インドネシア鋳造産業集積地における新潮流と

インドネシア鋳造産業集積地における新潮流と、
専門家を輩出する教育機関について
堀 琢 磨 前経済産業省素形材産業室
1.はじめに
近年、ものづくりの良きカウンターパートとして、
易ではなく、地方に目を向けることで選択肢が広がる。
インドネシアに注目が集まっている。しかしながら、
そこで、本稿では、インドネシアにおけるローカル企
産業集積地におけるローカル企業の動向については、
業に焦点をあて、産業集積地における新たな潮流や教
あまり知られていない。アセアンの首都は、空港(日
育機関について取り上げる。第一に、インドネシア鋳
本からの直行便)
、海港、工業団地がそろう、非常に恵
造業の特徴、第二に、鋳造産業集積地に見られる新た
まれた場所であり、あらゆるセクターの工場、オフィ
な取り組みについて、第三に、鋳造現場を支える教育
ス、物流が集中する。ジャカルタから 70 km 東方で
機関について述べる。本稿のうち、意見にかかる部分
さえも、工場用地やカウンターパートを探すことが容
は個人的意見であることをお断りする。
2.インドネシア鋳造業の特徴
(1)生産を取り巻く背景
①原材料・副資材について
輸入価格の高い銑鉄(Besi kasar pengecoran)を使
用しない鋳造企業においては、スクラップの調達力
が競争力の差となっている。スクラップの調達事情
が悪い中、自社で発生した切削加工後の戻り屑は資
源として重要である。溶解(Peleburan)については、
鋳物用コークス(Kokas pengecoran)の輸入価格が
高騰した後は、キュポラ(Kupola)から電炉(Tanur
listrik)への転換が急速に進んだ。産地の経営者によ
写真 1 パンチングスクラップ
れば、キュポラの管理面に加えて、連続操業を行う
ための最低限の受注量を確保することが難しかった
ことも背景にある。また、融点の低いアルミの重力鋳
造では、軽油価格の高騰により、天然ガス(インドネ
シアでは安価)への転換が、産地の中小企業におい
て進行中である。
鋳物砂(Pasir pengecoran)は、バンカ 島の珪砂
(Pasir silika)が広く知られている。ツバン(スラ
バヤ北西約 100 km)の山砂のように、水と練るだ
けで粘土の作用により固まる砂もある。砂はやや
写真 2 スクラップ
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工場は、軒並み設備を増強させている。
企業形態については、規模を問わず、部品
完成品や最終組立製品まで一貫生産を行う企
業がほとんどである。鋳放品を出荷する独立
系企業の成立を難しくしているのは、①企業
ないし企業グループ内で工程を完結させてい
るため、鋳放品のみの外注が発生しにくい、
②ロボット、食品機械、工作機械のような、
鋳造品を使用しながらも鋳造工程を持ってい
ないメーカーがそもそも少ない、③生産量が
変動する中、機械メーカーの鋳物部門が注文
を受けるようになり、ますます鋳放品の注文
写真 3 トゥガールの鋳物工場に残るキュポラ。 写真 4 玄関の飾り。美術鋳物
(Coran Artistik)である。
現在は使われていない。 獲得が難しい、という背景も一因にあろう。
(2)APLINDO について
鋳造協会に相当するものは、APLINDO(Asosiasi
Industri Pengecoran Logam Indonesia、インドネシア
鋳造産業協会)である。加盟企業は、表 1 の通り
で あ る。 メ ン バ ー の 増 減 が あ り、 過 去 に は、PT.
TOYOTA ASTRA MOTOR、PT. KOMATSU、
PT. BOMA BISMA INDRA(Persero、国営企業)、
PT. AGRINDO が加盟していた。APLINDO は、会
員共通の問題を解決するための活動として、例え
ば、基準適合性、研修会の開催、展示会支援、情報
写真 5 セメントと糖蜜を混ぜたバッキングサンドを使用する。
提供を中心に活動を行っている。会長の下に、鉄系
では、銑鉄鋳物、インベストメント鋳造、鍛造の部
肌理が細かく、適度な粘土分を含み、ほくほくす
会が設置されている。非鉄に関しては、ダイキャス
る感触である。また、鋳造現場では、込め砂(Pasir
ト、非鉄鋳物、非鉄精錬の部会がある。APLINDO
penehan)として、セメントを使用することがある。
を含む金属関係の 12 協会は、GAMMA(Gabungan
砂にセメントとモラセス(糖蜜)を配合する。
Asosiasi Perusahaan Pengerjaan Logam dan
②企業形態と産業集積地
Mesin、インドネシア金属機械工業協会連合)に加
伝統的産地は、チェペル(Ceper、ジャワ島中央
盟 す る。APLINDO の 会 長 は、GAMMA の 役 員 を
部)とトゥガール(Tegal、ジャワ島中部北岸)であ
兼ねている。アセンブラーに関しては、例えば、建
る。チェペルに鉄鋳物工場が集積するのに対して、
機メーカーと部品メーカーは、HINABI(Asosiasi
トゥガールには非鉄鋳物工場の集積が見られる。近
Industri Alat Berat Indonesia、インドネシア重機産
年は、自動車メーカーが生産量を伸ばしていること
業協会)を結成している。HINABI の事務所は、PT.
から、ジャカルタ近郊の自動車部品を生産する鋳造
KOMATSU にある。
3.鋳造産業集積地に見られる新たな取り組みについて
工場現場にてインドネシア人経営者と意見交換を
古くは、銀食器、楽器、鍋、人形劇用の人形が作られ、
行った中から、8 つの事例を紹介する。
その後は、中小造船メーカーに加えて、BARATA 社
や DWIKA 社(当時)から小物の発注を受けて、産業
(1)独立開業して工程を前後に拡張するケース
8
の厚みが増した。トゥガールの中でも、鋳造企業が
トゥガールは、ものづくりの町である。町の中心
密集する地区は、クバスン村(KEBASEN)である。
部においても金属加工企業・販売企業の他、家具の製
人口約 3,000 人の村に、金属加工メーカーが約 100 社
造・販売企業が目立つ。木型は家具職人が作るという。
あり、うち 50 社が鋳造工程(全て非鉄鋳物)を持つ。
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特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
表 1 APLINDO 加盟企業
工場
設立
鉄 鋳鋼 IC 非鉄 DC
備考
Medan
1989
(スマトラ島北部)
●
PT. Bina Usaha Mandiri Mizusawa
Tangerang
1988
(Jakarta の西)
●
自動車部品、ポンプ部品、
ディーゼルエンジン
PT. Shaprindo Dinamika Prima
Tangerang
1984
(Jakarta の西)
●
空調部品
PT. Stainless Steel Primavalve
Majubersama
Tangerang
1992
(Jakarta の西)
●
配管部品
PT. Sempana Jaya Agung
Depok
1985
(Jakarta の北)
PT. Growth Asia
●
産業機械部品
●
自動車部品、電気機械部品
PT. Daya Baru Agung
Jakarta
1977
●
PT. Geteka Founindo
Jakarta
1990
●
●
PT. Metinca Prima Industrial Works
Jakarta
1987
●
●
PT. Moradon Berlian Sakti
Jakarta
1984
PT. Pakarti Riken Indonesia
Jakarta
1974
●
PT. Pakoakuina
Jakarta
2008
●
PT. Trieka Aimex
Bogor
(Jakart の南)
1992
PT. Wijaya Karya Intrade
Bogor
(Jakart の南)
1983
●
PT. Bakrie Tosanjaya
Bekasi
(Jakart の東)
1976
●
PT. Chemco Harapan Nusantara
Cikarang
(Jakart の東)
1984
●
PT. Astra Daihatsu Motor Casting Plant
Karawang
(Jakart の東)
1997
●
●
自動車部品
PT. Yamaha Motor Parts Manufacturing
Indonesia
Karawang
(Jakart の東)
1996
●
●
自動車部品(二輪車)
Bandung
1983
●
Yogyakarta
1953
●
PT. Texmaco Perkasa Engineering
Semarang
1979
●
PT. Tri Sinar Purnama Foundry
Semarang
1987
●
PT. Jatim Taman Steel
Surabaya
1970
●
●
産業機械部品、棒材
Gresik
1971
(Surabaya の北)
●
●
産業機械、鉄道台車
国営のプラントメーカー
PT. Pindad(Persero)
PT. Karya Hidup Sentosa
PT. Barata Indonesia(Persero)
自動車部品(二輪車)
自動車部品、ポンプ部品、
建機部品
●
ポンプ部品、エンジン部品、
建機部品
●
●
●
自動車部品
自動車部品
自動車部品(ホイール)
●
●
ポンプ部品、産業機械部品
自動車部品、配管部品
国営企業
●
自動車部品、建機部品
鋳造企業を次々に買収。
●
●
●
自動車部品
産業機械部品
国営企業、軍需∼民需品
農業機械部品
農機メーカー
●
産業機械部品(織機、機械)
プラントメーカー
配管部品
注)IC:Investment Casting,DC:Die-Casting.工場所在地は、近隣の大都市名を記している。精錬所、資材・副資材メーカーを除く。
PT. Bakrie Tosanjaya では、PT. Aneka Banusakti において鋳鋼を扱う。
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この鋳造産業集積地における主力製品は、①船のパー
は繁栄の意味である。機械加工メーカー 4 社が、設
ツ、②消火栓、ポンプ、③農機具(脱穀機、トラクター
備費用とランニングコストがかかる鉄鋳物工場を、
部品)、④自動 2 輪用補修部品である。
共同で所有することになった。
UD. SETIA KAWAN 社(従業員 16 名)は、名前
経緯については、もともと、FC の鋳造工場と機
の通り、仲良いチームワークが自慢の会社である。
械加工工場を所有する企業があった。1 社で所有し
社長は、以前は両親の会社(鋳造+機械加工)で仕
ていた鋳造工場の経営に、3 社の機械加工専業メー
事をしていた。ご両親が亡くなった後、兄弟は別々
カーが参画し、計 4 社が 25 % ずつの出資を行い、鋳
に独立した。開業は 2011 年である。両親の工場では、
造工場を独立させた。出資を得て、炉を増強すると
船の窓枠単品(鋳放品を旋盤で加工)を扱っていた
ともに、扱う素材を広げている。現在、溶解炉は、
が、独立開業後は、①最終製品への拡張(ゴム枠と
インダクトサーモ(500 kg 炉)、高周波誘導炉(Tanur
ガラス、蝶番を取り付けた窓枠セット品)、②製法
induksi listrik frekuensi tinggi)
(2 t 炉、1 t 炉、
の異なる製品への拡張(プレスによる船のドア枠の
250 kg 炉)である。従来は FC(Besi cor kelabu)で
生産)を果たしている。アルミ製のドア枠を曲げる
あったのに対して、現在の生産量は、半分が FC と
機械は、自社で設計を行い、町工場の協力を得て完
FCD(Besi cor bergrafit bulat)、残りの半分が鋳鋼
成したものである。注文は、直接顧客から受ける。
である。評価・計測装置については、フランス製の
アフターマーケットの製品は、「これと同じものを
スペクトロメーターを導入し、また、1 t の焼き入
何セット作ってください」という注文を受けるので
れが可能な熱処理炉も持つ。自硬性鋳型(Cetakan
ある。取引先は、カリマンタン、スラバヤ、チルボン、
mengeras sendiri)による生産であり、小物は水ガ
ジャカルタなどにある。品質管理は、LIK 中小企業
ラス(Air kaca)、大物はフラン樹脂を用いる。
地域支援センターの指導を受けている。
写真 6 トゥガールの鋳造産業集積地。自宅を改造して
工場をつくる。
写真 7 規模を問わず、機械加工工程を持つ。
(2)複数の機械加工メーカーが、共同で鋳造工場を
経営するケース
10
写真 8 共同経営を行っている銑鉄鋳物工場。非鉄鋳物の産地
であるトゥガールでは珍しい鉄鋳物の工場である。
写真 9 鋳造工場の共同経営者が、他社の機械加工工場を見て、
檄を飛ばしている。お互いの技能を高めあっている。
(3)産地の組織形成に力を入れて、技術の向上と共
同受注を進めるケース
PT. PUTRA BUNGSU MAKMUR 社は、2012 年 5 月
PT. ANEKA ADHILOGAM KARYA(1970 年設立)
に設立したばかりの鋳鉄鋳物企業である。MAKMUR
は、配管・バルブを軸に、様々な(Aneka)仕事(Karya)
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特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
に関する鋳造製品を扱っている。従業員は 120 名で、
年産 2,000 t 程度である。塗装・組立・試験を行った
(4)スクラップ調達と低品位スクラップの対応を進
めるケース
完成品を、県の水道局等に納める。同社の 2 代目社
銑鉄の国内生産が無いインドネシアにおいては、
長は、地域の世話役として、産地の活性化に力を注
良質のスクラップを炉に投入することが、優れた品
ぐ経営者である。鋳造品は、半分が生型で、残りは
質の製品をつくる鍵となる。資材・副資材の供給源
ガス型とセメント型を使用して生産する。オーナー
(プレス工場等)と流通網が発達する日本とは、事情
は、地域の経営者 5 名とともに日本で研修を受けた
が大きく異なる。インドネシアのローカル企業に行
ことがある。オーナーは、京都で研修し、トヨタ、
き、スクラップ置場を見ると、調達力の違いは明ら
デンソー、カシオ等を見学したことがある。
かになる。ユーザーによっては、プレスの打ち抜き
チェペルのバトル村には鋳造企業 293 社が集まる。
を持ち込み、鋳造品をつくる流れが成り立っている。
ここは、インドネシア屈指の鋳造産業集積地である。
アーク炉(Tanur busur listrik)の増強を進める企
大企業は 20 社程度で残りは中小企業である。バトル
業もある。国営企業 BARATA は、インドネシア有
村には、企業経営者からなる組合、BATUR JAYA
数のプラント・産業機械メーカーであり、鋳造部門
がある。地域の商工会議所であるものの、実際は、
(FC、鋳鋼)はスラバヤに近いグレシックにある。鋳
ほぼ全てが鋳造企業である。BATUR JAYA の機能
鋼(Baja cor)は、北米及び国内向け鉄道台車に特化
は、①交流機能、②人材育成機能、③共同受注機能
している。車輪は生産していない。同工場では、アー
へと、活動の幅を広げてきた。
ク炉の増強が進む。あらゆるスクラップに対応する
POLMAN チェペルが地場企業等によって設立さ
「雑食性」が競争力の鍵である。
れたように、ここチェペルは、人を育てる機運にあ
ふれる地域である。各社従業員の鋳造技術向上につ
いては、主に POLMAN チェペルの講師が研修を行
う。QC や経営管理については、経営者が集まって、
各地から講師を呼んで学ぶ。今後、人材育成研修を
行いたい分野は、経営管理、従業員のモチベーショ
ン向上、国内外における鋳造業やユーザー産業の動
向、鋳造産業の方向性(10 年後のビジョン)である。
新素形材ビジョンを紹介したところ、非常に関心を
持っていた。
写真 12 BARATA 社の鋳造工場では、北米向けの台車を
生産している。
(5)海外の大学教員からの指導を得て、管理技術の
向上と技術の高度化を進めるケース
工業省局長との会議で、鋳鋼を扱う優良企業と
して紹介を受け、その 2 時間後に訪問した企業は、
METAL CASTINDO INDUSTRI-TAMA 社である。
TAMA は Pertama(一番)を意味する。インドネ
写真 10 注湯の様子
写真 11 経営者と POLMAN チェペルの先生方
写真 13 インベストメント鋳造法(ロストワックス)に
よって生産された部品は、欧州に出荷される。
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シア大学で鋳造を学んだ、若手役員が切り盛りする。
戦略と共通点がある。
同社は、
ドイツから、
インベストメント鋳造(Cetakan
自動車は、拡大基調である。しかし、例えば、建
invesmen)を導入して、欧州各国に輸入を拡大し
機の需要には変動が生じる。建機部品(鋳鋼品)を
て事業を拡大させた。場内には、組み立てられたツ
扱っている企業は、① 手込め、大物を行っている、
リー(Saluran pohan)が並ぶ。ドイツ企業との取引
② 地方に立地する(ジャカルタ周辺企業は、自動車
があり、ドイツの大学教員が年に一か月ほど指導に
に目が行っている)、③ 軸足を複数持つ(受注変動と、
来ている。最近では、砂型鋳造品(Coran cetakan
アセンブラーの第三国調達により、注文量が変動す
pasir)の事業を拡大して、建機部品をはじめ、FCD
るため、建機のみは難しい)、④ 質の安定したスク
及び鋳鋼品を手掛けている。
ラップの調達ルートを持つ、⑤ 鋳鋼に不可欠な熱処
理炉を持っている、⑥ 資金的余裕がある、という共
(6)定期的に需要が発生する消耗品を供給するケース
通点があるように思える。
セメント、パーム油、製糖、建設、鉱山(石炭、
ニッケル)は、消耗品の需要が発生する分野である。
CV PRIMA LOGAM 社(PRIMA は重要、LOGAM
は金属の意味)は、砕石に関わる企業である。ジョー
クラッシャーに、石、石灰とともに入れる、グライ
ンディングボール(400 g の鉄球)を生産する。クロー
ムを調整して、注湯を行う。社長室には、JICA の
QC セミナー修了証(於:バンドン)が飾られている。
定期的に需要が発生する消耗品市場に関わり、生産
を伸ばしている。
(7)鋳造企業が同業企業を買収して、扱う素材と製
写真 14 近代的な鋳造工場である。
品を広げるケース
バクリー・グループは、金属、石炭、農業、情報通信、
石油・ガス等の企業を持つコングロマリットである。
(8)新しい鋳造ラインにより、生産効率の向上と品質
の安定化を達成して、製品の幅を広げるケース
金属分野の PT. BAKRIE TOSANJAYA(バクリー・
PT. BAJA KURNIA(1988 年設立)の会長は、大
トサンジャヤ)は、現在 6 つの鋳造企業(工場)、PT.
学教授である。会社名は、鋼鉄川口の企業を訪問し
BAKRIE TOSANJAYA(1975 年設立)、PT. BRAJA
た縁で、川口の企業がチェペルに工場をつくる事例
MUKTI CAKRA(1985 年 設 立、50 % シ ェ ア )、PT.
(PT. ITOKOH CEPERINDO)があったように、人
JIBUHIN BAKRIE INDONESIA(1996 年設立、40 %
の縁を大切にする経営陣である。従業員は 180 名で
シェア)、PT. BINA USAHA MIZUSAWA MANDIRI
あり、チェペル最大手の工場である。かつては、石
(2010 年、99.99 % シェア)、PT. BAKRIE TOSANJAYA
油ポンプ(0.1 t ∼ 8 t)を作っていたが、現在は、日
CAKUNG PLANT(2010年、100%シェア)、PT. ANEKA
本をはじめ各地の企業と提携し、海事関係の部品、
BANUSAKTI(2011 年、58 % シ ェ ア )を 保 有 す る。
肥料工場やパームオイル加工場の機械部品、カウン
バクリー・グループ内からの注文を柱とする一方で、
最近は、グループ外からの注文が目立って増えてい
る。ジャカルタ近郊のブカシにある PT. BAKRIE
TOSANJAYA では、鋳鉄製自動車部品(ドラム、ギ
アハウジング)を扱い、東ジャワにある PT. ANEKA
BANUSAKTI では、鋳鋼(建機用、セメントプラン
ト用、炭鉱用、採石用、パームオイルプラント用)
や遠心鋳造(自動車エンジンのシリンダーライナー
等)を扱うように、自動車部品から、建機部品、産
業機械部品まで、幅広い製品を手がけている。世界
をみると、ドイツの DIHAG Gruppe は、次々に買
収を重ねて、12 社の鋳造企業において、100g から
100t までの様々な素材から成る製品を扱う。同社の
12
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写真 15 桟橋の係船柱(ビット)。
高さ 1.2m、重量 15t である。内外から、
多様な形状の鋳造品を受注する。
特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
ターウエイト、マンホールの蓋、継手、建機用の爪等、
は生型、CO2 型、フラン型、セメント型の 4 種類あ
製品の幅を広げている。鋼屑、パンチ屑はジャカル
り、製品と数量によって使い分ける。日本人専門家
タから輸送している。日本メーカーのジョルトスク
が 1 年間滞在して指導した。
イーズタイプ造型機と砂処理設備を導入した。造型
4.専門家を輩出する教育機関
POLMAN(Politeknik Manufakutur、技能高等専門
検査等がある。カリキュラムの時間配分は、理論
学校)では、高校卒業生を対象に、3 年間の教育が
(Kuliah Teori)33.3 %、実習(Kuliah Praktik)66.7 %
行われている。実学を重視した教育が行われ、計
である。少人数で、実習を中心にしていることが
9 か月間の企業実習が含まれる。鋳造講座を持つ
特徴である。実習は、1 年生は POLMAN の施設で
POLMAN は、チェペルとバンドンにある。4 学科
行うが、2 年生は近隣の鋳造工場、3 年制では大手
を持つ POLMAN バンドンは、大規模校であり、他
企業(ジャカルタ近郊やスラバヤ)で実習を行う。
学科との連携も強みとなる。また、鋳造ラインを
実習は 4. 5 か月× 2 回である。LSP‒LMI(Lembaga
持 ち、 製 品 の 販 売 も 行 っ て い る。 こ れ に 対 し て、
Sertifikasi Profesi‒Logam & Mesin Indonesia)
より、
POLMAN チェペルは、鋳造に特化した学校であり、
インターンシップの証明書が発行される。研修の場
産業集積地の鋳造企業群に囲まれ、地域密着型であ
合には企業から、寮や多少の生活費は支弁されるそ
る。少数教育で、座学と実習を学び、産地で揉まれ
うだ。
て育った学生の人気は非常に高い。
(1)POLMAN チェペル
POLMAN チェペルは、特別な経緯によって設立
された。2003 年、県と、チェペルの鋳造企業 13 社が、
鋳造に特化した POLMAN をつくったのである。自
ずと産学の連携が深まり、同校は、鋳造業をリード
する人材を輩出させている。ジャカルタ近郊の大手
企業経営者は「POLMAN チェペルの生徒はよく頑
張っている」、地方企業の経営者は「POLMAN チェ
ペルの学生を採用したいが就職してくれない」と話
した。卒業生は、ジャカルタ、スラバヤ、バンドン
写真 16 POLMAN チェペルにおける座学の講義
に就職する人が多い。就職先は、ASTRA Group、
BAKURIE Group、FEDERAL IZUMI、ZENITH、
YAMAHA、SELAM BERSI 等である。チェペルの
経営者は、
「地元チェペルに就職して欲しいが、ジャ
カルタ近郊の自動車大手企業に流れている。外で技
術を身につけて、いつか、地元に戻ってきてほしい」
と述べた。
チェペル全体で年間 15 万トンの鉄鋳物を生産し
ている。もともとは、伝統工芸品、景観鋳物、鍋な
どを生産していた。砂糖黍を搾る設備の部品(消耗
品)を扱う企業が広がり、機械鋳物にシフトしたの
である。
同 POLMAN は、1 学 年 35 名 × 3 年 制 の 少 人 数
教育が行われる。教員は、ガジャマダ大学、スマ
ラ ン 大 学、 バ ン ド ン 工 科 大 学 等 の 出 身 者 で あ る。
FC、FCD に 加 え て、 ア ル ミ 鋳 造 も 学 ぶ こ と が で
写真 17 3 セメスターで、シミュレーションと現実の
違いを修正していく。 きる。科目は、模型製作、溶解、成分調整、調砂、
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鋳造に特化している学校のため、鋳造に関する座
週間)であり、最初の 3 セメスターはキャンパス、2
学及び実習は充実しており、学生の真摯な態度に共
セメスター(On the Job Training)は工場、最後の
感させられる。POLMAN チェペルでは、①周辺の
1 セメスターはキャンパスに戻って実習(週 4 日)と
鋳造 200 社の協力を得て学生の実習が行われている、
理論(週 1 日)を学ぶ。2009 年は、倍率 7 倍の狭き
②鋳造企業の技術相談を常時受けて教員が理論と現
門であった。就職については、就職希望者の 3 ∼ 5
場に即した高い指導力を持っている、③企業スタッ
倍の求人が来ており、就職機会に恵まれている。ジャ
フのトレーニングを行う等の理由により、人材育成
カルタ近郊の大手企業が、軒並み設備能力を増強さ
拠点として重要である。2003 ∼ 2007 年、JICA のシ
せていることから、就職は大手に流れる傾向にある。
ニアエキスパートが派遣されている。
最近は、就職希望者の半分が、自動車関連産業に就
職している。近隣にある鋳造企業が極めて限られて
(2)POLMAN バンドン
いることはハンデであるものの、①鋳造ラインがあ
1976 年、Institut Teknologi Bandung(バンドン
ること(製品を販売)、②機械加工等、最終製品に至
技 術 専 門 学 校 )と ス イ ス 基 金 に よ り、Politeknik
るまでの学科が併設されていること、③工業省の公
Mekanik Swiss-ITB が 設 立 さ れ た。 そ の 後、1998
的研究機関 MIDC の指導が得られることは、人材育
年、POLMAN バ ン ド ン(Politeknik Manufakutur
成の大きな強みである。
Negeri Bandung)に改組される。スタッフ 140 名、
3 学年計 800 名が在籍する。設計 150 名、鋳造 100 名、
製造 250 名、自動化・メカトロ 300 名(いずれも 3
学年合計の定員)が設置されている。全校において、
スタッフの 3 割が博士号取得者、2 割が修士号取得
者であり、実務経験を持つ専門家も活躍する。
シミュレーション∼模型製作∼砂型造型∼鋳込み∼
仕上げ∼機械加工までの工程を、校内に持つ。3 学
年の 2 学期制(計 6 セメスター、1 セメスターは 21
写真 20 10 枚セットのトークンと引き換えに作業道具を
借りる。返却の際に、トークンが戻る。
写真 18 POLMAN バンドン。学内に鋳造工場がある。
写真 21 シラバスには共同作業を多く取り入れている。
(3)MIDC(金属工業開発センター)
MIDC(Metal Industries Development Center)
は、工業省の研究機関であり、バンドンにある。職
員は 163 名(うち鋳造部門は 40 名)であり、金属加
工に関する試験(疲労試験、非破壊検査等)、研究(凝
固シミュレーション、組織制御等)、製品開発(メダ
ンにある GROWTH ASIA 社との提携による水力発
写真 19 技術指導を受けて、工具を借りる。
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電用の水車(Kincir Air)の開発)、人材育成を行う。
特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
写真 22 MIDC の鋳造ライン
写真 23 MIDC では学生教育も行う。
人材育成に関して、鋳造、溶接、加工のコースが設
2003 年度に、JICA プロジェクトで整備された鋳造
置されており、定員は各 40 名である。1999 年度∼
ラインが、大切に使われている。
5.まとめ
ローカル企業の新潮流について、8 つの事例を報
of Indonesia Economic Development MP3EI)を発
告するとともに、鋳造企業を支える教育機関につい
表した。2025 年までに、GDP 規模で世界のトップ
て報告した。近々、人材育成を主眼においた建設機
10 を目指すことを目標として掲げている。そして、
械に関する JICA プロジェクトが立ち上がる予定で
道路、空港、港湾などのインフラ整備と鉱業分野に、
ある。インドネシア政府は、「6 つの経済回廊」と
マスタープラン実行予算の 7 割を投資するとも言わ
「インドネシア経済開発加速 ・ 拡大マスタープラン」
れており、鋳造品を使用する最終製品の需要が増え
(Master Plan for the Acceleration and Expansion
ることは想像に難くない。
バンダ・アチェ
①スマトラ
�重点産業:パーム油、ゴム、
石油化学、石炭、造船
③カリマンタン
�重点産業:石油・天然ガス、
パーム油、石炭、鉄鋼、アルミ
メダン
ゴロンタロ
ポンティアナク
プカンバル
パレンバン
マナド
サマリンダ
ジャンビ
④スラウェシ
�重点産業:ニッケル、農業、
花卉園芸、漁業、
石油・天然ガス
マノクワリ
パル
パランカラヤ
ランプン
ジャカルタ
スラン
ジャヤプラ
マムジュ
バンジャルマシン
パプア
マッカサル
スマラン
スラバヤ
バンドン
②ジャワ
�重点産業:食品、輸送機械、
セメント、繊維
マタラン
デンパサール
⑤バリーヌサ・トゥンガラ
�重点産業:観光、漁業
⑥パプアーマルク
�重点産業:農業、漁業、
石油・天然ガス、銅
バンダ・アチェ空港~スカルノ・ハッタ空港~デンパサール空港~ジャヤプラ空港 5,663km
(参考:関西空港~デンパサール空港 5,242km)
図 1 インドネシア経済回廊構想
(IEDC ; Indonesia Economic Development Corridor)
Vol.54(2013)No.11
SOKEIZAI
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