中でももっと
は何ですか」等の質問を行っても、まったく検討外れな
も低い線量限度となる妊娠している女性の線量限度であ
回答がほとんどで、正解に近い回答を得られたのは1%
る2mSv/期間を超えて作業を行わせることは安全が確
以下という結果であった。
保できるとは判断できないため、一般公衆と同等の年間
そのような知識の中で、食品やがれきの受入を含む
1mSv、及び2
0μSv/h(運転席)を基準として決定した。
様々な放射線に関する間違った意見が出され、一般市民
による活動が行われているのは、まだまだ行政の国民に
適
用
実効線量
等価線量
眼の水晶体
皮膚
妊娠中女子腹部
表面
線 量 限 度
対する説明が足りないことを実感する。
放射線業務従事者
一般公衆
平成2
4年4月からは警戒区域の一部が解除され、避難
100mSv/5年
50mSv/年
女子 5mSv/3月
妊娠中の女子
1mSv/期間(内部被ばく)
1mSv/年
指示解除準備区域での運行についても4月2
7日に新たな
150mSv/年
500mSv/年
2mSv/期間
15mSv/年
50mSv/年
要請が行政より通知されており、トラック協会としても
益々正しい放射線管理の基礎知識の普及について努めな
ければならないと考えている次第である。
図表.
3 線 量 限 度
お問合せ先
公益社団法人全日本トラック協会
輸送事業部長 礎 司郎
〒1
6
3−1
5
1
9
■ 放射線管理に関する講習・指導
放射線管理基準を策定し全国のトラック事業者へ文書
発信を行ったが、なかなか事業者が理解することは難し
く、本当に安全なのか否か判断出来ない事業者も多々あ
東京都新宿区西新宿1−6−1 新宿エルタワー1
9階
TEL:0
3−5
3
2
3−7
2
4
4 FAX:0
3−5
3
2
3−7
2
3
0
E-mail:[email protected]
URL:http://www.jta.or.jp
ったため、福島県を始めに全国のトラック協会で昨年5
Material Handling Journal No.
269
1
3
特 集
●物流面から見た災害対策及び危機管理●
日産は地震からサプライチェーンを
どのように復旧させたか
日産自動車株式会社
SCM本部 部品物流部 部長
尾上
1.2
0
1
1年3月1
1日
(金)
清
2.3月1
2日
(土)
2
01
1年3月11日東日本を襲ったマグニチュード9.
0の
翌日(土曜日)1
1時から横浜グローバル本社8階に志
大地震と大津波は言うまでもなく多くの部品サプライヤ
賀COO以下役員も集まり、ここから我々の戦いは始ま
ーの工場を破壊し、日産の2つの工場に甚大な損害を与
った。私は国内の生産部品物流と輸出入の部品物流を担
えた。そしてその4日後1
5日に静岡県東部を襲ったマグ
当しており本拠地は横浜の本牧ある。本牧の事業所では
ニチュード6.
2の地震はまさに裾野の広い自動車産業の
若干の建物の損傷や一部に液状化があったものの幸いに
息の根を止めるかのような連鎖の災害として我々に襲い
オペレーションには大きな影響はなかった。しかしなが
かかった。静岡の地震は今では大きく取り上げられる事
ら地震発生以降STOPしている物流網の状況確認と今後
はないが、日産のオートマチックトランスミッションの
の対応を考える為に私は本牧へ向かった。東京から横浜
製造を担当するJATCOの富士宮工場に大きな損害を与
への道路も特に問題はなく無事に着いたのだが、TVで
え、その後の日産の生産に大きな影響を与える火種とな
流される地震直後の生々しい津波の映像、日立港で燃え
った。また3月11日の地震と同様に静岡周辺の部品サプ
る車の山、それでもまだ我々には生産が継続できるのか
ライヤー各社にも少なからず損害を与えると共に、東西
何も分からない。現地の状況と我々の居る場所での隔た
日本を結ぶ陸送ルートの要である東名・中央高速道路や
りは大きすぎる。この時点で我々が出来た事は輸送途上
主要幹線道路の通行にも大きな影響を与えた。これはま
の部品や近隣の倉庫にある在庫がどのくらいで、輸送会
さに最新の輸送機器を活用した物流網により便利この上
社のトラックがどこにいるのか?ドライバーは無事か?
ない現代社会生活に対して投げられた試練であり、それ
走行できるのか?であり、その後ガソリンを補給するの
は災害に対する救援活動さえも容易にはさせてくれなか
に何時間も待たなければいけなかったり、静岡で次の地
ったのである。
震が起こるなど知る由もなかった。
とりあえず、部品輸送を可能な限り早く再開し、ある
3月11日15:00過ぎには日産の横浜グローバル本社8
だけの部品をサプライヤーから運び出し、国内の工場へ
階に災害対策本部が設置され、各事業所の被害状況の確
輸送することと、本牧をはじめとする日産のIPC(Inter-
認とあらゆる情報の収集が始まった。いわき工場が大き
national Parts Centr;部品輸出センター)から部品をコ
なダメージを受け生産継続不可能、栃木工場でも大きな
ンテナ積めして海外の2
0ヶ国以上の生産工場へ送り届け
損害が報告される中、11日当日我々は完成車の輸送や部
る事だった。
品の輸送にどのような影響があるのか、今後何が起こる
しかしながら、多くの栃木以北の多くのサプライヤー
のか知るよしも無かった。皆が帰宅難民となり、本社に
からの納入は止まり、また3月1
5日に発生した静岡県東
取り残されたりする中、私は幸いにも22時30頃に動き出
部地震により物流網も混乱していたために結果的に部品
した電車に乗って帰宅することができた。
の輸出業務は3月1
5日∼1
8日まで4日間完全に止めるざ
1
4
MHジャーナル
平成2
4年7月
日産は地震からサプライチェーンをどのように復旧させたか
るを得ない結果となった。また、国内の工場についても
ンテナ積め)を開始するが、上手くゆかない。部品は未
当面は在庫でやりきり生産を継続した後に、数日間∼数
納だらけでコンテナには空きスペースが目立つ、「こん
週間止めざるを得ないことになった。今回は特に日産の
なので出荷できるのか!」
「部品が遅れて入っててきても
生産の4分の3を占める海外工場への部品物流にフォー
置き場所がない!」
「部品が揃ってからでは駄目なの
カスして、日産のSCMがどのように対処し、また何を
か!」
現場では罵声が飛ぶ。ただ、ひたすら
「止めるな、
学んだかを以下に説明する。
頑張れ!」という私の言葉にも不安が感じられる。(い
つまで頑張れといえない・・・)
3.本牧災害対策本部
毎日の様に、役員からは、「今日の遅れは?」
「挽回
は?」
「海外の工場はいつまでもつんだ?」と厳しい声。
翌週3月15日になると続々と部品サプライヤーの被災
残念ながら我々輸出の仕組みは非常に古く、手作業によ
状況が明らかになり、対象のサプライヤーは2次サプラ
る集計作業が多い。これは驚くべきことだが、事実。タ
イヤーの影響を考慮すると当初の4
5社ほどから1
0
0社を
イムリーに状況を説明できないことに加えて、本牧の梱
超え、購買部門は深夜まで代替の2次材料サプライヤ
包倉庫、現場には出荷できない部品が山となる。これは
ー、部品サプライヤーを探し部品供給の可能性を探る。
コンテナのローディング計画の後に遅れて入ってきた部
もちろん被災したサプライヤーや販売会社への救援が最
品や、全部揃わないと出荷出来ないCKDの輸出部品(完
優先であることは間違いない。我々SCMが担当する物
全ノックダウン方式)が溜まってしまうことによる。
流会社のトラックも被災地への救援物資供給のために派
遣する。燃料も本牧日産事業所また生産工場などににあ
るタンクから供給した。このタンクは主に事業所構内を
4.外人記者クラブ
運行するトラック・車両・トレーラーのためにガソリ
3月の下旬、我々は海外との連携強化の為に、手を打
ン・軽油を備蓄しているのだが、この直ぐ後に、ガソリ
った。海外工場のSCM(物流、生産管理)の担当者を
ンスタンドでの燃料不足に陥った時には本牧事業所の従
本牧に呼んだ。目的は海外の生産の状況や部品在庫を彼
業員・協力会社の皆さんにも必要に応じて給油して、通
らが自分の工場とコンタクトして日本の本牧の担当者と
勤への不安を解消すると共に復旧のための仕事に専念で
調整をする。出荷の優先順位を付ける。我々本牧の担当
きるよう配慮した。
者はメールや電話で海外と交信する必要はない。大切な
SCMではこの段階で日本生産継続の重要性と同様に
時間をセーブできる。海外からの支援者は本牧の1つの
海外生産のロスが海外での販売に与える重要性を説き、
会議室を占領し、我々はそこを外人記者クラブと呼ん
いち早く供給を再開できるように本牧に設置した輸出の
だ。彼らは一切我々に頼らない、朝もホテルから自力で
災害対策本部に購買のメンバーを約2
0名置き、部品サプ
通勤、食事も食堂、文句はなし。最も多い時は1
0ヵ国の
ライヤーの生産復旧状況を確認すると共に代替サプライ
メンバーが常駐していた。彼らはのタスクは長期的に工
ヤーとの調整や部品の優先順位をつけを行った。
場の生産を停止して販売に影響を与えない様にするため
ここ本牧から海外に輸出している部品は40フィートコ
に ①生産ラインの残業の抑制 ②土曜日など休日出勤
ンテナ(FEU)で毎日27
0∼30
0本にも及び、納入される
の中止 ③下期などから休日を上期に振り替えるなどの
トラックの数は大小合わせて5
0
0台にも及ぶ。このサプ
稼働日調整 を行った。結果、一部のKD生産国を除き、
ライチェーンを止めない事が我々の大きな使命である。
米国・英国・中国・メキシコなどの大きな生産量の工場
膨大な量の部品のデータを扱いそれから被災サプライヤ
では長期にわたる生産ラインのストップは無かった。
ーの部品を他のサプライヤーに変更(ソーシング変更)
彼らにとっては厳しい仕事だったと思うが、これは災
するにはそのデータ管理がポイント。急遽IS
(Information
害の対応としては大成功であった。誰も部品の取り合い
System)部門と設計開発部門も合わせてデータベースを
をすることなく分け合った。もちろん、きれいごとだけ
構築した。これは後にも大きな役割を果たす。
を言っているのではなく、実際にはKD生産国などから
3月19日に輸出の梱包、そしてバンニング(部品のコ
厳しいフィードバックをもらったのは事実である。しか
Material Handling Journal No.
269
1
5
日産は地震からサプライチェーンをどのように復旧させたか
しながら、日産グローバルとして所謂「部品争奪戦バト
倉庫は何処も一杯だった。多くの外人記者クラブの住人
ル」ならなかったのは、場所が日本だったからかもしれ
や日産の役員にも見てもらい、特に役員は「こんな立派
ない。
な倉庫を幾らで?」と言いたげだったのだが、そこでに
最後まで外人記者クラブにいたのは英国と米国だった
と認識している。もちろん彼らは日産としての大きなマ
ある部品の山と協力会社の皆さんの作業の前では無言に
ならざるを得なかった。
ーケットであったし、特に英国はキャシュカイやジュー
全ての倉庫は6月末で完全に返却し、その役割を終え
クといった車が非常に好調で生産の継続に躍起であっ
た。その大混乱している本牧のみならず、外部借用の倉
た。4月に入ってからか、英人がスコッチを一本差し入
庫の状況は我々の脳裏にはくっきりと焼きついているの
れてくれた。とても嬉しかったが「早くこれをゆっくり
だが、皆がカメラ付き携帯電話やスマートフォンを持っ
飲める日が来るとよいのだが」と返信したの時はまだ先
ているにもかかわらず、誰も写真を取っていなかったの
が見えていなかった。
は不思議だが、その様な余裕もなかったという事だと思
う。
5.チームワーク
遅れて納入した部品や、CKDで揃っていない為に出
6.我々は何をしたのか
荷できない部品は想像を以上だった。我々は残念ながら
我々は地震の対応で、計画を作ってそれを正確に実行
近隣に外部倉庫を借りざるを得ず、本牧エリア、大黒エ
したのではない。状況は刻々と変る、問題はその状況の
リア、そして東扇島の3箇所の場所を3月の下旬には押
変化に応じて、何をすべきかを判断し、正しい仕事をし
さえていた。遅れて納入された部品はできるだけ後にコ
たか、そして、それが出来たかということである。その
ンテナを仕立てて追送したのだが、部品サプライヤーの
場合はかならずしも1
0
0%できたかどうか求められるわ
復旧や代替サプライヤーも全ての数を挽回するには到ら
けではない。では我々は何をしたかをまとめると以下の
ず、必要に応じて空送梱包に作りなおし、空輸で送り届
様になる。
けた。必要に応じてとはいうものの、実際にはかなりの
!組織において
部品を空輸し、結果的に海外の生産影響を最小限にとど
―オペレーションの全権委任(部品物流部長)
める事が出来たのである。しかし、重量部品は空送しな
―海外拠点でSCM業務に携わるスタッフを日本に集
い様にするなど、細かな調整では海外からの支援者が非
常に活躍してくれた。本牧の既存の梱包倉庫、外部借用
の倉庫では協力会社、輸送会社の皆さんが頑張ってい
た。昼夜問わず、GWもほとんど休み無しだった。もち
ろん差し入れは欠かせない。皆をTEAM NISSANとし
ていかに機能させるかがポイントだった。社内では生
産、購買、開発から全ての部署が協力し我々をサポート
してくれた。また言うまでもなく被災した部品サプライ
ヤーや2次サプライヤーが被災して生産が出来なくなっ
た部品サプライヤーの皆さんの生産復旧・供給再開への
賢明な努力に今でも頭が下がる思いである。また海外へ
供給する役割を担う我々の無理な要求にも出来る限り応
えてくれた事にあらためて感謝をしたい。そして、この
時のチームワークが今も続いている。今後、日産の中期
計画Nissan Power 88の達成のために大切な事である事
は疑う余地はない。
1
6
MHジャーナル
平成2
4年7月
合(外人記者クラブ)
―事業再開とサプライヤーの復旧のために専任の人材
を投入(購買/SCMのすみ分け)
―上層役員レベルには適度な(最小限)の報告
!実務において
―生産計画を再構成(休暇を前倒しなど勤務体制、カ
レンダーの変更)
―影響を受けていない部品のサプライチェーンを維持
(サプライチェーンを止めない)
―重量の重く/大型の部品の長いサプライチェーンの
復旧を優先(コストの極小化)
―空送を素早く、賢く、柔軟に利用した(生産影響の
極小化、優先順位付け)
―輸送中在庫を利用可能な部品にするため、物流のリ
ードタイムを削減(清水港利用)
日産は地震からサプライチェーンをどのように復旧させたか
部品ソーシングにおいては更なるRISKの分散を購買
7.結果と継続している取り組み
を中心に行ってゆく中、我々SCMとしては今回学んだ
国内生産も海外生産も一部で部品の供給制約があった
ものの6月半ば以降はほぼ正常化し、その後グローバル
methodを若い次世代のマネージメント層、スタッフに
継承してゆきたいと考えている。
で生産の挽回が着実に進み、結果的に2012年度の当初
のグローバル販売計画を達成することができた。これは
驚くべきことだが、上期前半に失った台数を全て取り戻
すために日産の工場はもとより、部品サプライヤー、輸
送会社、
協力会社の皆さんの努力は図りしれず、
その間、
タイの洪水などで非常に厳しい状況に置かれたものの、
見事にそれに打ち勝てたのはSCMに関わる全ての皆さ
んのTEAMとしての「サプライチェーンを止めない!」
という情熱であったに他ならない。あらためて皆さんに
感謝をもうしあげると共に、これからも継続して柔軟で
お問合せ先
日産自動車株式会社
SCM本部
部品物流部 部長
尾上 清(おのえ きよし)
〒2
3
1−8
5
8
9
横浜市中区錦町8番地 日産自動車㈱本牧専用埠頭
TEL:0
4
5−6
2
1−2
9
0
6
FAX:0
4
5−6
2
1−9
2
8
1
E-mail:[email protected]
的を得た正しい仕事ができるように頑張ってゆきたい。
(新刊のご紹介)
市場流通に関する諸問題
[新増補版] 基本的な企業経営原理の応用について
A.W.ショー 著
丹下博文 訳・論説
定 価:2,500円(本体:2,381円)
B6判 200頁
発行日:2012年1月26日(新増補版発行)
発行書:株式会社白桃書房
マーケティング研究は、「マーケティング論の父」といわれるショーの科学
的・体系的な研究によってその幕が切って落とされたが、本書はその古典的
名著の新増補版である。訳・論説者による2つの論説も収録し、読者の理解
を助ける。
(新刊のご紹介)
地球環境辞典〈第3版〉
丹下 博文 編
定 価:3,150円(税込)
発行日:2012年3月27日
四六判/362頁
発行書:株式会社 中央経済社
基本用語から最新用語まで網羅した入門辞典。eco検定の参考書として
も好適。最新第3版では、社会的責任、自然災害、安心・安全等に関す
る用語を新たに約200項目追加。
Material Handling Journal No.
269
1
7
特 集
●物流面から見た災害対策及び危機管理●
クラウド環境と事業継続計画(BCP)から考える
SaaS型庫内作業支援システム
富士通株式会社
株式会社 富士通アドバンストエンジニアリング
白石
泰浩
1)電力不足による停電(計画停電含む)
1.はじめに
2
0
1
1年3月に発生した震災後、各企業は電力不足対
日本は1980∼200
0年の2
0年間で、マグニチュード5.
5
策に向けて、自家発電装置や無停電電源等を検討してい
以上の地震発生頻度が中国、インドネシア、イランに続
る。しかし、中小企業においては、大きな設備投資とな
く世界第4位という地震大国である。また、地震だけで
り対策が進んでいない状況である。
はなく、台風がもたらす大雨、長雨が原因による地盤災
害でも毎年大きな被害が発生している。
2)データ保持とセキュリティ
企業は、このような自然災害、事故等による被害を受
事業継続の中に、いざという時のためにデータバック
けても、取引先等の利害関係者から、重要業務が中断し
アップがある。
通常は、
外部記憶装置に退避しているが、
ないこと、中断しても可能な限り最短期間で再開するこ
最近では遠隔地へ重要なデータをバックアップする企業
とが望まれるようになってきた。
が増えている。また、データの保持に加え個人情報保護
サプライチェーン構築に伴い、ひとつの企業の製品や
サービス供給停止が、社会経済に与える影響は大きくな
の観点からデータ管理において暗号化などのセキュリテ
ィ対策が必要不可欠になっている。
っている。また、インターネット普及によりグローバル
化が進み、世界経済へも大きな影響を与えることにな
る。このような環境下、各企業は事業継続計画(BCP)
に取り組み始めた。
2005年8月に内閣府より発表された、事業継続ガイ
ドライン(現在は第二版:2
00
9年1
1月)の中でも、情
報システムは事業を支える重要なインフラであると記載
2
011年3月に発生した東日本大震災後、BCPについて
各企業の関心がさらに高まっている。
2.BCPから見たシステム課題
各企業は、ICTの停止が事業継続に致命的な打撃を与
える事は、十分に理解している。
今回は、BCPから見たシステム課題について説明する。
MHジャーナル
近年、システムの種類や複雑さが増加する反面、企業
が合理化を進めた事により運用をサポートするICT部門
の要員が不足している状況にある。
このような環境の中で、2
0
1
1年3月に東日本大震災
が発生し、事業継続として以下の問題があった。
①物流インフラ障害発生時の対策が不十分
されている。
1
8
3)システム早期復旧
平成2
4年7月
②物流システムの地震対策が不十分
③社内体制・役割分担が不十分
3.システムのサービス化とメンテナンス性
BCPの課題を解決するために、各企業はシステムの見
直しを模索中である。このような、背景から生じた需要
に対するための一手段として、クラウドコンピューティ
クラウド環境と事業継続計画
(BCP)から考えるSaaS型庫内作業支援システム
ングやIDC(Internet Data Center)の活用があげられる。
IDCは、一般的に高度なネットワークテクノロジーと
あらゆる災害に備えた堅牢なファシリティ、厳重なセキ
ティ、あらゆる災害に備えた堅牢なファシリティに
より事業継続が可能。
・データセンターでデータを一元管理。バックアップ
作業などシステム管理者の負荷軽減。
ュリティ対策が考慮されている。
また、保守や運用にも充実なサービスが用意されてい
・サーバやOSの更新などを行う必要がなく、常に最
新のサービスを利用可能。
る。
富士通グループでは、IDCを活用したクラウドのイン
フラ基盤から、様々なSaaSサービスを提供している。
・安定した業務運用を実現するため、2
4時間3
65日お
客様からのお問い合わせに物流専門スタッフがサポ
ートサービスを提供。システム管理者の負荷軽減。
4.BCPを考慮したサービス商品のご紹介
2)SaaSサービス利用型のシステム
富士通は、BCPの課題を解決するサービス商品とし
て、モバイルハンディによる庫内作業支援システム
・物流センターが、出荷困難な場合に短期間で他セン
ターに対してサービス提供が可能。
・サーバーやパッケージの購入は不要。月額の使用料
『LOMOS/TM‐SaaS』を発表した。
クラウドとSaaSの採用により、初期コストを抑え、
のみでシステム化が可能。
安心・安全に運用が可能になるサービス商品である。
LOMOS/TM‐SaaSのサービスの特長について説明す
3)モバイルハンディによる庫内運用の実現
・作業現場をモバイルハンディに統一する事で商品知
る。
識、保管場所などのノウハウが無くても運用可能。
・緊急時等による物量増加にも運用形態を変更する事
1)運用・維持メンテナンスコストの削減
・富士通のデータセンターを利用しているため高度な
ネットワークテクノロジーと信頼性の高いセキュリ
で対応が可能。
・リアルタイムな作業進捗、作業実績の把握が可能。
図表.
1 機能一覧
Material Handling Journal No.
269
1
9
クラウド環境と事業継続計画
(BCP)から考えるSaaS型庫内作業支援システム
次に、『LOMOS/TM‐SaaS』の機能のポイントにつ
利用者側によるデータ活用が可能。
KPI(重要業績評価指標)を設定する元情報として利
いて説明する。物流現場の作業支援として、今までに
LOMOS/TMを導入頂いたお客様のニーズを反映し、入
用可能。
荷∼出荷、棚卸、棚移動をサポートし、今回標準提供と
4)利用者毎の設定が可能
利用者毎に異なる管理項目の呼称について、利用者に
した。
合わせた名称で表示することが可能。
例)使用期限、
賞味期限、
ロット№等の名称が設定可能。
1)日付、ロット管理に対応
入荷検品における、日付管理(賞味期限、使用期限)
図表.
1に機能一覧を記述。
やロット管理が必要であるため、入荷検品時にチェック
する事が可能。
5.運用イメージ
2)商品荷姿に対応
LOMOS/TM−SaaSの運用イメージについて説明する。
商品の管理数量単位として、1商品につき3つまでの
荷姿に対応。
①上位システムにて作成された作業指示データ(入荷
予定データ、出荷予定データ)をSaaSサーバーへ
例えば、バラ・ボール・ケースでそれぞれバーコード
の違う商品であっても、正しくチェック。
アップロードする。
②モバイルHHTを活用し、庫内作業を実施する。
③作業実績データをSaaSサーバーからダウンロード
3)作業実績データ活用が可能
する。
作業実績をCSVファイル形式にて出力することで、
お客様 情報センター/IDC等
図表.
2にサービス概要図を示す。
富士通 データセンター
上位システム
・販売管理システム/WMSなど
【テキストデータ】
SaaSサーバー
入荷予定
ロケーション
抽出
物流サービス&サポートセンター
2
4時間3
6
5日
物流専門部隊が
サポート
出荷予定
商品マスタ
作業実績
お客様インターネット窓口
予定/実績データはメール添付、
ファイルコピー、
外部媒体等で連携
お客様 物流センター
作
業
指
示
デ
ー
タ
※
作業指示データ
作
業
実
績
デ
ー
タ
取
込
業
利務
用ア
プ
リ
インターネット
Downlord
Upload
作
業
実
績
デ
ー
タ
作
業
指
示
デ
ー
タ
作業実績データ
無線基地局
プリンタ
Webプラウザ
※データ項目は本サービスに合わせた
ものをご用意戴きます。
モバイルHHT
図表.
2 サービス概要図
2
0
MHジャーナル
平成2
4年7月
入荷検品
ピッキング・棚卸
出荷検品
クラウド環境と事業継続計画
(BCP)から考えるSaaS型庫内作業支援システム
く、お客様のシステム導入による、現場作業標準化・作
6.おわりに
業精度向上やランニングコスト削減への効果も発揮でき
今回紹介した『LOMOS/TM−SaaS』は201
2年3月に
ると確信している。
サービスを開始。すでに数箇所で利用開始し、お客様か
<参考価格>
ら高評価を頂いている。
事業継続計画における効果が期待できるだけではな
基本サービス(月額):標準価格 75,
0
0
0円∼
お 問 合 せ 先
■ 富士通株式会社
■ 株式会社 富士通アドバンストエンジニアリング
民需ビジネス推進本部
ソリューションビジネス推進本部
流通ビジネスソリューション推進統括部
営業推進部
ロジスティクス推進部
〒105−7123
〒1
6
3−1
0
1
8
東京都港区東新橋1−5−2 汐留シティセンター
東京都新宿区西新宿3−7−1 新宿パークタワー
URL : http : //segroup.fujitsu.com/logistics/
URL : http : //jp.fujitsu.com/group/fae/services/solution/logi/
Tel:03−6252−2394
Tel:0
3−5
3
2
4−1
6
0
1
Fax:0
3−62
52−2
86
0
Fax:0
3−5
3
2
4−1
6
5
1
Material Handling Journal No.
269
2
1
特 集
●物流面から見た災害対策及び危機管理●
地震に強い、免震構造のラック式倉庫
∼ 物流システムのリスクを最小化 ∼
株式会社 ダイフク
FA&DA事業部 建築部
部長 中村 良彦
1
99
7年の阪神大震災からすでに1
5年が経ちました。
この地震においてラック式倉庫では格納物の落下が大き
な問題となりました。震災後、当社では、格納物の落下
抑制対策としてラック式倉庫に適した免震構造の開発に
着手、現在5件の構築実績を持っています。開発当初は
多数の引合いがあったものの5件という数字にとどまっ
たのは、震災直後の危機意識が薄れてしまったことが大
きな要因といえるでしょう。ただ、昨年の東日本大震災
ではその影響範囲が広大であり、かつ地震動の継続時間
が異常に長かったためラック式倉庫の格納物落下による
被害が報告され、物流現場では改めて落下対策が注目さ
れることとなりました。数件の引合いがあり、1件は新
たに実施が確定しています。
本稿では、格納物の落下抑制対策として非常に高い効
写真.
1 カートンの落下の様子
果を発揮し、
導入企業からも評価を頂いている当社の
「免
震ラック」についてご紹介します。
度々報告されています。その反面、ラックの構造体とし
ての被害報告はほとんどありません。これはラック独自
1.ラック式倉庫の宿命
の制振効果によるものです。ラック独自の制振効果と
は、格納物の滑りまたは落下により、振動系の有効質量
ラック式倉庫では格納物が棚板等に載せられているだ
が低減されることで固有周期が刻々と変化し、地震動と
けで固定されていません。このため地震によりラックが
の共振が回避されることと、格納物の滑り摩擦で地震エ
振動すると格納物は次第に滑り出し、大きな地震で滑り
ネルギーが吸収されることにより、ラック構造体には一
量が増幅されると棚板等から落下する可能性がありま
定以上の大きな力は作用しないというものです(図
す。また、格納物がパレットの上に段積みされたカート
表.
1)
。つまり、ラック式倉庫の宿命である格納物の滑
ンの場合、積み方によっては中小の地震でもカートンが
りや落下が、結果として地震からラック構造体を守って
落下することがあります。これらの地震振動による格納
いると言えるのです。
物の落下現象(写真.
1)はラック式倉庫の宿命と言わざ
大学)と山内博之氏(建設省建築研究所)のご指導の下
るを得ません。
阪神大震災をはじめとする昨今の大地震においても、
格納物の落下という被害は、程度の大小はありますが
2
2
MHジャーナル
これらの現象については1
9
8
0年、加藤勉教授(東京
平成2
4年7月
に、
(社)
日本産業機械工業会で振動実験を実施し確認を
行いました。
地震に強い、免震構造のラック式倉庫
3.免震構造の考え方
免震構造は、2
0世紀初頭から行われていた橋脚の防振
技術を応用して建物を地動から絶縁したいとする様々な
試みから考案されました。現在、ボールベアリングを敷
設する方式や積層ゴムを土台とした方式などが実用化さ
れています。これらの方式は建物と地面との縁を切れば
地震力は伝わらないという発想から生まれています。究
極のアイデアとしては磁気浮上ですが、精密機械の除振
装置としては実用化されているものの、建築物の磁気浮
上となると現在ではまだ手が届かない夢の話です。
図表.
1 地震応答値概念図
図表.
2に示すように、一般建築物で用いられる免震構
造では、建物基礎と上部構造との間に免震装置によって
構成される免震層が設けられます。免震層の役割は、
2.開発の背景
●柔軟に変形し復元するバネ特性により構造物系基本周
期を2∼3秒程度のやや長周期域に移し、短周期が卓越
阪神大震災を被った当社のラック式倉庫では、ラック
する地震動との共振現象を回避させること、また、●免
独自の制振効果により建て替えや改修を行わなくても建
震層部分に大きな減衰性能を持たせて地震動による入力
物としての継続利用は可能でした。しかし、庫内で落下
エネルギーを吸収し、上部構造へのエネルギー伝達を低
した格納物は、荷の搬出入を担う「ラックマスター」
(ス
減させることにあります。このように免震層に求められ
タッカークレーン 当社商品名)の通路を遮り、身動き
る性能としては、上部構造の荷重を支える「支持性能」
、
が取れなくなりました。建物としては利用が可能でも、
地震時に基礎とは別に変形できる「変形性能」
、地震後
物流システムとしては全く機能しない“箱”と化してし
には元の位置に戻る「復元性能」
、地震エネルギーを吸
まったのです。
収する「減衰性能」が必要となります。
箱から健全なシステムへ復旧するためには、落下した
格納物をすべて庫外に搬出することになり、膨大な費用
と時間が必要でした。その主な原因は手作業が主体とな
ったこと、ラック内部に無駄なスペースがなく作業効率
が非常に低下したことなどがあげられます。とりわけ冷
凍倉庫においては過酷な温度環境の中での作業となり、
さらに作業効率は悪化したようです。
格納物の落下は、その商品価値の損失はもちろんのこ
と、システム復旧に費やす費用・時間の損失、さらには
復旧期間中の営業機会をも損失させます。特に医薬や食
品などを扱う業種では、災害時において緊急に必要とな
る商品を扱うため、社会的な使命を果たすことも出来な
くなります。
当社は阪神大震災で起こったこうした被害を教訓とし
て受け止められた食品流通業A社様から、格納物の落下
対策についてご相談を受けたことを契機に、免震ラック
の開発に本格的に取り組みました。
図表.
2 免震の仕組み
Material Handling Journal No.
269
2
3
地震に強い、免震構造のラック式倉庫
クマスターが一体となり、短周期で“グラグラ”と揺れ
4.免震ラック
る建築床とは切り離されて“ユラユラ”とソフトに揺れ
免震ラック式倉庫も一般の建築物と同様に、土間や構
造スラブなどの床(建築床)の上にアイソレーターとい
ます。このためラックに格納された品物は極めて落下し
にくくなるのです。
う装置で支持された鉄骨床組造の床(免震床)を設けて
二重床とし、その免震床の上にラックを構築します(図
表.
3)
。アイソレーターには低摩擦ボールベアリング式
5.免震ラックの効果は
支承を採用し、360度の柔軟な水平移動を可能とすると
免震ラックの効果については開発時に基礎実験などを
ともに、支承の移動方向に軽い上り勾配を付けること
実施して確認し、そこで得られた免震層の特性をもと
で、最終的には原点に復元するようになっています。ボ
に、個別の案件ごとにラックの地震応答解析を行い「免
ールの入ったすり鉢を揺らすとボールはすり鉢の中を転
震効果の目安」をつかみます。
がりますが、揺らすのを止めるとボールはやがてすり鉢
の底に戻るようなイメージです。
免震効果は免震時と非免震時のラックの応答加速度を
比較して表します。図表.
4に示すグラフは、最近起きて
いる震度6強∼7相当(4
0
0gal)の地震の場合の解析結
果の一例です。通常ラックに比べて応答加速度がラック
最上部では1/5に低減され、最大値でも3
0
0galを下回
るまでに低減されています。前述した19
8
0年の振動実
験から、ラック式倉庫では応答加速度を3
0
0gal以下に抑
えておけば、不安定なものを除いて大抵の格納物は落下
を抑制できると考えています。
地震応答解析に用いる地震波については過去に観測さ
れたものを使いますので、実際にその場所でその時に起
きる地震動の特性とは必ずしも一致しません。地震波は
震源や伝播する地盤、さらに建設地の地盤性状により異
なる特性を示すからです。また、ラック式倉庫の場合は
格納物の充実率や格納状態などによって、ラック式倉庫
図表.
3 免震ラック式の概念図
自体の構造特性が変化します。このため解析に用いる構
造特性と実際の地震時における構造特性が必ずしも一致
ラック式倉庫の場合はほぼ完全に元の位置に戻らない
する訳ではないのです。しかし、それらの不確定な要素
と、免震部分の搬送システムと非免震部分の搬送システ
をカバーするため解析には特性の異なる複数の観測地震
ムの間にズレが生じて移載に支障を来たす可能性がある
波を用い、ラックの格納パターンを変えたケーススタデ
ため、システムを継続利用するためにも「復元性能」は
ィーを行うことで、さまざまなケースについて効果を確
重要となります。その点では、上部構造の自重により原
認して「免震効果の目安」をつかむようにしています。
点に戻る低摩擦ボールベアリング式の支承は、ラック倉
実際の地震発生により効果が確認されたのは、当社の
庫に適した免震装置であると考えています。
納入第1号となるA社様の倉庫です。まずは2
0
0
5年7
また、もう1つの仕掛けとして、地震エネルギーを吸
月2
3日に関東地方で発生した千葉県北西部地震におい
収するダンパーを設けます。ダンパーには摩擦減衰を利
て、A社様の近隣倉庫では荷物の崩れがあったようです
用した摩擦ダンパーや粘性減衰を利用したオイルダンパ
が、A社様の倉庫では全く被害が出ませんでした。A社
ーを用いています。
様の倉庫には免震効果の検証を行うために稼働以来、地
このようにアイソレーターやダンパーなどを組み込ん
だ免震ラックは、地震時には免震床とラックおよびラッ
2
4
MHジャーナル
平成2
4年7月
震加速度記録計を設置していたため、当日の加速度記録
から免震の効果を確認できました。
地震に強い、免震構造のラック式倉庫
図表.
4 震度6強∼7相当の地震応答解析
この地震により同倉庫周辺では震度4∼5弱の揺れが
観測されました。図表.
5は同倉庫でラック倉庫が設置さ
これらの得られた結果から、免震ラックが機能し免震
効果が十分に発揮されたと言えます。
れている建物の4階床面、免震床面、倉庫頂部の3カ所
さらに、昨年の東日本大震災においては、前記より大
・3方向の地震加速度記録の最大値を示しています。普
きな加速度で長周期成分が多い、長時間の地震動を受け
通に床面と固定されたラックの場合、床面の揺れが構築
ることとなりました。記録時間の設定の関係で最大加速
物の頂部では3倍前後に増幅されますが、図表.
5の観測
度時の記録が残っていませんでしたが、移動の記録では
記録ではどの方向においても4階床面と比較してラック
前記の場合1
0mm程度であったものが、最大1
50mm程度
頂部の加速度の方が小さな値となっています。また、地
移動していました。このような状況でも地震後の荷崩れ
震後の目視確認において、免震装置上に稼動以来薄く堆
は殆ど無く、一部荷物のズレを手で修正した程度であ
積した埃が免震装置の移動した軌跡部分だけが掃われて
り、2F、3Fの平置き荷物の崩れもなかったとのこと
いたことや、残留変位計測計が原点を示していたことか
です。近隣倉庫では荷物の崩れが多数発生した中、A社
ら、実際の地震動により免震層が水平移動した後に元の
様の倉庫では建物自体があまり揺れなかったものと思わ
位置に戻ったものと考えられます。
れます。考えられる要因としては上部に設置されている
免震ラックが建屋に対して制震装置のような効果が働い
たことが想定されます。
6.導入企業に学ぶ採用理由
免震ラックの導入企業は、前述の食品卸業A社様のほ
図表.
5 千葉県北西部地震においてA社様倉庫の
地震加速度
か、医薬品卸業1社、電気機器製造業2社など現在計画
中の案件も含めて6社様になります。免震ラック採用理
Material Handling Journal No.
269
2
5
地震に強い、免震構造のラック式倉庫
由の共通点は、「非常時でも商品を提供する」必要があ
は至りません。その障害となっているのは投資費用が大
る商品を扱い、「非常時でも商品を提供し続ける」とす
きいことです。一方、非常に安価に導入できる落下防止
る社会的責任を果たそうとする姿勢です。また、商品価
対策としては、従来からあるパレットストッパーがあり
値の損失、復旧時間・復旧費用の損失などのリスクを回
ます。これは棚板などに1
0mm程度の立ち上がりを設け
避したいという強い意欲が伺えます。
て、パレットが棚から滑り出さないようにする方式です
現在、企業経営において「リスクマネジメント」や「災
が、格納物がパレットごと落ちることを止めるためのも
害時におけるBCP(Business Continuity Plan=事業継続
のであり、パレット上のカートンには何ら効果はありま
計画)
」
を重要視する傾向が強まっています。それは近
せん。現在では、前述した免震ラックとパレットストッ
年、ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)の重要
パーの中間的な選択肢として制振(減振)ラックもライ
性があらためて認識されるようになってきたことによ
ンアップしています。これは免震ラックほどの効果では
り、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会
ありませんが、揺れを軽減しカートンの落下を極力防止
的責任)の考え方にも取り入れられ、その1つとして大
することが可能で、費用を抑えて導入できる方式です。
規模災害などの危機に直面した際にどのように事業を継
物流現場での危機管理意識が高まる中、これらの方式
続するかという具体的な計画をもつことが、複雑な相互
を用意することにより、お客様それぞれのニーズに合っ
依存関係にある現代社会を生きる企業にとり必要不可欠
た対策が選択できるようにしています。それが、お客様
になってきているからです。
の企業活動のリスクマネジメントに貢献するとともに、
阪神淡路大震災から15年、その後、新潟県中越地震、
福岡県西方沖地震、宮城県沖地震と相次ぎ、しばらく落
マテハントップメーカーとしての社会的責任だと考えて
いるからです。
着いた後、昨年3月の東日本大震災が発生しました。地
震に対する防災意識・リスク対策意識は高まってきてい
ます。免震ラックは地震におけるリスク回避・災害時に
おけるBCPの有効なツールの1つとして、今後改めて注
目されるものと思われます。
7.費用を抑えた方式も用意
これまで落下防止対策としては2つの方式でした。免
震ラックは、格納物の落下抑制対策としては現状では最
も効果の高い方式です。ただ、なかなか最終的な導入に
2
6
MHジャーナル
平成2
4年7月
お問合せ先
株式会社 ダイフク
〒1
0
5−0
0
1
4 東京都港区芝2−1
4−5
広報部 部長代理 広報宣伝グループ長
西山 未喜
TEL:0
3−3
4
5
6−2
2
4
3
FAX:0
3−3
4
5
6−2
2
6
2
http : //www.daifuku.co.jp/
講座のご案内
ご好評をいただいている当協会主催の講座「ロジスティクス・MH管理士講座」及び「ロジス
ティクス管理・オペレーション基礎講座」を本年も開催いたします。
両講座ともマテハン・ロジスティクス関係業務の次代を担う方々には最適の講座でございます。
是非この機会に多数の受講者派遣をお願いいたします。
第39期ロジスティクス・MH管理士講座
(平成24年10月23日(火)∼11月27日(火)の内10日間)
本講座は、物流センターにおけるコストの最適化、マテハン(MH)の最適化、見える化を組み込んだ最適な
MH設備と情報システムの構築企画技術を提案するスキルを養います。また人員のマネジメンから見た現場
運用のノウハウを習得し、物流センター企画構築のプロフェショナルを構成する我が国唯一の実践講座です。
本講座の特長&目的
このような方にお勧めします
荷主企業(仮想)のデータ(実際に基づく)による「ケース
スタディ」を通してロジスティクスの企画・構築力を習得!
●3PL・ロジスティクスを担う物流リーダーの方々
短期間に貴社における物流推進リーダーの養成および提
案書作成のノウハウを習得!
●運用設計、設備・情報システム導入企画をする
グループ研修を通して企業・個人間のネットワーク形成
および実践的プレゼンテーション能力を習得!
●自社の物流システムの企画・立案をする方々
物流現場の運用に直結するWMS・改善ノウハウ・マテハ
ンを理解し、システム構築の手法を習得!
提言する方々
1
2
3
4
●企業の物流を担う管理者および物流責任者の方々
現場担当者の方々
●センター業務の改善を経営トップに提案、
●物流拡販のシステム提案を企画する方々
第6回ロジスティクス管理・オペレーション基礎講座
(平成24年11月15日(木)∼平成25年1月17日(木)の内9日間)
中央職業能力開発協会ビジネス・キャリア検定試験(公的資格)講座
ビジネス・キャリア検定試験は、仕事ができる人材(幅広い専門知識・能力を活用して、期待される成果や目
標を達成できる人材)に求められる実務能力を問う能力評価試験であり公的資格試験です。
■特 長
1.
「物流センター」
及び
「輸配送拠点」の現場見学があります。
2.
「ロジスティクス概論」
及び
「建築の基礎知識」の特別講義を行います。
3.
“ロジスティクス管理3級”
と
“オペレーション3級”の講座を同時に受講できる
「パッケージ講座」
を基本とし、
検定試験も同時に受験可能です。
より深く幅広い習得が可能です。
4.日本MH協会ならではの豊富な補助教材を提供。
5.終了後は日本MH協会が開講する物流リーダー養成講座“ロジスティクス・MH管理士講座”の受験資格が得
られ、
受講料の割引を受けられます。
■このような方にお勧めします
★これからロジスティクス関係の業務に携われる方
★ロジスティクスの基礎知識を体系的に学習し、
さらにステップアップを目指す方
★ビジネス・キャリア検定試験の短期合格を目指される方
両講座とも詳細は日本MH協会ホームページへ
http://www.jmhs.gr.jp/
Material Handling Journal No.
269
2
7
連★載
米国マテハン専門誌抄訳
vol.57 (2011.11∼2012.4)
米国の Modern Materials Handling 誌の内容を会員に海外情報として紹介すべく、近着の記事中か
ら選択抄訳と解説を掲載しています。全文記事については、インターネット上でmmh.comをクリック
して原文を読むことができます。
2
0
1
1年1
1月号
○AGVによるトラクタ組立効率化
農業用トラクタを製造するジョン・ディーア社ウォ
ータールー工場(アイオワ州)では、トラクタ運転台
の組立工程において3
5台のAGV(トヨタフォークリ
フト製)をコンベヤの代わりに使用している。
マウスと呼ばれるAGVは高さ2
0
0mmで、運転台底
との間に専用のスキッドを介して運転台床面まで3
0
0
mmという低い高さで搬送する。高さを低くすること
で、運転台の天井までの高さが簡易なステップに乗る
ことで人手が届く範囲となり、
組立アクセスが容易となる。
カート型のAGVにスキッドを置き、AGVからのピ
ンをスキッドに繋げて、浮きあげる。運転台をスキッ
ドに載せてAGV搬送で1
2か所の各ステーションにて
背面パネル、屋根、シート、前面制御パネル、風防ガ
ラス、フェンダーを順次取
り付ける。
AGV導入の結果、労働力
の削減、労働環境の安全性
増加、品質向上が達成され
た。
新DCの心臓部は2つのミニロード用AS/RS(ダイ
フク社製、各1
2アイルと4
4アイル)と、クロスベルト
式ソーターである。ミニロードAS/RSは箱ごとの保管
を行い、箱サイズは8
5
0×6
0
0mmの大型から2
5
0×2
5
0
mmの小型のものまで可能である。モータ駆動ローラ
コンベヤを備えている。クロスベルト式ソーターはモ
ータ駆動ローラコンベヤと幅
の狭いベルトによる包装エリ
アへの出荷レーンへの払出し
コンベヤで構成されている。
出荷レーンは2
6個有する。
2
0
1
2年1月号
○クラウドサービス利用による3PL業のWMS
2
0
1
1年1
2月号
○フィットネスシューズの大規模DCでの
ピッキングの方法
フィットネスシューズを製造・販売するスケッチャ
ーズ社が2億2
5
0
0万ドルかけて新設したDC(ランチ
ョ・ベラーゴ;カリフォルニア州)は取扱量を従来
7,
0
0
0足/hから1
7,
0
0
0足/hに上げ、受入から出荷ま
での間の取扱回数を5
0%減らしたことによって、人員
は半数に減らすことができた。
2
8
MHジャーナル
平成2
4年7月
3PLのRJWトランスポート社ウッドブリッジ(イ
リノイ州)DCでは、1
8の顧客の商品を受入・保管し、
合衆国大陸内4
8州に、4
0
0台のトラック・トレーラー
を使用して配送している。
扱う商品は工業材料から食品まで多岐にわたる。3
PLとしての同社のモットーはカスタマサービスにつ
きる。WMS導入前、同社はエクセルベースでシート
を月ごとに重ねて管理してきたが、顧客ごとに管理方
法が違うこともあり、扱いにくく、間違いやすいもの
であった。そこで同社はウェブサイト(クラウドサー
ビス)を利用したWMSを採用し、在庫、オーダーピ
ッキング、トラッキング、トレーサビリティの状況を
自社のみならず顧客でも監視することができるように
した。これにより利益は倍増したという。
【訳者注:クラウド(cloud)サービス;ネットワ
ーク上に置いたIT機器やデータ、ソフトウエアを通信
回路を通じて利用するもの。
】
2
0
1
2年2月号
○冷凍食品貯蔵庫の自動化
冷凍食品専門の3PL、プリファード・フリーザー・
サービス社新DC(エリザベス;ニュージャージー州)
3,
0
0
0m2は冷凍貯蔵庫で、
は倉庫面積1
6,
0
0
0m2の内、1
残りの3,
0
0
0m2が常時人のいる荷捌場である。従業員
3
0人である。
冷凍貯蔵庫では2
2m高さのAS/RSが照明を遮断した
環境で無人で稼働している。棚数2
5,
0
0
0、2.
4m高さ
のパレット荷を扱う。1
0通路5台のスタッカクレーン
で3台のクレーンが通路交換可能で、2台のクレーン
が冷凍貯蔵庫内のバッファエリアと入出荷場との往復
に使用する。1日の取扱いパレット量は入出荷ともに
1,
0
2
0パレットである。
冷凍貯蔵庫では自動倉庫であるため照明は不要で、
そのため温湿度を一定に保つ効果が生まれる。また、
2
2m高さの電球を換える煩わしさもなくなる。
貯蔵庫と入出荷場との境は高速で動くドアを設けて
倉庫内雰囲気の無駄な交換を防いでいる。
入出荷ドックではスウィングドアを使用し、トレー
ラー導入の際の外気との交換を少なくしている。
ッキングエリアからの通い箱受入、中間レベルはケー
スの受入、空の通い箱を1層目へ払い出す。
これらの改良により、スペース効率の向上及びピッ
キング、包装の効率的運用、フォークリフト運行と別
作業となり、安全な作業が可能となった。
2
0
1
2年4月号
○カナダのコープの省エネ・環境配慮のDC
2
0
1
2年3月号
○既存設備改良により1
5%の出荷量アップ
スポーツ用品の販売を行うBSNスポーツ社ファーマ
ーズブランチ(テキサス州)DCでは、投資予算を1
0
0
∼1
5
0万ドル、移行期間を半年以内の制限で既存設備
改良により生産性を上げた。改良の考え方は既存のプ
ロセス、やり方を変えることであった。また、レイア
ウトを組み直すことにより、自動化機器は少なくても
実施的な改良を達成させた。自動化に関するものは
WMSによる在庫管理とピッキングチケットの発行及
びピッキングモジュール−包装出荷エリア間のコンベ
ヤルートのみである。
従来、ピッキングの階層が1層であったものを3層
構造とした。
1層目は棚、カートンフローラック、2層目はカー
トンフローラック、パレットフローラック、コンベヤ
で構成され、3層目はそれらのバックアップである。
同様に包装エリアも3層構造とし、トップレベルはピ
カナダのコープ協同組合連合サスカトゥーン(サス
カチェワン州)DCでは、省エネ、環境配慮のリサイ
クルを行い、利益を連合及び組合員に還元している。
同センターでは冷凍・冷蔵・乾燥食品をメインに取扱
い、DC内には冷凍・冷蔵倉庫も備えている。
同連合では1
9
7
0年代のオイルショック以来、省エネ
を考慮してきた。現在ではDCの荷捌場内天井に7.
3m
径の大型ファンを設置し、低速で回転させて空気循環
を行い、省エネをしている。その他、人を感知して点
灯する照明システム、レンタルパレット(CHEP)の
使用、電気駆動併用のトラック使用、包装材・ワンウ
ェイ木製パレットのリサイクル、音声システムによる
ピッキングにより、環境配慮、作業環境向上、快適作
業の推進、省エネ・コ
ストダウンによる利益
アップを図っている。
音声システムは特に冷
凍・冷蔵庫内で、厚手
の手袋を着用したまま
でピッキング・登録が
できる作業性向上効果
が生まれている。
Material Handling Journal No.
269
2
9
JMHS ニュース
MHジャーナル発行スケジュール変更のご案内
当協会では、物流革新の未来を予測してロジスティ
クス・MH システムを追い求め、ユーザーとメーカー
をつなぐ物流・MH の専門情報誌「マテリアル・ハン
ドリング(MH)ジャーナル」を年4回発行しており
ますが、過日、当協会の運営全般に関する諮問機関で
ある「運営幹事会」にて平成24年度の各種事業計画並
びに決算見通しについて、審議・報告したところ、会
費収入に占める MH ジャーナルの支出(制作経費)
が大きな比重を占めていることから、発行回数を年4
回から年2回と変更する運びとなりましたことをご報
告申し上げます。
事務局一同、協会ホームページを利用した情報提供
機能の附加等、更なる会員サービスの充実に取り組ん
で参りますので、どうぞ変わらぬご支援並びにご高配
賜わりますようよろしくお願い申し上げます。
日本MH協会事務局
第56回通常総会 報告
第56回通常総会が5月22日(火)、日比谷松本楼に
て、役員・会員過半数の出席をもって開催された。当
日は規約第21条及び第12条により本総会の議長を小山
会長に務めていただき、挨拶後、早速議事に入り、
第1号議案
平成23年度事業報告並びに収支決算報告
の件
第2号議案
平成24年度事業計画案及び収支予算案審
第3号議案
役員の退任及び新任の件
議の件
について審議され、いずれも満場一致で可決された。
総会で挨拶される小山会長
総会終了後、第4回日本MH大賞の表彰式が行なわれた。
続いて、株式会社日本アクセス
常務執行役員の中
井忍氏をお招きし、「日本アクセスの鮮度管理と MH
業界へのお願い」をテーマに特別講演会を行い、その
後は懇親会を開催、盛況の内に終了した。
!日本アクセス
特別講演会の模様
3
0
MH ジャーナル
平成2
4年7月
中井
懇親会の模様
忍氏
JMHS ニュース
第4回日本MH大賞選考結果についてご報告
日本MH大賞/審査委員長
日本 MH 大賞には、MH システム・機器に関するハ
ード部門と情報システムに関するソフト部門があり、
それぞれが研究開発と改善合理化にわかれます。
高橋 輝男
3.ハード部門・研究開発「奨励賞」
【垂直搬送機における蓄電デバイス搭載型電気制
御装置】:ホクショ−株式会社
選考委員会では、応募された内容について、経済性・
垂直搬送機の下降運転時に発生する回生エネルギー
合理性・独創性・安全性・社会的貢献性・将来性など
を利用して発電し、その電力を蓄電し再利用すること
について審査選考を行い、各部門で優秀賞を選出し、
を可能にしました。搬送機の上昇運転起動時に必要と
その中より「大賞」を更に選定致します。
なるピーク電流をカットすることで大幅な省エネを図
4月27日に開かれました審査委員会では、応募者に
っています。大容量の蓄電デバイスと急速充・放電制
よる口頭説明も参考にして慎重に審査選考を行いまし
御装置の開発により実用化されたもので、省電力の追
た結果、下記4件の受賞と決まりましたのでご報告い
求という時代の要求に応えたものという点が評価され
たします。
ました。
★ハード部門・研究開発では、
「優秀賞」1件、
「奨励賞」
★ソフト部門・研究開発では、「優秀賞」1件が受賞
2件が受賞になりました。
1.ハード部門・研究開発「優秀賞」
【台車ストッパー“スペシャルブレーキ”】
:株式
会社ナンシン
となりました。
1.ソフト部門・研究開発「優秀賞」
【ワールドキーパー】:ユーピーアール株式会社
国際貨物輸送における、貨物の位置追跡をリアルタ
勾配のある路面で、確実な制動力を保持する事を目
イムに行うシステムです。位置情報を取得する GPS
的に開発された台車ストッパーです。従来の方式を上
受信機と携帯電話の国際ローミングサービスを利用し
回る高い制動力と耐久性をもつとともに、ロックとロ
て、位置情報が逐次報告されます。さらに加速度セン
ック解除を色違いのペダルを踏むだけで容易に切替え
サーや温度センサーも実装し、輸送中の衝撃や温度も
られ、さらに折りたたんで持ち運ぶ時の操作性を向上
感知して、異常発生時には自動的に E メールで通知
させるなど、実用性の高い製品になっています。価格
をする事も可能にしています。グローバル化が進む国
も従来品と同等に抑え利用者が入手しやすいものに仕
際貨物の監視を総合的に追跡できる点が評価されました。
上がっている点も評価されました。
2.ハード部門・研究開発「奨励賞」
【検査コンベヤ/LED バックライトコンベヤ】:
オークラ輸送機株式会社
コンベアに LED バックライトを組込み、製品に混
入した異物や包装品の接着不良等の検査を可能にしま
した。専用の特殊な LED を採用する事でムラのない
均一な光面が得られとともに、検査目的にあわせて調
光機能も備えています。アルミ製のコンベアと LED
バックライトを組み合わせるアイデアで、省エネ・コ
ンパクト・コストダウンを達成した点が評価されました。
小山会長を囲んで日本MH大賞の受賞者
Material Handling Journal No.
269
3
1
JMHS ニュース
日本MH協会
平成24年度活動方針
わが国は、東日本大震災からの再生という極めて大きな課題に直面しており、
被災地の本格復興が始まる今年は、
国民生活の安定と景気の回復が期待されている。また、昨年来の急激な円高への対策やこれまでの日本の成長を支
えてきた生産や物流等様々なシステムやエネルギー政策などの見直し等、産官民一体となっての再建への取組み
が、早急な課題となっている。
MH 分野においても消費電力の抑制や省エネへの対応を図る一方、企業の社会的責任の向上を図り、社会のニー
ズに対応したより高度なMH技術の開発や生産・物流の改善への取組みが一層求められている。
一方、昨年当会は、MH・物流領域での相互協力・交流を目的に中国最大の物流団体である中国物流購買連合会
をはじめとする中国物流関連4団体との調印を行ったが、本年度は具体的な交流を進め、協会活動のグローバル化
を推進する。
また、協会運営組織を見直し、会員組織並びに事業活動の強化を図る一方、公益社団法人に移行した兄弟団体の
日本包装技術協会との連携を中心にMH・物流関連団体との情報交換・交流を一層推進強化する。
上述の内容を踏まえて、本年度も協会会員の“ためになるMH”諸活動を展開する。
1.行政施策支援事業の推進
低炭素社会の実現に向けてより高度な技術の開発は新しい成長につなげるものとして優先して考え、
より省電力・
省エネ型の物流体制構築に取組んでいかねばならない。
本委員会では、それらに関する行政施策に対し協力、提案活動を引き続き推進する。
2.各種協会事業活動の見直しと再編・強化
会員サービス事業として根強いニーズがある「見学会」、
ユーザーとメーカーとの情報交流を目的とした「MH技
術フォーラム」、各種セミナー、研修会など協会事業活動を全面的に見直し、より会員の「ためになるMH」諸活
動を構築する。
3.役に立つ MH 人材育成事業の推進
中央職業能力開発協会・厚生労働省の公的資格として認知されてきた同協会認定講座「ロジスティクス管理・オ
ペレーション基礎講座」並びに我が国唯一の提案書作成型実践講座である「MH技術管理士講座」の参加者拡大を
図り、企業の役に立つ人材を育成強化する。
4.関連展示会の参展による MH 技術の普及推進
今秋開催される東京国際包装展−東京パック−への協会団体参展を実施し、内外のユーザーに対し「ためになる
MH」を提案する。
5.内外友好団体との連携強化、協会活動のグローバル化の推進
昨年度よりMH・物流の領域で協力協議書を取り交わした中国物流購買連合会傘下の物流諸団体からの訪日団受入れ、
視察団の派遣等を中心に海外友好団体との交流を強化し、我が国のMH物流産業のグローバル化の推進に寄与する。
中国物資貯運協会
物流視察団が来日
当協会では、経験交流活動の一環として、毎年、海外技術交流団の派遣・受入を行っております。昨年2月に我
が国では初となる物流領域で調印を締結した中国最大の物流団体「中国物流購買連合会」の分会にあたる「中国物
資貯運協会」が、さる6月3日(日)から14日(木)
までの1
2日間、視察団が来日されました。以下にスケジュール並
びに参加者の情報をご報告いたします。
3
2
MH ジャーナル
平成2
4年7月
JMHS ニュース
中国物資儲運協会訪日団
平成24年6月3日(日)∼14日(火)
年 月 日
20
12.
6.
03(日)
20
12.
6.
04(月)
2
012.
6.
05(火)
訪 問 先 と 活 動 内 容
北京から東京成田空港へ
終日:当協会にて物流セミナーを開催
・小山会長による歓迎挨拶
・「日本における物流の進化と課題」 当協会副会長
・「日本の物流の概況と物流政策」 !日通総合研究所
・「輸出梱包等の技術について」 日通商事!
・「日通商事の特殊車両とコンテナについて」 日通商事!
終日:当協会にて物流セミナーを開催
・「日本の物流事情について」 日本通運!
・「物流施設を中心としたトータル物流」
「日本における物流関連法規」 日本通運!
夕刻:交流懇親会
高橋
上田
高橋
人見
輝男氏(早稲田大学名誉教授)
実氏
慶氏
眞氏
丸尾
克己氏
土田
久男氏
20
12.
6.
06(水)
AM:物流博物館
PM:日本通運! 品川支店平和島物流センター
20
12.
6.
07(木)
(東京都江東区)
AM:佐川急便! 東雲ロジスティクスセンター
PM:!ニチレイロジスティクス関東 東扇島センター (神奈川県川崎市)
20
12.
6.
08(金)
AM:日本自動車ターミナル! 足立トラックターミナル(東京都足立区)
PM:!豊田自動織機 L&Fカスタマーズセンター (千葉県市川市)
20
12.
6.
09(土)
20
12.
6.
10(日)
(東京都港区)
(東京都品川区)
終日:観光
20
12.
6.
11(月)
PM:山九! 京滋物流センター
(滋賀県野洲市)
20
12.
6.
12(火)
AM:トヨタ自動車! 元町工場
PM:!ダイフク 日に新た館
(愛知県豊田市)
(滋賀県蒲生郡)
20
12.
6.
13(水)
20
12.
6.
14(木)
終日:京都市内及び大阪市内視察
中部国際空港から北京へ 帰国の途へ
2
012年中儲協会日本物流研修名簿(敬称略)
番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
0
1
1
1
2
1
3
1
4
1
5
1
6
1
7
1
8
1
9
2
0
2
1
2
2
2
3
2
4
2
5
2
6
2
7
2
8
2
9
会
社
名
中儲発展株式有限会社本社
中儲発展株式有限会社本社
北京物資学院
中国物流有限会社
中国物流有限会社
中儲発展株式有限会社天津事業部
中儲発展株式有限会社天津新港支社
中儲発展株式有限会社天津経銷支社
中儲発展株式有限会社天津塘沽支社
中儲発展株式有限会社天津物流センター
中儲発展株式有限会社滬閔支社
中儲発展株式有限会社上海呉淞支社
上海中儲国際貨物輸送有限会社
中儲発展株式有限会社瀋陽物流センター
中儲発展株式有限会社沈陽沈北支社
中儲発展株式有限会社瀋陽東駅倉庫
中儲発展株式有限会社瀋陽鉄西支社
中儲発展株式有限会社大連支社
中儲発展株式有限会社鄭州南陽寨支社
中儲発展株式有限会社洛陽支社
中儲発展株式有限会社陝西事業部
中儲発展株式有限会社西安支社
中儲発展株式有限会社西安東興支社
中儲発展株式有限会社咸陽物流センター
中儲発展株式有限会社衡陽支社
中儲発展株式有限会社成都天一支社
中儲発展株式有限会社成都天二支社
中国物資儲運楡次会社
北京中儲物流有限責任会社
姓
付
劉
姜
王
陳
張
董
岳
曹
李
張
張
任
徐
文
呉
樊
田
王
王
王
付
周
王
康
劉
王
常
劉
名
旭 東
鋼
旭
華
淑 貞
振 翔
梅
宜 富
晋 宗
群
政 華
小 波
剛
慶 陽
亮
秀 竜
徳 春
勇
思 猛
明 水
勇
延 偉
涛
暁 軍
恒 寧
迅
健
傑
暁 嵐
職 務(職名)
質押監督管理部マネージャー
物流管理部副マネージャー
准教授
副総裁
事務室主任
物流管理部マネージャー
副社長
党委書記
副社長
社長補佐
社長補佐
物流運営部副マネージャー
社長
社長補佐
社長補佐
社長補佐
副社長
副社長
社長補佐
副社長
社長補佐
副社長
党委副書記
副社長
社長
副社長
社長補佐
副社長
業務管理部マネージャー
Material Handling Journal No.
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