平成25年度 オランダの健康と福祉の概要 男女共生グローバルサポーター事業 「女性リーダーコース オランダ王国」 日本では尐子高齢化に伴い、医療・年金の財源 視察研修報告書 確保対策が課題となり、団塊の世代が75歳にな 平成25年11月10日(日)~ る2025年に向けて重度な要介護状態となって 11月17日(日)8日間 も住み慣れた地域で自分らしい人生を最期まで続 鈴木芳子(矢祭町) けることができるように、住まい・医療・介護・ ◎概要 予防・生活支援が一体的に供給される「地域包括 面積:41,528平方キロメートル ケア」の構築を推進している。今回は福祉先進地 (九州とほぼ同じ) のオランダから、自分らしく人生を生きるとは 人口:1,650万人(九州は1,310万人) どういうことなのかを視察研修で学んだ。 言語:公用語はオランダ語 政治:立憲君主制 議員内閣制 経済:貿易を中心に発展 輸出大国(世界第5位) 労働人口の約3/4は第三次産業に従事 Ⅰ.研修のテーマ 「主体的な生き方をめざす国 オランダに学ぶ」 1) 自立を促す教育 2) オランダモデルがもたらした女性の意識 変容 3) 健康と福祉 4) オランダの環境とエネルギーの現状 【日本の地域包括ケアシステム】厚生労働省 Ⅱ.個別の研修テーマ オランダの福祉改革は、専門職によるフォー オランダの健康と福祉について マルサービス提供体制ではあるが、 「統合ケア体 制」になり施設から在宅へと転換が図られ、家 Ⅲ.研修先 族・友人などのインフォーマルケアに介護の期待 ① アムステルダム市役所社会部訪問 が変化している。 ② アムステルフェーン市役所訪問 オランダの高齢人口は14.3%、2013年 ③ オランダ大使館表敬訪問 HDI(人間開発指数)は世界で4位と国民の幸 ④ ユマニタス高年齢者介護施設訪問 福度は高い。 ⑤ ロッテルダム日本国名誉領事館表敬訪問 【すまいと住まい方】 オランダの高齢者は夫婦のみまたは、一人暮ら Ⅳ.研修内容 しが中心であり配偶者以外の家族の同居率は極め 1 て低く85歳以上であっても約6%程度である。 る。家庭医の役割は①治療や薬剤の処方②必要に 在宅ケア促進にあわせて基盤となる住宅の整備 応じて専門医を紹介する GP は医療供給のゲー が進められ「高齢者のために特別にデザインされ トキーパーである。GP 登録数は9,900人 たすまい」のなかで「複合住宅」として身体状況 (2004年)うち女性は1/3である。 が変化して介護が必要となっても暮らせる住宅な 近年は GP の単独診療からグループ診療へ体制 ど( 「ユマニタス」に10,000人近くの高齢 が変化している。地域の健康センターで訪問看護 者が居住している)があり、在宅サービスや家族 師・理学療法士・歯科医・ソーシャルワーカーな による介護では不十分な要介護者が利用する「高 どが協働で診療を行っている。2004年には3 齢者ホーム」と重介護が必要な障がい者や高齢者 割ほどがグループ診療で行われている。 が利用する「ナーシングホーム」がある。しかし 医療、介護職の制度も変化し、①ホームヘルパ 待機者問題も深刻となり、施設と地域の連携が進 ーと訪問看護師の両団体の財源が統合になってい められている。このように高齢者の自立した生活 る。②資格が一本化になり「介護専門職」 (1・ を支援し、施設等の入居を2~3年延ばすことに 2・3) 「看護専門職」 (4・5)と5段階のレベ よって、一人当たり年間2万ユーロ(約270万 ル別の資格になった。③「ナースプラクティショ 円)の医療費の抑制を見込んでいるとのことだ。 ナー(特定看護師) 」の増加で GP の業務を代替 【生活支援・福祉サービス】 できる上級の看護師が2005年には279名い 2007年社会支援法が施行になり、地方自治 る。 体がきめ細やかな在宅支援サービスの提供をする 1967年から特別医療費(補償)制度と19 こととなった。食事の宅配・食事の世話・小さな 96年からは「個別ケア予算」とよばれ、介護の 修理・買い物支援など小さな家事援助に関する申 ための現金給付が導入され、実際の予算の4割程 請は自治体による認定で受けられ、財源は公費で 度は家族・知人等への支払いとして利用されてい まかなわれている。2006年には75歳以上の る。給付の申請にあったっては「ケア判定センタ 高齢者の半数が在宅サービスを利用し、在宅が急 ー」の審査・認定が必要となる。介護サービスは 増している。 民間非営利団体の活動にゆだねられている。 オランダでは2006年の健康保険法により保 【保健・予防】 険の加入が義務づけられ、国民皆保険制度である。 2004年「オランダの食生活、健康、安全な 医療保険者は「疾病金庫」が担い、特別医療費保 食に関する評価、要約及びキーメッセージ」が発 健(AWBZ)に全国民が、短期医療保険(ZFW) 表され、身体に悪い食生活を行うことで健康に決 や民間の包括的医療保険に加入している。被保険 定的な害をもたらし、平均2年間寿命を短くして 者は保険者を自由に選び毎年変更することができ いると分析されている。肥満が最も大きな健康課 る。保険料は安価であり、医療の負担が低い。オ 題である。健康的な食生活を促進するために①過 ランダは高額医療、介護も含む包括的な長期医療 体重と肥満の減尐②食事における健康的な栄養成 保険制度が特徴である。入院治療から介護への移 分・栄養素を増加する対策が行われている。福 行がスムーズに行われる。 「家庭医」GP と「在 利・厚生・スポーツ省は「健康に長生きする、健 宅ケア協会」が専門的な在宅サービスの中心的な 康的なライフスタイル、オランダの保健医療予防 担い手になっている。 政策」のなかで、喫煙・糖尿病・肥満という3つ 家庭医制度:各家庭では地域で開業する家庭医 の重点テーマが設定され、これらのテーマが、健 を選んで年間契約を結び、医療を受ける制度であ 康に悪影響を与え疾病や早死にを増加させるリス 2 クであると見られ、実践的なアクションプランが Ⅰ.理念は「幸せを与える」 設定されている。慢性疾患による死亡者数が19 96年から2006年では6%増加し、死因順位 幸せとは・・・ は1位はガン、2位は脳卒中、3位は認知症であ る。企業が1日1個のフルーツを食べるようにキ 日本でもオランダでも高齢化が進み高齢者が何 ャンペーンを展開したり、スポーツクラブに参加 らかのハンディキャップを抱えたところに、支え しての運動を奨励している。 てくれる若者が尐ないという現実に直面している。 オランダでは、自転車道があり通勤や通学に自 パーキンソン、認知症、脳血管障害等を「病気」 転車を利用しており、日々活動的に生活している。 として捉えるのではないそうだ。病院で引き受け 集団検診は子宮がんや乳がん検診は年齢により る概念ではなく、考え方の枠組みを変換すること 受診できる。個人的に健診を受ける場合は高額に が大事と学んだ。 「幸福度を上げる」こと。 なり受診者は尐ない。また風邪などの病気に対し つまり人々が幸せになることを目指すというこ ては積極的に受診はしないと住民から聞いた。 とに着目している。それには、幸せの要素が必要 【本人・家族の選択とこころがまえ】 になってくる。それには楽しい話題を提供してい 従来は介護の家族依存度が低く、親の介護に対 つも笑顔のある場所にすることだそうである。 しては、家族は軽介護を行い、専門サービスが重 それには看護師よりバーテンダーが重要で、 介護を行なっている。高齢化に伴い介護サービス 施設のレストランは社員食堂ではなく、自分ら のニーズが高まり、財源の問題もあり、インフォ しく楽しく過ごせるところでなくてはならない。 ーマルが促進されている。 また地域住民に開放することにより、地域とのつ ながりを深めていくことが重要であるとのことだ った。3万本のワインを取り揃えて、親族や地域 ユマニタス高齢者福祉施設 の人が訪れやすく楽しめる雰囲気作りをしている ユマニタス財団の前理事長のハンス・M・ベッ そうである。 カー博士よりお話をうかがった。 Ⅱ. 「幸せ」に必要な要素は・・ だれしも、自分が自分の人生の主人公でありた いというのが人間の基本的な願いだ。そして、個 別性を大切にするということはとても重要である と学んだ。したがって、個々の自室が重要で、 「幸せ」とは自分の部屋のドアを閉めたとたんに 自分のプライバシーが守られるということが大切 になる。もう一つは、個人の希望に対して「YE S」オランダ語でヤーと言うそうだが、ヤーの文 化を勧めている。要望に対してまずはヤーで答え アミューズパークのようなユマニタス施設の内部 る。そして困難なことも、ニーズに添って実現で きるように頑張るとのこと。また、人間は群れの 動物でもある。年をとると昔のようにサッカーク ラブで活躍が出来ない。昔のようにウサギを飼っ 3 て生きていくわけにもいかない。年取った友人も きるべきである。ペットを飼う。たとえ転倒の どんどん亡くなっていく中で新しいグループを作 危険があってもレースに参加するなど、やりたい らなければならなくなる。模擬家族の提案である、 こと、可能性にチャレンジするのである。 高齢者を見守れる人たちに囲まれて孤独にならな 3、毎日アルコールをバーで飲んでいたいと言っ い仕組みづくり。グループになってお年寄りが出 たとしたら、これに誰がノーと言えるだろうかと 来ることはお話をすることで、それには、テーマ のこと。3週間お風呂にはいりたくないといい、 を提供しなければならない。たとえばペットであ もし本人がそれでいいならそれでいいではないか。 る。犬、猫、オウム、良い話題になる。施設では 自分ができて高齢者には出来ない、毎日入浴をな 外に動物園を持っておりここの動物も話題提供に ぜすすめるのか?とのことだった。やりたいこと なっている。 をしてなぜだめなのかとの提起があった。 レストランでは、20種類のディナーから選べ 4、ケアをするのは本人達で患者たちをケアす るが、それも話題になっている。それから絵を描 る必要はないのである。ケアの概念として提示 いたりする芸術のアトリエに参加しても話題にな されたことは、ケアが尐なすぎるのは良くないが、 る。リビングで色鮮やかな絵を書く姿が見られる。 多すぎるケアのほうがもっと悪いとのことであっ 昔のことを思い起こして話すということも話の種 た。 になる。そのために思い出博物館を作っている。 そのためには、沢山のボランティアの方々や職 話題の提供に努めている。 員が重要であり、様々なサービスをする業務の 人々も同じくらい重要なのである。そして、高齢 者も病院のようにケアに慣れてはいけない。医療 的な視点は尐し後ろに遠ざけているとのことだっ た。また犬がうろうろしているのは衛生的には良 くないが、人の「幸せ」には大きく貢献している。 看護師が脈を計るということは、医療的には良い が人の「幸せ」にはつながらない。したがって、 医療ではなく「幸せ」のほうを目指しているとの ことであった。 楽しい生活重視の環境づくり 思い出博物館の1部屋 様々なイベントが計画され、以前はゾウを施設 に連れてきたそうだ。衛生的には良くないが話の Ⅲ.ユマニタスの基本理念 種がたくさんでき、住人は大喜びしたそうだ。 高齢者の1番のハンディキャップは孤独である。 すべては人の「幸せ」のため。フロアのデザイ 孤独にさせないために4つのユマニタス哲学があ ン、建物は美しいものでないと人間は幸せになれ る。 ない。住んでいる人はいろいろな人。病気の人ば 1、 自分の人生は自分でマネジメントする。 (自 かりを集めてはいけない。若者、高齢者、病気の 分の人生は自分が主人公である) 人、元気な人、オランダ人、外国人、金持ち、貧 2、看護師さんや医者に言われたことをするので しい人など様々な人が共生している。これが重要 はない。自分で決めて自分のやりたいように生 であるとのことだった。 4 3万本のワインを用意して買ってもらっている。 一人一人が主人公 ワインも話題になる。 クライアントがボス。尿失禁症の犬も話題であ たくさんのボランティアが集まる る。飼い主も尿失禁症で一緒に住んでいる。また 日本の鯉を世話して、認知症の妻を介護しながら こちらは、たくさんのボランティアが活躍して 住んでいる。鯉の世話がリラックスする場になる。 くれていて、千人くらいいる。歩けなくても車イ ベアトリクス女王がこの施設にいらした。その時 スでダンスが出来る。また、ハピネスがあるとボ に女王のホスト役を勤められた。女王はここの美 ランティアが集まる。ボランティアが集まるよ 容院のお客様としても来られた。そして鯉を放流 うにするためには楽しくなければいけないとい されたとのことだった。 うことである。 レースもしている。みなさん特養の査定を受け た80歳以上の障害者だが、本物のレース場でレ ースをした。本物のモーターバイクのレースであ る。81歳で身体は衰えているが、とても幸せで ある。シャンペンを飲みたいだけ飲んでいる。 若者と高齢者が共存できるように、高齢者もイ ンターネットを使うことができるインターネット カフェをもうけている。孫が来てここでインター ネットをして遊んでいる。様々なアクティビティ ーな活動をしている。 女王様が来られた美容室 82歳の人だが博物館でとても幸せそうである。 手を動かして触って感じている。1930年代の 100歳以上の方が集まるパーティーがある。 キッチンや1940年代の思い出の部屋にいて、 100歳は、男性が二人で女性が一人。料理に出 昔なじんだ道具を見ながら幸せそうに過ごしてい された牡蠣をおいしいと言った人とまずいと言っ る。一番古いもので1920年代から再現してい た人がいた。重度の障害を持ったクライアントも て昔のリビングや洗濯室、様々な道具類などが置 いる。自分のアパートに住んでいる。その人の希 いてある。 望で全部決めてその人の願いに添って介護する。 スクータモービルという電動車イスを練習して使 えるように訓練した人もいる。 いつも皆失敗している。壁にぶつかり足が痛か った、これも話の種になる。守りすぎて危ない というのは良くない。尐し危険があってもそれ は人生である。 昔は喫煙室がなかったが、今はある。それぞれ 自分の好きなように絵を描いている。そしてこれ は話の種になる。本物のレストランであること、 1930年代のキッチン これが重要である。 5 ある88歳のプロのジャズシンガーで、この時 応可能であるとのことだった。 は亡くなる寸前であったが、車イスに乗って緩和 また無料のボランティアの人がたくさん来てく ケアを受けている人がいた。歌は上手だが、昔は れるので、大変健全な経営ができるということで もっと上手だった。パーティーでは、車イスに乗 ある。そしてメニューも、金持ち、低所得者、 り歌う。このような素敵なレストランの雰囲気が 色々みな食べるようになっており、一番高いメイ いいのである。歌を歌ってから8時間後に亡くな ンコースが17ユーロだが、安いメニューは6ユ った。死ぬまで幸せに暮らせたとのことだった。 ーロできちんとした皿で摂ることができている。 財布と相談して選べるようになっている。在宅の 方もたくさん食べに来て、40パーセントは在宅 の人が来ている。美容院、ショップもあるのでそ こにも近所の方が来ている。住宅はケアサービス 付となっているが、当該施設のケアを利用しない といけないということはなく、自由に競争相手の ケアを頼んでもよいことになっている。 レストランの一部 これらの住宅はすべて自己負担である。 基本的に費用は自分で払っている。食べ物も飲み 物もワインも自己負担である。高齢者年金しかな くてもこのアパートが借りられる。オランダでは 低所得者用には住宅保障があり住宅補助金を得る ことが出来る。所得が低くない人は補助金がない 広い施設内には動物園がある ので全部自分で払っている。 こちらの財団では、3種類の住宅を提供している。 この組織は非常に大型なので毎月の予算が11 1.低所得者用賃貸住宅安くて住宅補助金が出る。 ミリオンユーロ(11億円)で、市からの補助は 2. 分譲住宅 1000ユーロである。基本的には各自が国民年 3.高所得者用の賃貸住宅 金をもらっている。介護保険から費用をそれぞれ オランダ国民全員が介護保険に入っているのでカ 払っている。 バーされている。低所得者は自己負担が尐なく高 提供している住宅は20万ユーロ~100万ユ 所得者は大きな自己負担があるという違いで借り ーロで売却、分譲、自由に選ぶことが出来る。億 たり買ったりしている。 万長者であっても高齢者の国民年金がもらえるシ 施設は出費の75パーセントが人件費であり、 ステムになっている。1 人1000ユーロが全員 経営のコツは、多くの苦情はアテンションが欲し 平等にもらえるため、自分にあったものが選択で いから苦情を出す。満足して楽しければ頼む内 きる。 容も尐なくなるのでスタッフの数も尐なくて対 6 している。もう一つのサポートは、交通手段を提 アムステルダム市訪問 供することである。自立して在宅している人が外 Ms. Sabine Gimbrére 氏からお話を伺った。 出できなくなると、孤立し、孤独化という現象が (アムステルダム市役所社会部)から、アムステ 起き様々な問題の原因になるため、市はこれを重 ルダム市の高齢化社会の現状と市の政策について 要な問題として取り組んでいる。自己負担の尐な 話を伺った。オランダも日本と同様に高齢化社会 い安価なタクシーを提供し、さらに孤独化の防止 に伴う様々な問題に直面している。この問題は国 策として様々な文化、スポーツ活動などを提供し レベルでの対策が必要であるが、市民に近い地方 ている。朝の体操クラブや博物館や、美術館バス 自治体のほうがより柔軟性のあるケアを提供でき があり、いろいろなコミュニティセンターでピッ るという理由から地方自治体に政策の権限が移行 クアップして見学に行っている。また、民間のス してきている。オランダの高齢化を示す平均年齢 ポーツクラブやコーラスサークルなどの文化クラ の統計は ブも高齢者にも窓口が開かれていて、市が補助金 1975 年 男性 77.5 歳 女性 79 歳 2012 年 男性 80.0 歳 女性 83 歳である。 を出してサポートしている。 在宅を促す政策により、インフォーマルケア さらに、労働市場での55歳以上の就労率は (家族や同居人。友人によるケア)の人々に大き 1990年は25%、2012年は53%となっ な負担がかかっているため、その負担の軽減策を ている。 始めている。インフォーマルケアの提供者のほと これは、財政削減政策が進められ、年金受給年 んどが女性であるのが実態であり、年齢は55歳 齢が65歳から現在67歳に延びている移行期間 から65歳の人々がほとんどである。 中であることや、介護制度の基本方針の変化によ るものである。福祉の公的サービスが減尐し「高 アムステルダム市の政策についての説明では、 齢者は自立できる限り在宅で生活をする」という 現在、出産休暇のように法律で長期または短期の のが基本方針となったのである。 介護休暇を取る権利が認められている。例外とし 1960年代からしばらくの間、高齢者は65 て雇用主が経営上不利益を被る場合は休暇の申請 歳になるとその人にまだ能力があり健康であって を拒否できるが、拒否することで雇用主は難しい も高齢者ホームに移動していた。それがベストだ 立場になるように法律が設定されている。 と考えられていたのである。 また「個別ケア予算」というものがあり、本人 現在は、自立した在宅での生活を支える為に、 が障害を持ち、医療機関による査定があった場合 アムステルダム市には様々なサポートがある。 は獲得することができる。しかし、これはまれな 具体的には、市役所にソーシャル窓口を設け食 ことで多くの人は、自主的に介護をせざるを得な 事の宅配、食事の手伝い、小さな修理をしたい、 いと言う状況である。そこで市は多くの負担を抱 買い物に行きたい、行ってもらいたいといった小 えたインフォーマルケアの提供者に介護をしやす さなヘルプには信頼できる組織や業者、人を紹介 くするための教育コースをつくり提供している。 している。この窓口の利点は、①自分で探さなく 例えば、精神的疾患についての勉強会などである。 て良いこと。②信頼できる人に頼めること。③自 己負担があるが所得の多尐により市が補助金を出 すことである。さらに、心身に障害を持ったとき、 自宅に階段リフトを取り付けるための補助金を出 7 参考資料: 【医療・看護・介護】 「医療保険制度 に関する国際協働研究」 」国際社会保障協会資料 日本医療政策機構HGPIの資料 アムステルダム市の政策について説明を受ける Ⅴ.考 察 オランダの健康・福祉の状況は、施設から在宅 サービスの転換が図られ、地域をベースにサービ スや財源が移譲されている。 家庭でのインフォーマルケアの方向に転換され ている。施設外のケアを充実させ高齢者ができる 限り自立した生活を送られるように、利用者本位 のサービスと自己責任にケアシステムが変化して いることを学んだ。 また介護は従来の病気を引き受ける概念ではな く、 「高齢者が幸せになる」ことに焦点を当て、 価値観の方向転換を図った「ユマニタス」財団の 発想に大変感動を覚えた。 医療の視点で関わる「医療モデル」生活の視点 で関わる「生活モデル」 、自分のことは自分で決 めていく「セルフマネジメントモデル」への大転 換が福祉先進国では着々と進んでいることを学ん だ。 高齢になっても一人一人が大事にされる国の現 状の根底は、パラダイムシフト、考える枠組みを 大きく転換する発想は最大の学びだった。 オランダも日本も、高齢になっても一人一人が 大切にされ、自分の人生を満足して生きられるよ うな仕組みづくりが必要だと感じた。 今後10年、高齢者人口が増加するなかで、誰 もが居心地よく生活できるように自分ができるこ とを探し地域のために貢献したいと思った。 8
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