Title Author(s) Journal URL 顕微分光光度法によるウグイ単一錐体視物質の測定 橋本, 葉子; 阿部, 真知子; 井口, 三重 東京女子医科大学雑誌, 49(2):246-250, 1979 http://hdl.handle.net/10470/3725 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 166 僑犠講,。智歯54筆1鴛) 〔特別掲載〕 顕微分光光度法によるウグイ単一・ 錐体視物質の測定 東京女子医科大学第一生理学教室 助教授 橋本 葉子・阿部真知子*・井口 三重 ハシモト ヨウコ アベマチコ イノクチ ミエ (受付 昭和53年エ2月4日) Measロrem磁of Vis麗al P量gments of S五聾91e Dace Cones by Microspectropbotomet穿y Yoko HASHIMOTO, M.D., Machiko ABE*, M.D. and M畳e亙NOKIUCHl Department of Physiology, Tokyo Women’s Medical Coユ1ege Microspectrophotometry was used fbr measuring the spectral absorptめn of single cones in the Japanese dace retina, 7》ゴ加‘04bπゐαん。η8η∫ぽ∫・ This retina contains at least three kinds of cones so far, each containing single kind of visual pigment with an absorption maximum around 450460 nm, 510−530nm, or 620−630 nm. These are the sa即e as the gold丘sh or carp photoreceptors. The con− stituents of the double cones have not measured yet。 Relationship between the cone structure alld pigment content was not decided. 1・緒 言 網膜感光物質(視物質)に関する研究の進歩は 近年めざましいものがあるが,これは主として秤 体視物質のロドプシンに関するものであって,錐 体視物質に対する生化学的な研究はわずかにニワ トリの錐体視物質であるiodops三n(Wald,工937, Wald et al・,1955)23)24)の報告,ハトの網膜 から抽出された錐体視物質と推定された視物質 (Bridges,1962)2),および七面鳥網膜から抽出さ れたiodopsin様視物質(Crescite11i et aL,1964)3) 法(microspectrophotometry, MSP)である,こ のMSPのパイオニアはHanaoka and Fuji・noto (1957)4)で,彼らは手製のMSPを用いて初め てカエルの単一軒体およびコイの単一秤体と錐体 内に含まれる視物質の測定に成功し,コイの錐体 視物質の2maxは,490∼500,520∼540,560∼ 580,620∼640および670∼680nmの5種類に分 けられると報告している.その後しぼらくこの方 法は追試されなかったが,1963年Marksが精巧 なMSPを作り,キンギョ.の単呪錐体から視物質 の報告があるにすぎない.これは錐体外節に含ま れる視物質の含有量が少ないため,抽出による測 定が困難なためであって,この抽出法に代る有力 異った錐体外回に含まれていることを確認して以 な測定法として発展してきたのが顕微分光光度 来,Marks(1965 a, b)16)17),Liebman and Entine *眼科大学院生 を測定し,少なくとも3種類の視物質がそれぞれ (1964)11)およびSvaetichin et al.(1965)21)の 一246一 167 box)に保存する. 報告が相継いだ. 顕微分光光度法:顕微分光光度計は図1に示すよう 一方,電気生理学的にはTomita et al.(1967)22) に,Zeiss製SMP−8Eで,これはUV−SMP O5にDEC が超微小電極を用いてコイ網膜の単一錐体内から のPDP 8Eを連結したsingie beam型である.光電子 錐体活動電位の記録に成功し,そのスペクトル 増倍管は浜松テレビのR446が用いられているのでλ700 応答型が3種類に分けられ,そのλmaxはMSP で測定された錐体視物質のλmaxとほぼ同じ値 であることを報告した.その後もいろいろ な動物の錐i体視物質の MSPによる測定結果 が報告されているが,コイ科の魚類に関して ㎜ぐらいまでは測定可能である.顕微鏡のコンデンサ ー存こはZeiss ultraHuar 32×,NAコ0.4を,対物レンズに はultraHuar 100×, NA=0.85を両者共に油浸にして使 用した.この組合せはHaroshi(1971)5), MacNichol et al.(1973)13), Haroshl&MacNichol(1974 a, b)7)8} は,Hゑroshi and MacNichol(1974a)7), SchGles およびHaroshi(1975)6)が推奨するペアで,この組合せ et al・, (1973)19), Scholes (1975)18), Steil and により,集光が良くなり,しかも波長依存性の散乱を少 Hゑroshi(1976)20),るoew and Dartnall(1976)12) なくすることができる.しかし,レンズを使う限り波長 およびMarc and Sperling(エ976)ユ4)らが錐体の スキャンをした場合のピントのずれを補償することはで 形態と視物質加axとの関係や,視物質がビタミ きない,また油浸にしているのは,反射および屈折によ ンA、系であるか,A,系であるか,または両者 る損失をできるだけ少なくするためである. 標本を顕微鏡のメカニカルステージの上に載せたり, 共含んでいるものがあるかなど詳細な報告が見ら 単一錐体を探したりする操作は全てNoctovisionを用い れるようになった、 われわれは現在電気生理学的な研究材料として て赤外線下で行ない,錐体外節に測定野を固定する操作 コイ科のウグイ(7励oZO40η加ん0πθ細5)「を用い は,赤外線TVカメラ(NatiQna二S4075)を介してモ ニターブラウン管上で観察しながら行なった.ウグイ錐 ているが,この網膜は錐体の配列が規則正しい 体外聞の直径は1・0∼3・0μmぐらいなので,測定野は直 rQw mosaicを呈し, double coneとsingle cone 径0,9μmの円形を用い,side on方式を用いた. とが交互に配列している.この網膜に微小電極を このSMP−8Eは自動波長送りができないので,波長 刺入して得られる応答は,コイ(random pattem スキャンは手動によったが,できるだけ視物質の退色を を有する)から得られるものとほぼ同様である が,その細かい性質は必ずしも同じではなく, 防ぐために光路の途中にシャッターを入れ,測光する とくにスペクトル応答型に特異性が認められ メーターがプリズム方式なので,波長による半値幅を一 る (Hashimoto and Inokuchi,1977,井口ら, 定にするため,スリヅト幅を調整しながら測定を行なっ 1979)9)10).このスペクトル応答型からウグイの た. 時のみシャッターが開くようにしてある.,またモノクロ まず700∼400㎜の波長スキャンに対する外節の透過 錐体視物質のλmaxはコイと異なるものがある 可能性が推察されるので,MSPを用いてウグイ 光量を測定し,次いでこの外節に近接していて組織を含 まない部位から同様の測定を行ない, の錐体視物質の測定を試みたので報告する. 皿.方 ・D・一1・91・ 法 k器畿畿畿鑑、,] の式から吸収度を計算する.今回はsingle coneのみの 材料;少なくとも4時間以上暗順応させたウグイの眼 測定を行なった. 球を,赤外線暗視鏡(NEC NoctGv量s量on, NVR 2015C) nL 結果と考察 を用いながら赤外線下で摘出し,剥離網膜を作る.剥離 網膜を小片(1.0×LOmmまたはそれ以下)にし,ス 図2は上記の方法で得られた錐体視物質の吸収 ライドグラス上にリンゲル液を1滴落した上におき,カ 曲線で,えmaxが450∼46Qnm,510∼530nm,およ バーグラスで組織に少し圧をかけると,組織から単一錐 び620∼630nmの3種類の視物質と,この曲線が 体を分離することができる.カバーグラスの周囲は液の 得られた錐体の形態を示したものである.ここで 蒸発を防ぐためにマニキュア液で封入し,冷暗所(ice λmaxがきちんとした数字で示されていないの 一247一 168 Comero 寧 圏 嘲一 } ④ 1⑪ 口 @ @ MOnifor TV 一④ 【 MeGsuremen?iris u Prolec?lve Phofornul↑iplier @ (HGmo (HGmomo曾suTV R4461 ソ、、,.cul。r lR−TVComero moliOnol s4075) S閉P8E:(CARl_Z副SS, 〔〕Ob・ecli・e〔Ul曾・fl・・「ゆ0ス・N坪0・85) Preporo†ion . Sセoqe Condenser〔Ulセro刊uor 32減,NA電O.4} 員 ○ ====コ ===コ lrls l 捨餅△ [] 剛rror o lr18 に=コ x●non Hologon Coli◎cfor (12V」1◎OW, ワ 実一一一(二一① Monochrorne含er{M4Q川, ⊂XBO l50} 口 回 図1 Zeiss製SMP−8Eの基本的な光路図. 測光はXenon lampを光源とし, Monochrometerを通った単色光を用いる. StageはScanning stage になっている. (本文参照). 6 は,波長スキャンを10∼20nmステップで行なっ 醐 凸δ ているために,細かい波長値を出すことができな 所m 1.0 ξ いためである.またこの曲線とMarks, Haroshi 窪 9 ら,およびDarthallらの曲線を比較すると,赤 忌 錐体の曲線の短波長域,および青と緑錐体の長波 言。.5 0 \ 豊 長域の吸収度が高すぎるように思われる. Marks(1963,1965 a, b)15)∼17)はキ・ンギョの錐 董 2 0 400 体視物質をえmax 625±5,530±5,および455±: 500 600 15nmに分類している. Har・shi&MacNich・1 700 Woveleng奪h〔nm) (1974a)7)は625,530および455nmと報告してい 図2 単一錐体外節から得られた視物質の吸収曲 線. 最大吸収波長が450∼460nm,510∼530nm,および 620∼630nmの3種類に大別される.各曲線の上に る.またウグイの1種である1認痂躍∫でLoew &Dartna11(1976)12)はえmaxは570∼625,507∼ 523,450∼460nmで,ビタミンA、系とA2系 描いてあるのはそれぞれの曲線が得られた錐体の形 と大きさを示す. の両者を含んでいると報告している.またBow− maker(pers・nal c・mmunicati・n)1)はしθπ66鋤5 一248一 169 のtiny coneからえmax 420nmを測定している. を使って,錐体配列と視物質との関係に検討を加 この値は現在までコイ科の錐体視物質として測定 えて行く予定である. 数が少なく,手技も未熟であり,波長スキャンに w・結 語 MSPを用いてウグイ網膜の錐体視物質の測定 も最低2分は必要なので,その間の退色も問題 になり,400∼420nm波長域の信頼性に乏しいた nm,または620∼630nmの視物質を含む3種類 された最:短波長である.われわれの測定はまだ丁 を行なった.最大吸収波長450∼460nm,510∼530 め,λmax 430nmより短波長のデータは取り除い のsingle CQneに分類されたが,これはキンギョ ている. やコイの錐i体視物質とほぼ同じである。Double 以上の結果は,われわれの予期に反し,キンギ coneの視物質の組合せや,錐体の形態と視物質 ョやコイとほぼ同じ加axの視物質をウグイ錐 との関係はまだ不明な点が多い. 終りにのぞみ,顕微分光光度計の使用を快よく御許一 体も有していることを示すもので,スペクトル応 答型の特異性はrow mosaic patternの影響であ 下さいました内科の宮崎 保教授に厚く御礼申し上げ ろうと推論される. ます。 一方,Scholes(1975)18),. Stell and Haroshi Refere皿ce5 吸・・w−k…}K・(・er…al・・mm頗・a・…) (1976)20)やMarc and Sperling(1976)14)は,錐 (1977) 体の形態と視物質の間には相関があると報告して 2)Bridge5, CD.R、3 Visuai pigments of the いる.すなわち,キンギョではIong忌ingle Cone pigeon (Oo伽ηうα伽ゴの. Vision R.es 2 125∼ の中で外節が細長く,内節はテーパーの小さい形 137(1962) のものは625nmの視物質を,外節が少し短かく, 3)Crescitem, F., B.W。 W量1son and A.L. Lilyblade= The visual pigments of birds. 内節はテーパーの大きい形のものは530nmの視 1.The turkcy. Vision Rcs 4275∼285(1957) 物質を,そしてshort single cone(内節の直径が 4)Hanaoka, T. and K:. F周imoto=Absorptio耳 spectrum of a single cone in carp retina, Jap 最も大きいとされている)は455nmの視物質を 含んでいる.またdouble coneの中principaI coneは625nm, accessory coneは530nmの視 物質を含んでいる組合せが大部分である.また JPhysio17276∼285(1957) 5> H乏roshi, FJ.= Frog rhodopsin in situ: orientat三〇n and spectral changes in the chlomophores of isolated retinal rod cells. Ph. D.Thesis. The Johns HQpkins University Haltimore Md(1971) 6)磁rosぬi, F工3 Microspectrophotometry:The しθπ0256π5ではdouble coneの中principal cone は625nm, accessory coneは530nm, single cone technique and some of量ts pit伍lls.‘‘Vision in は427nmの視物質を含んでいる.われわれの用 Fishes’, New Approaches in Research. ed, by いたウグイは組織学的にはL解醜∫に似てい M.A. Ali, Nato Advanced Study Institute るが,single coneの視物質の測定からはむしろ Series A:Lifb Sci Vol l p 43∼54(1975) Plenum Press キンギョに近い値が得られているrウグイではま 7)H乏rosbi, F・1. and E・F。 MacNicho1, Jr.3 だ形態と視物質との関係について結論をだすこと はできないが,λmax 450∼460nmの視物質を含 Visua玉pigmcnts of gold飴h cones. J Gen Physiol 63279∼304(1974a) む錐体は内節の最も大きな錐体のようである.ま 8)H乏rosh量, F・1・and E・F. MacNicho1, Jr.3 Dichroic microspectrophotometer:A com. たdouble coneの視物質の組合せについても確 puter−assisted, rapid, wavelengtk−scanning photometer fbr measuring linear dichroism in 証を得ておらず,まだまだ不明の点が多い, MSPの測定法の1つに網膜組織のまま視物質 single cells. J Opt Soc Am 64903∼918 (1974b) 9)Hash量moto, Y. and M.㎞okuch董3 E銑cts of を測定するend−on方式がある.この方式を使え ば,錐体配列を視物質の面から推定することが可 cone mosaic on the s−potentials血Japanese 能である.今後はside−onおよびend−on両方式 dace retina,7「犀加Jo40ηんαん。η8η∫ゴ∫. Abstract of 一249一 170 on Colour Vision: Physiology and Experimental Psychology p 208N216 A.V.S. DeReuck and J. Knight, editors. Little, Brown ancl XXVII Intern Union Physiol Sci p 310 (1977) (Paris) 10) #"=-aj ・ pmsuscpm-・ ke*# j: : ON pa Company, Boston Mass (1965b) ue*sFmatuo xx<a } ,v msg th at as ffmeegag l8) Scho!es, J.H.: Colour receptors, and their ew. Mk%rtts 49 237-245 (1979) 11) Liebman, P.A. and G. Entine: Sensitive synaptic connexions, in the retina ofa cyprinid low-light-level microspectrophotometer: detec- fish. Phil Trans Roy Soc Lond B Biol Sci 270 61rvl18 (1975) tion of photosensitive pigments of retinal cones. J Opt Soc Am 54 l451rvl459 (1964) i2) Loew, E.R. and H.J.A. Dartnall; Vitamin 19) Scholes, J.H. and J. Merris: Bipolar- Ai/A,-based pigment mixtures in cones of the rudd. Vision Res 16 891tw896 (1976) Nature 241 52rv54 (1973) 20) Stell, W.K. and EI. H5roshi: Conestructure receptor connectivity patterns in the fish retina. 13) MacNichol, E.F. Jr., R. Reinberg and F.I. and visual pigment content in the retina of the Hiroshk Colour discrimination processes goldfish. Vision Res 16 647rw657 (1976) 21) Svaetichin, G., K. Negishi and R. Fateh- in the retina. In: Colour 73 Proceedings for the Second Congr. of the Intern Colour Assoc p 191N251 A. Hilger, R. Precision Industries chandi: Cellular mechanisms of a YoungHering visual system. Ciba Foundation Sym- posium on Colour Vision: Physiology and Ltd, Lond. (1973) l4) Marc, R.E. and H.G. Spetling: The Experimental Psychology. p 178tw207 A.V.S. ' goldfish cone chromatic organization of the rnosaic. Vision Res 16 121IN1224 (1976) DeReuck and J. Knight, editors. Little, Brown and Company Boston Mass (1965) 15) Marks, W.B.: Difference spectra of the 22) Tomita, T., A. Kaneko, M. Murakami visual pigments in single goldfish cones. Ph. and E.L. Pautler: Spectral response curves of single cones in the carp. Vision Res 7 519--53i (1967) 23) Wald, G.: Photo-labile pigrnents of the chicken retina. Nature 140 545N546 (1937) D. Thesis. The Johns Hopkins University Baltimore Md (1963) 16) Marks, W.B.: Visual pigments of single goldfish cones. J Physiol 178 14tv32 (1965a) 24) Wald, G., P.K. Brown and P.H. Smith: 17) Marks, W.B.: Visual pigments of single goldfish cones. Ciba Foundation Symposium Iodopsin. J Gen Physiol 38 623t-w681 (1955) -250-
© Copyright 2024 Paperzz