回転する液滴の形状および挙動に 関する研究

応用力学研究所研究集会報告 No.19ME-S2
「戸田格子 40 周年 非線形波動研究の歩みと展望」(研究代表者 西成 活裕)
Reports of RIAM Symposium No.19ME-S2
40 years Anniversary of Toda lattice - history and perspective of nonlinear wave research
Proceedings of a symposium held at Chikushi Campus, Kyushu Universiy,
Kasuga, Fukuoka, Japan, November 7 - 9, 2007
Article No. 30
回転する液滴の形状および挙動に
関する研究
榎 祐作(ENOKI Yusaku),崔 大宇(CHOI Daewoo)
(Received March 19, 2008)
Research Institute for Applied Mechanics
Kyushu University
April, 2008
回転する液滴の形状及び挙動に関する研究
Study on Shape and Deformation Behavior in Rotating Droplet
東京大学 工学系研究科 修士 2 年 榎 祐作
修士 1 年 崔 大宇
ダンベル形状(④)となる. 非軸対称形状をとると
1 はじめに
角運動量の上昇にともない回転数は下がっていく
液滴の挙動解析や制御に関する研究は宇宙環境で
ことが一般的に知られている. 最終的にある角運
の新しい材料の開発や車・航空機のエンジンの燃料
動量まで上昇すると液滴は 2 つに分裂してしまう.
噴霧の問題など幅広い分野で応用が期待されてい
さて, 回転液滴の形状解析に関する過去の研究と
る. その基礎研究の一環として, 本研究では浮遊
して, Brown と Scriven による有限要素法(FEM)
する液滴をある軸周りに回転させたときの形状や
を用いたシミュレーションがある [1]. 彼らのシミ
振動及び大変形挙動を理論的に解析することを目
ュレーション結果を図 2 に示す.
的としている. 理論に関しては JAXA(宇宙航空研
2.5
究開発機構)による回転浮遊液滴の実験結果との検
2.25
2
証も行っている. 今回は主に, 回転浮遊液滴の形
状に関する解析を紹介する.
1.75
Rmax/R0
R0
1.5
1.25
1
Ωs =
0.75
2 定常状態での
定常状態での回転液滴
での回転液滴の
回転液滴の形状
運動量が上昇するにつれて図 1 に示すような形状
変化を伴うことが知られている.
8α
0.5
0
浮遊液滴を, 中心を通る軸周りに回転させると角
ρω 2 R0 3
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
NORMARIZED ROTATION RATE Ω/Ωs
図 2 有限要素法による解析結果(点は JAXA によ
る実験結果)
3 形状解析
本研究ではポテンシャルエネルギーに着目し解析
①初期状態
②軸対称形状
③非軸対称形状
することでより理論的なアプローチを試みる. 軸
対称形状(図 1 の②), ダンベル形状(図 1 の④),
非軸対称(図 1 の③)をそれぞれ考える.
3.1 軸対称形状
分裂
液滴の断面に対して図
図 3 のような座標を考える.
z
④ダンベル形状
Ω
図 1 回転液滴の形状
f (z )
まず角運動量を上げていくにつれて, 回転軸を対
z
称軸とした軸対称形状(②)をとる. ある程度回転
数が上がり扁平すると, 非軸対称形状(③)を経て
0
f
図 3 軸対称形状座標設定
この座標系に従うと表面の座標は,
 f ( z ) cos θ 


r =  f ( z ) sin θ 


z


面における座標は,
 f ( z ) cos θ 


r =  Af ( z ) sin θ 


z


(1)
(9)
となる. このとき表面積, 体積, 慣性モーメント
となる. このとき表面積, 体積, 慣性モーメント
は以下のように表すことができる.
は以下のように表すことができる.
S = 4π ∫ f 1 + f ′2 dz
(2)
S = 8∫ Af 1 + f ′2 E (k )dz
(10)
V = 2π ∫ f 2 dz
(3)
V = 2π A ∫ f 2 dz
(11)
I = πρ ∫ f 4 dz
(4)
I=
これらを用いることで全ポテンシャルエネルギー
G は回転エネルギー, 表面張力のエネルギー, 内
ここで E (k ) は k 2 =
A2 + 1
πρ ∫ f 4 dz
2
(12)
A2 − 1 1
をみたす第 2 種楕円
A2 1 + f ′2
部圧力によるエネルギーの和で表すことができ
積分である. これらを用いることで全ポテンシャ
る.
ルエネルギーG を求め, 評価関数 F を以下のよう
1
G = I Ω 2 + α S + ( Pc − Po )V
2
(5)
ここで, α は表面張力係数を表し, Pc − Po は液滴
にすると変分法により非軸対称形状が求まる.
F=
A2 + 1
πρΩ 2 f 4 + 8α Af 1 + f ′2 E (k ) + 4π ( Pc − Po ) Af
4
の中心圧と外圧の差を表す. 積分の中を評価関数
F とすると次式のようになり,
1
F = πρΩ 2 f 4 + 4πα f 1 + f ′2 + 2π ( Pc − Po ) f 2
2
(6)
エネルギーが最小となるような点を変分法により
求めると以下のようになる.
∂F d  ∂F 
− 
=0
∂f dz  ∂f ′ 

f ′′
1
1
⇔ ρΩ 2 f 2 + ( Pc − Po ) = α 
−
 (1 + f ′2 )3 2 f 1 + f ′2
2


 (7)


(13)
∂F d  ∂F 
− 
=0
∂f dz  ∂f ′ 
1 A2 + 1
ρΩ 2 f 2 + ( Pc − Po )
⇔
4 A

2
2α  1 + f ′
A2 f ′2 f ′′
=
−

f
π 
( A2 f ′2 + 1) 1 + f ′2


 E (k )



f2
f ′′
−
+
 f 1 + f ′2
1 + f ′2



 F (k )  (14)



これを解くことで軸対称形状を求めることができ
ここで F (k ) は k 2 =
る. ちなみに式(6)の右辺 α の係数は平均曲率 H
積分である.
の 2 倍と一致している. すなわち, 曲がった境界
を介して接している 2 つの媒質間には圧力のジャ
3.3 ダンベル形状
ダンベル形状
ここでダンベル形状とは回転軸と垂直な面上に対
ンプが生じるという Laplace の式
Pc − Po = 2α H
A2 − 1 1
をみたす第 1 種楕円
A2 1 + f ′2
(8)
称軸が存在する形状を言う. 実際には図 1 の③か
ら④に遷移するので完全な軸対称というわけでは
において左辺に, 遠心力による圧力が加わった形
なく,
となっていることがわかる.
持つという仮定のもと, 計算を行う. ダンベル形
3.2 非軸対称形状
非軸対称形状
状では液滴の断面に対して図 4 のような座標を考
軸対称形状と同様に座標を設定する. ただし, 式
(1)とは異なり, z 一定の断面が円ではなく, 楕円
となる. 長半径と短半径の比を A:1 とすると, 表
える.
少し扁平した形となっているが, 対称軸を
て計算した結果は無次元回転数 0.25→0.50 の範囲
f
Ω
で実験と良い一致を見せており, 対称軸が存在す
x
るという仮定がこの範囲では妥当であることがわ
かる.
f ( x)
0
x
図 4 ダンベル形状座標設定
この座標系に従うと表面の座標は,
x




r =  f ( x ) cos θ 
 f ( x) sin θ 


Rmax/R0
(15)
表面積, 体積, 慣性モーメントは以下のように表
すことができる.
図 5 今回の数値計算による結果(点は JAXA によ
S = 4π ∫ f 1 + f ′2 dx
(16)
V = 2π ∫ f 2 dx
(17)
1 

I = 2πρ ∫  x 2 f 2 + f 4  dx
4 

(18)
る実験結果)
5 さいごに
液滴の形状に関する過去の研究では有限要素法が
これらを用いると全ポテンシャルエネルギーG が
求まり, 評価関数 F を以下のように定めると, 変
分法により形状を表す式が求まる.
主な解析手法であった. また, 我々の研究グルー
プ で の 液 滴 の 形 状 に 関 す る 先 行 研 究 [2] で は ,
Laplace の式を基礎とし, 液滴の平均曲率そのも
1 

F = πρΩ  x 2 f 2 + f 4  + 4πα f 1 + f ′2 + 2π ( Pc − P0 ) f 2
4 

2
(19)
これを解くことでダンベル形状を求めることがで
きる.
のに着目したものであった. 本研究の手法ではポ
テンシャルエネルギーに着目することで, 単純な
計算式を出発点とし, その過程で平均曲率の項が
現れ、先行研究結果と一致するという点において,
より単純明快で新しいといえる. また, 先行研究
∂F d  ∂F 
− 
=0
∂f dx  ∂f ′ 
⇔
NORMARIZED ROTATION RATE Ω/Ωs
に比べ一般性を失わないため, 非軸対称の形状を


f ′′
1
1 
1


ρΩ 2  x 2 + f 2  + ( Pc − Po ) = α 
−
2
3
2
 f 1 + f ′2 (1 + f ′ ) 
2
2 



(20)
4 計算結果
3.1軸対称形状及び3.3ダンベル形状で求めた
式を用いて, 計算を行った. 結果は図 5 のように
なった. 3.2非軸対称形状に関しては計算には
至っていないが, 軸対称として計算した曲線(水
平な線)とダンベルとして計算した曲線(右肩下
がりの線)を結ぶ曲線としてあらわれることが予
想される. 一方, 対称軸を持つダンベル形状とし
表現できるという点でも今後発展する余地がある.
今後は定常解だけでなく, 非定常解に関してもエ
ネルギーに着目することで解を得たい.
参考文献
参考文献
[1] R.A. Brown and L.E. Scriven, The shape and
stability of rotating liquid drops, proc. Roy. Soc.
London, A371, 331-357 (1980)
[2]榎祐作, 浮遊液滴の形状変化, 応用力学研究所
研究集会報告 No.17 ME-S2 (2005)