みずほ事件 - 不二商標綜合事務所

最 新判 決 情 報
2011 年
〔3 月 分 〕
〇 みずほ事
みずほ 事 件
知 財 高 裁 H23.3.3 H22(
( 行 ケ ) 10338 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 滝 澤 孝 臣 裁 判 長 )
第 42 類 「工 業 所 有 権 に関 する手 続 の代 理 又 は鑑 定 その他 の事 務 及 びこれに関 する情 報 の提 供 」ほか、
いわゆる弁 理 士 、弁 護 士 、司 法 書 士 、社 会 保 険 労 務 士 等 の業 務 に 関 する情 報 の提 供 を指 定 役 務 とする登
録 商 標 「みずほ」(標 準 文 字 ) が、みずほ銀 行 で知 られる(株 )みずほフィナンシャルグループが請 求 した無 効
審 判 により登 録 が無 効 とされたので、当 該 無 効 審 決 の取 消 しが求 められた事 案 である。
争 点 は、弁 理 士 ら士 業 に関 する情 報 の提 供 と銀 行 業 との間 における出 所 混 同 の可 能 性 (法 4-1-15 号 )で
ある。
判 決 では、みずほ銀 行 などのメガバンクが、顧 客 に対 する法 律 相 談 や年 金 相 談 、弁 護 士 紹 介 サービス、著
作 権 等 の信 託 業 務 、知 的 財 産 を担 保 とする融 資 業 務 など、士 業 に関 連 するサービスを提 供 していることに鑑
み、本 件 商 標 はみずほグループと経 済 的 又 は組 織 的 に何 らかの関 係 がある者 の業 務 にかかる役 務 であるか
のように誤 信 するおそれがあるので、出 所 混 同 のおそれがあると認 定 し、無 効 審 決 を支 持 した。
確 かに、みずほ銀 行 や三 井 住 友 銀 行 、三 菱 東 京 UFJ銀 行 などのメガバンクの名 称 の要 部 と共 通 する商 標
であれば、判 決 のいうように出 所 混 同 のおそれがあると思 われるが、その点 を除 外 した場 合 、銀 行 業 務 の商
標 と士 業 に係 る役 務 とが当 然 に出 所 混 同 のおそれがあると断 ずることは早 計 といえよう。
関 連 する事 件 としては、21 年 1 月 28 日 知 財 高 裁 判 決 の MIZUHO.NET 事 件 がある。
〇 天 使 のチョコリング事
のチョコリング 事 件
知 財 高 裁 H23.3.17
H22(
( 行 ケ ) 10335 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 裁 滝 澤 孝 臣 判 長 )
第 30 類 「チョコレートを加 味 してなるリング状 の菓 子 及 びパン」を指 定 商 品 とする登 録
商 標 「天 使 のチョコリング」が、エンゼルマークで有 名 な森 永 製 菓 (株 )の登 録 商 標 「天 使 」
(右 掲 )によって無 効 とされたので、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案 である。引 用 商 標 「天 使 」は、昭 和 41
年 に出 願 され、昭 和 56 年 に商 標 登 録 されている。
争 点 は、本 件 商 標 「天 使 のチョコリング」から、「チョコリング」の部 分 を除 外 し、「天 使 」のみの称 呼 、観 念 が
生 ずるか否 かである。
判 決 では、本 件 商 標 の指 定 商 品 が「チョコレートを加 味 してなるリング状 の菓 子 及 びパン」であることから、
「チョコリング」とは、チョコレート味 の輪 状 の菓 子 又 はパンを普 通 の態 様 で表 示 したに過 ぎないので、この部 分
からは商 品 の出 所 識 別 標 識 としての称 呼 、観 念 は生 じな いとし、その結 果 、本 件 商 標 の要 部 は「 天 使 」の部
分 であり、引 用 商 標 に類 似 すると認 定 し、無 効 審 決 を支 持 した。
因 みに、判 決 がいうように、森 永 製 菓 の「エンゼルパイ」や「エンゼルマーク」が広 く知 られていることはいうま
でもないが、一 方 IPDL で、「菓 子 、パン」の類 似 群 コード(30A01) で「天 使 」の語 を含 む商 標 を検 索 すると、
125 件 ヒットした。それらの多 くは、被 告 森 永 製 菓 の商 標 以 外 のものであり、それが現 実 に使 用 されているとす
ると、需 要 者 らの認 識 としては、「天 使 =森 永 製 菓 」のような結 びつきが当 然 にあるということはできないのでは
ないであろうか。
もちろん、並 存 登 録 されている他 社 商 標 は、本 件 商 標 の「チョコリング」のように記 述 的 な語 が結 合 したもの
で はな いので、全 体 として の 識 別 性 が 認 め られて 並 存 登 録 され たことに な るが、中 に は「 天 使 のおや つ」 ( 第
2141158 号 )や「白 い天 使 のデザート」(第 4450109 号 )のように、記 述 的 な語 が結 合 した商 標 もある。
また、当 サイト審 決 データファイル「記 述 的 語 を含 む商 標 の類 似 」に掲 載 しているように、「黄 金 のプリン」と
「黄 金 」とを非 類 似 と判 断 した審 決 例 などが多 数 あることが分 かる。本 件 とこれらの審 決 例 との違 いがどの辺
にあるのか検 討 することが必 要 であろう。
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〇 JIL 事 件
知 財 高 裁 H23.3.17
H22(
( 行 ケ ) 10359 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 滝 澤 孝 臣 裁 判 長 )
旧 第 11 類 「電 気 機 械 器 具 」他 を指 定 商 品 とする登 録 商 標 「JIL」(右 上 掲 )が、不 使 用 取 消 審 判
により登 録 を取 り消 されたので、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案 である。
争 点 は、使 用 商 標 1,2(右 中 下 掲 )が本 件 登 録 商 標 の使 用 と認 められるか否 かである。
特 許 庁 審 決 では、使 用 商 標 2 は、二 重 の円 の中 に、「(社 )日 本 照 明 器 具 工 業 会 」の文 字 と
「 S 」 、 「 JIL5002 」 の 各 文 字 を ま と ま り よ く 配 し 、 さ ら に 「 B 」 の 文 字 と を 組 み 合 わ せ て 成 る の で 、
「JIL」の文 字 部 分 のみが独 立 して自 他 商 品 識 別 標 識 として機 能 することはないとして、登 録 商 標
の使 用 とは認 めなかった、
しかし、判 決 では、原 告 商 標 権 者 が、照 明 器 具 の製 造 販 売 を行 な う者 を会 員 として 設 立 された
社 団 法 人 で あり、特 別 事 業 として 、評 定 委 員 会 を組 織 し 、基 準 を策 定 し、事 業 者 の登 録 、立 入 調
査 、試 験 の実 施 など非 常 用 照 明 器 具 の自 主 評 定 事 業 を行 なっていることを認 定 した。
そして、原 告 は、会 員 の照 明 器 具 メーカーからの申 請 により、原 告 の規 格 「非 常 用 照 明 器 具 技 術 基 準
(JIL5501)」に 適 合 して いるかどうかを審 議 し、評 定 可 となった場 合 、認 定 証 を交 付 し、使 用 料 を徴 収 し、こ
れを証 する標 章 である使 用 商 標 1(右 中 掲 )を商 品 に貼 付 することを許 可 していることを認 定 した。
つまり、評 定 を受 けた会 員 の照 明 器 具 メーカーは、本 件 商 標 の使 用 についての通 常 使 用 権 者 ということに
なる。
商 標 の同 一 性 について判 決 は、使 用 商 標 1 中 の「(株 )日 本 照 明 器 具 工 業 会 」は原 告 を表 示 し、「適 合 」は
照 明 器 具 が何 らかの規 格 に 適 合 したことを意 味 し、下 段 の「JIL5501」は原 告 規 格 で あるが、必 ずしもその意
味 は明 らかではないので、それぞれが独 立 したものと見 ることができるとし、さらに「JIL5505」部 分 は、ローマ字
と数 字 の組 み合 わせで、一 体 とみることも、あるいは区 切 ってみることもできるので、「JIL」は独 立 した表 示 とし
て認 識 できるとした。
その結 果 、本 件 商 標 「JIL」は、通 常 使 用 権 者 によって使 用 されたと認 定 し、審 決 を取 り消 した。
判 決 に賛 成 である。本 件 商 標 はいわゆる証 明 商 標 として 使 用 されたことになるが、審 決 でも証 明 商 標 か否
かを審 理 していながら、そもそも商 標 の同 一 性 を欠 くと認 定 したため、証 明 商 標 の点 も否 定 した。
通 常 使 用 権 者 か否 かの認 定 についても、審 決 では「何 らかの契 約 ないしは意 思 表 示 が必 要 」として否 定 し
ているが、他 人 に商 標 の使 用 を許 可 する以 上 、判 決 が言 うように通 常 使 用 権 者 と認 定 することに何 らの違 和
感 も感 じない。特 許 庁 には、より精 緻 な事 実 認 定 とプロとしての判 断 を行 なうよう期 待 したい。
〇 黒 糖 ドーナツ棒
ドーナツ 棒 事 件
知 財 高 裁 H23.3.24
H22(
( 行 ケ ) 10356 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 滝 澤 孝 臣 裁 判 長 )
第 30 類 「黒 糖 を使 用 した棒 形 状 のドーナツ菓 子 」を指 定 商 品 とし、法 3-2 項 の使 用 による
識 別 性 が認 められて 登 録 された商 標 「 黒 糖 /ドーナツ 棒 」(右 掲 )に 対 して 、識 別 性 の獲 得 を
争 い無 効 審 判 を請 求 したが、不 成 立 と審 決 されたので、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案
である。
原 告 は、まず本 願 商 標 が法 3-1-1 号 に規 定 する商 品 の普 通 名 称 を普 通 に用 いられる方 法
で表 示 しているので、法 3-2 項 の適 用 除 外 であると主 張 したが、判 決 は、全 証 拠 によっても、
「黒 糖 ドーナツ棒 」が商 品 の普 通 名 称 として使 用 された事 実 はなく、法 3-1-3 号 の商 品 の品 質 、
原 材 料 、形 状 を普 通 に用 いられる方 法 で表 示 する標 章 であることを確 認 した上 で、識 別 性 獲 得 の有 無 につい
て審 理 した。
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法 3-2 項 の周 知 性 については、平 成 6 年 秋 からの販 売 開 始 時 期 、平 成 18 年 度 6 万 5 千 部 に上 る通 販 カ
タログの発 行 部 数 、東 京 赤 坂 、那 覇 、熊 本 空 港 、宮 崎 空 港 、大 分 空 港 等 での販 売 実 績 、無 料 情 報 誌 への広
告 実 績 、平 成 18 年 度 8923 万 円 もの宣 伝 広 告 費 、平 成 18 年 度 約 7 億 6244 万 円 の販 売 実 績 、そして他 社
類 似 商 品 との関 連 において「黒 糖 ドーナツ棒 」 との外 観 、称 呼 を有 する商 標 を使 用 していたのは被 告 商 標 権
者 のみであることを確 認 した上 で、法 3-2 項 の該 当 性 を肯 定 した。
〇 MBA ENGLISH 事 件
知 財 高 裁 H23.3.28
H22(
( 行 ケ ) 10304 審 決 取 消 請 求 事 件 ( 中 野 哲 弘 裁 判 長 )
第 41 類 「語 学 の教 授 」ほかを指 定 役 務 とする出 願 商 標 「MBA ENGLISH」が、役 務 の質 を普 通 に用 いられ
る方 法 で表 示 する標 章 のみからなる商 標 であるとして拒 絶 されたので、当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案
である。
「MBA」とは、「経 営 学 修 士 」(Master of Business Administrator)を意 味 し、アメリカ発 祥 のビジネススクー
ルで付 与 される資 格 を象 徴 するタイトルである。
而 して、本 願 商 標 「MBA ENGLISH」は、全 体 として「MBA のための、MBA に特 化 した英 語 」を意 味 するところ、
判 決 は、指 定 役 務 の「語 学 の教 授 、(語 学 に関 する)セミナーの企 画 ・運 営 ・開 催 」等 との関 係 においては、当
該 「語 学 」が「MBA(経 営 学 修 士 )を取 得 するために、あるいは取 得 した MBA を活 用 するために有 用 な英 語 」と
認 識 されるので、役 務 の質 を普 通 に用 いられるに過 ぎないとして、審 決 を支 持 した。
なお原 告 は、審 決 取 消 事 由 として、日 本 版 MBA 付 与 コースでは、日 本 語 での授 業 が行 なわれているし、欧
米 、日 本 に限 らず、中 国 、アルゼンチン等 の非 英 語 圏 でも広 く履 修 されているので、「MBA」を「語 学 」ないしは
「英 語 」と関 連 付 ける事 情 は存 在 しないと主 張 した。
しかし判 決 は、「MBA」はもともとアメリカ発 祥 の高 等 教 育 機 関 で付 与 される資 格 であり、かつてはアメリカに
留 学 する以 外 に資 格 を取 得 する手 段 はなかったので、「MBA」の語 は「英 語 」もしくは「英 語 学 習 」と深 く結 びつ
いていた。従 って、日 本 語 授 業 などが行 なわれている事 実 があっても、「MBA」が英 語 と深 く結 びついていること
に変 りはないとして、原 告 の主 張 を退 けた。
また原 告 によれば、「IT-MBA」 「Agri-MBA」 「日 本 MBA 学 会 」 「THE MBA FORUM」など「MBA」の語 を含
む商 標 の先 登 録 例 があるようであるが、出 願 商 標 の識 別 性 の判 断 は、それぞれの商 標 の個 別 の事 情 に基 づ
く個 別 の判 断 であるので、先 登 録 例 の存 在 は、本 願 商 標 の識 別 性 の判 断 には影 響 しないと判 決 は判 示 した。
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