出生率向上のための自治体等の少子化対策について ~フランスを中心

自由論文
出生率向上のための自治体等の少子化対策について
~フランスを中心にした欧州諸国との比較から~
川越市環境部環境保全課
1
鈴木
勝生
一方、2008年のフランスの出生率は、2.02にな
はじめに
り欧州ではトップの座を守っている7。フランス政
府は、人口維持に必要な2.07を目標に様々な政策
2,856人少なく、一人の女性が一生に産む子どもの
を打ち出しており、20歳から40歳の女性人口が減
数を示す合計特殊出生率(以下、
「出生率」という。)
少しているにも関わらず、1990年以降の出生率は
は、1.34で1、前年の1.32を上回った。この前年比
1994年の1.66を最低にして上昇したことは注目す
0.02ポイントの出生率の上昇は、30代後半の団塊
べきことである8。そこで、日本の家族法の母国法
ジュニア世代(第二次ベビ-ブーム世代・1971 〜
となったフランス9を中心に欧州諸国、日本の状況
1974生まれ)が産んでいるのが原因の1つである
を比較検討しながら、自治体等における出生率向上
と考えられる 。人口を維持するには、出生率が2.07
のための少子化対策について考察する。
2
程度必要であり、この世代に出生率が上がらなけれ
ば、死活問題である。出生率は、産む年齢層がスラ
2
婚姻制度のスティグマ
イドすればその人口が減少するため逓減していくこ
2005年の出生調査で、夫婦が生涯にもうける子
とが予想されるので 、少子化対策 は、自治体 を
どもの数である完結出生児数は、2.09人であった。
始めとする地域、国6、企業等の社会全体で取組み
完結出生児数は、1972年以来2.2人前後で推移して
解決しなければならない難題である。
いたが今回33年ぶりに大きく減少した。日本人は、
3
4
5
出生数及び合計特殊出生率の年次推移
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2007年 の 出 生 数 は、1,089,818人 で 前 年 よ り
欧州諸国と比べて、婚姻しないと子どもを産まない
傾向にある10。「産まないという」より「産めない」
という方が正しい表現である。けだし、婚姻してい
ないカップルに生まれる子、いわゆる非嫡出子の割
合は、日本は約1.8%で推移しており欧州と比較し
て極めて低い水準だからである。
フランスは、2008年に生まれた子どもの52%
が(1980年代は10%)、婚姻していないカップル
から生まれている11。しかし、子どもの9割以上が
父親の認知を受け、8割以上が父母と一緒に暮らし
〔平成20年版少子化社会白書
内閣府〕
ている。1970年代から非嫡出子にも嫡出子と同じ
権利を与え、1999年には、共同生活を営んでいれ
ば婚姻とほぼ同等の法的権利を与えるパックス法
(PACS、連帯市民契約)を創設した。また、2006
年には「非嫡出子」の言葉を民法から削除した。こ
45
のように法律面からも社会的偏見、差別を払拭しよ
ゆるシングルマザーに育てられているケースもあ
うとしている。さらに、子どもが多い家族は、公共
る。シングルマザーは、約1,180,000人に達してい
交通機関、公共施設、スポーツ施設などで大幅な家
て、その生活は苦しい。失業率は7.7%、父親から
族割引が受けられるが、その申請には親子関係を証
養育費を受けている人は17.7%、約3割が自分の親
明すればよく婚姻の有無は関係ない。つまり、婚姻
と同居している。シングルマザーは、児童扶養手当
の枠組みにとらわれない事実婚主義が定着し、自由
の支給対象となるが、これ以外にも経済的援助が必
な男女関係を望む風潮を法制度や行政サービスが後
要である。まずは、一番身近である自治体が、シン
押してきた背景がある。
グルマザー手当の支給や就労支援するなどして経済
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非嫡出子(婚外子)の国際比較
面からサポートするべきである。一方、フランスは、
シングルマザーでも働きながら何人も子供を生み育
てることが可能な労働環境と育児支援が法整備され
ている。
3 少子化のスパイラル - 非婚化晩婚化晩産化 婚姻しないと子どもを産まないのであれば、ま
ずは非婚化が問題である。生涯未婚率は(50歳時
点で一度も結婚をしたことのない人の割合)、30
歳で独身の女性は50%、35歳で独身の女性は70%
になり、さらに、1990年生まれの女性の生涯未婚
率は、23.5%、生涯子どもを産まない女性の割合
〔社会実情データ図録〕
は、37.2%と推計している15。さらに、2005年の
国勢調査によると、30 〜 34歳の男性の未婚率は
一方、日本においては、非嫡出子に対する社会的
性・女性ともに9割が婚姻していたのに比べると、
て法律的に保護されない点もあるので 、婚姻しな
急激な減少である16。婚姻しない理由は、女性の社
いカップルは子どもを産めない状況にある。しかし、
会進出、ライフスタイルの変化、価値観の多様化な
本来ならば子は、親が誰であるかを特定できればよ
ど様々なことが原因とされているが、景気不況によ
く、両親が法律婚かどうかで親子関係の効力におい
る経済的事由も考えられる。しかし、2005年の女
ての差異は生じてはならないのである 。自治体は、
性の結婚観調査で17、「生涯独身で過ごすのは望ま
13
14
「嫡出である子」「嫡出でない子」によって区別する
しい生き方ではない」と考える既婚女性が52.2%で
ことなく婚姻法・親子法を柔軟に解釈して、補助金
3年前より5.7%上がった。また、結婚の利点として
支給、子育て支援など子どもを産むのを躊躇させな
「子どもや家族をもてる」という答えも減少傾向か
い行政サービスを提供するべきである。そして、少
ら増加に転じた。さらに、9割以上の未婚の若者が
子化対策の1つとして、非嫡出子に対する誤解、偏
「結婚したい」
「子どもをもちたい」と回答している。
見、不信のない制度・社会をつくりあげることが大
この調査結果は、団塊ジュニア世代より若い少子化
切である。
世代の結婚観に変化が起きているためであり、その
しかし、非嫡出子は、父からの支援がなく、いわ
46
47.1%、女性は32%だった。1970年頃は30代の男
偏見が根強く残っており 、また、嫡出子と比較し
12
親達に育てられた子ども達も「子どもを産みたい」
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と意識するようになれば、少子化にブレーキがかか
と3.7歳も遅くなっている。また、40歳以上の母親
るかもしれない。一方で、婚姻せずに親と同居する
が産んだ子どもの数は21、25,161人になり、約50
いわゆるパラサイトシングルは、35 〜 44歳の人口
人に1人は40歳以上の母親から生まれている。この
の12.6%を占め、20年前の3倍に増えた(2005年
ように晩産化の傾向は顕著に現れている。
欧州諸国は職種別賃金等が中心であるが、日本は、
労働力調査)
。この「パラサイトシンングル」の存
在が日本の少子化の原因であると指摘している見解
年功序列型賃金が根強く残っており、若い人ほど収
もある18。
入が低い傾向にある。収入が少ない若いカップルは
婚姻しないのであれば、シングルのままで出生率
生活が苦しく、経済的な理由で出産を躊躇するので
あれば、自治体は、経済的支援を行う必要がある。
率を維持しているスウェーデンには、前述したフラ
自治体は(過去10年間で出生率が上昇した自治体
ンスのパックスと同様に、事実婚、同棲を保護する
は、婚姻した若いカップルが転入し定住化した傾向
サムボ法がある。サムボとは、住所が同じで継続し
が見られる)、ヤングカップル、ヤングペアレンツ
て共同生活をしているカップルに、法律婚とほぼ同
に対して、税の軽減22、保育園への優先措置等のサー
等の保護を与えるものである。ここで注目すべきこ
ビスを提供し、非婚化・晩婚化・晩産化にストップ
とは、生まれてくる子どものうちサムボカップル
をかけるアシスト策を講じるべきである。
の割合は、第1子は65%、第2子は44%、第3子は
29%と減っており、法律婚へのステップとなって
4
ワーク・チャイルドケアー・バランス
いる。スウェーデンの法律婚のうち90%がサムボ
女性が子どもを産むには経済的にも働く必要があ
を経験していることから、共同生活カップルを保護
り、女性の社会進出に伴い仕事を継続したいと考
する法制度が、出生率の向上につながっているので
える人が増加している23。6歳未満の子どもがいる
ある。
母親のうち働いている人の割合は、スウェーデン
一方、日本には戸籍制度があるために戸籍アレル
77.8%、フランス56.2%、イギリス55.8%、ドイ
ギーが存在し、婚姻や離婚に対して過剰反応を示す
ツ51.1%であるが日本は35.6%と低い傾向にある。
傾向がある。また、法律婚でなければ、夫婦同氏、
OECD諸国は、女性労働力率の高い国の方が出生率
成年擬制、相互の相続権、嫡出推定などの適用がな
の高い傾向があり、女性の就業と出生率の関係は、
いなど、事実婚等は法的に保護されない。しかし、
80年代前半までのマイナスの相関があったが、現
社会保障の分野では大正時代の後半から内縁配偶者
在ではプラスの相関にある。スウェーデンでは、高
を法律上の配偶者と同視する内縁準婚理論が認めら
い女性労働率と出生率が両立している。つまり、出
れ今日に至っている 。したがって、自治体は、現
産後も働ける環境が整備されている国が出生率が高
在の婚姻制度にとらわれることなく、法律婚の法的
い傾向にあり、子育て支援の充実が大きく影響して
保護を自由結合カップルにも与え、子どもを産みや
いる。フランスは、2006年から第3子の育児休暇
すい新しいサービスシステムを構築するべきであ
期間を3年から1年に短縮した制度を新設した。「1
る。
年間」を選択すれば休業補償が月額で5割増える。
19
2007年の平均初婚年齢は夫30.1歳、妻28.3歳で、
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を向上させる方法はないだろうか。北欧で高い出生
仕事を早く再開しやすい条件を整えたら気兼ねなく
夫、妻ともに前年より0.1歳上昇しており晩婚化が
3人目を産めるというのが新制度のねらいである。
進行している20。また、2007年の第1子出生児の母
育児休暇の充実した国が働く女性を増やし、働き続
親の平均年齢は29.4歳であり、1975年と比較する
けることが、子どもを産むウイークポイントになら
47
ない。育児休暇については、フランスとドイツが3
したがって、企業等が育児休暇や短時間労働の導入
年と長い。その間、フランスは、月7万円(第1子
などに理解を示してワークスタイル29を柔軟にし、
だけでは半年)
、ドイツは、2年間まで月4万円の所
自治体が、各種手当支給30、育児費用の経済的負担
得保障が受けられる。スウェーデンは1年半で、こ
の軽減、保育所・育児所以外の子育てサービスの新
のうち60日は父親に割り当てられその分を母親は
設等で支援しなければ出生率は向上しない31。
使えない。
「育児も男女が平等に」という考え方が
仕事と子育ての両立が難しかった理由
基本にあり、スウェーデンやドイツでは育児休暇を
「両親休暇」
と呼ぶ。フランスやイギリスには別に「父
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親休暇」がある。なお、アメリカには育児休暇制度
がない。育児休暇の長さは、保育サービスの体制と
も関係しているドイツでは、3歳未満を対象にした
保育施設は子どもの数の9%に過ぎない。その分長
い育児休暇を利用して親が自宅で保育する。共働き
が多いスウェーデンは保育所が充実していて、2歳
児の約8割が通っている。つまり、女性が仕事につ
いて収入が増えれば出産・育児への意欲が自然に高
まるというのである。また、保育所や託児所だけで
はなく、認可を受けた保育士が自分の家で乳幼児を
預かる「認定保育ママ」
(スウェーデンでは家庭型
内閣府〕
5 「島」に学ぶ将来の展望
保育所が県政府の責任で運営されている)
、働く親
「どうしたら子どもを産みますか?」と職場でア
同士が保育士を雇って自宅で運営する家庭託児所が
ンケート調査してみた。20代のシングルの人に聞
普及している。そして、その費用にも公的な援助が
いても、「よくわからない」「実感がない」という状
ある。日本の自治体においても、認定こども園、子
況だった。やはり、一番反応があったのは、実際に
育てマネジャー、一時・特定保育、放課後児童クラ
子どもがいるお母さん達だった。共働きの夫婦では、
ブなどの地域支援を行い独自の政策を打ち出してい
経済面よりも時間に重点を置いた回答が多かった。
る。例えば、静岡県長泉町は、「子ども育成課」を
具体的には「子どもが小学生になるまで、勤務時間
新設し、
子育てに関する住民窓口を一本化している。
を午前10時から午後3時までにして欲しい」「夫に
待機児童はなく乳幼児人口や親の就業希望など状況
も育児休暇を与えて欲しい」
「夜間保育所の整備」
「保
把握に努めることで、早期の予算化を可能にしてい
育料を無料にして欲しい」などであった。一方、専
る。また、町の中心部に子育て支援センターを設置
業主婦の家庭では、「子どもが18歳になるまで月5
し利用者も多い。
万円の手当支給」など経済面を回答した人が多かっ
さらに、経済的支援も必要であり現在の児童手当
24
た。夫婦のライフスタイル、経済状況、家族構成な
や家族手当 は、欧州諸国と比較してかなりの格差
どの条件により、その要求は様々である。これらの
がある 。日本の財政面において、子どもに関する
多様化する要求に応えるため、大量退職を迎える団
支出は、社会保障支出全体の約4%で(北欧やフラ
塊世代に育児ママ・パパになってもらう、代理母32
ンスは10%前後)27、また、子ども向けの給付は、
に子どもを産んでもらうなどの型破りの政策も必要
高齢者の19分の1で少子化対策は金額が少なすぎる28。
ではないか。
25
26
48
〔平成20年版少子化社会白書
自由論文
山田昌弘教授は、少子化の要因は「結婚や子育て
に期待する生活水準が上昇して高止まりしているこ
と」
、
「若者が稼ぎ出せると予想する収入水準が低下
していること」の経済的理由であるとしている。ま
た、男女交際に関する社会的要因として、
「結婚し
なくても男女交際を深めることが可能になったとい
う意識変化」
、男女の「魅力の格差が拡大している
こと」としている。そして、このような要因に対し
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て少子化を反転させるための必要かつ有効な施策
は、
「全ての若者に、希望がもてる職につけ、将来
にわたって安定した収入が得られる見通しを与える
こと」
、
「どんな経済状況の親のもとに生まれても、
子どもが一定水準の教育が受けられ、大人になるこ
とを保証すること」
、
「格差社会に対応した男女共同
参画を進めること」
、
「若者にコミュニケーション力
をつける機会を提供すること」であるとしている33。
資料:厚生労働省「第6回21世紀出生児縦断調査結果の概況2007」
女性が生涯に産む子どもの数が一番多い自治体
ていたことは否めない。つまり、本来ならば基本的
は、沖縄県多良間村の3.14人である。多良間村は
人権である個人の自由に国家等が介入することは許
二つの島に1,400人が住む村である。多良間村を始
されないことであり、もし、その介入がされるので
め、全国の自治体の上位19までは島が占める 。そ
あれば必要最小限でなければならない。しかし、少
の理由はなぜか。一般的な多産要因は、「結婚、初
子化対策は、生産・労働力人口の減少37、社会保障
産年齢が低い」
、
「経済的にゆとりがある」
、「3世代
体制の維持困難、経済成長の低迷などの社会的影響
同居等で子育てを担う人数が多い」35等の要素が考
があまりにも大きいものがあるので緊急避難的に行
えられる。しかし、
実際の聞き取り調査の結果は、
「夫、
わなければならない。そして、その対策は、一時的
近所の人の協力」
、
「生活費の安さ」
、
「安心、安全な
なカンフル剤効果では意味がなく、永年に続く長期
環境」
、
「住民の価値観、気持ちの持ち方」であり、
的ビジョンから講じなければならず38、その免疫効
そして「人がまちで子どもを産み、育てたいと思える
果は持続させなければならない。
34
ようになるには、人間関係の反復のキャッチボールを
2005年のフランスでは、30歳未満の母親から生
持続的に行うことが大切」としていた 。したがって、
まれた子どもは52.8%である。フランスの例からみ
島には、これからの少子化対策を考えるヒントが隠さ
ると若いうちに子どもを産むことが出生率を上げる
れている。
重大な要因となっている。前述のアンケート調査で
36
子どもを「産む、産まない」は、個人の自由に関
は30代後半から40代前半の母親達は、
「産むのはよ
わる内心的なセンシィテイブなものである。周知の
いけど、育てるのはもう体力的に無理」と言ってい
とおり、
第二次世界大戦中は「産めよ増やせよ」と、
た。母親達は、子育ての経験から年齢が上がるにつ
戦争目的に人口政策を利用した歴史的経緯があり、
れて子育ての負担を重荷に感じている。つまり、気
その反省から、30年前から出生率は低下していた
力、体力のある30歳未満の若いうちに、多くの子
のにも関わらず、それに触れることがタブーとされ
どもを産んでもらうのが少子化対策への有効策であ
49
る。そのためには、若婚化が必須条件であり、それ
経済的施策よりも、「ひと」は精神的豊かさを求め
が若産化へつながるのである。そして、前述した「島」
るのではないか。したがって、究極の自治体の少子
の環境のように子育てに最適の「ひとづきあい」が
化対策は、そのようなコミュニティーのある地域づ
できるようになれば理想的である。「ひと」が「ひと」
くりではないだろうか。
を産み育てるのだから、手当支給や税金控除などの
脚
₁
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50
注
都道府県別にみると、沖縄県(1.75)、宮崎県(1.59)
、
熊本県・鹿児島県(1.54)等が高く、
東京都(1.05)
、
京都府(1.18)、
北海道(1.19)等大都市を含む地域が低くなっている。厚生労働省「平成 19 年人口動態統計月報年計(確定数)の状況」
ただし、合計特殊出生率は、15 〜 49 才の女性が子を産むことを統計から算出しており、
「期間」合計特殊出生率と「コー
ホート」合計特殊出生率がある(「コーホート」とは、出生・結婚などの同時発生集団を意味する人口学上の概念である)。
実数は、合計特殊出生率よりさらに低く、厚生労働省は、高めに発表しているという指摘もある。
₂ この出生率の上昇は、出産世代の女性人口と出生率に関係があると分析できる。その理由は、多くの人が子どもを産め
ば、自分も産もうとするデモンストレーション効果やアナウンスメント効果が影響していると考えられる。たとえば、A
さんが、1 人しか子どもを産まないつもりが、同じ年代の友人や知人の多くの人が 1 人目、2 人目、3 人目と産んでいた(周
囲で出産する人の話を多く聞いている)。すると A さんはその話を聞いて、
「私ももう 1 人産もう」と思い 2 人目を産む。
A さんのような人が増えれば出生率は上昇する。つまり、団塊ジュニア世代のような人口の多い世代では、このような機
会が多く存在しデモンストレーション効果等があるので出生率が上昇するという見解である。他にも、出生率の上昇下降
には、雇用状況や景気動向等の経済的事由など様々な要因が考えられる。厚生労働省は、団塊ジュニア世代等の「駆け込
み出産」が要因とみている。
₃ 出産世代の女性人口は、現在多く出産している団塊ジュニア世代が過ぎれば減少する可能性が大きい。これに伴い、
「脚
注 2」の反対解釈として、出生率は出産世代の女性人口が少なくなれば、周囲で出産する人の話を多く聞くといった機会
が減るのでデモンストレーション効果等の相乗効果は期待できないので下降すると予想される。
₄ 人口学でいう「少子化」とは、出生率が人口を維持できるのに必要な水準(人口置換水準)を下回っていることをいう。
₅ 石川県は、「いしかわエンゼルプラン 2005」に基づき、① 18 歳未満の子どもがいる世帯にカードを発行し、協賛する
店舗で割引や特典が受けられる「プレミアム・パスポート事業」
、②子育て経験がない、相談相手がいない母親に対して、
育児体験、育児相談をする「マイ保育園登録事業」
、
③結婚相談や幸せな出会いの場を仲介する、
しあわせアドバイザー(縁
結びすと)の養成や、独身男女の出会いの場であるタウンミーティーングを実施する「しあわせ発見事業」などを実施し
ている。坂上理八「石川県における少子化対策について」30 頁 埼玉自治 642 号 [2007]
₆ 2008年度の国の少子化対策予算は1兆5700億円、
2年前より16%増加している。小渕少子化担当大臣は
「国会議員になっ
た時、結婚して出産できるとは思わなかった。この 1 年間に味わった困難やうれしさを思い出し、何を変え、どんな新し
い政策を練ればいいのか考えていく。私自身が実験材料」としている。また、男性のワーク・ライフ・バランスや育児休
暇について考慮し、女性の視点での男性の子育てに注目している。朝日新聞 [2008・10・18] 小渕氏は、2008 年 9 月に戦
後最年少の 34 歳で大臣に就任した。出産後 3 ケ月で職場復帰し、現在、第 2 子妊娠中のお母さん大臣である。自ら出産・
子育ての経験をもつ小渕氏のマクロでなくミクロ的ビジョンでの少子化対策を期待する。
₇ 仏国立統計経済研究所(INSEE)発表 [2009・1・13] 約 30 年前の水準を回復し、平均出産年齢は 29.9 歳で最高齢を更
新
₈ 出生率と出産世代の女性人口とは相関があることを前提にすれば、出生率は、
「脚注 3」のように出産世代の女性人口
の減少に伴い下降するはずである。しかし、フランスでは、反対に出生率は上昇している。その理由は、フランスが、国
をあげて日本とは相違した特色あるオリジナルな少子化対策を講じているからではないか。
₉ フランスと日本は、歴史的背景、国民性、社会保障制度等に相違があるので一概に比較するのは適当ではないが、欧州
における出生率が高いことと、日本の婚姻、離婚等に関する家族法は、主にフランス法を継受しており、婚姻が少子化に
与えるインパクトが大きいため参考にした。
10 子どもができたから婚姻する(「できちゃった婚」→今は、
「おめでた婚」という人もいる)カップルが多い。つまり、
妊娠したら婚姻するケースは多く、2000 年の第 1 子の約 4 分の 1 は妊娠先行型結婚だった。
「できちゃった婚」による第
1 子出生に占める割合が高いのは沖縄県の 46.8%、低いのは神奈川県の 20.3%。厚生労働省「平成 17 年度・出生に関す
る統計概況」
11 日経 WOMAN[2009・1・14]
12 戸籍続柄が「長男」「長女」ではなく「男」「女」で記載される。現在は申出により変更できる。
13 非嫡出子は、民法第 900 条において法定相続分が嫡出子の 1/2 になる。
14 「婚姻制度の堅持、嫡出・非嫡出の区別の正当性やこれらを維持し続けるアプローチは皆無」としている。棚村政行「嫡
出子と非嫡出子の平等化」ジュリスト 1336 号 36 頁 [2007]
15 将来人口推計。国政調査の結果をもとに社会保障・人口問題研究所が 5 年ごとに行う。
16 『結婚できない男女が増えている。就職に「就活」
(就職活動)が必要なように、結婚にも「婚活」
(結婚のための活動)
が必要な時代が到来した』 山田昌弘・白河桃子『
「婚活」時代』ディスカヴァー携書 21[2008]
17 国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」
18 「収入が不安定な男性は結婚相手として選ばれず親と同居したまま年をとり、収入が不安定な女性は低収入同士で共働
きをして苦労するよりは、高収入の男性との出会いを親と同居して待ち続け年をとる」 山田昌弘「少子化の真因はパラ
サイトと低収入」週間東洋経済 106 頁 [2007・1・20]
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19 『中川博士は内縁を事実上の婚姻としての内縁の法的性質を婚姻に準ずるものとして「準婚」と表現し、内縁準婚理論
を展開して慰謝料、遺族扶助料、日常家事債務などについて大きな影響を及ぼした』二宮周平「事実婚の判例総合解説」
10 頁信山社 [2006]
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都道府県にみると、平均初婚年齢が最も低いのは、夫は、愛媛県、佐賀県、宮崎県で 29.0 歳、妻は福島県で 27.2 歳であり、
最も高いのは夫・妻とも東京都で、夫 31.5 歳、妻 29.5 歳である。厚生労働省「平成 19 年度人口動態統計年報主要統計表(最
新データ、年次推移)」
21 35 〜 39歳も増加し186,568人、40 〜 44歳が24,553人、
45 〜 49歳が590人、
50歳以上が19人である。厚生労働省「平
成 19 年度人口動態統計月報年報(確定数)の状況」
22 フランスは、国税であるが子供が多いほど課税が低くなる「N 分 N 乗税制」を導入している。
23 2007 年の共働き世帯は 1013 万世帯(専業主婦世帯は 851 万世帯)であるが、妊娠・出産時に退職する女性は約 7 割
にものぼる。その理由の 3 割は育児休業が取れないなど両立環境の不備である。
[労働力調査]
24 児童手当は、もともとは「多子」に対するものであり、現在の児童手当の支給が、少子化対策へつながっているかは疑
問である。
25 日本は長期にわたる安定した労働力を確保するために年功序列型賃金を導入した。一方、西欧諸国は職種別賃金や熟練
度別賃金が中心であり、年齢による賃金格差はあまりないので家族手当等が充実している。
26 フランスの家族給付は 30 種類もの手当ある。①家族手当(月額)は子ども 2 人 16,000 円、
3 人 37,000 円、
②出産手当(出
産時に支給)115,000 円、③基礎手当(0 〜 3 歳 月額)23,000 円、④保育費補助(6 歳未満月額)51,000 円、⑤育児
休業や就業時間減に伴う所得補償(月額 73,000 円)⑥新学期手当⑦ 1 人親手当⑧女性職業復帰支援給付⑨第 3 子以降の
出産に伴う転居補助。児童手当は、多くの国で子どもが 10 代後半になるまで支給される。子どもが 2 人いる場合に、ド
イツは 18 歳未満まで月 44,000 円、スウェーデンは 16 歳未満まで月 29,000 円、イギリスは 16 歳未満まで月 25,000 円、
フランスは 20 歳未満まで月 16,000 円である。なお、ドイツは学生なら 26 歳未満まで支給される。日本において、子ど
もを育てる費用は一人あたり 2,000 万円、間接コストは 6,300 万円にも及ぶとされている。夫婦が子どもをこれ以上も
てない理由の 1 位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と 77.4%が回答している。2 位は「子どもの相手は体力
や根気がいること」、3 位は「自分の自由な時間がなくなること」としている。
27 2003 年の GDP に対する家族関係支出割合は、スウェーデンは 3.54%、フランス 3.02%、ドイツ 2.01%、日本 0.75%。
28 スペインのサパテロ首相は、新生児一人につき約 42 万円を親に支給すると発表した。朝日新聞 [2007・7・6]
29 法定労働時間の弾力化による変形労働時間制や主体的で柔軟な労働時間制度であるフレックスタイム制・裁量労働制な
どの多様な労働条件も考慮されるべきである。
30 日本がフランスと同様の家族手当等を支給するには、約 10 兆円の財政支出が必要。
31 太田市は、第 3 子以降子育て支援事業を 2008 年 4 月 1 日からスタートさせた。①妊婦健康診査費を最大 14 回分(受
診票 5 回分含む)を助成②出産祝金 10 万円支給(2008.4.1 〜 2008.12.31 出産した人は、出産助成金 10 万円追加支給)
③保育料を減免又は助成④就学助成金として毎年 6 万円太田市金券支給⑤中学 3 年生まで医療費(外来費・入院費)の自
己負担分を助成。
32 日本学術会議検討委員会は原則禁止している。諏訪マタニティークリニックの根津医師は、61 歳の女性が実の娘の子
の代理出産していたことを明らかにした。朝日新聞 [2008・8・21]
33 山田昌弘「少子社会日本ーもうひとつの格差のゆくえ」200 頁・208 頁 岩波新書 [2007]
34 2 位 鹿児島県天城町 2.81 人、3 位 東京都神津島村 2.51 人、最下位 東京都渋谷区 0.75 人。出生率 1998 〜
2002 年の平均「厚生労働省人口動態統計」。同最新データ 2003 〜 2007 年では、1 位 鹿児島県伊仙町 2.42 人、2 位
鹿児島県天城町 2.18 人、3 位 鹿児島県徳之島町 2.18 人、最下位 東京都目黒区 0.74 人。上位 30 位のうち 25 市町村が
西日本の島国。厚生労働省は「島には地域で子育てを支える環境がある」とみている。
35 3 世代同居は 30 年前の半分に減少して現在は約 10%である。
「厚生労働省白書」 また、夫婦以外の子育て支援者は、
「自分の親」が 69.9%、「配偶者の親」が 40.2%である。内閣府「国民生活選好度調査」
(2004)
36 福島富士子「少子化社会における妊娠・出産にかかわる政策提言に関する研究」http://komachi.haru.gs/pdf/0503_
fukushima.pdf
37 2100 年には、現在の総人口から 6,400 万人もの人口が減少し、このままの状況が継続すれば 3000 年には、日本の人
口は 27 人になると予想しているところもある。外国人労働者など移民の施策をとるべきだという意見もある。
38 内閣府主催の研究会で、子どもが 1 人生まれるごとに、100 万円相当のバウチャーを支給し、生活資金や再就職準備金、
保育サービス購入資金など、親の選択に任せて使ってもらう施策を提案した。 山田昌弘「少子化の現状と政策課題」ジュ
リスト 1282 号 136 頁 [2005]
参考文献
◎江口隆裕「少子高齢社会と社会保障」ジュリスト 1282 号 6 頁〔2005〕
◎佐々井司「地方自治体にみる出生率上昇の要因と少子化対策」
〔2004〕http://www.esri.go.jp/jp/archive/shoushika/
shoushi004a.pdf
◎国立社会保障・人口問題研究所「少子化情報ホームページ」http://www.ipss.go.jp/syoushika/
◎内閣府経済社会総合研究所「フランスとドイツの家庭生活調査 - フランスの出生率はなぜ高いのか -」
〔2005〕
内閣府経済社会総合研究所「スウェーデンの家族と少子化対策への含意 - スウェーデン家庭生活調査から -」
〔2004〕
◎内閣府「平成 20 年版少子化社会白書」〔2008〕http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/index-w.html
◎朝日新聞 特集「人口減で明日は」〔2006〕
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