平成 26(2014)年度 大阪市立大学個別学力検査(後期日程) 法学部論文「解答例」 第1問 問1 第 1 に、正義が他国との国境どころか、自国の隣人との土地の境界すら越えられないこ とから、少なくとも国境の内側では正義が諸個人の境界を越えうることを前提にした上で、 国境の内側でしか妥当しない正義の滑稽さを嗤うという態度をとることは不可能であり、 また、国境を隔てて私とある外国人とが同じ価値観を共有していれば、この「私たちにと っての正義」は、 「私たち」の共同主観を超えてはいないとしても、国境を超えているため、 結局、価値の相対化が国境による相対化と一致する必然性はないこと。第 2 に、価値相対 主義は、不正な差別を不正として批判する規範的根拠としての正義理念をも相対化するこ とにより、 「国境を越えられない正義」に惑溺する人々の自己合理化を批判不可能なものと してしまい、そのため、 「所詮、正義は滑稽でしかありえない」として「河一つが境界をな す正義」への批判を無効化することにより、これを誰も嗤えぬ現実として追認してしまう。 問2 東部熱帯太平洋海域では、マグロとイルカが一緒に泳いでいる。この海域でマグロ漁を するメキシコ漁船は、呼吸のために海面に浮上するイルカを発見すると、イルカを網で囲 ってしまい、イルカとマグロを混獲する漁法でマグロ漁をしている。網に入ったイルカは パニックを起こして死んでしまうか、捕獲の際に殺害されてしまう。このようにして漁獲 されたマグロは、メキシコから米国に輸出され、ツナ缶などに加工されて市場で販売され た。この場合、メキシコ漁民にとって、イルカとマグロの混獲漁は、自分たちの生計を支 える「正義」であった。これに対して、高等動物とされるイルカに愛着を抱く市民が多い 米国は、イルカが絶滅危惧種でないのにもかかわらず、イルカ保護のために、イルカとマ グロの混獲漁法によって漁獲されたマグロの輸入を禁止する法律を成立させた。この結果、 メキシコ産マグロは、事実上米国への輸入を禁止され、メキシコ漁民の生計を圧迫するこ とになった。この場合、イルカを保護することが米国市民にとっては「正義」であった。 問題解決のためには、一国が他国に対して一方的に自国の価値観を押し付けるのではなく、 国際的に協力していくという「国境を越える正義」の観点から、米・メキシコ間でイルカ 保護条約を締結し、米国はイルカを混獲しないマグロ漁法の開発のための技術援助協力を することなどが考えられる。 第2問 問1 文章Ⅰの著者は、授業料負担の仕組みが複雑になる原因は「フェアネス」の重視にある と考えている。大学教育を受けることは社会的な上昇移動の主たる手段であり、その機会 は平等でなければならない。他方で、政府の財政難から、家計による授業料負担分は増え ざるを得ない。そこで、低所得層への財政支援策を通じて、授業料が社会移動の道を狭め ないようにせねばならず、イギリスでは、この緊張関係が「フェアネス」の問題として論 じられる。 問2 日本の大学では、受益者負担の原則から、授業料を家計が負担する。それゆえ、家計の 経済力が進学を規定し、教育による社会階層の再生産構造がますます強化されるという問 題点がある。また、個人が教育の費用のほとんどを負担することから、個人は自己の利益 のみを追求すればよく、公共心を持ったり、社会に貢献したりしようという考えが育ちに くいという問題点がある。 さらに、日本の大学の授業料負担の仕組みは受益者負担の原則によるとされるが、厳密 に言えば、教育の利益を受ける子が負担するのではなく、その親が授業料を負担するとい うものである。このような仕組みは、大学教育を受ける機会が学生本人の能力ではなく、 出身階層の経済力に左右されるという問題点がある。しかし、それのみならず、大学教育 が親から子へ贈与されることから、貸与の奨学金返済について卒業後の所得に応じて利子 率を変える制度設計とならず、また、学生は自分の費用で大学教育を受けるわけではない ので、学習意欲がわきにくい仕組みであるといえる。
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