『こころの子育てインターねっと関西』第21巻 第5号(2016年9月号) BPファシリテーター体験記 静岡県富士宮市 何度もくじけそうになりながら… 富士宮市保健センター 保健師 山中 知恵 思いが沸々とわきあがり 気持ちを思い出しました。再び、BPプログラムをお母 さんたちに届けなければという強い思いがわきあがりま した。プログラムの実施に向けて、何かやらなければと 思い、職場で講習会を行いました。現代の子育ての問題 点、BPプログラムのめざすものや手法について20分 程度ですが、職員に伝えることができました。私の中で は一歩前進でした。その後、どのようなものか実際見て みたいという声があがったため、職員にお母さん役にな ってもらい、模擬セッションを行い、体験してもらいま した。実際体験してもらうと、保健師からは、「プログ ラムがなくてもできる」といった感想があがり、実施に 向けての検討は終了してしまいました。このまま実施す ることなく終わってしまうのかと悩んでいた時に、BP 事務局の原田さんから「実際のお母さんで行うとBPプ ログラムの良さがもっと伝わる」と教えていただきまし た。模擬ではなく実際にやってみてのお母さんたちの様 子を見てもらわないと理解は得られないと思い、勇気を 出して1度やってみることを提案しました。無事了解を 得て、実施することになりました。 養成講座受講から4年もかかり、ようやく開催にこぎ つけました。個人的に養成講座を受講したため、受講後 すぐに職場に報告する義務もなく、そういった機会を作 ることをしませんでした。お母さんたちにとって良いプ ログラムだと実感した時点で、もっと早く職場の理解を 得る努力をするべきだったなと思いました。 私は今から約15年前に、人口約1万人、1年間の出 生数約60人の富士宮市と合併(2010.3)前の芝川町に 保健師として入職しました。そこで母子に関する業務を 担当していました。住民との距離が近く、赤ちゃんの頃 から保育園、小学校、中学校に入ってからの困りごとま で、中には就職してからの相談に関わることもありまし た。育児相談、発達の問題、虐待、障害、不登校、ひき こもりといった様々な相談を受ける機会が多く、問題解 決が難しく悩みながらの活動でした。 BPファシリテーター養成講座を受講しようと、きっ かけになったエピソードがあります。幼児のころから関 わっていたお子さんが小学校になって不登校や家庭内暴 力を起こすようになったというのです。「私たちにもっ と何かできることはなかったのか。なんとかならなかっ たのか」という思いが沸々とわきあがりました。保健セ ンターで行っている、訪問や乳幼児健診だけでは支援に なっていないと思いました。そんなときに、BPプログ ラム養成講座の案内に出会い、「これだ!」と直感しま した。 やりたかったことはこれだ! 2012年7月の東京(第3期)の養成講座を受講しま した。受講してみると、私がやりたかったことはこれ だ!と実感しました。原田正文先生の講義の内容は活動 の中で日々感じていたことが、整理されよくわかりまし た。私が一番このプログラムが良いと感じたところは、 BPプログラムの手法の中の「0歳児の育児に必要な少 し先を見越した育児の基礎知識の学習」でした。活動の 中で出会うお母さんの中には、泣いた時の対応や遊び方 がわからないという方が増えています。また、事故予防 や生活リズム、子どもの発達についても基本的なことが わからない、知らない人が多いように感じます。このプ ログラムならば基本的な知識も伝えられる、自信を持っ て実施できるぞ。と職場に帰ったのですが、すぐに実施 することはできませんでした。その後、私自身が子ども を出産し、育児に追われ、BPどころではなくなりまし た。 やることを頭にたたきこんで 2016年7月、ようやくBPプログラムを実施しまし た。今回の目的は、ファシリテーターの認定を受けるこ とと、次年度からの継続開催に向けて職場内の理解を求 めることでした。 参加者集めは、新生児訪問でパンフレットを配布する ことにしました。私の準備が遅く、職員全員にBPプロ グラムについて事前に説明して理解を求める時間がなか ったため、今回は地区を限定して行うことにしました。 配布を開始した時に、すでに新生児訪問を終えている対 象者には電話での講座紹介も行いました。訪問時に不安 が高かった方や他県からお嫁に来た方に対して積極的に 参加を促しました。参加者10名は意外とすぐに決定し ました。 事前準備ではファシリテーターガイドに書いてあるこ とを忠実に実施するため、時間、話す内容、準備物など 独自のナレーションを作成し、頭にたたきこみました。 その後、アシスタントと会場のセッティングの確認。必 要物品の作成(看板や各回のテーマ等)を行いました。 「プログラムがなくてもできる…」 育児休暇を終えて職場に復帰。復帰後1年がたち、仕 事にも慣れてきたときに、2015年7月に東京で「BP ファシリテーターリフレッシュ講習会」を受講しまし た。「思春期から花開く0歳時期の育児」の大切さを再 び学び、BPファシリテーター養成講座を受講した時の −6− 『こころの子育てインターねっと関西』通巻174号(2016年9月20日) 地域全体の子育て力アップをめざしたい アシスタントは養成講座を受講していない保健師だった ため、アシスタントの役割等について細かく打ち合わせ をしました。養成講座で原田先生から専門職は指導する 特性があるという話を聞いていたので、お互いに気をつ けようと確認しました。ファシリテーター1人では当日 の安全確保や参加者の様子をすべて把握することが難し かったので、アシスタントとの事前打ち合わせを細かく 行ったのは良かったです。 ことで、心に余裕が持てるようになり、子どもに笑顔で 明るく接することができるようになった」と話している お母さんもいました。お母さん同士で悩み事を伝え合い、 共感し合うことで、納得した意見を取り入れることがで きていました。答えを伝えるだけでは、この様な変化は なかったように感じます。お母さんたちが話をすること で変わっていく、ピア・レビューできる子育て仲間づく りとはこういうことなのだろうと感じることができまし た。 3つ目はセッション記録を詳細に記載することに驚き ました。初めての記録はメモ程度の記録を提出したので すが、「細かく詳細に」というアドバイスを受けて、で きるだけ細かく詳細に記載することを心がけました。初 めは戸惑いましたが、細かくアドバイスをいただけるの で、記載するのに苦痛はなかったです。アドバイスをい ただけるのが楽しみになり、セッションが終わるとすぐ に振り返り、記録しました。詳細に記録をビッシリ書く のは大変でしたが、書くといろいろ見えてきました。サ ポータの方から毎回、「その対応は良かった」「上手に 進められている」と言って下さったことが心強かったで す。 たくさんの学びがあった初BP いよいよ本番です。スムーズに進行することができる のか、ファシリテーターの役割を果たすことができるの かとても不安でした。始まってみると、お母さん同士が 声を掛け合い和やかな雰囲気だったので安心しました。 全4回を通して対応に困ったことは、ペアで話し合う 時は盛り上がるのですが、グループになると話が盛り上 がらず、お母さんたちが何を話したらいいかわからなく なることがよくありました。そういう時は、焦らずに、 再度してほしいことを伝えることで徐々に話が始まるこ とを学びました。セッションを重ねることでわかったこ とや感じたことが沢山ありました。 うまくいかなかったこととして、テキストを貸与にし た点が良くなかったと感じています。テキストは会場で 使用するのみだったため、お母さんがテキストを使用す る機会が少なく、テキストからの育児知識を十分伝える ことができなかったと思います。 もっと多くの人に参加してほしい 終わって思うこと 4回のプログラムを終了して感じたことが3つありま す。 1つ目は、お母さんたちの力を感じました。こんなに もお母さんたち同士が仲良くなり、話し合いが盛り上が ることに驚きました。初めてのファシリテーターで気の 利いた声掛けもできず、プログラムを進めることに精一 杯だったので、『参加者に恵まれていたのかな?』『今 回の参加者が特別優秀な人たちだったのかな?』と思う ぐらい会話が盛り上がり、上手に仲間づくりができてい ました。また、母親同士が話し合う中で悩み事を解決し ていました。私の今までの活動では、集団に何かを伝え るとき、こちらから一方的に伝える形でした。指導的で 初めから答えを示しています。BPプログラムは、自分 で考えて行動できるお母さんたちの力を引き出している と感じました。 2つ目は、お母さんたちの表情の変化を感じました。 1回目と4回目ではお母さんたちの表情に変化がありま した。同じ境遇(第1子の母親)のお母さん同士話すこ とで、『悩んでいるのは私だけではない』、『みんな同 じことを思っている。自分だけではない』と知ることで、 安心することができていました。「お母さんが安心する −7− 私は、BPプログラムの実施に養成講座受講から4年 もかかってしまいましたが、実施できてよかったです。 実施後は、お母さんの満足度がとても高かったので、も っと多くの人に参加してもらいたいと思うようになりま した。BPプログラム実施後の赤ちゃん訪問では、お母 さんの悩みや不安を聞いていると、BPプログラムを紹 介したいという思いが強くなりました。 今後は第1子の母親全員を対象にBPプログラムを実 施することが目標です。養成講座の中で原田正文先生が BPプログラムを多くの人に受講してもらうことで、保 育園・幼稚園の様子が変わるという話がありました。多 くの親子に参加してもらうことで、幼児健診の親子の様 子が変わるかもしれないと思っています。これからも地 域全体の子育て力アップに向けて、笑顔ですごせる親子 を増やすために力を注いでいきます。
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