A8.7 〔参考訳〕 1000 年もの間、運動は医師や学者によって推奨されてき

A8.7
〔参考訳〕
1000 年もの間、運動は医師や学者によって推奨されてきた。60 年以上にわたって、科学
によって身体的に活発な生活習慣がもたらす健康上の利益が広範囲で強力なものであるこ
とが示されてきた。1953 年、The Lancet 誌は、Jerry Morris らによる記念碑的な論文を
発表した。それは仕事における身体活動と心臓冠動脈疾患との関連に関する論文である。
座った姿勢のロンドン交通局のバス運転手は、心血管イベントのリスクが、より活発に動
き回る車掌仲間と比較して高かったのである。この論文は身体活動に関する疫学の基礎を
築くとともに、運動不足を多くの非感染性疾患のリスク増加と関連付ける以降の研究の展
開に刺激をもたらした。
私たちは現在、運動不足が QOL の低下はもちろん、心血管疾患やⅡ型糖尿病、肥満、あ
る種の癌、骨粗しょう症、精神疾患のある側面、そして全体的な死亡率に関する重要な予
測因子であることを理解している。
もし活発に歩くといった中程度の有酸素運動を、1 週間で少なくとも 150 分するという公
衆衛生上の推奨を達成できれば、年齢層、社会経済的地位、そして民族を問わず、あらゆ
る男性・女性はより健康的になる。子ども・青少年について、直近、あるいは今後の健康
面での利益も明確に説明されている。彼らについては、毎日少なくとも 60 分、激しい、も
しくは中程度の運動が推奨されている。筋力を鍛える運動もまた、健康増進に向けて推奨
されている。
2008 年では、世界中の死亡の 63%が非感染症によるものであり、主として循環系の病気、
糖尿病、癌、閉塞性肺疾患であった。運動は近年、国連により非感染性疾患と闘う上での
基礎と考えられている。WHO は運動不足を罹患率および若年層の死亡率に対する世界規模
の主要な危険因子の一つと見なしている。さらに、運動不足が肥満や高血糖、高血圧、脂
質状態の低下など、死亡率・罹患率の多くの危険因子に直接的に影響を与える。加えて、
中程度の運動であっても十分な利益が得られる。運動しているとはいえ、推奨されている(1
週間あたり 1.5 時間)よりも少ない程度しか体を動かしていない人であっても、不活発な人
と比べると、3 年ほど長生きする。
世界中で運動が健康増進についての大きな可能性を秘めていることは明白だ。運動科学
と公衆衛生とによる科学的な貢献によって、健康の影響やその結果に関する理解は大いに
進んでいる。それに伴い、運動および公衆衛生に専門性が生じてきた。公衆衛生の実践は、
人々を健康に向かわせようとする、行動志向の分野である。60 年以上に及ぶ研究の後、私
たちを運動不足へとそっと仕向ける技術的進展によって、それを行動に移すことが緊急に
求められることになっている。
自動車や他の移動手段など、労働を節約する機械により、生存に必要な最低限の一日あ
たりのエネルギー量が減るという、予期せぬ結果がもたらされている。この問題は、実際
に社会的・身体的な移行期にある低・中所得国では、殊に懸念されるものである。(研究・
実践という点で)同じことを続けても不十分であろう。世界が抱える課題は明白だ。すなわ
ち、健康を増進し、非感染性疾患による負担を軽減するために、世界中で運動を公衆衛生
上の優先事項に据えることである。しかし、その目的を達成するにはなすべきことが多々
ある。それはこの Lancet での特集で強調している通りだ。
2012 年のオリンピックが迫るにつれ、スポーツ・運動は大きな世界的注目を浴びること
になろう。オリンピックと同じ時期に運動と健康に関する連載を行うことは偶然の一致で
はない。多くの国から集まったエリート選手が過酷な練習・技術。身体能力を必要とする
スポーツ大会で競い合い姿を世界中が目にすることになるが、観客のほとんどがほとんど
運動しないだろう。オリンピックやプロサッカーなどエリートたちのスポーツに対する人
気は、世界の人々の健康を改善させるであろう運動や身体活動に、多くの人々を参加させ
る変化をもたらしてこなかったし、これからももたらすことはないだろう。IOC やオリン
ピック・ムーブメントは、若年で運動不足が増えていることに懸念を表明し、健康な生活
習慣にとっての運動やスポーツの重要性を理解してはいるのだが、運動不足は公衆衛生活
動を必要とする大きな懸念であり続けると思われる。
〔解答例〕
設問 1.
運転手はずっと座ったままだが、車掌はその仕事で動き回って運動しており、その運動量
が多くなっているから。
設問 2.
生活習慣病
理由:運動不足などの生活習慣が要因となって起こる疾患である心臓病や糖尿病、肥満、
ある種のガンなどは生活習慣病とされているから。
設問 3.
すべての年齢層、すべての社会経済的集団そしてすべての民族で、男女ともに、もし公衆
衛生で推奨されている、1 週間に少なくとも 150 分の中ぐらいの強度の有酸素運動、例えば
早足でのウォーキングをすれば、より健康になる。
設問 4.
技術的な進歩により、運動しなくてすむ道具、すなわち自動車や他の交通手段などは、生
きていくのに必要な最小限のエネルギー消費を無意識に減少させてきたこと。
設問 5.
オリンピックやプロサッカーなどエリートたちのスポーツに対する人気は、世界の人々の
健康を改善させるであろう運動や身体活動に、多くの人々を参加させる変化をもたらして
こなかったし、これからももたらすことはないだろう。