2月 私のスペイン定年留学 ①

飛行機に乗ったドン・キホーテ 第27回
私のスペイン定年留学①
「熟年よ 大志を抱け!」
日本では今、定年後のロングステイ(海外長期滞在)が静かなブームとなっています。「年
金で楽しい海外生活」――大いに結構。今は、少し無理をしてでも子供を海外留学に送り出
す親が多くなりました。もう半世紀近く前、私の高校時代には留学なんて夢のまた夢、都
会の超優秀生がフルブライト奨学金を利用した留学をできる、といった話を聞いていたの
みでした。
1ドル360円。それも自由に外貨が手に入らない時代でした。現在は1ドル100円を切って
います。国際化の波に乗って、誰でも海外に行かれる時代です。国内では年金行政のずさ
んさが問題となり、年金の将来を危ぶむ声もありますが、少なくともまじめに定年まで働
いた日本人であれば、現時点でその年金は、ほぼ誰でもが海外(先進国の大都市を除く)で
生活できる金額になっています。
そこで大事になってくるのは、海外でどういう生活をしていくかということでしょう。
ただ「楽しい」だけでなく、そこに何かの目的、創造的なもの、または社会に貢献できるも
のがないと、人間として本当の満足にはいたらないでしょう。その創造的な人生の一例が
「定年留学」なのです。
定年後はHavingよりもBeingが大切なのです。財産や貯金を持っているより、今、何を
やっているかが問題。財布にいくら入っているかが問題ではない。心にどんな夢を描いて
いるかが問題なのです。
Seniors be ambitious!! 「熟年よ大志を抱け!」です。思い切って海外に飛び出せば、思っ
ても見なかった世界が開けてきます。残りの人生が充実してきます。
留学にあたって言葉ができることに越したことはありませんが、そうした状況になくて
も、まず“語学留学”から始めることもできます。留学先ではまったくの初歩からクラス分
けをしているので、心配はありません。また、必ずしも学問的なものでなくても、スペイ
ンを例に取れば、ギター留学、絵画留学、フラメンコ留学だってあります。
私は定年2年目の2002年5月からちょうど1年間、南スペインのマラガ大学に留学しまし
た(定年1年目は失業保険の受給のために日本を離れることはできなかった)。かつて現役時
代に、聖教新聞のパナマ特派員として各国を回っていたとき気づいたこと――それはラテ
ンアメリカの文化の原点はすべてスペイン、ということでした。以来、いつかはスペイン
を訪ねその原点を探りたい、特にその文学の原点ともいうべき「ドン・キホーテ」を究めてみ
たい、との夢を抱いていました。
今回は「社命」ではなく、「自らの意思」による海外です。妻も一緒に渡西。コスタ・デル・
ソル(太陽海岸)――地中海岸のマラガ市から電車で30分のトレモリーノスのアパートに居
を定め、“再び青春”の留学生活を始めたのでした。現地ではクラス仲間との交流のほか、
魚屋、八百屋での買い物、スポーツ、観光地の訪問等を通してさまざまな異文化の衝突を
体験してきました。それは、我が人生の中でも最も充実した実り豊かな1年でした。「こん
なすばらしい定年後の生き方もあることを、ぜひ皆さんにもお知らせしたい」。そんな強
い思いから私は帰国後、「『定年留学』してみませんか?―60歳からのアクティブライフ
のすゝめ―」との本を出版しました。
以下、その本の一部を引用しながら、メキシコの皆さんにも参考になると思われる内容
をこれから順次ご紹介していきます。内容は、高尚な文明論や文化論ではなく、妻や子供
もある一人の日本人シニアの目に映った文化の比較、現地の人々と肌を触れ合って実感し
た“生の国際体験”です。
それでは次号からのエピソードの数々にご期待ください。
清水武 Takeshi Shimizu 旅行作家
世界文学紀行を定年後のライフワ
ークに作品の舞台を訪ねている。
東京都・昭島市在住
http://homepage2.nifty.com/donky/
28 Tabi Tabi TOYO FEB2009
マラガ大学のスペイン
語コースの校舎