表.薬剤性腎障害の分類 分類 病態 腎前性急 腎血流・糸球体血流量低下 性腎障害 急性尿細管壊死 ATN(尿細 管細胞毒性による用量依存 型腎障害で浸透圧性ネフ ローゼを除く) 浸透圧性ネフローゼ(細胞膜 腎性急性 を介した浸透圧変化により急 腎障害 性尿細管壊死も伴う) 略名 IS ATN ON 正式英名 ishemic nephropathy acute tubular necrosis 2012年9月14日作成(平田純生) 原因薬剤 NSAIDs(COX-2阻害薬を含む)、ACE阻害薬、ARB、利尿薬、インターロイキン-2、造影剤(イオパミ ドール、イオヘキソール、イオプロミド、イオメプロール)、シクロスポリン、タクロリムス、血管拡張薬(ヒド ララジン、minoxidil、diazoxide、Ca拮抗薬)、β遮断薬、アムホテリシンB、チクロピジン、マイトマイシ ンC アミノグリコシド系抗菌薬、第1世代セフェム(セファロリジン:製造中止)、アムホテリシンB、重金属(シ スプラチン、ネダプラチン)、リチウム、ゾレドロン酸、造影剤(イオパミドール、イオヘキソール、イオプ ロミド、イオメプロール)、マンニトール、低分子デキストラン、バンコマイシン(動物実験)、テイコプラニ ン、NSAIDs(COX-Ⅱ選択的阻害薬も含む)、メトトレキサート、シクロスポリン、タクロリムス、ペンタミジ ン(ベナンバックスⓇ)、カルバペネム(イミペネム、パニペネム、ビアペネム)、ニューキノロン、サル ファ剤、メトキシフルラン、カルバマゼピン、抗HIVウイルス薬(アデフォビル、シドフォビル、テノフォビ ル、ホスカルネット)、コカイン、イホスファミド1、コリスチン、ポリミキシンB、リファンピシン、ミコナゾー ル、フルコナゾール、アシクロビル、オセルタミビル、テガフール、シロリムス、マイトマイシンC、 Chloroquine(ライソゾーム酵素阻害によるリン脂質症)、streptozocin、鉛、カドミウム、水銀、アリストキア 酸、Akebia Species GN 微小変化群(ポドサイト障害 (T-cellも関与?) MCNS 膜性腎症(免疫複合体の沈 糸球体障 着による。ループス様膜性腎 MN 害(ネフ 症もあり) ローゼ症 候群) FSGS 巣状分節性糸球体硬化症 glomerular nephritis minimal-change nephrotic membranous nephropathy focal segment glomerular sclerosis necrotic 壊死性半月体形成性糸球体 NCGN 腎炎(ANCA関連腎炎) crescentic その他の蛋白尿 血栓性微小血管症(内皮/筋 細胞障害) 血管障害 による急 炎症性血管炎(細胞/抗体介 性腎障害 在性) 腎血管炎 動脈周囲炎(免疫反応によ る) 溶血性尿毒症症候群(免疫 反応によるメサンギウム融 解、血管障害により緩徐に進 その他の 横紋筋融解症(ミオグロビン 急性腎障 による腎障害) 害 コレステロール塞栓症*1 FENaが2%以上、尿浸透圧が350mOsm/L以下になる。尿沈渣で 顆粒円柱、尿細管上皮が出現する。尿細管から逸脱するNAG, BMG、α1ミクログロブリン上昇、多尿、尿浸透圧低下、その後、 GFRが低下し腎不全になる。用量依存性薬物が多いため、そのよ うなときには薬物の投与を中止または減量し、対症療法を行う。 TDM対象薬はTDMを実施する。 2週間程度の潜伏期間後に発症、発熱、皮疹、関節痛、などの全 身症状、好酸球増加、血沈亢進、CRP陽性、IgE抗体増加、など のアレルギー様症状を伴い、蛋白尿、血尿あるいは膿尿を伴い腎 機能障害が進行し、尿量減少、浮腫を生じる。尿沈渣で白血球円 柱、好酸球が出現し、急性尿細管壊死と同様、尿中のNAD, BMGなどを測定。ガリウムシンチで腎臓全体に取り込み が認めら れる。高アレルゲン性薬物を中心に原因薬物を検索し、被疑薬物 の投与を中止し、重症の場合にはステロイドを短期間投与する。 NSAIDs(COX-2阻害薬を含む)、リチウム、ペニシリン(アンピシリン)、リファンピシン、D-ペニシラミ 浮腫、蛋白尿、血尿、尿沈渣により赤血球円柱。薬物の投与を中 ン、ヒドララジン、金製剤、カプトプリル、アクタリット、ブシラミン、ロベンザリット、インターフェロンα、パミ 止し、対症療法を行う。 ドロン酸、ホスカルネット、シクロスポリンA、タクロリムス、アセトアミノフェン、アスピリン、水銀、ヘロイン NSAIDs(高頻度に間質性腎炎を合併)、インターフェロン製剤、トリメタジオン、注射用金製剤(まれ; 金チオリンゴ酸ナトリウム)、D-ペニシラミン(まれ)、ブシラミン(まれ) 金製剤(金チオリンゴ酸ナトリウム、オーラノフィン)、チオプロニン、D-ペニシラミン、ブシラミン、抗 TNF-α製剤(インフリキシマブ(レミケード)、エタネルセプト(エンブレル)、アダリムマブ(ヒュミラ)、ゴリ ムマブ(シンポニー))、カプトプリル、NSAIDs(COX-2阻害薬を含む)、リチウム、インターフェロン、ヒド ララジン パミドロン酸二ナトリウム、注射用金製剤(まれ;金チオリンゴ酸ナトリウム)、リチウム、ヘロイン、シロリム 表現型の変化を伴うポドサイト障害で腎不全を合併することが多 ス(濃度依存性) い。早期に発見し薬剤中止とプレドニンおよびACE 阻害薬での 治療が奏効するという報告がある。 プロピルチオウラシル、インフリキシマブ(レミケードⓇ)、D-ペニシラミン、インターフェロン ピュロマイシン、ダウロマイシン、アドリアマイシン、水銀、タリウム(試薬)、エチレングリコール 、銀、ジ オキサン、四塩化炭素、蛇毒、パラコート 、砒素 、無機水銀化合物 、硫酸ジメチル、インフルエンザ HAワクチン シクロスポリン、タクロリムス、マイトマイシンC、キニーネ、結合型エストロゲン(プレマリンⓇ)、5-FU、 thrombic インターフェロン、チクロピジン、クロピドグレル、ベバシズマブ(アバスチンⓇ)、ゲムシタビン(ジェム TMA microangiopathy ザールⓇ)、ソラフェニブ、スニチニブ、インジナビル(クリキシバンⓇ)、オザグレル、バラシクロビル、 ブレオマイシン、シスプラチン、造影剤 inflammatory さまざまな抗菌薬 IV vasculitis ヒドララジン RV renal vasculitis PA periarteritis アンフェタミン、スルホナミド、マイトマイシンC hemolytic-uremic マイトマイシンC、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ゲムシタビン、エベロリムス、イン HUS ターフェロン、シクロスポリン、メルファラン 、ペントスタチン 、ゲムシタビン、リバビリン、キニーネ syndrome MP 濃縮された尿が少量排泄され、GFRが低下する。FENaが1%以 下、尿浸透圧が500mOsm/L以上になる。沈渣は異常なし。薬物 の投与中止または減量し、臨床所見に応じて補液する。 D-マンニトール(高用量)、静注イムノグロブリン(安定化剤として含まれているショ糖が腎障害の原 osmotic nephrosis 因?)、ショ糖、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン(ヘスパンダーⓇ)、造影剤 ペニシリン系抗菌薬(ペニシリンG、アンピシリン、クロキサシリン、methicillin)、セフェム系抗菌薬、カ ルバペネム系抗菌薬、モノバクタム系抗菌薬、リファンピシン、NSAIDs(COX-2阻害薬を含む)、シク ロスポリン、ニューキノロン(特にシプロフロキサシン)、抗てんかん薬(フェニトイン、バルプロ酸、カル バマゼピン)、利尿薬(チアジド系、フロセミド、ブメタニドなどのループ系、トリアムテレン)、アロプリ ノール、サルファ剤(スルファメトキサゾール、トリメトプリムを含む)、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマ acute 急性尿細管間質性腎炎 (免 ATIN tuburointerstitial イシン)、テトラサイクリン系抗菌薬、アミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシン)、オメプラゾール、ラ 疫反応が介在するアレル ンソプラゾール、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、アシクロビル、インジナビル(クリキシバンⓇ)、 ギー性間質性腎炎) nephritis シタラビン(キロサイドⓇ、スタラシドⓇ)、ブレオマイシン、インターフェロン、サラゾスルファピリジン、メ サラジン(5-ASA)、コカイン、エダラボン、アレンドロン酸、バンコマイシン、シロリムス、エフェドリン、カ プトプリル、アザチオプリン、テリスロマイシン、オセルタミビル、rofecoxib、atazanavir、pantoprazole 糸球体腎炎(免疫反応によ る) 臨床経過・検査所見および治療法 miscellaneous proteinuria RM rhabdomyolysis CM cholesterol embolism フィブラート系脂質異常症用剤、スタチン系脂質異常症用剤、コルヒチン、プロポフォール、ハロペリ ドール、シロリムス、テオフィリン、フェニトイン、ニューキノロン系抗菌薬、インターフェロンα-2b、バルプ ロ酸Na、ゾニサミド、コデイン、ベルツレート、ジアゼパム、エタノール、ベンゾジアゼピン系向精神薬、 ケタミン、コカイン、ヘロイン、メサドン、メタンフェタミン,アモキサピン ヘパリン、ワルファリン、streptokinase、ダビガトラン 発熱、微小血管症性溶血性貧血、血小板減少症。蛋白尿も。薬 物の投与を中止し、対症療法を行い、場合により血漿交換を施行 する。 LDHの上昇、ヘモグロビン値の低下。薬物の投与を中止し、対症 療法を行う。 CPKの上昇、尿沈渣で顆粒円柱、尿細管上皮が出現する。薬物 の投与を中止し、軽症の場合、十分な飲水を指導、重症の場合は 生食の点滴により脱水の改善と循環動態の安定を図り、マンニ トール、メイロンの投与により酸性尿下で出現する尿細管障害(尿 酸、シスチン、修酸Ca結石による)を防止する。ループ利尿薬は 尿の酸性化を助長するため要注意。腎機能低下時にはもちろん 血液透析。 発熱、微小血管症性溶血性貧血、血小板減少症。薬物の投与を 中止し、対症療法を行い、場合により血漿交換を施行する。 尿をアルカリ化することによる RTA renal tubular alkalo炭酸脱水素酵素阻害薬(アセタゾラミド、トピラマート、ゾニサミド) リン酸Caが析出 腎性尿崩症(尿細管におけ 炭酸リチウム、セボフルラン、ロベンザリット2Na、アムホテリシンB、フェニトイン、コルヒチン、利尿薬 nephrogenic る抗利尿ホルモン(ADH)受 NDI 腎濃縮障害による尿崩症を来す diabetes insipidus 容体異常による腎濃縮障害) ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ドセタキシル、ビノレルビン、シスプラチン、ネダプラチン syndrome of 、イホスファミド、シクロホスファミド、カルバマゼピン、バルプロ酸Na、エナラプリル、リシノプリル、アナ 電解質異常抗利尿ホルモン不適合分泌 inappropriate フラニール、イミプラミン、フルボキサミン、デュロキセチン、セルトラリン、ミルナシプラン、プロクロルペ 症候群による低Na血症・体 SIADH antidiuretic ラジン、クロルプロマジン、ハロペリドール、ブロムペリドール、リスペリドン、アミオダロン、アモキサピン 内水分貯留 hormone secretion 偽アルドステロン症 尿細管閉塞性腎不全 (遠位 尿細管管腔における結晶析 出・石灰化による尿細管間質 性腎炎、急性尿管壊死、腎 石灰沈着) P-A pseudoaldosteronism 甘草、グリチルリチン、グリチロン錠、強力ネオミノファーゲンC注 抗ウイルス薬(静注アシクロビル、ガンシクロビル、インジナビル(クリキシバンⓇ)、テノフォビル、ホスカ ルネット、cidofovir ,atazanavir、メトトレキサート、サルファ剤(サラゾスルファピリジン、スルファジアジ ン(内服ではないゲーベンクリームⓇ・テラジアパスタⓇ)、メサラジン、トリアムテレン、リン酸ナトリウム (下剤)、ビタミンD+Ca剤の過剰投与、高用量ビタミンC(シュウ酸結晶)、エフェドリン(腎結石)、アセ タゾラミド、造影剤、ボリコナゾール注*、シプロフロキサシン、イトラコナゾール注*、グアイフェネシン (フストジルⓇ)、ジエチレングリコール、orlista、薬物以外では尿酸とリン酸Ca、エチレングリコールの 代謝物のシュウ酸によるシュウ酸Ca結石 エルゴタミン、ジヒドロエルゴタミン、メチルドパ、ピンドロール、ヒドララジン、アテノロール、ペルゴリド、 methylsergide(片頭痛治療薬) 抗コリン薬、オピオイド、、α1受容体刺激薬、ベンゾジアゼピン系薬 白血病、リンパ腫、骨髄腫に用いられる多くの化学療法剤(イマチニブ、スニチニブ、ダサチニブ、ニロ チニブ、ネララビン、ベンダムスチン、ボルテゾミブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、リツキシマブ、レナリ ドミド、クラドリビンなど ) IO intratubular obstruction UO ureteral obstruction urinary 腫瘍崩壊症候群(高尿酸血 症) TLS tumor lysis syndrome 慢性尿細管・間質性腎炎 炭酸リチウム*2、シクロスポリンA、ニトロソウレア系抗がん剤(ニムスチン、ラニムスチン、carmustine、 chronic semusutine)タクロリムス、ロベンザリット、鎮痛薬(アセトアミノフェン、アスピリン、NSAIDs)、シスプラチ CTIN tuburointerstitial ン、鉛、カドミウム、アリストリキア酸(中国製漢方薬の成分)、メサラジン nephritis 腎後性急 性腎障害 尿管閉塞性腎不全(後腹膜 線維化症による) 尿路閉塞 慢性腎障害 腎乳頭壊死(鎮痛薬腎症) その他 原因不明 フェナセチン(製造中止)、アセトアミノフェン、アスピリン、NSAIDs renal papillary RPN necrosis MIS miscellaneous 薬剤の結晶析出による尿路閉塞による水腎症を来す。尿沈渣は 間質性腎炎に近いが正常なこともある。急性尿細管障害を起こす こともある。腎排泄性薬物の場合、腎機能に応じた減量をし、生食 を全投与する。他の腎毒性薬物の併用を避ける。インジナビルは 腎結石を防止するために24時間に少なくとも1.5リットルの水分を 補給すること。 尿沈渣は正常、超音波検査により水腎症。薬物の投与を中止し、 腎内ステント・経皮的腎瘻増設術による尿管内圧を低下させる。 治療開始後12 ~24時間以内で高尿酸血症、高K血症、高リン血 症、低Ca血症が高確率で起こるため 電解質濃度、腎機能検査、 心電図のチェックが必要。水分補給と尿のアルカリ化、アロプリ ノールの投与を行う。 アセトアミノフェン大量投与時には腎のCYPによって代謝され、グ ルタチオンの枯渇時には毒性の強い中間代謝物NAPQIの産生に より肝障害とともに腎腫大、消化器症状などを伴う急性腎障害が 起こることがある。しかし通常は大量長期連用による慢性腎不全 が多い。 エダラボン、オザグレル、テラプレビル、ワルファリン(Kidny Int 80: 181-189, 2011)、ペンタミジン(注 のみでなく吸入でも) P3Aと2B6がイホスファミドの腎毒性を増強 *:動脈壁の粥状硬化巣より. コレステロール結晶が流出し、末梢の小動脈に塞栓としてと.どまることにより全身性に多臓器障害を起こすこと *2:血中濃度上昇に起因するためTDMを実施し、脱水を避ける NAG: N-アセチル-β-D-グルコサミダーゼ、BMG: β2-ミクログロブリン 引用文献 Schetz M, Dasta J, Goldstein S, Golper T: Drug-induced acute kidney injury. 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