紳士な吸血鬼のお話 たか等 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ 一見してその計画は完璧だった。実行者だってそう思った。 しかしそれは確かに完璧であった。もちろん完璧な失敗という意 味において。 目 次 紳士な吸血鬼のお話 │││││││││││││││││││ 1 ﹂ 紳士な吸血鬼のお話 ﹁痛ェッ ほんの些細なことが少し異なる未来を呼び込む。 それは例えば蝶の羽ばたきであったり、一陣の風であったりする。 ﹂ ﹂ 今回はそこらに転がる小さな石ころがそうであった。 ﹁ぎゃははははは ﹁おい、笑うんじゃねえよッ そして、それはそう悪いことではなかった。 なんてことはない。酒を飲んだ彼らは機嫌がよかったのだ。 うでもよくなり遂にはつられて彼も笑い始めた。 相棒に腹が立って最初は怒っていたが、相棒の笑い声を聞くうちにど 転んだ方の男は多少手のひらを擦りむき、笑うだけで助けもしない 一人の男がそれを見て笑い、声をあげていただけであった。 しかし実際にはそんなことは起こらず、ただ一人の男が転び、もう い。そして何かしらの言いがかりをつけていたかもしれない。 男が転ばなければ、あるいはその青年とぶつかっていたかもしれな のまま二人組など気にも止めずに去っていった。 浪者二人組より怪しいかもしれない身なりのいい││その青年は、そ こんな未明に酒瓶片手にふらつきながら歩く││もしかしたら浮 しなかった。 ある青年が両者を見下しながら通り過ぎたことに二人は気付きも ﹁ふん﹂ そしてそんな二人組の横を、 なく面白かったためであった。 横に並んだ彼の相棒はその様子を見て笑う。その唐突さがどこと ある港町の路地で一人の男が足元の小さな石に躓いて転んだ。 ! ! 少なくとも、その二人組にとっては幸運なことであった。 1 ! ││││││││││││││││││││││││ 下らないものを見た。 その青年││ディオにとって先ほど見た男たちとはまさに嫌悪す る対象そのものであった。 無様を晒しながらも恥もなく、そして終いには記憶すらも失う。容 易に想像できるそんな姿は、かつて彼が幾度となく見たものであり、 父と呼ぶのもおこがましい存在が晒し続けた姿でもあった。 最期の時も俺にすがりつきなが あ い つ は そ う や っ て 母 を 殺 し た。だ か ら 毒 を 薬 と 言 っ て 殺 し て やった ﹂ ていることを証明しているようで、 ﹁くだらんッ に対する嫌悪であった。 ・・ そうとも、あのジョジョに屋敷 で隙を見せたからだ。今もなお自身の迂闊さに腹が立つ。 こんなことになったのはなぜか ? 残ったのは酒のベタつきと、しかしそれ以上に嫌悪、ただただ自身 手にした酒瓶を叩き割る。安っぽい音が響く。 ! 2 思い知らせたのだ、あのクズに ら泣くその姿を笑いながら踏みにじってやったのだ ﹁ハッ﹂ ・・・ 何もせずに、腹が立つからと飲んだくれ ? それは、今の自分がかつてのあいつのような⋮⋮嫌でも血の繋がっ てふらつき歩く。 だが今の自分はなんだ とは違うことを証明するやるためにも。 てを奪いつくしてやる。あいつではできなかったことを⋮⋮あいつ あいつの置き土産というのは癪だが、ジョースターという一族すべ ⋮⋮そうだとも、殺してやるのさ。そして奪ってやる。 ! ! ! しかし⋮⋮ならばどうする こんなところで呑気に、策も講じず その姿はあいつとどれほど違う ⋮⋮ああそうだとも、こんなことをしている場合では 自身の破滅を待つだけか ﹁クソがッ ? ? オウガーストリート れた骨針が頭に食い込めば即死は当たり前。そしてこの仮面をどこ ││いかなる秘密、もとい古代人の目的があろうとも仮面に仕込ま る。 彼が考えたのは、ある重要な前提を一つ失って実行される計画であ │ディオの場合は致命傷と言うべきものであった。 たが、ともすれば彼らのように躓いて転ぶこともあるのだ。特に彼│ 途中ですれ違った二人の男。それは確かに路傍の石に過ぎなかっ そうしてその青年は急いでジョースター邸へ帰宅することにした。 ││││││││││││││││││││││││ は。 すべきではないのだ。少なくとも⋮⋮奴の死の確証が得られるまで るべき手札は確保してあるが万が一ということもある。ならば油断 ならばそれに備えて手はずだけでも整えておかねばなるまい。切 い。 である。忌々しいことにも毒薬の手がかりを掴んでいるかもしれな しかし仮に⋮⋮仮にあの食 屍 鬼 街から戻ったとなればヤツのこと でいるかもしれない。 無為なことかもしれない。あるいは既に奴は殺されたか野垂れ死ん いつ帰るとも知れないジョジョを待つ、それは確かに苦痛であり、 ないのだ﹂ ? かの誰かが研究しており、更にそれが過ちとして実行され事故死す る。 3 ! 普通に考えればそれは当然のことである。 死を前提とした狂気の実験など行われなかったのだからそうとし か結果を予測できない。結果、そうした当然の推論を前提に計画が練 られた。 一見してその計画は完璧だった。実行者だってそう思った。 しかしそれは確かに完璧であった。もちろん完璧な失敗という意 味において。 ││││││││││││││││││││││││ オウガーストリート 4 食 屍 鬼 街 で 毒 薬 の 証 拠 を 掴 み、邸 へ 帰 っ て き た 僕 を 出 迎 え た の は ディオだった。 その穏やかな表情には、彼が為したであろう非道のことなど少しも 浮かんでいなかった。 彼は、かつて過ごした貧民街がどれほど酷い場所かを語り、それゆ え僕のことが心配でたまらなかったという。 事情を知らなければ彼の口にする通り、その姿は僕たちの無事の帰 還を喜んでいるようにしか見えなかった。 ⋮⋮しかし、今となってはそうした姿は全て欺瞞だということがわ かってしまった。 ﹁解 毒 剤 は 手 に 入 れ た よ ⋮⋮ つ ま り 証 拠 を つ か ん だ と い う こ と だ よ ﹂ ディオ⋮⋮。彼から、この東洋人から君はあの毒薬を購入したんだろ う 反応した。それを見逃さなかった僕は、遂にディオに対する確証を持 スピードワゴンが連れてきたその東洋人を見て、ディオはわずかに ﹁ッ⋮⋮﹂ ? つことになった。ただ、それでも、 ﹁ディオ⋮⋮僕は気が重い⋮⋮。仲がよかったとは言えないが、兄弟 同然に育った君をこれから警察につき出さなくてはいけないんなん て﹂ それはとても残念としか言いようのないことだった。 ⋮⋮しかし、父を守るため、そしてジョースター家を守るためにも 行 う べ き こ と は 行 わ な け れ ば な ら な い。そ れ が た と え 彼 が 相 手 で あっても。 僕の言葉を聞いたディオは、近くの椅子に腰掛けて深く息を吐き、 腰掛けた。そして、一息置いてから答えた。 ﹁ジョジョ⋮⋮君は、そういうやつさ⋮⋮その気持ち、君らしい優しさ だ。理解するよ﹂ そういって彼はうなだれた。 今、彼が何を考えているのか。それが未だに僕にはわからなかっ ﹂ 僕は悔いているんだ、今までの人生を り追い詰められた野獣のごとく必死の反撃に出ると警戒していたの に。 ﹁ジョジョ ! だ 5 た。 もっと言うと、目の前の兄弟と呼べるほどに同じ時間を過ごした相 手がこのようなことをしでかしたなど、未だに信じられない。彼の何 を信じればいいのか⋮⋮それとも、何も信じられないのだろうか。そ んな僕の懸念とは別に、ディオは話を続けた。 ﹁ジョジョ⋮⋮勝手だけど頼みがある⋮⋮最後の頼みなんだ。 僕に機会をくれないか。父さんに、僕の罪を告白する機会を るつもりなんだ それが終わってから⋮⋮すべてを明らかにしてから僕は自首をす ! 僕は、ディオがこんな態度を取るなんて思っていなかった。てっき 罪の告白。それは意外なことであった。 ! 貧しい環境に生まれ育ったんで、くだらん野心を持ってしまったん ! バカなことをしでかしたよ、育ててもらった恩人に毒を盛って財産 ! を奪おうなんて ﹂ ﹁その証に自首するためにジョースター邸で待っていたんだよ。 ﹂ 逃亡しようと思えば外国でもどこへでもいけたはずなのに の償いをしたいんだ ﹂ ﹁ヌムッ 罪 信 じ る な よ そ い つ の 言 葉 を それは彼の口にする通り⋮⋮ある種の決意の上だったか ﹂ ﹁ジ ョ ー ス タ ー さ ん ⋮⋮ 気 を つ け ろ そして、それはもしかしたら⋮⋮。 らじゃないだろうか たのか 顔を合わせたとき、なぜあのように穏やかな顔で僕たちを迎えられ まった。 た、たしかに。涙ながらに語られるその言葉の数々に納得してし ! ! 耳を傾けるべきではないとも言い切った。 ﹁ジョースターさん早えとこ警察に渡しちまいな 僕の⋮⋮僕の罪を知ってほしいんだ ! ﹂ ! やはりどうして彼がこんなことをしでかしたのか、それが気になっ ﹁僕は⋮⋮彼の謝罪を認めようと思う﹂ ろう。しかし⋮⋮、 だろう。有無を言わさずディオを警察に引き渡すことが正解なのだ きっとディオの言葉よりもスピードワゴンの忠告の方が正しいの 白の機会を設けるか。 ディオをこのまま警察へと引き渡すか、それとも父の前で最後の告 二人が僕に決断を迫る。 許してもらおうなんて思っちゃいない 本当に最後になるかもしれないから父さんに謝罪をしたいんだ ﹁待ってくれ、ジョジョ ﹂ ることなどできないと断言した。そしてそもそもディオの話になど 彼いわく、ディオは生まれついての悪であり、一欠片たりとも信じ の印象について話した。 そうして、僕と貧民街から同行した男││スピードワゴンはディオ そんな僕を引き止めるように、声がかけられた。 ! ! ! ! 6 ! ? ? !? ! たのだ。 これでも7年間を彼と共に過ごしたのだ。最後になるだろうから 少しでも彼のことを理解して別れたかった。 ﹁っち、碌なことになんねぇと思うんだが⋮⋮でも、俺はそういう甘さ も含めてあんたを気に入ってるんだ、仕方ねぇか﹂ いや、 僕の我儘にスピードワゴンはそう返し、ディオはというと、 ﹁ありがとう、ジョジョ⋮⋮ぅぅ﹂ 人目を前にして泣いていた。あの誇り高い彼が ⋮⋮やはり、先ほどの言葉は彼の本心だったのだろうか まだ信じることなどできない。スピードワゴンの言う通りなら、油断 すべきではないのだ。 ﹁ディオ、最低限の条件として君の腕を縛らせてもらうよ﹂ ﹁⋮⋮そうか、しかしそれも当然だな﹂ そう言ってディオは両腕を差し出し、僕はスピードワゴンに渡され ﹂ たロープで彼の両腕を縛った。⋮⋮それにしても、先ほどから気に なっていたのだが、 た傷ではないのだろう。 ﹁そんなことよりもジョジョ、君は早く父さんのところへ行ったほう がいい。僕が言えたことじゃあないけど、早く薬を飲ませるに越した ことはない﹂ ⋮⋮言い返したい気持ちが喉につっかえかけたが、その通りであっ た。 ディオの容疑の証拠をつかむこともそうだが、それ以上に父を救う ことが目的でもあったのだ。一刻も早く解毒剤を飲ませなければな らない。既に東洋人自身にその薬を毒味させているので、少なくとも その安全性は証明してある。 ﹁それじゃあディオを頼んだよ、スピードワゴン﹂ 7 ? ! ちょっと手を切ってしまったんだ。大したことじゃ ﹁そういえばディオ、腕はどうしたんだい ﹁ああこれか ないさ﹂ ? そういって包帯を巻いた腕を少し振るディオ。彼の言う通り大し ? こうして僕は父の部屋へ向かった。解毒剤を飲ませるため、そして ディオの告白以前に掻い摘んだ事情を説明するためだ。 ﹁あの男⋮⋮簡単につかまりやせんよ⋮⋮まだ諦めておらん⋮⋮﹂ 途中、東洋人の男が何か言っていたように聞こえたが、そんなこと よりも、僕は一刻も早く父さんの寝室へと向かうことにした。 ││││││││││││││││││││││││ ジョナサンが去った後でも、ディオとスピードワゴン、二人の話は 続いていた。 なんだこれ ﹂ ﹁ああそれか。この館で過ごしていてどうしても気になっていたんだ よ。最後になるだろうから購入した本人に詳しく話が聞きたかった のさ。それに⋮⋮ジョジョもこうしたものについて詳しそうだから 8 ﹁ジョースターさんはあんたの最後の言葉ってことで信じるみてえだ が、俺は信じられねぇ。いや、信じるなんて無理だ。当然だな。あん ただって同じ立場ならそう思うハズだ。自分が信用に足る人物かど うかなんざ誰かに聞くまでもねえことだろう﹂ それはお前が一番よく知っているはずだ、とスピードワゴンはディ オに対して語る。対するディオは、それを裁きの前の罪人の如く粛々 と聞き流す。 ﹁差し当たって、俺たちを待ち構えていたんだ、凶器を隠し持っている かもしれねぇ﹂ ﹂ ﹁⋮⋮そんなことするものか。調べたければ調べるがいい﹂ ﹁フン、俺を相手に取り繕っても何の旨味もねえぜ ? そういってスピードワゴンは、ディオの懐や裾の中を調べた。 ﹁確かにねえみてえだが⋮⋮ん ? 上着のポケットから、石でできた仮面のようなものが出てきた。 ? ね﹂ ﹁ふーん⋮⋮まあそれくらいは許してやらぁ﹂ たかが仮面であるのだから。そう思ってスピードワゴンは許可し たのであった。 ││││││││││││││││││││││││ 父さんに解毒剤を飲ませ、一息ついたあと、 ﹁父さん、話があるんだ。とても残念な⋮⋮だけど大切な話が﹂ そう切り出して僕はディオの罪の一端を話した。 そして最後に、なぜこのようなことをしたか説明する機会を許して ほしいという彼が述べていることを話し、父はそれを許した。 こうして、腕を縛られたディオとそれを連れたスピードワゴン、そ して毒薬の証人として東洋人の男らが寝室を訪れた。父はディオの 痛ましい姿に悲しげな目をしながらも、彼に話すように促した。 そうしてディオの話がはじまった。 まず、最後にこうした機会を設けてくれたことに感謝するという言 葉を告げ、話は幼少の頃、彼の母を失った当時のものから始まった。 それらの原因となったのは、僕の父の命の恩人であったはずのダリ オ・ブランド│氏であり、彼について語る言葉の節々にはダリオ氏に 対する恨みに伺えた。それはいつか、父へ対する誓いなどできないと 僕に激高したことを思い出させた。 僕は、ディオにそんな過去があったなんてことは知らなかった。 話してくれなかったというのもあるが、それ以上に僕が彼のことを 知ろうともしなかったのだ。 唯一わかっていたことは、彼が父の恩人の息子ということで引き取 られたこと、そして最近、ダリオ氏の手紙を読んで知り得たこととし 9 て、それがダリオ氏の遺言であったという程度のことだ。 オウガーストリート 加えて、ディオがかつて過ごしていたという貧民街。それは、僕が 訪れた食 屍 鬼 街のような場所も多いと聞く。 そのような場所で、今とは異なり、幼かったであろうディオのよう な子供が生き残るためにはどうするか⋮⋮いや、どうしなければなら なかったのか。 簡単だ、人など信用しないことだ。いや、これはできないと言った ほうがいいかもしれない。 そう思えば、僕がディオと会ったばかりのころの態度も納得が行 く。 彼はきっと、奪うことでしか生きていけなかった。父から与えられ た、ジョースター家の一員という立場だってそうだ。僕にとって当た り前のそれは、彼にとってあるいはいつ失ってもおかしくないものだ と感じていたのかもしれない。 人に対する信用が持てない世界、そこでいったいどうやって生きて いくというのか。 ⋮⋮なければ奪って自分のものにする。そうだとも、すべてを奪う のだ。そうしなければ安心できない。そしてそれは同時に、ディオが 父さんのことを信じきれなかったことを意味していた。 ﹁本当にすまないことをしたと思っている⋮⋮ぅぅ﹂ その後、ジョースター家の一員となるも、失う不安からか父や僕を 信じきれなかった自分を悔いて今回のような出来事に至ったと述べ、 最後にディオは泣き崩れた。 僕は⋮⋮ディオのことを知ったつもりでいたが、その実何もわかっ ていなかった。貧民街のことだってここ最近になって知ったばかり だ。わかっていたのは彼の外面、大学や家で僕と対応するときの彼の 姿だけだ。 そ の 内 面 は │ │ も し か し た ら 出 会 っ た ば か り の 頃 の 行 動 が そ う だったのかもしれない。しかしそれらは次第に鳴りを潜め、大学へ入 学するころになると影すら見えなかった。人を信じ切れないディオ、 僕が彼との間に友情を感じなかったのはきっと、そのためだ。 10 どうして⋮⋮いや、彼だってこんな状況にでもならない限り話すこ ともなかったのだろう。彼は人に弱みを見せない、そういう人間だ。 そして僕はそんな彼に、彼の性質に気づけなかったというだけのこと だ。 そうやって僕が考えていること、それは父も同じことを思ったはず だ。父もまた、僕と同じようにそんなディオの思いに気づくことすら できなかった。しかも毒薬を用いるほどに追い詰められていような どとは思ってもみなかったはずだ。そのことの無念さ、それはきっと 僕が想像する以上のものだろう。 そして、そんなディオをせめて最後に一度くらいは抱きしめようと 父は彼へと近づいた。 許してくれとは言わなかった。だってディオは自分の罪を認めて いるのだ。仮にその罪が許されたとしても、彼自身がそれを求めるは ずがないのだ。誇り高い彼のことだ、きっと自分で自分を許せないだ 11 ろう。 そんな思いを汲みとったのか、ディオも父に応じた。腕を縛られて いて難しかったが、それでもなんとか父さんと抱擁を交わした。 これが最後になると思うと、少しだけ寂しさがこみ上げてくる。こ んなことになってしまったとはいえ、家族だったのだ。別れのその光 景が辛くて、僕は少しだけ目をそらした。 しかしそうやって目を離したのがいけなかったのか、唐突に、彼は 抱きついていた父さんを羽交い締めにしたのであった ││││││││││││││││││││││││ ! さっきの告白は嘘だっ !? ディオ なんでッ ! ﹁な、どうしてだ ! たのか ﹂ ﹁⋮⋮いくらかは本心さ。こればっかりは話したくなかったが、そう でもしないと信じてもらえなさそうだったからな﹂ そう呟くディオの姿は、ジョースター卿の影に隠れておりその表情 は知れない。 ﹁デ、ディオ、こんなことはやめなさい。こんなことをしても⋮⋮﹂ ジョースター卿は苦しげにディオに語りかける。 ﹁俺とてこんなことは⋮⋮﹂ ディオは彼の言葉に応えるように小さく呟く。 そんな無意味なことはやめるんだ それに君のそ そして、それを彼の後悔と捉えたジョジョもディオを説得する。 ﹁そうだとも 俺はあのクズとは違うッ ﹂ の行動は⋮⋮君の父親と何が変わるっていうんだ ﹁黙れッ ﹂ ! だ表情に思わず言葉が詰まる。 ! しかし、 これがヤツの隠していた本性だッ ! うのに ﹂ ﹂ こ ん な 下 ら な い ⋮⋮ そ れ に 今 後 も 更 に 面 倒 事 が 待っているのだ。これを茶番と呼ばずしてなんと呼ぶッ 粋な疑問を覚えたジョジョが尋ねる。 すべてが些事だと語るディオに対し、理解しきれない彼の行動に純 ! 消せば済む話 ﹁そうとも、すべては余計なことを知ってしまったそこのボンクラを ﹁茶番だとッ ﹂ えいなければこんな下らない茶番はせずともジョジョを殺せたとい ﹁おっとぉ、お前が一番邪魔だったんだよジョジョの友人君。お前さ しく述べる。 り、ジョジョに注意を促す。一方、ディオはそんな彼に対し恨みがま スピードワゴンだけは元よりそうしたディオの本性を見抜いてお ﹁ジョースターさん ﹂ それは今までジョジョが見たことがない彼の一面であり、その歪ん れずその本性を露わにしたのだった。 ジョジョの言葉がディオの逆鱗に触れた。ディオは、遂に我慢しき ! ! ! ? ! 12 ! ! ! ﹂ そもそもお前に理解なんか なぜこんなことを なんだそれは ﹁⋮⋮どうしてだディオ ﹁〝どうして〟だと ? ﹂ ? た。 な目で仮面とディオを見つめる。 ? だ ﹂ ﹁持ち込んだ理由か らさ﹂ ! ジョジョに尋ねる。 ﹁ジョースターさんッ !? びたんだ。⋮⋮まったくジョジョ、酷いやつだな。それにお前の学者 ﹁そうとも、俺は抵抗した。抵抗したからこそ、この傷を負って逃げ延 いた。 そこには、 ﹁大したことない﹂とは言えないほどの切り傷が刻まれて そう言ってディオは怪我をしていると言っていた腕の包帯を取る。 てやろう。事の顛末というやつをな﹂ ﹁青ざめたなジョジョ、理解したようだな⋮⋮だが一応説明しておい そうした彼らの反応に満足したらしいディオは話を続ける。 わねえが⋮⋮一体ヤツは何をしようとしているんだッ ﹂ この状況からヤツにどうこうできるとは思 ジョジョは息を呑む。一方、未だ理解の及ばないスピードワゴンが 目の前で捕らえられている父と、彼が取り出した石仮面を結びつけ ﹁やりたいこと⋮⋮まさか ﹂ それは当然、最後にやりたいことがあったか ﹁ディオ、なぜ⋮⋮なぜ君がそれを⋮⋮いや、なぜそれがここにあるん ﹁さぁてジョジョ、この状況がどういったものかわかっているか ﹂ それがなぜこの場面で仮面が出てくるのかとスピードワゴンは怪訝 それは先ほどスピードワゴンが目にした石仮面であった。しかし、 ﹁あの仮面はさっきの⋮⋮﹂ ﹁な⋮⋮それは⋮⋮ ﹂ そう言ってディオは器用にも、懐から石仮面を取り出すのであっ ﹁なんだって⋮⋮ る場合ではなくなるさ﹂ 求めちゃあいない。それになぁジョジョ、じきに俺の心配などしてい ? ? ! 13 ? ! ? !? ﹂ としての知識欲は狂気じみているなぁおい﹂ ﹁なにを⋮⋮なにを言っている ﹁お前にとって身近な実験材料とは俺かこいつか、もしくは執事たち 使用人だろう。まさか動物で実験するわけにはいくまい。⋮⋮しか しそうなると、何の恨みもないし可哀想だが使用人も何人か殺してお くかな。フフフ﹂ これまでの態度とは一変して、彼は誰に言うでもなく、さも楽しげ に語る。 ﹁僕は、昔からあのジョジョという男には粗暴な、いつも恐ろしく感じ ていた一面がありました。とくに彼が研究室にこもって何かの研究 をしているときにいっそう⋮⋮それがまさかこんなことになるなん て⋮⋮﹂ 努めて真面目そうな口ぶり、しかしそれはジョジョが知るディオと いう男そのものであった。 ﹁⋮⋮とまあ、そんな風に供述してやるから安心するといい。いつか やると思っていました、とも言ってやろうかな﹂ ﹂ ﹁すべて演技だったというわけか、ディオッ ﹂ 今夜の出来事のすべては彼の狂気によるものだと。⋮⋮そ ・・・・・・ 真実は君が毒 うとも、今からここで起こることはそういうことになるのさ ﹁そんなでまかせに人々は惑わされたりはしないッ それが おいおいそんな ! ! 薬を父さんに盛ってジョースター家を乗っ取ろうとした ﹂ それに真実 ? 真実だ ﹁っは、何を言うかと思えば毒薬 ! ター 彼は語る。犯人はジョースター卿の一人息子ジョナサン・ジョース 語る。 かし一人の青年が逃げ延び、後にこの事件の犯人とその真意について るジョースター卿の変死体が見つかり、使用人も幾人か殺された。し 今夜、このジョースター邸でとても奇妙な事件が起きる。家長であ ﹁事件の筋書きはこうだ。 ひとしきりジョジョを嘲笑したのち、彼は再び語り始めた。 ﹂ ﹁そうとも、いまさら気づいたのかマヌケめ ! ? 14 ? ! ! ! でっち上げを法廷は信じるかな なあおい ? は問いかけた。 ﹂ ﹁⋮⋮そんなものは知りませぬな﹂ ﹁なッ、てめぇ ・・・・・・ ﹂ ここで起こったことはそういうことになる ﹂ ! 果さ そこには人を殺す拷問器具について延々と書かれている ﹂ ! それはお前が証拠だと ! ﹂ いずれにせよ父殺害の容疑を俺になすりつけ ようなどと見苦しいことよッ ? るディオに対しジョジョは静かに答えた。 真実は決して揺るぎはしない﹂ ﹁⋮⋮ディオ、すべてが君の言う通りに動くと思っているのかい そんな虚実を誰が信じる ? ぶんだよォ ﹂ ﹁っは、真実なんてものはなァ、法廷で認められたもののことをそう呼 ? 未だ生きている父を前にして、のうのうと殺害後の予定について語 ! てどちらが上かな 口にする、苦し紛れのありもしない毒薬と比べてその信憑性は果たし その証拠をどうこうすることもできない ﹁そして、既にお前のご大層な研究成果は大学に送ってある。今さら ならば、実際にどうなるか知りたかったはずだ﹄とな それを見た人々はきっとこう思うだろう。﹃これほど調べているの ! ﹁物的証拠はまず、お前の凄まじい熱意を込めて記されている研究結 殺した ﹁ジョジョ、お前は知らぬうちに殺意をも飛び越え実験と称して人を ないか ﹂ たな 研究者の狂気ってのは人を殺す動機としては十分だと思わ ﹁フッ、もはや覆しようがないのさジョジョ その熱意が仇になっ スピードワゴンの傍らにいる、今まで無言を貫いていた東洋人に彼 ? ! ! 装着した。 そう言ってディオは手に持っていた石仮面をジョースター卿へと げでなんとかなりそうだ﹂ ﹁さぁてジョジョ、お前のせいで追い詰められたが、しかしお前のおか ター卿を締め上げた。 そうディオは叫んで、話は終わりとばかりによりきつくジョース ! 15 ! !? ! ! ﹁そ こ で お 前 の 知 り た か っ た こ と を 代 わ り に 実 験 し て や ろ う。な ぁ に、お前が長年抱えていた下らない疑問はこうして実験をすれば一瞬 よせ ﹂ にして解けるというもの。結果は⋮⋮まあ想像通りになると思うが ね﹂ ﹁ディオ ﹁やめろォッ ﹂ ﹁都合のいい、な﹂ ﹁ディオ⋮⋮﹂ いい父親だったよ﹂ ﹁さよならだ、ジョースター卿。俺の⋮⋮あのクズと違ってあんたは してすでに自分の行末を理解しているようであった。 ター卿へと語りかける。彼自身、目の前で繰り広げられる会話を前に ディオは、そんなジョジョの静止の言葉も聞かず、最後にジョース ! ││││││││││││││││││││││││ 動し、ジョースター卿の頭部に骨針が食い込んだ。 ディオの思惑通り、そしてジョジョの想像通りに石仮面の機構は発 傷口が仮面へ近づき、そして血液が石仮面に付着した。 ⋮⋮だがもう遅かった。 かかった。 どうにかして目の前の惨劇を止めようと、ジョジョはディオへ飛び ! そして⋮⋮。 16 ! 奇妙な光とともに、紳士な吸血鬼が誕生した。 それはもちろん誰しも想定外の出来事であった。 ⋮⋮⋮⋮。 こ の 物 語 は そ ん な 彼 と 不 思 議 の 都 イ ギ リ ス に 潜 む 摩 訶 不 思 議 な 人々の織り成す奇妙な冒険である。 17
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