英国におけるコーオプ教育(プレースメント)に関する調査研究 -高専型

論文集「高専教育」 第 32 号
2009.3
英国におけるコーオプ教育(プレースメント)に関する調査研究
-高専型コーオプ教育への一考察-
原野智哉 * 1 林田栄治 * 2 大北裕司 * 1
吉村 洋 *3 安野恵実子 *4 上原信知 *5
(阿南工業高等専門学校)
A Surveillance Study of Industrial Placements at Educational
Institutions in England
– A Study of Cooperative education for Colleges of Technology –
Tomoki HARANO, Eiji HAYASHIDA,
Yuji OKITA, Hiroshi YOSHIMURA,
Emiko YASUNO, Nobutomo UEHARA
(Anan National College of Technology)
The authors investigated how to operate industrial placements (what is called cooperative education in
North America) at Nottingham University and Loughbrough University in England, and consulted the
excellent cooperative education (coop) of the famous universities in North America by paper and literature
documentation. Superior coop consists of the following elements. First, the coop has training program
through productive work experience to educate the students on working skill such as communication,
team-working, problem-solving, and to acquire the professional knowledge and skill relevant to their
discipline. Second, the coop is the formal academic curricula as a structured educational strategy integrating
classroom studies with learning through productive work experiences which provides progressive
experiences in integrating theory and practice. Third, the coop has tripartite strongly partnership among the
university for career education, the employers for recruiting activity and the student for career strategy.
KEYWORDS:Cooperative Education, Industrial Placement, Work Based Learning, Internship
1.緒
言
文部科学省による現代GPや海外先進教育調査
の予算を利用して,数年前より産学連携したコー
オプ教育(Cooperative Education)が大学・高
専で開始され,その優れた教育効果が示されよう
としている.しかし,文献調査や先進取り組み調
査が不十分なため,曖昧な理解に基づいたプログ
ラム開発を実施し,効果的な方法で実施されてい
ない現状がある.たとえば,学生が日常業務を通
じて技術者として成長できる就業経験でなく,企
業の技術・研究課題解決のみに特化したコーオプ
※1機械工学科 h a r a n o @ a n a n - n c t . a c . j p ,
※4制御情報工学科,※5電気電子工学科
教育を実施する場合,企業側技術ニーズと学校側
技術シーズのマッチングはかなり限定され,参加
企業が少数に限定される問題が生じている.
本研究は,まずコーオプ教育の定義と模範的構
成要素およびメリットを明確にする.つぎに,英
国で古くからサンドイッチコースとしてコーオプ
教育を実施しているノッチンガム大学
( Nottingham University ) と ラ フ バ ラ 大 学
(Loughborough University)のコーオプ教育プログ
ラム,実施方法および教育効果について訪問調査
結果を報告する.さらに,日本のインターンシッ
プと比較しつつ,優れた欧米のコーオプ教育の優
れた点を考察する.
※2一般教科,※3建設システム工学科,
論文集「高専教育」 第 32 号
2009.3
職場のニーズに基づいたカリキュラム開発
企業
学生の仕事(就業)内容の計画
・十分かつ適切な仕事紹介ができる支援的就業先基盤
の育成
・助言介入を通じて継続されるプログラムの妥当性を
確実にする支援的基盤の育成
論理的な組織とコーディネート
•リクルート
•優秀人材確保
学生
•経済利得
•知識修得
•技術修得
•就業能力
教育機関
•理論実践
•目的意識
•職業観
図2.コーオプ教育メリット
学生の経験的学習・訓練のアセスメント
図1.コーオプ教育の模範的実践構成要素 3)
2.コーオプ教育の定義,構成,利得
現在,日本におけるコーオプ教育の定義が曖昧
な状況にあると思われるため,まずコーオプ教育
の定義について触れる.大学・高等専門学校での
共通認識としてコーオプ教育は,
「産学連携協同下
で学生を教育すること」1,2)と理解されている。
し か し な が ら , 世 界 コ ー オ プ 教 育 協 会 ( World
Association for Cooperative Education)によれ
ば,コーオプ教育は,
「学生の学歴と職歴の目標と
関係づけられたある分野において生産的仕事の経
験を通じた学習と授業内容を統合する構造化され
た教育戦略である.これにより理論と実践を統合
する斬新的な経験を与える.コーオプ教育は学
生・教育機関・就業先企業の連携活動であり,当
事者それぞれが固有の責任を負う.」と定義されて
いる 3).この定義から,学校・学生・企業がそれ
ぞれ連帯責任を有するパートナーシップの中で,
講義と職業経験を交互に繰り返すことにより理論
と実践のリンクを促進し,仕事遂行能力を向上す
るような講義と職業経験を与える総合的教育シス
テムという意味になる.
図1にコーオプ教育を成功に導く模範的構成要
素 3)を示す.第1要素は職場のニーズに基づいた
職場とキャンパスでの統合学習経験カリキュラム
開発である.第2要素は職場ニーズに基づいた身
につけるべき能力・知識を考慮し,職場で行う就
業プログラムの計画である.第3要素は,その仕
事を実施するための職場を提供できる支援基盤す
なわち就業先の開拓と定着,およびコーオプ教育
プログラムを改善できる助言・支援基盤の構築で
ある.そして,第4要素は,企業・学校・学生の
三者間を調整し,有機的に管理運営できる組織を
構築することである.また,その組織は学生の職
場における学習やトレーニングの成果をアセスメ
ントし,学生の就業プログラムや学校カリキュラ
ムを見直し,改善を行う.
図2はコーオプ教育の企業・教育機関・学生の
メリットを示す 3).教育機関は学生に職業観の形
成や学生の学習目的意識の明確化などが行える.
企業は就業中に受け入れ学生の資質を見極め,採
用に値する人材に育成することで優秀人材の獲得
が行える.学生は,コミュニケーション能力など
の働くための基本能力から専門知識・技術を獲得
できるうえ,企業から労働報酬として得られる賃
金により学費などの就学経済援助が受けられる.
以上より,コーオプ教育が継続して効果的に機
能する高等教育機関では,図1に示す4つの構成
要素が必要不可欠である.したがって,職場にお
ける実習を含む就業プログラムは,カリキュラム
と等しく注意深く計画する 3) 必要がある.また,
図2に示す学生・企業・高等教育機関3者の利益
が得られるようコーオプ教育全体の制度を工夫す
る必要がある.現在,国内高等教育機関で実施さ
れているコーオプ教育は,産学連携で実施すると
いう広義の意味や達成目標ではコーオプ教育と合
致しているものの,文献 3)に詳述されているコー
オプ教育と比較すると手段・方法において異なる
部分があると思われる.コーオプ教育を実施する
場合,上述した定義や図1に示した構成要素に基
づくとともに,図2の企業・学生・教育機関の3
者メリットを考慮しつつ,地域や教育機関に適合
したプログラムを考案することが必要である.
3.英大学のコーオプ教育の取り組み
3.1 ノッチンガム大学キャリア開発センター
ノッチンガム大学のキャリア開発センター
(The Centre of Career Development)では,夏
季休業中のサマーインターンシップやアルバイト
の募集,就職における履歴書添削や進路指導を行
っている.このキャリア開発センターでコーオプ
論文集「高専教育」 第 32 号
教育も学生募集を行っているため訪問調査を実施
した.コーオプ教育に関する調査はキャリアアド
バイザーRobert James に対して質疑応答形式に
より実施した.英国におけるコーオプ教育は,大
学2~3年生の間に1年間の職経験を行うことか
らサンドイッチコースあるいはプレースメント
(Placement)と呼ばれている.サンドイッチコ
ースは,北米のコーオプ教育と同等 3)と見なされ
ている.プレースメントの目的は,経験を積ませ
てコミュニケーションなどのスキルの向上や就業
能力を高め,自分の知識の活用や人脈づくりを行
うことである.また,プレースメントは就職活動
で仕事経験を職歴として就職に有利に働かせる目
的もある.さらに,EU(European Union)から
の留学生の英国内企業への就職を促進するため,
EU の学生を就職前に英国企業文化に慣れさせて
おく目的もある.以上の意味から,ノッチンガム
大学のプレースメントとは,就職後の学生自身の
キャリア形成のための職歴として認識されており,
仕事を通じて働くための能力として基本的なコミ
ュミケーションから問題解決能力といったスキル
を修得できるコーオプ教育である.プレースメン
トを通じて獲得したスキルは他の仕事へも応用で
き,卒業後長期に影響すると考えられている.
プレースメントは,企業が学生募集の情報と募
集広告を大学のウェブサイト上に示し,学生がそ
れら求人情報を確認して応募することで開始され
る.プレースメントによる就業期間は12ヶ月以
内である.企業と学生のマッチングプロセスは,
以下の手順で行われる.まず,大学ウェブサイト
を介して応募書類に加え履歴書,自己推薦書およ
び成績書を企業へ送信する.つぎに,企業の書類
審査を通過した学生は,能力に関する質問
(Competency Questions)やクラブ活動の有無,
心理テスト・数学基礎テストに加え,グループワ
ーク能力の確認が行われる.ここで,能力に関す
る質問では,ある特定の状況を設定し,その際の
果たすべきチームの役割やグループの目標,問題
解決法および状況説明といった能力が確認される.
また,グループワーク能力の確認は,企業人事担
当者が実際の学生を呼んで不慣れかつ変化する状
況設定下の課題を与え,個人とグループの問題解
決のプロセスをみて評価する.
選抜項目は正式雇用と同等で,問題解決能力,
自己管理能力,チームワークスキル(必須),コン
ピュータリテラシ,情報分析能力,コミュニケー
2009.3
ション能力,時間管理能力である.日本のインタ
ーンシップより厳しい審査を経て採用されている.
なお,ノッチンガム大学は名門校で,多くの登録
企業があるため企業開拓は実施していない.
また一方で,工業に特化し専門分野とリンクす
るインダストリアルプレースメント(Industrial
Placement)が実施されている.このプレースメ
ントの実施には,各学部の教員で構成されるチュ
ーター(Individual Tutor)が学生を支援する.
このチューターは,学生が入学後スムーズに学生
生活を開始できるよう支援し,大学生活における
個人的な問題や学業における問題解決を手助けし,
さらには将来の進路相談も行う.学生はこのチュ
ーターにプレースメントに関しても報告義務があ
る.インダストリアルプレースメントの選考は,
面接審査により行われ,技術能力の有無や質問に
答えてもらうことにより批判的思考や論理的思考
の能力を審査される.キャリア開発センターには
インダストリアルプレースメントに関する一切の
記録は無く,それぞれの学部が管理している.
プレースメントの評価は,学生がリフレクティ
ブレポート(Reflective Report)を記述すること
によって行われる.リフレクティブレポートは,
個人の記録やエビデンス,回顧からなる自己の成
長の記録である.プレースメントの評価は学生個
人の成長に帰属するという考えに基づいており,
個人が受け止めるべきものとして捉えられている.
そのため,教員がリフレクティブレポートに対し
て成績評価を行わない.また,就業の質の評価は,
学生および雇用主の両視点からチューターが学生
と話すことにより行っている.学生が考えるプレ
ースメントに対するメリットは第1に経済面であ
り,第2に就職を有利にするための職歴を積むこ
とや新しいスキルの修得や経験を積むことである.
インダストリアルプレースメントに単位はなく,
労働報酬は週300ポンドである.なお,ノッチ
ンガム大学はキャリア形成上の問題を抱えており,
インダストリアルプレースメントを実施している
にも関わらず,工学部卒業生の50%が年俸の多
い銀行や会計士などの専門学科と無関係な業種に
就職している.
3.2 ラフバラ大学工学センター(engCETL)
ラフバラ大学は6年連続で全英大学評価15位
以内にランクし,学生満足度1位の大学である.
また,優れた教授・学習のための工学センター
論文集「高専教育」 第 32 号
engCETL(The Engineering Centre for Excellence in
Teaching and Learning)が2005年に設置された.
本センターは,英国高等教育機関助成協議会
HEFCE(The Higher Education Funding Council for
England)から助成される英国内74国立センター
の1つで,2005年から5年間,毎年50万ポ
ンドの助成を受け,積極的な教授法・学習法の研
究や産学連携研究を推進している.プレースメン
トが同センターで実施されており訪問調査した.
コーオプ教育に関する調査はマネージャー
Adam Crawford 博士に対して質疑応答形式によ
り実施した.ラフバラ大学では,学部生2年と3
年の間に1年間のコーオプ教育プログラムとして
プレースメントを実施している.このプレースメ
ントは修了課程の一部としても機能している.こ
ういったプレースメントを教育へ意欲的に取り入
れ,積極的に実施している大学はアストン大学や
インペリアル大学,ケンブリッジ大学である.イ
ン ダ ス ト リ ア ル ス タ デ ィ の 修 了 証 (Diploma of
Industrial study)を獲得する場合は,最低45週間
の就業を企業で実施し,プレースメントを通じた
定期レポートと企業監督者が記述した中間および
最終レポート,修了を満足する見識と研究を含め
た5000ワードの論文の3つの文書を提出する
必要がある.全学生の60%がこのプレースメン
トに参加している.この論文は,ノッチンガム大
学キャリア開発センターで提出させているリフレ
クティブレポートと質的に同等であり,学生が修
得したスキルやプロジェクトで実施した活動を記
述する.学生はプレースメント期間中2度の大学
管理者の訪問を受ける.1回目の訪問はプレース
メント開始直後で,企業側管理者とトレーニング
プログラムについての検討を行う.2回目の訪問
は進捗状況のレビューと論文課題の承認を行う.
プレースメント実施企業は,就業開始前に健康
と安全に関するチェックリストの提出が毎年義務
付けられている.確認項目は①健康と安全に関す
るポリシー,②仕事に従事するときの安全教育訓
練のポリシー,③それらポリシーを管理運営する
組織(部署),④いかなる負傷や事故にも保障でき
る保険加入,⑤職場の危険を評価するリスクアセ
スメント,⑥事故報告義務でこれら6項目は第3
者により保証されている.なお,企業の保険で保
障されない場合に備え,大学も保険を掛けている.
参加企業の募集については,インダストリアル
コーディネーターがデータベースを利用して常時
2009.3
企業と継続してコンタクトしている.ラフバラ大
学ではインダストリアルプレースメントの歴史が
長く,1学部250社と参加企業数も多く, 代表
的な企業としてJCB,トヨタ自動車,ベントリ
ーモーターなどがあげられる.インダストリアル
コミティーも開催され,企業と教職員などが集ま
り年2回会議を実施して情報交換を行い,企業側
からはどのような学生が欲しいのか,どのような
カリキュラムが必要なのか,学生からは何を教え
てもらいたいのかなどについて率直な話し合いが
行われる.企業はレベルの高い学生を社員として
必要としており,通常の3年間の学位コースに加
えて,より高い専門技術能力のある人材を育成す
る5年間の学位コースや製造技術に特化した学位
コースの新設などの要求がある.実際に Innovative
Manufacturing Technology 学科(革新的製造技術学
科)はキャタピラー社やベントリー社などが資金
援助し設置されている.プレースメントで得られ
る年俸は1.5万~2万ポンドで,良好な就業能
力・成果の学生は企業奨学金がつくことがある.
教員はプレースメントでインダストリアルコー
ディネーター,プレースメントチューター,キャ
リアアドバイザーとしての職務も兼任する.教員
の業務エフォートは,研究40%,講義30%,
管理運営20%,プレースメント10%の割合で
ある.プレースメント前には履歴書の書き方やウ
ェブ上の応募先検索方法などの指導を実施してい
る.また,キャリアアドバイザーは申請前や申請
中に相談を受ける.企業による学生選抜方法は,
学生を集めて課題を与え学生の遂行状況を観察し,
チームワーク能力を判断する.大企業はこのチー
ムワーク能力評価に重点を置く傾向がある.
ラフバラ大学でもプレースメントによる教育評
価方法は存在しない.プレースメントを通じて得
られる働く能力,すなわちコミュニケーションス
キル,チームワーキングスキル,エンジニアとし
て修得される専門知識や技術などは学生個人に帰
属するものであり,修了論文(リフレクティブレ
ポート)に記述される.しかし,具体的な教員の
印象として学生が自信を持ち,成熟した落ち着き
が生じ,責任感や信頼が増すなどの変化がある.
4.優れた欧米のコーオプ教育と日本のイ
ンターンシップの比較
図3は日本のインターンシップと欧米の優れた
論文集「高専教育」 第 32 号
2009.3
図3.日本のインターンシップと欧米の優れた
コーオプ教育との比較 5)
コーオプ教育の比較を示す.まず,コーオプ教育
の期間については,調査した英国の2大学のコー
オプ教育期間は約1年間という長期間であった.
コーオプ教育で有名なカナダのウォータールー大
学では1年生から4ヶ月のプレースメントを講義
と交互に6回実施し合計24ヶ月,アメリカのノ
ースイースタン大学では2年生から6ヶ月のプレ
ースメントを講義と交互に3回実施し18ヶ月の
コーオプ教育を実施している 4,5).一方,日本の
高専では,全高専の85%が1~2週間と短い体
験型インターンシップを実施している 5,6).
つぎに,1年以上のコーオプ教育期間で育成さ
れる能力については,北米のウォータールー大学
やノースイースタン大学のコーオプ教育では,講
義とプレースメントを交互に繰り返し,学生の働
く能力をはじめ専門知識や技術をスパイラルアッ
プする仕組みがある 5).ラフバラ大学でも,2年
生から3年生の間に行われる45週間のプレース
メント期間中に教員が定期的に訪問してトレーニ
ングプログラムの検討を行っており,段階的に働
く能力や専門技術を向上させる仕組みがある.ま
た,教育機関と企業の連携について述べると,ラ
フバラ大学はインダストリアルコミティーを開催
しており,採用したい人材像からカリキュラムに
至るまでプレースメント企業の意見を反映する仕
組みを持っている.したがって,優れた欧米のコ
ーオプ教育事例では長期間就業を行い,継続して
向上させる教育機関のカリキュラムと就業プログ
ラムが組み込まれ,強い産学連携による共同教育
が実施されている.一方,日本の高専の大多数を
占める体験型インターンシップでは,就業プログ
ラムを学生個人の働く能力や専門知識や技術のト
レーニングプログラムとして位置づけ,教員・企
業・学生の3者により検討する仕組みはない.ま
図4.高専のための統合型コーオプ組織
た,ラフバラ大学のインダストリアルコミティー
に見られるように企業と学校が強く連携して,採
用人材として不足,あるいは就業上不足する学生
の専門知識や技術について,図1に示したような
学校のカリキュラムを改善する仕組みはない.
企業と学生のマッチングについては,調査した
2つの英大学やカナダのウォータールー大学のプ
レースメントでは,学生はプレースメント先企業
における就職試験と同等の厳しい面接審査 4)を経
て採用されており,一般的に企業と学生のマッチ
ングが厳格に実施されている.図2に示したよう
に,このような厳格なマッチングにより,企業は
優秀人材を見極め,将来の採用を見据えた優秀人
材が獲得できる.また,学生はプレースメントに
よる労働賃金が学費や生活費に充てることができ
る.したがって,学生も企業もコーオプ教育に積
極的に参加したくなる仕組みがある 5).高専の体
験型インターンシップでも,最近希望企業と面接
を行って十分なマッチングを行いつつある 7).し
かし,一般的に高専のインターンシップでは,キ
ャリア教育上の理由から労働賃金は学生に支払わ
れておらず,実質的就業を伴ったごく一部のイン
ターンシップ先 8) で労働賃金が支払われている.
図4はコーオプ教育を成功させるための運営組
織の一例を示す.高専の場合,大学と比較すると
学科が少なく一つのコーオプオフィスで十分管理
運営が可能なため,統合型コーオプ組織を示した.
本組織は,北米の統合型コーオプ組織 5)を参考に
高専で実施可能な組織に変更して示した.本校で
は,実際に図4に示した統合型コーオプ組織で運
営している.指導教員は,コーオプ教育へ学生募
集を行うことや,企業と学生間のマッチングの調
整やプレースメント中の問題解決を行うコーディ
論文集「高専教育」 第 32 号
ネート,プレースメント学生の相談に応じるチュ
ーターに加え,就業プログラムを確認し改善を要
求することも行う.共通オフィスは,企業・学生
への参加募集開始の事務連絡や学生就業上の問題
点や教育成果を受けて教務へ教科内容の改善,就
業プログラムの教員・学生・企業による改善ミー
ティングを指示する.なお,高専の体験型インタ
ーンシップ組織図とその役割について明確に示す
文献は見あたらないため,コーオプ教育組織との
比較を省略する.また,紙面の都合上,本校コー
オプ教育の実施方法,成績評価や教育成果につい
ては次報に譲りたい.学生の指導を含めコーオプ
教育管理運営の全てをオフィスに依存した統合型
コーオプ組織 5)では,実際の学生の専門教育に関
わる教員と学生,教員とオフィスの連携が弱くな
る.その結果,学生個別の働く能力や専門知識・
技術に関する就業プログラムの確認や検討など,
きめ細やかな指導が不足する.また,就業上学生
に不足する専門知識・技術と学校で行う専門教科
内容とのギャップの改善が実施困難となる.最終
的には,学生の教育効果が乏しく,企業側の教育
負担増などの原因によりコーオプ教育が形骸化し,
存続危機を招く 3).コーオプ教育は,企業と学校
が強く連携する真の共同教育である.したがって,
学校あるいは企業へ一方的に教育を依存せず,実
際に学生と関わる教員と企業指導者が連携して積
極的に教育・指導することが重要である.また,
学生の働く能力や専門知識や技術が向上できるよ
う,企業の就業プログラムと学校のカリキュラム
の両者の問題点を改善する取り組みも重要となる.
5. 結
言
コーオプ教育の定義,模範的構成要素やメリッ
トを明確にし,英国ノッチンガム大学とラフバラ
大学のコーオプ教育の取り組み事例を紹介し,日
本のインターンシップと比較しつつ,優れた欧米
のコーオプ教育に共通する重要点を整理した.要
約すると以下の通りである.
(1) コーオプ教育は授業と生産的仕事を交互に繰
り返し,企業の求める専門実践能力を有する
人材に育成する産学共同教育である.
(2) コーオプ教育は教育機関のカリキュラムとし
て位置づけられる.
(3) 就業プログラムは,職場のニーズに適合し,
学生個人の働く能力と専門知識や技術の修得
2009.3
が行えるように計画され,プレースメント中
に教員や企業指導者により適時修正される.
(4) コーオプ教育管理運営組織は,高専では単一
オフィスに集中させる統合型とし,学生の成
果レポートや企業の学生能力評価レポートな
どから,就業プログラムや学校のカリキュラ
ムが改善できる仕組みがある.
(5) 企業と学生のマッチングは,企業による優秀
人材採用が行えるよう就職と同等の厳格な面
接審査により実施する.また,学生は実質的
な労働が伴うため賃金を与えている.
(6) プレースメントは,授業と交互に複数回繰り
返されるよう実施し,1年以上の長期間の就
業となるよう計画されている.
謝
辞
本研究の一部は,文部科学省ものづくり技術者
育成支援事業に選定された「ものづくりエリート
技術者育成コーオプ教育プロジェクト」の委託経
費により行われたことを付記し,謝意を表する.
参考文献
1) 独立行政法人国立高等専門学校機構:国立高専
の整備について,p2 (2006)
2) 中村富雄,池田千里:宮城高専における産学官
連携教育への取組について,論文集「高専教育」,
第30号,p197 (2007)
3) た と え ば , Richard K. Coll & Chris Eames :
International Handbook for Cooperative Education,
World Association for Cooperative Education
(WACE),pp.1-25 (2005)
4) University of Waterloo : Cooperative
Education & Career Services (Web Site),
http://www.cecs.uwaterloo.ca/
5) 特定非営利活動法人 産学連携教育日本フォー
ラム:インターンシップ産学連携教育白書,
NPO法人WIL,pp.94-111 (2005)
6) 文部科学省:大学等における平成18年度イン
ターンシップ実施状況調査 (2006)
7) 社団法人雇用問題研究会インターンシップ推
進支援事務局:平成20年度厚生労働省委託事業
「インターンシップ受入企業開拓事業」 (2008)
8) たとえば,大阪府豊能郡能勢町:能勢町インタ
ーンシップの実施に関する要綱 (2004)