牛と馬 - 栄光ゼミナール

牛と馬
テーマ
うし
うま
むかし
にんげん
せいかつ
牛と馬は、昔 から人 間の生 活になくてはならない
どうぶつ
むかし
ひと
に もつ
はこ
うま
いくさ
かつやく
動 物だ。昔 は人や荷物を運び、馬は 戦 でも活 躍
げんざい
うし
わたし
み ぢか
うし
ぎゅうにゅう
ぎゅうにく
あた
した。現 在、牛は 私 たちに 牛 乳 や 牛 肉を与
テキスト版
うま
かんが
えてくれる。身近な牛と馬について 考 えよう。
執筆/柳田理科雄
制作/空想科学研究所
提供/栄光ゼミナール
つの
角かヒヅメか?
1
うし
うま
くさ
た
からだ
おお
おな
ちが
牛と馬は、どちらも草を食べ、 体 の大きさも同じぐらいだが、違
うし
つの
うま
つの
うし
うところもある。たとえば、牛には角があるが、馬には角がない。牛
まい
うま
わん
かたち
まい
のヒヅメは2枚だが、馬のヒヅメはお椀のような 形 で1枚。どちら
じゅうよう
ちが
が 重 要な違いだろう。
じつ
じゅうよう
かず
つの
うま
実は、重 要なのは、ヒヅメの数だ。サイには角があるが、サイは馬
サラブレッド
なか ま
の仲間だ。
うま
まい
うま
なか ま
まい
も
どうぶつ
馬のヒヅメは1枚だが、
馬の仲間には3枚のヒヅメを持つ動物もい
ゆび
うま
なか ま
ぽん
ぼん
ゆび
る。ヒヅメは指についているので、馬の仲間は1本または3本の指を
も
持っているということだ。
おおむかし
うま
にんげん
おな
ほん
ゆび
も
大 昔 は、馬も人間と同じように5本の指を持っていた。それが、
おやゆび
こ ゆび
たい か
ぼん
ひと さ
ゆび
まず、親指と小指が退化して3本になった。そして、人差し指と 薬 指
たい か
ぽん
まい
うま
なかゆび
た
が退化して1本になった。
つまり、
ヒヅメが1枚の馬は、
中指だけで立
まい
うえ
しゃしん
うま
上 の 写 真 の 馬 は「サラブレッ
した
しゃしん
うし
ド」
、下の写 真の牛は「ホルス
ひんしゅ
タイン」という品 種だ
っていることになる。
うし
ホルスタイン
くすりゆび
うし
なか ま
まい
も
牛は2枚のヒヅメがあり、
牛の仲間には4枚のヒヅメを持つものも
はじ
ほん
ゆび
おやゆび
たい か
ほん
いる。これは、初め5本だった指が、まず親指が退化して4本になり、
ひと さ
ゆび
こ ゆび
たい か
ほん
うし
なかゆび
くすりゆび
人差し指と小指が退化して、2本になった。だから牛は、中指と 薬 指
た
で立っている。
ゆびさき
た
ぽ
ほ はば
なが
はや
はし
うし
指先で立つと、1歩の歩幅が長くなるので、速く走れる。牛はノロ
はし
い がい
はや
うし
うま
しん か
いというイメージがあるが、走るときは意外に速い。牛や馬は、進化
はや
はし
えら
どうぶつ
のなかで、速く走ることを選んだ動物なのだ。
今日の1日1科学
うま
なかゆび
た
馬は中指で立っている
しょう か
き
ちが
消化器の違い
2
うし
うま
くさ
た
そうしょくどうぶつ
しょう か
し かた
おお
牛と馬は、どちらも草を食べる草 食 動物だが、消 化の仕方には大
ちが
きな違いがある。
1
うし
い ぶくろ
も
おお
だいいち い
牛は、胃 袋 を4つ持っている。いちばん大きな第一胃には、たく
さいきん
す
うし
た
くさ
ぶんかい
うし
た
さんの細菌が住んでいて、牛が食べた草を分解している。牛は、食べ
くさ
さいきん
からだ
さいきん
ぶんかい
つく
ぶっしつ
えいよう
た草と、細菌の 体 と、細菌が分解して作った物質を栄養にしている。
うし
いち ど
た
くさ
い
くち
もど
か
なお
また、牛は、一度食べた草を、胃から口に戻して噛み直す。これを
はんすう
うし
なか ま
どうぶつ
のぞ
「反芻」という。牛の仲間の動物は、イノシシとカバを除いて、みん
い
も
はんすう
な3つか4つの胃を持ち、反芻する。
うま
もうちょう
はったつ
もうちょう
だいちょう
まえ
馬は、盲 腸 が発達している。盲 腸 というのは、大 腸 のいちばん前
ふくろ
と
だ
ぶ ぶん
にんげん
にんげん
もうちょう
から 袋 のように飛び出した部分で、人間にもある。人間の盲 腸 は、
たい か
と ちゅう
なん
やく め
は
うま
もうちょう
なが
退化する途 中 で、何の役目も果たしていないが、馬の盲 腸 は長さが
おお
もうちょう
さいきん
す
い
しょうちょう
1.2mもある。この大きな盲 腸 に細菌を住まわせて、胃や 小 腸
しょう か
くさ
ぶんかい
えいよう
で 消 化できなかった草を分解させて、栄養にしている。
くさ
あんぜん
た
にく
くら
えいよう
すく
しょう か
草は安全に食べられるが、肉に比べると、栄養も少なく、 消 化も
くさ
すこ
おお
えいよう
て
い
うし
い
しにくい。草から少しでも多くの栄養を手に入れるために、牛は胃を
はったつ
はんすう
うま
もうちょう
はったつ
うし
うま
くさ
た
しょう か
牛も馬も草を食べるが、消 化
し く
おお
ちが
の仕組みは大きく違う
発達させて反芻するようになり、馬は盲 腸 を発達させたのだ。
今日の1日1科学
うし
はんすう
牛は反芻する
なか
3
ま
どんな仲間がいる
うし
うま
なか ま
牛と馬には、どんな仲間がいるのだろうか。
うし
なか ま
どうぶつ
もく
しゅるい
牛の仲間の動物をウシ目といい、
たくさんの種類がいる。
そのなかで、
つの
も
角を持つのは、ウシ、ヤギュウ、スイギュウ、シカ、キリン、ヤギ、
つの
も
しゃしん
ヒツジなど。角を持たないのは、
【写真①】のカバ、イノシシ、ラク
ダなどだ。
たい
うま
なか ま
写真①
カバ
写真②
バク
もく
これに対して、馬の仲間のウマ目は、ウマ、シマウマ、ロバ、サイ、
しん
かず
すく
に
どうぶつ
【写真②】のバクと数が少ない。よく似た動物なのに、これはなぜだ
り ゆう
もく
せいぞんきょうそう
ま
ろうか。その理由の1つは、ウシ目に生存 競 争で負けたからだ。
せいぞんきょうそう
に
せいしつ
おお
い
もの
えさ
す
ば しょ
めぐ
生存 競 争とは、似た性質や大きさの生き物が、餌や住む場所を巡
あらそ
むかし
もく
しゅるい
って 争 うことだ。昔 は、ウマ目にもたくさんの種類がいた。しかし、
まんねん
まんねんまえ
き こう
さむ
2300万年から500万年前にかけて、気候が寒くなったことと、
もく
きょうそう
ま
げんいん
しゅるい
ぜつめつ
ウシ目との 競 争に負けたことが原因で、
たくさんの種類が絶滅した。
げんざい
もく
もく
しゅるい
すく
だから現在、ウマ目はウシ目よりも種類が少ない。
まえあし
まい
バクは、前 足にヒヅメが4枚あ
うし
あし
まい
るが、後ろ足のヒヅメは3枚。
しょう か
し く
消 化の仕組みなどから、ウマ
もく
ぶんるい
目に分 類される
今日の1日1科学
もく
もく
せいぞんきょうそう
ま
ウマ目はウシ目との生存 競 争に負けた
2
さいだい
うし
うま
最大の牛と馬
4
うし
うま
おお
たいこう かた
たか
たいじゅう
牛と馬は、
どちらが大きいのだろう。
オスの体高(肩の高さ)
と体 重
くら
で比べてみよう。
うし
か
たいこう
牛のなかでよく飼われているホルスタインは、オスの体高が160㎝
たいじゅう
じょうようしゃ
おな
ぐらいで、体 重 は1100㎏ぐらい。これは1.1tで、 乗 用車と同
おも
じぐらいの重さがある。
か
たいこう
こちらもよく飼われているサラブレッドは、オスもメスも体高170㎝
たいじゅう
たいこう
うま
たか
ぐらい、体 重 は500㎏ぐらいだ。ここから、体高は馬のほうが高
からだじゅう
うし
おも
い
うま
たいじゅう
く、 体 重 は牛のほうが重いと言えるだろう。馬のなかにも、体 重
こ
ひんしゅ
うし
が1tを超える品種があるが、それでも牛にはかなわない。
うし
うま
なか ま
たいこう
たか
写真① カバ
なに
では、牛や馬の仲間で、体高の高いものは何だろう。それはもちろ
たいこう
あたま
たか
こ
んキリンで、体高は3m。 頭 までの高さは5mを超える!
たいじゅう
おも
うし
それでは、体 重 が重いのは?
たいこう
い がい
なか ま
しゃしん
牛の仲間では、
【写真①】のカバだ。
ちい
たいじゅう
つ
体高は150㎝と意外に小さいが、体 重 は2.6tもあり、ゾウに次
おも
ぐ重さだ。
うま
なか ま
しゃしん
たいこう
写真② シロサイ
たいじゅう
馬の仲間では、
【写真②】のシロサイだ。体高190㎝、体 重 2.3t。
うま
なか ま
たいこう
もっと
たか
たいじゅう
シロサイは、馬の仲間のなかでは、体高も 最 も高く、体 重 もいちば
おも
ん重い。
うし
なか ま
カバとシロサイは、 牛 の 仲 間
うま
なか ま
もっと
と、馬の仲間で、それぞれ 最
たいじゅう
おも
も体 重 が重い
今日の1日1科学
たいじゅう
うし
おも
体 重 は牛のほうが重い
にんげん
5
かんけい
人間との関係
うし
うま
むかし
にんげん
か
にんげん
かんけい
すこ
ちが
牛も馬も 昔 から人間に飼われてきたが、人間との関係は、少し違う。
げんざい
か
うし
ぎゅうにく
にくぎゅう
ぎゅうにゅう
しぼ
現在、飼われている牛には、牛 肉になる肉 牛 と、牛 乳 を搾るた
にゅうぎゅう
ねん
とうけい
に ほん
か
とうすう
めの 乳 牛 がいる。2014年の統計では、日本で飼われている頭数
にくぎゅう
まんとう
にゅうぎゅう
まんとう
は、肉 牛 が257万頭、 乳 牛 が140万頭だ。
うし
ちから
つよ
むかし
のうぎょう
に もつ
ひと
はこ
つか
牛は 力 が強いので、 昔 は、農 業 や、荷物や人を運ぶのにも使わ
はたら
うし
えきぎゅう
れていた。このように、働 かせるための牛を「役 牛 」という。また、
へいあん じ だい
き ぞく
みぎらん
しゃしん
うし
ひ
ぎっしゃ
平安時代の貴族たちは、右欄の写真のように、牛が引く「牛車」とい
くるま
の
ぎっしゃ
ひ
うし
えきぎゅう
むかし
に ほんじん
ぎゅうにく
むかし
うし
ひと
に もつ
はこ
昔 は、牛は人や荷物を運ぶの
つか
に使われていた
う 車 に乗っていた。牛車を引く牛も役 牛 だ。 昔 、日本人は、 牛 肉
た
ぎゅうにゅう
か
うし
えきぎゅう
を食べず、牛 乳 も飲まなかったので、
飼われている牛はすべて役 牛
だった。
うま
けい ば
きょうそうよう
じょう ば よう
に もつ
はこ
馬は、競馬という 競 走用や、スポーツの 乗 馬用や、荷物を運んだ
た はた
たがや
のうぎょうよう
か
に ほん
か
り田畑を 耕 したりする農 業 用に飼われている。
日本で飼われている
とうすう
ねん
まんとう
頭数は、2014年のデータで、6万頭ぐらいだ。
3
か
かず
うし
おお
ぎゅうにく
ぎゅうにゅう
飼われている数は、牛のほうがずっと多い。これは、牛 肉や 牛 乳
まいにち
しょう ひ
が、毎日のように 消 費されるからだ。
今日の1日1科学
はたら
うし
えきぎゅう
働 く牛を役 牛 という
うし
うま
かいぶつ
牛や馬の怪物
6
に ほん
せ かい
うし
うま
すがた
かいぶつ
そうぞう
日本でも、世界でも、牛や馬の 姿 をした怪物が想像されてきた。
し
それは、どんなものか、知っているだろうか。
に ほん
そうぞう
からだ
にんげん
あたま
うし
ご
ず
しゃしん
日本で想像されたのは、体 が人間で 頭 が牛になった「牛頭」
(【写真
みぎがわ
からだ
にんげん
あたま
うま
め
ず
しゃしん
ひだり
①】の右側)と、体 が人間で 頭 が馬になった「馬頭」
(
【写真①】の 左
がわ
じ ごく
わる
じ ごく
お
ひと
側)だ。どちらも、地獄にいて、悪いことをして地獄に落ちてきた人
くる
め
たちを苦しめると 考 えられていた。
しん わ
からだ
にんげん
にんげん
た
あ
こういう目に遭わないように、
あたま
うし
ギリシャ神話には、体 が人間で、頭 が牛になったミノタウロスが
とうじょう
写真①
かんが
ただ
い
正 しく生きてまいりましょう
かいぶつ
登 場 する。人間を食べる怪物だった。
しん わ
うま
からだ
にんげん
じょうはんしん
また、ギリシャ神話には、馬の 体 に人間の 上 半身がつながったケ
とうじょう
おお
なか ま
く
ンタウロスも登 場 する。
ケンタウロスは多くの仲間と暮らしていて、
たたか
す
らんぼう
しゅぞく
い
い がく
かみさま
戦 いが好きで乱暴な種族と言われていたが、なかには、医学の神様
い がく
おし
かしこ
に、医学を教えたという、とても 賢 いケンタウロスもいた。
うし
うま
すがた
かいぶつ
せ かいかく ち
そうぞう
このように、
牛や馬の 姿 をした怪物が世界各地で想像されたのは、
うし
うま
み ぢか
それだけ、牛や馬が身近だったからではないだろうか。
今日の1日1科学
かみさま
い がく
おし
ケンタウロスは神様に医学を教えた
ケンタウロス
い がく
かみさま
い がく
おし
医学の神 様に、医学を教えた
なんて、すごいね!
4
やなぎ た り
か お
へんしゅうこう き
むかし
と こ
いえ
柳 田理科雄の編 集 後記
い
うし
か
うし ご
や
まえ
きゅう
ほそ
さか
昔 、従兄弟の家で牛を飼っていました。牛小屋の前は 急 な細い坂になって
うえ
うし
うんどうじょう
ゆうがた
うし
うんどうじょう
いて、その上に牛の運動 場 があります。夕方になると、牛たちを運動 場 か
うし ご
や
い
こう
し ごと
て つだ
ちゅう
い
と こ
ら牛小屋に入れます。高1のとき、その仕事を手伝いました。中 1の従兄弟
ぼく
うし ご や
まえ
た
ぼう
も
い
うし
よこ む
が、僕を牛小屋の前に立たせ、2mほどの棒を持たせて言います。
「牛は横向
ぼう
にが て
さか
うえ
お
ぼう
まえ
む
か
うし ご や
はい
きの棒が苦手なので、坂の上から追うと、棒の前で向きを変えて牛小屋に入
おどろ
ま
い と
こ
さか
うえ
る」。え~ッ!と 驚 く間もなく、従兄弟が坂の上から「ハイシ!
うし
お
さか
か
お
うし
ぼく
ハイシ!」
かま
ぼう
と牛を追います。坂をドドド~ッ!と駆け下りてきた牛は、僕が構えた棒の
まえ
きゅう
うし ご
や
はい
こわ
前で、 急 カーブして牛小屋に入りました。怖かったです~!
5