第一章 特許法の目的 - LEC東京リーガルマインド

07・08 入門講座
講義編
特許法・実用新案法
第1回
第一章 特許法の目的
1.特許法の目的
この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること
を目的とする(1 条)
。
特許法 1 条は、特許法の目的を明確に規定している。
公開・実施
特許権
※ 目的と手段の関係
↑
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特許法の目的:産業の発達 ← 達成手段:発明の保護と発明の利用
特許法は、産業の発達に寄与することを目的として制定された法律である。
特許法は、後に述べるように、国家に発明を開示した代償として、発明者に独占排他
的な権利である特許権という強力な権利(68 条)を付与して、発明者を保護する法律で
ある。
即ち、発明の保護と利用の調和を図ることにより、法の最終目的である産業の発達を
実現するのである。
したがって、特許権は無限に存続するものではなく、一定の期間(67 条 1 項)に限り、
その独占排他性を認めている(68 条)
。そして、特許権付与の条件として新規な発明を
国家に開示することを義務付け(36 条)
、国家がこの内容を社会に公開することにより
(64 条、66 条 3 項)
、一般人がその特許発明を利用する機会を担保することとなる。
また、権利の存続期間中、特許権者はその特許発明の実施を間接的に強制され(83 条)
、
かつ一定の場合には、第三者の実施を容認しなければならない場合もある(92 条、93
条)
。さらに、権利の消滅後は、誰でも自由に発明を実施することができることになり、
これに対し、権利者であった者は第三者の実施に不服をとなえることができない。
このように、発明者が権利付与を国家に要求する場合には、その代償として、発明の
開示や第三者利用の機会を要求されることになる。
2.発明の隠匿による利益と不利益
そこで、逆に、特許権による保護を要求せず、これをノウハウとして秘蔵しておいた
方が、非常に有利な場合も考えられる。完全に秘密が厳守できるのであれば、発明者は
永久的にこの方法を独占することができるからである。
有名な例として、コカコーラの製造方法をノウハウとしてコカコーラ社が秘蔵してい
ることが挙げられる。
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複製・頒布を禁じます
コカコーラ社では、秘密は社長と顧問弁護士の二人のみがコカコーラ原液の秘密を知
っており、世界各地のボトラーは、コカコーラ社から原液の配給を受けてボトリングし
ているだけであるといわれている。
仮に、コカコーラの原液やその製造方法等について特許を取得し、これを公開してい
たとしたら、発明から何十年も経っている現在においては、誰でもこの発明を利用でき
ることとなり、今日のコカコーラ社の隆盛はなかったといってもよい。
しかし、ノウハウは独占排他性を有する権利とはいえない。例えば、誰かがそのコカ
コーラ原液の製造方法等を窃取、又は漏洩し、それにより製造方法を模倣して、同一の
飲料を製造してしまった場合には、民事上の救済方法として、民法や不正競争防止法に
基づく損害賠償請求権やそのノウハウの利用を禁止する差止請求権により保護すること
も可能であるが、そもそも侵害訴訟手続において、ノウハウの保護範囲を確定すること
は困難であり、さらに裁判により当該ノウハウが公開されてしまう危険性もあることか
ら、法的救済としては不十分である。
3.特許法による発明の保護
一方、発明に権利を付与するという国家的保護を要求できることになると、発明保護
の手段としては有利である。産業発達を目的とする国家は、その目的達成のため、法律
により様々な有利な制度を規定し、発明を保護・奨励するからである。
国家による保護方法としては、特許権付与のほか、表彰、栄典付与、税金減免、報奨
金交付等があるが、特許権付与制度に対して補助的な役割を果たしているにすぎない。
これに対し、特許権が付与されると、発明実施の権原は権利者の支配下におかれ、他
人の実施が禁止される。また、特許権者には、発明の実施によって生じる利益の独占が
保障される。
つまり権原のない他人が特許発明を実施した場合には、特許権の侵害として、その実
施行為の差止請求や損害賠償請求をすることができ(民事的救済)
、さらに刑法上の要件
を満たす場合には、刑事上の責任を追及することもできるのである。
以上のように、独占権たる特許権は強力な権利・保護手段であり、このような国家に
よる保護を期待するからこそ、発明をした者は特許権の付与を求め、自らの利益を保護・
独占するために国家に対し特許出願を行うことになる。
また、これから発明をする者にとっては、大きな利益を期待し、さらなる創作意欲が
刺激され、発明の奨励やその企業化が期待でき、産業の発達に寄与することにもなる。
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