社会生活能力を身につけるための授業実践 ~毎日の授業、生活を社会

中学部 研究テーマ
「社会生活能力を身につけるための授業実践
~毎日の授業、生活を社会生活能力の視点で見直そう~」
1
テーマ設定の理由
昨年度の中学部の研究「社会生活能力を身につけるために」では、集団または生徒一人ひ
とりの社会生活能力の向上を目的とし、それぞれの学年において研究を実践するに当たり、
一定の成果を得ることができた。そして、それらの研究結果からは、今後も継続して支援す
ることや、能力を発展させる必要性が見て取れた。
社会生活能力とは、
Ⅰ.身辺自立
衣服の着脱、食事、排泄などの身辺自立に関する生活能力
Ⅱ.移動
自分の行きたい所へ移動するための生活駆動能力
Ⅲ.作業
道具の扱いなどの作業遂行に関する生活能力
Ⅳ.意思交換
ことばや文字などによるコミュニケーション能力
Ⅴ.集団参加
社会生活への参加の具合を示す生活行動能力
Ⅵ・自己統制
わがままを抑え、自己の行動に責任を持って目的に方向付ける能力
一言で「社会生活能力」と言っても、以上に分類されるように多岐に渡る能力で、1つの
能力の1つの課題を達成しても、段階を追うごとにまた新たな課題を達成していかなければ
ならないものである。言い換えると、生徒一人ひとり無限に発展していける可能性のある能
力であると言える。そこで昨年度に引き続き、今年度も中学部は社会生活能力に焦点を当て
て研究を行うことにした。そして、今年度はアセスメントをクラス、学年で共有して生徒の
実態を把握し、結果に基づいて日々の授業、学校生活を社会生活能力の向上の観点で見直し、
整理することにより日々の授業をよりよいものにしていくことができたらと考え、本テーマ
を設定した。
2 研究の方法
学部全体では大きな表題とアセスメント(新版S-M社会生活能力検査)を共有した。また、研究
実践に当たっては、それぞれの学年集団の実態に特徴があることや、学部としての規模が大きい
ことを考慮して、学年ごとの小グループとした。学年の小グループごとに、アセスメントの結果
を基に小テーマを設定し、それぞれの集団の特徴に応じた研究方法で実践をしていくこととした。
以下は、学年ごとの小テーマである。
中学部1年
意思交換と集団参加の力を育む
中学部2年
集団参加
中学部3年
社会生活能力の向上
中学部 1年 研究テーマ
「意思交換と集団参加の力を育む」
1 テーマ設定の理由
本学年の生徒は小学部から継続して本校に通っている生徒が多く、教員とのコミュニケーショ
ンは、入学当初から活発であった。しかし、生徒一人ひとりの実態を見ると、発語がない生徒や、
発語はあるが耳からの情報獲得が難しい生徒、簡単な言葉による会話が可能な生徒など様々で、
コミュニケーションを図る上では多様な課題があった。実際に『新版S-M社会生活能力検査』
を6月に実施したところ、
「意思交換」
「集団参加」の2領域が学年全体の課題であるという共通
認識が得られた。そのため、各クラスで集団、もしくは生徒個人において取り組んでいることを
挙げてもらい、研究にまとめることとした。
2 研究の方法と経過
研究のテーマとした『新版S-M社会生活能力検査』の質問項目の中から学校生活を送る上で
該当する項目を参考にして、対象生徒が取り組む課題を設定した。経過に関しては次のページか
らの事例を参照のこと。
3 考察
各クラスでの取組において、生徒の発達の段階や興味関心に合わせて、ペープサート、絵カー
ド、ひらがなタブレット等の視覚的支援が有効に活用された。そして、それらの支援によって発
声を促したり、場面に応じた言葉を習得したり、集中力を継続させたりと、さまざまな形で効果
を出すことができた。また、それぞれのクラスでの成果を学年全体の前で発表する機会を事ある
ごとに設定することにより、生徒に意識付けをすることができた。
4 今後の課題
今回、クラス単位での取組を研究としてまとめたことで、他クラスの生徒の課題や取組、成果
を共有するきっかけになった。引き続き、生徒一人ひとりの課題を学年全体で共有し、学年全体
で一貫した指導体制が取れるように、情報共有を徹底していきたい。
また、現状は教員からの投げかけをきっかけとしたコミュニケーションが多いが、こうした取
り組みを通して将来的には生徒同士が自発的にコミュニケーションを図れるようになることを目
指していきたい。
5 参考文献・資料
『新版S-M社会生活能力検査』 (日本文化科学社)
<研究者名>
八木沼千鶴 楠本潤子 加藤啓介 福田美奈子 佐藤聖一 舩渡川明香 笹谷佳生 鈴木一徳
小山内恵子 西村義次 小池朋宏
中1研究テーマ「 意思交換と集団の力を育む 」
25 支援の手だて
文章を聞き取る、文章で発表する機会を多くつくる
<どんな生徒?>
教員との非言語(くすぐり等)の関わりが多くみられる
保護者の要望の中に、会話でのコミュニケーション力がついてほしいとある
耳からの情報獲得が苦手であるが、繰り返し行う会話練習により会話を身につけることができる
<めざす姿は?>
単語や二語文だけでなく、場面や状況を文章で表現できるようになる
質問に適切に答えられるようになる
<具体的な支援策は?>
あらゆる場面で、質問回答や口述する機会を多くもつ
具体例 1) 音読・状況理解・助詞理解
・文章を音読し、文章の組み立て方を自然に身につける。
・読まれた文章に沿って生徒が即興でペープサートをし、
適切なインプット、アウトプットを身につける。
・教員のペープサートを見て文章を作る。
・助詞の抜けた文章に助詞を入れる学習や、主語、述語
助詞がランダムに並んだ文を完成させる。
・ロールプレイにより、適切な挨拶、会話の仕方を身に
つける。
具体例 2) 簡単な質問を投げかける
・「昨日家で何をしましたか」等の質問を単語で終わらせ
ないように口述させる。
・連絡帳で休日の過ごし方を教員が把握し、生徒に質問し
答えさせるやり取りをする。
具体例 3) みんなの前で話す場面を与える
・帰りの会のコーナーに『みんなの話』を取り入れ、一人
ずつ今日の出来事や感想を述べる。
・「です」「ます」等の敬体を意識させ述べさせる。
・教員が生徒の横につき、難しい文章で混乱している時や
単語での口述の時は支援を行う。
日常生活での簡単な会話は助詞を間違えなければ大まかに言えるようになって
きた。また、教員からの投げかけにより、挨拶や簡単な会話ができるが、友だち
どうしでは難しい。本生徒は教員の支援、言葉かけを受け入れて、正しく受け答
えすることができるので、様々な場面で自ら挨拶や会話ができるように引き続き
支援をしていく。
中1研究テーマ「
意思交換と集団の力を育む 」
26 支援の手だて
視覚的教材を用いて身近な言葉から発音させる
<どんな生徒?>
発語はみられないが好きな音やメロディーをまねて発声しようとする意欲があり、教員に同じよう
に言葉を返してくれることを求めることがある。一日の活動内容がわかり、せっかちではあるが見通
しをもって行動することができる。日常生活の言葉や言語指示は概ね理解できている。コミュニケー
ション面では、教員に対して膝の上に乗る、抱っこするなど身体的な関わりを求めることが多い。要
求があるときはホワイトボードに書いたり、電子辞書に打ち込んだりして単語で伝えるよう小学部よ
り継続して取り組んでいるが、中学部に入り、自分の意思を伝えたいという気持ちが強く感じられる
ようになってきた。
<めざす姿は?>
・言葉を主として自分の思いを伝えることができる。
・その場に応じたあいさつをすることができる。
<具体的な支援策は?>
本生徒が好きなくすぐり遊びやメロディーを繰り返す音遊びなどを通して、他者と言葉で意思疎通
できる楽しさを味わうことにより発声する意欲向上をねらう。また日常生活や授業の活動の中で慣れ
親しんでいるあいさつや言葉から具体的に発声の練習を行っていく。
具体例 1) くすぐり遊びや音遊び
・本生徒が好きなくすぐり遊びや音遊びをする前に「やって」「おねがい」など教員に言葉で頼むよ
うに繰り返し指導する。
具体例 2) 好きな物を取り入れた文字の練習と音読(写真①参照)
・国数の授業において行う。例)英語に対する興味が強い→GAPの洋服の写真を見て「ギャップ」
と書き読む。くすぐり遊びが好き→だるま絵本を使って目や耳、手など身体の部位の名前を教員と
一緒に読み、実際に部位をくすぐりながら発声の練習を行う。
具体例 3) あいさつ名札
・「おはよう」
「さようなら」
「いただきます」「ごちそうさまでした」の4種類のカードが入った名
札ケースを教員が身につけ、登下校時や食事の場面であいさつをさせる。
具体例 4) 言葉カード(写真②参照)
・机上に「できました」「たすけて」「はじめます」「おわります」「おはよう」「さようなら」などの
カードをめくり式で貼りつけ、場面に応じた言葉で伝えさせる。
具体例5)自分で書いた給食のメニューをみんなの前で発表する係活動(写真③参照)
・毎日次の日の給食のメニューをホワイトボードに書き、朝の会帰りの会で発表させる。
具体例6)ひらがなタブレット(玩具)(写真④参照)
・あいまいな発音が多くみられるため、ひらがなタブレットから発せられる音を聞いてどの平仮名が
発音されたのかを聞き当てるゲームを行わせる。
↑写真②:言葉カード
↑写真①:だるま絵本
←写真④:ひらがなタブレット
↑写真③:給食のメニューボード
小学部のときは主にホワイトボードを使い、文字により自分の意思を伝えるよう取
り組んできた。中学部に入り、発達段階に応じて本人の興味関心の枠も広がってきた。
新しい生活の中で、自らの意思で選択、決定を行う力が伸びてきており、それを相手
に伝えたいという気持ちも強く感じられるようになってきた。そこで本人がどのよう
な場面でも相手に自分の意思を伝えられるよう、文字による伝達から言葉による伝達
ができるようになることをねらいとして支援を組み立てることにした。また実際に社
会生活で必要なその場に応じたあいさつも合わせて指導していくこととした。
後期には自分から進んで「おはよう」
「さようなら」
「はじめます」
「おわります」な
ど場面に応じたあいさつができるようになり、
「一本橋 やって」や「図書室 お願い」
などいろいろな要求を言葉で伝えることができるようになった。言葉でのコミュニケ
ーションが増えたことで、怒ったときや不快なときに足を叩く動作はみられなくなっ
てきた。また他者に対する興味がでてきており、積極的に自ら他者と関わろうとする
こともみられるようになってきている。今後の課題としては、発音を明瞭にすること
や幅広く様々な言葉を学び、さらに言葉で伝える楽しさを味わいながら誰に対しても
伝わる言葉の習得をすることであると考える。
中1研究テーマ「
意思交換と集団の力を育む 」
27 支援の手だて
視覚的支援による意思交換能力の向上
<どんな生徒>
言葉での指示理解はでき、何事にも一生懸命に取り組もうとする姿勢が見られる。
集団行動では、全体の流れに沿って活動に参加することができる。
授業や作業中に話し手に意識が向かずに独り言や再現遊びをすることがある。
簡単な日常生活についての質問については、考えて答えることができる。
<めざす姿は?>
話し手の話を意識して聞いて、受け答えや発表をすることができる。
<具体的な支援策は?>
朝の会と帰りの会等全体指導の場で、リーダー教員や話し手(日直)が説明や発言をする。
場面を通して、適宜質問をしたり意見を求めたりする等の機会をつくる。
リーダー教員が話す時は、リーダー教員の方を向き、正しい姿勢で聞く態度を意識させる。
リーダー教員は指差し棒を使い視覚に訴えながら説明などを行う。
具体例 1) 説明の途中等で適宜質問等を投げかける
・リーダー教員は、話に集中できるように適宜言葉かけや質問等を投げかけて回答させ、
発言を促す。
・リーダー教員は質問等をゆっくり大きな声で行い、必要に応じて繰り返して説明する。
・サブ教員は、独り言等を言うなどリーダー教員に注意が向いていない時に、近くに行き言
葉かけを行い、聞く姿勢を意識させる。
・リーダー教員は、日付や日課を説明する時に指差し棒を使いながら説明をする。
具体例 2) カード(視覚教材1)の利用
・サブ教員は独り言等を言ってリーダー教員に注意が向いていない時に、カード(視覚教材)
を意識させて聞く姿勢を意識させる。
・朝の会と帰りの会が始まる前に、必ず自分で机上にカードを置くようにさせる。
・注意が散漫になった時は、カード(視覚教材)を見せて、手は膝に置くなど正しい姿勢を
意識させ、話し手の方を見るようにさせる。
具体例 3) ミニ進行表(視覚教材2)の利用
・朝の会や帰りの会の進行を意識させるためにミニ進行表を机上に配置する。
・リーダー教員の進行に追わせて、今行っている順番のところに矢印を合わせることに
より、何の項目が行われているのかを意識させる。
写
真
カード(視覚教材)や机上用ミニ進行表を活用する以前は言葉かけ中心の促し
であった。その時期は、すぐに集中力が途切れて気が散ってしまうことが多くあ
った。そのため、リーダー教員の説明に飽きてしまった時や独り言を言った時に、
教員がその都度言葉かけをして話に注意を向けさせるということが多くあった。
また、指さしなどして話し手の方向を示したりして常に意識させるようにして
いた。カードやミニ進行表等の視覚教材を取り入れることにより、朝の会と帰り
の会においては以前に比べリーダー教員の説明を意識して聞くような姿勢が少し
ずつ身についてきたように思われる。例えば、朝の会が始まる前に自分から視覚
教材のカードを机上の見やすい場所に並べることにより、リーダー教員の話を聞
く自覚が少しずつだが高まってきた。
また、ミニ進行表の矢印をリーダー教員の話に対応して動かしていく等の活動
を取り入れることで、見通しを持って取り組めるようにもなってきている。つま
り、視覚教材等を有効に利用することによって、以前よりリーダー教員の方を向
き、説明等を聞く姿勢は育ってきているといえる。
しかし、まだまだ、その意識は弱いと感じられるので、今後もこの取り組みを
継続していく必要はある。そして、今後も視覚教材を有効に使いながら朝の会等
の場面で、集中して説明等を聞く姿勢を育て、また、聞く時間を伸ばしていける
ように支援していくことが大切であるといえる。
中学部 2年 研究テーマ
「
集団参加
」
1
テーマ設定の理由
「集団に参加する」ということは、現在においても、また、将来においても社会でより生
きやすく幅のある生活を送るために望まれる行動である。しかし、1 学期に実施したS-M
社会能力検査では、ほとんどの生徒でこの項目が落ち込んでいた。昨年度も同じテーマで研
究を試み、授業など学年単位の集団において、部分的には成果が得られた。しかし、学習発
表会や芸術鑑賞会等、普段とは異なる活動、学部をまたいで集まる機会等では、別項目の「自
己統制」力もからみ、まだまだ集団で場面やテーマを共有し、周囲の活動を遮らずに自身も
参加することが難しいケースが折々に出現する。そこで、2学年では、今年度も引き続き「自
己統制」も視野に入れながら、
「集団参加」をテーマとした。
2
研究の方法と経過
テーマである「集団参加」のみを学年で共有した。各クラスでそれぞれの生徒の実態を
分析して目標とする行動を設定し、そのための手立てと手立てを実践する中での行動の
変化を研究した。
3
考察
日々、対象の生徒と接している担任団が手だてを考え、実践しているため、効果を確
認しやすい。また、その結果として、手だての工夫や変更等、次の対応が容易になって
いる。一つのケース(音楽の授業への参加を促す)では、1年次からの支援を継続した
結果、苦手科目に対する生徒の関わり方に進歩が見られ、
‘支援者’として、
「引き継ぎ」
、
「継続」という面で、学校ならではの利点が発揮されていた。
4
今後の課題
いずれのケースも一定の成果は上がっているが、
‘スモールステップ’ではある。特別
支援学校の特徴の1つである‘担任団’
(教員チーム)で指導にあたるだけでなく、今年
度、途中から本校にも配置された‘専門職’の視点も積極的に取り入れていくことで、
より多角的に生徒の実態を把握し、さらに効果的な支援ができると考えられる。
5
参考文献・資料
『新版S-M社会生活能力検査』 (日本文化科学社)
<研究者名>
森田晶美 渡邊佳隆 大川快 金子由美 水越達也
飯塚仁朗 酒巻順子 福寿谷智 吉垣俊一
伊藤英美花 田代秀平
山岡りえ
中2研究テーマ「集団参加の力を伸ばす」
28 支援の手だて
参加できる課題を増やす
<どんな子?>
・初めて経験することや新しい課題、自分の予定や想定にないことを受け入れることは難しい。
・日常的な会話の簡単なやり取りはするが、必ずしも言葉の意味を理解しているわけではなく、
実際に本人が話している言葉よりも耳で理解できる言葉の方が圧倒的に少ない。
・興味・関心に偏りがあり、固執性があるため、その対象が極めて広がりにくい。
・集団への参加は基本的に苦手。
・義務や規制・規則の概念を形成することは難しい。
<めざす姿は?>
・拒否せずに取り組める学級の仕事を増やす。
・授業で上手にできるか不安なとき、見通しが立たない時。
・授業で上手にできるか不安なとき、見通しが立たない時。
・ふざけモードで担任の指示や注意を聞き入れない時。
<具体的な支援策は?>
・ふざけモードで担任の指示や注意を聞き入れない時。
給食の片付け①、教室の掃除②を受け入れ、取り組めるようにする。
具体例 1)日課表のカードを黒板に張り、あらかじめ本人に予定を視覚的にも伝達する
また、本人にも日課表を書かせる。
具体例 2)本人の取り組める課題からはじめ、徐々に仕事の質量を増やしてゆく
1 月 14 日
1 月 15 日
1 月 16 日
1 月 17 日
(火)
(水)
(木)
(金)
1
あさのかい
あさのかい
あさのかい
あさのかい
2
こくすう
3
そうごう
4
写
こくすう
びじゅつ
さぎょう
真
こくすう
せいたん
がくぶ
たいいく
おひる
5
きゅうしょく
きゅうしょく
きゅうしょく
きゅうしょく
食堂そうじ
食堂そうじ
食堂そうじ
食堂そうじ
おんがく
かえりのかい
がくねん
がくねん
たいいく
たいいく
6
せいそう
せいそう
せいそう
7
かえりのかい
かえりのかい
かえりのかい
げ こ
2:50
2:50
2:50
1:20
う
① 最初は、全く取り組めず、食事の終了とともに食堂から飛び出していたが、指導を重ね
ることで、食器、食缶の片付け、椅子の上げ下ろしをするようになった。ただし、まだ
モップがけは拒否し、責任を果たしているとはいえない。
② 最初は全く取り組めず、廊下で寝転がっていたが、ゴミ捨てにいき、廊下を一人ではき、
自分の机を運ぶようになり、やがて廊下から濡れた新聞紙を教室に投げ入れて撒くよう
になると、ほどなく他の生徒と一緒に掃き掃除をし、机を運ぶようになった。
中2研究テーマ「
集団参加の力を伸ばす
29 支援の手だて
」
音楽の授業への参加を促す
<どんな子?>
イヤーマフを着用し、苦手な音などに対しては、その場を離れようとするなど、聴覚に偏りが
あると思われる。一方気に入った歌を口ずさむこともあり、音楽が全く苦手と言う訳ではない。
<めざす姿は?>
音楽の授業では、室外にいる時間を減らし、できるだけ教室内で授業が受けられるようになる。
<具体的な支援策は?>
* 通常の座席だけでなく、教室内で居られる場所(席)を段階的に設定する。
具体例 1)
集団ともあまり離れないような位置に第2の席を設ける。通常の席で耐えられない
通常の席で耐えられない場合は、こちらの席に言葉かけ
け
などで誘導する。
具体例 2)
第2の席だと黒板が見えにくくなるので、自分で書いた
歌詞カードを手元に置いて歌詞を覚える。
具体例 3)
廊下など室外に出た場合でも、できるだけ音が聞こえ
るよう入り口近くに第3の席を設けるなどして、音に
慣れる工夫をする。
自分から第2の席に移動するなど、室外に出ることは少なくなった。その際歌詞カ
ードが手元にあるので、曲によってはじっくり歌う場面もみられた。室外に出ても入
り口付近で中の様子をうかがうなど、授業に関心をよせることも以前に比べて増えて
きた。
中2
研究テーマ「 集団参加の力を伸ばす 」
30 支援の手だて
自分の思いを言葉で伝える
<どんな子?>
慣れない環境や見通しの持てない状況、大人数、騒がしい環境が苦手で、トイレに行くなどして頻繁
に退出することがある。また、不安定な状態だと、その場で失禁したり、大声で泣いたり怒ったりと
いう行動で、しばらくその場から離れざるを得なくなることがある。
<めざす姿は?>
一日の見通しを持ち、混乱なく過ごせる。できるだけ長く授業に参加していられる。不安定になりそ
うな状況に置かれた場合は、激しく混乱する前に、自分の思いや状態を伝えられる。
<具体的な支援策は?>
毎日、ホワイトボードで日課や簡単な授業内容を一緒に確認する。授業前には必ずトイレに誘う。自
分の思いや状態を表せる言葉と、その使い方を教える。
具体例 1) ホワイトボードで見通しを持たせる
日課と授業内容を、本人に分かりやすい形で記載する。
いつもと違う流れや内容がある時には、特によく伝えておく。
具体例 2) トイレに行く
授業が始まる前に必ずトイレに誘い、授業中にトイレに行きたくなってしまうことがないよう
にする。また、
「今行ったから授業中は行かないよ」と確認をする。
具体例 3) 言葉で伝えさせる
① 日常生活の指導の中で、自分の思いや状態を表せる言葉と使い方を教える。
・トイレに行きたい時・・・「トイレ」
・音が気になる時・・・「音」
・そばにいてほしい時・・・「先生」
・その場から離れたい時・・・「休憩」
等
② 余暇活動を自分で選ぶ
自分の心理状態に適した余暇活動を選び、授業が始まるまでに心を安定
させられるようにする。選びやすいよう、ホワイトボードを用意する。
毎日自分からホワイトボードに日課を書いてくれるよう要求し、教員と一緒にしっ
かりと日課を確認できるようになった。それでも見通しが持てなかったり、我慢でき
ないほど苦手な状況に置かれたりした場合は、「休憩」と伝えられる場面が出てきた。
また、余暇活動では、
「新しい紙ください」
「本読む」
「チラシください」等、自分から
発言できるようになってきた。
中2研究テーマ「 集団参加の力を伸ばす
31 支援の手だて
<どんな子?>
」
言葉かけでの様々なアプローチの仕方を考える
場面によって、集団参加が難しいことがある生徒。
・学部体育の前(マラソン)
・行事の前等 苦手意識のある授業、行事の時。
・授業で上手にできるか不安なとき、見通しが立たない時。
・ふざけモードで担任の指示や注意を聞き入れない時。
<めざす姿は?>
・集団からなるべく離れず苦手な授業にも参加する。
・気持ちを切り替え、落ち着くことができる。
<具体的な支援策は?>
言葉かけをきっかけに自ら次の行動に出られるように支援を行う
具体例 1) 学部体育の前、移動が遅れてしまったとき
「先生みんなのところへ行きたいよ、○○くんがいないと困っちゃうよ」等の言葉か
けをし、先生が困ってしまうということ伝え、気持ちを切りかえさせる。
具体例 2) ふざけモードで担任の指示や注意を聞き入れないとき
腕時計を見せ、「○分になったらちゃんとしよう」と言葉かけをし、時間になったら
腕時計を見せ、「○分になったよ」と伝え、本人が自分で立ち直ったように感じ、気
持ちの切り替えをスムーズに行える環境を作る。
具体例 3) 初めての授業で見通しが立たない時、上手にできるか不安なとき
初めての授業の時には本人が取り組もうとしなくても、そっとしておく。授業後には
「今日の授業では、○○できたね」とできたことを評価する。次の授業の前には「今
日は○○やるよ。この間とても上手にできていたよね」言葉かけをすることで、不安
が解消され、積極的に授業に参加できる。
支援では、自分で気持ちを切り替えられるような言葉で、短くわかりやすく伝えるように
努めた。言葉かけを必要としないことも多く、対応を臨機応変に変えていくこともあった。
また、実践では効果があった時と効果があまりみられなかった時があり、効果があった場合
でも、何回か同じようにアプローチするとあまり効果がみられなくなる場合もあった。担任
とのやりとりの中では、2学期頃から信頼関係が深まったこともあり、比較的気持ちの切り
替えをスムーズにできることが増えていったが、一方で、ふざけモードが見られたときなど
は、担任以外の対応では、切り替えが難しい様子も見られた。その点においては、継続課題
である。
中学部 3年 研究テーマ
「社会生活能力の向上」
1 テーマ設定の理由
本学年は昨年度、社会生活能力の中でも「集団生活」と「自己統制」の力に焦点を当て、研究
を行った。研究では、一定の成果は得られたものの、それらの力は継続して支援を行うことによ
り、更に成果を上げられるものであった。今年度は昨年度の研究内容を踏まえ、更に個々のニー
ズに応じた支援ができるよう、一学期に『新版S-M社会生活能力検査』を実施し生徒の実態を
詳しく把握した。結果としては全体では昨年度と同様「集団参加」と「自己統制」の項目の落ち
込みが目立っていた。しかし同時に「身辺自立」
「意思交換」などの項目でも、目立った落ち込み
が見られる生徒が少なくないこともわかった。よって、中学部3年は社会生活能力全般の中で、
クラス単位、または個々の生徒が今一番伸ばすべき力に焦点を当てられるような研究を目的とし
たため、本テーマを設定した。
2 研究の方法と経過
『新版S-M社会生活能力検査』の調査結果を学年で共有した後、各クラスにおいてクラス、
生徒の実態を、結果を基に詳しく分析し目標を設定した。それらの目標を達成するための支援の
手立てを考え、実践、見直しをし、行動の変化を追った。
3 考察
今回、
『新版S-M社会生活能力検査』をクラスで実施し、データを学年で共有したため、生徒
の実態を確実につかむことができ、落ち込んでいる能力を把握することが比較的容易であった。
また、クラス単位または個々の生徒について話し合う際も、データを基に目標設定をしたため、
よりスムーズに個々の生徒のニーズに即した支援の手だてを検討、実践、考察できたのではない
か。
4
今後の課題
今回の研究では、昨年度と同様、一定の成果は出たものの、まだまだ支援の継続の必要性が見
られた。今後もこれらの支援を高等部につなげていくことが重要である。また、社会生活能力と
一言で言ってもその能力は多岐にわたる。それぞれの生徒の障害特性等を踏まえてそれらの能力
の向上を目標に考えると、ほとんどの生徒が複合的な課題を持っていることから、今回設定をし
た目標の達成だけではなく、様々な社会生活能力において達成すべき目標が見えてくるだろう。
5 参考文献・資料
『新版S-M社会生活能力検査』 (日本文化科学社)
<研究者名>
森田 勉 保福 正明 芝本 伸昭 村田 有未 木村 佳代子 櫻田 七菜子 田中 寛葵
境 明子 清水 功 小橋川 貴郭
中3研究テーマ「 社会生活能力の向上-日常面で立位や座位での姿勢を正しく保てる- 」
32 支援の手だて 内転、内反を予防する姿勢をとる
<どんな子?>
股関節が内転しているのでバランス良い立位姿勢が取りにくい生徒
<めざす姿は?>
両足に均等に体重をかけてバランスがよい姿勢をつくりたい
<具体的な支援策は?>
バルーンや視覚的な足底板を使用して身体のバランスを取れるように意識を育てる
具体例 1) 支援にはスモールステップで取り組む
①自分からバルーンを取りに行ったときに取り組む
②座位を取った姿勢でしっかりと足をつけて跳べるようにする
③徐々に練習して立位での姿勢を正しくとれるようにする
具体例 2) 机に座る場合の姿勢での取り組み
木製の足形を作成し、着席した時に正しい姿勢で座れるようにする。
・バルーンで跳ぶ姿勢
*両足をしっかりと開いて
正しい姿勢を取る
・HRや学習時の着席したときの姿勢
*足を正しい位置に置く木製枠
*靴のサイズに合わせたもの
姿勢の面では、日常的に両足をしっかり揃えて座ったり、立位のときに内転し
ないように促したりすることで背中が伸びてよい姿勢で座れるようになってき
た。しかしリラックスした時には内反気味になるので継続した指導が必要である。
中3研究テーマ 「 社会生活能力の向上-食事場面でこぼさずに食べられるようになる-
33 支援の手だて
」
補助食器を使って一人で食事ができる
<どんな子?>
箸を使用することが難しいため、スプーンを使用しているが、お皿からこぼしたり、手を
使って食べたりしてしまう
<めざす姿は?>
片手でお皿を抑え、スプーン等ですくいながら一人で食べることができるようになる
<具体的な支援策は?>
マカトンサインを利用しながら本人の気持ちを読み取りスプーンの持ち方や動かし方を
支援する
具体例 1) 特別食器に小分けしてよそうことで意識を集中させる
・
「手をそえてね」とか 「おかわりする?」などの言葉かけをする。
・スプーンの持ち方等が間違っているときには正しい持ち方を
指導する。
具体例 2) 自分から「ください」のサインをだすのを待つ
・ゆっくりかんで食べるようにうながす。
・お腹が空いているときには早食いになってしまうのでその都度
「ゆっくりね」等の言葉かけをしていく。
食事場面については、ほぼ一人ですくって食べられるようになりこぼすことが少な
くなった。早食いを予防する意味でも小分けにして食べることでサインをだす行動が
定着してきた。
中3研究テーマ「
社会生活能力の向上 」
34 支援の手だて 他者を頼ることを減らし、自分の判断で道具を使用
し気持ちの安定を図る
<どんな子?>
語彙は少ないが、いくつかの場面においては自分の意思を簡単な単語等で伝えることができる。細かな
要求に対して相手に上手く意図が伝わらない、活動に見通しが持てない、自身の体調、気分が優れない
などの内的要因、また、気温が高い、低いなどの外的要因により、パニックを起こすことがある。その
際に氷を食べる、音楽プレーヤーを聞く、マットを敷いて横になるなどの支援を試みて来た。それらの
道具の使用により気持ちの安定が図られることが多くなったが、今までの経験、学習から他者の許可が
ないとそれらの道具を使おうとしない、また、許可を求める際に他者に頼る気持ちが強く、更にパニッ
クが増長してしまう、という様子も見られて来た。
<めざす姿は?>
気持ちの安定を図るために、道具を自分の判断で使用することができる。
<具体的な支援策は?>
あえて教員、周りの人が関わる機会を少なくし、自分の判断で道具を使用する機会を設定する。
具体例 1) パニックにならないような環境の整備をする。(全体の基本となる部分)
(写真①、②参照)
・直射日光、暑さが苦手なため、教室の窓には遮光カーテンを取りつける。エアコンの
使用、換気により教室内を一定の温度に保てるようにする。
・活動に見通しが持てるよう個別の絵カードで日程を視覚化する。
・待ち時間が苦手なこと、友達の様子を見て活動に見通しを持つことを考慮し、活動
の順番は常に二番目にする。また、その都度活動の終わりを簡潔に伝える。
↑ 写真① 遮光カーテン
↑写真② 日程絵カード
具体例 2)様々な道具を簡潔にまとめ、いつも携帯する
(写真③、④参照)
・道具を収納するバッグの作成。
・道具がどこに入っているか明確に分かるように収納場所に絵カードでわかりやすく
表示する。
・教室移動の際は常に携帯するよう支援する。
↑ 写真③ 道具バッグ
↑ 写真④ 様々な道具
具体例 3)パニックになりそうな際は距離を取る
・他者に頼ろうとしたり、道具の許可を求めて来たりした際は、目を合わせずに距離を取る。
・パニック時の言葉かけは、本生徒に直接伝えるのではなく、他生徒への言葉かけという形
で伝える。
例)「(○○さんへの言葉かけであるが)△△さん、音楽プレーヤー聞いても良いかもね」
パニックになりそうな時や、パニック時に周囲に他者がいない、または関わろうと
しない様子に最初は戸惑いを感じていたが、徐々に他者の許可を得ることなく自分か
ら道具を選んで気持ちの安定を図れるようになってきた。また、道具を明確に収納す
ること、いつも携帯していることも、すばやく必要なものを選択する手助けにもなっ
た。また、並行して行ってきた環境の整備により、見通しが持てることや、心地よい
環境が保障されているという安心感からパニック自体も減って来た。
中3研究テーマ「
社会生活能力の向上 」
35 支援の手だて 道具を適切な時間、場面で使うことができる
<どんな子?>
パニック時に音楽プレーヤーを聞く、マットを敷いて寝るなどの支援で気持ちの安定を図ることがで
きるようになってきたが、それらの道具の快適さから授業中やパニックを起こしていない平常時でも
使用の要求をする様子が見られるようになってきた。また、使用できないことに対してパニックを起
こすようにもなってきた。なお、活動の見通しや場面の切り替えは個別の日課カード、日常的な大き
な日課の流れについては今までの経験から見通しをある程度持つことができている。また、言葉かけ
による指示は本人に直接伝えると場面によっては極度のストレスを感じることから、他生徒に話しか
ける形で間接的に伝える形が有効である。
<めざす姿は?>
道具を適切な時間、場面で使うことができる。授業中は道具の使用を我慢することができる。
<具体的な支援策は?>
道具を使ってよい時間、授業に集中する時間などを明確に伝える。
具体例 1)授業と休み時間の区切りを明確にする
・休み時間は好きなことをしてよいと伝える。
・授業が始まったら音楽プレーヤーなどの道具の使用を
要求されても「我慢」という言葉とサインで他の生徒
を介して伝える。(写真①参照)
・小さなパニック時には道具を使用しようとしても「我慢」
と伝える場面を徐々に増やす。
具体例 2)
↑ 写真① サイン
写
真
絵カードを紙芝居方式で提示する (写真②参照)
・朝の会で1日の中に休み時間が保障されていることを
全体に提示する。
・不規則な日程でも、活動をこなせば対象生徒の好きな
「音楽を聴く」ことができると全体に言葉かけする。
↑ 写真② 紙芝居方式
絵カード
具体例 3)気持ちの安定が図られたら道具の使用を止めるよう伝える
写
真
・パニック等で授業中に音楽プレーヤー、マットなどを使用していたとしても、気持ちの
安定が図られたタイミングで道具の使用を中止するよう伝える。
(具体例3に関しては対象生徒に直接言葉かけをする)
対象生徒には「道具を使用したいけど、今は授業中だから使用してはいけない」とい
う気持ちは元からあったが、つい快適さから道具に頼ろうとしてしまう様子があった。
しかし、明確に使用してよい時間と場面(パニックの前兆に自分で気持ちを抑える為)の
線引きを日常的に提示することで、使用しなくても納得できるようになってきた。
写
中3研究テーマ「 社会生活能力の向上 」
36 支援の手だて
日中の排泄がトイレでできるようにする
<どんな子?>
人懐っこい性格で簡単な会話ができる。色々なことに興味を持って取り組む。排泄については、1
年前から、日中の排尿は紙パンツから布パンツに替えたことでほぼできるようになった。排便は、1
日に何回も失敗してしまうなどトイレではできなかった。また、爪の間に便が入っていたり、手につ
いたりしたまま登校するなど清潔を心がけることもできなかった。
<めざす姿は?>
身辺を清潔にしよう
日中の排泄をトイレでしよう
<具体的な支援策は?>
トイレでの排便の成功体験を積み重ねさせ、それを目に見える形で評価する。
具体例 1)身辺の清潔を心がけさせる
・ 吊り下げ式タオル作成(写真①)
・ 爪をやすりで短くする、楊枝で便を取り出す
ことを経て、爪きりを使って切れるようにする。
↑写真①
具体例2)トイレに行くことを楽しみにさせる
・
写
タオル
真
かわいい物、きれいな物が好きなのでトイレ
グッズをかわいい物にする。(写真②)
具体例3)目に見える評価でやる気を喚起する
・ トイレで排便できるように言葉かけをする。
・ 朝の会、帰りの会で誉める場面設定する。
・ 成功したときはシールを大きな表に貼る。
(写真③)
↑写真②きれいなバッグ
写
↑写真③
写
真
シール表
真
手指が便で汚れていても平気だったが、自ら気づき、清潔を心がけられるよう
になった。
「爪切り」もあと少しでできる。日中の排便は自らトイレに行き排便し
ている。手指の清潔が保てるようになったことで、今までできなかった給食の配
膳もできるようになり、活動の幅がより広がり、自信を持って活動している様子
がうかがえる。
中3研究テーマ「 社会生活能力の向上
-集団活動においてリーダーシップを発揮することができるー 」
37 支援の手だて
朝の運動を通して集団の中で、仲間への働きかけ
ができる
<どんな子?>
発する言葉が不明瞭なときもあるが、言葉でほぼ指示が理解でき、集団を意識して行動はでき
る。クラスのリーダーとしての自覚は出てきたが、周りのことに気を取られて自分のことが疎か
になったり、経験不足から自信が持てず、常時行っていることも指示待ちとなったりすることが
ある。
<めざす姿は?>
クラスの中でリーダーシップを発揮するとともに、自らが模範となるような行動をする。
<具体的な支援策は?>
○朝の運動において、リーダーシップが発揮できるように行動のルール化をする。
○自分の発する言葉により、他の生徒が注目し行動できるように条件を設定する。
具体例 1)開始時間や「朝の運動」の開始を他の生徒に伝える音楽
及び言葉かけを予め決めておき、その定着を図る
○開始時間:着替えが終わったら(9:20 頃)
○音
楽:沖縄の曲(普段聴かない曲をセレクト)
○か け 声:
「朝の運動始めます」等
○運動の順番:
「腹筋」→「スクワット」→「1,2スクワット」
具体例 2)運動する時のかけ声を統一し、運動時に対象生徒が、
かけ声を言って他の生徒も運動できるようにする
○か け 声:「いち、いち、しゃがむ、たつ、せーの、ジャンプ」
○流
れ:最初定着するまで教員が全体にかけ声をかけ、対象
生徒が続いて声がかけられるように、黒板での表記
も行い、動きが定着したら、対象生徒にかけ声をか
けることを任せる。
具体例 3)生徒のモチベーションをあげるために、しっかりと運動ができ、リーダーとして役割
を果たした場合に、見えるかたちで評価できるものを用意する
○評価方法:他の生徒は、運動ができたと評価されたら、自分のカレンダーにシールを貼るこ
とにしているが、対象生徒の場合は、役割を果たしたと評価された場合は、特別
なシールを更に貼ることができる。
はじめは運動自体に関心がなく、自分のこともままならなかったが、経験を重
ね自分が先頭に立って集団で運動することで、徐々に声も大きくはきはきとかけ
声を言えるようになった。また、友達が終わるまで次の運動を待つとか、友達に
座るスペースを確保してあげる等、自己有用感や責任感、協調性も培われた。そ
して、朝の運動以外でも、友達に自分から声をかけて一緒にそうじをするなど、
積極的に友達にかかわる様子も見られるようになった。
中3研究テーマ「 社会生活能力の向上―集団の中で友達を意識して活動することができるー 」
38 支援の手だて
クラスの友達と一緒に朝の運動に取り組む
<どんな子?>
日常で使う簡単な指示がほぼ理解でき、簡単な言葉で自分の意思を伝えることができる。大人
がそばにいないと不安感が強く、1 対 1 のかかわりを求めることが多い。またすぐに席に座り、
歌の本を見たり、音楽を聞いたりすることを好む。移動時は教員と一緒に歩きたがるが、手つな
ぎをする友達を限定し、そばで教員が好きな歌などを歌い見守るようにすると、スムーズに友達
と手をつないで移動ができるようになってきた。
<めざす姿は?>
クラスの集団の中で、友達と一緒にいろいろと活動することができる。
<具体的な支援策は?>
○朝の運動では、リズミカルな音楽をBGMに使用したり、かけ声に合わせて動いたりするこ
とで、楽しく参加しやすい環境作りを行う。
○対象生徒が決められた運動を行うことができるように、モチベーションを下げずに取り組め
る言葉かけや工夫を行う。
具体例 1)開始時間になったら集団の中で活動するよう教員が言葉をかける
○対象生徒が意識している内容に着目し、修学旅行の新幹線を楽しみにしている時は、
「腹筋を行えば新幹線に乗れるよ」等の言葉をかけ、動機付けをする。
具体例 2)教員や友達がすぐ目の前や横にいることで安心して運動を
させる
○腹筋の運動をする際は、教員のすぐ近くに座らせ、言葉かけ
や手を引く等の支援を行い、安心できる環境を整える。
○「1,2スクワット」では、友達と手をつないで輪となり、
教員がそばにいて見守りながら、対象生徒が友達との一体感
を感じる環境を作る。
具体例 3)運動が終了したことが明確になるよう、視覚的に理解しや
すい「ハイタッチ」を取り入れる
○全体の運動が終了しても、生徒が決められた運動を行わない
場合は、
「ハイタッチ」ができないようにし、「ハイタッチ」
=ノルマの達成と位置づけ、対象生徒のモチベーションが下
がらないようにする。
始めは自分の席に座っていて運動に参加することができなかったが、他の生徒が音楽
に合わせて運動をしていることに影響され、次第に教員の言葉かけと少しの支援で運動
に取り組むことができるようになった。これまで対象生徒は、友達を意識することは少
なかったが、移動時にクラス全員で移動することや友達と一緒に運動に参加することで
友達を意識するようになってきたと思われる。