オンラインゲームの多人数インタラクティブ性と アバター成長体験を通じた起業教育コンテンツの研究 竹本拓治 (福井大学産学官連携本部・准教授) 1.はじめに 本報告書は、オンラインゲームの中でも特に多人数によるインタラクティブ性と、ゲームの操 作者が自らの分身であるアバターを成長させる経験に注目し、ゲームの操作を通じて起業教育に 効果を持つコンテンツの要素について実験結果を用いて示した上で、特許技術を用いたオンライ ンゲームの更なる市場開拓の可能性を示したものである。多くのユーザーを惹きつける従来のゲ ームの主目的が「遊び」から「教育」へと軸足を移すとき、ゲームは開業率が伸び悩む現状の閉 塞感漂う日本経済に極めて大きなインパクトを与えることとなり、日本のみならず世界の教育に 真の「ゲームチェンジ(大転換)」を巻き起こす可能性がある。 2.これまでの研究経過 これまでの研究では、e ラーニングコンテンツの作成に携わり、金融経済を含む教育内容にて、 学習者が通常授業と同程度の知識を得るコンテンツを開発した。同開発では学習者が時と場所の 制約を受けずに受講でき、教員は学習者の項目別進行状況を管理し、WEB 試験により習得度 をはかることができることが特徴であった。しかし同コンテンツの課題は、 「①経験を積む教 育とするには高い教育効果を得にくいこと」「②意欲的・能動的な学習姿勢の喚起不足」「③ 受講者へのフィードバックの弱さ」であった。 3.オンラインゲームにおける疑似経済の形成 本研究ではまず2における課題を解決すべく、非効率的行動等のノイズを含む「多人数イ ンタラクティブ性」が現実経済と類似した結果を生むことに注目した。2011 年 4 月から 2012 年 2 月にかけて、小教室から大教室までで実施した各授業を通じて、主に大学生、大学院生、 社会人を対象に、5 つのアナログの場におけるゲームの実験を行った。 その結果、これらの実験においては、 「①経験を積む教育とするには高い教育効果を得にく いこと」の解決には概ね肯定的な意見であった。また授業においてゲーム的な要素を多分に 加えたことから、すべての受講者世代において、 「②意欲的・能動的な学習姿勢の喚起不足」 という課題は十分に解決できた。また学生も社会人も共に、教室の中で行われる授業(ゲー ム)に関しては、確実な解があるという思い込みの存在、または確実な解を見出そうとして いたことが判明した。このことは従来の教育が不確実性リスクに重点を置かず、現実経済か ら離れた内容となっていたこと、つまり「教育と実社会の不一致」が存在していたことを示 す。多人数間のインタラクティブ性を教育に応用することは、特定の解が存在しない教育と なり、社会に出る前の学校教育として、十分に経験教育となりうることが示せた。 4. アバター成長体験を通じた疑似体験 「③受講者へのフィードバックの弱さ」を加えたゲームによる克服は、自らが経営者、または 出店担当者の役割となる「ロールプレイ」を通じて実験を試みた。被験者によるアンケート結果 が示す教育効果から、ゲーム結果を示す段階で考察を行うことにより、2で抽出した課題「①経 験を積む教育とするには高い教育効果を得にくいこと」 「②意欲的・能動的な学習姿勢の喚起不足」 の他、 「③受講者へのフィードバックの弱さ」に対しても効果がみられた。しかし教育効果が高い と推察される当ゲームによる教育方法を全国縦断的に実施するには、 「④ゲームの連続性の維持」 「⑤当該教育を実施するにあたり、担当する教員の養成」という課題が新たに生まれた。 「④ゲームの連続性の維持」については、当該ゲームに一般的なロールプレイングゲームのア バター成長体験を加えることで克服が可能である。本研究では、グループではなく個人が行うも のとして、アバターの成長を体験するデジタルビジネスゲームコンテンツを作成した。 5.「分析システム、分析方法及び分析プログラム」の特許申請による課題への対処 「⑤当該教育を実施するにあたり、担当する教員の養成」という課題については、教員の養成 を必要とせず、ゲーム内において採点と評価を処理する方法として、2011 年 9 月に特許出願を行 った「情報処理装置の操作者に関する分析の精度を向上させるプログラム」の応用が可能である。 従来技術との相違点は評価結果と操作者との関係性であり、当該技術は評価情報記録装置に学術 データを用いることで正確に受講者へのフィードバックが可能になる。 6.おわりに およそ 1 年にわたる本研究ならびに実証実験では、オンラインゲームの多人数インタラクティ ブ性とアバター成長体験が、双方ともに教育に十分な効果を持つこと、ならびにそれらは従来に は存在しない経験教育であり、起業教育コンテンツとなることを示した。 5に示した技術の実用化により、ゲーム産業を中心とするソフトウェア産業に移転・活用する ことで、操作者の特性に応じた教育診断機能や、医療のアドバイス機能を実装させることが可能 になり(自己診断機能) 、教育分野において、デジタルゲームの応用範囲が飛躍的に拡大する。 今後の研究としては、本内容をさらに広く応用することを追求することで実用化の可能性を高 める。引き続き評価情報記録装置における記録情報の汎用性を研究することで、 「オンラインゲー ムの多人数インタラクティブ性とアバター成長体験」の要素と、 「分析システム、分析方法及び分 析プログラム」の特許を、さらに広い分野に応用する方向で研究していく所存である。 * 本研究調査および実証実験は、中山隼雄科学技術文化財団および科学技術融合振興財団の助 成により行った。ここに記して深く感謝する。 研究業績 [1] 竹本拓治「ゲームを利用したファイナンス教育方法の実践と課題」パーソナルファイナンス 学会、2011 年 10 月(学会発表) [2] 発明者:竹本拓治、特許出願人:福井大学「分析システム、分析方法及び分析プログラム」 (情 報処理装置の教育への応用、操作者に関する分析の精度の向上)、特願 2011-206072、2011 年 9 月申請(特許) [3] Takuji Takemoto“Possibility of Financial and Economic Education using Massively Multiplayer Online Game ” Spa University ( England ) International Association for Citizenship, Social and Economic Education, 2011 年 6 月(国際学会発表)
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