くすり通信 №25 - 近江八幡市立総合医療センター

近江八幡市立総合医療センター
薬剤部
医薬品・医療機器等安全性情報
2010.10.01
272 号
※以下の院内採用薬につきまして、各種添付文書の変更・追加がありましたので、
ご報告いたします。
★文中の略号は以下の通りです★
警 警告、 禁 禁忌、 用 用法用量、 慎 慎重投与、 基 基本的注意、 副 副作用、 相 相互作用
・ビスホスホネート系薬剤(BP製剤)による顎骨壊死に係る検討状況等:P.3~
ボナロン(アレンドロン酸)、ビスフォナール(インカドロン酸)、ゾレドロン酸
(ゾメタ)、アレディア(パミドロン酸)、ボノテオ(ミノドロン酸)、ベネット(リ
セドロン酸)
BP製剤の顎骨壊死等発症リスクをふまえ、必要に応じて抜歯等の侵襲的な歯科処置はBP製
剤投与前に済ませ、投与中は歯科的口腔内管理を定期的に受ける・・等の使用上の注意が追加。
・トリプタノール(アミトリプチリン):P.11~、
パキシル(パロキセチン)、ルボックス(フルボキサミン):P.12~
他
SSRI、三環系抗うつ剤を投与された患者で骨折リスク上昇 追加
・ディナゲスト(ジエノゲスト)
副
アナフィラキシー様症状 追加
・アムビゾーム(アムホテリシン B):P.13~
副
心停止、心不全、不整脈(心室頻拍、心房細動等)、低カリウム血症 追加
・サラゾピリン(サラゾスルファピリジン):P.13~
基
投与開始前に必ず血液学的検査、肝機能検査および腎機能検査を実施。
また、投与中定期的に上記検査を行うこと
・オゼックス(トスフロキサシン)、パズクロス(パズフロキサシン):P.13~
慎
重症筋無力症の患者
・ジェニナック(メシル酸ガレノキサシン):P.14~
慎
重症筋無力症の患者
副
間質性肺炎、好酸球性肺炎、重症筋無力症の悪化 追加
・シプロキサン(シプロフロキサシン):P.14~
慎
QT 延長を起こすおそれのある患者
副
多形紅斑、QT 延長、心室頻拍(Torsades de pointes 含む)
※
安全性情報のバックナンバーにつきましては薬剤部・掲示板「医薬品安全性情報」または
医薬品医療機器情報提供 HP
承認前でも適応外薬に保険
(http://www.info.pmda.go.jp/)をご参照ください。
~ドラッグラグの解消に向けて~
H.22 年 8 月 25 日、厚生労働省は既存薬剤を効能・効果が承認されていない疾患に使った場合(適応外使
用)でも、一定条件の下、保険適用とすることを中央社会保険医療協議会(中医協)に提案し、了承さ
れました。これを受け「卵巣癌へのゲムシタビン」など 5 成分(表1)について適応外の薬剤を使用し
た場合でも、医療上の必要性が高く、海外の使用実績があれば、薬事承認前でも薬剤費が保険適用され
ることになりま
した。日本では
新規薬剤の承認
や既存薬剤の効
能・効果の追加
までの期間が長
く、現場でなか
なか使用できな
い、いわゆる“ド
ラッグラグ”が
以前から問題となっています。今回の適応外使用の保険適用は“ドラッグラグ”解消のための第一歩と
なるかもしれません。
日本の
日本のドラッグラグ問題
ドラッグラグ問題
2005 年、製薬協政策研により「日本の上市ラグは約 4 年、最も短い米国と英国(約 1.5 年)に比べ約
2.5 年遅れている」との報告がされました。また、日本で創製された抗癌剤オキサリプラチンが欧米から
10 年以上遅れて承認されたことなどがメディアで大きく取り上げられ、ドラッグラグは国民の興味を引
くテーマとなりました。臨床的重要度の高い“海外オリジン”薬剤群の日本における承認割合は 46.7%、
承認ラグは 41.5 カ月と顕著なドラッグラグが見られます。ただ、これら薬剤群の審査期間は米国:6.2
カ月、EU:15.2 カ月、日本:13.3 カ月であり、審査期間自体にはそれほど顕著な差はありません。日本
におけるドラッグラグの原因として、世界初承認時に日本における治験実施の開始の遅さが挙げられる
とされています。また、薬事承認と保険適応を一緒にしているのは世界でも日本のみであるとされ、適
応外使用での保険適応を遅らせる根本原因とも言われています。
海外での
海外での適応外使用
での適応外使用の
適応外使用の実際
海外では薬事承認と保険適応は別であり、一度 FDA(米国食品医薬品局)、EMEA(欧州医薬品審査庁)
で承認された薬剤の適応外使用での保険適応は、新しいエビデンスが出た時点で順次保険適応となるし
くみが確立されています。例えば、卵巣がんに対するパクリタキセルは 3 週に 1 回の投与方法として、
承認・保険適応になっていますが、日本において 3 週に 1 度の投与方法に比べ週 1 度の投与方法が生存
率を向上させた結果が発表されました(Lancet 2009; 374: 1331-38)
。パクリタキセル週 1 度投与方法
は、どこの国でも薬事承認はされていませんが、この日本の臨床試験の結果をもって、ほとんどの国で
保険償還可能となっている現状があります。すなわち海外では「Lancet の論文があるから」ということ
で保険適応になるしくみができています。
公知申請と
公知申請と今回の
今回のルール改正
ルール改正
今回の適応外使用の保険適用に際し、いわゆる「公知申請」の活用が試みられました。適応症を追加
する場合、一般に製薬会社は国内治験を実施し、厚労省に申請、薬事承認を受けた上で、保険適用の可
否が判断されます。「公知申請」とは、海外論文などで安全性や有効性のエビデンスが公に知られてい
れば、治験を実施しなくても薬事承認を申請できるというものです。製薬会社による公知申請の前には、
厚労省の薬事・食品衛生審議会(薬食審)による事前評価が行われますが、事前評価が終了した時点で、
公知申請前であっても即日保険適用できるよう今回ルール変更がされました。
未承認薬は
未承認薬は対象外
今回のルールの変更はあくまで公知申請に関するものであり、国内において別の疾患で処方が認めら
れている適応外薬だけで未承認薬は対象外です。中医協では「海外で十分なエビデンスがある薬剤なら、
それを基に(未承認薬も)保険適用してもいいのではないか」という意見が上がりましたが、厚労省は
「まず国内治験の実施が原則」との考えを示しました。検討会議には現在、学会などから 374 件の薬事
承認の要望が挙がっており、うち未承認薬は 94 件で既に検討会は 55 件を医療上の必要性が高い薬剤と
しています。こうした薬剤の審査期間の短縮もドラッグラグの解消には必要とされます。今回のルール
変更は、ドラッグラグ解消のための第 1 歩と評価できますが、まだまだ認められる件数が少なく、抜本
的なドラッグラグ解消策には至っていないのが現状とされています。
薬剤部 小川暁生
参考文献・
参考文献・URL
・日経 DI、日経メディカル:
承認前でも適応外薬に保険~2010.9.7~、ドラッグラグは本当になくなるのか~2009.8.31~、医薬品の適応外使用~2010.9.9~
「未承認薬・適応外薬検討会議」をガス抜きに終わらせるな~2010.7.20~、医師800人に聞いた「適応外処方実態調査 2009」、
http://medical.nikkeibp.co.jp/