2005年度(第20回)大同生命地域研究賞 受賞者の決定および贈呈式の

平成17年7月8日
各
位
財団法人 大同生命国際文化基金
大 同 生 命 保 険 株 式 会 社
2005年度(第20回)大同生命地域研究賞
受賞者の決定および贈呈式の開催
財団法人 大同生命国際文化基金(大阪市西区江戸堀1-2-1、理事長:宮戸直輝)
では、標題の研究賞について、本年度の受賞者を下記のとおり決定いたしました。
つきましては、贈呈式を開催いたしますのでお知らせいたします。なお、受賞者な
らびにこの賞に関する資料を添付いたしますのでご覧ください。
記
1.贈呈式
日時:平成17年7月15日(金)午後2時 ∼
場所:社団法人 クラブ関西
大阪市北区堂島浜1-3-11
電話:06(6341)5031
2.受賞者
1)大同生命地域研究賞(副賞300万円ならびに記念品)
在エルサルバドル特命全権大使
細野
昭雄 氏
2)大同生命地域研究奨励賞(副賞100万円ならびに記念品)
京都大学大学院教授
小杉
泰
氏
東京大学教授
末廣
昭
氏
環
氏
3)大同生命地域研究特別賞(副賞100万円ならびに記念品)
アジア映画研究者
松岡
以上
ご照会先:財団法人大同生命国際文化基金 事務局(橋口・松村)
電話
06(6447)6357
/
Fax
06(6447)6384
大同生命保険株式会社 広報部(市村)
電話
06(6447)6258
2005 年 7 月
大同生命地域研究賞について
1.この賞を設けた趣旨
大同生命国際文化基金は、1985年3月大同生命保険株式会社の創業80周年記念事
業として、外務大臣認可により設立された財団法人であります。その目的は「国際的相互
理解の促進に寄与する」こととし、そのためいくつかの事業を行ってきました。
この賞は、「地球的規模における地域研究」に貢献した研究者を顕彰するもので、様々
な地域の人と文化に対する理解を究極の目的としている点で、本財団の設立目的と一致し
ます。それはいわば国際的相互理解を考える上で最も基礎的な部分を担うもので、医学に
例えれば臨床医学に対する基礎医学にたとえられます。こうした理解に立ち、関係学界の
協力を得て、この賞を創設しました。
2.賞の内容
この賞は、次の3部門で構成されています。
(1)大同生命地域研究賞
多年にわたって地域研究の発展に著しく貢献した研究者1名に対して、賞状、
副賞300万円ならびに記念品を贈呈するものです。
(2)大同生命地域研究奨励賞
地域研究の分野において新しい展開を試みた研究者2名(地域研究賞の該当者が
いない場合、3名とすることも可)に対して、賞状、副賞100万円ならびに記念
品を贈呈するものです。
(3)大同生命地域研究特別賞
対象地域に対する啓蒙、紹介などを通じて国際相互理解を深めるうえで、功労の
あった者1名に対して、賞状、副賞100万円ならびに記念品を贈呈するものです。
3.選考
(1)選考については、本財団が委嘱する選考委員で構成する会議により決定されます。
2005年度の選考委員は次の5名です。
(五十音順)
前国立民族学博物館館長
石毛
直道
氏
国際日本文化研究センター所長
片倉 もとこ 氏
中部大学国際関係学部長
立本
成文
氏
京都大学名誉教授
田中
二郎
氏
大阪外国語大学理事
松原
正毅
氏
(2)候補者の推薦については、全国の大学、研究機関等の研究者に推薦委員を委嘱し、
推薦委員より書面による推薦を受けることを原則とする。
以上
2005年度
大同生命地域研究賞受賞者一覧
◆大同生命地域研究賞
(副賞300万円ならびに記念品)
「ラテン・アメリカ地域研究の推進への卓越した貢献」に対して
ほその
在エルサルバドル特命全権大使
◆大同生命地域研究奨励賞
あきお
細野 昭雄
氏
(副賞100万円ならびに記念品)
「イスラーム政治思想と現代中東地域研究」に対して
京都大学大学院教授
◆大同生命地域研究奨励賞
こすぎ
やすし
小杉
泰
氏
(副賞100万円ならびに記念品)
「東南アジア、特にタイを中心とする経済研究および地域研究」
に対して
東京大学教授
◆大同生命地域研究特別賞
すえひろ
あきら
末廣
昭
氏
(副賞100万円ならびに記念品)
「「映画」を通じたインド理解、アジア理解の普及活動」
に対して
アジア映画研究者
まつおか
たまき
松岡
環
氏
2005年度
大同生命地域研究賞
細野
昭雄
氏
(在エルサルバドル特命全権大使)
1
略
細野
1.現
職
歴
昭雄(ほその・あきお)
:在エルサルバドル特命全権大使
〔勤務先電話番号 (503)2264-6100〕
2.最終学歴
:東京大学教養学部教養学科卒業(1962 年)
3.主要職歴
:1962 年
1965 年
1966 年
アジア経済研究所調査研究部研究員
アジア経済研究所海外派遣員(チリ共和国サンチャゴ市)
国際連合ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(UN/ECLAC)に
出向、開発調査部、貿易政策部、国際経済部経済研究官
(Economic Affairs Officer)
1976 年 筑波大学社会工学系講師
1979 年 筑波大学社会工学系助教授
1989 年 筑波大学社会工学系教授
1994 年 筑波大学副学長
1996 年 筑波大学社会工学系教授
2000 年 神戸大学経済経営研究所教授(神戸大学経済学研究科担当)
2002 年 在エルサルバドル特命全権大使 現在に至る
4.主な著書・論文
①『ラテンアメリカの経済』〔東京大学出版会 1983〕
②『概説メキシコ史』共著〔有斐閣 1984〕
③『ラテンアメリカ危機の構図―累積債務と民主化のゆくえ』共著〔有斐閣 1986〕
④『中米・カリブ危機の構図―政治・経済・国際関係』共著〔有斐閣 1987〕
⑤ Landau, George W. , Julio Feo and Akio Hosono(eds.), Latin America at a Crossroads:
The Challenge to the Trilateral Countries, New York: The Trilateral Commission,
(A Report to the Trilateral Commission: 39), 1990.(邦訳『岐路に立つラテンアメリカ
―日米欧諸国にとっての政策問題』日米欧委員会 1991)
⑥『試練のフジモリ大統領―現代ペルー危機をどう捉えるか』共著
〔日本放送出版協会 1992〕
⑦『ラテンアメリカの国際関係』共編著〔新評論 1993〕
⑧『ラテンアメリカの巨大都市―第三世界の現代文明』共著〔二宮書店 1993〕
⑨『APECとNAFTA―グローバリズムとリジョナリズムの相克』〔有斐閣 1995〕
⑩ Hosono, Akio y Japan Echo (ed.), La Economìa Japonesa en Una Época de Transición,
Madrid (Spain): Japan Echo Inc., 1996.
⑪ Hosono, A. y N. Saavedra.(eds.), La Economía Japonesa sin Misterios: Reflexiones Hacia
América Latina, Lima(Peru) : Centro de Investigación de la Universidad del Pacifico, 1996.
⑫『ラテンアメリカ企業論―国際展開と地域経済圏』共編著〔日本評論社 1996〕
⑬ Di Tella, Torcuato S. y Akio Hosono (compiladores), Japón-América Latina:
La construcción de un vínculo, Buenos Aires (Argentina): Nuevohacer Grupo Editor
Latinoamericano, 1998.
⑭『ラテンアメリカ民営化論―先駆的経験と企業社会の変貌』共編著
〔日本評論社 1998〕
⑮ Hosono, A. and N. Saavedra (eds.), Development Strategies in East Asia and Latin
America, London: Macmillan Press. 1998.
⑯『チリの選択 日本の選択』共編著〔毎日新聞社 1999〕
⑰ Saavedra, Neantro, Akio Hosono and Barbara Stallings (eds.), Regional Integretion and
Economic Development, London and New York, Palgrave, 2001
⑱『米州におけるリジョナリズムと FTA』〔神戸大学経済経営研究所 2002〕
⑲『ラテンアメリカ多国籍企業論』共編著〔日本評論社 2002〕
⑳『ラテンアメリカにおける政策改革の研究』共編著
〔神戸大学経済経営研究所 2002〕
21『ラテンアメリカ経済論』共編著〔ミネルヴァ書房 2003〕
以上のほか、現在に至るまで著書論文多数
5.備
考
:1984 年
経済学博士(東京大学)
2
業績紹介
「ラテン・アメリカ地域研究の推進への卓越した貢献」に対して
まつばら
まさたけ
紹介者:松原
正毅
(大阪外国語大学理事)
細野氏は、東京大学教養学科を卒業後、昭和37年より4年間アジア経済研究所におい
てラテン・アメリカ経済研究に従事したのち、チリ国サンティアゴに派遣された。まもな
く日本大使館の要請により国連ラテン・アメリカ経済委員会(ECLA)に出向し、10
年間にわたり同委員会の調査員としてラテン・アメリカ経済を多面的に研究された。その
間、チリ以外の各地にも頻繁に出張し、多彩な経験を積まれた。その後筑波大学に招聘さ
れ、昭和54年に社会工学系助教授に就任された。国立大学に初めて作られたラテン・ア
メリカ研究機関であるラテン・アメリカ特別プロジェクト研究組織(昭和53−58年度)
の創設と運営にあたっても中心的な役割を果たされた。昭和61年から2年間同大留学生
教育センター長を務め、平成元年に教授に昇任された。また、一貫して、社会工学系(学
部段階)、地域研究研究科(修士課程)、国際政治経済学研究科(博士課程)において、
多くのラテン・アメリカ研究者を養成された。平成3−6年に国際関係学類長、6−8年
に副学長、9−12年に国際政治経済学研究科科長を歴任された。
同氏の専攻領域は、大学卒業後より今日までの約40年間にわたり一貫してラテン・ア
メリカ経済である。経済を主軸としながら、歴史的背景や社会、文化、政治などの諸側面
についても研究を重ねている。経済分野においては、理論とともに、地域研究的手法と知
識の重要性を強調してこられた。平成元年より4年にかけては、日本ラテンアメリカ学会
の第3代理事長を勤められた。このような業績と貢献に対して、アジア経済研究所発展途
上国研究優秀賞(昭和59年)、大平正芳記念賞(昭和62年)、国際交流基金賞・国際
交流奨励賞(平成元年)などを授与されている。
同氏の研究の意義は、明治以来の傾向として先進諸国経済の研究に傾きがちであったわ
が国の経済学の世界にあって、一貫して発展途上国経済の特性解明と現状分析に力を入れ
てこられたことにあると思われる。ここから地域研究の一環としての経済研究、経済研究
の背景としての地域研究という姿勢を確立されたのではないかと考えられる。
同氏の初期の関心は、ラテン・アメリカ経済の停滞の原因を明らかにするため、ラウル・
プレビッシュ(Raul Prebisch)の中心―周辺論、農工間の交易指数の歴史的変遷による資源
移転説などにあり、同氏が国連ラテン・アメリカ経済委員会への出向を決断されたのも、
同委員会でプレビッシュが強い影響力を持ち、ブレインとして現役で活躍していたためと
も聞いている。しかし、現実の中で理論を検証しようとする努力の中で、後の『ラテンア
メリカの経済』の刊行と博士学位の取得につながる、ラテン・アメリカ諸国の経済史と発
展方式の類型論確立の構想を固められた。
その後も同氏のラテン・アメリカの経済、政治、国際関係の激しい変化に対する関心は、
変わることなく続き、今日に至るまで精力的に成果を内外に発表された。
3
1970年代からラテン・アメリカの多くの国々で軍事政権からの民政移管が始まり、
政治的には明るい展望が出始めた。しかし、1972、1979年の二度の石油危機によ
り、同地域の中の石油非産出国は困難に直面し、1980年代の累積債務問題の表面化と
経済危機は、ラテン・アメリカ諸国に対する日本の経済界の関心を低下させる。同氏は、
このような新しい傾向を分析し、『ラテンアメリカ危機の構図―累積債務と民主化のゆく
え―』、『中米・カリブ危機の構図―政治、経済、国際関係―』などの著書を表し、世論
を啓発した。また、昭和58年から63年にかけて筑波大学のラテン・アメリカ研究者を
率い、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンなどの都市首位性に関する海外調査を行い、そ
の成果は、後に『ラテンアメリカの巨大都市』という大部の学術書の刊行により発表され
ることとなる。
その後今日まで同氏は、ラテン・アメリカでも本格的になり始めた産業構造調整、冷戦
終了後の国際関係の再編成、北米自由貿易協定(NAFTA)、南米共同市場(MERC
OSUR)、米州自由市場(FTA)などの地域経済統合の傾向、チリなどにおける新自
由主義政策の事例研究、日本・ラテン・アメリカ経済関係論、ラテン・アメリカにおける
民営化、東アジアとラテン・アメリカの比較経済論(とくに構造調整の比較)、ラテン・
アメリカ企業の海外展開などについて積極的に研究を行ってこられ、海外からも注目され
た。
専攻領域の研究活動のかたわら、学会活動や内外人との研究集会、国際交流においても
目覚しい活動を行ってこられた。筑波大学にあっては、留学生教育センター長として、外
国人学生とその家族の日本語学習や留学生のための民間奨学金獲得や生活相談などの面で
多くの外国人の世話を親身に行い、管理職としては、ラテン・アメリカの主要大学を始め
として、多くの海外大学との交流協定の締結に尽力された。今日のわが国のラテン・アメ
リカ地域研究の中心的な組織である日本ラテンアメリカ学会の発足にあたっては、発起人
会のなかでも重要な役割を演じたばかりでなく、昭和63年から平成4年までの4年間、
2期にわたり、同会第3代理事長の重責を果たされ、内外の研究者間の研究交流と研究振
興のため貢献された。
国際交流に関しては、日本とラテン・アメリカ諸国の経済人・実務担当者間の交流、経
済シンポジウム、相互の経済の比較研究のための研究集会など、さまざまな公私レベルの
国際交流の場で、日本を代表するラテン・アメリカ経済研究者として、同氏は縦横に活躍
されたことも特記に値する。ラテン・アメリカ諸国の学界、官界、経済人サークルにおい
ては、日本にラテン・アメリカ経済研究の細野ありとの定評があり、実際にチリ、アルゼ
ンチンなどから諸種の勲章を授与されている。また、国際交流基金からの国際交流奨励賞
も与えられた。
以上のように、同氏は、わが国のラテン・アメリカ地域研究を強力に推進されたばかり
でなく、多くの地域研究者を育成し、日本とラテン・アメリカ諸国の間の学術、人的交流
に関しても献身的な努力を続けてこられた。
さらに、同氏は研究と実務の間の垣根を自由にこえて、日本のラテン・アメリカ政策の
実施に重要な役割を果たしてきた。このような研究者の事例は、稀である。
4
2005年度
大同生命地域研究奨励賞
小杉
泰
氏
(京都大学大学院教授)
5
略
小杉
1.現
職
歴
泰(こすぎ・やすし)
:京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授
〔勤務先電話番号 075-753-7384〕
2.最終学歴
:エジプト国立アズハル大学イスラーム学部(1983 年)
3.主要職歴
:1984 年 国際大学大学院国際関係学研究科助手
1985 年 国際大学中東研究所主任研究員・主幹(兼任)
1989 年 国際大学大学院国際関係学研究科助教授
1990 年 英国ケンブリッジ大学中東研究センター・客員研究員
1997 年 国際大学大学院国際関係学研究科教授
1998 年 京都大学東南アジア研究センター教授(4 月 1 日∼8 日)
1998 年 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授(∼現在)
4.主な著書・論文
①『エジプト・文明への旅―伝統と現代』単著〔日本放送出版協会 1989〕
②『現代中東とイスラーム政治』単著〔昭和堂 1994〕*サントリー学芸賞受賞
③『イスラームとは何か―その宗教・社会・文化』単著〔講談社 l994〕
④『イスラームに何がおきているのか―現代世界とイスラーム復興』編著
〔平凡社 1996(増補版 2001)〕
⑤『イスラーム世界』(21 世紀の世界政治5)単著〔筑摩書房 1998〕
⑥ Fihris Majallat al-Manar (Beirut: Turath; Tokyo: IAS) 共編
〔アラビア語『「マナール」誌総索引』1998〕
⑦ Qira'at fi al-Fikr al-Siyasi al-Islami (Beirut: Amwaj) 共編
〔アラビア語:イスラーム政治思想選集 2000〕
⑧『岩波イスラーム辞典』共編著〔岩波書店 2002〕*毎日出版文化賞受賞
⑨ Conversion Tables Hijri-Anno Domini and Perpetual Calendars (Kyoto: COE-ASAFAS,
Kyoto University) 共著〔『ヒジュラ暦西暦換算表』〕2002〕
⑩『ムハンマド―イスラームの源流をたずねて』単著〔山川出版社 2002〕
⑪「アジア新世紀」全8巻 共編:『空間―アジアへの問い』『歴史―アジアの作られ
かた・作りかた』『アイデンティティ―解体と再構成』『幸福―変容するライフスタ
イル』『市場―トランスナショナル化する情報と経済』
『メディア―言論と表象の
地政学』『パワー―アジアの凝集力』『構想―アジア新世紀へ』
〔岩波書店 2002 年 11 月∼2003 年 7 月〕
⑫ Al-Manar on CD-ROM, 監修〔京都大学 COE プロジェクト 2003〕
〔アラビア語『マナール』誌・CD-ROM 復刻版〕
⑬『「イラク戦争」 検証と展望』共編〔岩波書店 2003〕
⑭『現代イスラーム思想と政治運動』共編(イスラーム地域研究叢書2)
〔東京大学出版会 2003 年〕
⑮ Mudawwana Sahafa al-Jazira al-Arabiya (Kyoto: 21st Century COE of Integrated Area
Studies, Kyoto University) 共同監修 京都大学 21 世紀 COE-総合的地域研究拠点
形成〔アラビア語『アラビア半島諸国定期刊行物カタログ』2004〕
⑯ Mudawwana Sahafa Lubnan(Kyoto: 21st Century COE of Integrated Area Studies, Kyoto
University)共同監修 京都大学 21 世紀 COE-総合的地域研究拠点形成
〔アラビア語『レバノン定期刊行物カタログ』2004〕
以上のほか、現在に至るまで著書論文多数
5.備
考
:1999 年
法学博士(京都大学)
6
業績紹介
「イスラーム政治思想と現代中東地域研究」に対して
かたくら
紹介者:片倉
もとこ
(国際日本文化研究センター所長)
小杉氏の研究は、多岐にわたり、総合的な研究がなされたといえる。その中心となる
のは、イスラーム思想を追究し、イスラーム政治思想の系譜をまとめあげようとするも
のである。さらには、現代の中東政治に関する適確な分析をなされている。多くの流れ
があるイスラーム研究の中で、同氏は独自のスタンスをおき、総合的な地域研究を推し
進めてこられた。
長年月に及ぶアズハル大学イスラーム学部での勉学により、イスラーム研究の基礎を
固めた同氏は、きわめてすぐれた研究能力により、7世紀に端を発するイスラーム思想
を歴史的に追及し、思想史としての編纂を試みている。その成果は着実に実り、優れて
高いレベルの業績をあげており、この分野においては、文字通り他者の追随を許さない
研究を進めているといってよいと思われる。
近現代に入り政治化されることになったイスラーム圏では、民族主義が燃え上がるこ
ととなり、多くの研究者が着目をするようになった経緯がある。同氏はマシュリクアラ
ブ諸国を中心に研究を進めているが、民族主義や社会主義が一時期強まっていた同地域
において、それに代わってイスラーム主義が復興しつつある事情を適確に解明している。
1994年に小杉泰『現代中東とイスラーム政治』が出版されて以来、常に同氏の研
究には着目してきたが、最近更にその研究が重厚なものになりつつあると思われる。1
996年に出版された同氏編著『イスラームに何がおきているか』では、イスラーム研
究という枠にとらわれず、より広い視野からのアプローチがなされたものをうまくまと
めあげている。現代世界におけるイスラーム復興について、若手研究者たちの論考を集
め、イスラーム地域研究の指導的役割を果たしていると考えられる。
7
2005年度
大同生命地域研究奨励賞
末廣
昭
氏
(東京大学教授)
8
略
末廣
1.現
職
歴
昭(すえひろ・あきら)
:東京大学社会科学研究所教授
〔勤務先電話番号 03(5841)4937〕
2.最終学歴
:東京大学大学院経済学研究科修士(1976 年)
3.主要職歴
: 1976∼87 年
1981∼83 年
1987∼92 年
1990∼91 年
1992∼95 年
1993∼98 年
1994∼95 年
1995 年∼現在
1999∼2005 年
アジア経済研究所調査研究部
タイ国チュラーロンコン大学客員研究員
大阪市立大学経済研究所助教授
京都大学東南アジア研究センター客員助教授兼任
東京大学社会科学研究所助教授
アジア経済研究所開発スクール客員教授兼任
ドイツ・ベルリン自由大学客員教授兼任
東京大学社会科学研究所教授
Social Science Japan Journal 編集長(東京大学社会科学研究
所編集、オックスフォード大学出版局出版)
アジア政経学会理事長
2003 年∼現在
4.主な著書・論文
①「タイ系企業集団の資本蓄積構造―製造業グループを中心として」
〔『アジア経済』1984 年 10 月号〕*発展途上国研究奨励賞を受賞
②『NAICへの挑戦―タイの工業化』編著〔アジア経済研究所 1987〕
③ Capital Accumulation in Thailand 1855-1985, UNESCO The Centre for East Asian Cultural
Studies, 1989. *1990 年度日経経済図書文化賞、大平正芳記念賞をそれぞれ受賞
④『タイの財閥―ファミリービジネスと経営改革』共著〔同文舘出版 1991〕
⑤『タイ―開発と民主主義』〔岩波新書 1993〕
⑥『世界政治の構造変動3 発展』共著〔岩波書店 1994〕
⑦『20世紀資本主義 II―覇権の変容と福祉国家』共著〔東京大学出版会 1995〕
⑧『戦前期タイ鉄道業の発展と技術者形成』〔重点領域研究、京都大学東南アジア研究
センター1996〕
⑨「タイの労働市場と人事労務管理の変容」〔『社会科学研究』第 46 巻第 6 号 1997〕
⑩ ”Modern Family Business and Corporate Capability in Thailand: A Case Study of the CP
Group,” Japanese Yearbook on Business History, Volume 14, 1997.
⑪『タイ―経済ブーム・経済危機・構造調整』編著〔日本タイ協会 1998〕
⑫『開発主義 20世紀システム第4巻』編著〔東京大学出版会 1998〕
⑬『タイ統計制度発達史序論―国家統計局、人口センサス、国民所得』〔一橋大学経済
研究所 1999〕
⑭『東南アジア史I―大陸部』共著〔山川出版社 1999〕
⑮『タイ経済政策―制度・組織・アクター』編著〔アジア経済研究所 2000〕
⑯『キャッチアップ型工業化論―アジア経済の軌跡と展望』〔名古屋大学出版会 2000〕
*2001 年度アジア太平洋賞大賞を受賞 現在、英語版、韓国語版、タイ語版を慣行予定
⑰ Family Business Gone Wrong? : Ownership Pattern and Corporate Performance in Thailand,
Asian Development Bank Institute, 2001.
⑱『アジア政治経済論―アジアの中の日本をめざして』共編著〔NTT 出版 2001〕
⑲『岩波講座東南アジア史第9巻「開発」の時代と「模索」の時代』編著〔岩波書店 2002〕
⑳『東アジアの福祉システム構築』共編著
〔東京大学社会科学研究所 ISS Research Series No.8, 2003〕
21『進化する多国籍企業―いま、アジアでなにが起きているのか?』
〔岩波書店 2003 年〕
22『タイ国別援助研究会報告書―「援助」から「新しい協力関係」へ―』編著
〔財団法人国際協力機構国際協力総合研修所 2003 年 12 月 ix+239 ページ〕
23「タイのファミリービジネスと経営的臨界点―存続、発展、淘汰・生き残りの論理」
〔星野妙子編『ファミリービジネスの経営と革新―アジアとラテンアメリカ』
アジア経済研究所 2004〕
24「データでみる日本・タイ交流史―1973 年∼2004 年」
〔盤谷日本人商工会議所編『盤谷日本人商工会議所50年史』バンコク 2005〕
以上のほか、現在に至るまで著書論文多数
5.備考:1991 年 経済学博士取得(東京大学)
9
業績紹介
「東南アジア、特にタイを中心とする経済研究および地域研究」に対して
いけはた
紹介者:池端
せつほ
雪浦
(東京外国語大学学長)
末廣氏は東南アジア地域、とくにタイに関する経済研究・地域研究で日本のタイ研究・
東南アジア研究をリードし、国際的にも高い評価を得てきた。また後進の育成に強い情熱
をもって当たり、日本における若手東南アジア研究者を多数育成してきただけでなく、タ
イでは共同研究や論文指導を通じて、タイの研究者の指導にも尽力してきた。学会活動で
もアジア政経学会(現在、理事長)、東南アジア史学会、タイ学会などで指導的役割を果た
している。それらの活動は以下のような成果としてとりまとめることができる。
◆業績
単著7冊(うち英文2冊)、編著16冊、共著14冊
主な論文
約120点(うち英文16点、タイ語2点)
◆受賞歴
*1985 年
発展途上国研究奨励賞受賞(タイ系企業集団の資本蓄積)
*1990 年
日経経済図書文化賞受賞(Capital Accumulation in Thailand 1855-1985)
*1990 年
大平正芳記念賞受賞(Capital Accumulation in Thailand 1855-1985)
*2001 年
2001 年度アジア太平洋賞大賞受賞(キャッチアップ型工業化論:アジア経済
の軌跡と展望)
◆学会活動等
*英文雑誌 Social Science Japan Journal 編集長
*アジア政経学会
評議員、常任理事(1992-現在)、業務担当理事(1999-2001 事務局長)、
研究担当理事 (2001-2003)、理事長 (2003-2005)
*東南アジア史学会会長顧問
*タイ学会理事
*Asian Studies in Asian Networks (ASIAN) 日本代表理事
◆研究業績とその貢献について
同氏は広範な分野にわたって学界をリードする研究を発表している。ここでは8つの分野
に分けて、その功績を述べる。
10
1.第1は、同氏が専攻するアジア経済論への貢献である。同氏はタイを中心に、マクロ
経済データや経済政策の推移だけではなく、個別産業の分析、企業発達史、人事労務管理、
技術者の形成など、ミクロレベルの実証研究の積み重ねの中から経済発展の実態を分析し、
日本のタイ・東南アジア研究をリードしてきた。1989 年に刊行された「Capital Accumulation
in Thailand 1855-1985」(UNESCO The Centre for East Asian Cultural Studies)は、英語版であ
ったが世界各地で読まれており(出版
日本、タイ、アメリカ)、国際的な評価を得ている。
また、個別企業や企業家、官僚に関するタイ語、華語などの一次資料の収集と、膨大なデ
ータベースの作成にもとづくその緻密な実証研究は、日本のアジア研究者や企業経営史研
究者、そして、欧米諸国やタイの研究者にも大きな影響を与えた。
この分野の他の主な業績は:
*『戦前期タイ鉄道業の発展と技術者形成』(京都大学東南アジア研究センター1996 年)
*「タイ労働史研究の試み」(『上智アジア学』第 17 号 2000 年)
*Family Business Gone Wrong? : Ownership Pattern and Corporate Performance in Thailand,
Asian Development Bank Institute, 2001.
2.タイ社会の発展を、単に経済分野だけではなく政治と社会の動きとも連動させて把握
する方法、そして、歴史研究と現状分析を統合する「総合的一国地域研究」の方法を提唱
し、数多くの本を編集してきた。そうした研究の成果を、できるだけ読みやすいかたちで
読者に提供した『タイ―開発と民主主義』(岩波新書)は、現在も版を重ねており(14 刷
り)、大学等で広く読まれている。
3.東南アジア諸国や他の発展途上国の冷戦体制下における発展過程を、
「開発主義」とい
う新しい視点から捉えなおす作業を行い、後続の研究に大きな影響を与えた。この分野で
の仕事としては、次の2点が代表的なものである。
*編著『開発主義』(20世紀システム第4巻)(東京大学出版会 1998 年)
*編著『岩波講座東南アジア史第9巻「開発」の時代と「模索」の時代』
(岩波書店 2002 年)
4.視点をタイからアジア諸国に広げ、アジアの工業化のプロセスを「キャッチアップ型
工業化」という統一的な視点から捉えなおした。また、①工業化の担い手(ファミリービ
ジネス、国営企業、多国籍企業)、②政策とイデオロギー(開発主義)、③制度と組織(技
術形成、労働市場、教育制度)の3つを柱に、ユニークなアジア経済論を展開し、この分
野の研究の進展に貢献した。なお、代表的な著作である『キャッチアップ型工業化論―ア
ジア経済の軌跡と展望』は、アジア太平洋賞大賞を受賞し、中国や韓国でもサブテキスト
として使用されている。なお、同書は現在、英語版、韓国語版、タイ語版の出版計画が進
んでいると聞いている。その他の成果としては:
*『進化する多国籍企業―いま、アジアでなにが起きているのか?』(岩波書店 2003 年)
11
5.一橋大学を中心とする「アジア長期経済統計」の整備に中心メンバーとして参加し、
1860 年代から 2000 年までの経済統計を整備する作業を続けてきた(現在、1000 枚近い表
を作成ずみと聞く)。この成果はまもなくシリーズとして刊行される予定であるが、刊行さ
れれば、タイについては世界で最初の試みとなる。既刊の研究業績としては:
*『タイ統計制度発達史序論―国家統計局、人口センサス、国民所得』
(一橋大学経済研究所 1999 年)
6.1997 年アジア通貨危機以後は、危機の背景に関する解明、日本のアジア関与、日本の
アジア地域協力について積極的に実態研究と政策提言を行なっている。また、2002 年から
は国際協力事業団や外務省のタイ向けODA,対タイ協力計画の策定に主査・座長として
参加し、日本とタイのあいだの協力関係の構築にも貢献している。代表的な著作は:
*共編著『アジア政治経済論―アジアの中の日本をめざして』(NTT 出版 2001 年)
*編著『タイの制度改革と企業再編―危機から再建へ』(アジア経済研究所 2002 年)
*編著『タイ国別援助研究会報告書―「援助」から「新しい協力関係」へ―』
(財団法人国際協力機構国際協力総合研修所 2003 年)
7.最近は、アジア諸国の社会保障制度と福祉国家戦略に関する「地域研究的」アプロー
チの共同研究会を組織し、この分野で新しい研究成果を出している。また、ファミリービ
ジネスに関する東アジア(東南アジアを含む)とラテンアメリカの比較を試みる研究会も
組織し、アジア域内だけではなく、地域間の比較研究も推進してきた。代表的な著作は:
*共編著『東アジアの福祉システム構築』(東京大学社会科学研究所 2003 年)
*共著『ファミリービジネスの革新と経営―東アジアとラテンアメリカ』
(アジア経済研究所 2004 年)
8.1997 年に創刊された『Social Science Japan Journal』
(東京大学社会科学研究所が責任編
集、出版はオックスフォード大学出版会)は、世界最初の日本を発信基地とする現代日本
社会に関する国際的研究雑誌である。現代日本社会を政治学、経済学、企業経営、労働、
人類学、社会学、歴史学(近現代史)の観点から分析するもので、すでに国際的評価を獲
得している。この雑誌の副編集長(1997∼1999 年)、編集長(1999∼2005 年)として、
世界各地の日本研究の発展、紹介と相互の交流に貢献してきた。
12
2005年度
大同生命地域研究特別賞
松岡
環
氏
(アジア映画研究者)
13
略
松岡
1.現
職
歴
環(まつおか・たまき)
:アジア映画研究者
2.最終学歴
:大阪外国語大学インド・パキスタン語科(ヒンディー語専攻)(1971 年)
3.主要職歴
:1972 年∼1992 年
2002 年∼
2004 年∼
2005 年∼
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
職員(文部事務官)
麗澤大学非常勤講師
東京外国語大学非常勤講師
国士舘大学非常勤講師
1972 年から 20 年間東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所職員として働く
かたわら、インド映画を日本に紹介。インド映画祭実行委員会事務局長として、1983
年、85 年等に「インド映画祭」を数度にわたり開催した。退職後はアジア映画交流史
を研究の中心に据え、香港等中国語圏の映画から東南アジア、インド、さらにはイラ
ン、韓国も含むアジア全域の映画の紹介と交流史の研究を続けている。非常勤講師と
して大学で「アジア映画史」
「インド映画史」等を講じているほか、インド映画を中心
に字幕も多数担当。また、1978 年にはインド文化交流センターを設立、友人3人と月
刊ミニコミ誌「インド通信」の発行を続けている。
4.主な著書など
①『アジア・映画の都 香港∼インド・ムービーロード』〔めこん 1997〕
②『映画で知るアジアのこころ』佐藤忠男、松岡環、佐藤邦夫、ミスバ・ユサ・ビラン、
晏妮、チャート・ソンシー〔亜細亜大学アジア研究所 1991〕
③ ‘Indian Film Directors in Malaya’〔Aruna Vasudev (ed.), Frames of Mind; Reflections on
Indian Cinema, UBSPD, New Delhi, 1995〕
④「アジア映画の第1世紀」
〔大アジア虚栄圏同盟編『亜細亜通俗文化大全』スリーエ
ーネットワーク 1996〕
⑤「インド映画の百年史」〔『インド大発見読本』宝島社 1996〕
⑥「国民国家の成立とアジア映画」
〔西川長夫、山口幸二、渡辺公三編『アジアの多文
化社会と国民国家』人文書院 1998〕
⑦「インドにおける映画の100年」
〔大森康宏編『二○世紀における諸民族文化の伝
統と変容2:映像文化』ドメス出版 2000〕
⑧「香港映画 1990-2001―返還を挟んだ 12 年の変化―」〔『粤語文化研究論集』(科
学研究費基礎研究(B)「現代香港広東語の語彙体系とその形成に関する記述研究」
研究成果報告書)麗澤大学 2002〕
⑨「ハリウッドに対抗するインド映画産業」
〔青木保、四方田犬彦他編『アジア新世紀
5:市場』岩波書店 2003〕
⑩「香港における多言語映画製作の時代―1950∼70 年代香港における言語別映画製
作の諸相―」〔『粤語文化研究論集』3(科学研究費基礎研究(B)「現代香港広東語
の語彙体系とその形成に関する記述研究」研究成果報告書)麗澤大学 2004〕
以上のほか、現在に至るまで著書論文多数
5.字幕担当作品(劇映画のみ、作品製作年順):
① インド映画:『賭け』(51)、『アマル・アクバル・アントニー』(77)、
『タイガー―炎の三兄弟―』(91)、『ラジュー出世する』(92)、『アシュラ』(93)、
『女盗賊プーラン』(94)、『ムトゥ踊るマハラジャ』(95)、『ラガーン』(2001)、
『明日が来なくても』(2003)、他多数
② 中国映画:『独身女性』(91)、『天国からの返事』(92)、『恋人』(2002)、他多数
14
業績紹介
「「映画」を通じたインド理解、アジア理解の普及活動」に対して
からしま
紹介者:辛島
のぼる
昇
(大正大学大学院特遇教授)
松岡氏は、大阪外国語大学でヒンディー語を学んだ後、東京外国語大学大学院でインド
文化の勉強をつづけ、その課程は中途退学したが、東京外国語大学アジアアフリカ言語文
化研究所に文部事務官として勤務するかたわら、なお、ヒンディー語とインド文化につい
ての研究を行った。
20年に及んだ東京外国語大学勤務の合間に、日本人一般のインド文化への関心を高め
るべく、1978 年に臼田わか子さんと共同して「インド文化交流センター」を設立し、月
間情報誌「インド通信」を発行した。この情報誌はその後今日に至るまで途切れることな
くつづいており、この種の活動としてはまれに見る息の長さで、日本における願わしいイ
ンド文化理解の普及に大きく貢献している。
同氏は、世界最大の映画量産国で、グローバルな視点から新しい文化創造に様々な問題
を提起してきているインドの「映画」に対する関心が人一倍強く、1983 年には「インド
映画祭実行委員会」を立ち上げて、自らその事務局長となってわが国へのインド映画の紹
介に努めてきている。その過程では、優れた語学力を活かして自らヒンディー語の台本
(「ラガーン」ほか20本ほど)を日本語に翻訳している。その積極的な活動に対しては、
国際交流基金やインド政府も協力を惜しまず、インドその他で行われる映画祭に招かれた
りもしている。
1988 年からは、映画の問題を単にインドだけの問題とするのではなく、発展途上国と
していろいろの問題をかかえたアジア全体の問題とすべく、
「シネマ・アジア」を設立し、
自らその代表として、アジア各国の映画を紹介してきている。1995 年から 2000 年にかけ
ては、会員組織「スペース・アジア」を設立し、自宅をビデオシアターにして、アジア各
国の未公開作品を紹介するなどした。
このような活動展開のため、1992 年には20年間務めた東京外国語大学を退職し、イ
ンド文化とアジア映画の紹介に専念する態勢を作り上げている。それまでにも、インド文
化、アジアの映画について様々な執筆活動を展開してきたが、1997 年には、単行本『ア
ジア・映画の都
香港∼インド・ムービーロード』(めこん)を出版し、独立後の国民国
家形成期に出現した、インド、シンガポール、香港、フィリピン等を結ぶ、新しいネット
ワークとしての映画製作の実態を明らかにした。アジア映画交流史の知られざる重要な一
側面である。
同氏の仕事の優れている点は、まず、文学作品、映画台本の翻訳をもこなすヒンディー
語ほかの語学力によって、インドをはじめとするアジア社会を肌で感じることが出来る点
15
で、それによって彼女は地域に密着し、そこに存在する問題を的確にえぐり出す。それと
同時に活動の焦点を、社会の状況をよく写し、また多くの人々が興味をもつ「映画」に絞
っていることも、彼女の活動を意味のある、確実なものにしている。
さらに特筆すべきは、骨身を惜しまない行動力、実行力で、インドをはじめとする各国
に頻繁に足を運び、人脈を築き、現地の映画祭に協力するなどして、日本とアジア各国の
間での文化交流に尽くしてきている点である。また、そのような活動が、アジア社会に対
する確実な学問的知識の裏づけをもってなされている点も重要で、研究論文を含む彼女の
幅広い執筆活動は、そのことをよく示している。
映画の紹介を中心とする松岡氏の活動によって、インドをはじめとするアジア諸国のい
ろいろな社会問題が、その背景に対する認識とともにわが国に伝えられ、それによってわ
が国とそれらの国々との相互理解が深まってきていることは確実である。
16
大同生命地域研究賞歴代受賞者一覧
(肩書きなどは受賞当時のものです)
敬称略
大同生命地域研究賞
1986年度
1987年度
1988年度
1989年度
1990年度
1991年度
1992年度
1993年度
1994年度
1995年度
1996年度
1997年度
1998年度
1999年度
2000年度
梅棹 忠夫
井筒 俊彦
富川 盛道
石川 榮吉
増田 義郎
伊谷 純一郎
西田 龍雄
川喜田 二郎
加藤 九祚
樋口 隆康
佐口 透
佐藤 長
本田 實信
岩田 慶治
渡部 忠世
2001年度
河合
2002年度
2003年度
2004年度
石井 米雄
辛島 昇
篠遠 喜彦
雅雄
国立民族学博物館館長
慶應義塾大学名誉教授
富山大学教授
中京大学教授
千葉大学教授
神戸学院大学教授
京都大学名誉教授
東京工業大学名誉教授
創価大学教授
奈良県立橿原考古学研究所所長
金沢大学名誉教授
京都大学名誉教授
京都大学名誉教授・名古屋商科大学教授
国立民族学博物館名誉教授
京都大学名誉教授・
農耕文化研究振興会代表
京都大学名誉教授・
兵庫県立人と自然の博物館館長
神田外語大学学長
東京大学名誉教授
ビショップ博物館上席特別研究員・
前人類学部長
大同生命地域研究奨励賞
1986年度
1987年度
1988年度
1989年度
1990年度
1991年度
1992年度
1993年度
1994年度
高谷 好一
石澤 良昭
佐々木 高明
板垣 雄三
田中 二郎
前田 成文
片倉 もとこ
大塚 柳太郎
日野 舜也
荻野 和彦
赤澤 威
小山 修三
大貫 良夫
松原 正毅
京都大学教授
上智大学教授
国立民族学博物館教授
東京大学教授
京都大学教授
京都大学教授
国立民族学博物館教授
東京大学助教授
東京外国語大学教授
愛媛大学教授
東京大学助教授
国立民族学博物館教授
東京大学教授
国立民族学博物館教授
1995年度
1996年度
1997年度
1998年度
1999年度
2000年度
2001年度
2002年度
2003年度
2004年度
西田 利貞
山田 睦男
友枝 啓泰
加納 隆至
福井 勝義
吉田 集而
掛谷 誠
秋道 智彌
古川 久雄
黒田 悦子
市川 光雄
染谷 臣道
原 洋之介
松下 洋
片山 一道
鹿野 勝彦
家島 彦一
山田 勇
佐藤 俊
山本 紀夫
京都大学教授
国立民族学博物館教授
広島市立大学教授
京都大学教授
京都大学教授
国立民族学博物館教授
京都大学教授
国立民族学博物館教授
京都大学教授
国立民族学博物館教授
京都大学教授
静岡大学教授
東京大学教授
神戸大学大学院教授
京都大学霊長類研究所教授
金沢大学教授文学部長
東京外国語大学名誉教授
京都大学東南アジア研究センター教授
筑波大学大学院教授
国立民族学博物館教授
大同生命地域研究特別賞
1987年度
1988年度
1989年度
1990年度
1991年度
1992年度
1993年度
本多
千原
林家
藤木
黒沼
鶴見
市岡
勝一
大五郎
永吉
高嶺
ユリ子
良行
康子
1994年度
1995年度
1996年度
1997年度
並河
高野
山口
富田
萬里
悦子
吉彦
浩造
1998年度
1999年度
2000年度
2001年度
2002年度
2003年度
向後 元彦
大村 次郷
小貫 雅男
吉田よし子
野町 和嘉
中村 哲
2004年度
前川
健一
朝日新聞社編集委員
拓殖大学教授
上智大学客員教授
大阪国際女子大学教授
バイオリニスト
龍谷大学教授
日本映像記録センター
プロデューサー・ディレクター
写真家
岩波ホール総支配人
アマゾン自然館/民族館館長
元国際協力事業団(JICA)
ザンビア事務所長
マングローブ植林行動計画代表
フォト・ジャーナリスト
滋賀県立大学教授
食用熱帯植物研究者
日本写真家協会会員・写真家
ペシャワール会現地代表・PMS
(ペシャワール会医療サービス)総院長
ライター
以上