7022 気象観測技術等を活用した火山監視・解析手法の

気象観測技術等を活用した
火山監視・解析手法の高度化に関する研究
気象研究所(代表者:山本 哲也)
火山活動を把握するための観測種目には多種多様なものがあり、現在、気象庁においては、震動観測、地殻変動観測、電磁気観測、表面現象観測、熱観測や火山ガス観
測が行われている。しかし、迅速・正確な火山監視のためには様々な課題も多く、これらのデータの高精度化や解析手法の改善は重要である。
気象庁は、平成20年3月から、火山灰移流拡散モデルを用いた降灰予報を発表する業務を開始し、これまで桜島や浅間山、霧島・新燃岳の噴火に際して発表している。しか
し、現在の予報は降灰の範囲に限られており、量的な予報が今後の課題となっている。そのためには、初期値となる噴火現象の定量的監視技術の開発や噴煙モデルによる
動力学的研究及び移流拡散モデルの改良が必要である。そしてこれらの研究の波及効果として、航空路火山灰情報(VAA)の高度化にも資することができる。また、地殻変動
の観測データ等に含まれる気象ノイズの除去をはじめとする監視・解析手法の高度化も課題となっている。
気象研究所では、地震火山研究部と予報研究部、気象衛星・観測システム研究部が共同して、「気象観測技術等を活用した火山監視・解析手法の高度化に関する研究」を
平成21年度から25年度までの5か年計画で遂行中である。
2011/1/26 17:00-10JST(時系列のAに相当)
気象レーダーによる噴煙の解析
-霧島山新燃岳噴火の事例-
火山噴火の検知は、火山観測の最も重
要で根幹的なものであるが、特に、悪天
時や火山に雲がかかっている場合、それ
を即時的定量的に行うことは必ずしも容
易ではない。気象レーダーによって噴煙
が偶然検知できた事例は内外で多くあり、
威力を発揮することが期待できるが、火
山観測を目的としたレーダー観測や系統
的・継続的な研究はこれまで極めて少な
かった。
2011 年1月から始まった霧島山新燃岳
のマグマ噴火では、気象庁の種子島、福
岡および鹿児島空港気象レーダーで噴
煙が観測された。噴煙エコーの解析をと
おして、準プリニー式の連続的噴火に伴
う噴煙エコー頂高度の詳細な時間変化が
観測できること、ブルカノ式の爆発的噴火
の噴煙全13 例のうち10 例が検知された
こと、降水時であっても爆発的噴火を検
-種子島・福岡レーダー
知できる事例があることを確認した。
-鹿児島空港レーダー
-遠望カメラ
噴煙エコー頂高度の解析結果は、ひま
わり7 号(MTSAT-2)で撮られた火山灰雲
気象レーダーによる新燃岳の噴煙エコーと、噴煙エコー頂高度の時間変化と気象衛星赤外差分画像の対比
の流向ともよく対応していた。
(左上)気象庁種子島・福岡気象レーダーの噴煙エコーの一例。高さ3kmのエコー強度とXY鉛直断面のエコー強度。
(左下)噴煙エコー頂高度の時間変化。(右)ひまわり7 号の赤外差分画像。噴火直後の噴煙エコー頂高度が低いとき(B,C)は北
西の季節風によって南東方向に輸送されているのに対し、高いとき(A,D,E)は偏西風ジェットにのって東方向に輸送されていた。
火山灰移流拡散モデルによる降灰予測と検証
干渉SAR解析の気象ノイズ補正
気象研究所では、量的降灰予報のための技術開発として、火山灰移
流拡散モデルの改良と検証を進めている。
2011 年霧島山新燃岳で降灰予報が発表された全39 事例について、
予想された降灰域と現地で確認された降灰分布との比較検証を行った。
現在の降灰予測に用いている初期値(噴煙柱モデル)について、拡散比
率を変更することにより予想降灰域が改善されることを明らかにした。
さらに、気象庁非静力学モデルおよび移流拡散モデルによる2011 年1
月26~27 日新燃岳の噴煙-降灰シミュレーションを実行した。初期値で
火山灰の粒度分布や拡散比率を適切に設定することに加え、気象レー
ダーの噴煙エコー頂高度の解析結果を適用することにより、予想降灰
量の再現性が向上することを確認した。
干渉SAR解析は、火山の地殻変動観測
において不可欠な手段となっているが、 大
気中の水蒸気の不均一な分布が気象ノイ
ズとなり解析精度を低下させる。気象研究
所では、気象ノイズを補正する手法の開発
を進めている。
新燃岳噴火前後のSAR干渉解析画像に
ついて、5km メッシュの客観解析値を初期
値・境界値として1km メッシュにダウンス
ケーリングした非静力学モデルの数値予
報GPV を用いることで、対流圏における位
相伝搬遅延を考慮した干渉解析を行った。
その結果、大気中の水蒸気による気象ノイ
ズを軽減でき、新燃岳北西部領域におい
て新燃岳噴火にともなう沈降域を検出する
ことができた。
-5.9cm
0
+5.9
●:降灰あり,○:降灰なし
新燃岳の噴火の降灰シミュレーション
噴煙高度の初期値の違い(a.遠望観測とb.気象レーダー)による、降
灰の量的予測結果の差異を示した(2011/1/26 15JST~28 00JST 積
算)。図中の●、○はそれぞれ降灰あり、降灰なしを表す。気象レー
ダーから推定した噴煙高度を初期値に用いることにより良好な結果が
得られた。
2012/03/07
SAR干渉画像(補正前)
推定された大気遅延量の差
SAR干渉画像(補正後)
2010/11/20 (新燃岳噴火前)と 2011/02/20 (噴火後)のSAR干渉画像
謝 辞: だいちのPALSARデータを用いた解析は、火山噴火予知連絡会・衛星解析グループの
活動によるものであり、原初データの所有権はJAXAにある。記してお礼申し上げます。
平成23年度成果報告シンポジウム
課題番号:7022