不正競争防止法

ものづくりと知的財産権
-不正競争防止法と独占禁止法-
精密工学科 山本佳男
不正競争防止法の法目的(著1条)
自由競争=資本主義経済の基本原理
経済秩序を乱すようなアンフェアな行為は自由競争を阻害する
事業者間の不正な競争行為を規制し、もって経済の健全な
発展に寄与することを目的とする(第1条)。
特許法、意匠法や商標法あるいは著作権法で保護できない
模倣品や海賊版を取り締まったり、特許法や著作権法など
で保護が困難な営業秘密を保護したりすることができ、特許
法、意匠法や商標法あるいは著作権法等には含まれない
権利の隙間の侵害事件に対して効果を発揮する。
不正競争行為とは(不2条)
①他人の周知な表示と同一又は類似の表示を使用した商品を
複製等して他人の商品との混同を起こさせるような行為
②他人の著名な表示を使用した商品を譲渡等する行為
③商品の形態を模倣する行為
④営業秘密の侵害
⑤コピーガードなどを解除する装置等を販売する行為
⑥ドメインネームの不正取得
⑦原産地や品質の虚偽の表示など
⑧他人の信用を傷つける行為
⑨外国の国旗や紋章の不正使用など
⑩外国の公務員への贈賄
商品等の主体混同行為の侵害要件
(a) 商品等表示
人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器
もしくは包装その他の商品または営業を表示する物
(b) 周知性
保護される商品等表示は、需要者の間に広く認識されて
いることが必要。つまり、具体的に信用が生じた商品等
表示に限り保護される。ただし、周知性は、全国的に周知
である必要はない。
(c) 類似性
他人の表示に類似した表示を利用した場合に限り不正
競争となる。
(d) 混同のおそれ
混同のおそれとは、狭義には、商品の出所または営業主体
が同一であると誤認させるおそれのことをいう。
混同行為の適用除外
(a) 普通名称・慣用表示
セイジョー事件(東京地判平成16年)
(b) 自己の氏名
山葉楽器事件(静岡地浜松支判昭和29年)
(c) 先使用
営業秘密の不正取得等
知的財産法で保護されない企業活動に有益な情報
①知的財産権が付与されえないもの(顧客名簿等)
②商品を分析してもその内容がわからないもの(香水の組成等)
③ライフサイクルが短く、特許や意匠等、登録に時間がかかる
知的財産権を修得するまでの必要のないもの
秘密に管理することで他人に模倣されるのを防ぐことができる。
どこで、企業が秘匿・管理している秘密を不正に取得・利用する
行為は「不正競争」として禁止されている(不2条1項4~9号)
保護されるべき営業秘密の要件
(a) 管理性
①秘密保持社内ルール制定
②社内教育
③秘密情報の秘密維持
(鍵のかかるロッカー、パソコンにパスワード等)
④退職者との契約
⑤管理状態の確認と維持
(b) 非公知性
公然と知られる情報は保護すべき利益が存在しない
(c) 有用性
営業秘密として保護されるためには有用な情報でなければならない
営業秘密に関する不正競争行為(不2条1項4~9号)
保有者
A
取得者
B
4号
営
業
秘
密
不正に
取得
転得者
C
使用
開示
5号
悪意で
取得
善意で
取得
図利加害目的
使用
正当に
取得
7号
図利加害目的
開示
法的義務違反
開示
使用
開示
知情後
使用
知情後
開示 6号
使用
悪意で
取得
善意で
取得
8号
開示
知情後
使用
知情後
開示 9号
不正競争防止法の強化
2005年、2006年、2009年の法改正
【法改正の目的】 国際的な競争が激しくなっており、その中で日本の競争力
を維持するために、知的財産の保護を強化する。
営業秘密の侵害や模倣品あるいは海賊版に対する措置を強化し、適正な
競争を促し、経済が健全に発達するようにする。
営業秘密の保護強化
模倣品・海賊版対策強化
①営業秘密を外国で使用したり開示した
者を刑事処罰する制度の導入
①著名な商品の表示を勝手に使用した者を
刑事処罰する制度の導入
②退職者による秘密情報の不正使用を
刑事処罰する制度の導入
②他人の商品の形態を模倣した商品を販売
した者を刑事処罰する制度の導入
③他社の営業秘密情報の侵害を行った
企業(法人)を処罰する制度の導入
独占禁止法の法目的(独1条)
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止
し、事業支配力の過度の集中を防止して、・・・・・ 公正且つ自由な競争
を促進し、・・・・・以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済
の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
この目的のために、競争を制限する行為を規制すると共に、専門機関と
して公正取引委員会を設けている。
独占禁止法の規制内容
① 独占・集中の規制
② 不当な取引制限の規制
③ 不公正な取引方法の規制
独占禁止法と知財法との関連
独占禁止法は私的独占を禁止している。しかし一方で知的財産法は、発
明等の保護のため、むしろ新技術等の私的独占を認めている。
独禁法は、あくまでも不当な独占を防止して競争を促進することで消費者
の利益を確保し、および経済が発展することを目的とした法律である。
発明等の保護と利用を図ることで産業の発達(著作権法においては文化
の発展)に寄与することを目的として、正当な独占を認める知的財産法と
は根本的に異なる法律である。
独占禁止法における適用除外
第21条 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又
は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
独占禁止法に触れた特許事例
パチンコ機製造特許事件(公取委勧告審決平成9年8月6日)
ぱちんこ機製造に必須の特許権等を製造メーカー10社(合計のシェア90%)
が持ち寄ってプールし(特許プール)、新規参入を望む業者に対して、差別的
に当該特許の実施許諾を拒絶した。個々の特許権者が実施許諾を拒絶する
ことは、本来特許権の行使として自由なはずであるが、本件のような事情の
もとでの拒絶はもはや正当な権利行使とはいえず、私的独占にあたり独占
禁止法違反であるとされた。
勧告審決とは、公取委が違反行為があると認めたと
多くの特許権者が個々に実施許諾を行いあうといっ
きに違反者に対し適当な措置をとることを勧告し、そ
た煩瑣な手続をなくして互いに円滑な特許利用がで
れを違反者が応諾したときはそれと同趣旨の審決を
きるようにするためのものであるから、それ自体は独
することができるという争いのない事件に対する簡易
禁法に反するものではない。しかし、有力な特許が多
な審理方法であるので、その意味では10社及び日特 数集積されるとその特許プールの動きは当該業界に
連は素直に違反を認めその排除措置をとったというこ 大きな影響力を持つことになるので、結果として公正
とである。その後、メーカー各社は個別に自社の特許
な競争を阻害する場合も生ずる。特許権の行使によ
の管理運用を行っているとのことである。
る独占は独禁法第21条により独占の例外と認められ
特許プールは一つの製品やシステム等にかかわる
特許を一括して利用できるようにする仕組みであって
ているとは言っても何をしてもよいというものではない
というわけである。