意欲と自信をもって生活することができる 子どもを育てる生活科学習

平 成21年度
研 究 紀 要
(第821号)
G 12-01
意欲と自信をもって生活することができる
子どもを育てる生活科学習
-自分のよさや可能性に気付く表現活動の工夫を通して-
本 研究 は, 意 欲と 自 信を もっ て 生活 でき る 子ど も を育 てる こ とを 目指
し , 表現 活動 を 工夫 す るこ とに よ って 自分 の よさ や 可能 性に 気 付か せる と
い う 視点 から 取 り組 ん だ。
他 者と のか か わり を 重視 し, 快 い応 答関 係 の中 で ,し たこ と ,感 じた こ
と , 考え たこ と を表 現 し, 肯定 的 な評 価を 得 られ る よう 活動 を 工夫 して い
っ た 。そ の結 果 ,子 ど もた ちは 自 分の 成長 や 気付 き の価 値に 気 付き ,自 分
へ の 自信 ,そ の 後の 活 動へ の意 欲 を高 める こ とが で きた 。
福岡市教育センター
幼 稚 園 教 育 ,生 活 科 研 究 室
⇔
1行あけ
◆ ◆ ◆◆ ◆◆ ◆ ◆◆ ◆◆ ◆ ◆目 ◆ ◆◆ ◆◆ ◆ ◆◆ ◆◆ ◆ ◆◆ ◆ 次
◆ ◆ 第Ⅰ 章
研 究の 基本 的 な考 え 方
◆ ◆ ◆1
主 題 設定 の理 由 ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ・・・・・・・・・・‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ 幼 ,生
1
2
主 題 につ いて の 基本 的 な考 え方 ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ 幼 ,生
1
(1 ) 主題 の意 味
(2 ) 副主 題の 意 味
3
研究 の 目標 ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥・・・・・・・・・・‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥・・・・‥‥ ‥ 幼, 生
3
4
研究 の 仮説 ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥・・・・・・・・・・‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ・・・・‥ 幼, 生
3
5
研究 の 内容 と 方法 ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ・・・・・・・・・・‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥ 幼, 生
3
第Ⅱ 章
1
2
第Ⅲ 章
研 究の 実際 と その 考 察
2 年 生「 ぐん ぐ んそ だ て
~冬 野 菜を 自 分の 力で 育 てよ う」 ‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ 幼 ,生
4
2 年 生「 生き も の大 す き」 ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ 幼 ,生
8
研 究の まと め ・・・・・・・・・・‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ ‥ ‥‥ ‥‥ 幼 ,生 1 4
引 用 ・参 考文 献
ことができるようにする。」が新設された。ま
第Ⅰ章
研究の基本的な考え方
た,各学年の目標(1)では「地域のよさに気付き」,
(2)では「自然のすばらしさに気付き」,(3)で
1
主題設定の理由
は「自分のよさや可能性に気付き」という文言が
内閣府が4~6年生を対象に行った「低年齢
加えられ,学習活動において一人一人の児童に
少年の生活と意識に関する意識調査」(平成1
育てようとする気付きが明確になった。さらに,
9年2月)によると,「自分に自信があるか」
児童が表現する過程の中で,考える力を身に付
という設問に,「あてはまる,まああてはま
けていくことができるよう,(4)では,「気付いた
る」と答えた児童は,平成11年は56.4%であっ
ことや楽しかったことなどについて,表現し,
たのに対し,平成19年は47.4%と大幅に減少し
考えることができるようにする」と明示され,
ており,児童の自信が失われつつあることがわ
「考える」ことが強調された。
かる。生活科学習指導要領には,学習上の自立,
児童の実態調査を,研究員が所属するN校と
生活上の自立,そして,自分のよさや可能性に
H校の2校で行った結果,N校は,自分のこと
気付き,意欲や自信をもつことによって,現在
を好きでない児童が50%いた。H校では,自分
および将来における自分自身の在り方に夢や希
のことが好きな児童が多かったが,その気持ち
望をもち,前向きに生活していくことができる
をさらに引き上げていくことができると考えた。
という精神的な自立の3つの意味での自立への
また,「上手にできることや得意なことがあり
基礎を養うことが教科目標として示されている。
ますか」という設問については,N校は23%,H
このような自立の基礎は中,高学年になってか
校は16%の児童が,「いいえ,どちらかというと
らの,自信をもった,豊かで前向きな生活にも
いいえ」の項目に回答し,自分に自信をもつこ
かかわってくるのではないかと考えると,この
とができていない状態であった。さらに,「自
問題に対する生活科学習の果たす役割は大きい。
分の考えや意見をみんなに発表することは好き
生活科の現状については,平成20年1月の中
ですか。」という項目では,N校で46%,H校
央教育審議会答申で,次のような課題が挙げら
で16%の児童が,「いいえ,どちらかというと
れている。「①学習活動が体験だけで終わって
いいえ」の項目に回答し,人前で発表すること
おり,活動や体験を通して得られた気付きを質
を好んでいないことがわかった。
的に高める指導が十分に行われていない。②表
このようなことから,これまでの生活科の学
現の出来映えのみに目がいき,思考と表現の一
習などでは,児童の意欲や自信を高めることに
体化という低学年の特質を生かした指導が行わ
焦点を当てた指導が十分に行われていなかった
れていない。③児童の知的好奇心を高め,科学
のではないかと考えた。目標(3)に,「自分の
的な見方・考え方の基礎を養うための指導の充
よさや可能性に気付き、意欲と自信をもって生
実を図る必要がある。④生命の尊さや自然事象
活することができるようにする」ことが示され
について体験的に学習することを重視する。」
ていように,生活科学習を見直す上で,意欲や
である。
自信を高めることは大切である。本研究室では,
これらの課題を受けて,今回の学習指導要領
「自分のよさや可能性」は,言葉などによる意思
の改訂では,第1学年及び第2学年の共通目標
の疎通の中で見えてくると考えた。そこで,主
の中に,自分自身に関することを一層重視する
題及び副主題を,「意欲と自信をもって生活で
ため,目標(3)「身近な人々,社会及び自然との
きる子どもを育てる生活科学習―自分のよさや
かかわりを深めることを通して,自分のよさや
可能性に気付く表現活動の工夫を通して―」と
可能性に気付き,意欲と自信をもって生活する
設定し,言葉以外の多様な表現活動も取り入れ
幼,生 - 1
ながら,さらに子どもたちの意欲や自信を高め
子どもたちが活動や体験の中で身近なひ
ていく生活科学習のあり方を探っていく。
と,もの,ことに働きかけるとそれらが働
き返してくる。そこに双方向性のあるかか
2
主題についての基本的な考え方
わりが生まれる。自分のよさや可能性に気
(1) 主題の意味
付くためには,このかかわりが重要である。
「意欲と自信をもって生活できる子ども」
自分と対象とのかかわりを深めていくこ
(ア) 「意欲と自信」
とで対象への気付きが生じる。継続的に,
意欲とは,進んで何かをしようとする心
何度も繰り返しかかわることで,その気付
の働きである。自信とは,自分で自分の能
きの質は高まり,子どもたちは働きかける
力や価値を信じることである。意欲や自信
対象への気付きだけではなく,そこに映し
が高まることで,経験のないことにも挑戦
出される自分自身の可能性にも気付くこと
していこうとする気持ちが生まれる。
ができるようにし,それが自分のよさであ
活動や体験を行い,その中での自分の取
り組みや気付きに対して他者から評価して
ると自覚させる必要がある。
(イ) 「自分のよさや可能性に気付く表現活動の
もらうことで,子どもたちはその価値に気
工夫」
付く。さらに,その評価が肯定的なもので
表現活動を行うことで,自分自身に気付
あれば,自分を認めてもらえたことで,意
き,自分のよさや可能性を自覚できると考
欲と自信が高まっていく。つまり,意欲や
えた。そこで,次のような表現活動の工夫
自信は,他者とのかかわりの中で高まって
を行う。
いくものである。
まず,自分の活動を振り返ることができ
子どもたちの意欲と自信が高まるように
るよう,子どもの表現の中に「見つける」
他者とのかかわりを重視し,その中で肯定
「比べる」「たとえる」といった内容が含
的な評価を得られるよう活動を工夫する。
まれるようにする。特に「たとえる」表現
(イ) 「意欲と自信をもって生活できる子ども」
が重要であると考える。発達段階を考える
意欲と自信をもって生活できる子どもと
と,言葉や文での表現は,子どもたちが五
は,認知面で豊かなだけではなく情意面で
感を通してとらえたものを素直に出せるよ
も豊かな姿である。科学的な見方・考え方
うにすることが大切である。下記の表にも
ができることに加え,自分が社会の一員で
あるように,メタファ,オノマトペとよば
あることを自覚し,自然を大切に思い,命
れる子どもたち発せられる言葉がある。
を尊い,いとおしいと感じる心をもった子
メタファ・・・比喩の表現
どもである。
「わたがしみたいな雲」
(2) 副主題の意味
「土は,ミニトマトのお布団」
「自分のよさや可能性に気付く表現活動の
工夫」
オノマトペ・・・擬声語,擬音語,擬態語
「べたべたしているね。」
(ア) 「自分のよさや可能性に気付く」
「さらさらの土だね。」
自分のよさとは,子どもが本来もってい
これらは,これまでの体験と関連づける
る資質や能力のである。可能性とは,こう
ことで生まれてくるイメージをもとにした
したら自分もできるはずだという見通しを
言葉である。そのため,その子にとってよ
もつことである。これらを自覚することが
り確かな価値のある気付きとなる。このよ
意欲や自信の高まりにつながる。
うな言葉が引き出されるよう教師が働きか
幼,生 - 2
けたり,言葉かけをしたりする必要がある。
3
研究の目標
次に,表現したことを子ども同士で価値
意欲と自信をもって生活できる子どもを育て
付け合えるよう交流の場を仕組んでいく。
る生活科学習の在り方を,自分のよさや可能性
子どもたちは活動の中でさまざまなこと
に気付く表現活動の工夫を通して明らかにする。
に気付く。気付きの内容について,3つに
分けた。
4
研究の仮説
①
したこと,みたこと
快い応答関係の中で,したこと,感じたこと,
②
感じたこと
考えたことなどを素直に表現し,肯定的評価を
③
考えたこと,工夫したこと
し合っていく生活科学習を展開していけば,意
この中でも「考えたこと,工夫したこ
欲と自信をもつことができるであろう。
と」を表現することを重視した。
子どもたちが考えたことや工夫したこと
を友だちと互いに伝え合い,交流すること
5
研究の内容と方法
(1) 意欲や自信をもつための活動の在り方
で,一人一人の気付きをみんなで共有でき
○
るようになる。それによって無自覚であっ
動
たことに気付くことができたり,自分の気
○
付きのよさをより一層自覚できたりするよ
うになる。また,関連付けて考えたり,評
他者とのかかわりを取り入れた学習活
肯定的評価を得られるような学習活動
の工夫
(2) 自分のよさや可能性に気付く表現活動の
価し合ったりすることも可能にし,集団と
在り方
しての学習の質を高める。交流では,相手
○
を思いやった気持ちのよい応答や肯定的な
子どもの特性に合った,多様な表現活
動の工夫
評価がし合えるようなクラスのあたたかい
○
雰囲気作りは欠かすことができない。快い
見つける,比べる,たとえるなどの学
習活動の工夫
応答関係がある上での交流の場にしなけれ
○
ばならない。
互いに伝え合い交流して気付きを共有
し,質的に高めていく表現活動の工夫
最後に,子どもの特性に合うよう,多様
○
な表現活動をすることである。
相手意識,目的意識をもった表現活動
の工夫
子どもによって,感性の面で秀でている
子,知識が豊富な子,思考力が高い子など
6
構想図
意 欲 と 自 信
様々である。話をする,絵をかく,文を書
くなど,それぞれの子どもにあった表現活
自 発 性 ・ 能 動 性
動にしていくことで一人一人の気付き,全
気 付 き の 質 の 高 ま り
体の気付きがさらに高まっていくと考える。
自分のよさや可能性への気付き
また,「だれに」「何を」伝えたいのかとい
れるよう教師の支援をしていく。
達成感
継続的な
活動や体験
行うことで,伝えたいことを確実に伝えら
特性を生かした
表現活動
う相手意識,目的意識をもって表現活動を
共感 ・ 共鳴 ・ 共有
以上のような表現活動の工夫を行うこと
○肯定的評価
○グループ構成
で,子どもたちが自分のよさ,可能性を自
覚できるようにしていく。
快い応答関係
自分の存在への意識
幼,生 - 3
○実感を伴った体験
○見つける,比べる,
たとえる
(オノマトペ,メタファ)
○身近な自然や人
(イ) 同じ野菜の友だち同士での交流
第Ⅱ章
1
の
研究の実際とその考察
野菜を育てる場所は,同じクラスで同じ
2年生「ぐんぐんそだて~冬野菜を自分
野菜の種類の子ども同士がすぐ隣になるよ
力で育てよう」
うにした。そうすることで自然と友だち同
2年生の子どもは,1学期に夏野菜を育てる
士の交流が生まれ,共に考え合っている姿
学習を行ったことで,野菜作りに対する関心が
が見られた。大根を育てていた児童が「ハ
高まっている。本教材は,冬野菜を育てること
ートの葉っぱ(子葉)ばかり虫から食べられ
を通して,野菜の生長の変化や生命の尊さに気
ている。」ということに気付き「本当だ。な
付くとともに,野菜を大きく育て上げることが
んでだろう。おいしいのかな。」と,周りで
できた自分自身の成長にも気付くことができる
それを聞いていた児童が実際に間引きした
教材である。また,野菜作りについて他者とか
大根の葉を食べてみて子葉と本葉は味が違
かわることで,自分への自信をさらに高めてい
うことを見つけた。このように,子どもが
けると考えた。
つぶやいた一言に周りが反応し,無自覚だ
(1) 意欲や自信をもつための活動
った気付きの価値に気付くことができた。
子どもたちの意欲と自信が高まるように,
イ
他者とのかかわりを重視し,その中で肯定的
な評価を得られるよう活動を工夫した。
ア
肯定的評価を得られるような学習活動の
工夫
(ア) 野菜の健康観察
他者とのかかわりを取り入れた学習活動
毎朝,畑に行って実際に野菜を見て,そ
(ア) 野菜の先生
の様子や気付いたことなどを記録する「野
1学期の夏野菜作りでは校区にある採種
菜の健康観察」という時間を設けた。毎日
場の方に来ていただき「野菜の先生」と呼
野菜を見ることで小さな変化にも気付くこ
んで育て方を教わった。その時に得た水や
とができ,少しずつ大きくなっていく自分
りの仕方やタイミング,害虫退治の仕方な
の野菜に対する愛着も強まった。また,記
どの知識や経験は冬野菜作りでも活用でき
録を見ることで教師が子どもたちの気付き
た。この野菜の先生に冬野菜の種をまく際
を把握でき,一人の気付きをクラスで紹介
にも関わっていただき,収穫の時期やどの
することで,気付きが全体に広がるととも
くらい大きく育つかなどを教えてもらうこ
に,まわりから評価され,子どもの自信を
とで,がんばって育てたいという意欲が高
高めることができた。
まるようにした。その後も何度か野菜を見
シュンギクを育てていたA児は,自分の
に来ていただき,その度に子どもたちは自
野菜の葉がお店のものと違い,丸い形であ
分の野菜が大きくなったことをうれしそう
ることを不思議に思っていた。しかし,毎
に報告していた。
日観察する中で葉が少しずつ変わっていく
資料-1
野菜の先生と一緒に種まきをする2年生
のに気付いた。A児は健康観察中で「今日
見たら真ん中の葉っぱがぎざぎざしていま
11月の終わりく
らいには収穫でき
るよ。毎日水やり
をがんばってね。
した。もう一個は丸いです。」と書き,次の
日には「真ん中から3個目の葉っぱが出て
いたけど,ぎざぎざしていませんでした。」
とオノマトペで葉の変化を表現していた。
がんばって自分
の力で育てます。
A児は,シュンギクの葉は初めは丸いがだ
んだんとがっていくことに気付いた。
幼,生 - 4
(イ) 野菜の交流会
(2) 自分のよさや可能性に気付く表現活動
収穫の前に,野菜作りで気付いたことを
表現活動を行うことで自分の気付きの価
伝え合う,交流会を行った。発表の後に感
値や成長した自分自身に気付き,自分のよ
想を言う時間をつくり,肯定的な感想が出
さや可能性を自覚できると考えた。
るよう「いいところを言おう,まねしたい
ア
ことを言おう」などの視点を提示した。
見つける,比べる,たとえるなどの学習
活動の工夫
ホウレンソウを育てていたB児は発表す
(ア) 継続的な栽培活動
ることが好きかというアンケートに「苦手
9月に畑の土作りをし,種から野菜を育
だから嫌い」と答えていた。そこで,教室
て,継続的に世話をしていくことで,野菜
には野菜の絵本を準備し,B児が交流会で
の生長の変化,生命の不思議など様々なこ
発表したくなる事柄が見つかるよう支援し
とに気付くことができるようにした。1学
た。その結果B児は野菜の本で自ら見つけ
期の夏野菜作りも想起させ,夏野菜と冬野
た,ホウレンソウにはレバー・卵・牛乳と
菜を比べ,その違いや共通することにも目
同じ栄養があること,葉の形には数種類あ
を向けるよう助言した。教室には虫眼鏡を
って自分のホウレンソウの葉の形はヒコー
準備することで,野菜をより詳しく観察で
キ型とメタファを使って表現し堂々と発表
きるようにした。「目で見ても分からなか
した。友だちからは驚きの声があがり,交
ったけど,小さなとげがある。虫から身を
流会後の感想には「ちゃんと言えたのでよ
守るためかも知れない。」など,さらに多く
かったです。お友だちが『おお』って言っ
のことに気付いていった。また,野菜の絵
たのでうれしかったです。」と書いていた。
本や育て方の本を何冊か準備していつでも
野菜のことを伝えることができたか,友だ
見られるようにしておき,本に書かれてい
ちに感想を言えたかという自己評価の項目
ることと自分の野菜とを比べられるように
にも一番よい評価をつけており,交流会を
した。絵本には,観察では見ることのでき
通して自信が高まったことが分かる。
ない土の中の様子などが描かれており,大
交流会の終わりには実際に畑に行き,大
根・カブを育てている子どもは自分の野菜
きく育った野菜を友だち同士で見合った。
はどこまで育っているかを想像するように
「すごく大きいね。発表で言っていた通り
なり,期待感を高めた。育て方の本は文は
だね。」という友だちの肯定的な言葉に子ど
難しく読めないが,写真が多くあるため興
もたちはさらに自分の世話に自信をもち,
味をもって見ることができ,知識や気付き
これからもっと野菜を大きくしていきたい
をさらに増やした。子どもの気付きが増え
という意欲にもつながった。
ていくと,それは野菜の健康観察の中の文
資料-2 大きく育った野菜を見せ合う2年生
章でも表れるようになった。
資料-3
野菜の本を見ている子ども
花は咲かないと
思ったら,小さい
うす紫色の花が咲
くんだ。でも,花
に栄養をとられて
葉っぱはあんまり
おいしくなくなる
と思う。
幼,生 - 5
(イ) 小グループでの活動
イ
互いに伝え合い交流して気付きを共有し,
同じ野菜を育てる人数が多くなりすぎな
いよう,偏りなく子どもたちが興味をもち
質的に高めていく表現活動の工夫
(ア) 相手意識,目的意識をもった表現
そうな6種類の野菜を提示し,その中から
野菜の交流会に向けて,何を伝えたいの
育てたい野菜を選ばせるようにした。多く
か,伝える内容を子ども一人一人と教師と
の種類を育てることで他の野菜と比べ,共
で相談して決めた。その際,毎日記録して
通点・相違点に気付くことができた。また,
きた野菜の健康観察の中に書かれているそ
小グループにすることで同じ野菜の友だち
の子だけのとっておきの自慢に気付かせ,
とも比べやすくなり「ぼくの野菜はみんな
それを発表の中に入れるよう助言した。ま
のより大きい。」「わたしのはあまり虫に
た,それを違う野菜を育てている友だちに
食べられていないから強い野菜だ。」「た
もわかりやすく伝えるためには,どのよう
くさん食べられているからおいしいのかも
な表現方法がいいのか,どのような言い方
しれない。」など,それぞれ自分の野菜の特
をすればいいのかなどもよく考えさせ,交
徴に気付き,自分の野菜のよさを見つけて
流会に臨ませるようにした。
いった。交流会でも1つのグループの人数
(イ) 交流会でのグループ構成
は5人を越えない小グループにした。
交流会のグループは,違う野菜を育てて
C児はクラス全体での発表の場ではあま
いる子どもたちが集まるようにした。同質
り前に出られないところがあった。事前に
グループでは友だちの発表に対して「ああ,
とったアンケートでは「うまく発表できな
自分も同じだ。」と,気付きに対して共感
い自分があまり好きではない。」「見られ
し合ったり「自分が分からなかったことを
るのが嫌いだから発表は好きではない。」
教えてくれた。」と,知識を補充し合った
と答えていた。しかし,交流会では少人数
りすることができる。しかし,それは日々
の中で生き生きと発表したり,友だちに感
の野菜の世話の中で自然と生まれていた。
想を言ったりする姿がみられた。C児は害
そのため,交流会では発表することで認め
虫を見つけるのがとても上手で「虫がいる
られたり,評価されたりすることが期待で
ところには黒い小さい虫のうんちがある。」
きる異質グループで構成した。子どもたち
など,見つけるコツをみんなに伝えた。学
は交流会を通して,伝える喜び,わかって
習の終わりに書いた自己評価でも,一番よ
もらえる喜び,認められる喜びを得ること
い評価をつけることができた。少人数にす
ができ,自分のよさ,可能性に気付いてい
ることで,多くの子が自信をもって発表し,
った。
自分のよさに気付くことができた。
ウ
子どもの特性に合った,多様な表現活動
の工夫
資料-4 生き生きと発言するC児
(ア) 多様な表現活動
野菜作りの中で自分を振り返り,自らの
成長や可能性に気付かせていくために,野
菜の生長や自分がした世話について記録し
たり,発表を行ったりした。その際,話す
のが上手な子,絵が得意な子,発想がおも
しろい子など,それぞれのよさが表出でき
るよう表現方法はその子なりのものを認め
幼,生 - 6
た。多様な表現方法のひとつは,先にも述
ぶやきに子ども同士が反応し,気付きを自
べた毎日の野菜の健康観察である。その他
覚したり,その価値に気付いたりすること
にも,野菜を選んだ理由や収穫後の計画に
ができた。違う野菜の友達との交流会では,
ついて口頭での発表,絵と文での観察記録,
これまでの世話,それによって大きくなっ
野菜の成長を野菜の視点で描く絵本作りな
た野菜を改めて振り返り,自分の力でここ
どがある。
まで大きくできたことに気付き,野菜の成
(イ) 表現方法を自分で選ぶ
長と共に自分の成長を実感できた。さらに,
野菜の交流会では,自分が伝えたいこと
そこで肯定的な評価を得られるよう感想の
をどのような形で表現するかを子ども一人
視点を与えることで,自信を一層高めるこ
一人に選ばせるようにした。そうすること
とができた。
で,自分の自信がもてる方法で表現できる
イ
自分のよさや可能性に気付く表現活動
ため,発想豊かに,意欲的に交流会に臨む
栽培活動を1学期から2学期にかけて継
ことができると考えた。1学期の校区探検
続的に計画することで,野菜の生長の変化
の発表会で紙芝居やペープサート,新聞,絵
や命の尊さに気付くとともに,大きく育っ
本などいくつかの方法を行っていたため,
た野菜に映し出される自分の成長や可能性
子どもたちはそれを想起し,表現方法を選
にも気付くことができた。毎日観察する時
んだ。交流会では発表したことの内容だけ
間を設けることで,野菜に愛着をもち,子
ではなく,発表の方法についても肯定的な
どもたちの自分の気付き,財産をみんなに
感想を得ることができ,さらに自信を強め
も伝えたいという思いをふくらませた。交
た。
流会ではそのふくらんだ思いを表現するこ
とで,共感してもらえる喜びを得たり,賞
資料-5 絵本を作り,読み聞かせをした子ども
賛を得たりすることができた。表現方法も
その子なりのよさが表出するよう自分がし
最初はとっても
小さな種だったん
だよ。でも,ぐん
ぐん大きくなって
いったよ。
たいと思うものを認めることで,自信をも
って発表に臨むことができた。自分の選ん
だ表現を認めてもらうことで,子どもたち
は自分のよさを見つけることができた。交
(3) 考察
流会を通して,意欲と自信はさらに高まっ
ア
た。
意欲や自信をもつための活動
冬野菜作りでは,教師以外に野菜の先生,
これらのことから,表現活動を通してよ
同じ野菜を育てた友だち,違う野菜を育て
さや可能性に気付かせることは,子どもた
た友だちとのかかわりをもつことができた。
ちの自信や意欲を高める上で有効であった
野菜の先生とのかかわりでは,野菜作りの
と言える。継続的な栽培活動の中,野菜へ
見通しをもち,大きな野菜にしたいという
の愛着,様々な気付きから子ども達の思い
意欲が高まるとともに,野菜の育ち方を褒
はふくらんでいった。それを表現する相手
めてもらうことで「専門家にも認めてもら
としては,発表したことに対して大きく反
えた」という,対教師では得られない大き
応し,驚きや感動の表情を見せてくれるで
な自信を得られるようにした。同じ野菜の
あろう異質グループでの発表の方が同質グ
友だちとのかかわりでは毎日野菜を観察し,
ループよりも自信や意欲をもたせる上で有
友達同士が見合えるようにすることで,つ
効であった。
幼,生 - 7
わかりやすく教えてくれた。また,自分の
2
2年生「生きもの大すき」
経験を話したり,実際にカマキリの卵を持
2年生の児童は,一学期に川遊びを経験し,
って来て見せてくれたりしたことで,2年
水辺の生き物との出会いに感動し,育ててみた
生の子どもたちは興味をもって聞いていた。
いという思いを抱いている。また,通学路で見
6年生から質問に答えてもらったり,知ら
つけた生き物や3年生からもらったヤゴの成長
なかったことを教えてもらったり,「わか
に興味をもち,クラスで育てている生き物とし
らないことがあったらいつでも聞いて
て世話をしながらかかわってきている。本教材
ね。」という言葉をかけてもらったりした
は,子どもたち一人一人が自分の生き物とかか
ことで,子どもたちは,これからの飼育へ
わり,飼育していくものである。まわりの友達
の意欲を高めていくことができた。
と積極的にかかわって感じたこと,考えたこと
資料―6
6年生に質問する2年生
などを表現し,生き物の立場に立って継続的に
そのままでいいよ。
飼育していくことで,自分のよさや可能性に気
付き,生活や活動への意欲と自信ををもつこと
ができるのではないかと考えた。
カマキリがふたの
ところに卵を産ん
だけど、どうした
らいいですか。
(1) 意欲や自信をもつための活動
子どもたちの意欲と自信が高まるように,
他者とのかかわりを重視し,その中で肯定的
な評価を得られるよう活動を工夫した。
ア
6年生から,「コオロギを飼っていたと
他者とのかかわりを取り入れた学習活動
き,鳴いている様子を下から懐中電灯で照
(ア) 6年生とのかかわり
らして見たことがあります。」ということ
学習の中で他学年とかかわることで,子
を聞いた子どもは,早速自分のコオロギを
どもたちの学習効果は高まる。2年生の子
持ち帰り,夜に鳴く様子を観察してきてい
どもたちにとって,あこがれの存在である
た。「昨日,お母さんと一緒に懐中電灯で照
6年生とかかわり,教えてもらったり認め
らしてコオロギが鳴いているのを見たよ。
てもらったりすることは,子どもの意欲や
本当に羽をこすり合わせてた。お父さんが
自信を高める上で有効であると考えた。そ
ビデオに撮ってくれたよ。」とうれしそうに
こで,生き物に詳しい6年生児童数名に,
話していた子どもの姿からも,生き物の成
あらかじめ図鑑を渡し,それぞれの生き物
長や変化を楽しみにしながら飼育しようと
の育て方や経験などを話してもらえるよう
する意欲の高まりが感じられた。
お願いしておいた。2年生の子どもたちが
(イ) 同じ生き物グループでの活動
生き物を捕まえ,それぞれに飼い方を調べ
同じ生き物を育てている友達同士で,観
て活動し始めた頃,自分の飼育の仕方は本
察,交流などの活動をさせることで,飼育方
当に正しいのか,たまごはどうしたらいい
法のよさなどを伝え合い,認め合ったり真
のかという疑問が生まれ,「上級生から教
似し合ったりして,飼育活動への意欲や自
えてもらいたい。」という声もあがってき
信を高めていくことができるようにした。
た。そこで,2年生の子どもたちに、6年
「えさをあげた瞬間に食べていました。」
生から生き物の飼育の仕方について話して
と観察カードに書いていたA児。A児から
もらう交流の時間を設けた。事前に図鑑を
新鮮なりんごをもらって,自分の育ててい
渡しておいたことで,6年生は,2年生に
る生き物にあげたB児は,「おいしそうに
幼,生 - 8
食べていました。」と感想に書いていた。
ったことからもわかる。「虫は嫌い。触れ
同じ生き物を育てている友達に,自分の生
ない。」といっていた女子も,「明日,お
き物の様子を伝えながら一緒に観察するこ
父さんに虫とりに連れて行ってもらう。」
とで,周りの子どもたちはそのよさに気付
とニコニコしながら話すほど,生き物への
き,真似するようになった。真似されるこ
関心は高まっていった。
とは自信となり,A児の「これからもバッ
(エ) 来年の2年生とのつながり
タを育てて卵を産ませてあげたい。」とい
前にも述べたように,本校は,校内で生き
う感想にもあるように,その後の飼育活動
物を探すことが難しいという実態がある。
への意欲を高めていくきっかけとなった
子どもたちの中にも,生き物がなかなか見
(ウ) 家族とのかかわり
つけられず,さびしい思いをしている子ど
本校は,校内で生き物をさがすことが難
ももいた。そこで,人とのつながりや命の
しいため,近くの公園に生き物さがしに出
つながりを意識させるために,来年の2年
かけた。しかし,時間が限られていたこと
生の立場に立ち、考えさせた。来年の2年
もあり,子どもたちが満足するほどの生き
生が,同じような学習をするとき,学校の
物を捕まえることはできなかった。単元を
中に生き物がたくさんいたらどんな気持ち
通して,休日に子どもたちがそれぞれの生
になるかなと問いかけると、「うれしい」
き物を持ち帰って世話をすることで,家族
「楽しい」などの言葉が返ってきた。この
とのいろいろな会話が生まれることを期待
ように来年の2年生とのつながりを意識さ
した。また,学習に関心の高い保護者が多
せることで,ただ生き物を育てるだけでな
いことなどから,児童の意欲や自信を高め
く,卵を産ませて大事に育て,来年たまご
るために,本単元での保護者の協力も家庭
からかえったものを自然に帰してあげたい
に呼びかけた。すると,早速数人の子ども
という願い等,活動の方向性を意識するこ
たちが,休日に虫さがしに連れて行っても
とができた。
らい,たくさんの生き物を捕まえてきてい
た。家族が虫取りに連れて行ってくれたこ
イ
とは,この学習での児童の活動や,児童の
思いを肯定的に評価することで生まれた行
肯定的評価を得られるような学習活動の
工夫
(ア) 生き物がもっと喜ぶ世話の交流活動
動であると考える。また,そうして捕まえ
友達からの肯定的評価を得るために,良
た生き物を見せたり話したりすることで,
いところを認めてもらったり,アドバイス
周りの子どもたちから,「大きいね。よく
をしたりしながら世話の仕方を交流できる
跳ねるね。」「どこで捕まえたの?」など
ような時間をもった。友達がどのような世
と次の活動につながる肯定的評価を受ける
話をしてきたかがわかるように,まず,生
ことができた。たくさんの友達から生き物
き物の気持ちになって書いた手紙を二人組
のことを認められることは,生き物をつか
で読み合った。そして,手紙には書けなか
まえてきた子どもにとっての自信となり,
ったことを伝え合ったり,質問したりして,
これからも大切に育てようという意欲へと
互いの世話の良さを認め合いながら,より
つながっていた。また,このようなやりと
よい世話ができるようにした。
りを繰り返す中で,まわりの子どもの意欲
B児は,「得意なことがありますか。」と
も高めていった。そのことは,休日に生き
いうアンケートに,「いいえ」と答えてお
物さがしに出かける子どもたちが増えてい
り,自分にあまり自信をもつことができて
幼,生 - 9
いなかった。しかし,交流会の感想には,
よく食べる。」というふうに,新しいこと
「茶色のえさ立てみたいなのがいいねと言
に気付いていった。また,「バッタが首を
われたことがうれしかった。」と書いてい
曲げて,おいしそうにえさを食べていた
る。また,B児の交流相手の餌を見て,餌
よ。」「コオロギが,わらいながら食べて
の種類やあげ方を変えていこうとしたり,
いたよ。」「いつも餌をあげているけど,
コオロギを見て,自分も大きなコオロギを
全然驚かないから,僕に慣れているのか
捕まえて大事に育て,卵を産ませてどんど
な。」という感想からもわかるように,子
ん増やしていきたいという感想も書いてい
どもたちは生き物に愛着をもち,自分の子
る。友達との交流を通して,これまでの世
どものように大切に育てていた。さらに,
話のよさを認めてもらったことに自信をも
観察する時に,「生き物になったつもりで
ち,さらに,友達の世話を見て,次の活動へ
書いてみて。何みたい?」などと助言する
の意欲をもつこともできたことがわかる。
ことで,子どもたちの気付きは,「ダンゴ
資料―7
ムシは,ナスの洞窟がお気に入り。」「キ
B児の飼育ケース
ャベツのカーテンに登るのが好きだよ。」
「ショウリョウバッタが葉っぱに化けてい
た。」というような,たとえを使った言葉
で表現されるようになり,これまでの体験
と関連付けた気付きへと高まっていった。
資料―8
トノサマバッタの産卵の様子を見る子ども
(2) 自分のよさや可能性に気付く表現活動
表現活動を行うことで,自分自身のことに
気付き,自分のよさや可能性を自覚できると
考えた。
ア
見つける,比べる,たとえるなどの表現
活動の工夫
(ア) 継続的な飼育活動
資料―9
トノサマバッタの産卵の様子
互いに生き物を見合い,生き物について
の日常的な会話を通しての表現活動が行え
るよう,教室という同じ場所で継続して飼
育することにした。その結果,子どもたち
は友達と教え合いながら,餌や水をやった
り,隠れ家を作ったりして,生き物が過ご
しやすいように考えて世話をすることがで
きた。そして,この活動を通して,生き物
の小さな表情まで捉え,気付いたことを積
継続的に飼育したことで,教室でトノサ
極的に友達に伝えるようになっていった。
マバッタの産卵の瞬間を見ることもできた。
「ナスときゅうりをよく食べるよ。」と言
卵が一つ一つ出てくる様子を見ながら,「オ
っていた子は,「ナスもきゅうりも,皮を
スがメスにがんばれがんばれって言ってる
幼,生 - 10
みたい。」という声も聞こえてきた。子ども
きた。また,C児が新鮮な葉っぱを餌とし
自身がバッタの産卵を応援している発言と
て入れていたことを友達が真似したことに
もとれる。土の上に産んだ卵は,別の容器
対して,「もうちょっと葉っぱを入れたほう
に移しておいた。子どもたちは,その容器
がいいよ。」とアドバイスもしている。自
に毎日霧吹きで水をかけてあげている。こ
分のよさを自覚することで自信がつき,ア
のように,継続的に飼育することで生き物
ドバイスすることもできるようになった。
の命の誕生にも出会うことができ,卵から
これまでC児は,生き物の世話はしてきて
かえしてあげたいという思いが,卵や土を
いても,まだキリギリスを触ることができ
大切にしていこうとする姿となって表れた。
なかった。これまでの観察カードに書かれ
この後も,何人もの子どもたちが,育ててい
ていた,「まだ虫がさわれないから今度さ
る生き物がたまごを産んだことを喜んでい
わってみたい。」という感想も,交流会後
た。自分の世話のよさを実感した瞬間だっ
には「キリギリスを触れるような気がしま
たといえる。「3年生まで大事にしま
す。」と,自分の可能性に気付いたものへ
す。」「卵を産んでくれてよかった。バッ
と大きく変化した。
タの赤ちゃんが産まれたら見せに来ま
イ
す。」という言葉は,これからも育ててい
けそうだという自分の飼育能力の可能性に
互いに伝え合い交流して気付きを共有し,
質的に高めていく表現活動の工夫
(ア) 相手意識,目的意識をもった表現活動
気付いた姿といえる。
会話などによる交流がなくても,世話の
(イ) 二人組での交流活動
仕方について交流できるよう,掲示板を活
生き物がもっと喜ぶような世話をするた
用した。わかったことや気付いたことを自
めの交流活動では,友達の手紙をよく読ん
分の言葉でカードに書いて表現し,情報交
だり,世話の様子を比べて気付いたことを
換ができるよう,生き物ごとに掲示してい
伝え合ったりすることができるように,二
くコーナーを作った。文に書いて表すこと
人組のペアを作った。活発に話ができる子
で,みんなから自分のいいところをわかっ
ども同士,自分の思いを伝えるのがあまり
てもらうことができる。また,みんなの前
得意ではない子ども同士をペアにすること
でなかなか発表できない子でも,一枚のカ
で,全体交流では出てくることがないよう
ードに書くことでクラスのみんなに伝える
な気付きを伝え合ったり表現したりできる
ことができる。このように,たくさんの子ど
ようにした。その結果,自分に自信がない
もたちが自分の気付きを意欲的に表現する
とアンケートで答え,日頃からあまり積極
ことができるよう,はじめは児童のつぶや
的ではなかったC児は,交流会の前に,育
きを教師が取り上げて書き,例を示した。
てていたキリギリスが脱皮したことを話し
その後は,いつでも自由に書くことができ
ていた。交流会でもそのことを友達に伝え
るよう,掲示板の前に,カードとペンを準
ると,「いつ脱皮したんですか?」という
備しておいた。児童は,休み時間や生活科
質問を受け,そのことがうれしかったと感
の学習の時など,気付いたことを書いて掲
想に書いている。自分が頑張って育ててき
示していき,次第に,子どもたちで作る生
た生き物に友達が興味を示してくれたこと
き物の掲示板ができていった。これらの世
は,それまでのC児の世話を友達が認めて
話の仕方は,違う生き物同士でも参考にで
くれたこととなり,そこまで育てることが
きる部分もある。毎日,教室という同じ場
できた自分のよさに気付いていくことがで
で飼育活動を共に行い,それぞれの飼育に
幼,生 - 11
共感し合っている子どもたちは,掲示して
足そうに読んでいることからも,この手紙
いる世話の仕方にも共感し,それらを実際
を通して,友達から自分のよさに気付かせ
にやってみるようになった。水をやる→霧
てもらうことができた。
吹きでやる→霧吹きで5回くらいやる→び
資料―11
生き物の気持ちになって書いた手紙
っくりさせないようにやるというようにさ
らによい世話の仕方が見つかり,それを共
有し,気付きを質的に高めていくことがで
生き物の気持ちにな
って書いた手紙
友達からのコメント
きた。
資料―10
子どもたちでつくる掲示版
(イ) 生き物の成長を絵本にする
生き物を育てる中で,生き物とともに自
分も成長していることに気付くことができ
るよう,生き物との出会いからを絵と文で
表し,絵本を作っていった。生き物の気持
ウ
また,気付いたことと一緒に自分の名前
ちになって書くこと,絵や文の量やページ
も書くことで,「○○君が書いてたのをや
を限定しないことで,子どもたちは,すら
ってみた。」という言葉も聞かれるように
すらと絵本を書くことができた。そしてそ
なった。このことで,自分が表現すること
の中には,「遊び場ができてうれしいよ。
で,友達の役に立つことができるというこ
それに,土が深くなったからうれしい
とを実感することができた児童も多い。
よ。」といった,自分がしてきた世話に関
子どもの特性に合った,多様な表現活動
する記述もある。この絵本を友達と読み合
の工夫
い,「優しくお世話したんだね。」「土が
(ア) 生き物の気持ちになって手紙を書く
ふわふわになって,喜んでもらえてよかっ
子どもの思いを引き出すために,自分が
たね。」といった感想をもらうことで,生
育てている生き物になったつもりで,育て
き物にとって良い世話ができた自分のよさ
てくれている人(つまり自分)に手紙を書
や成長に気付いていくことができた。
く活動を取り入れた。文章を書くのがあま
資料―12
子どもが書いた絵本
り得意でない児童も,生き物の気持ちにな
ると,「瓶の山や,ナスの灯台が楽しい
な。」といったたとえを使いながら,生き
物の気持ちを表現することができた。また,
手紙を友達と交換して読むことで,「たま
ごを産んだんだね。それは,虫の気持ちが
よくわかったからだよね。」というような
肯定的な評価をもらうこともできた。子ど
もたちは,自分が読んでほしい人に手紙を
(ウ) 友達,お家の方への発表
渡して感想をもらっている。その感想を満
幼,生 - 12
自分の成長を他者から認められることで,
自分のよさに気付き,自信をもつことがで
たり応援したりしてくれる6年生に,困っ
きるよう,単元の最後に,自分が成長したと
たときにはいつでも教えてもらうことがで
思うことを発表する場をもった。その際,
きるということがわかり,情報ネットワー
事前に,どんなことを,どのような形で発
クの広がりの中で活動への意欲付けとなっ
表したいのかを子どもたち一人一人が考え
た。同じ生き物を育てている友達同士でか
ておき,本番の発表を迎えた。作文を読む
かわることで,児童は友達のよさを見つけ,
子,生き物が触れるようになったことを短
伝え合い,友達の世話の真似をしながら活
い言葉で話し,実際に触ってみる子,コオ
動してきた。さらに,生き物が苦手な児童に
ロギの鳴く様子を説明し,体を使って表現
とっては,そんな友達の世話の仕方や生き
する子,初めて虫を触ったときの感動を絵
物を触る様子が活動の意欲付けとなった。
に表す子,コオロギのオスとメスの違いを
「はじめはカマキリが触れなかったけど,
絵に描いて発表する子など,自分の伝えた
友達に言われて触ってみたら,全然こわく
い内容を友達や家の人に素直に伝えること
なかった。次の日,他の虫も触れるように
ができた。人前で発表することに苦手意識
なった。一匹の虫が触れたら,何匹でも触
をもっている子どもも,「自分が成長した
れるんだな。やっぱり虫って,かわいいし
ことをお家の人やみんなに言えてよかっ
かっこいい。」というような感想を書いた
た。」「思い切って発表したらできた。」と
児童も多い。これは,子どもが意欲や自信
いう感想を書いており,頑張って発表した
をもった姿といえる。
らできるという自信をもつことができた。
これらのことから,他者とかかわったり,
また,この発表会の感想を,「生き物大す
肯定的評価をし合いながら学習活動を進め
き」の学習への取り組みをずっと見てきた
ることは,子どもの意欲や自信をもつため
お家の人からもらうこともできた。「虫を
の活動として有効であったといえる。
見たら逃げ回っていたのに,虫取りに行こ
イ
自分のよさや可能性に気付く表現活動
うと言うほど虫博士になっていましたね。
継続して飼育する活動を通して,生き物
バッタの脱皮の瞬間を,お母さんも初めて
の成長や変化に気付くことができた。そし
見ました。いい勉強をさせてもらいまし
て,それらの気付きを友達と交流すること
た。」「よくがんばったね。これからも,
で,自分の気付きに共感してもらったり,気
バッタや卵を大事に育てていこうね。」と
付きを共有したりすることができ,自信へ
いった家の人の感想は,自分の成長を実感
とつながった。自分の飼育に対して働き返
させてくれるものとなり,これからもいろ
してくる生き物と共に過ごすことで愛着が
いろな生き物を育てていきたいという意欲
生まれ,生き物の命を大切にできる自分に
を高め,どんな生き物でも育てられそうだ
気付くことができたのは言うまでもない。
という可能性への気付きを確かなものとし
この思いが,生き物の気持ちになって書い
た。
た手紙や絵本にも表れている。子どもたち
(3) 考察
は,これを読むことで自分のよさに気付い
ア
意欲や自信をもつための活動
ていった。また,友達と読み合って感想を
6年生との交流は,短い時間ではあった
交流することで,今まで気付かなかった自
が,子どもたちにとっては,わからないこ
分のよさや可能性に気付くことができた。
とを教えてもらうことができた貴重な時間
単元の最後には,自分の成長したと思うこ
であった。さらに,自分たちの活動を認め
とを,自分が伝えたい方法で家の人や友達
幼,生 - 13
に伝える活動を取り入れた。この活動は,
ていく表現活動の工夫をしたこと。子ども
頑張って育ててきたこと,自分の生き物の
の特性に合った多様な表現活動を取り入れ
素晴らしさ,発表する姿などを他者から認
たこと。
められる良い機会となった。このことが,
生き物とかかわり合いながら生活していこ
うとする意欲や,自分の能力の可能性への
この2点で実践を行った結果,次のようなこ
とが明確になってきた
①
気付きとなった。
子どもたちが必要と感じたときに他者と
かかわらせ,質問をしたり教えてもらった
これらのことから,多様な表現活動を取
りしたことで,その時点での悩みが解決し,
り入れて,自分のよさや可能性に気付かせ
その後の活動への意欲が高まった。また,
ることは,子どもの意欲と自信を高める上
友達との交流会などを通してこれまでの自
で有効であったといえる。
分の世話や工夫を伝えたことで,肯定的な
今後は,交流活動のグループ構成を考え
言葉をかけてもらうことができ,自分の世
たり,時期を検討していったりすることで,
話に自信をもち,これからも頑張って育て
子ども同士がよさを伝え合ったり,友達の
ていきたいという意欲をもつことができた。
よさを認めて真似したり,アドバイスした
②
継続的な栽培,飼育活動を通して見つけ
りする活動が活発になり,意欲と自信を高
たり比べたりたとえたりしたことを互いに
めていくことができるのではないかと考え
伝え合い,交流したことで,友達の気付き
る。
に共感し,その気付きをみんなで共有でき
るようになった。そして,同じようにした
ら自分もできそうだということに気付き,
第Ⅲ章
研究のまとめ
活動の見通しをもつことができた。また,
自分の気付きが友達から認められたことで,
本研究室では,「意欲と自信をもって生活で
これまでの栽培や飼育のよさを自覚するこ
きる子どもを育てる生活科学習」を探るために,
とができ,自信へとつながっていった。さ
自分のよさや可能性に気付く表現活動の工夫を
らに,自分が伝えたいことを,伝えたい方
取り入れた実践を中心に研究を進めてきた。
法で表現することで,活動にも意欲的に取
相手のことを思いやることのできるあたたか
り組むことができた。また,それに対する
い雰囲気の,快い応答関係の中で,したこと,
肯定的な言葉をかけてもらったことで,大
感じたこと,考えたことなどを素直に表現し,
きな自信となった。
肯定的評価をし合っていけば,意欲と自信をも
このように,自分のよさや可能性に気付くよ
つことができるであろうと考え,実践を行った。
うな表現活動の工夫をすることは,活動への意
手だてとして,次の2点をあげることができる。
欲と自信をもって生活することができる子ども
①
意欲や自信をもつための活動として,他
者とのかかわりを取り入れた学習活動を行
ったこと。肯定的評価を得られるような学
習活動の工夫を行ったこと。
②
を育てるための,有効な手段であることがわか
った。
今後は,児童が様々な場面で自分のよさや可
能性に気付いていくことができるよう,表現活
自分のよさや可能性に気付く表現活動と
して,見つける,比べる,たとえるなどの
動の内容や時期,グループ構成などを見直して
いく必要があると考えている。
学習活動の工夫を行ったこと。互いに伝え
合い交流して気付きを共有し,質的に高め
幼,生 - 14
参 考 文献
1
文部 科学 省
小 学 校学 習 指導 要領 解 説
2
鹿 毛 雅 治・ 清 水 一 豊
生活 科 編
開隆 堂出 版
(平 成20年 )
小学 校新 学 習指 導要 領 ポイ ン トと 授業 作 り生 活
東洋 館出 版 社(平 成21年 )
4
野 田 敦 敬
小 学 校指 導 要領 の解 説 と展 開
教育 出版
(2008年 )
5
寺 尾 愼 一
小 学 校教 育 課程 講座
ぎょ うせ い
(2008年 )
6
木 村 吉 彦
小 学 校新 学 習指 導要 領 の展 開生 活 科
明治 図書 出 版
(2008年 )
生活 科
共 同 研究 者
日
髙
晃
昭
(中 村 学園 大 学准 教授 )
中 河原
幸
子
(七 隈 小学 校 教諭 )
美
子
(研 究 支援 課 嘱託 員)
藤
研 究 指導 者
後
藤
幼,生 - 15
原
由
佳
(平 尾 小学 校教 諭 )