阿木診療所通信 4 月号 <グリーフについて> 中津川市地域総合医療センター 高橋春光 春もたけなわ。新緑がまぶしく映える美しい時期となりました。今回は「グリーフ」 (悲嘆)というものついてお話したいと思います。 「グリーフ」(悲嘆)とは? 「グリーフ」とは“悲嘆”と言う意味です。愛情を注ぐ対 象を失うことにより生じる反応で、精神的・身体的症状を 伴った症候群です。一般的には愛する者の死に伴う正 常な反応ですが、死別者はさまざまなストレスから持病 の悪化や新たな病気が出現します。 「グリーフ」(悲嘆)の経過 通常の悲嘆の反応は誰にも見られる正常な反応であり、自責感、ストレス、痛み、 怒り、敵意の感情と理知的、感情的な喪失感の自覚で特徴づけられます。次のような 一連の経過をたどりますが、必ずしも順番通りにたどるとは限りません。またその感 情の表現方法は文化によって異なり、個人差も大きいです。特に配偶者や子供との 死別、突然の予期できない死別は強い悲嘆をもたらします。 1. ショック期 信じられない気持ちや情緒的に麻痺した感じにとらわれ、1~2 週間持続します。 感情的なショックが特徴です。 2. とらわれ期 悲嘆の対象者(死者)についての思いに強くとらわれ、数週間~半年ほど持続し ます。抑うつと身体的な症状が一般的で、死のことを何度も思い巡らすのが特徴 です。 3. 受容期 死者に向けていた情緒的エネルギーを新たな関係に向け直すようになる時期で す。愛するものの死から 1 年経ったところで一区切りがつけられますが、子供との 死別の場合は 5 年続いても異常とは言えません。 病的悲嘆 死別者の 10~15%に病的な悲嘆が認められます。通常の悲嘆の経過が意識的 にあるいは無意識的に抑えられ、自分自身で乗り越え受容して行くように努める悲嘆 の作業(グリーフワーク)が、十分にあるいは全く行われなかった場合に生じます。病 的な悲嘆は、うつ病、心身症、恐怖症、強迫症、不安症、薬物・アルコール依存症、家 族内の問題などを引き起こし、さらに罹患率や死亡率、自殺率が高いことも報告され ており、専門的な医療介入が必要となります。病的悲嘆には次のようなものがありま す。 1. 慢性的な悲嘆反応 持続的な期間が極端に長く続き、解決されない悲嘆反応。 2. 時期はずれの悲嘆反応 喪失時に十分な情緒的反応がなされず、後日顕在化した悲嘆反応。 3. 誇張された悲嘆反応 非常に強い悲嘆反応のために、喪失と関係していると気付いていながらも感情に 圧倒されて不適応行動を起こす悲嘆反応。 4. 仮面悲嘆反応 自分を苦しめている症状や不適応行為が喪失に関係していることに気付かずに いる悲嘆反応。 悲しみを癒すためには グリーフ(悲嘆)を癒し、様々な症状を軽くし、抜け出 すためには、充分に悲しみ、何らかの方法で悲しみを表 出し、受け止める作業(グリーフワーク)が必要です。信 頼できる場での心の解放、悲しみを癒すための機会の 創出、体系的な心の整理を行うことによって、グリーフ (悲嘆)を軽減させることができます。 何かわからないことや心配なことがあれば、気軽に医師に相談してみましょう。
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