「認知症」

高齢化社会の食生活
「認知症」
身体の健康や老化が食に深い関係があるように、脳の健康、そして脳の老化ともいえる認知症についても食が大き
く関っていることが、近年明らかになっています。脳と認知症の最新の知見、食との関係について探ってみました。
です。小脳は、身体のバランスや筋肉運動など運動機能の調
脳は全身の中枢機関
整を行っているところです。大脳には、内部に位置する古皮
質(大脳辺縁系)と脳の表面を覆う新皮質があり、古皮質は
脳は全身の司令塔。心臓の活動、呼吸、消化、体温の調節
欲望や快不快、記憶などをつかさどり、新皮質が意志決定や
といった生命活動を支えるとともに、さまざまな情報を処理
価値判断といった高次な脳機能をつかさどっています。脳の
し、記憶や学習、思考、感情、意識といった精神活動をつか
重さの80%を大脳が占め、その90%以上を新皮質が占めてい
さどっています。全身の中枢機関として、身体のすべての器
ます。
大脳の中でも、場所によって役割は異なっています。大脳
官と密接に関係している脳の健全な働きなしに、人は健康な
は大きく4つの部分に分かれ、前の方が前頭葉、後ろの方が
営みをすることはできません。
後頭葉、てっぺんが頭頂葉、横が側頭葉と呼ばれます。前頭葉
そんな重要な働きをする脳は、一体どんな仕組みになって
は高度な知能活動と運動機能を、頭頂葉は外界の認識を、側頭
いるのでしょうか。
脳は、大きく分けて脳幹、小脳、大脳から構成されていま
葉は音・言語・記憶を、後頭葉は視覚を担当しています。これ
す。脳幹は、心臓活動や呼吸、体温調節などの生命維持と、
らが統合して情報の処理を行い、人は思考や行動を行うこと
反射的な反応などをつかさどっている無意識的な活動の中枢
ができるのです(図表1)
。
●図表1
脳の部位と役割
大脳新皮質
言語、認知、意志など
知的な部分をになう
頭頂葉
皮膚の感覚、外界の認識
前頭葉
感情、意欲、
思考、運動機能
大脳
脳梁
後頭葉
左右の大脳半球
(左脳、右脳)をつなぐ
間脳(視床、視床下部)
大脳半球と下位中枢との中継
自律神経の調整、
本能的な活動の中枢
大脳辺縁系(海馬、扁桃体)
視覚情報の処理
視床
視床下部
中脳
小脳
橋
姿勢や歩行など
運動機能を調整
情動、本能的な活動、記憶などの中枢
延髄
脳幹 (中脳、橋、延髄)
呼吸器、循環器など生命維持に関わる中枢
厚生労働省「平成15年国民健康・栄養調査報告」第一出版 2005
側頭葉
聴覚情報の処理、記憶
高齢化社会の食生活
「認知症」
●図表2 神経細胞とシナプス
脳は神経細胞のネットワーク
樹状突起
電気
シグナル
脳の中で情報をやりとりしている最小単位は神経細胞(ニ
神経細胞
ューロン)です。一つの神経細胞からは長い「軸索」と、複
軸索
シナプス
伝達物質
神経細胞
受容体
電気
シグナル
雑に枝分かれしている「樹状突起」と呼ばれる突起が出てい
隙間
て、これらの突起は別の神経細胞とつながり合い、複雑な神
経回路網(ネットワーク)を形成しています。1個の神経細胞
はそれぞれ1万個もの神経細胞と連絡を取り合っています。
神経細胞内では、電気の流れが情報を伝えます。神経細胞
と神経細胞の接合部分はシナプスと呼ばれるわずかな隙間が
生田哲「脳の健康」講談社 2002
あり、この部分では神経伝達物質が次の神経細胞に情報を伝
達します(図表2)
。
●図表3 脳の重量と年齢
加齢とともに萎縮する脳
脳以外の組織、たとえば、皮膚の細胞や髪の毛はどんどん
入れかわります。傷ついても新しい細胞が生まれて修復され
0∼5歳急増
脳 1,400
の
重 1,200
さ
︵ 1,000
g
800
︶
ます。しかし、脳の神経細胞は、損傷すると再生することは
18∼30歳ピーク
男性
女性
600
ありません。出生後、一度も細胞分裂せず、ほぼ同じ細胞を
400
一生使い続けます。
200
脳の神経細胞は、5歳ぐらいまで急速に成長します。若い脳
0
3 5 10
30
50
70
は神経細胞が大きくなるとともに、樹状突起が遠くまで枝を
伸ばして神経回路網が発達し、20歳になるまで脳の重量は増
90
(歳)
生田哲「脳の健康」講談社 2002
え続けます。しかし、20歳を過ぎると脳の重量と容積は減少
していきます(図表3)
。
脳の神経細胞の数は、生まれたときが一番多く、加齢とと
もに減っていきます。20歳を過ぎると1日に10万個の神経細胞
が減少するともいわれていましたが、実際には神経細胞の数
は、2歳ぐらいまでに7割ぐらいが消えてしまいます。そして、
部位によってはその後、神経細胞の数はほとんど変わりませ
ん(図表4)
。
●図表4 神経細胞の数と年齢 脳
の
右
半
球
の
視
覚
野
に
含
ま
れ
る
神
経
細
胞
数
(億個)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
5 10
20
池谷裕二「脳は何かと言い訳する」詳伝社 2006
30
40
50
60
(歳)
高齢化社会の食生活
「認知症」
もの忘れは認知症?
●図表5 もの忘れと認知症の違い
普通のもの忘れ
歳をとると誰もが記憶力の衰えを感じます。新しいことを
記憶が取り出せない
認知症のもの忘れ
記憶がない
学習することも、以前より時間がかかるようになります。加
体験
齢に伴い、記憶力と学習能力の減退があるのは確かなようで
す。脳は、脳容積の減少が始まるのとほぼ同時期に老化が始
まります。
普通のもの忘れは、あくまで記憶が呼び出せないだけ。病
気ではありませんが、本当に記憶がなくなり脳から消え去っ
てしまう場合は、認知症という病気です。
体験
消失
体験の一部を忘れる
体験の全部を忘れる
進行しない
進行する
自覚している
自覚することが困難
生活に支障なし
生活に支障あり
通常のもの忘れと認知症のもの忘れを比較すると、通常の
もの忘れは体験の一部を忘れるだけですが、認知症の場合は
長谷川和夫「認知症の知りたいことガイドブック」中央法規出版 2006 ほかより作成
体験の全部を忘れてしまいます。朝ご飯の内容を思い出せな
いのではなく、朝ご飯を食べたことを思い出せないのが認知
症です(図表5)
。
認知症の場合は、もの忘れにとどまらず、時間や場所の見
当がつかなくなる、暗算ができなくなる、簡単な道具が使え
なくなる、手順を踏む作業も困難になるなど認知障害へと進
行し、他人の介助なしでは社会生活が困難な状態になります。
厚生労働省の推計によると、現在、およそ190万人もの認知
症患者がいるとされています。高齢化の進展に伴って、この
まま推移すると認知症患者の数は、2020年には290万人になる
とも予想されています。
記憶ともの忘れ
子どもと大人ではそれまでの人生で蓄積した記憶量が異なります。大人の方が多く
の記憶が脳に詰まっているのだから、子どものようにすらすら思い出せなくても仕方
がない、ともいえます。
しかし、実際に記憶低下が脳と関係するか調べたところ、記憶に関わる脳の場所、
海馬の容積が減少し萎縮していることが分かりました。記憶以外の認知機能の低下
は、主として前頭葉で起こる変化と考えられています。
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「認知症」
●図表6 認知症の原因の変化
認知症に二つのパターン
横浜市総合保健医療センター認知診断外来受診者
(%)
100
認知症は特別の疾患を指すのではなく、脳が変性すること
その他
によって記憶や知能などに障害が現れる症状一般を指します。
80
脳血管性
認知症を引き起こす原因はさまざまですが、大きく「脳血管
60
性認知症」と「アルツハイマー型認知症」の二つのパターン
があります。
アルツハイマー型
(晩発性)
40
もともと日本人には脳血管性認知症が多かったのですが、
20
近年、アルツハイマー型認知症が増加しています(図表6)
。
脳血管性認知症は、脳の血管が詰まってその先に血液が行
0
かなくなることで起こります。神経細胞が血液から栄養を摂
取できなくなり、神経細胞の働きが低下、あるいは細胞死を
アルツハイマー型
(早発性)
1992.10∼1995.3
2002.4∼2004.9
古川良子・中村慎一・斉藤惇「横浜市総合保健医療センターにおける認知症診断外来」老年精神医学雑誌
2006.3 より作成
起こしてしまうため、もの忘れがひどくなり、やがて認知症
にいたるのです。脳血管性認知症は、段
階的に症状が悪化していくのが特徴で
●図表7 アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の違い
す。
一方、アルツハイマー型認知症の場合
βアミロイド
の蓄積
神経細胞が大量に変性しているのが、ア
肥満
糖尿病
運動不足
は、アルツハイマー病により大脳皮質が
傷害されます。脳容積が顕著に減少し、
虚血性
心疾患
過剰な
過酸化脂質
高血圧
アポE4
遺伝子
高脂血症
脳の
動脈硬化
運動不足
魚嫌い
ルツハイマー病患者の脳の際だった特徴
野菜嫌い
です。知的機能が全体的に低下するため、
人格障害や記憶障害が起きやすく、障害
を自覚する認識力も失われがちです。ア
ルツハイマー病は、最初は短期記憶障害
で始まり、進行するとほとんどすべての
高次な脳機能を喪失します(図表7)
。
認知症の原因は
脳血管性認知症を引き起こす原因は動
脈硬化です。動脈硬化は老化現象ですが、
高脂血症や高血圧があればさらに悪化し
ます。
脳血管性認知症の大脳断面図
アルツハイマー型認知症の大脳断面図
アルツハイマー型認知症
脳血管性認知症
70歳以上に多い
女性に多い
発症年齢
男女比
60∼70歳に多い
男性に多い
初期の段階にはある
なし
自覚症状
少しずつ確実に進行する
経過
しばしば明らかにみられる
なし
落ち着きがない、多弁
奇異な屈託のなさ
人格の変化
合併する病気
段階的に、良くなったり
悪くなったりする
比較的少ない
高血圧・糖尿病・心疾患・動脈硬化など
特徴的な症状
感情失禁、うつ状態、せん妄
(頭痛・めまい・もの忘れなど)
本多京子著 須貝佑一監修「脳を若く保つレシピ」日本放送出版協会 2004、長谷川和夫「認知症の知りたいことガイドブック」中央法規出版 2006
より作成
一方、アルツハイマー病は、老人斑と
呼ばれる、神経細胞の表面に蓄積するβアミロイドという異
常なたんぱく質のかたまりが原因となります。βアミロイド
は神経のシナプスに悪影響をおよぼし、情報伝達の効率を下
げて、脳全体として認知症を引き起こします。進行すると、
神経細胞それ自身の中にもタウという異常なたんぱくが集積
して、神経細胞を死滅させます。
βアミロイドは健康な脳にも存在しますが、これを取り去
ることできず、長年にわたり蓄積すると、認知症の症状が現
れます。何十年という長期間をかけて徐々に病気が進んでい
きます。高齢者にアルツハイマー病が多いのはそのためです。
高齢化社会の食生活
「認知症」
認知症を予防する
脳血管障害にならないためには高血圧や高脂血症、糖尿病
などの生活習慣病を予防することですが、こうした生活習慣
病はアルツハイマー病の発症も早めることが最近わかってき
ました。アルツハイマー病および認知症予防については、海
外でさまざまな研究がなされており、メタボリックシンドロ
ームの人はアルツハイマー病になりやすいことが報告されて
刺激ある環境が認知症を防ぐ
読書やカード遊びなどの環境刺激がアルツハイマー病のリスクを減らすと経験的に
言われていましたが、実際に、トンネルや回転車などのおもちゃを入れた豊かな環境
で育ったマウスの脳では、βアミロイドを分解する酵素が増加していることが実験に
よってわかりました。
食う寝る遊ぶ
厚生労働省の研究班の研究結果で、
「よく運動し、栄養に気をつけて、昼寝をした」
方が認知症の発生率が低いことが明らかになっています。
音楽療法と認知症
います。
認知症予防には、頭を使う習慣、適度な運動、食べ物をよ
くかむこと、社交の場に積極的にでること、ストレスを避け
ることなどがよいとされています。
脳を活発に使うと神経細胞の間の新しい繋がりを増やし、
新たに神経細胞を作る可能性もあります。最近の脳科学によ
れば、脳の中でも記憶をつかさどる海馬の神経細胞は増える
音楽を聴いたり歌ったりして心を落ち着かせる「音楽療法」が、認知症のケアに活
用されています。
気分をリラックスさせるために静かに音楽を聴く「受動的音楽療法」と、参加者が
自ら積極的に歌を合唱したり楽器を演奏したりする「能動的音楽療法」があります
が、昔の流行歌や童謡、唱歌などのなじみの曲を聴かせると、歌と当時の経験や感情
とが結びつき、脳が刺激され、意欲を取り戻す効果があります。また、歌を歌い、手
で楽器を演奏する事は、効率よく大脳の神経細胞を刺激します。
ちなみに、バイオリニストやピアニストは、指を動かす脳領域がふつうの人に比べ広
くなっています。それは、一般の人以上に指や手を動かすから指や手を動かす脳部位が
ことが確認されています。複雑に入り組んだロンドン市内の
広くなったのであって、はじめから指の脳の領域が広かったわけではありません。事故
道を走るタクシー運転手の脳を調べたところ、ベテラン運転
などで手足を切断した場合、脳の対応する部分は萎縮したり、他の領域に占領されて
手ほど海馬が大きいことがわかりました。物事を学習するこ
しまいます。
とが海馬神経の増殖能力を高めるのです。
運動は脳の血行をよくし、神経ネットワークの発達を促し
ます。使わなければ衰えるのは身体も脳も同じです。複雑な
仕事をこなした人は認知症になりにくいこと、多くの身体活
動をしている人、そして活動時間数よりも活動の種類が多い
人ほど認知症になりにくいことが報告されています。
噛むことで、理解力に関係する前頭前野の神経細胞の働き
が活発になることは、日本で確認されました。厚生労働省が
提唱する「80・20運動」は、80歳で自分の歯を20本残そうと
いうものですが、実際に自分の歯が多く残っている人に認知
症が少ないという報告があります。
認知症と食習慣が深く関係していることも数多く報告され
ています。
1週間に1回以上、魚または海産物を食べる人の方が認知症
になりにくいことが報告されているほか、1週間に3回以上果
物と野菜のジュースを飲む人、あるいは、地中海風の食事を
とる人はアルツハイマー病になりにくいことなども報告され
ています。地中海風の食事とは、フルーツジュース、野菜、豆
類、穀類、オリーブオイル、魚が多く、肉が少なく、適量のワイ
ンのある食事のことです。
アルツハイマー病患者の食生活を調べたところ、肉の摂取
量が多く魚と野菜の摂取量が少ないことや、極端に甘いもの
の摂取が多い、食事以外に水分をほとんどとらない、女性で
はカロリー不足といった例が多く見られています。
高齢化社会の食生活
「認知症」
骨粗鬆症になると、ちょっとしたことで転倒しやすく、骨折し
認知症を防ぐ健脳食
て寝たきりになると全身の機能が低下して脳への刺激がいちじる
しく低下し、認知症の発症を招きます。頭部を打つこともアルツ
ところで、脳は他の臓器と違い、害のあるものを血液中か
ハイマー型認知症の一因になります。骨粗鬆症予防はカルシウム
ら極力取り込まないよう、脳血管関門と呼ばれるシステムが
をとることですが、カルシウムは神経伝達物質の入った袋(シナ
あります。この脳血管関門を通過できるのは脂溶性で比較的
プス小胞)を開く役割もになっています。
小さな分子量で電化のないもの。酸素、ブドウ糖、脂肪酸、
アミノ酸、ある種の脂溶性物質だけです。
脳の重さは体重の2%程度ですが、エネルギーの消費量は身
健康的な食事と運動が認知症発症防止につながります。いつ
までも脳を若く保つために、普段からの食生活や日常生活に気
を配っておきましょう。
体全体の約20%にもなります。脳の神経細胞を働かせるエネ
ルギーはブドウ糖と酸素から得られます。
●図表8
脂質中の脂肪酸の構成比
脳は他のどの部分よりも大量の酸素を消費します。それだけ
アラキドン酸
DHA
EPA
1
母乳
アラキドン酸
DHA
EPA
0.5
0.5
0.1
皮膚
アラキドン酸
DHA
EPA
0.1
0.1
血液
アラキドン酸
DHA
EPA
3
1
脳
に強い酸化力を持った活性酸素(フリーラジカル)も生じやす
く、酸化しやすいと考えられます。酸化は、脳細胞や血管にダ
メージを与えるため、アルツハイマー病と脳血管性認知症の
どちらの原因ともなります。そこで必要なのが抗酸化物。野
菜や果物に含まれる色素成分のカロテノイドや、ビタミンC・
Eなどです。
脳を元気に働かせるためには常にブドウ糖を補給していく
必要があります。また、脳の活動に必要な神経伝達物質の材
料はアミノ酸です。たんぱく質も欠かせません。アミノ酸か
ら神経伝達物質を作ったり、ブドウ糖をエネルギーとして利
用する上で必要なのがビタミン、ミネラル。特に、脳の働き
12
17
6
11
0
5
10
15
20(%)
高田明和「脳の栄養失調」講談社 2005
と密接に関係しているのがビタミンB群のビタミンB6、ビタミ
ンB 12 、葉酸です。アミノ酸の1種であるホモシステインは、
鎮静剤と認知症
動脈硬化を進める危険因子の1つですが、アルツハイマー病の
アルツハイマー病の脳では多くの場合、慢性的な炎症反応を起こしています。
n-6系統のアラキドン酸を多量にとると、血液を固まりやすくする物質が増え動脈
硬化につながるほか、体内で炎症物質に変わり、炎症を起こしやすくなります。
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる鎮痛剤を飲んでいる人は認知症にか
かりにくいことが知られていますが、これは、脳内の炎症が抑えられるのが理由だと
考えられています。
危険因子でもあります。ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸は、こ
のホモシステインの代謝異常を防ぐ働きがあります。濃緑色
の葉もの野菜、ブロッコリーや枝豆、アスパラガス、オレンジ
などに多く含まれています。
人間の脳は約50%が脂肪でできています。海馬やシナプスに
は特に多価不飽和脂肪酸のDHAが多く含まれています。DHA
はアルツハイマー病を改善するという臨床報告もあります。
DHAやEPAは脳の脳血管関門を通過し、EPAは脳内で酵素に
よってDHAに転換されると考えられています。
多価不飽和脂肪酸には肉や植物油に多いn-6系統(リノール
認知症に効く食品
カレーを時々食べている人は、歳をとっても認識力テストの成績がよいことが最近
わかりました。インド人にアルツハイマー病の発症が少ないことは以前から指摘され
ていましたが、カレー成分のクルクミンがアルツハイマー病に効くようです。
イチョウ葉エキスは1965年にドイツで医薬品に登録され、現在、世界数十か国で
医薬品として扱われています。1994年にはドイツで認知症の治療楽として認可され
ました。イチョウ葉エキスの主成分はフラボノイドとイチョウ葉独自の成分であるギ
ンコライド。ともに活性酸素を除去し、脳血管を酸化から守る作用があります。
酸、アラキドン酸など)と、魚に多いn-3系統(α-リノレン酸、
飲酒と認知症
EPA、DHAなど)があります。いずれも細胞膜の材料になりま
アルコールは脳血管関門を通過できる数少ない物質の1つです。その適量は日本酒
なら1合、ビールで大瓶1本、ウイスキーならダブルで1杯。これをアルコールの1単
位といいます。この量なら、善玉コレステロールが上昇して動脈硬化を抑え、血小板
凝集能を抑制して脳梗塞の予防にも役立つといわれています。酒を毎日1単位ずつ飲
む人の死亡率は、全く飲まない人や大酒飲みの人より低いU字型死亡曲線も報告され
ています。ただし、深酒の習慣はアルコール中毒を招き、やがてアルコール性認知症
になります。
すが、脳ではn-6系統よりもn-3系統の脂肪が多く必要です(図
表8)。n-3系統の食品は、魚や一部の植物油に限られるため、
現代の食生活はn-6系統過多になりやすい傾向にあります。
アルツハイマー病患者は、アセチルコリンと呼ばれる神経
伝達物質が少ないのが特徴です。大豆に含まれるレシチンは、
体内でこのアセチルコリンの材料となるコリンに分解されま
す。レシチンは記憶障害を改善する効果が確認されており、
アルツハイマー病の予防が期待できます。
参考資料:池谷裕二「脳は何かと言い訳する」詳伝社 2006、池谷裕二「進化しすぎた脳」朝日出版社
2004、池谷裕二・糸井重里「海馬 脳は疲れない」朝日出版社 2002、ジョン・E・ダウリング「脳は生まれか
育ちか」青土社 2006、中島英雄『しぶとく「生き残る脳」
、やたらと「粋がる脳」
』すばる舎 2003、長谷川
和夫「認知症の知りたいことガイドブック」中央法規出版 2006、本多京子著・須貝佑一監修「脳を若く保
つレシピ」日本放送出版協会 2004、田沢俊明「脳が若返る100のコツ」主婦の友社 2004、灰田 宗孝『
「認知症」
とはどんな病気?』東海大学出版会 2005、植木彰「健脳食 脳の働きを活発にする食事法」講談社 2002、
高田明和「脳の栄養失調」講談社 2005、生田哲「脳の健康」講談社 2002、小川紀雄「脳の老化と病気」講
談社 1999