米田の補題 alg-d http://alg-d.com/math/kan_extension/ 2016 年 9 月 13 日 C を圏とする.a, b ∈ C に対して HomC (a, b) ∈ Set だった.よって関数 ∈ Ob(Set) ∈ F : Ob(C) b HomC (a, b) を考えることができる.これは実は関手になるのである.その為には C の射 g : b −→ b′ に対して写像 F (g) : HomC (a, b) −→ HomC (a, b′ ) を HomC (a, b′ ) ∈ ∈ F (g) : HomC (a, b) h (a − →b− → b′ ) h (a − → b) g で定めればよい. . . . ) この F が関手になっていることを示すには b ∈ C に対して F (idb ) = idF b と, g g′ b− → b′ −→ b′′ に対して F (g ′ ◦ g) = F g ′ ◦ F g を示せばよい. h ∈ HomC (a, b) とする.定義より F (idb )(h) = idb ◦ h = h だから F (idb ) = idF b である.また (F g ′ ◦ F g)(h) = F g ′ (F g(h)) = F g ′ (g ◦ h) = g ′ ◦ (g ◦ h) = (g ′ ◦ g) ◦ h = F (g ′ ◦ g)(h) だから F (g ′ ◦ g) = F g ′ ◦ F g である. この関手 F を Hom 関手といい,HomC (a, −) で表す.この記号を使えば HomC (a, g) は写像 HomC (a, b) −→ HomC (a, b′ ) であって HomC (a, g)(h) = g ◦ h となる.そこで写 像 HomC (a, g) を単に g ◦ − とも書くことにする. 1 同様にして関手 HomC (−, b) : C op −→ Set を考えることもできる.つまり f : a′ −→ a に対して HomC (a′ , b) ∈ ∈ HomC (f, b) : HomC (a, b) h (a′ − →a− → b) f (a − → b) h と定めるのである.この HomC (−, b) も Hom 関手という.先の場合と同様,HomC (f, b) を単に − ◦ f とも書くことにする. 更に,この二つを組み合わせて考えれば,二変数の関手 HomC : C op × C −→ Set を考 えることもできる.つまり,f : a′ −→ a と g : b −→ b′ に対して HomC (a′ , b′ ) ∈ ∈ HomC (f, g) : HomC (a, b) h (a′ − →a− →b− → b′ ) f (a − → b) h g である. b := SetC 圏 C に対して C op と書く.対象 a ∈ C に対して y(a) := HomC (−, a) とすれ b である.よって y は関数 Ob(C) −→ Ob(C) b を与える.実はこの y も関手 ば y(a) ∈ C になる.それを示すためには,まず f : a −→ b に対して自然変換 y(f ) : y(a) =⇒ y(b) を 定義しなければならない.そこで c ∈ C に対して y(f )c := Hom(c, f ) と定義する.この y(f )c が自然変換 y(f ) を与える. . . . ) g : c −→ d に対して,次の図式が可換であることを示せばよい. c HomC (c, a) g y(f )c HomC (g,a) HomC (d, a) d HomC (c, b) HomC (g,b) y(f )d HomC (d, b) これは HomC (−, a) や y(f ) の定義を使って書きなおすと次のようになる. c HomC (c, a) f ◦− −◦g g d HomC (c, b) −◦g HomC (d, a) 2 f ◦− HomC (d, b) つまり h ∈ HomC (d, a) に対して f ◦ (h ◦ g) = (f ◦ h) ◦ g を示せばよいが,それは圏 の定義から成り立つ. あとは y が関手であることを示す為,y(id) = id と y(g ◦ f ) = y(g) ◦ y(f ) を示せばよ いが,それは容易であろう. この関手 y は圏論で重要な役割を持つが,まず基本的な性質として次の定理がある. 定理 1 (米田の補題). C を圏,a ∈ C を対象,P : C op −→ Set を関手とする.このとき (Set の) 同型射 φa : HomCb(y(a), P ) −→ P (a) が存在する. 証明. α ∈ HomC b(y(a), P ) とすれば,αa は写像 HomC (a, a) −→ P (a) である.そこで 写像 φa : HomC b(y(a), P ) −→ P (a) を φa (α) := αa (ida ) で定める.これが同型であるこ とを示すため,逆写像 ψa : P (a) −→ HomC b(y(a), P ) を定義する. ※ そのためには ψa をどのように定義すればよいか,考察してみる.x ∈ P (a) に対し て β = ψa (x) : y(a) =⇒ P が定義できたとする.β はどのような自然変換だろうか. まず φa ◦ ψa = id とならないといけないので,x = φa ◦ ψa (x) = φa (β) = βa (ida ) で ある.これで ida ∈ HomC (a, a) の行き先 βa (ida ) は定まった.他の f ∈ HomC (a, a) の行き先はどうなるであろうか.ここで β が自然変換であることを考えると,次の図 式が可換でなければならない. a HomC (a, a) βa −◦f f f Pa Pf βa βa (f ) P f (x) −◦f Pf a HomC (a, a) βa Pa ida βa x よって βa (f ) = P f (x) でなければならない.こうして βa は確定した.他の b ∈ C , f ∈ Hom(b, a) に対しても同様にして,βb が以下の可換図式により定まる. b HomC (b, a) βb −◦f f f Pb Pf βb βb (f ) P f (x) −◦f Pf a HomC (a, a) βa Pa 3 ida βa x 即ち βb (f ) = P f (x) である. x ∈ P (a) に対して ψa (x)b : HomC (b, a) −→ P (b) を ψa (x)b (f ) := P f (x) で定める. このとき ψa (x) は自然変換 HomC (−, a) =⇒ P である. . . . ) f : b −→ c に対して次が可換であることを示せばよい. b HomC (b, a) ψa (x)b −◦f f c HomC (c, a) g◦f Pb Pf ψa (x)c ψa (x)b −◦f Pf g Pc P (g ◦ f )(x) P f (P g(x)) ψa (x)c P g(x) しかしそれは P が関手だから P (g ◦ f )(x) = (P f ◦ P g)(x) = P f (P g(x)) となり明 らか. 後は φa ◦ ψa = id と ψa ◦ φa = id を示せばよい.前者は x ∈ P (a) に対して φa ◦ ψa (x) = φa (ψa (x)) = ψa (x)a (ida ) = P (ida )(x) = id(x) = x だからよい.後者は α : y(a) =⇒ P を自然変換とすると,ψa ◦ φa (α) = ψa (αa (ida )) だ から ψa (αa (ida )) = α を示せばよい.その為には b ∈ C に対して ψa (αa (ida ))b = αb を 示せばよい.α が自然変換だから,f ∈ HomC (b, a) に対して次が可換である. b HomC (b, a) αb −◦f f a HomC (a, a) f Pb Pf αa −◦f ida Pa αb αb (f ) P f (αa (ida )) Pf αa αa (ida ) 故に ψa (αa (ida ))b (f ) = P f (αa (ida )) = αb (f ) となることが分かり,ψa (αa (ida ))b = αb である. C として C op を考えれば,P : C −→ Set に対して HomSetC (HomC (a, −), P ) ∼ = P (a) も分かる. 定理 2. 定理 1 で得られた同型射 φa : HomC b(y(a), P ) −→ P (a) は a に関して自然であ る.即ち,φa は自然同型 φ : HomC b(y(−), P ) =⇒ P を与える. 4 証明. C の射 f : a −→ b に対して,次が可換になればよい. a HomCb(y(a), P ) φa −◦y(f ) f b Pa Pf HomCb(y(b), P ) φb Pb よって α ∈ HomC b(y(b), P ) に対して P f (φb (α)) = φa (α ◦ y(f )) を示せばよい.まず φb の定義から P f (φb (α)) = P f (αb (idb )) である.一方 ( ) ( ) φa (α ◦ y(f )) = (α ◦ y(f ))a (ida ) = αa ◦ y(f )a (ida ) = αa y(f )a (ida ) ( ) = αa HomC (a, f )(ida ) = αa (f ) となる.ここで α : y(b) =⇒ P が自然変換であるから,次が可換である. a HomC (a, b) αa −◦f f b HomC (b, b) f Pa Pf αb −◦f idb Pb αa αa (f ) P f (αb (idb )) Pf αb αb (idb ) よって αa (f ) = P f (αb (idb )) となり,P f (φb (α)) = φa (α ◦ y(f )) が分かった. b は忠実充満である. 系 3. 米田埋込 y : C −→ C ∼ 証明. 米田の補題により a, b ∈ C に対して HomC b(y(a), y(b)) = HomC (a, b) であるが, 証明から分かるようにこの同型 HomC (a, b) ∼ = HomCb(y(a), y(b)) は f 7−→ y(f ) で与えら れる. b は埋込になっていることが分かる.この y を米田埋込と呼ぶ.また 即ち,y : C −→ C 忠実充満関手の性質から次が分かる. 系 4. y(a) ∼ = y(b) ならば a ∼ = b である. ここで,y(a) ∼ = y(b) というのは勿論自然同型を表している.そこで,自然同型である という条件を具体的に書き下すと次の定理が得られる. 定理 5. C を圏,a, b ∈ C とする.x ∈ C について自然に HomC (x, a) ∼ = HomC (x, b) な らば,a ∼ = b である. 5 双対を考えれば次の定理も得られる. 定理 6. C を圏,a, b ∈ C とする.x ∈ C について自然に HomC (a, x) ∼ = HomC (b, x) な らば,a ∼ = b である. 即ち,圏の対象が同型であるかどうかは,射の集合によって決定されるのである.(こ れは非常に良く使う重要な事実である.) 6
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