第1節 第2章 第2章 産業財産権の概要 特許制度の概要 [1]特許制度の目的 特許法の目的は、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の 発達に寄与すること」(特許法第1条)と定義しています。 発明は目に見えない思想、アイデアなので、家や車のような有体物のように目に見える 形でだれかがそれを占有し、支配できるというものではありません。したがって、制度に より適切に保護がなされなければ、発明者は自分の発明を他人に盗まれないように、秘密 にしておこうとするでしょう。しかしそれでは、発明者自身もそれを有効に利用すること ができないばかりでなく、他の人が同じものを発明しようとして無駄な研究、投資をする ことになってしまいます。 そこで、特許制度はこういったことが起こらぬよう、発明者には一定期間、一定の条件 のもとに特許権という独占的な権利を与えて発明の保護を図る一方、その発明を公開して 利用の機会を図ることにより新しい技術を人類共通の財産としていくことを定めて、これ により技術の進歩を促進し、産業の発達に寄与しようというものです。 いいかえれば、特許制度は、発明を世にオープン(開示)することを条件に、発明者に 対して独占的実施権を付与するとともに、この発明の開示により、発明利用の途が提供さ れることになり、改良発明の誘発や新たな発明が生まれる機会が生ずることになるのです。 この目的は、特許制度のほか、実用新案制度、意匠制度も同様です。 権利者 公開の代償として 一定期間独占権を付与 新技術の公開 第三者 公開された発明を 利用する機会 - 25 - 技術の進歩 産業の発展 [2]特許法上の発明(保護対象) 特許法では、「発明」を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち 高度なもの」と定義し(特許法第2条第1項)、産業上利用できる発明を 保護対象としています。 (1)自然法則を利用していること 「自然法則」とは、自然界において経験的に見出される科学的な法則をいいます。 また、「自然法則を利用した」発明であるためには、「発明の属する技術の分野における 通常の知識を有する者」(これを一般には「当業者」といいます。以下同じ。)が、それを 反復実施することにより同一結果が得られる(反復可能性)ことが必要です。 特許法上の発明のポイントとして、課題に対する解決手段が自然法則を利用しているか どうかです。したがって、計算方法のような人間の知能的活動によって案出された法則や ゲームルールなどの遊技方法のように自然法則とは無関係の人為的な取り決め、催眠術を 利用した広告方法のような心理法則、永久機関のように自然法則に反するもの、万有引力 の法則のように自然法則それ自体であって自然法則を利用していないものなどは、特許法 上の「発明」には該当しません。 なお、一部に自然法則を利用していない部分があっても、全体として利用していると判 断されるときは、利用したものとなります。 (2)技術的思想であること 「技術」とは、一定の目的を達成するための具体的手段であって、実際に利用でき、知 識として客観的に伝達できるものをいい、個人の熟練によって得られる技能とは異なりま す。この技術内容は、当業者であればこれを反復実施して、目的とする技術効果を上げる 程度にまで具体化され、客観化されたものでなければならないとされています。 したがって、フォークボールの投球方法等の個人の技能によるものや、絵画や彫刻など の美的創作物、機械の操作方法についてのマニュアル等の単なる情報の掲示は技術的思想 に該当せず、特許法上の「発明」になりません。 (3)創作であること 「創作」とは、新しいことを創り出すこと、自明でないことをいいますので、何も作り 出さない「発見」とは区別されます。したがって、天然物の単なる発見などは、特許法上 の「発明」になりませんが、天然物から人為的に単離精製した化学物質は「発明」に該当 します。 - 26 - (4)高度なものであること 「高度なもの」は、主として実用新案法の考案と区別するためのものであるので、 「発明」 に該当するか否かの判断に当たっては、特に考慮する必要がありません。従来にない機能 を発揮するものであって、産業上利用できるものであれば、既存技術の改良であっても発 明に該当します。 特許法上の「発明」とは ○自然法則を利用しているか ×自然法則でないもの(人為的取り決め)→商売方法、経済法則等 ×自然法則自体→エネルギー保存の法則、万有引力の法則 ○技術的思想であるか ×勉強方法 ×いわゆる技能→フォークボールの投げ方、プロレス技 ×単なる情報の提示→DB ×美的創作物→絵画、彫刻 ○創作であるか ○「創作」とは、新しいことを創り出すこと ×フォークボール ×天然物の単なる発見など(→○天然物から人為的に分離した化学物質) ○高度であるか ○従来にない新しい機能を発揮するもので産業上の利用価値があれば可 [3]特許を受けることができる発明とは 発明が完成したからといって、すべての発明が特許を受けられるとは 限りません。特許を受けるためには、特許法で定める「特許を受けるこ とができる発明」の要件を満たす必要があります。 ① 産業上利用することができるか(特許法第29条第1項柱書) 特許を受けることができる「発明」であるためには、第一に、産業として実施できなけ ればなりません。これは、ただ単に学術的・実験的にしか利用できない発明は「産業の発 達」を図るという特許法の目的からして、保護することが適当ではないからです。 特許法における「産業」は、工業、鉱業、農業などの生産業だけでなく、サービス業や 運輸業などの生産を伴わない産業も含めた広い意味での産業を意味します。 - 27 - ○産業として実施できるか=産業上の利用可能性=(29条1項柱書) ×産業として実施できるものに該当しないもの ①人間を手術、治療又は診断する方法(→○人間以外、装置) ②その発明が業として利用できない発明 ・個人的のみ利用される発明(喫煙方法等) ・学術的、実験的のみ利用される発明 ×医療行為 ③実際上、明らかに実施できない発明 ② 新しいかどうか=新規性=(特許法第29条第1項) 特許を受けることができる「発明」は、今までにない「新しいもの」でなければなりま せん。これを「新規性」と呼んでいます。すでに誰もが知っているような発明に特許権と いう独占権を与えることは、社会にとって百害あって一利もないからです。特許法では、 新規性を有しない発明の範囲を明確化しており、次に該当する場合は特許を受けることが できません。 1)特許出願前に日本国内又は外国において公然と知られた発明 例:テレビで放映、発表 2)特許出願前に日本国内又は外国において公然と実施をされた発明 例:店で販売、製造工程における不特定者見学 3)特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明や 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明 例:日本国内又は外国において公表された特許公報、研究論文、書籍・CD−R OMなどに掲載、インターネット上で公開 ●どの時点で「新しさ」がないとされるのか この「新しさ」がない場合を、一般に「新規性」がないと表現します。どの時点で「新 規性」が失われたことになるのかは、出願の時点で判断されます。日だけでなく、時・ 分も問題となります。したがって、午後にある発明を出願しても、その日の午前中に行 われた学会で他の研究者によって同じ発明が発表されていた場合には「新規性」はない ことになります。 すでに知られている発明であるとして拒絶される特許出願が少なくありませんので、 特許出願をするときには、特許を受けようとする発明に「新規性」があるかどうか、事 前に十分調査することが大切です。 - 28 - ●どういう場合に「公然」となるのか 「公然」とは一般的に知れわたった状態をいいますが、ここでは発明者又は出願人のた めに秘密にすべき関係のない人(これを「不特定人」といいます。)に公になることを いいます。この場合、不特定人の多い少ないは関係ありません。 なお、自分のした発明は、自らの手で特許出願前に「公然と知られた発明」又は「公 然と実施をされた発明」となっても特許を受けられると誤解している人がいますが、た とえ自分から「公然と知られた発明」などにしてしまった場合でも、「新規性」がない ものとして特許されませんので注意してください。 <参照条文> 特許法第 29 条第 1 項 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、 その発明について特許を受けることができる。 1 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明 2 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明 3 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発 明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明 【例外的に救済が受けられる場合―新規性喪失の例外(特許法第30条)】 学会での発表、博覧会への出展等により、その新規性を失ったものについて、例外的に 救済(これを「新規性喪失の例外」といいます。)を受けられる場合があります。 新規性喪失の例外が認められる場合 ○試験を行う ○試験を行う ○刊行物に発表する ○刊行物に発表する ○インターネットで発表する ○インターネットで発表する ○特許庁長官が指定する研究集会(学会)で発表する ○特許庁長官が指定する研究集会(学会)で発表する その結果 その結果 発明が初めて 発明が初めて 公知となる 公知となる ○特許庁長官が指定する博覧会へ出品する ○特許庁長官が指定する博覧会へ出品する 等 等 この例外的な救済を受けるためには、公表した日から6月以内に例外規定の適用を受け たい旨の書面(又は願書にその旨を表示)を特許出願と同時に提出しなければならないほ か、特許出願日から30日以内に公表等の事実を証明する書面を提出しなければなりませ ん。 なお、特許庁では、平成13年12月及び平成14年4月に「特許庁長官が指定する学 術団体」の指定基準を改正し、大学、独立行政法人及び公設試験研究機関を指定できるこ とを明確にしました。よって、学術団体として指定された大学、独立行政法人及び公設試 験研究機関が開催する研究集会における研究発表等についても、学会発表と同様の取り扱 いが可能となりました。 ただし、本制度は、あくまで本人によって出願前に発表された論文等が、公知例として - 29 - 拒絶の理由とされないという効果を持つにすぎないものです。そのため、本人の出願前に 他人の出願があった場合には特許の取得ができない点や、同様の例外規定がない国・機関 への特許出願においては、本人の論文発表により新規性を喪失していると扱われる点に留 意が必要です。したがって、適切に権利を確保するためには、論文発表の前にまず出願を することを心がけて下さい。 発表と出願のタイミング 6月以内 本人 論文等で発表 他人 30日以内 30条適用出願 証明書類の提出 他人の出願 ○本人の出願→他人の先出願と同一であれば拒絶される。 ○他人の出願→論文が公知技術となり拒絶される。 ③ 容易に思いつくかどうか=進歩性=(特許法第29条第2項) すでに知られている発明を少し改良しただけの発明のように、誰でも容易にできる発明 については、特許を受けることができません。科学技術の進歩に貢献していない自明の発 明には特許権を与えるほどの価値がありませんし、容易に思いつく発明にまで特許権が認 められるようになると、日常的に行われている技術的な改良についても次々出願しないと 他人に特許をとられてしまうという状況に陥り、支障がでるからです。 「容易に発明をすることができた」場合を、一般に「進歩性」がないと表現します。こ の「進歩性」についての判断は、当業者からみて、その発明に至る考え方の道筋が容易で あるかどうかで判断します。 1)公然と知られた発明や実施された発明を単に寄せ集めたに過ぎない発明 例:公然と知られたナイフやハサミ → 多機能付きナイフ 2)発明の構成要素の一つをほかの公然と知られた発明に置き換えたに過ぎない発明 例:椅子の移動をスムーズ にするキャスター → 机の移動をスムーズ にするキャスター - 30 - <参照条文> 特許法第 29 条第 2 項 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する 者が前項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは、そ の発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。 【進歩性の判断について】 (詳細は特許庁ホームページ(http://www.jpo.go.jp/indexj.htm)をご覧ください。) 平成12年12月に、「特許・実用新案審査基準」が改訂されました。 この改訂では、新規性、進歩性の判断基準や、明細書の記載要件の見直しなどを行いま した。「進歩性」については下記のとおり改訂されました。 まず審査官は進歩性の判断の対象となる発明を認定します。進歩性の判断の対象となる 発明は、請求項に係る発明(請求項に記載された発明)です。次にその発明の属する技術 分野における出願時の技術水準を的確に把握します。そして当業者であればどのようにす るかを常に考慮しつつ、先行技術として引用された発明から当業者が請求項に係る発明を 容易に想到できたかどうか、論理づけを試みます。その結果、論理づけができた場合には 請求項に係る発明の進歩性は否定され、論理づけができない場合には進歩性が認められま す。このとき引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合 には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として考慮されます。 当業者は、「発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」として想定されて いますが、複合技術・先端技術分野においても適切な進歩性の判断がなされるように、当 業者として複数の専門家からなるチームを想定した方が適切な場合もあります。 一方、論理づけは、種々の観点、広範な観点から行うことができます。例えば、請求項 に係る発明が、引用発明からの最適材料の選択あるいは設計変更や複数の引用発明の単な る寄せ集めに該当するかどうかを検討したり、あるいは引用発明の内容に請求項に係る発 明を想到するための動機づけとなり得るもの(技術分野が関連していることや、作用、機 能、課題が共通していることなど)があるかどうかを検討します。 新規 性・進歩 性の判断 新規 性あり 進歩 性あり 新規 性あり 進歩 性なし 可能なペン =新しいが容易に考え出せる =新しく ない - 31 - 細線と太線用を貼り付けたペン 太線のペン 新規 性なし 差し替えが 細線のペン 公知の従来技術 =特許となる ④ 先に出願されていないかどうか(特許法第39条及び特許法第29条の2) 別々の発明家が同じ発明を同時期に完成して、同時期に特許出願をする場合があります。 この場合、我が国では先に発明をした者ではなく、先に特許庁に出願した者に特許を与え ています。これを「先願主義」と呼んでいます。どちらが先に発明したかよりも、どちら が先に出願したかの方が判断しやすく、いち早く発明を公開しようとした者を保護しよう という特許制度の目的にも沿っています。 このように、同一の発明について、先に他人に出願されてしまうと特許を受けることが できなくなりますから、発明をしたらできるだけ早く出願することが大切です。 ○先に出願されていないか=先願主義=(39条、29条の2) 先に発明を完成した者でなく、先に特許庁に出願した者に特許 【ダブルパテント排除(同一人も適用) 39条】 ○特許請求の範囲が実質同一の場合は後願を排除 【拡大された先願の地位(同一人は除く) 29条の2】 ○出願公開等された先願の出願当初の明細書、図面に記載 された発明と同一の発明は後願を排除 ⑤ 公共の秩序に反しないか (特許法第32条) 国家社会の一般的な道徳や倫理に反する発明や、国民の健康に害を与えるおそれのある 発明は、たとえ産業として実施できたり、新しいものであったり、容易に考え出すことが できないものであっても、特許を受けることができません。 例:紙幣偽造機械、金塊密輸用ベスト、アヘンを吸う器具などは特許を受けることはできません。 ⑥ 明細書等の記載は規定どおりか(特許法第36条) 特許制度の目的である発明の保護及び利用については、発明の技術的内容を公開するた めの技術文献及び特許発明の技術的範囲を定める権利書としての使命を持つ「明細書、特 許請求の範囲及び必要な図面(以下「明細書等」といいます。)」を介して行われます。 したがって、特許を受けるためには、明細書等の記載について、具体的にどのような発 明をしたのか、当業者が実施できる程度に発明の内容を明らかにする必要があります。こ のとき、明細書等は簡単・明瞭な文言を用いて明確かつ簡潔に記載する必要があります(特 許法施行規則様式 29 備考 6-8、様式 29 の 2 備考 7-9)。これらの要件を満たしていない場 合には、特許を受けることができません。 また、平成14年9月1日以降の特許出願から、出願人が知っている先行技術文献情報 の開示が義務づけられました。出願人は出願時に知っている文献公知発明があるときは、 明細書中にその情報の所在を記載しなければなりません。 - 32 - 明細書等の構成(施行規則24条∼25条) 特許請求の範囲 ◎特許を受けようとする技術的事項 発明の名称 ◎発明の内容を端的に表現 発明の開示 発明の詳細な説明 明 細 書 技術分野 ◎発明の関連分野(産業上の利用分野) 背景技術 ◎改良の基礎となる最新の従来技術 (先行技術文献情報の開示) 発明が解決しようとする課題 課題を解決するための手段 ◎どのような手段で解決するのか ◎従来技術より有利な点 発明の効果 発明を実施するための最良 の形態、実施例 ◎実際行った実験、試作の例。それらの論理 的説明。理論からの推測で実施可能な発明を どのようにして産業上利用できるのか 産業上の利用可能性 ◎産業上の利用方法、生産方法、使用方法 図面の簡単な説明 (必要な)図 〈参考条文〉 ◎従来技術の問題点。新たなニーズ ◎図ごとの説明。符号の説明 面 ◎明細書の表現の理解を助ける 特許法第36条(抜粋) 2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。 3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 4 一 発明の名称 二 図面の簡単な説明 三 発明の詳細な説明 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。 二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号におい て同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発 明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであるこ と。 5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発 明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項 に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。 6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。 二 特許を受けようとする発明が明確であること。 三 請求項ごとの記載が簡潔であること。 四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。 - 33 - [4]発明の種類と捉え方 特許法では、発明を「物の発明」と「方法の発明」に大別し、さらに 方法の発明として「物を生産する方法の発明」という種別を設けて、発 明の「実施」について定義をしています。そして、この発明の3つの表 現形式の違いによって特許権の効力が及ぶ範囲が異なります。 (1)発明の3つの表現形式 (特許法第2条第3項) 広くて強い権利にするためには、特許を受けようとする発明をいろいろな角度から検討 し、把握しなければなりません。発明の表現形式(カテゴリー)によって特許権の効力が 及ぶ範囲が異なりますので、このカテゴリーを上手に活用して、発明の内容を表現してい きます。物にも方法にも発明がある場合には、「物の発明」「方法の発明」の両方で表現で きます。 発明の種類(表現形式)(特許法2条3項) ●発明の表現形式(カテゴリー)に よって権利の効力の及ぶ範囲が異なる 権利の効力の及ぶ範囲 物の発明 発明 物にはプログラ ム等が含まれる 譲渡等→物がプログラム 等の場合には、電気通信 回線を通じた提供を含む 物を生産する 方法の発明 当該物の生産、使用、 譲渡等、展示、輸入、 譲渡等の申出の行為 当該方法の使用、 当該方法により生産 当該方法により生産 した物の使用、譲渡 した物の使用、譲渡 等、輸入等の行為 方法の発明 物の生産を伴わ ない方法の発明 ① 当該方法を使用する 当該方法を使用する 行為 物の発明の場合: その物を生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し若しくは輸入し、又は譲渡若しくは貸渡 しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含みます。)をする行為について権利が及び ます。 ② 方法の発明の場合: その方法を使用する行為について権利が及びます。 - 34 - ③ 物を生産する方法の発明の場合 その方法を使用する行為、その方法により生産した物を使用し、譲し渡し、貸渡し若 しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為について権利が及びます (特許法第68条、第2条第3項)。 (2)複数の発明の出願=発明の単一性=(特許法第37条) 技術革新の進展により技術開発の成果は、多様な形で密接に関連する一群(複数)の発 明から成り立つ場合が多くなっています。これらの技術的に密接に関係する発明は、別々 の出願とするよりも、一つにまとめて出願する方が、出願人においてはコスト的にも出願 手続をする上でも有利となります。また、第三者においては関連する発明の情報が効率的 に入手可能となりますし、特許庁においては効率的な審査が期待できます。 そこで、複数の発明が発明の単一性の要件を満たす場合には、これらの発明を一つの願 書で特許出願することができます。 「発明の単一性」とは、一つの願書で出願できる発明の 範囲をいいますが、この要件を満たしているかは、二以上の発明が同一の又は対応する特 別な技術的特徴を有しているかどうかで判断されます。発明の単一性の類型として、例え ば、 「物」と「物の生産方法」や「物の生産装置等」、 「物」と「物の使用方法」や「物の特 定の性質をもっぱら利用する物」などが挙げられます。 詳細は、特許・実用新案審査基準の「発明の単一性の要件」を参照してください。 〈参照条文〉 特許法第37条 二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより 発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることが できる。 特許法施行規則第25条の8 特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上 の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一 の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。 2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴を いう。 3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単 一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断す るものとする。 - 35 - (3)発明の捉え方 <事例1> 公知の化合物であるエチレンについて、従来の生産方法よりも効率よく生産する方法 を発明しました。この発明について「物を生産する方法」としての特許を取得した場合 は、権利者以外の者がたとえ海外であっても、同じ生産方法でエチレンを生産し、その エチレンを国内に輸入すれば、権利者の特許権の効力が及ぶことになります。 <事例2> 成分aの接着剤にエタノールを添加して接着効果を増強させる発明について、特許を 取るための表現形式について考えてみましょう。主な発明として次のような発明の表現 が考えられます。 ①エタノールを添加した成分aの接着剤。 ②エタノールを有効成分とする成分aの接着剤の接着効果増強剤。 ③エタノールを利用した成分aの接着剤の接着効果増強方法。 第一の発明は「物の発明」ですので、第一の発明について権利を取得すれば、エタノー ルが添加された成分aの接着剤自体について独占権が付与されます。無断でその接着剤 を生産したり使用したりする人に対して権利行使ができます。 第二の発明も「物の発明」です。この第二の発明について権利を取得すれば、接着剤 そのものを生産していなくても、無断でエタノールを成分aの接着剤の接着効果増強剤 として生産したり販売したりする人に対して権利行使ができます。 これに対して、第三の発明は「方法の発明」となり、エタノールを用いて成分aの接 着剤の接着効果を増強する行為自体に特許の権利が及びます。エタノールが添加された 成分aの接着剤を生産する人は、第三の発明の接着効果増強法を利用して接着力の強い 接着剤を生産していることとなります。つまり、この接着剤を生産する際に、第三の発 明を使用していることとなりますから、無断でこの接着剤を生産している人に対して権 利行使ができます。 特許成立までの過程や特許成立後の第三者からの攻撃により、第一の発明や第二の発 明が特許されなかったり、特許されても取消や無効になったりする場合もあり得ます。 このような場合に第三の発明だけが最後に生き残れば、この発明が権利として威力を発 揮する場合もありますので、「方法の発明」についても積極的に出願し、権利化を試みる ことが大切です。 また、広い概念で発明を把握して特許を取得しないと、似ているけれども同じではな い方法で、特許に抵触しない類似品を他人に生産されてしまい、十分に権利の保護を受 けることができなくなることがあります。 - 36 - [5]特許を受けることができる者 特許法では、特許を受ける権利は発明者にあります。この特許を受ける 権利は財産権として自由に譲渡することができます。 また特許を受けるためには、出願をしなければなりませんが、出願人の 資格は特許法で要件が定められています。 (1)特許を受ける権利 特許を受ける権利は「発明者」にあります。この権利は、発明の完成と同時に発明者に 原始的に帰属します。当然のことですが、他人の発明を盗んだ人には特許を受ける権利が ありません。 発明者は、この特許を受ける権利を他人に譲り渡すことができます。発明者から権利を 譲り受けたり相続した人のことを「承継人」といいます。 発明の帰属(発明はだれのものか) 発明の完成 権利は発明者のもの (特許を受ける権利の発生) (29条柱書) 発明者=出願人 特許を受ける権利の移転 も可能(発明者から権利の承 継を受けた者が出願人) (2)特許を出願するための資格 特許を受けるためには出願をしなければなりません。この出願をするためには、法律上 の権利義務の主体となる資格が必要です。これを「権利能力」といいます。この権利能力 は、一般的にいう「人」(これを法律上「自然人」といいます。)と、法律上の「人」とし ての地位を認められた団体(これを「法人」といいます。)に認められています。 つまり、個人として出願する場合は問題ありませんが、法人格のない団体の名義で出願 することはできません。 また、未成年者が出願する場合には、「権利能力」はありますが独立して法律行為を行う 「行為能力」がありませんから、法定代理人(普通は親)に出願の手続をしてもらうこと になります。 - 37 - [6]職務発明制度とは 職務発明に関する規定は、会社の従業者等が行った発明の取扱いを定め たものです。 平成17年4月1日に施行された新職務発明制度の下では、職務発明に 係る「相当の対価」を使用者・従業者間の自主的な取決めにゆだねること を原則とします。 自主的な取決めによることが不合理であれば、従前どおり、裁判所が「相 当の対価」を算定します。不合理性の判断においては、手続面が重視され ることとしています。 (1)職務発明とは (特許法第35条) 従業者の発明は、使用者の業務の関係と従業者の職務の関係によって、職務発明、自由 発明の2つに大別されます。 ① 職務発明 会社に勤める従業者が、会社の仕事として研究・開発をした結果完成した発明を「職 務発明」といいます。この「職務発明」は、従業者自身によって生み出されたものでは ありますが、使用者である会社も、給料、設備、研究費などの提供等により、発明の完 成に一定の貢献をしているといえます。 ② 自由発明 「自由発明」とは、職務発明以外の発明です。例えば、バスの運転手が個人的に楽器 の発明をした場合などがその例で、この場合には、一般の発明と同じ扱いで、発明に係 るすべての権利は発明者が取得することとなります。自由発明については職務発明制度 の適用は受けません。 (2)職務発明制度の趣旨 職務発明制度の本来の趣旨は、「使用者、法人、国又は地方公共団体(使用者等)」が組 織として行う研究開発活動が我が国の知的創造において大きな役割を果たしていることに かんがみ、使用者等が研究開発投資を積極的に行える安定した環境を提供するとともに、 発明の直接的な担い手である個々の「従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(従 業者等)」が使用者等によって適切に評価され報いられることを保障することによって、発 明のインセンティブを与えようとするものです。それは、全体として我が国の研究開発活 動の奨励、研究開発投資の増大を目指す制度であり、その手段として、従業者等と使用者 等との間の利益調整を図っています。 - 38 - (3)職務発明制度の基本的考え方 我が国特許法は、特許を受ける権利を発明者に原始的に帰属させていますが、従業者等 による職務発明に関しては、従業者等の雇用、設備・資金の負担等、使用者等による一定 の貢献が不可欠であることを重くみて、使用者等に法定の通常実施権(特許発明を実施で きる権利)を付与し(特許法第35条第1項)、さらに、特許を受ける権利等の予約承継を 許容する規定(同条第2項)を設けています。 一方、実際に職務発明を生みだした従業者等には、職務発明に係る権利を使用者等に承 継させる代償として、「相当の対価」支払の請求権を与えています(同条第3項)。この「相 当の対価」請求権は、従業者等が権利承継の対価を確実に受け取れるようにすることによっ て、発明を奨励するためのものといえます。これらの規定によって、発明を行った従業者 等と、従業者等に支援をなした使用者等との間の利益の調整が図られているのです。 以上の点は、新職務発明制度においても同じです。 職務発明の権利の帰属(35条) 企業の研究者に よる発明の完成 使用者(企業等) 従業者(研究者等) 職務発明 特許を受ける権利 が使用者へ承継 されていない場合 通常実施権を持つ (対価の支払不要) 自由発明 予約承継 従業者から 権利を承継 (職務発明規程、 就業規則等) (特許権を取得) 特許権を取得 (第三者に 譲渡、許諾可能) 使用者から 相当の対価 支払請求権 (4)新職務発明制度のポイント 新職務発明制度では、対価の決定は原則として両当事者間の「自主的な取決め」にゆだ ねています。すなわち、契約、勤務規則その他の定めにおいて職務発明に係る権利の承継 等の対価について定めている場合には、その定めたところによる対価を「相当の対価」と することを原則とします。 ただし、使用者等と従業者等との立場の相違に起因して不合理な対価の決定がなされる 場合も考えられます。このため、職務発明に係る権利の承継等の対価について、「自主的な 取決め」にゆだねることが妥当でない場合もあり得ます。 そこで、「自主的な取決め」にゆだねることができるような環境や条件が整備されてい ない場合には、そのような状況下で契約、勤務規則その他の定めにおいて対価について定 められたとしても、それを尊重することとはしないこととしています。すなわち、その取 り決めたところにより対価を支払うことが不合理と認められる場合には、従来の職務発明 制度と同様に、一定の要素を考慮して算定される対価を「相当の対価」としています。 - 39 - なお、使用者等と従業者等との間の自主的な取決めを出来る限り尊重し、法が過剰に介 入することを防止する観点から、不合理と認められるか否かは、自主的な取決めから対価 の支払までの全過程のうち、特に手続的な要素(「対価決定するための基準の策定に際して 使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況」、「策定された当該基準の開示の状況」 及び「対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況」)を重視して判 断することとしています。 職務発明に係る権利の包括予約承継が可能 従業者等 職務発明に係る権利を 原始的に有する 対価の基準の策定とその支払方法につい ての手続面を重視し、不合理性を判断 (以下の3要素等を総合的に参酌) 1 対価を決定するための基準の策定に 際して使用者等と従業者等との間で行 われる協議の状況 2 策定された基準の開示の状況 3 対価の額の算定について行われる従 業者等からの意見の聴取の状況 等 使用者等 無償の通常 実施権を有する 定めによる対価を支払う (5)新旧職務発明制度の相違点 これまでの制度においては、勤務規則等(使用者等があらかじめ定める勤務規則その他 の定め)において職務発明に係る対価が定められていた場合であっても、裁判所が旧特許 法第35条第4項に基づいて算定する対価の額が「相当の対価」であるとされていました。 これに対し、新しい職務発明制度においては、契約、勤務規則その他の定めにおいて職 務発明に係る対価について定める場合に、その定めたところにより対価を支払うことが不 合理と認められない限り、その対価がそのまま「相当の対価」として認められることとな ります。これが最も大きく異なる点です。 また、新しい職務発明制度においても、契約、勤務規則その他の定めにおいて対価につ いて定めていない場合や、定めてはいるが定めたところにより対価を支払うことが不合理 と認められる場合には、これまでの制度と同様に、その発明により使用者等が受けるべき 利益の額等を考慮して「相当の対価」の額が定められることとなります。ただし、新しい 職務発明制度においては、その際の考慮要素について、旧特許法第35条第4項をより明 確にしています。 なお、特許を受ける権利若しくは特許権の承継、又は専用実施権の設定が施行日(20 05年4月1日)以降になされた場合には、改正法が適用され、それ以前のものには旧法 が適用されます。 - 40 - 改正後の「相当の対価」 契約、勤務規則その他の定めにお いて職務発明に係る権利の承継等 の対価について定めたときで、そ の定めたところにより対価を支払 うことが、不合理と認められない 場合 相当の対価とは → その定めたところによる対価 (例:職務発明規程上の額) ①契約、勤務規則その他の定めに おいて対価についての定めがない 場合、又は 最終的には訴訟において、新5項 に定める考慮要素を考慮して 「相当の対価」の額を算定 使用者等は、その定めたところに よる対価の額を従業者等に支払え ば、それで免責 新5項の考慮要素 ②契約、勤務規則その他の定めに おいて定めたところにより対価を 支払うことが不合理と認められる 場合 ①その発明により使用者等が受けるべ き利益の額 ②その発明に関連して使用者等が行う A 負担 B 貢献 C 従業者等の処遇 ③ その他の事情 <関連条文> 特許法第 35 条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、 法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該 使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等におけ る従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特 許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明につ いて特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。 2 従業者等がした発明については、その発明が職務発明である場合を除き、あらかじめ 使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため専用実施権 を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は、無効とする。 3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより、職務発明について使用者等に特許 を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したと きは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。 4 契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決 定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策 定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見 の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認め られるものであつてはならない。 5 前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うこと が同項の規定により不合理と認められる場合には、第三項の対価の額は、その発明によ り使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び 従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。 - 41 - [7]出願から特許権取得までの流れ 特許権は、出願しただけでは権利を取得することができません。出願を すると方式審査が行われ、さらに審査請求をすると審査官による実体審査 が行われます。特許の要件を満たし審査をパスすれば特許査定がなされ、 特許料の納付により特許原簿に登録されると、特許権が成立します。特許 の要件を満たしていないものは拒絶されます。 特許出願から特許取得までの流れ 無効判決 維持判決 最高裁に上告 拒絶 判決 特許審決・判決 無効審判 解消 拒絶理由 なし 拒絶 審決 知財高裁へ提訴 解消 せず 特許査定 設定登録 出願公開 応答なし 意見書 補正書 出願審査 の請求 不備があれば 却下処分 (補正可) 拒絶理由通知 実体審査 特許出願 方式 審査 拒絶理由 あり 拒絶査定 ○外国出願 ○国内優先権主張の出願 拒絶査定不服審判 1年以内に検討 1年以内に検討 無効審決 維持審決 3年以内 (本人、第三者) (13年9月までの 出願は7年以内) 補償金請求権 の発生 (早期公開 制度もあり) 公開公報の発行 (1年6月) 特許権の発生・維持 特許権の発生・維持 特許公報 の発行 ○出願から最長20年 ○出願から最長20年(一部25年) (一部25年) ○年金の支払いがなければ ○年金の支払いがなければ 権利消滅 権利消滅 (1)特許出願に必要な書類 (特許法第36条) 特許出願するときは、「特許願(願書)」、「特許請求の範囲」、「明細書」、「図面(化合 物の合成方法のように図面を必要としない場合は不要)」、「要約書」の5つの書類につ いて各1通必要です。( 様式編 1.特許 参照) なお、要約書は、もっぱら公開特許公報への掲載を目的とするものであり、権利の解 釈には用いないことになっています。 また、通常の特許出願料は、1件16,000円です。 - 42 - 特許 印紙 【書類名】特許願 発明者や出願人等 を記載します。 【書類名】特許請求 【書類名】明細書 の範囲 発明の内容を記載 します。 求める権利の範囲 を記載します 【書類名】図面 【書類名】要約書 発明の内容理解に役 発明全体のポイント 立つ図面を記載しま を簡素に記載します。 す。 (注)特許出願に必要な書類は、一定の様式を満たしている必要があります(特許法施行規則等で 定められています。)。出願書類を作成する場合には、項目の欠落や内容の記載漏れがないかど うか十分に確認する必要があります。 (2)特許出願の手続 (実用新案、意匠、商標も同様) 特許出願書類は、特許庁に提出します。出願の方法として、書面による出願手続とパソ コンを利用した電子出願手続があります。 平成2年12月1日から特許及び実用新案登録の出願について、オンライン(ISDN 回線)を通じた電子手続にて申請できるようになりました。また、平成12年1月1日か ら意匠・商標・PCT(国内段階分) ・審判(査定系)について、平成16年4月28日か らPCT国際出願のうち、日本語で作成された国際出願についてそれぞれオンライン(I SDN回線)による電子手続きが開始されています。 さらに、平成17年10月からは、従来のISDN回線を利用した電子手続に加え、イ ンターネット網を利用した電子手続が可能となりました。 ① 書面による出願 現在も、特許願等を書面で提出することができます。書面による出願には、特許庁1階 の出願支援課窓口に直接持参する方法と、郵送による方法の2つがあります。 なお、特許庁に対する手続は、原則、電子情報処理組織(オンライン)の使用により、 所定のフォーマットによって提出することとなっていますので、書面により出願等を行っ た場合には、別途電子化に要する手数料が必要となります。 ○提出書面の電子化手数料=基本料金1,200円+(700円×枚数) (参考)電子化手数料は、手続1件ごとに上記の料金が必要となります(例えば、特許出 願と同時に出願審査請求書を提出した場合には、「特許願」+「出願審査請求書」の2 手続とカウントしますので、2手続分の電子化手数料が必要となります)。後日、(財) 工業所有権電子情報化センターから送付されてくる振込用紙を用いて、郵便局又は銀行 において手数料相当額を納付(現金で可)します。決められた期日を経過しても納付が なかった場合は、補正命令の手続を経て当該出願は却下されることになります。(出願 後の各手続においても、原則同様です。) - 43 - ② パソコン電子出願 平成10年4月1日から、市販のパソコンを利用し特許庁が開発したパソコン出願ソフ トを使用して、自宅や事務所からISDN回線を通じてオンライン出願(ISDN出願) ができるようになりました。 また、平成17年10月からは、ADSL、光ファイバー、ケーブルTV等のブロード バンド回線を利用したオンライン出願(以下「インターネット出願」と呼びます。)が可能 となりました。インターネット出願を行うには、所定の認証局が発行する電子証明書(有 料)とインターネット出願ソフト(無料)が必要となります。 これにより、現在特許庁のパソコン電子出願はISDN出願(ISDN回線+パソコン 出願ソフト)による方法と、インターネット出願(インターネット回線+インターネット 出願ソフト+電子証明書)による方法の2通りの電子手続が可能となっています。 なお、オンライン手続の設備・環境が整っていない申請人であっても、全国各地に設置 されている共同利用パソコン(無料)を利用する方法があります(インターネット出願は 利用できません。)。共同利用パソコンについての詳細は、各都道府県の発明協会支部にお 問い合わせください(参考編を参照)。 パソコン電子出願 【ISDN回線利用】 【インターネット網利用】 パソコン出願ソフト インターネット出願ソフト インターネット出願ソフ ト 申請人 電子証明書 発明協会各支部 の共同利用 パソコンの 利用可 (無料) ISDN専用網 ブロードバンド インターネット網 特 許 - 44 - 庁 2005年10月から 開始 (参考) ・ パソコン電子出願の利用については………特許庁ホームページ内「パソコン電子出願」 (http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/e_shutugan/e_shutugan_list.htm)を参 照ください。 ・ パソコン出願ソフト及びインターネット出願ソフトのマニュアル等については……… 特許庁ホームページ内「特許庁パソコン出願」−「マニュアル/ひな型ダウンロード」 (http://www.pcinfo.jpo.go.jp/common/manual.htm)を参照ください。 ・ 共同利用パソコンの利用については………(社)発明協会ホームページ「特許ひらめ木」 (http://www.hirameki.jiii.or.jp/)を参照ください。 ③ 料金の納付方法 オンライン手続を行う場合には下記の2)予納、3)現金納付、4)電子現金納付の方 法が、書面手続の場合には下記のすべての納付方法が利用できます。 なお、特許権の移転の登録等に必要な登録免許税に関しては、収入印紙により納付しま す。 1)特許印紙による納付 出願料、特許料等産業財産権関係の料金(登録免許税に係るものを除く。)は、特許印紙 により納めます。 特許印紙による納付は、手続書類の所定の位置に特許印紙を貼付することにより行いま す。 特許印紙は、額面 10 円、100 円、300 円、500 円、1,000 円、3,000 円、5,000 円、10,000 円、30,000 円、50,000 円、100,000 円の11種類が発行されており、全国の特定郵便局(集 配局)又は発明協会の本部及び支部(東京・山梨・滋賀・大阪・兵庫・広島・福岡及び特 許庁1階)で購入できます。 2)予納制度 予納制度は、特許印紙によりあらかじめ納めておいた見込額から、個々の手続の際に必 要な料金を納付する制度です。 予納は、平成2年12月1日以降の特許、実用新案出願及び平成12年1月1日以降の 意匠出願、商標出願、PCT(国内段階)、審判(査定系)に関する手数料、並びに特許、 実用新案、意匠及び商標の特許料(又は登録料)等の納付について利用できます。 予納を利用する方は、特許庁に対して事前に「予納届」を提出することが必要です。特 許庁は、予納届を提出した方に対して予納台帳を作成し、予納台帳番号を通知します。 (インターネット出願を利用する場合の申請人登録時に限り、オンラインで予納台帳番号 を取得することが可能です。) 予納台帳に見込額を予納する方法は、「予納書」に必要な金額の特許印紙を貼付して提 出します(現金により予納することはできません。)。予納台帳からの納付の申出は、手続 - 45 - 書面の【手数料の表示】欄に予納台帳からの納付である旨の表示(【予納台帳番号】の項目 に予納台帳番号を、【納付金額】の項目に手数料の額を記載)をしてください。 3)現金納付制度 平成8年10月から、特許印紙に加えて現金による納付も可能となりました。 現金による納付は、特許庁専用の納付書を用いて、日本銀行(本店、支店、代理店及び 歳入代理店;金融機関のほとんどの店舗が日本銀行の歳入代理店となっています。)又は郵 便局の窓口から現金を振り込むことによって行います。現金を直接特許庁へ持参又は郵送 して納付することはできません。 現金納付を利用する場合には、予納の場合と同様、事前に納付書の交付請求が必要です。 「現金納付に係る識別番号付与請求書」を提出した方に対し、請求(「納付書交付請求書」 の提出)に応じて住所、氏名等をあらかじめ印刷した納付書(4枚綴りのもの)を必要枚 数交付します。(ただし、一度の交付枚数は50枚が限度です。) 納付書が交付されたら、まず納付書に手続種別、金額等の必要事項を記入し、次に当該 納付書を用いて日本銀行へ現金で納付し、領収証書及び納付済証(特許庁提出用)を受け 取ります(ただし、1つの納付書で、複数の手続についての納付をすることはできません。)。 領収証書及び納付済証(特許庁提出用)を受け取った後、書面(紙)により出願等の手続 を行う場合には、納付済証(特許庁提出用)を別の書面に貼り特許庁に提出します。また、 オンライン手続の場合には、納付済証(特許庁提出用)を手続補足書((紙)(提出日から 3日以内))により特許庁に別途提出します。 なお、オンライン手続において、特許料等の納付手続や閲覧請求等の手続には現金納付 は利用できません。 納付書による現金納付を利用する場合は、手続書面の【手数料の表示】欄に【納付書番 号】の項目を設け、該当の納付書番号を記載します。(【納付金額】の項目は不要) 4)電子現金納付制度 平成17年10月からは、インターネットバンキング等を利用して手数料納付を行う電 子現金納付が可能となりました。 電子現金納付は、政府が推進する電子決済を実現するための納付方法であり、インター ネット出願ソフトを介して納付番号取得から手数料納付までの一連の手続が可能となりま す(パソコン出願ソフト利用者においては、別途電子現金納付専用のソフトが必要となり ます。)。インターネットバンキングの口座を有していれば、特許印紙の購入や銀行へ出向 いての手続が不要となります。 電子現金納付を利用する場合は、手続書面の【手数料の表示】欄に【納付番号】の項目 を設け、該当の納付番号を記載します。(【納付金額】の項目は不要) - 46 - (3)様々な制度に基づく出願 ① 国内優先権制度を利用した出願(特許法第41条) すでにされている特許出願(実用新案登録出願)を基礎として新たな特許出願をしよ うとする場合には、基礎とした特許出願の日から1年以内に限り、その出願に基づいて 優先権を主張することができます。この優先権を主張して新たな出願をした場合には、 基礎とした特許出願は、その出願日から1年3月後に取り下げられたものとみなされま すが、新たな特許出願に係る発明のうち、先に出願されている発明については、当該先 の出願の時にされたものとみなすという優先的な取扱いを受けることができます。 国内優先権に基づく出願(41条) 先の出願Ⅰを基礎に「優先権」を主張しながら、先の出願の内容を拡充した新たな 特許出願Ⅱを行うことができる制度(先の出願から1年以内に限る) 基礎的な発明a を出願 1年以内 出願の みなし 取下げ 出願Ⅰ (a) 1年3月 (出願内容の見直し、増強等を検討) ○新たな実施例、内容を補充=a ○改良発明、関連発明が生まれた=a ○発明aを包含する広い技術的概念の発明に到達=A 出願Ⅱ (a+a +a +A) 発明aについては 出願Ⅰの出願日を 基準に審査 ○元の出願を発展させ権利を拡充=戦略的な特許取得に有効 (参考=補正)新規事項追加の禁止、先の出願との実質的な同一化のおそれ ② 特許出願の分割 (特許法第44条) 二つ以上の発明を包含する特許出願の一部を、一又は二以上の新たな特許出願とするこ とができます。特許出願が単一性の要件を満たさない発明を含んでいる場合や、出願当初 の特許請求の範囲には記載されていないものの、明細書の発明の詳細な説明や図面に記載 されている発明が含まれている場合には、これらの発明 に対してもできるだけ保護の途を開く観点から設けられ 発明A この新たな出願は、一部の規定の適用を除いて、もと の特許出願の時に出願されたものとみなされます。この 分割は、もとの特許出願の願書に添付した明細書、特許 請求の範囲又は図面について補正をすることができる期 間内に限り行うことができます。 - 47 - 発明B もとの出願 拒絶理由通知 た規定です。 発明Bを除いた 発明Aについて の出願 発明Bについて の新たな出願 ③ 出願の変更 (特許法第46条) 特許出願と実用新案登録出願及び意匠登録出願は、相互に出願形式を変更することがで きます。ただし、変更出願をすることができるのは、それぞれの出願形態により下記期間 に限られます。また、出願の変更がされた場合、もとの出願は取り下げられたものとみな されます。 実用新案 特 許 → 特 許 → 実用新案 (実用新案登録に基づく特許出願 を除く) ④ その出願の日から3年以内 最初の拒絶査定謄本の送達の日から 30 日以内又はその 出願の日から9年 6 月以内 意 意 匠 → 実用新案 匠 → 特 許 最初の拒絶査定謄本の送達の日から 30 日以内又はその 出願の日から 3 年以内 特 許 → 意 匠 最初の拒絶査定謄本の送達の日から 30 日以内 実用新案 → 意 匠 出願中 実用新案登録に基づく特許出願(特許法第46条の2) 実用新案登録がされた後に実用新案権者は、自己の実用新案登録に基づいて特許出願 をすることができます。この特許出願は、その基礎とした実用新案登録に係る実用新案 登録出願の時にしたものとみなされますが、この出願をしたときは、その基礎となる実 用新案権を放棄しなければなりません。 なお、特許出願をすることができるのは下記の要件を全て満たす場合に限られます。 実用新案→特許 実用新案登録の出願の日から3年以内 評価請求に伴う制限 本人請求前、又は他人請求通知後30日以内 無効審判請求に伴う制限 最初に指定された答弁書提出期間内 (4)出願公開 出願公開とは、特許出願の日から1年6月経過後に、特許出願の明細書 等を掲載した公開特許公報を発行し、出願内容を一般に公表することをい います。この出願公開は、出願公開前に出願の取下げなどがあったものを 除き、原則としてすべての特許出願が公開されます。 ① 出願公開制度(特許法第64条) 出願公開制度導入前は、すべての特許出願を審査した後にその出願内容を一般に公表 していましたが、出願件数の増大と技術内容の高度化により、特許審査の処理に時間が かかるようになり、出願内容の公表が遅れがちになりました。このため、その間に出願 された内容がなかなか分からないことから、同じ技術を重複して研究し、重複した出願 がなされるという弊害が生じました。そこで、こうした弊害を防止するために、昭和4 5年に法律を改正し出願公開制度を導入しました。特許出願の内容は出願の日から1年 - 48 - 6月を経過しますと「公開特許公報」に掲載され、広く一般に公表されます。 また、平成12年1月から早期出願公開制度が導入され、出願人は出願公開の請求が 可能となり、この請求があったときは特許出願の日から1年6月経過前であっても出願 公開されます。なお、この出願公開の請求は取り下げることはできません。 ② 公開特許公報(特許法第64条第2項) 公開特許公報のフロントページ(第1ページ)には、出願人名等の書誌的事項と発明 の要約と代表図等が掲載され、次ページ以降に特許請求の範囲及び明細書の全文並びに 必要な図面が掲載されます(フロントページについては、参考編 2.公開特許公報 (見本)参照。)。ただし、特許庁長官が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある と認める部分(広告宣伝記事など)は掲載されません。 この公開特許公報は、独立行政法人工業所有権情報・研修館公衆閲覧室及び地方閲覧 室などで自由に閲覧できます。また、独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する 特許電子図書館(IPDL)でもご覧になれます。 (特許電子図書館のアドレス ③ http://www.ipdl.ncipi.go.jp/homepg.ipdl) 早期出願公開の請求 (特許法第64条の2) 特許出願人は、(ⅰ)その特許出願が出願公開されている場合、(ⅱ)パリ条約による 優先権等の主張を伴う出願で証明書が提出されていない場合、(iii)外国語書面出願で外 国語書面の翻訳文が提出されていない場合、(iv)出願人全員で請求をしていない場合を 除き、その特許出願について出願公開の請求をすることができます。 なお、出願公開の請求は取り下げることができません。 ④ 補償金請求権(特許法第65条) 出願公開されると、発明の内容が一般に公表されますので、公衆の利益にはつながり ますが、出願人にとっては他人に模倣される危険が高まります。そこで、出願人が出願 公開された特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をした後、特許権 の設定登録までの間に業としてその発明を実施した者に対して、その発明が特許されて いたとした場合に実施料相当額の補償金の支払いを請求できる「補償金請求権」を出願 人に認めています。 なお、補償金請求権は、特許権の設定登録後でなければ行使することはできません。 補償金請求権 補償金請求権(65条) (65条) 出願人 第三者 出願 公開 書面による 警告 特許権 の発生 当該発明の実施 - 49 - 補償金請求 権の行使 特許権の侵害となる この間の発明の 実施に対して 実施料相当額の 支払を請求する ことができる (5)出願審査請求 (特許法第48条の3) 特許出願した発明が特許になるかどうかは、特許庁の審査官による実体 審査を経て判断が下されます。この実体審査の手続に入るためには、出願 日から3年(平成13年9月30日以前の出願は7年)以内に「出願審査 請求書」を提出しなければなりません。 ① 出願審査の請求 特許出願された発明が、特許として登録されるかどうかは、特許庁の審査官による「実 体審査」で判断されます。この実体審査はすべての特許出願に対して行われるのではなく、 「出願審査の請求」があった出願だけが審査されます。 先願主義を採用しているため、出願を急ぐあまり出願後に必要性がないことに気づいた り、状況の変化により出願を維持する必要性がなくなったりすることもあります。したがっ て、出願と同時に出願審査の請求をすることもありますが、先願の技術内容が公開特許公 報に掲載されるのを待って改めて特許性の有無を確認し、特許を取得して事業化するだけ の価値があるか否か等をよく確かめてから出願審査の請求をすることが経済的といえます。 ② 出願審査の請求期間 出願した日から3年(平成13年(2001年)9月30日以前の出願は、出願の日か ら7年)以内に、「出願審査請求書」を特許庁に提出しなければなりません(様式編 特許(6)出願審査請求書 1. 参照)。この期間内に出願審査の請求がなかったときは、その 特許出願は取り下げられたものとみなされます。 また、この出願審査の請求は、特許出願人だけではなく第三者も行うことができます。 ③ 審査請求料 出願審査の請求をするためには、以下の手数料が必要となります(参考編 財産権関係料金一覧 1.産業 参照)。 ○ 平成16年4月1日以降の出願 168,600円+(請求項の数×4,000円) ○ 昭和63年1月1日∼平成16年3月31日の出願 84,300円+(請求項の数×2,000円) なお、審査請求料について、その手数料を減免する措置があります(第5章 策の概要 第1節 各種支援 審査請求・特許料の減免措置 参照)。 また、平成16年4月から、出願審査の請求を行った後において、審査官による実質的 な審査が一応終了していない段階で、特許出願が放棄され、又は取り下げられたときには、 放棄又は取り下げの日から半年以内に審査請求料を納付した者の請求により、審査請求料 の半額が返還されることとなりました(特許法第195条第9項)。 なお、返還の手続は、予納制度を利用して返還することも可能です。 - 50 - (6)方式審査への対応 方式審査では、出願書類や各種手続が法令で定められた方式要件に適合 しているか否かがチェックされます。 また、出願人の資格や必要な手数料の納付に関する審査も行われます。 特許出願やその後の各種手続等の作成様式や提出期間については、特許法等関係法令に 細かく規定されていますので、手続を行う際には、決められた様式等に従って書面を作成 しなければなりません。これら法令の規定に違反しているものは認められませんので、実 際になされた手続が当該各法令の規定に適合しているか否かを審査する必要があります。 この審査をすること、すなわち手続が「その根拠たる法律」又は「その法律に基づく命令」 で定める方式要件に適合しているか否かを審査することが方式審査です。 手続補正書 の不提出 弁明書 の不提出 方式審査 完了 却下の処分 ① 手続補正書 の提出 弁明書 提出の機会 明細書の添付なし 出願人名未記載 何の出願か不明等 補正の命令 出願 手数料の納付なし 明細書等の様式不備 願書の記載不備 弁明書の提出に より瑕疵が治癒 不適法な手続の却下 (特許法第18条の2) 方式審査の結果、次のような条件に該当する場合には、手続が却下されることになり ますので注意が必要です。 <出願手続における不適法な手続であって、その補正をすることができないものの例> 1)いずれの種類の出願であるか不明な出願をしたとき。 2)出願人の識別番号及び氏名(名称)のいずれも記載されていない書面をもって出願 をしたとき。 3)日本語で書かれていない書面をもって出願したとき(特許法第36条の2第1項で 規定するものを除く。)。 4)在外者が日本国内に住所(居所)を有する代理人によらないで出願したとき。 5)明細書及び特許請求の範囲を添付しないで特許出願をしたとき。等々 なお、却下となるような場合には、事前に却下の理由が通知され弁明の機会が与えら れます。また、その後却下処分がされた場合には、処分の取り消しを求める不服申し立 て、さらには訴訟を提起することができます。 - 51 - ② 手続の補正命令 (特許法第17条第3項) 却下とならないまでも、方式要件を満たしていない手続は、正しく記載するよう手続 の補正が命じられますので、指示に従って補正を行う必要があります。 なお、補正をしなかった場合には、補正の対象とされた手続自体が却下されることに なりますので、こちらも注意が必要です。 (7)実体審査への対応 方式審査をクリアした出願で、出願審査請求がなされた出願は、審査官 によって特許になるかどうかの実質的な審査が行われます。これを「実体 審査」といいます。 実体審査においては、特許庁の審査官が、出願された発明が「特許を受けることができ る発明」の条件を満たしているか否か、すなわち、拒絶理由(特許法第49条に列挙され ています。)がないかどうか調べます。審査官は、拒絶理由を発見しなかった場合には、審 査段階での最終決定である特許査定を行います。 一方、審査官が拒絶理由を発見した場合、すなわち特許できないと判断した場合は、そ のまま最終決定である拒絶査定をするわけではなく、まず拒絶理由通知書を送り、特許で きないことを出願人に知らせ、これに対する出願人の意見を聞きます。つまり、出願人に 対して、拒絶理由通知書に示された従来技術と自分の発明とはこういう点で相違するとい う意見書の提出や、あるいは特許請求の範囲などの明細書等を補正すれば拒絶理由が解消 されるというような場合には、手続補正書を提出する機会が与えられます。意見書や手続 補正書をみても、拒絶理由が解消されておらず、やはり特許できないと審査官が判断した ときに、初めて拒絶査定されます。 拒絶査定を受けた者が、これに不服があるときは、審判によってその是非を争うことが できます。争わないときは拒絶査定が確定します。 実体審査(審査官による審査) 意見書 出願の分割 拒絶理由 あり 判断 開示 反論の機会 - 52 - 反論の機会 特許査定 拒絶理由 なし 48条の7の 事前通知 出願人 拒絶査定 補正の 制限 補正書 最後の拒絶理由通知 出願の分割 先行技術文献 の開示不十分 意見書 先行技術調査 補正書 発明の理解 補正によって通知が 必要となった場合等 最初の拒絶理由通知 審査請求 実質的審査 拒絶理由 を発見 審査官 ① 事前通知 (特許法第48条の7) 明細書中に先行技術文献情報の開示がない場合には、審査官から開示を求める旨の通 知をします。それでも開示をしない場合には、拒絶理由を通知することになります。 ② 拒絶理由の通知 (特許法第50条) 実体審査の段階で審査官が審査をした結果、前述した拒絶理由に該当するとの心証を 得た場合は、即座に拒絶の査定をするのではなく、あらかじめその旨を出願人に通知す ることとしています。これを拒絶理由の通知といいます(様式編 1.特許(7)拒 絶理由通知書 参照)。 通知される拒絶理由の大半は、先行技術が記載されている文献が引用例として提示さ れ、発明として新しくない、あるいは容易に考えられる発明であるとする「新規性・進 歩性の欠如」に関するものか、明細書等の表現が明瞭でないとする「記載不備」に関す るものです。 拒絶理由が通知されると、指定期間内(国内居住者60日、在外者3月)に意見を述 べる機会が与えられますから、必要な場合には意見書や手続補正書を提出して対処しま す。この対処を怠るとほとんどの場合、拒絶の査定がなされてしまいますから注意が必 要です。 ③ 意見書の提出 意見書とは、出願人の意見を述べ、審査官の拒絶理由に対して反論するための書類を いいます。 例えば、通知された拒絶理由が新規性・進歩性の欠如を理由としている場合は、主と してその特許出願の前に公開された特許公報類が引用されていますから、これら刊行物 を取り寄せて、自分の発明との違いなどを検討します。そして、もし両者が異なってい ると考える場合には、どのような点で異なっているのかについて論理的かつ具体的に述 べます。また、従来技術の組合せであると指摘された場合には、その組合せを着想する ことが専門家にとって必然性がなく簡単には思いつかないこと、自分の発明によって今 までにない優れた作用効果が得られたことなどを反論として主張します(様式編 1. 特許(8)意見書 参照)。 なお、特許請求の範囲などの明細書等を補正した場合には、出願当初の明細書等のど の記載を根拠に補正したのか補正の根拠を意見書で明らかにするとともに、補正後の特 許請求の範囲の発明に基づいて意見を述べます。 ④ 手続の補正(特許法第17条の2) 拒絶理由の通知を受けた場合に、その拒絶理由を解消するために、明細書等を補正す る必要が生じる場合があります。例えば、特許請求の範囲が広すぎる場合には、拒絶理 由に引用された文献に記載されている発明を特許請求の範囲から削除したり、あるいは 補正によって引用発明との差異を明らかにしたりします。また、明細書等の記載に誤記 - 53 - など不備があると指摘されたら、これを訂正する補正をします(様式編 手続補正書 1.特許(9) 参照)。 補正の際、新規事項の追加は認められませんので、出願当初の明細書等に記載された 範囲から逸脱しないように補正を行います。一方、最初の拒絶理由を回避するための補 正をしても、補正後にさらに拒絶の理由があれば、再度拒絶理由の通知が発せられます。 そして、その拒絶理由通知が、補正によって変更された内容について改めて審査を行っ た結果通知されるものである場合、それを最後の拒絶理由通知といいます。最後の拒絶 理由通知が発せられると、特許請求の範囲の補正は、すでに行われた審査の結果を有効 に活用できる範囲に収めなければならないという制限が加わります。 明細書等・図面の補正(17条の2) 拒絶理由 なし ⑤補正書 査定不服審判 拒絶査定 ④補正書 最後の 拒絶理由通知 ①補正書 ②補正書 拒絶理由 あり 最初の拒絶理由通知 実体審査 ︵審査官による審査︶ 特許出願 出願審査請求 特許査定 補正ができる時期 ①出願時∼特許査定前(拒絶理由通知後は除く) ②最初の拒絶理由通知の指定期間内 ③最初の拒絶理由通知後の48条の7通知の指定期間内 ④最後の拒絶理由通知の指定期間内 ⑤拒絶査定不服審判請求日から30日以内 新規事項追加の禁止 特許請求の範囲の補正は、 以下の目的に限定 ① 請求項の削除 ② 請求の範囲の減縮 ③ 誤記の訂正 ④ 明瞭でない記載の釈明 ○願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、図面に記載した範囲内で補正。 ○新規事項の追加は認められない。 〈参照条文=抜粋〉 特許法第17条の2 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明 細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受 けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。 一 第五十条(…中略)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた 場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。 二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定によ り指定された期間内にするとき。 - 54 - 三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に 係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。 四 3 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求の日から三十日以内にするとき。 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出し てする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(…中略)に記載した事項の 範囲内においてしなければならない。 4 前項に規定するもののほか、第一項第三号及び第四号に掲げる場合において特許請求の範囲について する補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。 一 第三十六条第五項に規定する請求項の削除 二 特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必 要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請 求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。) 三 誤記の訂正 四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。) (8)特許査定と特許権の成立 審査官が審査した結果、拒絶の理由を発見しなかった場合、あるいは意見書や手続補正 書の提出によって拒絶の理由が解消された場合には、審査官はその特許出願について「特 許査定」を行います(特許法第51条)。 特許料の納付は、特許査定の謄本が特許出願人に送達された日から30日以内に、初回 に限り第1年から第3年分を一括して納付します(特許法第108条)。特許料の納付が あったときは「特許権の設定登録」が行われ、初めて権利が発生します(特許法第66条)。 この納付期間内に特許料の納付がなされないと、特許出願の却下処分がなされてしまうの で注意が必要です。昭和63年1月1日以降の特許出願について、第1年∼第3年分の納 付すべき特許料は次のとおりです。 ○ 平成 16 年4月1日以降に審査請求を行う出願=毎年{2,600 円+(請求項の数×200 円)}×3年 ○ 平成 16 年3月 31 日以前に審査請求をした出願=毎年{13,000 円+(請求項の数×1,100 円)}×3年 なお、第1年から第3年分の特許料について、期間内に納付することができないときに は、30日以内に限り、請求することによって納付期間の延長をすることができます。 また、第1年から第3年分の各年分の特許料に限って、特許料の減免措置や、3年間猶 予される場合があります(第5章 各種支援策の概要 第1節 審査請求料・特許料の減免 措置 参照)。 特許権として設定登録されますと、特許公報が発行され、その内容が公表されます。ま た、出願人に「特許証」が送付され、この特許証には「特許番号」と権利が発生する「登 録日」が記載されます。 - 55 - 特許権の発生 特許証の交付(28条) 特許権の発生 特許権の設定登録 3年分納 付 特許査定謄本の送達 30日以内 特許公報の発行 納付せず 却下処分 (9)拒絶査定(特許法第49条) 拒絶査定とは、拒絶の理由に該当するから特許すべきではないとする審査官の最終処分 をいいます。 審査官は、拒絶理由に対する出願人の意見書ないし補正書によっては、なお先に示した 拒絶理由が解消していないと認めるとき、あるいは出願人側から意見書等が提出されない 場合であって、なお先の拒絶理由を撤回する必要がないと認めるときは拒絶査定を行い、 審査を終了させます。 (10)拒絶査定に対する不服審判(特許法第121条) 拒絶査定を受けた者が、その査定に不服がある場合に請求できる審判です。この審判の 実体的な審理は、その請求人の主張に基づいて行われます。請求期間は、拒絶の査定謄本 の送達があった日から30日以内(在外者は、90日以内)となります。また、特許権の 存続期間の延長登録の出願が特許法67条の3第1項各号の一に該当するとして、審査官 がした拒絶をすべき旨の査定を受けた者も、その査定に不服があるときは審判を請求する ことができます。 - 56 - [8]外国での権利取得 特許権の効力は、特許権を取得した国の領域内に限られ、その領域を超 えて他国まで及ぶものではありません(「属地主義」といいます)。すなわ ち、日本の特許法に基づいて取得した特許権は、日本国内のみで有効であ り、外国まで権利が及ぶものではありません。したがって、外国において も、当該特許権に基づいて製造、販売等をするのであれば、権利を取得し たい国の特許庁に出願し、特許権を取得しなければなりません。 外国での権利取得 ○我が国で権利化しても、外国までは権利の保護が及ばない(属地主義) ○外国で製造、販売、使用するのであれば、その国においても特許の取得が必要。 パリ条約ルート 基礎出願=日本特許庁 日本特許庁 基礎出願=日本特許庁 優先権を主張して12月以内に外国出願 優先権を主張して12月以内に外国出願 PCTルート 受理官庁 受理官庁 日本の場合は 日本語又は英語で出願 国際調査・国際調査見解書 各国の法令で定められた 様式、原語によりそれぞれ出願 米 米 国 国 自国特許庁に国際的 に統一された様式で 出願 (先行技術調査 及び特許性判断) 国際公開(18月) (特許性の EPO EPO 予備審査請求 予備的審査) 各指定国に翻訳文を提出 (30月以内) 各国の法令にしたがって権利が付与 米 米 国 国 EPO EPO 各国の法令にしたがって権利が付与 外国で特許を取得するためには、主に2つの出願方法があります。すなわち、権利を取 得したい国の特許庁に対して直接に出願をしてその国の実体審査を受ける方法(直接出願 又はパリ・ルート出願と呼ばれます。)と、もう一つは、外国特許庁で実体審査の手続に至 る前に特許協力条約(PCT)に基づく国際的に統一された手続を経由させる方法(PC Tルート出願と呼ばれます。)です。それぞれの手続には、それぞれのメリットがあります ので、権利を取得したいのは何か国か、あるいはどれほど早期に権利を取得したいのか、 - 57 - 過去に同様の発明が出願されたかの調査(先行技術調査)をしてもらいたいか、特許性が あるか否かの判断をしてもらいたいか、等々を十分に検討しながら適切なルートを選択す る必要があります。 ① 外国の特許庁に直接出願する出願(直接出願/パリ・ルート出願) 外国の特許庁に対して直接出願する場合、出願はすべてその国の国内法令に基づいて 行う必要があります。つまり、その国が定める出願手続に従い、決められた様式を用い て、その国の言語で作成しなければなりません。また、多くの国は、出願人が外国から (つまり日本から)直接手続をとることを認めず、現地代理人を通じて手続をとること を要求していますので、現地代理人の手配も必要となることが通常です。 一方、米国以外の国に出された出願は、出願がその国の特許庁で受理された日を出願 日として、その日以降に出される類似の出願を排除することができます(これを先願主 義といいます。また、米国は出願を受理した日ではなく発明がされた日を類似の出願を 排除できる基準日として定めています(先発明主義)。)。したがって、権利を取得した い国に対しては、1 日も早く出願をし、出願日を獲得する必要があります。しかしなが ら、各国で早い出願日を一斉に獲得することはとても困難ですので、自国で既になされ た出願又はパリ条約加盟国のいずれかの国でなされた出願を基礎として、パリ条約に基 づく優先権を主張し、海外に直接出願する方法(パリ・ルート出願)が多く使われてい ます。パリ条約の優先権を主張したときには、優先権主張の基礎となった出願(例えば、 日本における特許出願。以下「先の出願」といいます。)の出願日が、外国の特許庁に 対する出願(以下「後の出願」といいます。)の出願日と同じ効果を持つ日(この日を 「優先日」といいます。)としてみなされます。ただし、パリ条約の優先権を主張する ためには、先の出願から12月以内に後の出願を外国に出願しなければなりません。 ② 特許協力条約(PCT)に基づく出願(PCT国際出願/PCTルート出願) 権利を取得したい国が多くある場合、あるいは外国のそれぞれの特許庁にそれぞれの 様式、方法で直接出願する煩雑さを避けたい場合には、PCTに基づいて国際出願をす る方法があります。PCT国際出願を用いて出願できる国はPCT加盟国(平成 18年 7月 1 日現在、加盟国は 130 カ国)に限定されますが、権利を取得したい国がPCT加 盟国であれば以下のような簡潔な手続で外国に対して国際出願することができます。 1)PCTルート出願は、一つの出願で外国と日本に同時に出願した効果を得ることが できる: PCT国際出願は、各国特許庁にそれぞれ直接に出願する煩雑さを簡素化し、P CTが定めた国際的に統一された一つの出願願書を用いて、自国特許庁(日本であ れば、日本国特許庁)に出願を行う手続です。国際出願が受理されれば、その日が 国際出願日となり、その日の時点でPCTに加盟するすべての国(これらの国々を 指定国といいます。)に対して有効な出願日としてみなされます。言い換えれば、 - 58 - 自国の特許庁に国際出願すれば、指定国すべての国々に同時に出願した効果を得る ことができます。さらに、国際出願は、自国特許庁が認める言語で出願することが できます。例えば、日本で国際出願をするときは、日本語又は英語で国際出願願書 を作成することができます。 2)PCT国際出願を利用して特許権を取得するためには、権利を取得したい国に国内 移行を行う: PCT国際出願は、各国特許庁に対して各々行う出願手続を統一して「PCT国 際段階」という一本化された手続を設けた、出願手続のための制度です。したがっ て、PCT国際出願をすれば、そのまま自動的に国際的な特許権が付与されたり、 各国の実体的な特許審査が行われるわけではありません。各国がどのような発明に 対して特許を付与するかは、各国の裁量にゆだねられています(属地主義)ので、 最終的にはPCT国際出願も各国の国内手続に係属されていく必要があります。こ のPCT国際出願を各国国内手続に係属させていくことを「国内段階へ移行する」、 又は「国内移行する」といいます。 国内移行するためには、権利を取得したい指定国が要求する言語に翻訳した国際 出願の翻訳文をその国の特許庁に提出しなければなりません。さらに、指定国が要 求する場合には、国内手数料を支払います。その提出期限(国内移行期限)は、国 際出願日(優先権を主張している場合には優先日)から 30 月(【注意】を参照くだ さい)以内と定められています。しかし、パリ条約の優先権が 12 月の猶予を与え ているのに対して、PCT国際出願はさらにゆったりとした期間(国際段階)を与 えている制度であるといえます。なお、期間内に翻訳文を提出しなかった場合、翻 訳文を提出しなかった指定国においては、その国際出願は取り下げられたものとみ なされます。 3)PCT国際出願は、出願後に発明の価値をじっくり評価するための情報提供とゆと りがある: PCT国際出願は、国際出願日を確保した後に 30 月(優先権主張を伴う出願の 場合は、優先日から 30 月)の国際段階がありますので、その時間を活用して、国 際出願を様々な角度から評価することができます。発明を評価、検討し、あるいは その技術に関する市場性を検討した結果、その国際出願はいくつかの指定国に対し て国内移行をしないという選択も可能となります。特許取得の可能性とメリットを 判断しつつ、国内移行する国を最終的に厳選することによって無駄なコストを節約 することができます。さらに、国際出願は、国際段階において発明を評価、検討す るために国際調査(すでに類似の出願が以前に出願されていたかの調査(先行技術 調査))と、国際調査見解書(特許性(出願の新規性、進歩性、産業上の利用可能 性)に関する審査官の見解)を受けることができますので、それらの報告書をじっ - 59 - くり吟味した上で、国際出願をどの指定国に係属させていくかを慎重に判断するこ ともできます。 4)PCT国際出願を利用して、日本の出願人が日本に対して特許出願することもでき る: PCT国際出願は、出願するだけでPCT加盟国のすべての国に出願したことに なりますので、複数の外国への出願であると同時に、日本に対しても同じ国際出願 を用いて国内出願したことになります(2006 年 4 月 1 日以降の出願については、国 内出願を優先権主張の基礎とする場合に限り、日本の指定を除外できます。)。指 定国としての日本に国内移行する場合には、日本国特許庁に対して国内書面(国内 願書のような書面)と英語で国際出願した場合は翻訳文を提出し、国内手数料を支 払う手続だけで国内の特許出願としての手続に係属されます。 国内移行手続が完了すれば、国際出願は日本国内の特許出願として係属され、審 査請求をすることにより日本の実体審査に付されます。 【注意】 国内移行期限がすべての国際出願に一律 30 月となったのは、条約が改正されて、 それが発効した 2002 年 4 月 1 日からです。しかし、その条約改正に対応して国内法令 を改正しなければならないいくつかの指定国は、国内法が整うまでの間は改正前の 20 月の国内移行期限を引き続き適用しており、それらの国へ国内移行を検討する際には 注意が必要です。そのような指定国においては、従来どおり優先日から 19 月以内に国 際予備審査請求をした国際出願に限って 30 月の国内移行期限が与えられますが、それ 以外はすべて 20 月の国内移行期限となります。どの国が経過措置を設けているかにつ いては、WIPOホームページに掲載されています。 (参考)http://www.wipo.org/pct/en/texts/pdf/time_limits.pdf - 60 - 各国官庁への直接出願と特許協力条約( PCT)出願 出願人 国際出願 パリ優先権を 主張せずに国際出願 国際出願の手続きの流れ 国内出願 自国 特許庁 パリ優先権を 主張して12ヶ月 以内に国際出願 手続き (優先日) 自国特許庁に 対して国内出願 (先の出願) PCTに基づく国際出願 パリ優先権を 主張して12ヶ月 以内に外国出願 直接出願 期間 特許協力条約(PCT)で定められた言語、方式に より指定国を記載した国際出願書類を 受理官庁(自国特許庁)へ提出する 優先権主張が複数ある 場合は、もっとも最先の 出願日が優先日となる。 優先権主張のない場合は、 国際出願日が優先日。 国際出願 (PCT出願) 自国特許庁 外国特許庁への外国直接出願 各国の特許制度で定められた言語、 方式により出願書類を作成し、 各国の特許庁へそれぞれ提出する 国際出願 (パリ条約に基づく 優先権を主張して出願 するときには基礎と なる先の出願から12ヶ月 以内に国際出願を行う) (12ヶ月以内) 国際調査 (国際調査機関(ISA)が行う国際出願の先行技術調査) 国際調査報告 条約19条補正で 請求の範囲の補正が可能} 国際調査見解書 A国出願 B国出願 C国出願 WIPO国際事務局が行う 国際公開 A国 特許庁 B国 特許庁 (18ヶ月) C国 特許庁 国際予備審査は、 出願人の任意により 請求できる 国際予備審査 手続補正書 手続補正書 (国際予備審査機関(IPEA)が行う、 新規性、進歩性、産業上の 利用可能性についての 予備判断のための審査) 手続補正書 出願公開 審 審 WIPO が行う 国際出願の国際公開 査 条約34条補正で 明細書、請求の範囲の 補正が可能} 国際予備審査報告 査 特許権 出願公告 特許権 特許権 各指定国の国内段階への移行 PCT 国際出願を利用するメリット ① 1つの出願書類で複数国に出願できる (複数国に対し国際出願日を確保できる) ② 日本語、または英語で出願できる ③ 統一された出願様式で出願できる ④ 国際調査報告、及び国際予備審 査報告を 特許性の判断に活用できる ⑤ 指定国への国内移行は、優先日から 30ヶ月までに移行手続を行えばよい (その猶予 内に国際予備審査報告等により 発明の経済的評価が可能 であり、場合に よっては、その後の手続きの取り止めなど、 手続き費用節約の判断ができる) ⑥ パリ優先権も国内優先権も主張できる ⑦ 優先権書類の提出は1通のみ ⑧ 国際出願への補正、訂正は、1回の手続で 各指定国にすべて反映される 国内段階に移行するには、 指定官庁に対して ①翻訳文の提出、 該当する場合には、 ②出願の写し、③国内手数料 が必要となる 翻訳文の提出 (優先日から30ヶ月(国内移行期限)以内に 翻訳文を各指定国が要求する言語で 指定国特許庁へ提出する) (30ヶ月) 国内段階への移行は 優先日から30ヶ月 までに行えばよい A語翻訳文 ― 国内手数料 B語翻訳文 C語翻訳文 国際調査報告 国際予備審査報告 A国 特許庁 B国 特許庁 審 審 C国 特許庁 査 (各国の審査は、 国際段階における国際調査、 国際予備審査報告に 拘束されないが、実質的に 参照されることも多い) 査 各指定国で審査 出願公告 特許権 特許権 - 61 - 特許権 特許査定 権利化
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