エイズ治療拠点病院医療従事者 海外実地研修報告書

エイズ治療拠点病院医療従事者
海外実地研修報告書
1
研修参加者
所属・職名:名古屋医療センター・外来副看護師長
氏
2
名:羽柴
知恵子
研修日程・コース
日
程:2012年10月13日(土)~2012年10月27日(土)
コ ー ス 名:エイズ拠点病院医療従事者海外実地研修(看護師コース)
3
研修の内容
サンフランシスコにおけるHIV 陽性者への支援について、その背景と歴史を学び、またエイズ
ケアシステムの現状を学ぶことで、国が違っても普遍的である看護の理念や、治療薬の進歩によ
る療養の長期化、長期内服による副作用だけではなく、患者の高齢化に伴う合併症や患者のメン
タルヘルスケア、社会生活面への支援、カウンセリングスキルなどについて学んだ。
研修日程は以下の通り。
10月13日
サンフランシスコ到着。研修生・コーディネーターとの顔合わせなど
10月15日
研修コースのオリエンテーション。参加者、スタッフの紹介やコースの概要について
の説明。講義ディスカッション「この研修で何を学ぶのか」研修を開始するにあたって、研修参
加者の期待と研修スタッフの意図を明確にし、共通の視点を捉える作業を実施。「サンフランシ
スコのエイズケアシステム」社会機構の大きな図式の中で、医療機関の役割や、行政、民間団体
との関連や連携について学習。
10月16日
ワークショップ「ヒューマン・セクシャリティー」人間のセクシャリティーとは何な
のか。また性感染症であるHIVとの関連にはどういったことが考えられるのかなどについて、学習
と意見交換。ワークショップ「エイズ101」エイズ・HIVに関する基本的な知識の復習とそれをど
う伝えていくかを学習。
10月17日
カイザーパーマネンテ病院(オークランド)講義「HIV外来でのチーム医療」HIV外来
ケアに長年の経験を持つ現役スタッフから、外来チームの中でのそれぞれの役割と連携について
研修。内容は、看護ケースマネージメント、ソーシャルワーク、自己健康管理プログラム、栄養
学的ケア、HIVカウンセリング等。
10月18日
カイザーパーマネンテ病院(オークランド)実地研修「HIV外来」HIV外来におけるチ
ーム医療活動の自体を実際現場に入って観察し、対人関係スキルや各職種間のコミュニケーショ
ン、情報の均一化、あるいはコンピューターの活用などについて研修。「研修のまとめ」カイザ
ーの研修を終えて、それぞれの経験をシェアし、ディスカッションを通して学びを深める作業。
10月19日
パネルディスカッション「HIVと心理問題―HIV心理諸相の歴史と今、そしてこれから
の展望」HIVを取り巻く心理問題は、HIV・エイズの病相の変化に伴い複雑な様相を呈し続けてい
る。その流れの中で患者自身、そしてそのケアに当たってきた人々は、その時々に何かを感じ、
考え、思い悩んできたのか。新しい研修の取り組みとして、患者、看護師、ソーシャルワーカー、
カウンセラー(全て日本人)をパネリストに向かえ、これまでの足取りと現状、そして将来の展
望についてパネルディスカッション。
10月22日
ワークショップ「感情を聴く力」「人は、自分の成功について話したり、失敗を悔し
がったり、なくしたもののためにないたりする時は、自分に寄り添ってくれる誰かを必要として
いる」という前提に立って、それではその効果的な聞き手になるためには、どのようなスキルを
必要とするのか、という課題に取り組んだ。「カウンセリングの基本的な姿勢」を土台にし、人
の感情のあり方やその関連性、そしてその言語化を促していくスキルを身につけるよう学習。
10月23日
ワークショップ「難しい患者の心理面の理解と対応方法」HIV感染症の慢性疾患化、治
療の長期化、あるいは患者の高齢化に伴い、患者が抱える心理問題はその複雑化をたどっている。
その心理状況や背景を理解することによって初めて効果性の高いケアが提供できるといえる。身
体的な健康性と心理面の健康性を両立させていくアプローチが今求められている。精神科医や心
理学者のリードにより、HIV患者が直面するメンタルヘルスについて学習をすすめ、また実践的な
スキルの演習実施。ワークショップのコメントや感想をシェアする中で、理解を深めていく作業
を実施。
10月24日
カウンセリングラボ。メンタルヘルスに関するワークショップを終え、実践的なスキ
ルの習得を目的としたカウンセリングラボを開設。日常の勤務の中で考えられる設定を用いて、
ロールプレイを実施。各グループ、全体でその振り返りを行いながら、学習を深めスキルの習得。
10月25日
個人学習「研修のまとめとアクションプランの作成」研修の全過程をまとめ、それぞ
れの職場や地域社会における活動にこの研修で学んだことをどう活用していくかを、課題行動目
標、行動計画、そしてそれらの評価を含めた「アクションプラン」にまとめあげていく作業を実
施。個人面談・指導をうける。
10月26日
研修発表「アクションプランの発表」アクションプランを発表し、質疑応答。あわせ
て参加者による研修プログラムの評価。終了後、卒業式と認定証の授与。
10月27日
サンフランシスコ発
28日
日本着
4.研修の成果・感想
HIV/エイズの歴史、日本とは違うサンフランシスコの社会的背景について学び、差別や偏見、
治療薬の進歩による新たな合併症・高齢化、薬物依存などいろいろな問題への取り組みについて
しることが出来た。またサンフランシスコの特徴として、日本でも課題となっている医療機関と
行政、NGOとの連携体制をとっての患者サポートについて紹介を受けた。30年間という歴史の中で
医療者・患者がどのような思いでHIVと向き合い、この問題に取り組んできたのか、日米であらゆ
る条件は違っても共通しているものはあり、日本でも同じような問題があり、それに対して取り
組んでいるため、非現実の環境に自らをおき、体験し、学習することで日本や普段自分たちの行
っていることを外から広い目で見ることが出来た。以下は印象に残った研修内容を中心に報告す
る。
基礎知識として「ワークショップ~ヒューマン・セクシュアリティー~」では、言葉の意味や
人間の性について紐解いて学んでいった。これを踏まえた上で患者が性について話せない、ど
のように感じているかを考えながらどのようにしてかかわっていくかを考えた。個人を大切に
し看護や治療の質の向上のために知りたい、教えて欲しいという姿勢で対応していくことが大
切であると学んだ。
オークランドにあるカイザーパーマネンテ病院におけるHIV 外来でのチーム医療について、看
護師兼ケースマネージャーとメディカルソーシャルワーカーからケース事例を通した話を聞き、
外来を見学した。チームとしてかかわるうえで、まず看護師が情報収集、採血などの指示をだし、
検査結果がそろったうえで改めて外来日を設定し、医師との面談、再び看護師との面談、MSW、
必要時ヘルスエデュケーター、薬剤師、栄養士との面談を行っていた。印象的であったのは、働
くスタッフがみんなとても明るく元気であり、言語だけではないコミュニケーションスキルを惜
しみなく用いて患者がリラックスした状態でケアをうけることできるようにしていたことであっ
た。患者に対する共感の姿勢など、実際自分が外来で患者に接する際に用いたいと思うことや学
ぶことが多かった。
講義内容において印象的であったことは、エイズは慢性疾患といわれるようになり、治療の長
期化や患者の高齢化により、長期的な療養生活における支援を必要とするのであるが、そのよう
な状況にあるHIV陽性者に対する「感情を聴く」というカウンセリングスキルについてロール
プレイを交えて学んだことである。これまで資料や講義で学んではいたが、実際体を動かして、
ロールプレイし、体験することでより理解がしやすかった。患者との面談で気をつけることとし
て①ノンジャッジメンタルの姿勢で接すること。善し悪しを判断せず、共感を示す姿勢で接する。
②はい・いいえで答える質問だけではなく、5W 1H を意識した質問③患者にポイントをまとめて
聞き返すパラフレーズをもちいること。自分の解釈を入れず整理して患者に返すことで相互理解
につなげる。ということが体験することでいかに患者にとって安心して信頼できる関係づくりの
一歩になるかということを感じた。
さらに、患者教育、面談の中で頭においておく必要があることとして人間の行動変容の過程に
ついて学んだ。その人が行動変容の過程の中でどの立ち位置にいるのかをとらえることが大切で
あり、その段階にいる患者に対して感情を聴くようなかかわりをすることで、患者自身も自分の
思いを言語化できるようになり、自分自身で解決する能力を高めたり、引き出していくという患
者自身が持っている自己効力感をサポートしていくことが出来る。それはHIV看護のみならず慢性
期の看護において、また患者だけではなく自分自身やスタッフ教育にも用いることができる考え
方であることを学んだ。自分の中で看護について迷うこともあったが、この考え方の講義を聞く
中でHIVという疾患を通して看護について改めて学ぶことが出来た。この考え方やカウンセリング
スキルは意識して日々行っていくべきものであり、自己研鑚していきたいと思う。
研修方法としては、病院研修だけでなく、ワークショップや、パネルデイスカッション、グル
ープワーク、個人指導、アクションプラン作成・発表会があった。また研修を主催する際の主催
者側としての注意点に関しても教えていただき、今後院内外で研修を主催する立場としてとても
参考になる内容であった。特に病院見学、「感情を聴く」「カウンセリングラボ」についてはと
ても適時性のある内容で、学ぶことが多くあった。
この研修を通して、今までの自分自身の看護について、そして本来のあるべき医療や看護とは
何か。ということを改めて考えるよい機会になった。この研修で学んだこと、仲間を大切にし、
更なる質の高い医療、全人的なケアの提供ができるように行動変容の原動力でもある患者の自己
効力感を高めることができるように、ノンジャッジメンタルな姿勢で患者の感情を聴くという姿
勢を大切にし、必要な情報の提供を行い、カウンセリングスキルを用いて傾聴しケアを届けて行
きたい。