留学記念エッセイ 2013 年 5 月 9 日 三隅田尚樹 2013 年 7 月 1 日より Beth Israel Medical Center Internal Medicine Residency 1.はじめに 多くの先輩医師達がその貴重な足跡を書き残してくれているおかげで、アメリカ臨床留学に関する情報は 比較的容易に得ることができた。そのため、ひとたび臨床留学を目指した後は、USMLE をクリアする過 程において悩むことは多くはなかった。しかし、USMLE を乗り越えた後に実際にポジションを獲得する までの道筋やマッチング応募の際の具体的な手順についてはまだまだ情報が十分ではなく、またその頃は 周りに臨床留学を目指す友人もいなかった私は、さてどうしたものかと思い悩んだ記憶がある。そこで、 ここでは私が経験しアメリカ臨床留学への大きな橋渡しとなった横須賀米海軍病院でのインターンシップ プログラムと、マッチング応募の際のいくつかのポイントについて述べたいと思う。多くの方は N プログ ラムと合わせて一般のマッチングにも応募されると思われるため、参考になれば幸いである。 2.私の背景 私は三重県で生まれ育ち、海外に住んだ経験は無い。そんな私がアメリカの医療に初めて接したのは大学 6 年生の春であった。デトロイトのミシガン小児病院にて 2 ヶ月間の臨床実習を行う機会に恵まれ、アメ リカ人医学生と共に実習を行いアメリカの屋根瓦式の教育システムを経験した。そして豊富な症例数と数 多くの教育機会のあるアメリカで学べば、臨床能力を大きく発展させることができるだろうと感じた。ま た活き活きと働くインド人レジデントの姿を見て自分も頑張ればできるのでは、と思ったのが全ての始ま りであった。そこで早速 STEP1 の問題集を購入したものの、錆び付いた基礎医学の知識と慣れない英語 のせいで、本を開けばいつもすぐに眠くなり、帰国後も一向に進まないまま卒業の日を迎えた。 その後、愛知県のトヨタ記念病院にて 2 年間の初期研修を行った。そこで当時、アメリカでの臨床研修を 修了後に帰国されていた N プログラムの先輩である河合真先生に出会った。彼の情熱溢れる研修医指導に 刺激を受け、またアメリカ式の褒めて育てる教育におだてられて気を良くした私は今度こそは、と再度ア メリカ臨床留学を目指すようになった。が、その後の循環器科後期研修がとても忙しくかつ楽しく、また 心臓カテーテル治療の魅力に取りつかれ、USMLE から遠ざかりこのまま日本で働くのも素晴らしいなと 思った時もあった。そんな頃、かの故スティーブ・ジョブス氏のスタンフォード大学でのスピーチを聞き、 単純な私は再度鼓舞され、やはりやってみようという結論に達した。そして予定より大幅に時間はかかっ たが、何とか循環器科後期研修を終える頃には USMLE の目処がたった。しかし、その後実際にポジショ ンを得るまでの道筋が見えず、また推薦状を書いてもらえるアメリカ人医師もいなかったため、以前より 臨床留学への大きな一歩となると聞いていた横須賀米海軍病院にてインターンとして勤務することとした。 3.横須賀米海軍病院 ・インターンシッププログラムについて この横須賀米海軍病院の日本人インターンシッププログラムの歴史は長く、戦後間もなくから日本人イン ターンを受け入れ、これまでに N プログラム卒業生を含む数多くの日本人医師を育てアメリカ臨床留学へ 1 と導いている。病院 3 階の廊下には歴代の日本人インターンの写真がずらりと並べられており、その前を 通るたびにその歴史の重さを感じた。日本人インターンは毎年 6 人が採用され、随分前はその多くが新卒 の医師であったが、近年は臨床研修の必修化等に伴い新卒は毎年 1−2 名で、それ以外は初期研修修了後や 私のように卒後 5−6 年目という医師も珍しくない。ここでインターンとして働く医師のほとんどが、アメ リカ臨床留学を目指しており、その多くはここで得られる経験と支援を活かし、翌年あるいは数年以内に アメリカでレジンデンシーのポジションを獲得していく。横須賀米海軍病院でインターンとして勤務する ことの利点は数多くあり、ここではそれらについて述べたいと思う。軍病院としての特徴や在沖縄米海軍 病院については谷口俊文先生が 2005 年度の留学記念エッセイにて詳細に書いて下さっているので、是非 参照して頂きたい。 初めにこのインターンプログラムの実際の様子を簡単に説明する。インターンは各診療科をローテートし ながら、それぞれの診療科について学ぶ。内科や外科、小児科、産婦人科等の必修のローテーションが約 6 ヶ月あり、それ以外は自分で選択した科をローテートする。私は内科志望であったため、選択科は全て 内科とし、計 5 ヶ月間内科をローテートした。また 2 週間の休暇と 4 週間の院外での実習も可能な選択期 間が設けられており、直接の提携先はないものの、自身で施設を探せば海外の病院にて実習を行うことも 可能である。またこの期間は USMLE の勉強や面接旅行にあてることもできる。私は野口医学研究所を通 してハワイ大学内科での 1 ヶ月間のエクスターン研修を行った。インターンの日々の業務としては、外来 や病棟においての診察やカルテ記載が主であるが、インターンの判断での処方は行えず、全て指導医に確 認が必要である。つまり実際の業務内容としては、アメリカの医学部 4 年生を想定してもらえば良いかと 思う。また救急外来にて勤務する当直が、月に 6 回程度ある。その他にプログラムディレクターが参加し ての症例検討会が週に 3 回と、各科専門医からのレクチャーが週に 1 回行われる。 ・英語とアメリカ式医療 この横須賀米海軍病院で働くことの利点についてまとめたい。第一の利点は、何といっても英語環境に 1 年間身を置けるということに尽きる。患者さんは軍人とその家族であり、日々の診察やカルテ記載、カン ファランス等の全てが英語で行われる。また年度により異なるが、私たちの代ではインターン同士の会話 も基地内では英語に限定していた。勤務開始当初は 1 日が終わる頃にはそれほど働いていないにも関わら ず、英語で 1 日過ごすだけでどっと疲れがでたが、その環境にも徐々に慣れ少しずつではあるが英語は伸 びていった。今でも聞き取れないことや言葉が出てこないことは多くあるが、この 1 年のインターンシッ プを通して、少なくとも診療において必要なことは多少間違った英語でも何度繰り返してでも、意思疎通 が取れるという少し開き直りのような自信はついた。アメリカで実際にレジデンシーを行う前の準備とし て、非常に良い経験になったことは間違いない。また横須賀米海軍病院は規模が小さく、軍病院としての 特殊性も少しあるが、日々の診療は概して一般的なアメリカの病院と同じであり、アメリカ式の医療に慣 れ親しむことができる。 ・勉強時間 その次にこのインターンシップの利点として、比較的自由な時間を持てるということが挙げられる。当直 が月に 6 回程あるが、それ以外は朝が 6 時や 7 時頃開始と早いものの、多くの科で外来等の業務は夕方ま でに終わる。日本の病院で研修医あるいは後期研修医として勤務していた時と比べれば、格段に自由な時 間は多くなった。この時間を活かし、USMLE の勉強やマッチング応募の書類の準備をしっかりと行うこ とができる。また先に述べた院外選択期間を使い、試験前にまとまった休みを取ることも可能である。私 は横須賀に来てから、STEP2CS を取得した。近年基準の引き上げ等で難化傾向にある STEP2CS を受験 するにあたり、英語で診察のできる米海軍病院で働くことは大きな助けとなる。実際、私は横須賀に来る 直前の 3 月にカプランの CS 講習を受講したが、模擬試験にて当落線上と告げられ、試験をキャンセルし 2 失意の帰国となっていた。しかしその後の米海軍病院での勤務で英語での診察に自信もつき、数ヶ月後に 晴れて合格することができた。また私の同期のインターンの数人は横須賀に来てから USMLE の準備を初 め、1 年で 2 つパスしていった。ただ、その年のマッチングに応募しようと思うと 9 月初旬までにはすべ ての結果を揃える必要があるため、時間があるとは言ってもここにきてから USMLE を全て揃えてその年 に応募というのは実際には非常に困難である。 ・推薦状 もう一つの大きな利点にアメリカ人医師からの推薦状をもらえるということがある。推薦状はマッチング の選考過程において、非常に大きな意味を持つ。なかでもアメリカ人医師からの推薦状は、アメリカのレ ジデンシー応募においてはほぼ必須であり、日本人医師からの推薦状だけではインタビューを獲得するの は非常に難しいと言わざるを得ない。 (但し、これは一般のマッチングへの応募の場合の話であり、N プ ログラムを経ての応募の場合にはこの限りではない。 ) しかしアメリカ人指導医の常駐する極一部の臨床研 修病院を除けば、 日本で勤務しながら推薦状を書いてくれるアメリカ人医師を見つけるのは容易ではない。 また短期間のオブザーバーシップの機会は比較的見つけやすいが、こうしたオブザーバーシップではよほ どのアピールを行わない限り、強い推薦状を書いてもらうことは難しいだろう。そのような中、海軍病院 でインターンとして働けば、指導医と長期間接することができ、日々の診療の中で真面目に働き自身の能 力や情熱をアピールすれば、とても強い推薦状を書いてもらうことができる。 ・5 人の同期 最後に、横須賀米海軍病院で働く利点として、同じ志を持った同期と出会うことができるということが挙 げられる。仲間がいるということは、試験やマッチング応募の数々のハードルを超えていくのにとても大 きな力となる。情報は共有でき、USMLE の勉強に疲れれば飲みに行き、また不安があれば励まし合うこ とができる。日本の病院ではなかなかアメリカ臨床研修を目指す仲間に出会うことは少ないが、ここにく れば仲間が 5 人もいる。また歴史が長く多くの先輩と知り合うことができ、実際に N プログラム卒業生の 中にも横須賀米海軍の先輩が多くいらっしゃる。1 年と短い期間ではあったがここで得たものは多く、卒 業式の後には皆で頑張った 1 年を振り返り、ぐっとくるものがあった。 ・インターンの役割 以上、インターンとして働くメリットを述べたが、病院からインターンに求められることについて述べた いと思う。日本人インターンに求められている職務の中で最も重要なのが重症患者さんの近隣施設への搬 送業務である。横須賀米海軍病院は 47 床と小規模の病院であり、集中治療や心臓カテーテル検査等の高 度医療は行えないため、患者さんがそれらの治療を要する場合には近隣の日本の施設へ搬送する必要があ る。その際に日本の病院に連絡をとり搬送を仲介し、患者さんに英語で説明する、いわば日米の病院間の 架け橋となる役目が求められる。故に、プログラムとしてはインターンに対して、このような役割を果た せるレベルの英語力とコミュニケーション能力を求めている。 このように横須賀米海軍病院に来ることで得られるものは多く、アメリカ臨床留学への大きな一歩となる ことは間違いない。またここで学んだことは実際にレジデントとして働く上できっと役にたつだろう。レ ジデンシー獲得への一歩として、是非この横須賀米海軍病院でのインターンシップを薦めたいと思う。毎 年 7 月から 8 月にかけて 1 週間単位でのエクスターンを募集しているので、興味があれば是非応募して欲 しい。オープンハウスと呼ばれる一日単位での院内見学も 7 月と 8 月に行われている。詳しい情報は横須 賀米海軍病院のホームページに載っているので、 『United States Naval Hospital YOKOSUKA』で検索 して頂きたい。例年、インターンシップへの応募は 8 月中旬が締め切りで、書類選考の後、9 月末に面接 試験が行われる。応募の際には、次に述べるマッチングに準じて書類の準備や面接対策を行うのが良いと 3 思われる。 4.マッチング応募のポイント マッチング応募の詳細については、年度毎に若干の変更もあるため ERAS 及び NRMP の各ウェブサイト を参照して頂きたい。簡単に言えば、書類の登録はすべて ERAS 上で行い、その後のランキングについて は NRMP 上にて行うここになる。ここでは、そうしたサイトにまとめられていないマッチングに応募す る際のポイントについていくつか述べたいと思う。ただし、細かな点は志望科や卒後年数等の各人の状況 によって異なるため、以下は内科志望のマッチング応募時卒後 6 年目の私の経験であると踏まえた上で参 考にして頂きたい。 ・ 推薦状 USMLE 取得後マッチングに応募するに当たり、最初に準備を始めるべきなのは推薦状である。推薦状は マッチングの選考過程において USMLE の点数と並んで非常に重要な要素であり、コネのない外国医学部 出身者が面接に呼ばれる為にはアメリカ人医師からのしっかりした推薦状が必要である。理想的な推薦者 というのは、自分の志望科の著名な医師で臨床の場である程度の期間一緒に働いたことのある先生である が、多くの日本人医師にとってそのようなアメリカ人医師を見つけるのは困難であろう。現実的にはこれ までに何らかの関わりのあったアメリカ人医師に書いてもらえないかお願いし、それが難しい場合には先 に述べた海軍病院を検討するか、海外でのオブザーバーシップの機会を得て推薦状を頼むということにな るだろう。ただし、共に働いた経験が無い場合や短期間のオブザーバーシップの場合には依頼しても断ら れる場合もあると思う。というのも、推薦状が大きな意味を持ち、推薦者にはある程度の責任があるとい うことをアメリカ人医師は理解しているからである。もちろん日本人からの推薦状に意味がないという訳 ではなく、特に初期研修や後期研修を終えている場合にはそのプログラム責任者からの推薦状は、加えて 良いと思われる。プログラム毎に推薦状の数に指定がある場合もあるが、最大でも 1 つのプログラムに送 る事のできる推薦状は 4 通までである。 次に推薦状を依頼する時期についてであるが、マッチング応募の開始日は 2012 年の場合は 9 月 15 日であ った。それに間に合わせる為には、遅くても 8 月末までにはオンラインでのアップロードを完了させる必 要がある。推薦者に少なくとも 1 ヶ月程度の時間を与えるのが望ましいとされており、少し余裕をもって 6 月後半までには推薦者に依頼する必要がある。依頼する場合には自身の履歴書と PS を添え、特に推薦 状の中で述べて欲しいことがある場合には前もって伝えておくといいと思われる。推薦状を依頼する際に は、 「推薦状の中身を確認する権利を放棄」するかどうか(WAIVE と呼ばれる)を伝える必要がある。一 般に WAIVE してある推薦状の方が、より信頼が置けると考えられていることから、多くの応募者は WAIVE する。しかし推薦状に少しでもネガティブなことが書かれていると、プラスにならないどころか インタビュー獲得の可能性を大きく下げるので、万が一その可能性がある場合には注意が必要である。 次に非常に便利になったが、 少しややこしい推薦状のオンラインでのアップロード方法について解説する。 まずは ERAS 上にて推薦者の名前や所属先等の情報を登録する。その後 OASIS に行き、推薦状のリクエ ストという項目から、推薦者にメールを送付する。そのメールには、推薦状のアップロード手順が記載さ れており、それに従えば比較的容易にアップロードできる。ERAS 上にて書面でのリクエストを印刷する こともできるが、メールでのやり取りの方が簡単であろう。推薦者は署名した推薦状を読み取り、PDF フ ァイルにしてアップロードする必要がある。容量は 500kB 超えるとアップロードできない。推薦状がア ップロードされたかどうかは OASIS 上にて確認することができる。ERAS には、オンラインでのアップ ロードであれば 1−2 週間でアップされると記載されており、私の場合も約 1 週間でアップされた。郵送に て推薦状を送る事もできるが、その場合には 6 週間かかると記載があり、また郵送では何らかのトラブル 4 に合う可能性もあるため、特別な事情が無い限りオンラインでのアップロードを強くお勧めする。注意点 としては、一旦推薦状がアップロードされれば、それを消去したり上書きしたりする事はできない。修正 が必要な場合は、修正された推薦状を再度アップロードすると修正前の推薦状の後ろに修正後のものが付 け加えられる。プログラムは修正前後の両者をダウンロードすることになる。そのため、推薦状を依頼す る前に、そこで述べて欲しい事があれば初めから推薦者に伝えておく必要がある。 ・PS(Personal Statement) 次に PS について述べたいと思う。大きいプログラムでは数千の応募が集まる中で、PS がどこまでインタ ビューの獲得に有効かは定かではないが、やはりしっかりした内容と正しい文法で書かれている事が大前 提である。一般に内容としては N プログラムのウェブサイトに書かれている通り、私はどのような人物で、 なぜアメリカで働きたいのか、なぜその志望科を選んだのか、将来の展望について、の 4 つを含むのが望 ましいだろう。文章の長さについても注意が必要である。私が複数のプログラムディレクターの経験のあ るアメリカ人医師に聞いたところ、やはりあまり長いものは好ましくなく、基本的には 1 ページに収まる ように 700 ワードまでが妥当とのことであった。また最初のパラグラフで興味をそそるようなことを書く ようにと多くの本に書かれているが、言うは易く、そこに至るには何度も推敲を重ねる必要がある。PS は面接での話の題材になるため、面接で是非話したいことがあれば触れるといいと思われる。PS が書き 上がったら、必ず複数の医師を含むネイティブスピーカーに添削してもらう必要がある。同じ内容でも少 し言い回しや言葉の選択を変えるだけで、随分洗練された文章になるということが実感できるはずだ。た だし注意すべきなのは、添削を依頼してもその内容自体が良くなるというわけではない。誰から聞いたの か忘れたが、PS とは自分との対話であると聞き、その通りだと納得した覚えがある。まずは自分との対 話を重ね、その内容を充実させる必要がある。また添削者がくれるのはあくまで助言であって、全ての助 言に従う必要はない。数多くの助言を取捨選択し、自分の PS を仕上げるのはもちろん自分自身である。 私は最終の PS が出来上がるまでに、10 人のアメリカ人医師を含むネイティブスピーカーに添削して頂い た。ちなみに PS はプログラム毎に異なる PS を登録することができるが、実際には少なくとも数十のプ ログラムに応募するわけであり、全てのプログラムに異なる PS を書くというのはあまり現実的でない。 特別な思いのあるプログラムや?がりのあるプログラム、あるいはハワイ大学のようになぜそのプログラム かを必ず PS に入れるようにと指定のあるプログラム以外には同じ PS を登録するのが一般的である。 ・CV(Curriculum Vitae) その他に CV と呼ばれる履歴書を ERAS 上にて記入していく必要があり、 これは 7 月 1 日から開始するこ とができる。余談であるが、Curriculum Vitae とはラテン後で「人生の物語」を意味するらしい。ERAS 上でのフォーマットに沿って、連絡先、これまでの勤務歴や論文等について入力していく。時間はかかる が、その都度保存できるのでこつこつ進めていけば、じきに終わるはずである。職務経験の欄では、1000 字以内でその内容を説明する必要がある。なお一度最終登録すると、その後一切変更できないため、最後 のクリックをする前には念には念を入れて確認されたい。MSPE は以前の DEAN’S LETTER に代わる もので、プログラムへの開示は 2012 年の場合には 9 月 15 日の ERAS 応募開始より遅れ、10 月 1 日であ った。MSPE の目的は、美辞麗句の並んだ推薦状ではなく学部内での相対的な評価をプログラムが知るた めである。そのため、その全体の教育レベルが不明である海外医学部出身者の場合には、プログラムは USMLE のスコアや推薦状と比較し、MSPE にはあまり重きを置かないとされているが、それでも出身大 学と連携してしっかり準備した方が良いだろう。 ・いくつ応募すれば良いか さてここからは私が応募した際に疑問に思った点を、いくつか考えて行きたいと思う。初めに、いくつの プログラムに応募すれば良いか。その答えは、 「できるだけ多くのプログラムに」であると思う。というの 5 も、面接が多過ぎれば断ることができるが、想定より少なくかった場合には後で応募を追加しても後に述 べる応募時期との関連であまり有効ではない。そのため、やはり多過ぎるくらいの面接がマッチング成功 の為には望ましいと思われる。もちろん N プログラム単願で行く場合には、この限りではない。USMLE の高得点、若い卒後年数や強力な推薦状は、面接の数を大きく増やすだろう。内科志望の場合には、もち ろんそれらの応募者の強さによるが、多くの日本人応募者が 100 から最大で 200 程度のプログラムに応募 するようである。ちなみに 200 のプログラムに応募すると約 5000 ドルかかる。 ・プログラムの選び方 次にどのように応募するプログラムを選ぶかについてであるが、地道に FRIEDA と呼ばれるレジデンシ ープログラムの情報がまとめられたサイトと、各プログラムのホームページから情報を集めるのが正攻法 である。外国医学部出身者の割合、卒後年数の条件、あるいはアメリカでの臨床経験が必要かどうか等の 情報は FRIEDA では得ることができないため、各プログラムのホームページをあたる必要がある。その 他に MATCH A RESIDENT を初め、いくつか有料でプログラムの情報を提供するサイトがあるが、 情報は不正確なことが多くあった。そのため FRIEDA や各プログラムのホームページで得られない情報 を補完するのには良いが、その情報のみに従い応募するのはお勧めしない。調べるべき点としては、プロ グラムの種類(大学病院、大学関連病院、市中病院) 、プログラムの規模、USMLE の足切り点数、サポ ートするビザの種類、必要な推薦状の数、外国医学部出身者の割合、卒後年数の条件、あるいはアメリカ での臨床経験が必要かどうか、等が挙げられる。またレジデンシーの後にフェローシップを予定している 場合には、過去のレジデントの何割がフェローシップに進んでいるか、またどのようなプログラムに進ん でいるかという点も参考にすると良い。プログラムのホームページにこれらの情報が載っていない場合に は、メールで問い合わせると良いが、返信してくるプログラムは 3 割弱と少数であった。これらの条件と、 自分のスコアや希望する研修に応じて、プログラムを少しずつ絞っていくことになる。初めは途方もない 作業に思えるが、少しずつエクセルにまとめて行けば、数週間で終わると思われる。 ・USMLE の点数等 USMLE の足切り点数は、内科ではおよそ 2 割のプログラムが「なし」としていた。足切り点数を設けて いたプログラムの中では、内科では 200 から 210 前後が多く見られた。中には外国医学部出身者に限っ ては、250 という要求をしているところもあった。しかし点数は足切りをクリアすればそれで良いという 訳ではなく、点数は少しでも高い方が多くの面接を得られる事は間違いない。これから受けられる方には 1 点でも良い点を目指して欲しい。また卒後年数ではおよそ 4 割のプログラムが制限を設けていた。その 制限は 3 年目から 10 年目というところまで様々であったが、一番多かったのは 5 年目までで、制限を設 けていたプログラムの約半数が 5 年目までと指定していた。その他、2 割程度のプログラムが数ヶ月から 1 年までのアメリカでの臨床経験を要求していた。多くのプログラムで在日米海軍病院での勤務をアメリ カ臨床経験と認めてくれると言われているが、私の知る限り公式の情報ではない。 ・応募の時期 次に応募の時期についてであるが、2012 年の応募(2013 年 7 月からのレジデンシー)から ERAS 上での 応募の開始日が前年までの 9 月 1 日から 9 月 15 日に変更となった。応募者は ERAS 上にてプログラムが 自分の応募書類をダウンロードしたかどうかを追跡することができるのだが、実際に私が応募したプログ ラムの半数程度は開始から一週間以内に書類をダウンロードしていた。そして、9 月 18 日には最初の面接 のオファーが届いた。また私が得た面接オファーのほとんどは 10 月後半までに連絡が来たが、中には 11 月に入ってから来たこともあった。このように以前から言われている通り、開始日に応募することが面接 オファーの数を増やすには望ましいと思われる。次に細かな点であるが、面接のオファーが届いたらすぐ に対応することを薦めたい。というのも、面接の枠は基本的に早い者勝ちで埋まって行くため、すぐに返 6 信した方が希望の時期を押さえやすい。また面接のオファーを実際の枠よりも多く出すプログラムも存在 し、そのような場合は返信が遅いと、折角のオファーがキャンセル待ちになってしまう可能性がある。そ のため、最初のうちは全体のスケジュールもわからないままであるが、すぐに返信しオファーの来た順に 面接の予定を入れていくことを薦める。面接の時期は早めが良い、あるいは遅めの方が印象に残って良い 等諸説ある。プレマッチがあった時代には多くのプログラムでは 12 月までにプレマッチのオファーを出 し切っていたため、プレマッチを狙う場合には 12 月までの面接が望ましかったが、今はプレマッチもな く面接の時期はあまり関係ないのでは、と私は感じた。N プログラムに応募している場合には、面接を 1 月に多めに残しておくのが節約の為に良いのではと思う。 ・面接 次に実際の面接について述べるが、私の限られた経験での話であり、またその内容はプログラムにより大 きく異なると思われる。私は種々の書籍やこれまで留学記念エッセイ等を参考に、面接前におよそ 100 の 質問を想定しその答えを考えた。実際の面接では、質問はほぼ全て想定した質問からで、答えに窮するよ うなものは一つも無かった。2012 年留学記念エッセイで大宜見力先生が述べておられる通り、英語力に不 安があってもしっかり予想される質問への回答を準備しておけば面接を乗り切る事ができると感じた。ま たたとえバイリンガルであっても、良く聞かれる質問への答えは考えておくのが望ましいと思われる。た だし注意しなければならないのは、面接は決して一問一答ではなく、あくまで二人の会話である。原稿の 棒読みにならないように注意し、相手の反応や状況に応じて答えを臨機応変に変える等の対応は必要であ る。また基本的には聞かれたことに答えれば良いのだが、それだとなかなか自分のアピールポイントに辿 り着かないことがある。そのような場合にはタイミングを見計らって、自分から話を振ることも必要だろ う。実際の面接において私が心がけたことは、落ち着いてゆっくり話すこと、自信溢れる笑顔でいること、 日本人の謙虚さを控えめにして自分自身をしっかりアピールすること、である。面接は短時間であるがポ ジション獲得への最後の関門であり、この出来不出来で、これまでの USMLE に当てた何百時間の労力が 報われるかどうかが決まる大事な最終ステップである。そのため、入念な準備と多くの模擬面接を行い、 自身の履歴書と PS については何を聞かれてもすらすら説明できるようにして、面接に望むのが大切であ る。これまでに USMLE に注いだ時間を考えれば楽なはずである。 以上、マッチング応募の過程におけるいくつかのポイントを述べた。私の場合は大学病院とその関連病院 を中心に全米 200 余りのプログラムに応募したが、応募時卒後 6 年目であったことと、STEP1 の点数が 平均程度であったことから、予想されたことではあったがトッププログラムからの面接オファーは無かっ た。面接を頂いたプログラムの中ではベスイスラエルメディカルセンターが一番のプログラムであり、迷 うことなく 1 位にランキングし運良くマッチすることができた。N プログラムに加えて一般のマッチング にも応募することでポジション獲得の可能性を上げることができるが、やはり私のように特別なコネやず ば抜けた点数等が無い者にとって、この N プログラムを通してのベスイスラエルメディカルセンターは今 後も大きな希望であり続けるだろう。 5.米国総合内科学会について さて話は変わるが、私は研修医時代に N プログラムの先輩である河合真先生に米国総合内科学会(SGIM: Society of General Internal Medicine)について教えて頂き、症例報告を応募し口演発表を行う機会を頂 いた。 そして何の巡り合わせか N プログラムの面接をして頂いた Burger 先生が SGIM に深く関わってお られ、その話で盛り上がったので、研修医の先生に国外での学会発表の機会として SGIM を知って頂けた らと思いここで紹介させて頂く。 SGIM はプライマリケアを専門として働く約 3000 人の総合内科医からなる学会で、年に 1 度開催される 7 SGIM 総会では総合内科の分野での新しい知見の発表、様々な内容の講義やワークショップ、症例報告な どが行われる。この SGIM 総会は症例報告で参加できる数少ない国際学会の 1 つで、研修医が英語での学 会経験を積むのに適している。私は 2008 年 4 月にアメリカのピッツバーグで開催された SGIM 年次総会 に参加し、世界各国の研修医や指導医の先生と症例を共有し共に学ぶことができ、非常に良い経験となっ た。SGIM では、症例報告は Clinical Vignette と呼ばれ、その特徴は症例毎に具体的なラーニングポイン トが明示され、とても教育効果の高い内容になっているということである。私は研修医時代に経験した衝 心脚気の症例を、 「VITAMIN SAVES LIVES: EASILY TREATABLE HEART FAILURE」と題して発 表した。それでは、実際の応募手順と発表の様子を述べる。 応募の第 1 歩は症例を探すことから始まる。Clinical Vignette に適した症例とは、多くの内科医にとって 教育的な症例であり、一般的な疾患でも珍しい疾患でも入院でも外来でも良く、非常に専門的な疾患でも 初期症状から一般総合内科医が診る可能性のある疾患であれば構わない。 臨床の興奮を教えてくれた症例、 寝る間を惜しんで図書館で調べた症例、どんな教科書よりも勉強になった症例、すぐにでも誰かに伝えた いと思った症例などがあれば最適だろう。 良い症例が見つかったら早速、抄録を書き始める。抄録は、Title、Learning objective、Case、Discussion の 4 つで構成され、字数は合計 3500 字までである。まず Title は「ノカルジア心外膜炎の症例」といった わかりやすいものから、 「An Green Apple in the Chest」といった興味を引くものまで多々あるが、Title で査読者の興味を引くことは採択に大きく近づくだろう。Learning objective ではこの Clinical Vignette を聴くと何を学べるのかという点を具体的に述べる。 Case ではその症例をできるだけ簡潔にまとめるが、 字数制限もあり、詳細に全てを書くことはできないため情報を絞るのに苦労する。Discussion では多少の 文献も交えながら症例について考察する。これまでの Clinical Vignette の抄録は SGIM のホームページ より見ることができるので、是非参考にして欲しい。応募された抄録は、査読者には応募者の国や施設名 は伏せて、症例提示の簡潔さ、症例の臨床的重要度、総合内科との関連性、教育的価値などを総合的に勘 案して採択される。例年応募の締め切りは 1 月初旬までで、1 カ月ほどしてメールにて採否の連絡がある。 なお SGIM は学会員でなくても発表できるので必ずしも入会する必要はない。 待ちに待った採択の連絡が来たら早速、スライドあるいはポスターの製作に取り掛かる。口演発表は発表 10 分、質疑応答 5 分であるので、スライドの枚数は 10 枚から 15 枚程度が適当だろう。ポスターも学会 指定のポスターサイズに合わせて作成するが、文字が多すぎるとやはり読みにくくなってしまうので、画 像や入院経過の表などをうまく使うと理解しやすいポスターに仕上がるだろう。ポスターは作成後に、学 会指定の印刷業者のホームページにアップロードあるいはメールに添付して送ると、当日会場で出来上が ったポスターが渡される。口演発表では緊張し早口になってしまいがちであるが、ゆっくりそして聴衆を 意識して話すようにすると良いだろう。発表後には、座長からプレゼンテーションについての採点も含め た評価とアドバイスがもらえる。いい機会なのでしっかり評価を聞き、今後の参考にしよう。ポスター発 表では所定の時間にポスターを貼り、その前で待機して参加者からの質問に答える。質問は多いが、研修 医も多く参加しており必ずしも答えに悩むような質問ばかりではない。またポスターを見に来る人の中に は、ポスター発表者に知られないように審査者が数名おり、後でポスターの見やすさや内容についてフィ ードバックをもらうことができる。 以上の通り、SGIM は症例報告で参加できる海外での学会発表の経験を積むのに適した学会であり、また 参加することで勉強になることも多い。2014 年は 4 月にカルフォルニア州サンディエゴで開催されると のことである。是非、参加を検討して頂きたい。 8 6.最後に 西元先生を初めとする多くの方の支援を得て、ようやく臨床研修を開始することとなった。西元先生と、 これまでに素晴らしい実績を残している N プログラムの先輩方に深く感謝すると同時に、その歴史を引き 継ぐべく力の限り努力する所存である。そしてアメリカでの臨床研修の後、日本の医療及び循環器診療の 発展に微力ながら何らかの貢献をすることで恩返しをしたいと思う。 私がこれまでに多くの先輩方の言葉、 本やブログから情報を得て刺激を受けてきたように、ここに書いたことが臨床留学を目指す方の何らかの 助けになれば、とても嬉しく思う。 9
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