都会の野生動物 - 栄光ゼミナール

都会の野生動物
テーマ
と かい
し ぜん
すく
い がい
どうぶつ
都会には自然が少ないが、意外にいろんな動 物
す
にんげん
か
や
が住んでいる。 人 間 に飼われていないので「野
せいどうぶつ
い
と かい
生 動 物 」と言ってもいいだろう。さあ、都会 の
テキスト版
や せいどうぶつ
野生 動 物には、どんなものがいるかな?
執筆/柳田理科雄
制作/空想科学研究所
提供/栄光ゼミナール
どうぶつ
ハクビシンって、どんな動物?
1
さいきん
とうきょう
みぎらん
しゃしん
み
最近、東 京 で、右欄の写真のハクビシンが見られるようになった。
どう ろ
へい
うえ
はし
もくげき
道路や塀の上などを走っているところを目撃されている。
とくちょう
ひたい
はな
しろ
も よう
しっ ぽ
さき
なか ま
特 徴 は、額 から鼻にかけて白い模様があることだ。ネコの仲間の
か
あたま
い じょう
ジャコウネコ科だが、頭 から尻尾の先までが1m以 上 もあり、ネコ
おお
よりずっと大きい。
からだ
おお
つよ
み
くだもの
こんちゅう
体 が大きいので強そうに見えるが、果物や、昆 虫 や、カエルやヘ
た
ざっしょくせい
にんげん
おそ
や こうせい
ビを食べる雑 食 性で、人間を襲うことはない。夜行性で、人間にば
あ
に
い
なま
ったり会うと、ハクビシンのほうから逃げて行く。ただし、生ゴミを
はたけ
あ
てんじょううら
す
©Denise Chan
にんげん
めいわく
てん
なが
お
ハクビシンは、長い尾でバラン
と
き
えだ
ある
スを取って、木の枝も歩く
あさったり、畑 を荒らしたり、天 井 裏に住みついたり、迷惑な点も
ある。
ちゅうごく
とうなん
もり
す
ハクビシンは、 中 国、インド、東南アジアの森にたくさん住んで
に ほん
み
に ほん
か せき
はっけん
いるが、日本ではあまり見られない。日本で化石が発見されたことも
がいこく
はい
どうぶつ
せつ
ないので、外国から入ってきた動物ではないかという説もあるが、ハ
ッキリしたことはわかっていない。
今日の1日1科学
にんげん
おそ
ハクビシンは人間を襲わない
こうそう
2
高層ビルからハヤブサ!
みぎらん
しゃしん
かわ
みずうみ
うみ
ちか
す
とり
右欄の写真は、ハヤブサだ。もともと川や 湖 や海の近くに住む鳥
さいきん
がい
み
だが、最近はビル街などでも見られるようになった。
なか ま
あたま
しっ ぽ
たいちょう
つばさ
ひろ
タカの仲間で、 頭 から尻尾までの「体 長 」が45㎝、 翼 を広げ
はば
おお
とり
なか ま
ちい
た幅が1m20㎝。かなり大きな鳥だが、タカの仲間では小さなほうだ。
と
はや
ふ つう
と
じ そく
ハヤブサのすごいところは、飛ぶ速さだ。普通に飛ぶときでも時速6
つばさ
つよ
は
と
じ そく
じょうくう
ま
0㎞、翼 を強く羽ばたいて飛ぶときは時速100㎞、上 空から舞い
きゅうこう か
さいこう き ろく
じ そく
しんかんせん
降りる「 急 降下」では、最高記録で、時速385㎞!これは、新幹線
はや
とり
はや
より速く、鳥のなかでも、いちばん速い。
つばさ
ひろ
と
翼 を 広 げて飛ぶハヤブサ。
と
じ そく
ゆっくり飛んでも時 速 60㎞
というスピードだ
1
す
ば しょ
たか
そら
と
じ ぶん
した
もともと住んでいた場所では、高い空をゆっくり飛んで、自分の下に
み
きゅうこう か
おそ
スズメやハトやムクドリなどを見つけると、急 降下して襲いかかり、
たた
お
た
キックして叩き落として食べる。
と かい
す
たか
うえ
やす
じ ぶん
した
都会に住むハヤブサは、高いビルの上で休んでいて、自分より下にハ
み
きゅうこう か
おそ
と かい
と
ひつよう
トなどを見つけると、急 降下して襲う。
「都会は、飛ぶ必要がないか
らく
おも
ら、楽でいいなあ」と思っているかもしれない。
今日の1日1科学
きゅうこう か
じ そく
ハヤブサの 急 降下は時速385㎞
と かい
なに
た
都会のコウモリは何を食べる?
3
みぎらん
しゃしん
む
おお
ひる ま
どうくつ
右欄の写真はコウモリの群れだ。多くのコウモリは、昼間は洞窟や
もり
ねむ
ゆうがた
む
つく
と
た
た
もの
さが
森で眠っていて、夕方になると群れを作って飛び立ち、食べ物を探し
で
に出かける。
むかし
と かい
す
だが、ずっと 昔 から、都会に住んでいるコウモリもいる。アブラ
な まえ
にんげん
いえ
す
つく
コウモリという名前で、人間の家に巣を作るので、イエコウモリとも
呼ばれてきた。
ゆうがた
あたま
しり
つばさ
ひろ
はば
アブラコウモリは、頭 からお尻まで4~6㎝、翼 を広げた幅が6
ちい
たいじゅう
から
た
もの
さが
と
た
夕 方 、食べ 物 を 探しに飛び立
む
つコウモリの群れ
~7㎝という、小さなコウモリだ。体 重 は7~11gで、空っぽの
かん
かる
アルミ缶より軽い。
こわ
い
もの
たし
がいこく
コウモリには、
怖い生き物というイメージがある。
確かに外国には、
つばさ
ひろ
はば
どうぶつ
ち
す
翼 を広げた幅が2mにもなるオオコウモリや、動物の血を吸うチス
イコウモリがいる。
か
ちい
こんちゅう
た
だが、アブラコウモリは、蚊などの小さな昆 虫 を食べてくれる。
にんげん
く
にんげん
やく
た
い
もの
人間といっしょに暮らし、人間の役に立つ生き物だ。
今日の1日1科学
か
た
アブラコウモリは蚊を食べる
ちが
4
ヤモリとイモリ、どう違う?
ふる
もくぞう
いえ
しゃしん
と かい
てっきん
古い木造の家には、
【写真①】のヤモリがよくいるが、都会の鉄筋
はい
コンクリートのマンションにも入ってくることがある。
なか ま
あたま
しっ ぽ
あし
ヤモリはトカゲの仲間で、頭 から尻尾まで10~14㎝ぐらい。
足
ゆび
きゅうばん
かべ
ある
むかし
にんげん
いえ
す
の指に 吸 盤があり、壁も歩くことができる。昔 から人間の家に住ん
こんちゅう
た
いえ
まも
どうぶつ
写真① ヤモリ
で、昆 虫 やクモなどを食べてきた。このため、家を守ってくれる動物
かんが
や もり
な まえ
と かい
と 考 えられ、
「家守」の名前がついた。都会のマンションでも、ゴキ
2
た
にんげん
がい
およ
ブリなどを食べてくれていて、人間に害を及ぼすことはない。
に
どうぶつ
しゃしん
あたま
しっ ぽ
ヤモリによく似た動物に、
【写真②】のイモリがいる。頭 から尻尾
あし
きゅうばん
みず べ
す
い
ど
まも
まで10㎝ぐらいで、足に 吸 盤はない。水辺に住むので、井戸を守
かんが
い もり
な まえ
ると 考 えられ、
「井守」の名前がついた。
ちが
おな
写真② イモリ
は ちゅうるい
ヤモリとイモリの違いは、ヤモリがトカゲやヘビと同じ爬 虫 類な
たい
なか ま
りょうせいるい
のに対して、イモリがカエルの仲間の 両 生類であることだ。だから、
つぎ
ちが
次のような違いがある。
から
たまご
に
ヤモリとイモリはよく似てい
べつ
どうぶつ
るが、まったく別の動 物だ
う
・ヤモリはトカゲやヘビのように殻のある 卵 を産むが、イモリは
じょう
たまご
う
カエルのようにゼリー 状 の 卵 を産む。
こ
かたち
・イモリは、子どものときはオタマジャクシのような 形 をしている。
どく
なか
あか
・ヤモリには毒はないが、
イモリのなかでもお腹の赤いアカハライ
ひ ふ
よわ
どく
だ
さわ
モリは、皮膚から弱い毒を出すので、触ってはいけない。
似ているけれど、まったく違う生き物なのだ。
今日の1日1科学
た
ヤモリはゴキブリを食べてくれる
がいらいしゅ
5
アカミミガメは外来種
と かい
す
どうぶつ
むかし
にんげん
くら
にんげん
やく
都会に住む動物には、 昔 から人間といっしょに暮して、人間の役
どうぶつ
に立ってきたものがたくさんいる。だが、そうではない動物たちもい
しゃしん
る。たとえば、
【写真①】のアカミミガメだ。
す
こ
アカミミガメは、もともとアメリカに住んでいるカメで、子どもの
しゃしん
すがた
いろ
こう
ときは【写真②】のような 姿 をしている。色もきれいだし、甲らも
えんだま
写真① アカミミガメ
おお
500円玉ぐらいの大きさしかなくて、とてもかわいい。このためた
ゆ にゅう
まつ
えんにち
な まえ
くさん輸 入 されて、お祭りの縁日などで「ミドリガメ」という名前
う
で売られている。
おとな
いろ
くろ
こう
ちょっけい
ところが大人になると、色も黒くなり、甲らの 直 径も30㎝ぐら
か
むずか
こうえん
いけ
はな
ひと
ふ
いになって、飼うのが 難 しくなるため、公園の池などに放す人が増
つよ
むかし
に ほん
た
もの
よこ ど
かず
へ
るカメが、食べ物を横取りされて、数が減っている。
がいこく
はい
い
もの
おお
ミドリガメは、とても大きくな
か
がいらいしゅ
がいらいしゅ
このように外国から入ってきた生き物を「外来種」という。外来種
かんきょう
写真② ミドリガメ
す
えている。アカミミガメはとても強いので、 昔 から日本に住んでい
は かい
おお
はじ
さい ご
か
る。飼い始めたら、最後まで飼
おう
のなかには、アカミミガメのように、環 境 を破壊するものが多い。
いち ど か
はじ
す
どうぶつ
おな
一度飼い始めたら捨ててはいけないのは、どんな動物でも同じだが、
がいらいしゅ
かんきょう
こわ
ぜったい
す
とくに外来種は環 境 を壊すことがあるので、
絶対に捨ててはいけない。
今日の1日1科学
はな
ミドリガメは放してはいけない
3
き けん
6
むし
危険な虫たち
と かい
す
こんちゅう
き けん
しゃしん
おお
都会に住む昆 虫 やクモのなかには、危険なものがいる。
しゅるい
たいちょう
たとえば、
【写真①】のスズメバチだ。大きな種類は体 長 が4㎝も
さ
いた
おお
は
ば あい
し
あり、刺されると、とても痛く、大きく腫れる。場合によっては、死
ぬこともある。
と かい
こうえん
ふ
にんげん
やま
写真① スズメバチ
このスズメバチが、
都会の公園などで増えている。
それは、
人間が山
もり
き
ひら
く
ば しょ
へ
や森を切り開いて、スズメバチの暮らす場所を減らしたからだ。スズ
にんげん
て
だ
おそ
さ
メバチは、
人間が手を出さなければ、
襲ってくることはないが、
もし刺
きずぐち
みず
あら
びょういん
い
されたら、傷口を水で洗って、すぐに 病 院に行こう。
き けん
クモのなかで危険なのは、セアカゴケグモだ。オーストラリアから
どく
ねん
おおさか ふ
はじ
み
いま
入ってきた毒グモで、1995年に大阪府で初めて見つかり、今では
と どう ふ けん
み
おお
あたま
ほとんどの都道府県で見つかっている。メスのほうが大きく、 頭 か
しり
しゃしん
すがた
せ なか
なか
あか
らお尻まで1㎝ぐらい。
【写真②】のような 姿 で、背中とお腹に赤い
も よう
はんぶん
なか
も よう
か
模様がある。オスはメスの半分ぐらいで、お腹だけに模様がある。噛
いた
は
ねつ
で
写真② セアカゴケグモ
まれると、ものすごく痛く、腫れたり、熱が出たりする。セアカゴケ
にんげん
て だ
か
と かい
か
さ
か
がいる。刺されたり噛まれたり
い
れたら、すぐに 病 院へ行こう。
びょういん
したら、 病 院へ
今日の1日1科学
さ
こんちゅう
都会にも、
危険な昆 虫 やクモ
グモも、人間が手出しをしなければ噛まれることはないが、もし噛ま
びょういん
き けん
びょういん
スズメバチに刺されたら 病 院へ
やなぎ た
り
か
ぼく
こうえん
お
へん しゅう こう き
柳 田理科雄の編 集 後記
めん
だん ち
す
よる
し ごとがえ
で
あ
僕は、公園に面した団地に住んでいます。夜、仕事帰りに、よく出会うのが
よ
だま
すわ
よう す
なに
かんが
ヒキガエルです。ガマガエルとも呼ばれ、黙って座っている様子が、何か 考
み
むかし
たね が しま
かしこ
どうぶつ
いえ
まも
えているように見えるからなのか、 昔 の種子島では「 賢 い動物」「家の守
がみ
い
かしこ
ぼく
り神」と言われていました。ところが、その 賢 いはずのヒキガエルが、僕
ちか
に
き
ふ
が近づいても、まったく逃げないのです。気づかずに踏んでしまいそうにな
おさな
しんせい し
ぼく
ることもあります。 幼 いころからヒキガエルを神聖視してきた僕は、その
さけ
あし
ひ
こ
じ ぶん
ころ
ほんとう
たびに「うわっ!」と叫んで足を引っ込め、自分が転びそうになります。本当
ゆ だん
や せいどうぶつ
に、油断のできない野生動物です。
4