注:授業時間外の学習のために公開しています。 それ以外の目的での利用、無断での配布・転載はしないでください。 2014年度 2学期 共通教育科目 前回の簡単な復習 担当: 岩佐 光広 ヒト/人間の特性としての「調理」 食の哲学 食料 = 食べ物 ― 食から人間と社会を考える ― 第3回 食とヒト②:環境適応と生業形態 ↓↓ 食料 ⇒ 調理 ⇒ 食べ物 (2014/10/22) 調理による<食料=食べ物>の図式の切断が、生物的 にも、文化的にも人間の進化を促す重要な要因だった。 まずは質問 世界の人口密度(2013年) どんなところにどんな人たちが住んでいますか? 参考:推定されるヒトの拡散 出典:http://chartsbin.com/view/10340 ヒトの環境適応 多様な生態環境で生存しているヒト (熱帯から寒帯まで、森林地帯から半砂漠まで、山地から水上まで) ↓↓ いかにして「適応」してきたのか? いかにして「食料」を獲得してきたのか? 生業(subsistence) 出典:http://www.jyoumon.com/blog/2011/02/001205.html 食の哲学 第3回 授業資料 2014/10/22 1 注:授業時間外の学習のために公開しています。 それ以外の目的での利用、無断での配布・転載はしないでください。 「生業」とは?① 「生業」とは?② 『大辞林』(第三版)の説明 この授業のとりあえずの定義 〔「なり」は生産の意〕 ①生計を立てていくための仕事。 すぎわい。②農耕に従事すること。また、農作物。 広義:人間が生存するために不可欠な食料や物を生 産したり交換したりする諸活動。 ↓↓ 狭義:特定の環境において人間が生存のために不可 欠な食料を、収集や生産を通じて入手する諸活動。 人間が行う生業は「農耕」だけではない! 食料収集:採集、狩猟、漁撈 他にどんな生業がある? 食料生産:園耕、農耕、牧畜 今日の授業のテーマ 生業形態と社会の「進化」の見取り図 人類誕生 約400万年前 生業のうち、日本ではあまり馴染みのない 狩猟・採集社会 牧畜(pastoralism) について、農耕との違いに注目しながら概説する。 約1万年前 農耕社会 ↓↓ 生業による環境適応について考える手掛りを得る。 約200年前 牧畜社会 産業社会 現在 参考:人類史における「近代文明」 ところで、 人類の歴史365万年を1年に置き換えると? 正月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 狩猟採集民時代 「…人類の誕生はおよそ三~四〇〇年前のことと推定されて いる。この気が遠くなるほど長い時間の九九.九九%まで、人 間は狩猟=採集の生活を送ってきた。その一部が動植物を 順育して農耕=牧畜に移行したのが約一万年前、そのまたご く一部が産業社会をつくりだしたのは、たった二~三〇〇年前 のことにすぎない。/計算を簡単にするため人類の起源を三 六五万年前に取って、これを一年にみたてると、農業革命や やっと大晦日になってから、産業革命は除夜の鐘がなるほん の四三分前にしか過ぎなかった。」(山内昶 1994 『経済人類 学への招待:ヒトはどう生きてきたか』 筑摩書房 pp.10-11。) 農業革命:大晦日 産業革命:43分前 「牧畜」とはどのような生業ですか? 「牧畜民」を知っていますか? 牧畜民は何を食べていると思いますか? *狩猟採集については改めて 取り上げます(第7-9回)。 食の哲学 第3回 授業資料 2014/10/22 2 注:授業時間外の学習のために公開しています。 それ以外の目的での利用、無断での配布・転載はしないでください。 「牧畜」とは? 狩猟採集から牧畜・農耕へ 人間が動物の群れの繁殖を手助けし、その動物が生 み出す畜産物を利用する生業形態 狩猟採集 (ここでは農耕とセットで行われる「畜産」とは分けておく) 牧畜民の一例 モンゴルの遊牧民 自然環境のなかから食料を選び出し、さまざまな手段で それに手を入れ、消費する生業活動 ↓↓ 狩猟採集と農耕・牧畜との違いは? 自然環境に手を加え、食料の生産を行うようになった点 (「収奪経済」から「生産経済」への転換) (http://aguamizunogotoku.wordpress.com/2011/10/30/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%80%80%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%80%E 3%83%A0%E3%81%84%E3%82%8D%E3%81%84%E3%82%8D/) 食料生産のはじまり 何をすることで食料の生産が始まったと思いますか? 世界各地の牧畜民 ユーラシア大陸北端でのトナカイの牧畜(例:サーミ) 中央アジアのステップ地帯でのウマ・ヒツジの牧畜 ドメスティケーション(domestication) ヨーロッパ山岳地帯でのヒツジ牧畜(例:アルプスの少女ハイジ) 中近東から北アフリカの半砂漠地帯でのラクダ・ヤギ・ヒツジの牧畜 人類が動植物に手を加え、自分たちにとって都合の良い ように改変すること。 サハラ以南アフリカのサバンナ地帯でのウシ・ヤギ・ヒツジの牧畜( 例:マサイ) チベット山岳地帯でのヤク・ヒツジの牧畜 農耕=野生植物の栽培化(例:コメ) 牧畜=野生動物の家畜化 南米の山岳地帯でのリャマ・アルパカの牧畜 牧畜が行われる環境の共通性は? 牧畜が行われる環境 ところで、 乾燥地帯、冷寒地帯、山岳地帯 牧畜民は何を食べているか? ↓↓ 水資源の利用制限、厳しい自然環境 = 農耕が困難な環境 牧畜とは、農耕ができない厳しい自然環境におい て人間が適応し、生存するための生業形態 食の哲学 第3回 授業資料 2014/10/22 ミルクと乳製品が中心 (もちろん肉も食べるし他のものも食べる) ミルクの利用こそが牧畜を理解するうえで重要! 3 注:授業時間外の学習のために公開しています。 それ以外の目的での利用、無断での配布・転載はしないでください。 牧畜の特性① 牧畜の特性② 草食性の有蹄類=資源の間接的利用 牧畜の対象としてきた動物 ウシ科(ウシ、ヤギ)、ラクダ科(ヒトコブラクダ、リ ャマ)、シカ科(トナカイ)、ウマ科(ウマ、ロバ) ↓↓ これらの動物が共通して有する特性は? ①草食性 ②群居性 ③有蹄類 「人類は、牧草を直接食べても、その繊維 を消化して栄養とすることができない。そこ で、人類が消化できる種類の穀類や野菜 などを栽培するのが農耕という生業様式 である。これに対して、牧草の繊維を消化 できる草食動物にいったん牧草を食べさ せて、その草食動物から乳や肉などを利 用する方法で、植物の光合成エネルギー を間接的に利用するのが牧畜という生業 様式である。」(湖中 2009:186) (狩猟採集は、植物の光合成エネルギーを“直接的”に利用する。) 搾乳するマサイ (ちなみにトナカイは「雑食性の高い草食性」) 牧畜の特性③ (出典:http://storksb.smugmug.com/Around-theWorld/Kenya/Masai-Village-Amboseli-Kenya/i-DFtjPhv) 牧畜の特性④ 厳しい自然環境において家畜に牧草 を食ませるにはどうするか? ミルクを「継続的に」利用するには? ↓↓ 放牧 畜群の管理技術 季節変化や資源状態に応 じた家畜の移動 家畜の再生産プロセスへの人為的介入 (家畜移動に伴う移動性の高い社会形態) 生殖に不必要なオスの去勢 ↓↓ 種オスとメスの交配のコントロール 群居性を有する家畜の利点 仔と母との分離 放牧するレンディーレ (出典:http://www.localizationtoafrica.org/fieldnews_sun1/) 環境適応の技術としての「生業」① 環境適応の技術としての「生業」② 人間が営む多様な生業 生業形態の違い 狩猟採集 野生の動植物を収集することで食料を入手する(実際は 人間の影響は大きい 例:撹乱)。 農 耕 野生の植物を栽培化し、土地と栽培植物に働きかけるこ とで食料を生産し、利用する。 牧 畜 野生の動物を家畜化し、家畜に働きかけることで食料を 生産し、利用する。 環境に応じて生業活動を(複合的に)営み食料を入 手することで、多様な環境に適応してきた。 食の哲学 第3回 授業資料 2014/10/22 ↓↑ 社会的・文化的な違い 生業形態ごとにある程度共有される社会・文化的な特性が見られ るし、社会文化的な特性が生業形態に反映されることもある。 (例:狩猟採集社会の平等主義) 生業も含めて人間の多様性を知るようにしよう! 4
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