2008 年 8 月 21 日 ドン・キホーテと私 私の人生を大きく変えた一冊の本 (1)ドン・キホーテとの出会い 1) 私の略歴 1940 年 5 月 26 日東京都で生まれた 1941 年両親に連れられ満州(中国東北部)の奉天(現瀋陽)に移住 1946 年 7 月両親、現地で生まれた妹二人と一家 5 人で満州から引揚げ 葫蘆島(フールータオ) → 佐世保 1959 年 3 月新宿高校卒業 1960 年 4 月東京外国語大学スペイン語学科入学(海外、特に南米に駐在して働 きたかったため) 1962 年 4 月から 1 年間会田由教授の「ドン・キホーテ講読」を受講(感激して、 スペインに留学するか、そこで働くことを決心) 1964 年 3 月卒業とともにアツギナイロン工業(株)に入社(スペインに工場を 作るので、そこで働けるため。しかし、その計画は中止となる) 1967 年 12 月 27 日、日本電子(株)に転職(1 年間、工場・営業部で実習後に スペインに駐在さすとの条件で入社) 1969 年 5 月 2 日から 8 年間マドリッドに駐在 1974 年 5 月に東京外国語大スペイン語学科、長南実教授(恩師)が、生まれて 初めてで最後の4ヶ月間スペイン滞在の折、しばしばドン・キホーテゆかりの地 を車で案内(その後 2007 年 1 月に亡くなるまで親しく指導を受ける) 1977 年 4 月から 1980 年 6 月まで3年間、パリに駐在、Madrid から直接赴任 (その間、たびたびスペインを訪問) 1980 年 6 月に日本に帰国後、主として海外営業の仕事をする。(特に 1988 年か ら 1991 年まで毎年 1 回、南米を 30 日間回り、営業) 1995 年から 2007 年までの間、11 回スペインを訪れる。 (特に最近数年は、夏に 1 ヶ月滞在) 他は省略 2)会田 由(あいだ ゆう、1903 年 4 月 3 日∼1971 年 2 月 27 日)スペイン文学者。 1962 年 12 月にドン・キホーテ後編を日本で初めて完訳。 (この後編は 1962 年 7 月 15 日から 11 月 15 日まで丸 4 ヶ月間神田の旅館に立てこもり翻訳。9 月中旬 から 11 月中旬まで 2 ヶ月間授業は休講。補講もなし。学生は休講で喜ぶ) 3)長南 「邦訳 実(ちょうなん みのる、1920 年∼2007 年)スペイン文学者 日葡辞書」(岩波書店、1980)、「インディアス史」全訳(岩波書店、1981 1 −1992)など 4)牛島 信明(うしじま のぶあき、1940 年 8 月 14 日∼2002 年 12 月 13 日) 昭和 42 年 3 月東京外国語大学スペイン語学科卒。スペイン文学者 「ドン・キホーテ」(岩波文庫版新訳)など (2)セルバンテスの異常な生涯 Miguel de Cervantes Saavedra(1547−1616) ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ シェークスピア(1564−1616) 徳川家康(1542−1616) ホ・ジュン(1546−1615) ・ 作家活動のほとんどは、58 歳から 68 歳の死までの約 10 年間に集中。 ・ マドリッド近郊のアルカラ・デ・エナーレスに最下級貴族(イダルゴ)の四 男三女の四番目の子(次男)として生まれた。父親は、社会的な評価も低い 貧乏な外科医。 ・ 大学教育は受けなかった。しかし、1569 年 9 月、『王妃追悼詩文集』に若き セルバンテスの詩が 7 編採用され、詩人として華々しいデビューを飾る。 ・ 1569 年(22 歳)の 12 月にローマに渡り、その翌年、当時スペイン領土であ ったナポリで歩兵連隊に入隊。(マドリッドで決闘をして相手の男を傷つけ、 右腕の切断と 10 年間の国外追放の刑が宣告され、お尋ね者になりイタリアに 逃亡。彼は、後に、偶然レパントの海戦で片手(左手)の機能を失う。 レパントの片手男−El manco de Lepanto) ・ 1571 年(24 歳)10 月 7 日、レパントの海戦(トルコ艦隊を撃破)に参加。 名誉の負傷。 ・ 1575 年(28 歳)に兵士の弟(ロドリーゴ)とともに軍隊を退役。帰国の途に つくが、9 月 26 日イスラム教徒の海賊船に襲われ、捕虜となりアルジェに連 行され奴隷となる。 ・ 5 年間虜囚生活を送り、その間、4 度にわたり脱走を試みる(首謀者)が、す べて失敗。 ・ 1580 年(33 歳)セルバンテスの身請けが成立。(莫大な身代金を支払う) 11 年ぶりに故国、スペインに帰国。 (弟は 3 年前に身請けされスペインに帰国 済み) ・ インディアス(南米)の官職を志願するもかなわず、文筆活動に入る。牧人 小説『ラ・ガラテア』執筆開始。 ・ 1584 年(37 歳)エスキビアス(マドリッドから南に 30 キロの村)で 18 歳 年下のカタリーナ・デ・サラサールと結婚。 ・ 1585 年(38 歳)『ラ・ガラテア』を上梓したものの金にならず、また劇作を するも成功せず。 2 ・ 1587 年(40 歳)<無敵艦隊 Armada Invencible>の食料徴発係の職を得て、 単身セビーリャに居を移し、10 年間セビーリャで働く。 ・ 1588 年(41 歳)<無敵艦隊(130 隻の艦隊、総員 3 万人)>敗北。リストラ。 ・ 1590 年(43 歳)インディアス(南米)の官職を志願するも、却下される。 ・ 1592 年(45 歳)一時、投獄される ・ 1594 年(47 歳)滞納税金の徴収吏の職にありついたが、集金した金を預けて おいた銀行が破産して、国庫に負債を負い、1597 年(50 歳)の 9 月 6 日から 12 月 1 日までセビリアで下獄。その後ドン・キホーテの執筆に専念。 ・ 1601 年 1 月(54 歳)新国王フェリーペ III 世は都をマドリッドからバリャド リードに移す。 ・ 1604 年(57 歳)セルバンテスは、夏、家族を連れてバリャドリードに住む。 ・ 1605 年(58 歳)ドン・キホーテ前編が出版される。(版権を出版社に売り渡 していたので、爆発的に売れたにもかかわらず、たいした収入にならず。 版権:2,000 レアル:生きたニワトリ 1,000 羽に相当) ・ 1606 年 1 月:国王フェリーペ III 世は、都をバリャドリードからマドリッド に移す。セルバンテスも晩夏にマドリッドに移る。 ・ 1614 年(67 歳)10 月に贋作ドン・キホーテ後編が出版される。作者はアロ ンソ・フェルナンデス・デ・アベリャネーダ ・ 1615 年(68 歳)ドン・キホーテ後編が出版される。 ・ 1616 年 4 月 22 日(68 歳)セルバンテスは妻と姪に看とられて永眠。 (3)ドン・キホーテの概要 前編: 52 章(1605 年出版) EL INGENIOSO HIDALGO DON QUIJOTE DE LA MANCHA (機知に富んだ郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ) 後編: 74 章(1615 年出版) EL INGENIOSO CABALLERO DON QUIJOTE DE LA MANCHA (機知に富んだ騎士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ) 邦文で4百字詰原稿用紙 3000 枚以上 ・ 第 1 回目の旅: 2 日(前編)ドン・キホーテ一人で旅する ・ 第 2 回目の旅: 約 2 ヶ月(前編)サンチョ・パンサと旅する ・ 第 3 回目の旅: 約 4 ヶ月(後編)サンチョ・パンサと旅する ドン・キホーテ ← アロンソ・キハーノ(本名)郷士 サンチョ・パンサ 近所の百姓、驢馬に乗った従者。島の太守にするということ で従者になる。 ドゥルシネーア← アルドンサ・ロレンソ(本名) 隣村(El Toboso)の田舎娘 でドン・キホーテの思い姫 ロシナンテ ドン・キホーテの痩せた愛馬 3 作者:セルバンテス(第二の作者と設定)← シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ(ア ラビア人史家を原作者と設定) 1) 第 1 回目の旅: 2 日間(前編) 7月の暑い日の未明、愛馬ロシナンテに跨り一人で出発。 2) 第 2 回目の旅: 約 2 ヶ月(前編) 夜中にこっそりサンチョ・パンサと共に出奔。 3) 第 3 回目の旅: 約 4 ヶ月(後編) サンチョ・パンサと共に出奔。サラゴサの馬上槍試合に出場するため。 しかし、途中サラゴサの近くで贋作ドン・キホーテが出版されたことを知り 目的地をバルセローナに変更。 (4)贋作ドン・キホーテ(アベリャネーダ作)1614 年発行。 作者:アロンソ・フェルナンデス・デ・アベリャネーダ ドン・キホーテの村は、アルガメシーリャと言う。 (5)フーテンの寅さんとドン・キホーテ 二人の類似性 フーテンの寅さん ドン・キホーテ 一般的共通点 二人とも滑稽な人間。笑いの対象にはなるが、決して軽蔑の対象にはな らない。潔癖にして情感豊か。 夢見る放浪者 旅暮らしのテキヤ。根無し草の風 騎士道を現実の世で実践するため 来坊。 に冒険を求めて諸国を遍歴。 美しい女性に 映画『男はつらいよ』には、毎回 田舎娘アルドンサ・ロレンソをド 対する憧憬と 寅さんが憧れるマドンナが登場。 ゥ ル シネ ー ア と いう 思 い 姫に す 崇拝 決して恋は成就せず。 る。 言語運用の達 車寅次郎は、言葉の人間であり、 ドン・キホーテも言葉との関わり 人 言葉の達人。 において突出した人物。 風体・気質 なかなか決まった出で立ちではあ 血気盛んにして怒りっぽい性格。 るが、いささか時代離れした格好。 短気で喧嘩っ早い。根アカ。 善意に基づく 見栄っぱりで、人に、特に女性に 過剰な善意の押しつけ。他者にと おせっかい よく食事を奢ったりする。 ってありがた迷惑 場あたり性 気が向くままに旅を続け、計画性 寅さんと同じく独身で、姪と家政 がなく、ほとんど行き当たりばっ 婦と一緒に暮らしていたが、世俗 たり。 的には極めて無責任な男。すべて をほったらかしにして旅に出る。 (6)日本で初めてのドン・キホーテ完訳本(ただし前編のみ) 大正 4 年秋、島村抱月/片上伸(明治 44 年翻訳開始)イギリス訳より翻訳。 後編があることを解題で述べているが、タイトルに前編の記載なし。 4 (7)参考文献 ・ ドン・キホーテ全 6 巻(牛島信明訳、岩波文庫) ・ ドン・キホーテ全 2 巻(会田由訳、筑摩書房) ・ ドン・キホーテ全 4 巻(荻内勝之訳、新潮社) ・ ドン・キホーテ(片上伸訳、新潮社) ・ セルバンテス 世界を創った人びと 15(清水憲男編訳、平凡社) ・ Don Quichotte(Gustave Doré) ・ ドン・キホーテの旅(牛島信明著、中公新書) ・ 贋作ドン・キホーテ(岩根圀和著、中公新書) ・ 丸かじりドン・キホーテ(中丸明著、新潮文庫) ・ 道化の文学(高橋康也著、中公新書) ・ ドン・キホーテの末裔(清水義範著、筑摩書房) ・ ドン・キホーテの国(飯沢匡著、平凡社カラー新書 19) ・ スペイン文学史(ジャン・カン著、会田由訳、白水社クセジュ文庫) 5 6 7 8 9
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