肉球 - 栄光ゼミナール

テーマ
肉球
ねこ
いぬ
あし
うら
やわ
猫 や 犬 の 足 の 裏 には、プニプニと 柔 らかい
にくきゅう
かれ
肉 球 がある。とてもかわいいけれど、彼らが
い
テキスト版
ねこ
いぬ
やく
にくきゅう
た
かんが
だ。猫や犬の肉 球 について 考 えてみよう。
執筆/柳田理科雄
に く きゅう
1
なに
生きていくうえで、何かの役に立っているはず
制作/空想科学研究所
提供/栄光ゼミナール
どうぶつ
肉球のある動物
にくきゅう
どうぶつ
肉 球 は、どんな動物にあるのだろうか。
わたし
にんげん
どうぶつ
いっしゅ
て
あし
うら
にく
たとえば、 私 たち人間も動物の一種だが、手のひらや足の裏に肉
きゅう
うま
うし
あし
さき
にくきゅう
球 はない。馬や牛の足の先もヒヅメになっていて、肉 球 はない。
にくきゅう
もく
どうぶつ
肉 球 があるのは、ネコ目の動物だけだ。
もく
い
もの
わ
もく
か
「目」というのは、生き物を分けるグループのことで、目はさらに「科」
ちい
わ
もく
か
おも
という小さなグループに分かれる。ネコ目には15の科があり、主な
つぎ
とお
ものは次の通りだ。
か
ネコ科……ネコ、ヤマネコ、ライオン、トラ、ヒョウ、チーター
か
イヌ科……イヌ、オオカミ、キツネ、タヌキ、ジャッカル
か
クマ科……ヒグマ、ツキノワグマ、ホッキョクグマ、
ジャイアントパンダ
か
か
か
か
ほかにも、レッサーパンダ科、スカンク科、イタチ科、アシカ科、
か
か
アザラシ科、セイウチ科などがある。
か
うえ
ねこ
にくきゅう
か
か
うみ
す
にくきゅう
ただし、アシカ科、アザラシ科、セイウチ科は、海に住むので、肉 球
した
いぬ
上 が 猫 の 肉 球 で、 下 が 犬 の
にくきゅう
もく
肉 球 。どちらもネコ目なので
にくきゅう
肉 球 がある
にくきゅう
がない。また、ハムスターにも肉 球 のようなものがあるが、ハムス
もく
ただ
にくきゅう
よ
ターはネズミ目なので、正しくは、肉 球 とは呼ばれない。
今日の1日1科学
にくきゅう
もく
どうぶつ
肉 球 はネコ目の動物にある
に く きゅう
2
かたち
肉球はどんな形?
にくきゅう
あし
肉 球 は、足のどこに、どんなふうについているのだろう。
みぎらん
しゃしん
ねこ
まえあし
しゃしん
うし
あし
しゃしん
右欄の【写真①】は猫の前足、
【写真②】は後ろ足の写真だ。
まえあし
ま
なか
にんげん
て
あ
ぶ ぶん
おお
にくきゅう
まず、前足の真ん中の人間の手のひらに当たる部分に、大きな肉 球
ねこ
あし
ゆび
ゆび
した
にくきゅう
が1つある。また、猫の足にも指があり、その指の下に1つずつ肉 球
ねこ
まえあし
ほん
ゆび
にくきゅう
おやゆび
がある。猫は前足に5本の指があるので、肉 球 も5つある。親指の
にくきゅう
すこ
はな
にんげん
て くび
あ
ぶ ぶん
肉 球 だけ、少し離れている。そして、人間の手首に当たる部分にも、
写真① 前足
1
にくきゅう
かんかく
するど
け
は
じ ぶん
肉 球 が1つある。ここには感覚の 鋭 い毛が生えていて、自分がどん
ば しょ
ある
な場所を歩いているか、わかるようになっている。
うし
あし
ま
なか
おお
にくきゅう
ねこ
うし
あし
おやゆび
まえあし
て くび
たい か
後ろ足にも、
真ん中に大きな肉 球 がある。
猫の後ろ足は親指が退化
ゆび
にくきゅう
い
ち
しているので、指の肉 球 は4つしかない。また、前足の手首の位置
にくきゅう
うし
あし
にある肉 球 は、後ろ足にはない。
て
つ
たいじゅう
て
ゆび
写真② 後ろ足
テーブルに手を突いて体 重 をかけてみよう。手のひらと、指と、
て くび
ちから
ねこ
にくきゅう
ある
たいじゅう
手首に 力 がかかるのがわかるはずだ。
猫の肉 球 も、
歩くときに体 重
ぶ ふん
まえあし
うし
あし
にくきゅう
前 足 と 後 ろ 足 では、 肉 球 の
かた
ちが
つき方が違う
のかかる部分にある。
今日の1日1科学
にくきゅう
ちから
ぶ ぶん
肉 球 は 力 のかかる部分にある
に く きゅう
やわ
肉球は、なぜ柔らかい
3
にく きゅう
やわ
お
もと
かたち
もど
肉 球 は、柔らかいだけでなく、押されてもすぐ元の 形 に戻る
だんりょくせい
も
ふ
し ぎ
て ざわ
「弾 力 性」も持っている。プニプニとした不思議な手触りだが、こ
れはなぜだろう。
にくきゅう
おく
し ぼう
にくきゅう
やわ
し ぼう
肉 球 のいちばん奥には脂肪がある。肉 球 が柔らかいのは、脂肪が
やわ
あしおと
た
ある
柔らかいからだ。おかげで、足音を立てずに歩くことができる。
し ぼう
うえ
だんせいせん い
だんりょくせい
ぶっしつ
だんせい
脂肪の上には「弾性繊維」という弾 力 性のある物質がある。弾性
せん い
にんげん
ひ
ふ
ひ
ふ
ひ
ぱ
はな
繊維は、人間の皮膚にもある。皮膚をつまんで引っ張っても、離すと
もと
かたち
もど
だんせいせん い
にくきゅう
にく きゅう
うち がわ
じゅん
肉 球 は、 内 側 から 順 に、
し ぼう
だんせいせん い
かくしつそう
脂肪、弾 性 繊維、角 質 層でで
きている
だんせいせん い
すぐに元の 形 に戻るのは、弾性繊維があるからだ。肉 球 の弾性繊維
たか
と
お
しょうげき
やわ
はたら
は、
高いところから飛び降りたときに、衝 撃を和らげる 働 きがある。
にくきゅう
ひょうめん
かくしつそう
かくしつそう
にんげん
そして、肉 球 の 表 面は「角質層」になっている。角質層とは、人間
あし
ひ ふ
あつ
かた
ひ ふ
かくしつそう
の足のかかとの皮膚のように、厚く硬くなった皮膚のことだ。角質層
いし
こ えだ
お
じ めん
はし
があるおかげで、
石ころや小枝などの落ちた地面を走ってもケガをす
ることがない。
今日の1日1科学
にくきゅう
やわ
し ぼう
肉 球 が柔らかいのは脂肪があるから
ねこ
4
いぬ
に く きゅう
ちが
猫と犬の肉球、どう違う?
ねこ
にくきゅう
いぬ
にくきゅう
ちが
そ せん
猫の肉 球 と、
犬の肉 球 には、
違いがある。
これは、
それぞれの祖先
ちが
う
が違うところで生まれたからだ。
ねこ
そ せん
おな
か
おな
猫の祖先は、
同じネコ科のライオンやトラやヒョウと同じように、
あつ
ち いき
う
たい
いぬ
そ せん
おな
か
暑い地域で生まれた。これに対して、犬の祖先は、同じイヌ科のオオ
おな
さむ
ち いき
う
いぬ
カミやキツネと同じように、寒い地域で生まれた。このために、犬の
2
にくきゅう
さむ
つよ
し
く
そな
肉 球 は、寒さに強い仕組みを備えている。
ねこ
にくきゅう
みぎらん
ひだり
ず
まず、猫の肉 球 は右欄の 左 の図のように、ツルツルしているが、
いぬ
にくきゅう
おお
えが
みぎ
ず
犬の肉 球 は、大げさに描くと右の図のようにデコボコしている。こ
じ めん
せっ
めんせき
せま
からだ
ねつ
じ めん
に
れは、地面に接する面積を狭くして、 体 の熱が地面に逃げないよう
ひだり
ねこ
にくきゅう
にするためだ。
けっかん
かた
ちが
みぎらん
ず
あか
せん
どうみゃく
あお
せん
しんぞう
けつえき
にくきゅう
さむ
いぬ
そな
肉 球 。犬の肉 球 は寒さに備
しんぞう
また、血管のつながり方も違う。右欄の図で、赤い線は心臓から
けつえき
みぎ
左 が猫の肉 球 で、右が犬の
にくきゅう いぬ
えたつくりになっている
かえ
血液がやってくる「動 脈 」を、青い線は心臓に血液が帰っていく
じょうみゃく
あらわ
どうぶつ
どうみゃく
じょうみゃく
ひ ふ
「 静 脈 」を 表 している。どんな動物でも、動 脈 と 静 脈 は、皮膚
した
ば あい
どうみゃく
じょうみゃく
ば しょ
のすぐ下でつながっている。
ネコの場合は、
動 脈 と 静 脈 がその場所
たい
いぬ
ば あい
ば しょ
だけでつながっているのに対し、犬の場合は、ほかの場所でもつなが
けつえき
なが
っている。このおかげで、たくさんの血液を流すことができるので、
にくきゅう
ひ
ふせ
肉 球 が冷えるのを防いでいる。
ゆき
どうよう
いぬ
よろこ
にわ
『雪やこんこ』という童謡に「犬は 喜 び 庭かけまわり
まる
か し
さむ
たい
いぬ
ねこ
猫はこ
ねこ
こうどう
たつで丸くなる」という歌詞があるが、寒さに対する犬と猫の行動の
ちが
にくきゅう
かんけい
違いも、肉 球 のつくりに関係があることになる。
今日の1日1科学
いぬ
にくきゅう
さむ
つよ
犬の肉 球 は寒さに強い
に く きゅう
つめ
かんけい
肉球と爪の関係
5
ねこ
にくきゅう
いぬ
にくきゅう
ちが
にくきゅう
猫の肉 球 と犬の肉 球 には、もう1つの違いがある。ネコの肉 球
つめ
ひ
こ
いぬ
にくきゅう
は、爪をなかに引っ込められるが、犬の肉 球 はそれができない。こ
れはなぜだろう。
か
どうぶつ
え もの
ものかげ
ちか
ネコやライオンなど、ネコ科の動物は、獲物に物陰から近づいて、
いっ き
と
まえあし
つめ
つ
た
か
し かた
つめ
一気に飛びかかり、前足の爪を突き立てる。この狩りの仕方では、爪
するど
ある
おと
た
たいせつ
をいつも 鋭 くしておくことと、歩くときに音が立たないことが大切
つめ
にくきゅう
ひ
こ
つめ
へ
ふせ
だ。爪が肉 球 に引っ込むおかげで、爪がすり減るのを防ぐこともで
じ めん
つめ
おと
た
きるし、地面で爪をひっかいて音を立てることもない。
か
どうぶつ
む
つく
はし
え もの
お
走 って獲 物 を追いかけるチー
つめ
にくきゅう
ひ
ターは、爪が肉 球 のなかに引
こ
え もの
っ込まない
お
イヌやオオカミなど、イヌ科の動物は、群れを作って獲物を追いか
と
かこ
お
つ
とら
か
し かた
なが
けたり、
取り囲んで追い詰めたりして捕える。
この狩りの仕方では、
長
きょ り
はや
はし
じゅうよう
いぬ
つめ
じ めん
つよ
け
い距離を速く走ることが 重 要なので、犬の爪には「地面を強く蹴る」
やく め
か
つめ
ふと
がんじょう
という役目がある。このため、イヌ科の爪は、太くて頑 丈 になって
にくきゅう
ひ
こ
いて、肉 球 に引っ込めることはできない。
にくきゅう
ちが
か
し かた
かんけい
イヌとネコの肉 球 の違いは、狩りの仕方に関係があるということ
か
どうぶつ
りくじょう
はや
はし
え もの
だ。ネコ科の動物でも、陸 上 でいちばん速いチーターは、走って獲物
お
つめ
にくきゅう
ひ
こ
を追いかけるので、爪が肉 球 に引っ込まない。
3
今日の1日1科学
か
し かた
ちが
イヌとネコは狩りの仕方が違う
に く きゅう
6
あせ
肉球で汗をかく
ねこ
いぬ
あせ
にんげん
ぜんしん
あせ
猫や犬も汗をかくが、人間のように全身から汗をかくことはない。
あせ
こた
にくきゅう
では、どこで汗をかくのだろうか。答えは、肉 球 のまわりだ!
あせ
ひ ふ
かんせん
ば しょ
で
にんげん
汗は、皮膚のなかにある「汗腺」という場所から出る。人間やウマ
ぜんしん
かんせん
あせ
やウシなどは、全身に汗腺があるので、たくさんの汗をかく。これは、
あせ
じょうはつ
からだ
ねつ
うば
あつ
たいおん
さ
汗が 蒸 発するときに 体 から熱を奪い、
暑いときに体温を下げるのに
もく
やく だ
もく
どうぶつ
した
にくきゅう
かんせん
にくきゅう
しめ
やわ
すべ
あせ
にお
ど
しめ
やくわり
いき
る
らせて、いつも柔らかくしておくためだ。また、滑り止めや、汗の匂
なわ ば
あつ
だ
は 舌 を出してハアハア 息 をす
ネコ目の動物には、
肉 球 のまわりに汗腺がある。
これは、
肉 球 を湿
じ ぶん
どうぶつ
ネコ目の動 物は、暑いときに
役立っている。
は
いで自分の縄張りを示す役割も果たしている。
りょう
にんげん
あせ
たいおん
ちょうせつ
それでも 量 がわずかなので、人間の汗のように体温を 調 節する
こう か
あつ
した
だ
こ きゅう
効果はない。だから暑いときには、舌を出してハアハアと呼 吸 して、
だ えき
じょうはつ
ねつ
うば
り よう
たいおん
あ
ふせ
唾液が 蒸 発するときに熱を奪うのを利用して、体温が上がるのを防
いでいる。
今日の1日1科学
にくきゅう
あせ
ネコは肉 球 のまわりから汗をかく
やなぎ た
り
か
お
へん しゅう こう き
柳 田理科雄の編 集 後記
み ぢか
か がく
かんが
つた
はじ
にち
「身近なことも、科学で 考 えるとおもしろい」。それを伝えたくて始めた『1日
か がく
こんかい
にくきゅう
ぼく じ しん
たの
こ
1科学』ですが、今回のテーマ「肉 球 」は、僕自身がとても楽しかったです。子
そ
ぼ
ねこ
か
ねこ
にくきゅう
ねん
まえ
どものころ、祖母が猫を飼っていたので、猫の肉 球 については、何十年も前
し
みな
はな
しら
からよく知っているつもりでしたが、皆さんにお話しするために調べてみた
い がい
いぬ
ねこ
にくきゅう
ちが
ら、意外なことがたくさんわかりました。犬と猫の肉 球 に違いがあること、
そ せん
う
かんきょう
か
し かた
ふか
かんけい
かんが
それは祖先の生まれた環 境 や狩りの仕方に深い関係があることなど、 考 えた
し ぜん
か がく
ほんとう
あらた
おも
こともありませんでした。自然と科学は、本当におもしろいと 改 めて思いま
した。
4