アミド結合を用いた新規錯体重合法によるホウ酸塩の合成 東海大学大学院 地球環境科学研究科 ○松本 勇磨、冨田 恒之、関根 嘉香 東北大学 多元物質科学研究所 垣花 眞人 [Introduction] セラミックスを合成する方法は大別して、固相法・液相法・気相法の 3 種類がある。固相法は固体同士を 粉砕混合し焼成することで、セラミックスを合成するが、体積拡散が必要になるため、高温で長時間の焼成 が必要になる。さらに、前駆体の均一性が悪いためドーピングなどに適していない。気相法は量産性に乏し く高コストという欠点がある。これに対し、溶液法は溶液中で原料を混合させるため、分子・原子レベルで の混合が可能であるため、粒界拡散・表面拡散が優位になり、焼成温度を低温度化できる。さらに量産性に すぐれているため、工業生産にも適している。このような溶液法の一つに、錯体重合法という方法がある。 錯体重合法は原料金属元素をクエン酸で錯体とし、そのクエン酸錯体同士をグリコールでポリマーとするこ とで、沈殿生成過程を経ないため、多成分を含む系の場合ゾル-ゲル法や共沈法などの他の溶液法と比べ、す ぐれた均一性を持つ前駆体を得ることができる。(ポリエステル法)1)しかし、従来の錯体重合法はホウ素を含 む化合物の合成ができない欠点があった。これはホウ素が錯体重合法で用いるグリコールと反応し、合成時 に系外へ揮発してしまうためである。そこで我々はグリコールの代わりにエチレンジアミンを用い、クエン 酸とアミド結合を形成させることで、ポリマー化させることができるのではないかと考えた。(ポリアミド法) 本研究ではアミド結合を用いた錯体重合法を開発し、ホウ素を含む化合物の合成を可能にすることを目的と した。 [Experimental] アミド結合を用いた錯体重合法を用いて K3Ta3B2O12 と YBO3:Eu を合成した。K3Ta3B2O12 は、過酸化水 素に TaCl5 を懸濁させ、そこにアンモニア水を加えることで TaCl5 を溶解させた。ここへ KNO3 と H3BO3 を加え、さらにクエン酸とエチレンジアミンを加え、130℃で蒸発乾固させ、450℃でか焼し、前駆体を得た。 その前駆体を各温度で焼成した。 YBO3:Eu はクエン酸水溶液に YNO3、EuNO3、H3BO3 を加え、そこにエチレンジアミンを加えた。その 溶液を 130℃で蒸発乾固させ、450℃でか焼し、前駆体を得た。その前駆体を各温度で焼成した。 [Results and Discussion] K3Ta3B2O12 の合成ではポリエステル法を用いると、KTaO3 が得られた。ポリアミド法で得られた生成物は 目的物質と K6Ta10.8O30 の混相であった。これは原料の TaCl5 由来の塩素とホウ酸が反応しホウ素が揮発して しまったためだと考えられる。ホウ素を 40mol%過剰にすることで目的物質を単相で合成することに成功し た。これはホウ酸を大過剰にすることで塩素と反応して揮発してしまったホウ素補うことができたのである と考えられる。さらに、ホウ素はフラックスとしての性質を持ち合わせているため、それも結晶化に影響が あったと考えられる。 YBO3:Eu ではポリエステル法を用いると、Y2O3 の単相、ポリアミド法では YBO3 が得られた。錯体重合 法の利点である前駆体の均一性を確かめるために、他の方法で合成した YBO3:Eu と蛍光強度を比較した。す ると、結果は Fig.3 のようになった。固相法では均一性が乏しいため、ドープしたユーロピウムが凝集して しまい、濃度消光が起き、発光が弱くなったと考えられる。錯体ゲル法と錯体重合法で錯体重合法のほうが 優れていたのは、前駆体の均一性がよく母体の相純度が上がり、賦活剤が均一に分散したためであると考え られる。 250 6000 YBO3計算値 4000 Y2O3計算値 3000 ポリアミド法 2000 固相法 錯体ゲル法 錯体重合法 200 Intensity(a.u.) Intensity(a.u.) 5000 150 100 50 1000 ポリエステル法 0 10 30 50 2θ /degree,CuKα 70 Fig.1 YBO3:Eu の XRD パターン 1) 垣花眞人, 化学と教育, 43(3), 146-152, 1995-03-20 90 0 550 570 590 610 Wavelength(nm) 630 Fig.2 YBO3:Eu の蛍光度測定 650
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