消費者に女性ファッション誌を継続購買させるには

消費者に女性ファッション誌を継続購買させるには
①―――研究に先立って
と定義付けた。
②―――現状分析
②―――現状分析
③―――先行研究
④―――仮設の検証
1.日本の雑誌市場の現状
⑤―――結論
⑥―――提案
2008 年度雑誌売上額は約 1 兆 1731 億円で、前年に比べ
⑦―――まとめ
4.1%減尐しており、ここ 20 年間のうちの最低額となって
いる。販売部数に至っては、1995 年をピークに 12 年連続
大久保真衣
竹川晴菜
減尐している。また、2008 年度の休刊誌は 188 点と、雑
中島優美
馬場喜美子
誌市場は厳しい状況に陥っている。
本地真紀子
2.女性誌市場の現状
早稲田大学守口ゼミ竹川班
2008 年度の女性誌の推定発行部数は 1 億 8265 万冊で、
前年に比べ 0.6%の減尐となっており、図 1 から見てわ
①―――研究に先立って
かるとおり、3 年連続のマイナス成長である。
■図―――1
1.研究対象
女性誌全体の部数推移
我々は 10 ゼミの統一テーマが「不況に打ち勝つマー
女性誌全体(週刊誌を除く)の部数推移
ケティング」ということを踏まえたうえで、メンバー全
女性誌全体(週刊誌を除く)の部数推移
32000
31500
(単位:万部)
32000
31000
31500
30500
31000
30000
30500
29500
30000
29000
29500
28500
29000
28000
28500
27500
28000
27000
27500
26500
27000
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
26500
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
(単位:万部)
員が女性であることから女性をターゲットとした研究
を行いたいという思いがあったので、女性がターゲット
となっている市場で厳しい状況下にあるものを探し出
したところ、
「女性ファッション誌市場」に行きついた。
我々はこの「女性ファッション誌市場」を研究対象とし
て取り扱っていく。
2.「不況に打ち勝つ」の定義
3.消費者の実態
研究に先だって我々はまず、女性ファッション誌市場
において「不況に打ち勝つ」ということはどういうこと
我々はまず、消費者の女性ファッション誌(以下雑誌)
なのか定義した。我々は女性ファッション誌市場にとっ
の購買の現状について調査したところ、
「毎月同じ雑誌
て、優良顧客とは毎月継続して同じ雑誌を購入してくれ
を買っている人は尐なく、買う雑誌が毎月ばらばらな人
る、ロイヤルティの高い顧客のことだと考えた。そして
が多い」という現状であるということがわかった。その
そのような優良顧客を増やすことは、その女性ファッシ
現状を表しているのは図 2 と図 3 である。まず図 2 から
ョン誌の販売会社が不況時でも毎月安定した収入を得
はアンケート対象者の女性 28,179 人のうち、いつも決
られる状態になることに貢献するので、女性ファッショ
まった雑誌を毎号買って読むと回答した人はわずか
ン誌市場における「不況に打ち勝つ」とは、
「継続的に
11.5%であり、多くの消費者が、美容院や立ち読みで済
同じ雑誌を購入してくれる、優良顧客を増やすこと」だ
ませたり、異なる雑誌を購入する傾向にあったりと、雑
1
誌に対して毎号同じ雑誌を購買する継続購入をしてい
意味しているものだ。
ないことが読み取れる。また図 3 は我々が独自でとった
■図―――4
アンケート(n=100、対象:女子大生)で、
「毎月同じ
雑誌の知覚マップ
雑誌を購買しているか」という問いに対する結果である
が、この結果をみても約一割の人しか毎月同じ雑誌を購
買していないことがわかる。
■図―――2
Zipper
雑誌の購入調査
SEDA
FUDGE
この知覚マップに存在している雑誌の中で、2000 年以降
に創刊された新しい雑誌は 24 冊存在している(2000 年創
刊:egg・Ranzuki・mini・S cawaii,2001 年創刊:mina・JILLE・
style・ BAILA,2002 年創刊:Soup.・PS・Sweet,2003 年創刊:
ハナチュー・BLENDA・ In Red,2004 年創刊: PINKY・
GLITTER,2005 年刊:GLAMOROUS,GISEL,FUDGE,2006 年創刊:小悪
魔 ageha ・JELLY・ Steady,2007 年創刊:AneCan,2008 年創刊:
■図―――3
nadesico・ ELLE girl)
。この数年で、24 冊もの新しい雑
「毎月同じ雑誌を購買しているか」
誌が出現してきたということは、それだけ雑誌が細分化
してきたと言える。これだけ雑誌市場が細分化すると、
13%
当然消費者は雑誌を購買する際、選択肢が増加する。以
上が「雑誌の細分化により、消費者の選択肢が増加した
こと」に対する説明である。
買う
買わない
次に図 5 は付録つき雑誌の年間販売数を示すグラフで
あり、ここ近年付録つき雑誌の増加が著しいことがわか
る。2008 年度は年間で 850 点もの付録つき雑誌が販売さ
87%
れている。
このような「毎月同じ雑誌を買っている人は尐なく、
買う雑誌が毎月ばらばらな人が多い」という現状をもた
らしている理由は 2 つある。一つ目は「雑誌の細分化に
より、消費者の選択肢が増加したこと」であり、二つ目
は「付録が常態化したことにより、雑誌がモノ化したこ
と」である。以下、詳しく説明していく。
まず、雑誌の細分化から説明する。図 4 は現在発売さ
れている雑誌の売り上げ上位 40 冊の知覚マップであり、
青文字の雑誌は昔からある(2000 年以前からある)雑誌を
2
■図―――5
と」を背景に、毎月異なる雑誌を購入する消費者が出現
付録つき雑誌の増加
したと言える。
ここで我々は、これら消費者を 3 つに分類して研究を
付録添付回数の推移
進めていく。まず、毎月同じ雑誌を購入する人を「優良
900
800
700
600
500
我々は、さらに詳しく付録つき雑誌の現状を調べるた
400
300
めに、先ほど提示した雑誌の知覚マップの中でほぼ毎号
200
100
付録をつけているものに赤色をつけて表してみた。それ
0
2003
2004
2005
2006
2007
が図 6(単位:回)
である。
顧客」とし、雑誌は購入するが、その雑誌は固定ではな
い消費者を「浮動顧客」とする。そして最後に、雑誌自
体を購入しない人を「非購買者」と定義する。我々は、
女性誌の売り上げ安定には、
「浮動顧客」に対してなん
らかのアプローチをし、
「優良顧客」になってもらうこ
とが必要であると考えた。
その根拠として「パレートの法則」があげられる。
「パ
■図―――6
レートの法則」とはマーケティング用語であり、それは
付録の常態化
別名「2:8 の法則 」とも呼ばれている。またその意味
は「顧客全体の 2 割である優良顧客が売上の 8 割をあげ
ており、また全ての顧客を平等に扱うのではなく、2 割
の優良顧客を差別化することで 8 割の売上が維持でき、
(単位:万部)
高い費用対効果を追求できる。
」(SYNERGY! CRM 用語集よ
り引用)とされている。我々はこのパレートの法則を参
Zipper
考に、現在増加してしまっている浮動層に効果をもたら
SEDA
したいと考えた。先ほど提示した図 2 と図 3 より、現状
として雑誌を購入する消費者の中には優良顧客がおら
ず、またいたとしても割合としてはその一割程度に過ぎ
ない。そういった現状から我々は、女性誌の売り上げ安
FUDGE
定のためには上記のパレートの法則を基盤に何らかの
ここから、付録を毎号つけているのは 40 冊中 31 冊も
策を提案し、今後増えてしまった浮動顧客を優良顧客へ
あり、今発売されている半数もの雑誌に付録がついてい
と生み出していく必要があると言えるだろう。
ることがわかり、現状として付録が常態化しており、雑
誌同士の違いがなく、コモディティ化が進んでいると言
4.付録の実態
える。
付録の実態については、3 節でも尐し述べたが、ここ
またこの現状に加え、本来ファッションに関する最新
では主に付録つきの雑誌がでてきた背景と、付録のメリ
の流行を先取りするための情報媒体だった雑誌が、情報
ットとデメリットについて説明をする。
源が多様化したため、単なる最新情報発信源としての価
付録付き雑誌の急増の背景の一つとして、日本雑誌協
値が低下しているという背景が存在する。このような現
会が定める自主基準「雑誌作成上の留意事項」が 2001
状下で消費者は付加価値要素も全て含めた上で購買判
年 5 月に改訂され、雑誌付録の基準が大幅に緩和された
断をし、
「雑誌をモノとして購入する」ようになってい
ことがあげられる。それに加え、先述したとおり雑誌の
る。以上が「付録が常態化したことにより、雑誌がモノ
細分化が進み、個々の雑誌の差異が不明確になってきた
化したこと」に対する説明である。
ため、何らかの付加価値をつけて消費者に雑誌を買って
以上の「雑誌の細分化により、消費者の選択肢が増加
もらうために、雑誌に付録がつけ出されたという事実も
したこと」によって雑誌のコモディティ化が進み、また
ある。
「付録が常態化したことにより、雑誌がモノ化したこ
その目的通り、付録を付けた雑誌は売れ行きがよいと
3
いうデータもある。例えば、図 7 は付録を毎号付けてい
5.雑誌のもう一つの課題
る雑誌である「Sweet」の売り上げ推移を表しているが、
この図を見てわかるように、わずか一年半の間に売り上
先述してきたように、付録の常態化や細分化の影響の
げを三倍に伸ばしている。
よって雑誌のコモディティ化が進んでいる。そしてそれ
しかし当然ながら、そのように効果的な戦略であった
が原因で雑誌そのものの違いに気づいていない読者が
ため、どの雑誌もこぞって付録を付ける戦略をとったの
多く存在していると言える。しかしながら、「女性ファ
で、先述したとおり、現在発売されている雑誌の多くに
ッション誌そのものに差がない」と感じているのは消費
付録がついている状況になっている。このような状況に
者だけであり、雑誌そのものには数十種類それぞれに
なると、もはや付録がもっていた「差別化」という効能
各々コンセプト付けが明確になされている。ここでは実
は薄れてしまい、むしろ雑誌間での付録競争が激化する
際に雑誌で近年の売り上げランキングを例に各雑誌が
状況になっている。その証拠として、付録の良しあしに
掲げるコンセプトを紹介することとする。以下の資料は
よって、雑誌の売り上げ額はかなり左右されていること
各雑誌の WEB サイト上および紙面で紹介されている各雑
があげられる。またそれだけではなく、付録をつけなか
誌のコンセプトである。(大量にあるため、現在書店で並ん
った時は急激に売り上げが落ちるという事実もある。実
でいるものの半分を抜粋)
際、Sweet編集長渡辺佳代子氏はインタビューで以下の
ようなエピソードを語っている。
an・an (アンアン)…おしゃれなファッション週刊誌
小悪魔 ageha (アゲハ)…今よりもっとかわいくなりた
渡辺さんは一度だけ「付録をやめたい」と上司に訴え
い美人 GAL のための魔性&欲望 BOOK
たことがある。「雑誌を作る者として読者を付録で釣る
In Red (イン レッド)…30 代前半女性のファッション・
うしろめたさがあった」。雑誌は当時十万部台で順調に
ビューティ・生活情報誌
伸びていた。付録でなく、雑誌の中身が良くなった効果
with (ウィズ)…20 代女性のためのファッション&カル
を確かめたかった。一号だけ付録を外した結果は「見事
チャーマガジン
に売れなかった」。それで吹っ切れた。その後、付録戦
ViVi (ヴィヴィ)…活動的な若い女性の為の総合ファッ
略で部数を急伸させ今に至る。
ション誌
([2009]『月刊女性誌「Sweet」(ヒット案内人)』日経産業新聞、
Cawaii ! (カワイイ)…今すぐ大人になりたいティーン
2009年4月9日、6頁)
ズマガジン
CUTiE (キューティ)…ティーンのこだわりファッショ
こういった事例も踏まえ、付録という付加価値を雑誌
ン誌
につけることは有効な策ではないと考えられるため、
CanCam (キャンキャン)…学生、OL 向けファッション&
我々は付録に頼らない方策をとっていくことにする。
情報誌
■図―――7
KERA ! (ケラ)…ストリート発のファッションマガジン
女性誌 sweet の売り上げ推移
JILLE (ジル)…「シンプルおしやれ」な女性ファッシ
ョン誌
JJ (ジェイジェイ)…若い女性に好感度 NO.1 のファッシ
ョン情報誌
Zipper (ジッパー)…ファッション・フットワーク・マ
ガジン
Steady. (ステディ)…20 代女性の通勤にも対応するフ
ァッション誌
4
Soup. (スープ)…こだわり 20 代のための自分スタイル
分にも生かしていきたいと思う。
マガジン
6.リサーチクエスチョンと研究目的
spring (スプリング)…20 代女性のカジュアル・ファッ
ション誌
ここで、我々のリサーチクエスチョンを、「付録とい
SEVENTEEN (セブンティーン)…女の子のおしゃれライ
う付加価値は、雑誌の継続購買には有効でないのではな
フ・マガジン
いか」と設定する。我々の研究目的は、「継続購入をす
SEDA (セダ)…リアルでおしゃれなストリートファッシ
る優良顧客を増やすことによって、女性誌の売り上げを
ョン誌
安定させる」ことである。以上から、雑誌の継続購買に
nicola (ニコラ)…おしやれな小中学生のためのファッ
有効な方策についての調査を進める
ション誌
non-no (ノンノ)…20 代前半の「HAPPY!」になれるファ
③―――先行研究
ッションマガジン
PS (ピーエス)…自分らしさを見つけるカジュアル・フ
ァッション誌
我々は本研究において、先行研究を二つ用いることと
PINKY (ピンキー)…ハッピーMAX を目指す女の子の為の
する。なお、一つは論文より、もう一つは調査結果より
スーパーガールズマガジン
引用した。
FUDGE (ファッジ)…20~25 才ハイカジュアルファツシ
1.継続購買に関する論文(先行研究①)
ョン女性誌
mini (ミニ)…おしやれなストリートファッション誌
金森剛[2007]『ブランドマーケティングにおけるネッ
MORE (モア)…ワンランク上をめざす女性のためのクオ
トコミュニティの活用』によると、「ブランド力のある
リティライフマガジン
ブランドには、ブランドと消費者との感情的一体感が存
ラブベリー…かわいい女のコ応援マガジン!
在しており、特に継続的な購入意図の形成には認知的態
Ray (レイ)…20 代の欲ばりマガジン
度だけではなく、感情的態度が重要であると考えられ
る。」(金森[2007])と定義されており、また「ブランド
以上のコンセプトひとつをとってもわかるように、コ
に対する共感といった感情的態度を促進させるために
ンセプト自体には差があり、ターゲットも年齢層からフ
は、メンバー相互が信頼しあえるような場の運営(コミ
ァッション系統までが明確にされている。しかし、この
ュニティー形成)が求められる」(金森[2007])と定義さ
事実にも関わらず、先述したとおり、多くの消費者は決
れている。そして、同先行研究内において、「ネットコ
まった雑誌を買っていない。これら理由として考えられ
ミュニティ情報活用後、購買の満足度が高い『91%が購
ることは「雑誌のコンセプト自体が読者にいまいち届い
買、93%が満足』」という結果も提示されていた。
ていないのではないか」ということだ。もしも、雑誌の
以上の内容より、消費者を継続的な購買へ促すには
コンセプトそのものが、今以上に具体化され様々な場面
「感情的成分」が必要であり、その「感情的成分」を構
で反映されたら、消費者は尐なくとも「付録」によって
築させるためにはネットコミュニティが一番有効であ
左右される機会は減るのではないだろうか。こういった
るということ、さらにその効果としても91%の消費者が
考察より我々は、本研究を進めていく上で雑誌各々に付
購入という選択肢を選ぶということが分かった。
けられているコンセプトをより具体化することを念頭
我々はこのことから、消費者に対し継続的な購買を促
に置き、雑誌のコンセプトや掲載ブランド、モデルなど
すためには、ネットコミュニティの形成が最重要なので
の雑誌形成要素が持つ世界観を読者に伝わりやすいよ
はないかと考察し、本研究における先行研究とすること
うにより強め、雑誌をまるでひとつのブランドのように
にした。
消費者が感じられることを考慮した上で今後の提案部
5
2.浮動層顧客に関する調査結果(先行研究②)
仮説:ステータスを感じさせるようなコミュニティ形成
現状分析において我々は、特定の雑誌を継続的に購入
が、消費者に継続購買させることに有効である。
していない層のことを浮動層とし、またその浮動層の増
加を食い止め、優良顧客を創出することが本研究を進め
以下ではこの仮説の立証のため、検証をおこなってい
る上で有効であると述べた。そこで、我々の目的である
く。
浮動層を動かすためにはどのようにすればいいのか調
査会社の結果内容を参考にすることとする。
インターネット調査会社 0T&M システムズ株式会社
⑤―――仮説の検証
が 2006 年 09 月 27 日に行った『16 品目における「ブラ
ンドを購入する条件」に関する調査』によると、「ブラ
第四章で提示した「ステータスを感じさせるようなネ
ンドにロイヤリティをもたない無党派層と浮動層が約 7
ットコミュニティ形成が、消費者を継続購買させること
割存在する」という調査結果を上げた上で、以下のよう
に有効である」という仮説について、成功事例を用いて
な条件が挙げられた。
検証を行う。
まず始めに、我々の考える“ステータス”を定義する。
「浮動層が「同じブランドを購入し続ける条件」
ステータスとは、元来「身分や社会的地位」のことであ
浮動層がブランドを購入し続ける条件は以下の 3 通りで
るが、その意味に加えて外来語として、現代では「高い
ある。
身分や社会的地位、ある種の優位性・優越感を象徴する
1:常に期待や基準(価格面、性能面)を上回っている場合
言葉」として用いられることが多い。よって、
「ステー
2:そのブランドに関与することでステータスを得られ
タスを感じさせるようなコミュニティ」とは、他者に対
る場合
する優位性・優越感を感じられるコミュニティと規定す
3:そのブランドを上回る他ブランドが出現しなかった
る。そのようなコミュニティ形成を用いて、消費者を継
場合
続購買させるための具体的な策として、我々はステータ
(16 品目における「ブランドを購入する条件」に関する調査)
スを感じさせるための特定コミュニティ内において階
以上の調査内容より、我々は現在広く使用されている
層制導入し、そしてその階層制の導入によって継続購買
差別化戦略の付録を上記条件の1「常に期待や基準(価
も促されるのではないかと考えた。その理由としてひと
格面、性能面)を上回っている場合」とみなし、1が現状
つは、ある特定のコミュニティ内に階層制という特定の
で直接効果的に消費者や内の浮動層には響いていない
基準を提供側が設けることによって、他者との区別の程
とした。それを前提に、上記2の「そのブランドに関与
度を明確に規定でき、消費者は※そのコミュニティ内で
することでステータスを得られる場合」という条件を使
有能な一員であると感じられ、消費者のアイデンティテ
って浮動層を動かす条件とする。
ィの構築にも有効であるということがあげられる。また、
以上の二要素を含む先行研究を用いて、我々は本研究
我々が実際に市場調査しアンケートやインタビューを
を展開していくこととする。
行った結果からも、階層性制度を用いたコミュニティ内
の方が、消費者がコミュニティに属していることに対し
ステータスを感じやすく、その階層の上位にいることに
④―――仮説
魅力を感じやすいようだ。このことからそのような有能
な一員であることを示す階層制と、ステータスを感じさ
現状分析及び先行研究より、我々は研究目的に対する
せることの消費者への効果はあると言えるだろう。この
解として以下の仮説を立てた。
話をより具体的に説明するため、今度は近年成功した階
層制を用いたコミュニティ実例をいくつか紹介し実現
6
性が高いことを証明することとする。
階層別のサービスを提供している。一定期間にある距離
以上を飛行した消費者は、
「エリート会員」という、一
1.ステータスを感じさせることの有効性
般会員よりも高いランクに属することができる。
「エリ
女性のステータスを求める真理をついた成功事例が「ヒ
ート会員」に昇格することのメリットは、専用カウンタ
メクラブマーケティング」である。ヒメクラブマーケテ
ーでのチェックインや、専用のラウンジを使用すること、
ィングとは、Hime & Company が運営する調査媒体であり、
優先的搭乗と荷物返却、座席ランクのアップグレードが
調査対象となる会員は全て女性限定で、公募はされず紹
可能になる、さらには会員限定のクレジットカードの所
介制である。
「ヒメ」と呼ばれる会員は、会社から提示
有が可能になるなどの特別待遇的なサービスが与えら
されるアンケートや座談会、web への商品についての感
れる。特別会員の資格の期間は1年間で条件を満たさな
想の投稿などを行うことによってポイントを得る。この
いとすぐに失効してしまうが、上記のメリットが消費者
システムを成り立たせている調査協力への「見返り」は、
に与えられることは他の消費者と待遇の差別化になり、
単なる「お金」や「モノ」ではない。ポイントを貯める
優越感を刺激することができるのである。そのような特
とプレゼントに交換することもできるが、ほとんどの会
別待遇を継続して得るためにはサービスの継続利用が
員が交換をしていないという。その成り立たせているも
条件となるため、消費者に継続購買させる方策として有
のとは、特別イベントに招待するなどの「特別感・優越
効である。
感」であったり、ヒメクラブに属すること自体の、他者
また、
「楽天 Point Club」でも同様のサービスが存在
とは違うという「ステータス」であったりするのである。
する。これは、基本的な会員が『レギュラー会員』
、そ
女性は損得や対価で動くというよりも、感覚で動く生き
の後、特定期間の購買金額と購買回数に応じて『シルバ
物であるといわれている。よって、女性にとって魅力的
ー会員』
『ゴールド会員』
『プラチナ会員』とランクが上
だと思わせるような感情的なベネフィットを与えるこ
昇し、それにより享受できるサービスのレベルが変わっ
とが出来れば、女性を能動的に動かすことが可能になる
てくるものである。階層別のメールマガジン配信、ポイ
のである。ヒメクラブマーケティングは、ドクターシー
ント還元率の変化、階層別特別割引、限定ニュースや特
ラボ、キャノン、明治製菓、マンダムなどの企業と提携
典などを得ることができる。Web 上のショッピングモー
し、女性独特の視点を商品開発に生かしている。会員の
ルである楽天市場のトップページに「あと○ポイントで
「ヒメ」と呼ばれる女性は、自らが選ばれた存在である
△△会員」と提示し、限定感を持たせ消費者の購買意識
ことを、商品開発や企業と意見交換などをすることによ
を刺激することによって、短期的な購買意識を上昇させ
って実感する。それによって以上のことから、この事例
る。また会員ランク別に特別な情報を流すことによって
から、
「女性になんらかの優越感・特別感を感じさせ、
消費者に特別感を与え、その時点でも購買に結びつける
ステータスを与えることが女性心理を刺激する有効な
手法となり得る。
手法である」ことが言える。
以上のことから、階層制を作ることによって、継続購
入に繋がるということがいえる。
2.階層制導入による心理的効果
上記の内容を総括して、
「ステータスを感じさせるよ
階層制を設定することによる購買意欲の刺激というこ
うなコミュニティ形成が、顧客に継続購買させることに
との例には、近年顧客の利用頻度や金額に応じてサービ
有効である」ということが立証された。
スを変えるという手法が増加している。
航空会社 ANA の、飛行機の利用距離に応じてポイント
⑥―――提案
が貯まるというマイレージのシステムがある。これは、
1 マイルごとに 1000 ポイントが加算されるというしくみ
1.提案に当たって
で、そのポイントは航空券やホテルの宿泊券と引き換え
るシステムである。そして ANA は、そのシステム以外に
先の五章において「ステータス感を感じさせるような
7
ネットコミュニティ形成が、顧客に継続購買させること
また、SNS 内ではそれぞれ読者同士や雑誌を作って
に有効である」という仮説が立証されたので、本章では
いる編集者ともコミュニケーションをとること
ステータスを感じさせるネットコミュニティについて
ができる。
また、SNS 内ではそれぞれ読者同士のコミュニ
具体的に述べていく。
我々が案を考える際に留意したポイントは
ケーションや編集者とのコミュニケーションを
・階層制を導入することでステータスを感じさせるこ
行うことができる。この SNS の特徴を利用し、
と
雑誌に関するアンケートや、雑誌の企画に参加す
・付録以上の価値を持たせること
ることによっても階層があがるようにする。ここ
・雑誌のブランドに関与させること
での狙いは、特典内容によるブランド関与だけで
の三点である。
はなく、アンケートや雑誌の企画に参加するとい
ステータスを感じさせることが今回の提案にとって
う形で、雑誌のブランドに対し消費者が能動的に
重要となるため、ステータスを感じさせるために有効で
関わらせることを可能にすること。さらには、ブ
あると立証された階層制を用いることは前提である。同
ランドに関与することを条件として階層を上げ
時に、付録では成しえなかった継続購買につなげるため
ることによって、消費者にステータスを感じさせ
の方策であるため、消費者にとって付録より価値のある
ることである。
ものでなければならないというのも前提である。この二
つをクリアした上で重要となるのが、雑誌のブランドに
上記の流れを消費者が経ることで、購入⇒ブランド関
関与させることである。第五章の先行研究でも述べたよ
与⇒ステータスを感じる⇒継続購買を行うという行動
うに、ブランド関与によって消費者にステータスを感じ
が行われると考える。以上が、我々の提案する不動顧客
させることが浮動顧客を継続購買につなげるために必
に継続購買をさせるための具体案の概要である。
要な条件である。我々は以上のことを念頭に置き具体的
3.階層制について
提案を考えた。
階層制がステータスを感じさせるために有効である
2.提案概要
ということは、第五章で述べている通りである。そして、
では我々の提案について時間軸に沿って説明を行う。
それ以外に階層制を導入するメリットとして挙げられ
ⅰ.消費者が書店で雑誌を購入する。
るのは、この提案は抽選でプレゼントをするような、全
ⅱ.雑誌の中にはシリアルナンバーを綴じ込んであ
員が得ることのできない特典とは異なり、継続購買を前
り、そのシリアルナンバーを入手することで、そ
提とした階層制を用いることのより、全員が継続購買を
の雑誌の読者だけがアクセス可能な SNS を利用
していれば、平等に特典を受けることができることであ
することが可能となる。
る。
ⅲ.雑誌を購入し、毎月シリアルナンバーを打ち込む
4.特典内容とブランドコンセプトついて
度に SNS 内における階層が上がる。
ⅳ.その階層が上がるにつれて優待レベルの高いサ
特典内容は雑誌のブランドコンセプトを色濃く反映
ービスや特典を受けることが可能となる。ここで
させる必要がある。第三章で述べたように、浮動顧客を
特典内容に関してはブランドコンセプトを反映
継続購買に結びつけるには、ブランド関与によりステー
させる必要がある。
(これに関しては第四節で後述し
タスを感じることが不可欠である。そこで、この案の中
ている。)
で消費者に与える特典の内容には雑誌のブランドコン
ⅴ.階層があがるごとに内容を優待レベルの高いサ
セプトを形作っているモデルやファッションブランド
ービスを特典とすることで、消費者に継続購買さ
を用いて、読者にわかりやすく伝える必要がある。今回
せる動機作りとなる。
提案する我々の案のシステム自体は様々な雑誌で応用
8
することが可能であるが、その上で他誌との差別化及び
.根来龍之[2004]『経営戦略としての CRM. ー資源優位・活動システム・差別
浮動顧客を継続購買する優良顧客にするためには各誌
化の三位一体構造』
のブランドコンセプトを反映する必要があるのである。
ヴァニティ&アナーキー[2001]『女性誌のおまけ合戦はブランド・メイ
キングの証拠』
編集会議[2002]『雑誌を買えばパンティがついてくる-どこまで続く
⑦―――今後の課題
付録戦争(総力特集・雑誌大国ニッポンは復活する!)』宣伝会議
ビジネスインサイド[1999]『シェア一割から一気にコカ・コーラに肉薄
第六章で特典内容はブランドコンセプトの反映をし
したペプシのオマケ商法』(ダイヤモンド社
たものでなければならないと言及した。今後の課題とし
宣伝会議[1987]『新・商品開発研究 ヒット商品のメカニズムを探る~
てブランドコンセプトの反映の仕方を具体的にする必
プロシューマー社会の芽生えをヒット商品にみる-ビックリマンチョコ、
要がある。
カード商品、RCOT、ヤンパラフルなど』宣伝会議
また、今回の我々の研究は浮動顧客に継続購買させる
販促会議[2009]『特集 プレミアム・ノベルティの選択基準と発注先
ための策であった。我々が研究を行った対象は女性ファ
Top promotion』 宣伝会議)1
ッション誌であったが、このような浮動顧客の存在は他
販促会議[2008]『座談会 新しい時代のプレミアムを考える(特集 求
の業界でも見受けられる。たとえば近年競争が激化して
められる新要素は CSR?! プレミアム・ノベルティの選択基準)』宣伝
いる携帯電話キャリアや、スーパーマーケット等小売業
会議
界にも同様の浮動顧客の増加が問題となっている。こう
[2007]『販売促進 支店・営業所で効果の高いノベルティの選び方
いった業界においても今回の我々の策が有効に機能す
--その発想は石田三成に学べ!』ザッツ営業 (That's negotiation)
るか調査を深める余地がある。
(エヌ・ジェイ出版販売,日本実業出版社)
〔2006〕『T&M システムズ株式会社 2006 年 09 月 27 日調査 16 品目
における「ブランドを購入する条件」に関する調査」について』
参考文献
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http://homepage2.nifty.com/minoru-inoue/TKC-0108.htm
桑名淳二[2009]『編集会議 第 95 号』宣伝会議
http://www.thinkit.co.jp/free/article/0612/12/4/
小川孔輔[1994]『ブランド戦略の実際』日本経済新聞出版
『行動ポイント導入のメリット』について
鬼頭孝幸[2009]『ブランドのレシピ』日本能率協会マネジメン
http://www.unisys.co.jp/tec_info/tr68/6814.pdf
トセンター
『継続購入に必要要素について』
[2008]『編集会議 11 月号』株式会社宣伝会議
http://library.tuins.ac.jp/kiyou/2007chiiki-PDF/konishi.pdf
[2008]『出版月報 8 月号』出版科学研究所
『CRM に関する新たな視点』
大野高司[2007]『ファン・コミュニティ性格と機能』
http://www.orsj.or.jp/~archive/pdf/bul/Vol.48_02_094.pdf
〔2007 年度版〕 『出版指標出版年鑑』
『顧客を振り分けることの定義』
『出版年鑑 ABC』雑誌発行部数
http://www.nttdocomo.co.jp/corporate/ir/binary/pdf/library/prese
[2007]文教堂販売データ(CanCam の売り上げデータのみ抜粋)
ntation/080418/p03.pdf
『情報源に関する意識・実態報告書 2007 経済広報センター』P
『NTT ドコモが行った CRM に関する取り組みに関する報告書』
保 加 津 代『ライフスタイルの多様化と住宅研究久 』
http://hot-navi.biz/article.php/20080623194439135
http://bbs.jinruisi.net/blog/2009/06/000605.html
『ロイヤルティーマーケティングは口コミに期待 報告書』
http://www.j-cast.com/2009/05/30042033.html
http://www.obi.giti.waseda.ac.jp/e_gov/cio/profnegoro.pdf
松尾武幸・佐山周・三田村蕗子[2005]『図解でスッキリ!ファッション
http://column.onbiz.yahoo.co.jp/ny?c=ii_l&a=009-1192418349
業界知りたいことがスグわかる!!―アパレルから化粧品・雑貨・ライフ
『新規顧客獲得を継続顧客に結ぶには 満足顧客、優良顧客の違
スタイルまで 多様化・個性化の動きが一目で見てとれる本』こう書房
いについて』
9
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/040/40850.html
[2006]『コミュニティ形成のための ICT 利用』
『シュウウエムラが実際に行ったポイント制度事例』
http://sibashoo.cocolog-nifty.com/kaf/files/mt_resume_060621.doc
http://www.ginga.or.jp/ginga/s3/pdf/13.pdf
『総合顧客管理会社 SYNERGY のホームページ』
『優良顧客の二割をひいきする』
http://www.crmstyle.com/about/interface.html
http://www.crmstyle.com/word/fig03.html
金森剛[2007]『ブランドマーケティングにおけるネットコミュニティの
『☆優良顧客2:8の法則』に関する HP
活用』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AC%E3%83%BC%E3
〔2006〕『T&M システムズ株式会社 2006 年 09 月 27 日調査 16 品目
%83%88%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
における「ブランドを購入する条件」に関する調査」について』
『パレート法則(2:8法則)』
http://www.prblog.biz/archives/2006/09/16.html
『ブランドエクイティとくちコミとの関連性』
『前田洋光 (関西大学大学院社会学研究科博士課程後期課程)
高木 修 (関西大学社会学部) 』
http://venture-plus.com/news/6382
『おまけ博物館』HP
http://books.google.co.jp/books?hl=ja&lr=&id=LRbnyf4ohsoC&oi=fnd&pg=PT12&dq
『おまけに関して』
http://www-i.setsunan.ac.jp/kubolabo/files/seminar_1/01/007045.pdf
『CanCam 専属ブログ』
http://d.hatena.ne.jp/abcbsnbc/searchdiary?of=5&word=%2a%5bsweet%5d
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補録
女性ファッション誌に関するアンケート
研究のための、女性ファッション誌の現状調査のための調査のアンケートにご協力下さい。
ご回答頂いた内容は統計的に処理するもので、調査目的以外には使用致しません。どうぞよろしくお願い致します。
問 1.
毎月同じ女性ファッション雑誌を買っていますか?
はい
いいえ
問 2.
1で「はい」と答えた方にお聞きします。なぜ、あなたはその雑誌を購入しているのですか。具体的に答えてください。
問 3.
1で「いいえ」と答えた方へお聞きします。なぜ、あなたは毎月同じ雑誌を購入しないのですか。その理由を具体的に答えてください。
問 4.
全員にお聞きします。付録が目当てで雑誌を買ったことがありますか。
はい
いいえ
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問 5.
雑誌を購入する際に、付録の内容によって購入する雑誌は左右されますか。
はい
いいえ
問 6.
雑誌に付録がついていなかった以前に比べてみると、購入する雑誌を選ぶ際に付録によって選ぶようになったと思いますか。
とてもそう思う
そう思う
あまり思わない
まったく思わない
質問は以上となります。
ありがとうございました。
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