社内発明の問題点

就業規則の作成・変更(その1)
社内発明の問題点
1.戦略的就業規則(その1)
社内発明の問題点
(1) 社員の発明はすべて会社に帰属?
(2) 「相当の対価」について
(3) 発明のモチベーション喪失
(4) 「相当の対価」の請求
(5) 就業規則に定める事項
「最初に」
最近、
「職務発明」に関わる訴訟が世間の耳目を集めています。業務中に従業員である研究者
や技術者が発明をした場合、その特許権は会社に帰属するのか、発明した本人に帰属するのか
という争いです。
たとえば、日亜化学工業に在職中、青色発光ダイオード(青色LED)を開発・実用化した
中村修二氏(現米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)は、日亜化学工業を相手取って、
当該発明に係る特許権は日亜化学工業に譲渡しておらず自己に帰属していることを主張して、
特許権の権利移転登録手続きを請求し、仮にこれが認められないとしても「職務発明」の相当
の対価の一部として20億円の支払いを求めるとして提訴しました。
従業員の「職務発明」により使用者が利益を得た場合には、このようなトラブルが発生する
場合があります。それを未然に防止するために、従業員のどのような発明が会社に帰属する「職
務発明」なのか、
「職務発明」の継承への「相当の対価」とは何か、トラブル防止のために使用
者は何をすべきか等をこのレポートにまとめましたので、ご参考にしてください。
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1.戦略的就業規則(その1)・・・・・ 社内発明の問題点
(1)社員の発明はすべて会社に帰属する「職務発明」?
まず、従業員がした発明すべて「職務発明」というわけではないことを理解する必要
があります。
特許法35条は、従業員の発明のうち、その発明が
「使用者の業務範囲に属し、かつ、発明をするに至った行為が当該従業員の
現在または過去の職務に属すること」
を職務発明の要件としています。つまり、
・ 従業員が会社の業務とも自己の職務とも関係のない発明をした場合(自由発明)や、
・ 従業員が会社の業務範囲には含まれるが自己の担当職務外の行為によって発明をし
た場合
の業務発明は、職務発明に含まれないことになります。
特許法は、特許を受ける権利を本来は自然人である発明者に帰属させていますが、職
務発明についてのみ、使用者が契約または勤務規則その他の定めをすることにより、従
業員の発明による特許を受ける権利(もしくは特許権)を従業員から使用者に当然に承
継させることを認めています。
(2)就業規則に定める予約継承に対する「相当の対価」
従業員の発明による特許を受ける権利(もしくは特許権)を使用者が承継する(予約
継承)定めを就業規則に規定した場合でも、注意が必要です。予約継承を就業規則に定
める場合、従業員は使用者から「相当の対価」の支払いを受ける権利を認められ、その
「相当の対価」の金額は、当該発明により使用者が受けるべき利益の額及び発明につい
ての使用者と従業員(発明者)の貢献度を考慮して定めなければならないとされていま
す。
特許法は、自己の努力や能力により発明をした従業員と、研究者に給与を支払い、研
究費用を負担し、研究に必要な機材やスタッフを提供した使用者との利益調整を図るた
めに、一方で、職務発明の予約承継を認め、他方において、従業員が使用者に対して「相
当の対価」を請求する権利を認めたものと考えられます。
(3)発明のモチベーション喪失
つい最近までは、職務発明によって企業が巨額の利益を得ても、発明した従業員本人
が得られるのは、
「発明考案規程」
「職務発明規程」などの定めによるわずか数万円の一
時金がほとんどでした。
これは従業員(発明者)と使用者(企業)との適正妥当な利益調整を図ろうとする特
許法の趣旨に反した不合理な状況といわざるを得ず、従業員が懸命に努力して職務発明
をしようとするモチベーションが失われてしまい、会社にとっても大きなマイナスとな
ると考えられます。
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(4)
「相当の対価」の支払い請求
近年の判決(東京高等裁判所 平成13年5月22日)においても、職務発明規程で
定められ従業員(発明者)に支払われた対価の額が、特許法 35 条 3 項・4項にいう「相
当の対価」に不足すると認められる場合には、対価請求権を放棄するなどの特段の事情
のない限り、従業員(発明者)は、職務発明規程の定めに基づき使用者が算出した金額
に拘束されることなく、
「相当な対価」の支払いを使用者に請求できる旨が判示されてい
ます。
(5)就業規則の「職務発明規程」に定めておくべきこと
上記(3)および(4)のような状況を考えると、使用者としては、就業規則に「職
務発明規程」を作成し、その「職務発明規程」に職務発明の予約承継について定めてお
くべきことはもちろん、従業員に対して適正妥当な対価(「相当の対価」)支払いのシス
テム(合理的な根拠・判断要素に基づいた算出法や複数の委員の算定額の平均値による
方法など)を作っておくことが必要となります。
また、従業員の職務発明により使用者が多額の利益を得た場合には、早期に使用者側か
ら積極的に従業員と協議をもち、誠意を尽くして合理的な対価支払いについて互いに折
り合いをつけて和解契約をしておくことができれば、トラブルを未然に防止することに
つながるはずです。
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「最後に」
ここでは、従業員の「職務発明」により使用者が利益を得た場合起こり得るトラブルを未然
に防止するために、従業員のどのような発明が会社に帰属する「職務発明」なのか、
「職務発明」
の継承への「相当の対価」とは何か、トラブル防止のために使用者は何をすべきか等をまとめ
ました。
「職務発明」に関わる訴訟が世間の耳目を集める昨今では、就業規則の「職務発明規程」に予約
継承の定めと、従業員(発明者)への正当な対価支払いの定めを、使用者が規定する必要があるこ
がお分かりになるはずです。このレポートにが、
「職務発明」に関するトラブルを未然に防ぐことに
お役立てください。
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