浚渫土砂受入地における減容化工法の検討事例

【36】
全地連「技術フォーラム2011」京都
浚渫土砂受入地における減容化工法の検討事例
中央開発㈱
1. はじめに
○川口貴之、松本昭二郎、髙田誠
ができる。
航路浚渫や港湾整備に伴い発生する浚渫土砂の処理方
4. 護岸の嵩上げ高さの検討
法の一つとして,海洋投棄処分が挙げられる。しかし,
浚渫土砂の受入地は四方を護岸で囲まれており,その
近年は海洋環境への影響に配慮し,浚渫土砂を有効利用
形状は直立堤護岸(図-2)と傾斜堤護岸(図-3)の2種類で
することで,海洋投棄処分量を可能な限り削減すること
築堤されている。いずれの護岸工のエプロン計画高は,
が叫ばれている。本事例は,将来的に埠頭用地として利
埠頭用地としての計画高さ(DL+6.5m)に築堤されてい
用することが計画されている,浚渫土砂処分場の延命化
る。直立護岸については外的安定(円形すべり)および内
を目的とし,処分場に受入済みの浚渫土砂の減容化工法
的安定(壁体としての安定計算),傾斜堤護岸について
について検討を行ったものである。
は,土構造物であることから外的安定についてのみ嵩上
2. 処分場の概要
げの検討を実施した。
処分場は図-1に示すようにA,Bブロックの2ブロック
検討の結果,現況の築堤高より3m(DL+9.5m)までの嵩
に分けられており,その面積は計91.6haで埋立計画高は
上げ,または背面盛土が可能であることを明らかとし
DL+6.5mである。また,処分場の周囲は傾斜堤護岸,直
た。
立堤護岸の2種類で築堤されている。
図-2 直立堤護岸
図-1 検討位置平面図
3. 減容化の考え方
処分場に受入済みの土砂に対して,有効な減容化の手
段は2つ挙げられる。
(1) 受入地の護岸嵩上げによる受入容量の増加
図-3 傾斜堤護岸
埠頭用地としての計画高を考慮した浚渫土砂の沈下量
を踏まえ,処分場の外周護岸を可能な限り高くすること
で浚渫土砂の受入量を増加させる。直接的な浚渫土砂の
5. 浚渫土砂の減容化工法比較検討と自重圧密解析
減容化とは異なるが,浚渫土砂処分場の延命化という観
(1)減容化工法
点から有効な手段である。
(2) 浚渫土砂の圧密促進,沈下量増加による減容化
減容化の手段としては,既設護岸高の嵩上げと圧密促
進工法を併用する計画とした。また圧密促進による浚渫
以前に処分場で受け入れた浚渫土砂の圧密を促進さ
土砂の減容化工法は国土交通省の新技術情報提供システ
せ,再度浚渫土砂を受け入れることが出来れば,処分場
ム(New Technology Information System:NETIS)等を
の延命化,浚渫土砂受入土量の増加が可能となる。ただ
積極的に活用し,以下の組み合わせで工法を比較した。
し,受け入れた浚渫土砂が圧密や沈下量に対し無対策で
工法① PDF(フロート式プラスチックボードドレーン)工法 +
あれば,以降の浚渫土砂が受入可能となるまでに多大な
釜場排水工法
沈下時間を要し,浚渫土砂受入が工事の工程上困難な場
PDF 工法は浅水域や泥上に作業船を曳航し,PD(プ
合も想定される。このため受け入れた浚渫土砂に対し,
ラスチックボードドレーン)材の水中打設等によっ
圧密促進工法を施すことにより早期に次の浚渫土砂受入
て,初期段階における重機搬入の手間とコストを縮減
が可能となる。さらに沈下量を増加させる工法を施すこ
するものである。造成面が水没している状態で圧密を
とで,新たにより多くの浚渫土砂受入容量を確保する事
進行させることが可能である。PD 材を通して表層に
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排水された間隙水は,水平排水材を通して釜場から敷
各工法の検討結果は表-1のとおりである。浚渫土砂を
地外へ排水される。
減容化させることによる浚渫土砂受入可能量の優位性は
工法② 覆砂+PD 工法+真空圧密工法(気密シート式)
工法③,②,①の順位となった。
真空圧密工法は,載荷盛土による圧密促進の代わり
(2) 費用対効果(B/C)および総合評価
に真空ポンプで地盤内に負圧を生じさせることで,地
各工法の経済性については「港湾投資の評価に関する
中内の水分を PD 材および自然排水を通して表層に集
解説書」2)に基づき,浚渫土砂の海洋投棄に掛かる費用
めて排水する工法である。気密シート式の真空圧密工
(Benefit)と,護岸の嵩上げおよび減容化工に掛かる費
2
法は70kN/m 相当の荷重が載荷可能である。載荷盛土
用(Cost)より費用対効果を算出し,評価を行った。各工
の代替として真空圧密を利用するため,土工量の低
法の経済的優位性を比較すると,①,②,③の順位とな
減,工期の短縮を図れるとともに,盛土による周辺地
った。工法②・③は,減容化の効果として非常に高い
盤の側方流動や引きこみといった問題に対応すること
が,費用対効果がB/C=0.2<1.0と非常に経済性が劣る。
が可能である。ただし,気密シート式の真空圧密工法
よって減容化の優位性では劣るが,B/C=1.1>1.0となる
は,陸上施工となるため,表層の覆砂分(サンドマッ
工法①を最適案とした。
ト)の盛土が必要となり,覆砂層厚分の浚渫土砂受入
(3) 今後の展望
量が損失する。
浚渫土砂の発生量は事業計画において年次毎に計画さ
工法③ PDF 工法+真空圧密工法(気密キャップ式)
れており,本検討結果に基づき,当初の浚渫土砂投入計
気密キャップ式の真空圧密工法の原理は気密シート
画の見直しを行った。投入計画通りに事業を進めるに
式と同様であるが,泥上・水上施工が可能であるた
は,減容化の効果が,検討結果通りに進行することが重
め,PDF 工法による PD 材の打設が可能で,覆砂の必
要である。よって今後,浚渫土砂の減容化による沈下に
2
要がない。ただし,載荷重は50kN/m 相当で気密シー
ついて動態観測を実施し,検討結果との比較,必要に応
ト式より小さい。
じた見直しが望まれる。
7. おわりに
(2) 自重圧密解析
処分場に投入した浚渫土砂は,投入直後から長時間に
近年,建設に関わる国の予算は年々減少の一途を辿る
渡り,自身の荷重によって圧密沈下が進行する,いわゆ
傾向にある中,平成23年3月に発生した東日本大震災に
る自重圧密が生じる。この場合,通常の圧密検討時に用
よる経済的打撃は大きく,他の建設等に裂かれる予算は
いられる Terzaghi の圧密理論による圧密沈下解析は,
さらに削減されることが予想される。そのような背景の
土の性質変化(単位体積重量γ,透水係数 k,体積圧縮
もと,本検討のような,既存施設の延命化に向けた取り
係数 mv など)を考慮しない。そのため,自重圧密のよ
組みは,より一層重要視されていくものと考える。
うな刻々と性質が変化する浚渫土砂に適用出来ない。自
重圧密粘土の圧密解析手法としては,CONAN1) と呼ばれ
《引用・参考文献》
る1次元差分法による数値解析手法が著名である。ただ
1)今井五郎・山内裕元・今泉正次・緒方一成:一次元圧
し,この解析プログラムは研究過程のソフトであるた
密問題の新しい数値解析法による2,3の検討,
め,市場には出回っていない。そこで,本検討では同じ
土質工学研究発表会講演集2-1号
理論式を用いた解析プログラムを作成し,CONAN と同等
2)港湾投資の評価に関する研究委員会編:10章
の解析結果が得られる事を確認の上,圧密検討を行うこ
海面処分場プロジェクト
第24回
p395~398,1989.6
廃棄物
p2-10-1~2-10-27,2004.10
ととした。
6. 検討結果
(1) 減容化量検討結果
表-1 減容化工法の比較検討結果
工法
①
PDF
+
釜場排水
②
PD
+
真空圧密
(気密シート式)
③
PDF
+
真空圧密
(気密キャップ式)
減容化による
堤防 受入可能土
高さ
量の増分
(DL・m)
(千m3)
9.50
概算工事費
受入可能
土量計
3
(千m )
3
m 単価
3
(円/m )
減容化による
追加受入量 全体工事費
(千円)
のm3単価
(円/m3)
費用対
効果
B/C
減容化量
優位性
順位
経済的
優位性
順位
総合順位
4,413
15,098
313
807
2,986,086
1.1
3
1
1
5,523
16,208
1,324
3,260
13,603,564
0.2
2
2
2
6,529
17,214
1,458
3,458
16,874,994
0.2
1
3
3