2012/10/15 地質系合同セミナー発表 西日本中新統の深海性サメ類相 生物圏進化学研究室 西松弘喜 はじめに 深海性サメ類とは,中層(200-1000 m)から漸深層(1000-3000 m )を主な生息 域とするサメであり,生活様式によって遊泳性,底遊泳性,底生に区分される.深海性 サメ類化石の産出傾向は Hexanchus 属(カグラザメ属)など大型の歯をもつ種の報告に 偏っており(中野,1999 など),5 属以上のまとまった報告地域は少なく世界の中新統 では Underwood&Schlogl(2011)など 6 地域に限られる.加えて生活様式に着目する とトラザメ科に代表される底生種の報告は日本の中新統からは糸魚川ほか(1985)な ど少数である.近年,高桑・鈴木(2009)は中部中新統である群馬県の富岡層群(小幡 層,原田篠層)と長野県の横尾層から,それぞれ 3 目 8 科 12 属,1 目 5 科 8 属の深海 性サメ類化石を報告した.同化石群を構成する属の生活様式を現生種のものと比較する と,推定される化石群各属の生活様式は,遊泳性あるいは底遊泳性であり,トラザメ科 に代表される底生種は含まれていない. そこで,本研究では,産出報告の少ない深海性サメ類の化石標本を採取し記載するこ と,前―中期中新世における深海性サメ類相を復元すること,トラザメ科など底生種の 標本を採取し,記載することの 3 点を研究目標とした.今回の発表では,これまでの研 究成果について述べる. 研究方法および産出種 現在までに下部―中部中新統である,新潟県七谷層,富山県八尾層群黒瀬谷層および 東別所層,岐阜県瑞浪層群生俵層,静岡県西郷層群西郷層,三重県阿波層群槇野層およ び一志層群片田層,岡山県勝田層群高倉層,広島県東城の備北層群上部層および庄原の 板橋層の9地域62地点より3500個を超える深海性サメ類歯化石標本を得た. 各地域において泥岩,砂質泥岩および砂岩を1地点当たり5-80 kg試料として採取した. 採取地点のほとんどは,これまでに深海性サメ類化石の報告がない地点である.乾燥と 浸水を繰り返した後,試料を水洗し粒径0.25 mm以上の残渣から実体顕微鏡下で深海性 サメ類化石の拾い上げをおこなった.同化石は試料1 kg当たり0.1-5個程度,最大で約 20個含まれており,以下の13属14種が得られた. Mitsukurina sp.,Chlamydoselachus sp.,Squalus sp.,Centrophorus sp.,Centroscymnus sp., Deania calcea (Lowe, 1839),Etmopterus sp. 1,E. sp. 2,Paraetmopterus sp.,Somniosus sp., Dalatias licha (Bonnaterre, 1788),Squaliolus sp.,Galeus sp.,Apristurus sp. 意義 地域と層準によって組成は異なるが,多くの地点でDeania,Etmopterus,Paraetmopterus, Squaliolus属のいずれかの種が優勢に産出する.Squalus属は槇野層と板橋層では比較的 優勢であるが,他の地域では産出数が少ない. Chlamydoselachus,Centroscymnus, Somniosus,Dalatias属の産出地点は限られ,どの地点でも産出数は少ない.Galeus, Apristurus属は多くの地域で産出し,東別所層では優勢種のひとつである. 本研究は,これまで深海性サメ類化石の報告がない地層からも,多くの層準から同化 石を得られること,多くの地点でDeania,Etmopterus,Paraetmopterus,Squaliolus属な ど小型の属が優勢に産出することを明らかにした.これらの種はいずれも日本での化石 記録が非常に少ない.6地域から産出したApristurus属は日本では初めての化石記録とな る. 本研究のように大量のサンプルを分解処理し,多くの歯化石を採取する方法は海外で はAdnet(2006)などによって行われているが,国内では高桑(2007)に限られる. 今後このような手法を広い地域・時代の地層に適用すれば,日本の深海性サメ類化石の 記録は飛躍的に増加し,日本近海の深海性サメ類相の変遷過程を詳しく解明することが 可能になる. 引用文献 Adnet,S.,2006.Palaeo Ichthyologica.10,5-16. 糸魚川淳二・西本博行・柄沢宏明・奥村好次,1985.瑞浪層群の化石-3-サメ・エイ類. 瑞浪市化石博物館専報,5,3-89. 中野雄介,1999.中新統備北層群から産出した板鰓類化石群.島根大学地球資源環境 学研究報告,18,109-125. 高桑祐司,2007.中部日本群馬県の中新統産出の深海性サメ類化石群とその生物地理 学的意義.化石,81,24-44. 高桑祐司・鈴木秀史,2009,日本における深海性サメ類化石研究の現状.月刊海洋号 外,52,73-86. Underwood,C.J. and Schlogl,J.,2011.Deep water chondrichthyans from the Early Miocene of the Vienna Basin (Central Paratethys, Slovakia).Acta Palaeontologica Polonica,56,1-56.
© Copyright 2024 Paperzz