決算書 をつくる!

1
PART
け っ さ ん し ょ
決算書をつくる!
かいけい
き そ ち し き
早わかり会計の基礎知識
1
きぎょうかいけい
企業会計の目的は決算書をつくることです。
PART1では、この決算書をつくる作業を
みなさんに実際に体験していただきます。
「いきなり、そんなこといわれても…」
そう思った人がいるとしたら、それは間違いです。
決算書は実際につくりながらのほうが、
そのしくみを理解しやすいのです。
おうどう
決算書はつくって覚える。これが王道なのです。
か い け い
会計は何のために
あるの?
きのう
会計の3つの機能について
まず、会計という言葉の意味からいきましょう。
会計は、英語では「アカウンティング(accounting)」といいます。
意味は「説明すること」です。
げんてん
つまり、会計は説明するために生まれた、というのが原点です。
「会計って、計算することだと思っていた」
かんじょう
「計算する」
「勘定する」のは「カウンティング(counting)」。
「アカウンティング」はあくまで「説明すること」が基本です。
では、誰に何を説明するのか。
「誰」に当たるのは、会社にお金を出してくれた人たちです。
ある事業をやるときには、まとまった額のお金が必要です。
じ こ し き ん
いき
自己資金だけでやっていたら、いつまでも町の商店の域を出ません。
ふなだいく
のりくみいん
やと
こうかい
船大工を集めて船をつくり、乗組員を雇って航海に出かける、
というような、ある程度大きなプロジェクトになると、
人からお金をかき集めてこなければいけません。
他人から集めてきたお金は、ちゃんと管理して、
そのプロジェクトが終わった後に、
あず
「あなたから預かったお金はこうなりました、こう使いました」
という結果を報告しなければならないわけです。
42
⁄
決
算
書
を
つ
く
る
!
アカウンタビリティ(accountability)という言葉があります。
せつめいせきにん
日本語に訳すと「説明責任」という意味で、
ひとさま
人様のお金を預かったからには結果を説明する責任があります。
その説明責任を果たすための手法が会計なんです。
じゅたくせきにん
かいじょ
説明責任を果たすことを専門的には「受託責任の解除」といいます。
「受託責任って? 説明責任とは違うの?」
お金を預けた人とそれを預かった人の間には、
いたく
じゅたく
委託・受託関係が発生します。
お金を預かった人は、
そのお金を持ってトンズラしないとか、減らさないとか、
ぜんりょう
善良なる管理者としての注意をもって
預かったお金を管理する責任がある。これが受託責任です。
さっきの話でいうと、船をつくって航海するのに1億円かかる。
そのお金を人から集めてくる。
こうしんりょう
インドに行って香辛料をたんまり買い込んで、
帰国してから積み荷と船を売ったら1億2000万円になった。
もう
やまわ
儲けの2000万円は船長とお金を出した人で山分けするとして、
船長の取り分1000万円を引いた残りの1億1000万円を返す。
43
「預かったお金は返したから、私にはもう責任はありませんよ」
と船長がいう。
受託責任を解除する、というのはこういうことです。
この話は1回限りのプロジェクトだけど、
現代の会社はゴーイング・コンサーン(going concern)といって、
はんえいきゅうてき
そんぞく
ぜんてい
半永久的に存続することを前提としています。
A「ゴーイング・コンサーン」とは? ――――――――――――――――
とうざきぎょう
直訳すると「ずっと続く会社」。当初、会社といえば当座企業(1つの
せいさん
航海ごとにすべてを清算する)だったが、それでは面倒だし、規模も大
けいぞくきぎょう
きくできないので、継続企業(ゴーイング・コンサーン)が生まれた。
かぶしきかいしゃ
けいえいしゃ
かぶぬし
株式会社では、経営者は株主から経営をまかされて、
き
1期(期は会計用語で「年」のこと。1期=1年)ごとに決算します。
毎期(毎年)、経営者は会計報告をすることによって、
「僕はよくやったでしょう。だから、クビを切らないで」
と、1期ごとに株主に対して責任を果たしていくんです。
A「株式会社」とは? ―――――――――――――――――――――――
株(正式には株式という)を買ってもらうことで、お金を集める会社の
こと。株を買った株主は会社のオーナー(所有者)になる。経営者は株
主から経営を委託された存在なので、株主に対して受託責任を負う。
44
いっしょうけんめい
それには「僕は一生懸命やりました」といっても意味のない話で、
オーナーから預かった資金をきちっと管理しましたということを、
きゃっかんてき
客観的な報告書(これが決算書)として提出しなければいけません。
そうしないと、受託責任が解除できないからで、
これが、会計の果たす1つめの機能です。
「1つめということは、2つめがあるのね」
⁄
りがいかんけい
ちょうせい
決
算
書
を
つ
く
る
!
そう。2つめは「利害関係の調整」といわれる機能です。
また、さっきの船長に登場してもらいましょう。
彼は1億円預かって、それが1億2000万円になった。
儲けの2000万円をすべて返しちゃったら、
おか
彼は何のために危険を冒して航海に出たのかわからない。
だから、まず預かったお金と儲かったお金にきちっと分ける。
「儲かったお金の半分は、僕の報酬としてください。
報酬を差し引いた残りの1億1000万円をお返しします」
とやるわけです。
この場合の利害関係者はお金を出した人と船長です。
預かった分と儲けた分をしっかり分けて計算することで、
両者の利害関係を調整しています(儲けを半分ずつに分けた)。
45
しきんちょうたつ
株式会社の資金調達の方法は、大きく分けて2つあります。
1つは、株を発行してそれを買ってもらう方法で、
かぶぬし
しほんきん
株を買った人を株主、それによって得たお金を資本金といいます。
A「資本金」とは? ――――――――――――――――――――――――
会社経営の基礎となるお金で、株式会社は株を発行して調達する。株主
は株を買うことで会社のオーナーになったのだから、会社に株主に対し
て返済する必要はない(自分で自分に返すことになるから)。
もう1つは、銀行などから借りてくる方法で、
さいけんしゃ
ふさい
お金を貸した人を債権者、それによって得たお金を負債といいます。
A「負債」とは? ―――――――――――――――――――――――――
り
し
いわゆる借金のこと。他人から借りてきたのだから、当然利子をつけて
返済する必要がある。
いろんな人からお金を集めると利害関係者の数や種類が増えます。
だから、預かったお金を資本金と負債に分ける必要があります。
その会社はそもそも資本金いくらでスタートしたのか。
銀行は「資本金1億円だから安心だろう」と思ってお金を貸す。
と う き ぼ
がく
の
登記簿を見ると必ず資本金の額が載っているし、
取引先も「あなたの会社の資本金はいくらですか」と聞いてくる。
A「登記簿」とは? ――――――――――――――――――――――――
会社の名称や所在地、代表取締役の氏名、資本金の額など、会社の重要
事項を記載した帳簿。一般に公開されているので、会社(本社)のある
とうきじょ
かんかつ
地域の登記所(法務局の管轄)に行けば、誰でも見ることができる。
たとえば、その期は2000万円しか儲かっていないのに、
はいとう
株主に3000万円返してしまったら(配当という→59ページ)、
その会社にはお金が9000万円しか残らない。
登記簿を見ると資本金1億円と書いてあるから、
1億円はつねにないとおかしい。
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債権者は、その会社が資本金1億円の会社だから
信用できると思ってお金を貸したわけで、
これを勝手に減らすのは、債権者に対するルール違反です。
しょうとつ
というわけで、債権者と株主の間で利害が衝突します。
それを調整するために、預かったお金を資本金と負債に分けておく
というのが、会計の2つめの機能なんです。
ごうりてきいしけってい
しえん
⁄
残りの1つが、
「合理的意思決定の支援」という機能です。
決
算
書
を
つ
く
る
!
さっきの船長がもう1回航海に出たけれど、
し い れ ね
今回は香辛料の仕入値が上がってしまい、
1億円を1億1000万円にしかできなかった。
すると、船長の報酬は前回の半分の500万円になります。
「これじゃ、ワリにあわないな」と考えた船長は、
じんけんひ
さくげん
仕入値は変えられないから、人件費を削減することにしました。
もっと安い船大工と乗組員を雇えばいい、と気づいたんです。
それによって1000万円浮かせれば、
最初に必要なお金が9000万円になるから、
うりあげ
最終的な売上に当たる1億1000万円から9000万円を引いた
残りの2000万円が儲けとなり、
その半分の1000万円を自分の取り分とすればいいわけです。
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このように、経営者が合理的な意思決定をするためには、
情報を整理することが必要になります。
ちょきんばこ
全部ごちゃごちゃになっていたら、ただのブタの貯金箱です。
その中に、いくらお金が残っているのか、
お金が減っているならその原因は何か、
ぎほう
ということを知るために、会計の技法を使うんです。
香辛料の仕入値としていくら出ていったのか、
人件費としていくら出ていったのか、
内容が1つ1つわかれば、合理的な意思決定ができます。
ここまでをまとめると、会計というのは、
① 受託責任の解除(株主と経営者に情報を提供する)
② 利害関係の調整(債権者と株主(投資家)と経営者に情報を提供する)
③ 合理的意思決定の支援(株主(投資家)と経営者に情報を提供する)
という3つの役割を果たしているということがわかったはずです。
そもそも、
1人の人が2つ以上の事業をやったり、
1人の人が2つ以上の事業に投資したり、
1人の人が2人以上からお金を預かったりする場合に、
会計の技法を使わないと、
どれが儲かっていて、どれが損をしているかわからないし、
借りたお金と自分のお金の区別がつかなくなってしまいます。
それがわかれば、損をしている事業はやめて、
とっか
得する事業に特化しようという判断ができるし、
将来的にいくらお金が出ていくか(借金の返済や儲けの配分など)、
そな
いつでも計算できるわけです(つまり将来に対する備えができる)。
ひつぜん
だから、会計が生まれてきたのは必然といえます。
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け っ さ ん し ょ
まずは決算書を
つくってみよう!
しょほ
しょほ
つくればわかる決算書の初歩の初歩
ここまでの説明で、会計は、経営者や株主(投資家)、債権者などに
⁄
情報を提供するための手法であることはわかったと思います。
決
算
書
を
つ
く
る
!
では、提供する情報とは何なのか。
「それが決算書なんでしょ?」
そのとおりです。
会社が1年で終わると思っている人は誰もいません。
会社は半永久的に続くことを前提にしています。
終わりまで待っていることはできないから、
ぎょうせき
ざいせい
途中で会社の業績とか財政状態、現金の動きを見たくなる。
その目的を達成するために、
ある期を区切って決算書をつくるわけです。
ぼ
き
決算書は、簿記という記録法によって記録されます。
そのほかにもいろんな会計のルールがあって、
決算書は、それにもとづいてつくられています。
(会計の細かいルールについては説明を省きます。知らなくても問題ないからです)
A「簿記」とは? ―――――――――――――――――――――――――
帳簿に記入する方法。会社が一定期間に行ったすべての取引を金額で表
こづか
ちょう
し、それを整理したり集計したりする。小遣い帳のようにタテ1列で書
たんしき
かりかた
かしかた
くものを単式簿記、左右2列(左を借方、右を貸方という)に分けて書
ふくしき
くものを複式簿記という。現在の会社では一般に複式簿記が使われる。
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決算書といっても、1枚の書類のわけではありません。
代表的なものだけあげても、4つもあります。
たいしゃくたいしょうひょう
ビーエス
① 貸 借 対 照 表(B/S)
そんえきけいさんしょ
ピーエル
② 損益計算書(P/L)
りえきしょぶんけいさんしょ
エスエス
③ 利益処分計算書(S/S)
けいさんしょ
シーエフ
④ キャッシュフロー計算書(C/F)
「出た∼。ビーエスとかピーエルとか、
聞いただけでイヤになっちゃうのよね」
そうじゃないかと思いました(笑)
。
でも、だいじょうぶ。実際に決算書をつくってみれば、
そんなにむずかしいものじゃないことがわかるはずです。
「エッ? いきなり決算書をつくっちゃうの?」
そうなんです。それがいちばんわかりやすいからです。
というわけで、まず貸借対照表から。
たいしゃくたいしょうひょう ビーエス
貸 借 対 照 表(B/Sまたはバランスシートとも呼ばれる)は、
会社のある時点における財政状態を表します。
貸借対照表は左右に分けた表を使います。こんな感じです。
B/S(ひな形)
負債
資産
資本
50