貿易依存度の高まりと産業構造の収斂: 東アジアの経済統合の可能性

Annual Report No.23 2009
貿易依存度の高まりと産業構造の収斂:
東アジアの経済統合の可能性
Convergence of Industrial Compositions and Globalization:
Possibility of East Asian Economic Union
A71212
代表研究者 福 重 元 嗣 大阪大学 大学院経済学研究科 教授
Mototsugu Fukushige
Professor, Graduate School of Economics, Osaka University
To integrate regional countries economically, there are several conditions to be achieved.
One of the most important conditions is co-movement of business fluctuations. Another
condition is convergence of some kinds of economic conditions. Convergence of per capita
GDP is an important condition, but convergence of industrial compositions is also important
because recent developments of the theoretical economic geography tell us about the importance of economies of scale and economies of scope.
In this research project, in order to investigate the possibility of East Asian Economic
Union, I will study about the relationships between the convergence of industrial compositions and globalization.
In details, we analyze Petty=Clark’s law in economic development first because this law
is one of the most important finding facts about the composition of industries in economic
development and because it was investigated by very few researchers. Of course, I will
investigate more detailed industrial compositions, but this approach is difficult to show the
convergence of industrial composition clearly, which was made clear in the process my
research project.
In the result of my research, China’s course of economic development is a little bit differ-
ent from other East Asian counties. China’s course depends heavily on the industrialization
of tertiary industries and keeps more weight on the primary industries than other East Asian
countries.
重要である。しかしながら、このような条件
研究目的
に加え、経済統合のためには所得水準、一人
経済統合を進めるためには、貿易や直接投
あたりのGDP水準の収斂や、産業構造の収斂
資によって個々の国々経済の結びつきがすで
といった条件も重要な条件であると考えられ
に強くなっていること、それにより個々の国々
る。これは、近年の新しい経済地理学の理論
の景気変動に関しても連動が見られることは
的な貢献によれば、経済発展のためには、規
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模の経済性や範囲の経済性が重要であり、従
第1次産業から第2次産業へ、さらに第2次産
来の国際貿易論が主張するような比較優位と
業から第3次産業へと中心となる産業が移って
それに基づく個々の国際的な分業の重要性と
いくことを示唆するものであり、その結果と
いった技術が進歩しない経済における経済成
して就業者比率や産業の生産額ベースで見た
長とは異なった経済発展のための戦略を示唆
比率の変化について実証分析を行なった分析
するものである。
が行なわれてきた。近年ではEchevarria(1995,
このような理論的な貢献を受けて、本研究
1997)による動学的一般均衡分析によっても
では、アジアの経済共同体の可能性に関して、
この仮説を支持するモデルが開発されている。
特に産業構造の収斂という視点より東アジア
本研究では、東アジア(東南アジアの国々
の国々の産業構造の変化について実証分析を
を含む)の国々と中国の省及び市のデータを
行う。本研究では、ぺティ=クラークの法則
もとに、ペティ=クラークの法則がどの程度、
と呼ばれる、就業者からみた産業構造の収斂
econometric modelによって説明可能なのか、
について、東アジアの国々の状況について実
東アジアの国々と中国の省や市、同じような
証分析を行う。これは、研究の途中で明らか
パターンで経済成長をしているのかといった
になったことであるが、細かな産業分類に従っ
点に注目し、実証分析を行なう。
た産業構造の収斂に関しては、充分に国際比
このような分析は、純粋に経済発展の法則
較可能な統計が整備されておらず、利用でき
が当てはまるか否かといった点からも、重要
る国際産業連関表では、産業構造の収斂につ
な分析であり、動学的一般均衡分析が示唆す
いて充分明確な結果を得ることができないた
る経済発展パターンと現実の相違や類似点を
めである。
探る上でも重要な分析である。もちろん、こ
分析の結果によって、特に東アジアの国々
のような純粋に経済学的な視点からだけでな
の経済発展のパターンと、中国を構成する省
く、東アジア地域における自由貿易協定の締
や市の経済発展のパターンの違いと、産業構
結や東アジア経済共同体と構想といった経済
造の収斂の可能性について検討することが重
統合を考えるに当たって、個々の経済の発展
要であろう。
過程を比較したり、統合後の経済構造の収斂
に関して経済政策の面からも重要な分析であ
概要および本文
ると考えられる。
1. はじめに
本研究では、具体的には、東南アジアの
経済発展と産業構造の関係を示す法則とし
国々を含む東アジア11ヵ国と中国国内の31省
てペティ=クラークの法則 と呼ばれるものが
市の第 1 次産業から第 3 次産業の就業者比率
ある。この法則は、単純に経済成長が進むと、
をもとに、ペティ=クラークの法則について
1
econometric modelの当てはまりについて検討
*本研究は平成19年度の村田学術振興財団による助成に
基づく研究成果である。記して財団に感謝したい。
1 ペティ=クラークの法則に関しては、Clark(1951)
によって指摘されたものであり、Kuznets(1966)に
よっても実証的に示されている。Hayami and Godo
(2005)等の教科書にも解説がある。
した。分析の結果は、単純に就業者比率を分
析するのではなく、上位産業の就業者比率を
ロジット変換した場合には、一人当たりGDP
を説明変数とする線形モデルの当てはまりが
非常に良い事が明らかとなった。また東アジ
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アと中国国内の省市を比較した場合には、シ
まりを検討する。さらに検討結果を中国の省
ンガポールや香港といった都市国家を除けば
市のデータに適用しその妥当性について検討
中国の省市は、東アジアの国々に比べ、第1
する。第3節では、データに線形の回帰モデル
次産業から第2次産業への就業構造の転換が
を当てはめ、一人当たりGDPに対する反応に
遅く、第2次産業から第3次産業への就業構造
ついて数量的に検討を行なう。第4節では、推
の転換は逆に東アジアの国々よりも早いとい
計された回帰モデルをもとに、東アジアの国々
う特徴を持っていることを示す結果であった。
と中国の経済発展に伴う将来の産業構造につ
これは『世界の工場』と呼ばれる中国は、実
いてシミュレートし、この二つの地域の相違
は一人当たりGDPで見た経済発展に伴う工業
について検討する。最後に5節では、本研究を
化は、他の東アジアの国々より遅れており、
まとめ、残された研究課題について検討する。
一方で経済発展による第3次産業への就業者
の移動によるサービス化の進展は、他の国々
2. ペティ=クラークの法則とロジット変換
よりも早く進んでいることを示す結果である。
本研究では1982年から2003年の3年ごとの
実証分析の結果から示唆される相対的に第1
データをもとにペティ=クラークの法則につ
次産業と第3次産業の比率の高い国としての
いて実証分析を行なう。分析の対象となっ
中国の将来像が、今後どのように修正されて
た国々と中国の省市のデータのアベイラビリ
ゆくのか、あるいは修正されないのかは、今
ティーについては、Table 1の通りであり、東
後とも注視すべき問題である。
アジア11ヵ国と中国国内の31省市がその対象
本研究の構成は以下の通りである。次節で
である。東アジアの国々に関して第2と第3次
はペティ=クラークの法則について、東アジ
産業の合計の就業者比率と第3次産業の就業
アのデータをもとに、グラフによりその当ては
者比率を縦軸に、米ドル換算した一人当た
Table 1 Data Availability.
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りGDPを横軸にとって散布図を描いたものが
れる変数変換が用いられてきた。ロジット変
F i g u r e 1の(a)及び(b)である 。第2次産
換とは、例えばゼロと1の間を取る変数x iを
2
業と第3次産業の合計の就業者比率も第3次産
業の就業者比率も5000米ドル超までは急速に
増加し、その後は増加率が鈍る傾向を示して
のように変換し、x i がゼロに近づくとy i はマイ
いる。このデータを直接econometric modelを
ナス無限大に近づき、x i が1に近づくとy i はプ
当てはめ分析するには、何らかの非線形モデ
ラス無限大に近づく変数へと変換される。
ルを当てはめる必要性があることはFigure よ
ロジット変換した第2次産業と第3次産業の
り明らかである。しかしながら、各産業の椎
合計の就業者比率と第3次産業の就業者比率
業者比率はゼロ以上1以下の値を取るものであ
を縦軸に、対数変換をした一人当たりGDPを
り、このようなデータを分析する場合には計
横軸にとって散布図にしたものがF ig u r e 2の
量経済学では、しばしばロジット変換と呼ば
(a)及び(b)である。Figureより明らかである、
Figure 1. Shares of Primary, Secondary and Tiertiary Industries.
2 Emi(2007)のFigure 3においても同様のグラフが描かれている。
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(a)ではシンガポールと香港を除きほぼ直線
状にデータが分布している、また(b)では、
(a)よりは上下のばらつきが大きいもののほ
てみると、Figure 3の(a)及び(b)に示され
たような結果となる。黒い大きな点が中国全
体のデータであり、小さな黒い点が省市のデー
ぼ直線状にデータが分布していると看做せる。
タを表している。こちらのFigure からは、第
次節ではこのデータに線形回帰モデルを当て
2次産業と第3次産業の合計の椎業者比率は、
はめ、一人当たりGDPと第2次産業と第3次産
ほぼ直線状に分布していると看做せるのに対
業の合計の就業者比率及び第3次産業の就業
して、第3次産業の就業者比率は所得の比較
3
者比率との関係を分析する 。
的高いグループ(主として市のデータである)
東アジアの国々の分析に入る前に、中国の
とその他のグループに分かれているように見
省市のデータについても同様にFigureを描い
える。F igureを見る限りでは、双方ともほぼ
Figure 2. Shares of Primary, Secondary and Tiertiary Industries (Logit Transformation).
3 東アジアの国々において生産関数や産業連関表を用いて経済の構造が異なっていることを分析しているKodama
(2006)や Bo, Sato and Nakamura(2005)に対して、本研究では就業構造のみを見ることによって、これらの国々
の経済発展のパターンが非常に良く似ていることを示す結果となっている。
─ 456 ─
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直線状に分布しているが、切片と傾きがそれ
4
という単純な線形回帰モデルである。だだし
分析の対象としているデータはパネル・デー
ぞれ異なっている可能がある 。
タであるため、通常の最小2乗法だけでなく、
3. 回帰分析による考察
パネル・データの分析でしばしば用いられる
この節では、第2節のF i g u r eによる検討を
固定効果モデルと変量効果モデル、さらに個々
もとに、線形回帰モデルをデータに当てはめ、
の国別に通常の最小2乗法を適用した結果を
各就業者比率が一人当たりGDPにどのように
比較検討する。
反応するのかについて数量的に検討する。推
Table 2は東アジアの国々の第2次産業と第
計するモデルは、
3次産業の合計の就業者比率についての結果
である。後ほど中国との比較を行なうために、
中国を除いた場合、さらにFi g u r e 2の結果を
Figure 3. Shares of Primary, Secondary and Tiertiary Industries in Chines Municipalities and Provinces.
4 Arayama and Miyoshi(2004)が指摘するように、中国国内のどの地域によって経済発展のパターンが異なるかにつ
いても検討すべきかもしれないが、本研究ではFigure 3からも分かるように、省と市では関係が異なっている可能性
はあるが、ほぼ線形の関係が観測されるため、中国国内をさらに地域に分けることはしなかった。
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Table 2 Results for Secondary and Tertiary Industries.
もとにシンガポールと香港を除いた場合につ
省の結果からは約0.47、市の結果からは0.39
いて推計を行なっている。Table 2の結果から
と推計されている。この結果は東アジアの国々
は、東アジアの国々から中国を除いても結果
からの結果である0.59より小さく、一人当た
は大きく変わらないがSBICによって支持され
りG D Pの1%の増加に対して第2次産業と第3
るモデルは、個々の国ごとに回帰分析を行なっ
次産業の合計の就業者比率の伸びは、東アジ
た結果である。これに対して、中国及びシン
アの国々より中国のほうが遅いことを示す結
ガポールと香港を除いた結果では、Hauseman
果である。
のspecification testの結果より変量効果モデル
Table 4は、東アジアの国々の第3次産業の
が棄却されるため、SBICの結果によって支持
就業者比率に関する回帰分析の結果である。
されるモデルは固定効果モデルとなる。個々
第3次産業の就業比率に関しては、中国を含
の国々の切片αは異なるものの回帰直線の傾
むか否かによって結果が異なり、さらにシン
きであるβは各国共通であると看做せる結果で
ガポールと香港を除くと結果が異なる、とい
ある。推計された値は約0.59で、一人当たり
う結果であった。Table 2の結果と同様に、中
G D Pの1%の増加が約0.59ポイント被説明変
国とシンガポール及び香港を除いた場合には、
数を増加させるという結果である。
Hausemanのspecification testの結果より変量
Ta b l e 3は中国の省市に関する結果である。
効果モデルが支持される、SBICの結果によっ
省と市を合わせて推計した結果と省のみを用
て支持されるモデルが固定効果モデルである
いて推計した結果はほぼ同じであり、市の結
ことから、変量効果モデルの結果を採用する。
果を含め、全てのケースにおいて固定効果モ
切片αの推計値は−4.67、傾きであるβの推計
デルが支持される結果となった。共通のβは
値は、ほぼ0.55である。固定効果の結果もほ
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Table 3 Results for Secondary and Tertiary Industries in China.
Table 4 Results for Tertiary Industry.
ぼ同じ結果である。第2次産業と第3次産業の
Ta b l e 5は中国の省市に関する結果である。
合計の就業者比率の結果である0.59と比較し
省と市を合わせて推計した結果と省のみを用
ても、少し小さいがほぼ同じ値の推計結果と
いて推計した結果はほぼ同じであり、これら
なっている。
ケースでは、Hausemanのspecification test の
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Table 5 Results for Tertiary Industry in China.
結果より変量効果モデルが支持される、SBIC
移動は早いが、第1次産業から第2次と第3次
の結果によって支持されるモデルが固定効果
産業への就業者の移動は遅いという、他の東
モデルであることから、変量効果モデルの結
アジアの国々とは異なった経済発展の経路を
果が採用される。また市の結果については、
たどっている可能性を示唆する結果であった。
Hausemanのspecification testの結果より変量
具体的にこの差がどれくらいの産業構造の相
効果モデルが支持されるが、SBICの結果は個
違となるのかについては次節で検討する。
別に回帰分析を行なった結果を支持しており、
市によって切片αと傾きβがそれぞれ異なって
4.
東アジアと中国の経済発展のパターンの
比較
いることを示唆する結果である。推計された
傾きβは、省市を合わせた結果では、約0.59、
回帰分析の結果は、中国と東アジアの国々
省のみでは、0.58、市の固定効果と変量効果
との経済発展の違いを示唆する結果であった
モデルでは0.62と、東アジアの国々の0.55よ
が、具体的にどれほど就業構造に相違が生じ
りも高い値となっている。言い換えれば、一
るのかについては、個々の国々で一人当たり
人当たりGDPの1%の増加に対して第3次産業
GDPの水準が異なり、単純に比較することは
の就業者比率の伸びは、東アジアの国々より
難しい。そこで、本研究では回帰分析の結果
中国の方が早いことを示す結果である 。
をもとに、一人当たりG D Pの水準と第2次産
以上の結果を総合的に検討すると、中国は
業及び第3次産業の比率の変化についてシミュ
東アジアの国々よりも第3次産業への就業者の
レートすることによって、東アジアの国々と
5
5 Rural地域における労働力の産業移動についてはShan-Ping(1990)の研究はあるが、その対象とする期間は本研究が対象
とする期間よりも古く、また海外との比較を行なっている分けではないので、直接的に本研究の結果について示唆を与え
るものではない。
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中国の省市の経済発展のパターンの違いを検
合わせた結果が変量効果モデルを支持してい
討する。
るため、
第2次産業と第3次産業の合計の就業者比率
については、東アジアの国々の結果について
は中国とシンガポール及び香港を除いた結果
とする。
が、固定効果モデルを支持しているため、便
以上のモデルをもとに各産業の就業比率を
宜的に変量効果モデルの切片を採用し
シミュレートした結果が、F i g u r e 4である。
F i g u r eによれば、例えば第1次産業の就業者
比率が 2 5%を切るのは、東アジアの国々で
とする。また中国の結果についても固定効果
は5,000米ドル超であるのに対して中国では
モデルが支持されているため、同様に変量効
8,000米ドル超までかかるという結果である。
果モデルの切片の推計値を用いて、省市を合
一方、第3次産業の就業比率の差は、東アジ
わせた結果から、
アの国々と中国ではそれほど大きな差となっ
て表れるわけではない。例えば第3次産業就業
者比率が50%を超える時点は、双方ともほぼ
とする。
5,000米ドルである、ただしその差は徐々に広
第3次産業の就業者比率については、東アジ
がって、中国では30,000米ドルで75%を超え
アの国々の結果については中国とシンガポー
ると予想されているのに対して、東アジアの
ル及び香港を除いた結果が、変量効果モデル
国々では、その水準ではまだ75%には達して
を支持しているため、
いない、という結果である 6。
とする。また中国の結果については、省市を
6 このような中国経済の経済発展のパターンは、Lin, Ca
iand Li.(1996)が示唆する、計画経済から市場経済へ
の移行による影響による可能性は否定できない。
Figure 4. Simulated Share of Primary, Secondary and Tiertiary Industrie.
─ 461 ─
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これらの結果は、中国の一人当たりGDPが
ターンを歩んでいることを示唆する結果を得
2003年時点で1,200米ドル、一番所得の高い
ただけであって、このような違いが何故生じ
上海市でも5,600米ドルであることを考えると、
ているのかといった原因について分析したわ
その予測値がどれ程の信頼性を持っているか
けではない。しかしながら、このようなパター
は疑問であるが、東アジアの国々と中国の経
ンの相違が発見されなければ、東アジアの国々
済発展のパターンの違いを際立たせて比較す
の経済は点のパターンが比較的類似したもの
るためにはこのようなシミュレーションも有
であるのに対して、中国の経済発展のパター
効であると考えられる。
ンが大きく異なっている可能性には気付かれ
なかった可能性が高い。このような点からも、
5. 結論
本研究は今後の経済発展のパターンの相違に
本研究では、ペティ=クラークの法則を手
関する一つの視点を与えたものであると考え
がかりに、東アジアと中国の経済発展のパター
られる。
ンについて比較検討した。特にペティ=クラー
今後の研究課題としては、本研究で用い
クの法則について、第2次産業と第3次産業の
た線形回帰分析では一人当たり G D P のみを
合計の就業者比率や、第3次産業の就業者比
説明変数として採用しているが、このほかの
率をロジット変換することによって対数変換
説明変数を追加してより精緻に経済発展のパ
された一人当たりGDPとの間に安定した線形
ターンを説明するモデルを構築することが考
の関係を発見したことは、この研究の大きな
えられる。本研究は、この問題に関するf i r s t
成果である。従来の研究では、単純に就業者
approachということで、このようなモデルの拡
比率を図示し検討していたに過ぎないが、こ
張は今後の研究で試みたい。また、先にも述
の様な線形の関係の発見によってeconometric
べたが、本研究では経済発展のパターンの違
m o d e lを用いたペティ=クラークの法則に関
いについてeconometric modelを用いて示すこ
する更なる実証分析が進んでいくことが期待
とは出来たが、その原因について究明した分
できよう。
けではない。この問題に関しても、その理論
また東アジアの国々と中国の省市のデータ
的な検討を含めて、今後の課題としたい。
の比較からは、線形回帰分析の結果によって、
中国は東アジアの国々よりも第3次産業への就
業者の移動は早いが、第1次産業から第2次と
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の東アジアの国々とは異なった経済発展の経
路をたどっている可能性を示唆する結果を得
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[3]
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線形の関係から導かれる結果であり、経済発
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もちろん本研究では、傾向として東アジア
の国々と中国の省市が異なった経済発展のパ
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−以下割愛−
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