Clinical Chemistry

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Q&A
着床前遺伝子診断の倫理的意味
Ann M. Gronowski, Moderator, Richard T. Scott Jr., Expert, Arthur L. Caplan, Expert and Lawrence J. Nelson, Expert
1970 年代における体外受精の開発は、不妊症の治療に革命をもたらしました。アメリカでは、毎年
126 件の手術が百万人に対して行われています。in vitro で胚を培養することができるようになり、
着床前遺伝子診断(PGD)が可能となりました。PGD は様々な遺伝子病の出生前スクリーニングに
用いる出生前診断と同様ですが、胚を子宮へ戻す前に胚を選択することができ、妊娠中絶の選択を
回避できる点が利点であります。
高齢の女性や、遺伝子変異が分かっているカップルの女性にとって、特定の遺伝子変異がない胚を
スクリーニングすることができることは心強いです。しかし、ヒトの生殖に関連する多くの医学的
介入と同じように、PGD は多くの倫理的問題を提起しています。最近、PGD は新たな方法で用い
られています:子供の HLA プロファイルが病気の兄弟と一致し、幹細胞移植に用いることができ
る HLA の分類;性別選択;両親と同じようなマイナーな障害(例えば、難聴)を持つ子供になる
罹患した胚の選択。我々は PGD 倫理に対する意見を理解するために、PGD 研究所の責任者、生命
倫理学者、弁護士とともに PGD 分野を探検します。
■PGD 研究所の責任者として、新たな PGD 検査を開発する前に、研究所が道徳的/倫理的に社会的
影響を考慮する必要性を感じていますか?
Richard T. Scott:PGD 研究所での研究は、医学の他の分野と違いがあり
ません。よく考えられ、また倫理的な意思決定が必須です。最初に、あ
らゆる論争のケースはそのプログラムの全ての医師や科学者によって評
価されます。複雑な問題は、責任者の最終責任のもと、チーム全体で論
じられます。我々は、PGD 研究所は生検胚を分析し、胚が移植されるか
廃棄されるかを決定する研究結果を出すという点において、PGD 研究所
が他に存在しない研究所であると常に心にとめています。
■倫理学者として、PGD に関してどのような懸念を持っていますか?一部のヒトは PGD を優生学の
一形態であると呼んでいます。彼らに対し何か意見はありますか?
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Arthur L. Caplan:過去に、PGD は主に重篤な疾患の遺伝のリスクを軽減
したり、稀に、障害や致命的疾患のある生物学的親族に移植するため
に、ヒトの細胞や組織を作成-“寄付のための胎芽”と私が名づけた-
をしようとして注目されました。将来、ゲノミクスの知識が増加し、検
査費用が軽減するにつれ、人命救助への介入からもっと“優生学的に”
刺激を受けた介入へ転換するでしょう。
今日、病気を防ぐために PGD の利用は、ほんとどいつもそうされます。もし、医学が多少の抗議
あるいは議論とともに、ヒトの形質を強化し、向上させるサービス(例えば、美容外科、スポーツ
医学、ポジティブ心理学)に徐々に介入すると、強化と向上がゲノミクスや神経医学の将来の一部
となることは確かです。
将来、PGD は両親が子供に持っていて欲しくない特徴の探索や、遺伝させたい特徴の選択に使われ
ると私は信じています。否定的(不要な特徴の排除)および肯定的(希望する特徴の選択)な優生
学の倫理性は、PGD を提供する人や PGD の利用を求める人が直面する倫理的問題の鍵として、確
実に大きく立ちはだかるでしょう。
■PGD 検査を管理する法律があるべきだと思いますか?
Lawrence J. Nelson:遺伝子解析を行う臨床検査室は、PGD の検査結果の精密
さや信頼性を確かなものとするため、CLIA の下で規制の対象となっていま
す。何を検査するべきかという政府の規制とは、全く別の問題です。最高裁
は今まで争点を決定したことはありませんが、個人が国家による干渉を受け
ずに生殖するという、憲法上の権利を持っているという説得力のある論拠が
なされてきました。私の知る限り、in vitro に存在するヒトの胚に関して、国
家が憲法と一致して直接的な制御を強く主張する裁判は、これまでに開かれ
たことはありません。私は、どの胚を PGD によって移植するのか決定することや、専門家と協力
してどのような遺伝子検査を胚にするのか決心することを取り消すことに、国家がどのような正当
な権利を持つのか想像することはとても難しいと思います。
Arthur L. Caplan:私は 3 つの主な法律が、PGD のために設置されるべきであると感じでいま
す。:(1)検査室の資格および精密さの設定;(2)カウンセリングが PGD 行為の一部であると
保証する条件;(3)生まれた子供の生活を確認し、家族への影響を評価するために、PGD を行っ
ている全ての診療所が標準化された方法によって、結果を公的にアクセス可能な登録簿に長期間
(10-25 年)報告する条件
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■一般的に、どのような遺伝子が検査されるべきだと思いますか?例えば:遺伝的に致命的な疾
患?精神発達遅延の原因となる疾患?外見上の特徴?移植のために血縁者の一致のため?検査をす
るには、どの程度のリスクを正当だとしますか?
Richard T. Scott:遺伝子疾患は表現型の劇的な領域を網羅し、限界または“グレーゾーン”と見な
されるに違いない領域があることは間違いないです。外見の特徴は認められる病変を表すものでは
ありません。我々はそのような特徴のための PGD に慣れておらず、そのようなケースを実施する
つもりはありません。我々のプログラムは、致命的な疾患のリスクを軽減するために、非常に簡単
に PGD を実施することができます。同様に、機能を制限し、生活の質を損なうような致命的では
ない疾患では、PGD の合法的な適応が示されます。
病気の兄弟姉妹に、救命移植をできるようにするために胚を一致させることは、しばしば議論のト
ピックになります。多くの熱情的な意見が出されます。率直に言って、我々はとかく物議を醸すこ
の問題の性質に当惑しています。我々はこの問題をとても慎重に検討し、完全に合法であると感じ
でいます。唯一、恐ろしい病気によって不必要に小さな子供が亡くなるのを今まで見たことがない
人が、一致した兄弟姉妹の誕生につながる PGD の使用に反対するかもしれません。夫婦がそのよ
うな第二子に重きを置かないという主張には、あまり根拠がありません。これらの夫婦が元々そう
することを計画していないでもう一人の子供を持った場合、特にそうなるのは確かです。つまり、
夫婦が彼らを大切にしていないということを意味しているわけではありません。多くの計画外の子
供がこの世に生まれ、両親からあまり愛されないとか、勝手に低く評価していると彼らを非難して
いません。もし、これらの反論が治療介入の欠如と、それに続く子供の死につながるとしたら、そ
れは全ての医療において、今までに起こった最も非倫理的な行動となるでしょう。我々は、あらゆ
るグループが治療を差し押さえ、罪のない子供を死なせないために、政府や組織が命じないことを
望みます。
Arthur L. Caplan:疾患や重度障害をなくす努力は、道徳的に妥当です。危険な先行きを滑り落ち
ることなく、障害に関する生活の質に線引きをどのようにするかについてはいくつかの問題があり
ますが、通常の寿命を非常に短くし、大幅に機能を損なう直接的な恐れがある疾患は、遺伝子スク
リーニングや検査を実施するのに道徳的に正当と思われます。脆弱性 X 症候群や、ハンチントン病
などの重度の認識機能障害があげられます。しかし、医療はスクリーニングに値する“障害”の特
定におけるその役割をどのように考えるか、慎重でなければなりません。機能に制限を作る多くの
特徴と条件は、長く幸せで愛情があり、生産的な生活を持つことと両立できます。例えば、ある文
化の中の両親は、色素欠乏症のような状態を怖い状態で恐ろしい負担として見るかもしれませんが、
色素欠乏症でも最低限の努力で長く生き、幸せに生きることに成功した人々が多くいるという事実
は、検査される特徴と検査されない特徴の間に、医療が線引きをする方法に関して、習慣や政策に
一時中断をもたらすでしょう。家族や様々な特徴や状態の人々への必要なカウンセリングの進歩は、
PGD の最小限の特徴になるべきです。
遺伝形質を増強し、改善することは、社会的に許容できるとみなされますが、中立的立場の人によ
る遺伝形質の望ましい状況に関するカウンセリングも、必要とする領域です。もし、人での最適な
特徴を作成する際の遺伝子の役割や、個人または社会的に存在する価格の最適化に対し、多くの疑
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念が取り囲むと、この活動の性質を最小限にすることは重要になるでしょう。
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Lawrence J. Nelson:私は、親族のドナーになる可能性のある子供の誕生を促す、遺伝子プロファ
イルの選別に関して心配していません。なぜならば、そのような子供は第三者の利益のために、犯
される可能性がない法的および倫理的権利を持つ人となるからです。臨床医-または両親-は、親
族や他の誰かの利益のために、そのような子供に危害を与えることは許されていません。
■もし両親が“罹患した”胚を選択した場合、どうなりますか?これは許されるべきですか?
Arthur L. Caplan:もし PGD が前に進むと、その指針として国家強制ではなく、個人の選択によっ
てそうしなければなりません。しかし、他の子どもを誕生させることができる可能性がある場合、
医療には非常に重い身体障害を持つ新たな人の誕生に参加することを望んでいないと言う権利があ
ります。失明、難聴、小人病のような、彼らが有する特徴を遺伝するだろう分かっている子供を作
ろうとした場合、作ることが出来ます。これらの特徴は明確で必ずしも重度な障害ではなく、その
ような願いは医療サービス提供者が高く評価するものになるでしょう。しかし、手足がない子供や、
無脳症の子供を作ろうとしている人やカップルは、そのような願いの実行に医療の参加を求める点
で、明らかに道徳的一線を越えています。
Lawrence J. Nelson:私は、国家が“罹患した”子供を誕生させそうな人を、古典的な方法によっ
て妨げる権限がないのと同じように、両親が移植されることを望む胚を選択する際に、国家が PGD
の利用を合法的に妨げる憲法上の権限を持っているとは信じません。しかし例えば、たとえ両親が
それを実現したい場合でも、個人やプロの良心の問題として、PGD に関わる臨床医は、致死的な遺
伝病の影響を受けた胚の移植を拒みます。私は、PGD に関わるすべての臨床医に、彼/彼女が誠実
に信じていることについて注意深く思案し、実務に関して倫理的制限としてあらかじめ患者に対し
て、それを明らかにする義務があると呼びかけます。もし、私がそのような臨床医であったら、胚
が一般的に“無効化”の状態と見なされるものであるため、私は単純に両親の意見に従って胚の移
植を拒むとは思いません。
Richard T. Scott:理論上の懸念は正当なものですが、現実には、カップルは“罹患した”子供を持
つリスクを減らすために PGD を行います。これらのカップルの多くはすでに深刻な遺伝性疾患に
苦しむ子供を持っていました。これまでに、1 件を除いて、罹患児の移植に関心がありませんでし
た。1 件の例外は、これが非常に現実的な問題となりうる可能性を示しています。いくつかの他の
病院のように当院では、両方が難聴の遺伝的原因を持っており、子供に聴覚障害があるかを確信す
るために PGD を使用としている両親がいました。明確にするために、彼らは正常な聴力を持つ子
供を選別したくありませんでした;彼らは聴力障害のある子供が欲しかったのです。これらの人は
非常に成功しており、彼らの障害に順応していました。彼らが自分達の子供が同じようにすること
を助ける可能性は非常に高いようです。これは我々の臨床 PGD プログラム内で直面する、最も複
雑な倫理的問題です。夫婦の生殖に関する権利が最も重要ですが、病気に関する状態を選択するこ
とは、私たち自身の個人的な倫理基準と一致していないと私たちは信じています。私たちのグルー
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プはノーと言いました。
■PGD 検査と性別の選択(非医学的な理由のため)は、倫理的であると感じますか?それは許され
るべきですか?
Richard T. Scott:これは、私たちが直面する最も難しい問題です。PGD 研究室には性別の選択につ
ながる可能性のある 2 つの状況があります。1 つ目に、異数性スクリーニングは、不妊夫婦に対し
臨床適応で行われます。その際、夫婦が望む性別を選択できるように、夫婦は正倍数性の胚につい
て質問します。この場合、体外受精も PGD も選択的に行われませんでした。ある検査室は性染色
体の数(例えば、2 つの正倍数胚)だけを開示し、夫婦が事前に性別を知ることができるように実
際の結果を開示することを拒みます。私たちは患者からの情報を伏せることに慣れていません。そ
れは彼らの胚であり、どのような権利で、私たちが任意に情報を伏せる必要があるのでしょうか?
これらの場合、私たちは患者が最初に移植する胚-女または男-を選択することを許可します。事
実上、これら患者全員は将来使うために、“もう 1 つの”性別の胚の低温保存を行います。
2 つ目はさらに複雑です:家族のバランス-例えば、特定の性別の子供を得るために、体外受精ま
たは PGD を行おうとしている生殖可能な夫婦。考慮すべき無数の要因があります。最後に、私た
ちは私たちのプログラムで、これらの夫婦の願いを許可します。夫婦に彼ら自身が生殖意思決定を
するのを許可するという、私たちの中核理念と一致します。同様に、既知の遺伝異常を継続させな
いという私たちの使命に違反していません。これら夫婦に関して、2 つの興味深い事実があります。
1 つ目は、約 60 %が女の子を希望します。不釣り合いにより、もっと男の子を作るための殺到が予
想されましたが、私たちの集団では認められませんでした。2 つ目は、不妊夫婦が家族をつくるた
めに胚を用いることができるように、これら夫婦の多くが選ばれなかった性別の胚を匿名で寄付し
ます。このようなケースは私たちがケアをする夫婦の 1 %未満です。
Arthur L. Caplan:好みの性別のための性別検査は、疾患ではない状態の検査です。もし、それが
家族のバランスのために行われたら、恐らく実例が作られ、他の事も同じです。しかし、性指向が
病気ではないように、性別は病気ではないので、検査の実施への医療介入を避ける特徴があります。
Lawrence J. Nelson:もし国家に、PGD を介して生殖を規制する憲法上の権限がない場合、非医学
的理由による性別選択を許可しなければならないでしょう。どの法律も将来、両親が望むことを何
でも臨床医がすることを求めないように、PGD を実施している臨床医にそれを求めるかどうかは別
問題です。私は、将来の両親が“家族バランス”を達成するために、合法的に性別を選択したいと
いう議論に納得しません。私は、PGD 臨床医専門職団体のメンバーがこの問題を公的に討論し、態
度を明確にするところを見てみたいです。
■20 年後に、この分野はどうなっていると思いますか?
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Arthur L. Caplan:私は、多くの不妊クリニックが優性学的目的の PGD を提供し、そのようなサー
ビスの要望が多くなるだろうと思います。私は、その法的能力を有するカウンセリングにおいて、
クリニックが提供している本質的な部分ではありませんせんが、実務に関して大きな倫理的議論に
なるだろうと思います。裕福な人が、貧しい人よりもはるかにアクセスできるという点で、そのよ
うなサービスへアクセスする権利に関する倫理的な論争も激しくなるでしょう。
Richard T. Scott:包括的遺伝子スクリーニングの利用が、ますます増えるのはすでに現実のもので
あり、費用が減るにつれ、利用はますます増えるでしょう。そのため、最初の出産を達成する前に、
夫婦が子供の遺伝子異常のリスクに気づくようになるでしょう。健康な子供を希望することは、家
族形成の基盤です。夫婦が子供に存在するリスクについてますます気づくと、PGD がリスクを軽減
するためにより頻繁に使用される可能性が高いです。健康な家族を築く手助けとして、PGD の役割
は大きな可能性を秘めています。
注意すべきこと:“普遍的スクリーニング”の概念が考慮に値する前に、多くの作業になすべきこ
とが残っています。現在、高性能配列解読装置によって、多くの個人の多数の遺伝的偏向を同定す
ることができます。これらの“変異”(または、ただの多形?)の意味は、ほとんど知られていま
せん。それらは、多数の微小欠損や微細な組み入れを含んでいます。私たちはこれらの異常の意味
について考えがないので、これらの夫婦をカウンセリングする証拠に基づいた方法はありません。
より多くの経験と慎重な調査によって、意味のある異常(臨床的に関連性のある少数派のようなも
の)は、通常の遺伝的変異から分離されることが望まれています。それまで、カウンセリングや意
思決定に十分な注意がされるべきです。今後 20 年での最も重要な進歩は、我々の遺伝子コードの
中のうち、どの多様性が重大な病態のリスクを導くのかが学習されるでしょう。PGD の適用は、強
力な洞察力に基づいた自然の選択の 1 つでしょう。
(訳者:間下 有子)
Footnotes
Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this paper and have met the following 3 requirements: (a) significant
contributions to the conception and design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for intellectual content; and (c)
final approval of the published article.
Authors' Disclosures or Potential Conflicts of Interest: Upon manuscript submission, all authors completed the author disclosure form. Disclosures and/or potential
conflicts of interest:
Employment or Leadership: A.M. Gronowski, Clinical Chemistry, AACC.
Consultant or Advisory Role: None declared.
Stock Ownership: None declared.
Honoraria: None declared.
Research Funding: None declared.
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Expert Testimony: None declared.
Patents: None declared.
Received for publication August 23, 2013.
Accepted for publication September 17, 2013.
© 2014 The American Association for Clinical Chemistry
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